在り来たる日常(上澤そら マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●今日は一人で
 春に少しずつ近づいているものの、まだ肌寒い冬の一日。
 特にA.R.O.Aでの依頼を受けているわけでもない。
 神人、精霊というわけでない、個人の時間。

 いつだって、神人と精霊がベッタリ一緒にいるわけでもない。
 いや勿論、いつも一緒にいるウィンクルムもいることだろう。
 しかしそんな2人にだって、1人きりになる時間があるだろう。

 とある神人は、依頼がない日は家業を手伝う。
 彼女の家は本屋さん。お客が少ない日は自分も読みたかった本を店番をしながら読む。

 とあるファータは、予定がない日は街へと出かける。
 今まで森で生活していた彼にとって、街の喧騒は今までに味わったことのない空気。
 まだ若い彼は新たな刺激に胸をときめかせる。

 とある神人は、家で編み物をする。
 趣味レベルなため冬には間に合わないかもしれない。
 しかし大事な人に渡すため、懸命に手を動かす。

 とあるマキナは、キャンバスを持って公園へ向かう。
 神人に出会って感情を動かす楽しさを覚えた彼は、思うがままに筆を動かす。
 
 とある神人は剣の稽古をする。
 いつまでも精霊に甘えないように、少しでも役に立てるように……と思いながら剣を振るう。

 戦闘を忘れ。任務を忘れ。
 いつもと変わらない日々。
 貴女と彼は、どんな一日を過ごしていますか?

解説

●流れ
神人と精霊のそれぞれの日常を描きます。
神人さんとウィンクルムさん、リザルト上では出会いません。
でも顔を思い浮かべてニヤニヤする、などでしたら可能です。

●すれ違い
家から出ない!なプランではなく、お外に出ると他のウィンクルムさんに出会う可能性があります。
絶対に出会うわけでもありませんが、絡みたくない!アタイはロンリーウルフ!な方は
【絡み不可】とお書きください。

アドリブを入れたがる傾向があります。
「キャラ壊すなや!」な方は【アドリブ不可】とお書きくださいまし。

過去のリザルトは記載いただいても参照できない可能性があります。
予めご了承ください。

そして、世界観を逸脱したり、NPCに対する行為は
マスタリング対象となりますのでご了承ください。


「俺、いつも一人でデミオーガ倒しってからー」
「ライくんを肉で餌付けする」

【注意】
 また、神人さん精霊さんの兄弟家族の名前を出すことは当シナリオでは出来ません。
 友人と出掛ける、は可能ですがその友人に名前を付けたり、特定の人物であることを感じさせる場合は
 マスタリングする可能性もありますのでどうかご了承ください。
 どこかにお勤めの場合も店名は出すことは出来かねます。業種の描写は可能です。

そして、生活費として一組300Jr頂戴いたします。
注意が多く申し訳ございませんが、どうか良き一日をお過ごしください。

ゲームマスターより

お世話になっております、上澤そらですっ。
EXが遂に…!
皆様の日常をガッツリ描写させていただきたく!く!

家族の名前やら云々は、らぶてぃめ世界はどんな年齢、どんな設定の方でもほぼ登録できますゆえ、
他の人に成りすまされたらヤーン!だったり、その他諸々の事情ゆえです。申し訳ございません……!

フレンドさんいましたらそこいらの描写もできたらいいな、など妄想広がりまくりつつ
気が向きましたら何卒よろしくお願いいたしますっ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)

  今日は任務もないので、アルバイト先の武器屋で働く。

今日は客入りが少なかった。
商品の点検と陳列をしている最中、ふと、この間のことを思い出す。

ジャスティと自分は、幼い頃に会っていたという。
その証拠を彼から見せられ、その時のことを思い出したのだ。
そして、彼に抱きしめられた…。
嫌ではなかった。
これが示すものは何?

