契約のライラック(こーや マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●あの日、あの時
 春の訪れを予感させる、温かな日差しの昼下がり。
A.R.O.A.の近くにある喫茶店で二人はティータイムを楽しんでいた。
案内された席は窓辺で、窓から入り込んでくる陽光がぽかぽかしていて心地良い。
 ふと窓の外を見てみれば、組んだばかりに見えるウィンクルムがああでもない、こうでもないと何か言い合っている様子が目に入った。
きっとまだ、二人がやっていく上で必要な相手への理解が上手く進んでいないのだろう。
組んだばかりだ、それも仕方がないこと。けれど、徐々に相手のことを知って、変わっていくものだ。
 持っていたカップをソーサーの上に戻した君は、なんとなく向かいに座るパートナーを見つめた。
外見上はあの時――二人が契約を結んだあの時から大きな違いは感じないけれど。
積み重ねきた二人の時間のせいだろうか、随分と彼の印象が変わって見える気がする。
「どうかしたか?」
「なんでもない……ううん、その、ね。契約した時のことを思い出して」
 カップに口を付け、一啜りした後に彼も言葉を重ねる。
「突然だな」
「ほら、丁度そこに組んだばかりっぽい二人が見えたから。
私達もお互いのことが分かってない時期があったなって思い出したら、そのまま契約の時はどうだったかって思って、それで」
「成る程。俺はよく覚えてるよ。あの時、俺は――」
 そうして二人は語り合う。
あの日、あの時、二人が契約を結び、ウィンクルムとなった日のことを。

解説

●参加費
喫茶店での二人分の飲食費 300jr

●プランについて
回想メインとなります
(あの時はこうだったと語り合うのではなく、契約の時についての描写になります)
契約したときの事を書いてください
そのときどう思ったか、躊躇いはなかったか、相手についてどう思ったか、何をしたか等

現在、すなわち喫茶店内での行動は一、二行に止めてください。
例としまして
「話終えてから、二人で窓の向こうのウィンクルムを見守る」
「話終わってから相手のケーキを分けてもらう」
喫茶店を出て出かけたなどは一切反映いたしません

喫茶店での飲食について拘りがある方は下記から飲み物及び食べ物を各一つずつまで記述をどうぞ
記述が無ければこちらで勝手に決めます
(選ばれる際は一人につき最低一品、二品まででお願いします)
・珈琲、紅茶、オレンジジュース、ココア
・サンドイッチ、ケーキ(ショート、チョコレート、チーズ)


ゲームマスターより

その時、「トーフトーフ!」と叫びながらブリッジでしゃかしゃか走っていくこーやを貴方は目にした。
無性に鍋が食べたくなった貴方は、スーパーへと急ぐのであった。

―完―


深い意味は考えたら負けです
つまり考えなかったら勝ちだよやったね!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

手屋 笹(カガヤ・アクショア)

  適応する精霊さんが見つかった時はほっとしました…
これで身の安全は確保されたと…
ですが…これから次第ですね…

初めまして、とカガヤさんに自己紹介します。
故郷にオーガを誘き寄せない為にタブロスへ来た事も説明します。

…ちっちゃいって言いましたわね!
一番気にしている事なのに!
(ド突く)
敬称を付ける必要は無さそうですね…
カガヤとお呼びします…!

…契約を行わなくては…
貴方が戦いを望むなら力を貸します。
代わりにわたくしを護ってください…

真剣に訴え、
左手の甲を差し出します。

契約完了…ですね…
改めてよろしくお願いします。

・喫茶店での様子
帰りたい決意は変わってないはず…ですが…
カガヤの顔を見ていると揺らぎそうです…



リオ・クライン(アモン・イシュタール)
  注文・紅茶、ショートケーキ

<契約したときの事>
・タブロスとは別の街の貴族街に住んでいた
・あまり自由に出歩けず、外に出る時もお付きの者達と一緒
・たまたま教会を訪れた時に街にオーガが襲来、お付きの制止を振り切り、住民達の救助に向かう
・暴れているオーガを見つけるが、未契約の神人であるため自分の無力さを悔やむ
「私に力があれば・・・!」
・アモンの申し出に最初は戸惑うものの、人々を救えるならと意を決して契約に応じる
・戦闘後、(どうしてこうなった・・・)
「うぅ・・・ポプルスかマキナがよかったのに、よりにもよって・・・」
・ウィンクルムとなった事で独り立ちを決意、親の反対を振り切り、タブロスに移住


アドリブOK


水田 茉莉花(八月一日 智)
  現在
茉莉花:珈琲とサンドイッチ
智:ミルク増し増しの紅茶とショートケーキ
「契約した頃のこと思い出してたのか、みずたまり?」
「んー、ちょっとね
ようやく話題に出せるようになってはきたけどね
ってサンドイッチ取らないでよバカチビ、意地汚い!」

過去
うそ、何で?
社員のフロアも、からっぽ
保育施設だった所よね、ここ
あたしの職場が…
(会社付属の保育所で働いていた)
あ、着信…はぁ、交番、ですか?
はい、私は無事です…って、うそ

アパートに駆けつけたら何よこれ…全焼?
火元どこよ…あたし、どうしたらいいの?

へ?あたしの名前、なんでアンタ知ってるの?
この状況見てわかんない?行く宛なんて無いに…
え、あ、は?
…どう、なってるの?


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  紅茶
チーズケーキ

適合した精霊が居ると連絡を受け、A.R.O.A.へ向かって
期待と緊張に震えながら、その入口に立った時
まず、声に惹かれた
凄くクリアに聞こえた声に視線を向け
白を基調とした衣装に乱れはなく、携帯電話を手に誰かと話している声も姿も端正で
誰かのパートナーの精霊さん?
魅入っていたら、職員さんに声を掛けられて中へ
…せめて名前知りたかったな

会議室で待っていたら
さっき見た彼が

彼が私のパートナー!?
嘘…!

「桜倉歌菜です
よ、宜しくお願いしみゃす…!」

こんな素敵な人がパートナーで私、大丈夫?
顔は紅くなってるだろうし、変な子って思われてない?
彼が笑った時には、完全に恋に落ちてた

今もドキドキは変わらない


アメリア・ジョーンズ(ユークレース)
  ユークとは、実家(村の牧場)近くの道で出会った…いや、拾った。
ある男子に告白して、失恋して、雨の中泣きながら帰った帰り道。
道端に、ユークが倒れていた。
あたしは慌てて実家に連れ帰った。
どうやら、お腹が空きすぎて倒れてたみたい。

「お腹空いて倒れるなんて…バカじゃ無いの?」
「あはは、そーですね、すみません。」
そう言っても、ユークは笑顔だった。
この時はまだ、大人しかったわねぇ…(遠い目)
仕方ないから、適当に色々作って、ご飯を食べさせてあげた。
それで何故か判らないんだけど、「助けてもらったお礼と言って、契約してみません?」と言われた。
こんなテキトーな気持ちで…なんで契約出来たんだか…。
未だに、謎だわ。



 Anti the Risk of Ogre Agency――通称『A.R.O.A.』。
急増しているオーガに対抗すべく発足した組織。
顕現した時よりオーガに生命を狙われる定めを負う神人を保護し、適応する精霊との契約を促すのもA.R.O.A.の役目だ。
生命を狙われる以上、彼女・彼らを守る為にも必要不可欠。
 契約にはその時点での愛情や信頼などのメンタル的な因果関係はないとされており、A.R.O.A.による適正判定とマッチングがものをいう。
とはいえ、その適正判定も完璧ではなく、実際に会ってみなければ分からない部分もある。
その為、緊急を要する一部の例外を除き契約時にはA.R.O.A.の職員が立ち会う必要性があるのだ。
 また、個人情報保護に関しては一般企業と同じように他者にもらすことはないと追記しておく。
例え適応者候補相手であっても、だ。