うぅ…。なんだか顔が熱い…。
わからないことだらけだ…。

作業の手が止まり、顔を赤くして考え込んでいるところを店長(重度の武器マニアの人間でオネエ)に心配された。
慌てて、大丈夫ですと伝えて作業を再開する。

いけない、切り替えないと…。

アルバイトが終わったら、帰り道のお店で数日分の食材を買って帰ろう。



クロス(オルクス)
  ☆心情
「今日は休みだし家族の墓参りに行ってから服買いに行くか
オルクの為に少しでもお洒落しないと…」

☆行動
・墓参りの前に花とお供え物購入
・タブロス市から少し山奥に位置する村が故郷
・両親と祖母、五歳違いの妹、男の幼馴染に挨拶と近況報告
・帰りは服を買いにデパートへ

☆報告
「久しぶり、最近来れなくて御免ね
最近忙しくて…
あっ俺さ、オルクと恋人になったんだ
前に契約した精霊の話したろ?
そいつだよ
俺から告白したけど後で改めてされたんだ
オルクは格好良い所もあるけど可愛い時も…(暫く惚気話
俺は幸せだよ、だから安心して見守ってて」

☆買物
「んーオルクが好きそうな奴…
今迄男もんしか着なかったのが仇になっちまったな(苦笑」



クラリス(ソルティ)
  もうっ起こしてくれたっていいのに!
あたしも買い物行きたかったわ!

朝食は野菜たっぷりハムサンドとコーヒー
片付けが最小限で済む留守番の定番メニューね
置いていかれた事を愚痴るが食べ終わる頃には上機嫌
両親の写真に「行ってきます!」と声掛け散歩へ

すこぶる暇ね…
前を横切る野良猫を見て目が輝く
…決めた!今日は貴方が相棒よ。ソルティ2号と名付けるわっ
猫を追跡。細道裏道、塀を乗り越え獣道も突き進む

辿り着いたのは馴染みのある商店街
結局いつもの道に来ちゃったわね…
でも楽しかったわ!
ソルティ2号ありがと…あら、クールなのね

なんとなく寄り道して彼の好物のおにぎりを二つ購入
あーぁ、お腹減っちゃった!今日のご飯は何かしらっ



名生 佳代(花木 宏介)
  ◯朝
宏介ぇおはよぉーって、アンタ熱くない!?
プッ、バカは風邪引かないけど宏介は風邪引くんだねぇ。
あぁもう、学校にはアタイから言っておくから、
ちゃんと寝てとっとと治せしぃ!

◯学校
だるぅー。
帰ったら宏介が教えろって煩いだろうから聞いとくけどぉ。
そうだ、帰りに薬買ってやんないとぉ。

◯放課後
薬屋さんってどこにあるしぃ?
アタイ神人になって始めてたブロスに来たから、
わかんない所一杯あるんだよねぇ。
スマホで調べよーっと。
なんか他にもお店あるっぽいし、寄り道しちゃおっかなぁ。
へへっウロウロしてたら楽しくなってきた。
アクセメイク雑貨お菓子…元ヤンの欲望は尽きないじゃん!
おっウィンクルムの姐さん兄さんハッケーン。


和泉 羽海(セララ)
  アドリブ歓迎

昼過ぎまでがっつり就寝
(さすがに寝すぎた・・・)

メールの着信を確認
(・・・目が滑る)
どうやら、あの人は今日は来ないらしい
ちょうどいい
最近は外出が多かったから、今日くらいは引き篭もっていたい
両親も遅くなるって言ってたから、一人でのびのびしよう

日が沈むまでだらだらと過ごす
夕食も適当に済ませようと、冷蔵庫を覗いて気づく

(・・・アイスがない)

寒いときに暖かい部屋で食べるアイスは格別なのだ
買ってくる?今から?
家族が心配するから、暗くなってから出かけるのは尚のこと稀
なんだか悪いことしているみたい
でも少し・・・楽しい

メールに気づく
・・・アイスは甘いものに入るのかな
アイスを2つ買って帰る


●穏やかな陽気
(いい天気だ……)
 ソルティはカーテンを開け、外の光に目を細めた。
 いつものように丁寧な所作で一輪の花が挿された花瓶の水を変え、両親の写真の隣へそっと置き。
「おはよう、母さん父さん。今日も一日良い日になるといいね」
 そう声に出し、笑みを浮かべた。