●笹の葉
 適応する精霊が見つかったという報せに手屋 笹はほっと胸を撫で下ろした。
これで一応は身の安全が確保されたのだ。
 未契約神人を保護する為の施設の一室、そこは決して居心地が悪いわけではなかった。
施設の目的上、警護は万全だが、逆を言えばあまり自由に動き回ることは出来ない。
自由に出かけることが出来たとしても生命を狙われるという不安がある為、笹は外出しなかっただろうが。
 パートナー候補との顔合わせ日まではあまり遠く無い。
上手くいけば、数日中にこの生活から解放される。
とはいえ、笹はよく分かっていた。
「……これから次第ですね……」
 全ては青いこの紋様が、赤くなるかどうか。
それに係っている。

「初めまして、手屋 笹です。故郷にオーガを誘き寄せない為にタブロスへ来ました」
「初めまして、カガヤ・アクショアです。ウィンクルムとしてオーガと戦うことが夢だったんだ」
 カガヤが手を差し出せば、一瞬の戸惑いの後に笹はその手を取る。
あまり人とは関わってこなかった彼女は握手という行為に慣れていないが、その意味は勿論分かっている。
 緊張を交えつつも、穏やかに自己紹介しあう二人の様子を職員が見つめていた。
適正判定とマッチングでは問題なかった。
けれど、実際に適応しているかどうか――それを見極めるのが彼の仕事だが問題は無さそうだ。
 この二人は間違いなく適応していると判断した彼は契約を促した
職員の言葉にカガヤは頷きを返し、笹に向き直る。
「えっと、手屋 笹さん?笹さんって呼びづらいし、これから仲良くなりたいから笹ちゃんでいいかな?」
「はい、構いません。お好きなように呼んで下さい」
「うん、それじゃあよろしく」
 人好きする笑みを浮かべるカガヤに笹の気も緩む、が。
「ちっちゃくてかわいいな~」
 ちっちゃい、それは逆鱗。
間髪おかずに笹の拳が炸裂した。
「あ痛っ!!!」
「ちっちゃいって言いましたわね!一番気にしている事なのに!」
 怒りでフーフーと息を荒げる笹の拳が戦慄き、それに伴い緑の髪が揺れる。
笹はカガヤの橄欖石色の瞳を貫くように睨んでいる。
「敬称を付ける必要は無さそうですね……カガヤとお呼びします……!」
 大して痛くは無かったが、驚きから立ち直っていないカガヤは殴られた左肩を擦る。
『さん付け』はむずむずして性に合わないので丁度良かったが、彼の目は未だ丸いまま。
「ふ、ふふ……」
 漏れ聞こえた笑い声の主を見れば職員が肩を震わせている。
懸命に笑いを堪えていた彼は二人からの視線を向けられ、「すみません」と謝罪しながら手に持っていたボードで顔を隠した。
とはいえ、ぷるぷると震えているその様子からまだ笑っていることが窺えたが。
 こほんと笹が気を取り直す為にわざとらしく咳をした。
契約を行わなくてはという彼女の小さな呟きに応じ、カガヤは笹の前に跪く。
「貴方が戦いを望むなら力を貸します。代わりにわたくしを護ってください……」
 故郷を護り、いつか帰る為に。
結果的にとはいえ笹はカガヤの夢を叶えてくれる存在となった。
ならば――
「その約束と契約に何の迷いも無いよ」
 ゆっくりと、どこかおずおずと差し出された笹の手。
青い紋様にカガヤは迷うことなく口付けを落とせば、青が赤へと変わる。
先程までとは違う色の紋様を見つめながら、笹は「……契約完了ですね」と小さく呟いた。
 カガヤが立ち上がれば自然と笹は彼を見上げる形になる。
少しばかり難儀だが、それでも目をそらすことなく笹はカガヤの顔を見つめた。
「改めてよろしくお願いします」
「よろしく!」
 これが二人の始まりだった。

 カガヤは窓の向こうから手元の珈琲へと視線を移す。
あれから一年が過ぎたのだなとぼんやり思う。
 ミルクティーを飲みながらも、笹はちらりとカガヤの表情を盗み見た。
どこか寂しそうに見える顔を見れば、揺らぐ。
いつか故郷に帰る為……その決意は変わっていないはずなのに。
それでも、それでも――
 笹の心中を表すかのように、髪飾りがさらりと揺れた。



●桜の花
 適応していると思われる精霊が見つかった。その連絡を受けたのは数日前。
職員に連れられ、未契約神人の保護施設から桜倉 歌菜はA.R.O.A.に赴く。
「悪い、氷が足りないかもしれないから、買い出しを頼む」
 緊張に震えながらも建物に入る直前、歌菜ははっと惹かれるものを感じた。
見れば一人の男性が携帯電話で通話していた。
「綺麗……」
 男性の声を形容する言葉ではないかもしれないが、凄くクリアに聞こえたその声に強烈な印象を覚えた。
強烈、いや、鮮烈と言った方が正しい。
 誘われるように声の主を見ていると、刹那、目が合う。
歌菜は思わず息を呑むも、すぐに彼は視線を逸らした。目が合ったと思ったのは歌菜の気のせいだったのかもしれない。
白を基調とした服に乱れはなくぴしりと着こなしていて、携帯電話で通話しているだけなのにその姿に捕らわれる。
「桜倉さん?」
 職員からの呼びかけで我に返り、歌菜は慌てて後を追う。
誰かのパートナーだったのだろうか。名前だけでも知りたかった。
そんなことを思いながら歌菜は職員の案内どおりにA.R.O.A.の中を歩いていった。

 赤みの強い茶色の髪、青いトパーズの瞳。顔を合わせた神人の姿に月成 羽純は驚いた。
何故ならば一方的とはいえ見知った顔だったから。
 よく行く弁当屋の孫娘――名前は『歌菜』だったと記憶している。
接客を受けたことは無いが、ニコニコ笑う、明るい接客をする姿を見たことがある。
相手はそれを知らないだろうが。
 そして歌菜も驚いていた。
さっき思わず見入ってしまった人がそこにいるのだから当然といえば当然。
歌菜はどうにか舌を操り挨拶をしようとするも――
「桜倉歌菜です。よ、宜しくお願いしみゃす……!」
 噛んでしまった……自分でも分かっている歌菜は恥ずかしさで顔を赤く染める。
緊張のあまりなのだろうとは思うものの、羽純に笑いがこみ上げてくるのは仕方がないことだ。
 ほんのりと笑みを浮かべ、羽純は手を差し出す。
歌菜は自分の顔がさらに赤くなるのを感じた。
「月成羽純だ。こちらこそ、宜しく」
 恥ずかしさから歌菜はおずおずと手を伸ばし、握手を交わす。
変な子だと思われてはいないだろうかというささやかだが重要な不安もある。
 様子を見守っていた職員が目を細め、二人に契約を促した。羽純が頷きを返して跪く。
教わった手順を確認しながら、羽純はなんとなくではあるが上手くやっていけそうだと思った。

 ティーカップから伝わる温かな熱を手放すと同時に、歌菜は再び窓の外を見た。
新米ウィンクルム達はまだ揉めているようだ。
くすり、笑みを零してチーズケーキを切り分ける。
 向かいに座る羽純は満足そうに――少なくとも歌菜には分かる程度に、チョコレートケーキを食べている。
その様子を見るとどうしようもなく笑みが深くなるのを感じる。
 今でも羽純を見るとドキドキする。それは初めて笑顔を見た、恋に落ちたあの時から何も変わらない。
「どうかしたか?」
「ううん、なんでもない」
 歌菜は答えながらチーズケーキを口へ運ぶ。
口内に広がる甘さと、ほんの少しの酸味が心地よい。『恋』の味はこういうものなのかもしれない。
 恋をした。恋をしている。これからも、恋をする。