 朝の日課を済ませ、時計を見る。
(そういえば、今日はクラリスと買い物の約束をしていたけれど……)
 ややタレ目がちで優しさを感じさせるソルティの明るく青い瞳が、若干悩みの色を見せた。

 神人であるクラリスとポブルスのソルティは兄妹である。
 血が繋がった家族ではないが、幼少の頃クラリスの家にソルティは養子として迎え入れられた。
 それ以来、実の兄妹の如く仲良く過ごしている。
(……起こしちゃうのも悪いしなぁ)
 共に買い物に行くことは少ないわけでもない。昨日は二人で営む便利屋の仕事が忙しかったし、きっとまだまだ起きてこないだろう。
 今日は一人で出かけよう、とソルティは朝食の準備に取り掛かった。
 家事も料理もお手の物、なソルティは手早くサンドイッチを作り上げる。勿論可愛い妹の分も忘れない。
 出来上がったサンドイッチで己も朝食を簡単に済ます。
(やっぱり起きてこないか)
 ソルティが身支度を整えた後でも起きてこないクラリス。まぁそれもいつものこと、と彼女の分のサンドイッチを冷蔵庫にしまい、サラサラっとメモを書いた。
「買い物にいってきます」


●美味しいご飯
 クラリスはソルティの書いたメモを見つけ、唇を尖らせた。
(もうっ!起こしてくれたっていいのに!)
 そう思いながら冷蔵庫を開く。
(あたしも買い物行きたかったわ!)
 久しぶりに下着選んで貰いたかった……と思っていたかどうかは定かではないが。 
 ソルティが作った野菜たっぷりのハムサンドを取り出し、お供に珈琲。
(片付けが最小限で済む留守番の定番メニューね)
 そう思いながら、クラリスはお手製のハムサンドを美味しそうに食べる。
 どんな気持ちも美味しいご飯には適わない。
 食べ終わる頃には不機嫌な気持ちも吹き飛んでいた。
 窓から外を見れば、暖かな日差し。
(せっかくだし、外に出掛けようかしら)
 身支度を整え、隣に一輪の花が飾られている家族写真に微笑み。
「いってきます!」
 クラリスはお散歩へと出掛けるのだった。


●お見合い大作戦
 通い慣れた商店街へと到着し、馴染みの八百屋に向かうソルティ。
「あら、ソルティさん!」
 フルーツと野菜を注文する彼にオバちゃんは様々なオマケを加えていく。
「そんな、オマケなんて大丈夫ですよ」
 慌てるソルティに
「いいのよぉ。忙しいのに、ちゃんとご飯も作って偉いわねぇ」
「いえいえ、それに料理を作るのは好きですし、苦じゃないですよ」
 爽やかソルティスマイルが発動。オバちゃんはメロメロだ。
「ソルティさん程、お婿さんに欲しい人はいないわよねぇ。優くて料理もできて、頼り甲斐もあって、背も高いし何よりカッコいいし……」
 むしろオバちゃんが恋する乙女の瞳に見えるのは気のせいだろうか、とソルティは苦笑する。
 褒めてもらえるのは勿論嬉しいが……
「ねぇ、今誰かお付き合いしてる人はいるの?」
 突然の質問に目を丸くしつつ
「今は妹で手一杯だから、恋愛は出来ないかなぁ……」
 あはは、と愛想よく笑み、盛り沢山に野菜やフルーツが入った袋を受け取り、代金を支払った。
「あらぁ、勿体ない。こんな娘婿がいたら幸せよねぇ。しかも可愛いクラリスちゃんも娘婿妹になるんだし」
 最早はぁ、と頷くしかない。
「ねぇソルティさん。うちの娘の写真見るだけ見てみない?そりゃあクラリスちゃんのように美人でスタイルが良いわけでもないけれど……」
 ソルティの野生の勘に危険信号が灯った。
 だが、それと同時に希望の光を彼は見つけた。
「あ、クロスさん!」
 シュタッと爽やかな笑顔でオバちゃんに挨拶し、見知った顔を見つけたことで逃走に成功するソルティだった。