●茉莉花の香り
 窓の外を見遣る水田 茉莉花の手はティーカップに添えられたまま。
珈琲とサンドイッチは手付かずのまま。
 ミルクをたっぷり入れた紅茶をすする八月一日 智は彼女が何を考えいるかなんとなく察していた。
そろり、茉莉花のサンドイッチへと手を伸ばす。
「契約した頃のこと思い出してたのか、みずたまり?」
「んー、ちょっとね。ようやく話題に出せるようになってはきたけどね。ってサンドイッチ取らないでよバカチビ、意地汚い!」

 茉莉花が初めて智に会ったのは彼女にとって最悪の日だった。
朝、いつものように職場に出勤したが、それは無駄に終わった。
今までが夢だったかのようにフロアは空っぽ。人の気配はない。
「うそ、何で?」
 呆然と呟くしか茉莉花に出来ることは無かった。
会社所属の保育所、それが茉莉花の職場だったはずなのに。どうして、あるはずの職場が無いのか。
 ショックを受ける茉莉花に、追い討ちをかけるかのように携帯電話の着信音がけたたましく鳴る。
覚えの無い番号だが今はそのことについて考えている余裕は無い。電話を取ると――
「……はぁ、交番、ですか?はい、私は無事です……って、うそ」
 自分の顔からさぁっと血の気が引いていくのを茉莉花は感じた。
そして駆け出す。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!
何度も何度も胸の内で叫びながら一心不乱に自宅へと向かう。
 けれど現実は無情。
警察からの連絡通り、彼女の知っているアパートは無かった。
「何よこれ……」
 アパートは全焼。
建物も彼女の自宅も残ってはいるが、馴染みの家具も、服も、靴も、何もかもが期待出来ないほどだった。
「火元どこよ……」
 へたり込み、ただただアパートだったものを見つめる。
どうしようもない、これからのことも考えられない。
 そんな茉莉花を見つけたのが智だった。
沢山の消防車の隙間からへたり込んでいる茉莉花の姿が見えた。
「おい、そこのお前。どうしたんだ?」
声をかけられ、のろのろと茉莉花は智へと視線を向ける。
「この状況見てわかんない?」
 口調に反してその声に力は無い。
智は眉をしかめつつも、会話を止めなかった。
「俺は八月一日智。名前は?行くあてはあるのか?」
「……水田茉莉花。そんなものない」
「じゃあ決まりだ、おれン家に暫く泊まれ」
「え、あ、は?」
 衝撃覚めやらぬ茉莉花をお構い無しに智は歩き出す。
茉莉花には戸惑いしかないが、今は他に選択肢が無かった。
慌てて智の背中を追う。それが始まりだった。

 数日後、茉莉花の手に青い紋様が浮かんだ。
すぐにA.R.O.A.へ連絡すると未契約神人の保護施設へと移ることになった。
 そしてさらに数日後。
パートナー候補として茉莉花は智と再会するのだった。



●薔薇の花弁
 出会ったというよりは拾った。
 アメリア・ジョーンズは降りしきる雨の中、傘で泣き顔を隠しながら帰路を歩いていた。
本当は大声で子供みたいに泣きたかった。けれど唇を噛み締め、しゃくりあげながらも堪える。
早く家に帰って、誰にも気兼ねすることなく泣きたかった。
 零れ続ける涙を拭った、そんな時だった。
倒れている男の姿が目に入ったのは。それがユークレースだった。
 驚きのあまりアメリアの涙が止まる。
「やだ、死んでるの……?ねえ、大丈夫!?」
 おっかなびっくり肩を揺すれば、呻き声のような声が聞こえた。
生きてる。
「あとちょっとだけ頑張って。家に案内するから!」
 慌てて抱き起こした体は男性にしては軽い。
力なく立ち上がろうとするユークレースの体を支えてやり、肩を貸す。
 二人の体を雨から守るには小さな傘だったが、見るからに弱っているユークレースの為にも閉じる訳にはいかなかった。
ゆっくりと亀の歩みで家へと向かう。それでも着実に、一歩ずつ。

「お腹空いて倒れるなんて……バカじゃ無いの?」
「ちょっとお金が無くて……」
「そういう問題じゃないでしょ!」
 聞けばお金が無くて(覚えている限り)絶食三日目だという。
それで傘がないとなると、体温が奪われて倒れるのも当然だ。
 まったく……額を押さえながらも、ユークレースが食事をしているのを見守る。
手早く出来て温かいものをと思って作ったが、絶食していたのなら大正解だった。
迂闊に固形物を出せば命に関わる。
 アメリアはさっき、何故泣いていたのだろうか。
可愛い子が何故……そんな疑問をユークレースは覚えが、拾われた手前踏み入ることはしない。
「ご馳走様でした」
「はい、お粗末様」
 空いた食器を片付けようとするアメリアは立ち上がる。
その姿を目で追いながらユークレースは苦笑いを零した。
「お礼に契約を……と言いたいところですけど、適応しているかどうかはA.R.O.A.の判断次第ですからそうも行きませんね」
「は?何言ってるの?」
「……もしかして気付いてないんですか?」
 何が――問い返す前に手の甲を指で示される。
怪訝な顔でアメリアが青い紋様を確認するのと同時に、家のチャイムが鳴った。
A.R.O.A.の職員だった。

「それでA.R.O.A.に保護されたのに、結局ユークと契約だったのよね」
「真実は小説よりも奇なりというくらいですから」
 するり、チーズケーキにフォークを差し込みながらアメリアはユークレースを窺う。
あの頃と変わらない表情に見えるが――
「あの時はまだ、大人しかったわねぇ……」
「エイミーさんこそ、あの時の方が優しく見えましたよ」
「あはは、そーですね、すみません」
 ムカッとするも笑顔で言葉を返す。
軽い喧嘩のような応酬はいつものことだ。
 温かな紅茶を嚥下しながらユークレースは窓の外へ視線を遣る。
新米ウィンクルムは、精霊が頭を抱えながら神人の言葉の弾丸を受け止めているようだ。
 きっとアメリアが顕現したのは失恋したことが原因だろう。
彼女は傷付いていたが……契約してよかったと、ユークレースは琥珀色の液体に移る自身の顔を見ながら思った。



●仏桑華の萼
 リオ・クラインはタブロス出身ではない。別の街、屋敷を構えているような家に生まれた。
もともと自由に出歩くことは出来なかったが、リオが顕現したことによりさらに窮屈になった。
よく言えば箱入り娘状態。悪く言えば、半軟禁状態。
 リオの顕現を察したA.R.O.A.の職員が何度か屋敷を訪れたものの、尽く親が追い返した。
とはいえ、相手はA.R.O.A.だ。周囲への影響が無視できない以上、いずれは強硬手段を採ってくるだろう。
 窓の外を見ては溜息を吐く、そんな毎日を繰り返していたある日。
A.R.O.A.の職員が姿を見せないことに気を緩めたのか、教会へ向かうことを許された。
いつも通り、使用人が同伴すること前提ではあったが。

 神人はオーガを引き寄せる。そのせいなのだろうか。
「何事だ……!?」
 悲鳴と、何かが壊れる音、そして振動が教会にまで伝わった。
耳を澄ませば「オーガだ、オーガが!!」そんな悲鳴が聞こえてくる。
 リオの目が決意の色を浮かべる。
彼女が走り出すのと、使用人が彼女の身を守るべく腕を広げたのはほぼ同時。
いや、リオの方が僅かに早い。リオは使用人の手を潜り抜けて教会を飛び出した。