●今日の相棒
(すこぶる暇ね……!)
 外に出たものの、特に用事もない。部屋から見えた光は暖かさを感じさせたが、外に出ればまだ冬だと実感する。
 ふぁ……と欠伸をするクラリスの前を、一匹の猫が横ぎった。
 そしてその猫は立ち止まり、クラリスへと振り返った。
「にゃーん」
 クラリスは思わず吹き出した。
 茶色と白で上品な毛並みを持ち、タレ目にも見えるような青い瞳。
「あ、あはははは!まるでソルティね!」
 兄を彷彿させるその猫は、クラリスに向かってもう一度鳴き声を上げた。
 そして、またどこかへと進みだす。
「……決めた!」
 クラリスが楽しそうな笑みを浮かべた。
「今日は貴方が相棒よ!ソルティ2号と名付けるわっ!」
 びしぃ!と指を立てるクラリスに、猫……ことソルティ2号はにゃーん、と鳴き声を上げ。
 どこかへと歩みを進めた。
「追跡開始!」
 クラリスも2号の後をついて行くのだった。

 時に早く、時にゆっくりと。気ままに猫が進む道をひたすらついて行くクラリス。
(へぇ、こんな道もあったのね)
 と気付かされることも多々。
(今後の便利屋稼業に役立ちそうね)
 しかし、流石猫。人が通れる道ばかりを進むとは限らない。
 ヒョヒョイっと塀の上へとジャンプする2号。
「ちょっと、ソルティ2号!そんな所いくのっ!?」
 その瞳はどこか挑戦的にも見えて。
「クラリス様の力を舐めるじゃないわよっ?」
 余裕!とばかりに彼女も塀をよじ登った。ガーターベルトが丸見えだ。
 2号の塀の上をバランスよく歩き、ひょいと降りれば今度は獣道。
 便利屋稼業で人を追いかけることはあったが、流石に動物の追跡はなかった……はず。
(ペット捜索の良い予行練習ね)
 暫く獣道を行けば、また塀にジャンプする2号。
 クラリスも塀をよじ登り、反対側に降りたが……
「あ、あれ?いない?」
 あたりを見回すが、2号の姿が見えない。
 クラリスは今までの2号の速度と行動パターンを考え、目星をつける。
 そしてその方向に
「いたっ!」
 クラリスに気付き全速力を出す2号。クラリスも精一杯に走る。途中で見覚えのある銀髪青年の姿が視界に入った気もするが、今はソルティ2号に精一杯だ。
 しばしの追いかけっこの後、遂に。
「捕まえたっ!」
 クラリスはソルティ2号に追いつき、嬉しそうに2号を抱き上げた。
 気づけば、馴染みのある商店街の入り口で。
「結局いつもの道に来ちゃったわね……」
 あはは、と笑うクラリスだった。
 

●コロッケ
 なんとかお見合い攻撃を逃げ切ったソルティは商店街を更に歩く。
「只今コロッケ揚げたてだよー!」
 肉屋のオヤジの声が耳に入った。
(そういえばクラリス、ここのコロッケ好きだよな)
 迷わずにその肉屋へ。
(置いて行かれて怒ってるだろうし……)
 彼女が『起こしてくれてもいいのに!』と唇を尖らす姿は容易に想像できる。それに。
(それに、食べてる時が一番幸せそうだからなぁ)
 クラリスの笑顔を思い浮かべ、自分も思わず頬が緩み。
「すみません、コロッケ一つお願いします」
 満面の笑顔で、ソルティは告げるのだった。


●おにぎり
「ソルティ2号、楽しかったわ」
 クラリスはそう言うと、抱きかかえていたソルティ2号を下ろした。
「ありがと……」
 クラリスがソルティ2号の頭を撫でようとすると、フイッと身を翻した。そして振り向かずに2号は去っていく。
「あら、クールなのね」 
 また会えるといいな、とクラリスも歩き出した。
 遠くでにゃーん、と鳴き声が聞こえた。その声は「またな」と言ってるようにも感じた。

 せっかくだから、と商店街を寄り道するクラリス。
 目に入った惣菜屋で彼の好物のおにぎりを見つけ。彼女は迷いなく二つ購入する。
(あーぁ、走り回ったらお腹減っちゃった!今日のご飯は何かしらっ)
 いつも美味しいソルティのご飯を想像すれば、自然に笑みが零れる。
(今日のソルティ2号とのデートのこと、1号はなんて思うかしら)

 悪戯に笑いながら家へと帰るクラリスだった。




▼日課
 シュッ、シュッと空を切る音が道場に響く。
 クロスのパートナーである銀狼系テイルスのオルクスは、木刀を握りしめ、無心に空を見つめ素振りを行っていた。
 冬ではあるがその額と鍛えられた肉体には大粒の汗が滴っている。

 オルクスは基礎稽古を終えた後、真剣での居合の稽古へ。
 精神を集中させ、刀を抜き相手を斬る。血振りを行い、鞘へ刀を収める。
 架空の相手をイメージし、冷静な一撃を喰らわせる。
 訓練は身体を鍛えることは勿論、精神の集中、そしてウィンクルムとしての戦いに自信を付けるものでもあり、彼の日常に欠かせない事。

 稽古を終え、シャワーを浴びながらオルクスは考えた。
 今日は依頼もない、まっさらな一日。
(さて、久々の休暇か……師匠の墓参りに行くかな)
 濡れた髪を乾かしつつ、オルクスは身支度を整えた。


▽家族への報告
 早朝。クロスはぬいぐるみ溢れる自室で今日の予定を考えていた。
(今日は休みだし……家族の墓参りに行ってから、服買いに行くか)
 クローゼットを開け、ワードローブを確認する。
 先日レストランで着用したミントブルーのワンピースもあるが、まだまだボーイッシュ系が多数。
 今日は墓参りだし、いつもの服装でいいかな?と思いつつ服を選んでいく。
 ふと視線をやれば、銀狼のぬいぐるみのつぶらな瞳が目に入り。クロスは微笑みかけ。
(オルクのために、少しでもお洒落しないと……)
 こんな気持ちが伝わりますように、とクロスは銀狼のぬいぐるみの頬を撫でた。
 
 クロスはまず花屋へ向かう。そしてこれから会う皆の好きな花を丹念に選んだ。
 そしてお供え物も用意し、店を出ると……見知った顔に思いがけず出会った。
「あれ?クロスさん?」
 優しい瞳を持つ長身の男性は、クロスに笑顔を見せた。彼の手には野菜や果物が。
「おぉ、ソルティ。買い物か?」
 ソルティは明るく頷いた。
「クロスさんは?」
「あぁ、ちょっと久々に家族に、な」
 そう言い微笑むクロスに、ソルティはいってらっしゃい、と声をかけた。
 その穏やかな瞳に癒されつつ、クロスは故郷の村へと一人赴くのだった。

 タブロス市から少し山奥に位置するクロスの故郷。
(久々だな……)
 村の光景にクロスは目を細める。そして彼女は両親と祖母、五歳違いの妹、男の幼馴染達が眠る場所へ。

 きっと墓守がいるのだろう。手入れされた墓は以前と変わらない。
 クロスは持参した花とお供え物を家族に差し出した。
 墓前に腰掛け、目を瞑れば彼らの表情が浮かんでくる。
 しかし、それは過去の記憶。
 自分だけは時間が過ぎていくが、彼らはあの時と思い出の中で止まったまま。
 爽やかな風がクロスの髪を撫でた。それは家族の掌のように、優しく。