 リオとは真逆に、アモン・イシュタールは町のゴロツキだった。
オーガの襲来と聞いて、彼は険しい顔のまま騒ぎの元へと駆け出した。
 阿鼻叫喚の現場に辿り着いたころには息が上がっていたが、気にしている場合ではない。
咄嗟に駆けつけたもののどうすることも出来ず周囲を見回すと、アモンと同じように歯噛みをして立っている少女がいた。
「何してん……」
 突っ立っていると死ぬぞと声をかけようとして、アモンは気付いた。
左手に紋様があること。その紋様が、青いことに。
「私に力があれば……!」
 その言葉が聞こえたアモンは迷わなかった。
すぐさま少女――リオに近づく。
「おい!お前、神人だろ!」
 声をかけられリオは振り向く。
声の主――アモンを見れば見間違えようもないディアボロの角。
「キミは……精霊?」
「オレと契約しろ!」
 リオは息を呑んだ。
神人と精霊が適応し合うかはA.R.O.A.が独自の調査により判明する。
そのことはリオも、勿論アモンも知っていた。
 戸惑うリオは声を絞り出す。
「適応するかどうか分からないだろう……!?」
「一か八かだ!不本意だが、アイツをぶっ倒すにはこれしかねぇ……!」
「……分かった」
 リオの返事を聞いて、すぐさまアモンは跪く。
すっとリオが手を差し出し、アモンが口付ければ――非常に幸運なことに、紋様が赤く変色する。
こうして二人はオーガに抗う力を手に入れたのであった。

 応援のウィンクルム達の援助もありどうにかオーガを撃破した後で、ポブルスかマキナが良かったというリオのぼやきが元で口論となったことは些細な問題である。
……多分。

 リオはショートケーキの甘さを紅茶の爽やかさで押し流す。
あれから色々あったなと思いながら、アモンに視線を向ける。
「なんだよ」
「いや、別に。ウィンクルムになった事で独り立ちしたまでは良かったが、キミがいつの間にか居ついてしまった事は予定外だと思っただけだ」
 コーヒーカップを持ったアモンが眉を顰めた気がするが、リオは気付いていないそぶりをした。
リオは溜息を吐く。
 契約した以上、リオがウィンクルムとして活動することに親が反対したところで止めることは出来ない。
せめて親元に残そうとしていたが、それも振り切ってタブロスに出てきた。
 その結果が今だ。
とはいえ――家で窮屈な生活を強いられるよりも、こうしている方がずっと充実している。
リオは口元をティーカップで隠し、小さく笑みを浮かべるのであった。



 ライラック。
紫や白の花を咲かせる、香水の原料にもなる花。
その花言葉は『思い出』。

――契約の思い出――



依頼結果:成功
MVP
名前:手屋 笹
呼び名:笹ちゃん
  名前:カガヤ・アクショア
呼び名:カガヤ

 

名前:桜倉 歌菜
呼び名:歌菜
  名前:月成 羽純
呼び名:羽純くん

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 天羽  )


( イラストレーター: 越智さゆり  )


エピソード情報

マスター こーや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月23日
出発日 03月01日 00:00
予定納品日 03月11日

参加者

会議室

  • [8]桜倉 歌菜

    2015/02/28-23:49 

  • [7]桜倉 歌菜

    2015/02/28-23:49 

  • [6]桜倉 歌菜

    2015/02/28-23:49 

    あらためまして、桜倉歌菜です!
    ご挨拶がギリギリになっちゃいました…!

    羽純くんと契約した時の事、思い出すと凄く恥ずかしく…っ

    皆様の契約風景、今から楽しみです♪
    宜しくお願いいたします!

  • [5]リオ・クライン

    2015/02/28-19:13 

    リオだ、よろしく。

    初めて契約した日の事か・・・。

  • [4]水田 茉莉花

    2015/02/28-00:10 


    ういーっす、八月一日智でっす。

    多分、おれから見た話になると思うんだよな、うん。

  • アメリアよ、よろしく。
    ユークと契約した時か…いやぁ、あの時はどうかしてたのよ、あたし…(遠い目)

  • [2]手屋 笹

    2015/02/27-23:03 

    手屋 笹です。
    皆様よろしくお願いします。

    契約の時の事…う、頭が…

  • [1]桜倉 歌菜

    2015/02/27-17:13 


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