「久しぶり。最近来れなくて御免ね。最近忙しくてさ……」
 ウィンクルムとしての活動は一年前と変わらず……どころか熾烈になっているようにも感じられる。だが一年前とはっきり違うこともある。
 それはパートナーである精霊、オルクスとの確固たる絆を築いたこと。
「あっ。俺さ……」
 クロスは一呼吸おいて
「俺さ、オルクと恋人になったんだ。前に、契約した精霊の話したろ?……そいつだよ」
 クロスははにかんだ笑顔を見せ。
「俺から告白したんだけど、後で改めて告白されたんだ。オルクは格好いい所もあるけど、可愛い所もあって……」
 楽しげにオルクスとの思い出を語るクロス。
 戦闘時は頼りになるけれど、そのくせ甘いものが好きで。美味しそうにパフェを食べる姿は戦闘時とは別人のようだ。
「嫉妬深いところもあったりして、さ」
 そんな全てをひっくるめて、オルクスのことが大好きで。
 彼の魅力を家族達に伝えれば伝える程、彼を愛しく思う気持ちが増す。
「……俺は幸せだよ」
 きっとずっと、これからも。たくさんの思い出を彼と作る。そしてそれを報告に来るから、と眠る家族達に伝えた。
「だから安心して見守ってて」
 そうクロスが微笑むと、彼女を送り出すように、柔らかい風がまた彼女を包んだ。


▼師匠との再会
 タブロス市内から少し離れた墓地へと向かうオルクス。
 冬から春へと変わる穏やかな陽気だが、ここに来れば自然と身が引き締まる。

 己の師匠の名が刻まれた墓の前で彼は膝をついた。
「師匠、お久しぶりです」
 学生時代には不良の頂点へと登り詰めていたオルクス。そんな彼を見捨てず、接してくれた担任。
「最近来れず、すみません」
 頭を下げるオルクスの姿は、とても過去にヤンチャしていたとは思えない誠実なもの。
「オレは元気でやってますよ。アイツ等も連れて来れたら良かったんですが……生憎仕事で」
 皆そんな年齢になったんだな、と時の流れを感じた。
「そうだ師匠。新たに護りたい奴等が出来たんスよ!」
 オルクスは一人一人の顔を思い浮かべながら。
「一人で己の闇と戦う奴。一人で何でも抱え込む奴。年下だけど戦術が凄い奴、ツンデレだけど可愛い奴……」 
 ふぅ、と一息ついて。
「オレ、もう背負わねぇって決めてたけど、気づいたら増えてました」
 照れるようなはにかむような、複雑な笑みを見せるオルクス。
「でも。一番護りたい奴は……大切な恋人のクーです」
 笑みを真剣な眼差しに変え、師匠に宣言する。
 何があっても、生涯をかけて。クロスの微笑みも、真剣な眼差しも。思い出も、未来も、全部全部。
「絶対に、護り通す……」
 そう呟き、紅銀色のジッポーを強く握った。
 それは師匠のバイクと同じく、宝物の一つ。
「師匠、今度は恋人と……クーと来ますね」
 ひとしきり報告を終えると、オルクスはまた墓に頭を下げた。
「では」
 背を向けた瞬間、どこからか『待ってる』という声が聞こえた気がするオルクスだった。

 墓参りを終え、家へと帰る途中。
 明るいシアン色の髪を持つ女性が彼の前を横ぎった。あまりの速さに呆気にとられるが。
(あの後ろ姿は……クラリス、か?)
 物凄い勢いで走り去る彼女はどこか楽しげにも見え。
 ゆるやかなウェーブが揺れ……特徴的なたわわがぽよんぽよよんと弾んでいる。
 その光景にオルクスはクロスのぽよよんを思い出すも……そんな場合じゃない、あんなに急ぐなんて何事だ!?と彼女の後を追った。
 だがしかし。
「いない……!」
 見覚えのある赤いピアスが揺れていたし、きっとクラリスだと思われる。が、結局彼女を見つけることが出来なかった。
 いったいあれは夢か、幻か。
 しかし表情から事件ではなさそうで。次に会ったら聞こう、と思う。しかし追いつけなかったのが若干悔しい。
「師匠、俺にはまだまだ超えるべき壁がありそうです……!」
 空を仰ぎ、オルクスは笑った。


▽春コーデ!
 墓参りを終えたクロスはタブロス市にあるデパートへ。目指すは、服飾品売り場。
 目に止まった店は若い女性に人気らしく、クロスと同年代の女性達が楽しそうな表情を見せている。
「今迄男もんしか着なかったのが仇になっちまったな」
 そんなクロスを『可愛くなりたい!もっとオルクス好みに……!』と思わせるのだから、恋の力は偉大だ。
 スタイル良く、クールながら可愛らしい顔つきのクロス。
 女性らしい服装をしても違和感がないどころか似合うわけで。

 クロスが店内を見ていると店員が『何かお探しですか?』と声をかけてきた。
 どうせ服を買おうと思っていたんだし、と愛想のいい店員の言葉にクロスは甘えることに。
「ちょっと、女性らしい服装を……」
 クロスの言葉に、どういう系統がお好みですか?と問われれば
「……オルクはどういうの好きかな……」
 呟いたクロスの言葉に
「デート用ですかっ?」
 と店員が満面の笑みを浮かべ。
 赤面しながらクロスが頷けば、店員に彼氏の普段の服装を聞かれる。
 そして。
「……此方の組み合わせはいかがですか?」
 クロスはフリル付きの白いシャツに、ふんわりとした黄色いシフォンスカート。
 薄青のカーディガンを纏った春らしい姿となる。
 きっとオルクスに貰った髪飾りも似合うことだろう。
 ブラウスには透け感があり、よく見ればセクシーさも垣間見える。
「くるぶし丈の白い靴下に、カーディガンと近い色のパンプスとかオススメです!」
 そんな店員の言葉をふむふむと聞き。せっかくだから、とクロスは購入した服を着用し店を後にした。

(そういえば、デパ地下があったな。ちょっと寄ってみるか)
 まだ寒さは厳しいが、明るい色を着れば心も晴れやかに。
 シフォンスカートを揺らしつつ、クロスはデパ地下へと向かうのだった。
(早くオルクにこの姿を……)
 どんな表情をするかな、と彼の顔を思い浮かべ。クロスに笑みが溢れた。



■目覚める
「ぶうぇーーっくしょい!」
 朝から派手なクシャミが部屋に響く。
「……寒い」
 冬の朝、いつも以上に寒い。震えながら花木 宏介は身を起こそうとする……が、身体が重い。
 頭は痛いし間接も痛いし……
(いや、違う。そんなことはない。早く起きて朝食作んなきゃ……)
 いつもならばこのまま朝食の準備に取り掛かる。
「ぶぅぇっくしょい!」
 明らかに、風邪。
(学校……行かな……きゃ……)
 宏介の朝の記憶はそこで終わっていた。


□頑張る
「ってわけでぇー、全然反応ないから部屋のドア開けたら、真っ赤な顔して朦朧としてたわけぇー」
 宏介のパートナーである名生 佳代。日常では宏介同じく学生生活を送っている。
 佳代はクラスメイトに今朝の宏介の様子を話していた。
「えー、それマジやばくなーい?」
「超ヤバいしぃ!学校行こうとするから、買い置きの薬飲ませて、寝とけー!とっとと治せしぃ!って言ってやったしぃ」
「へーマキナでも風邪ひくんだねー、超意外ー」
 そんなクラスメイトの言葉に
「そーそー、バカは風邪ひかないっていうけど、宏介は風邪引くってのも学んだしぃ!」
 得意げに胸を張る佳代に、友人達が笑うと始業のベルが鳴り響いた。

 学校は楽しいが、授業はやっぱり楽しくないと佳代は思う。
 しかも今日は宏介がいない。
(だるぅー)
 いつもだったら適当に聞く授業も、帰ったら宏介に今日の授業の範囲だとか色々聞かれるだろうから、と真面目に聞くことにした。
(ふぁあ)
 しかし漏れる欠伸。
(こ、ここで寝たら負けだしぃ……!)


■一瞬の目覚め
「朝食作らなきゃ……」
 ぼんやりとだが意識が戻り、宏介は時計に目をやった。
 時刻はとっくにお昼を回っている。
「あ、あれ?あれ?」
 慌ててスマホを見れば佳代のメッセージを始め、宏介を心配する友人達が『風邪を治せ』との連絡が。
 有難く感じつつ、重たい身体を引きずって卵粥を作り、薬を飲むため粥を流し込む。
 風邪薬を飲めば、それで箱は空となった。 
(佳代に連絡しとこ……わかるかな……)
 宏介は佳代にメールを送り、薬購入の要請を出してからベッドへ戻り。
 そしてまた寝息を立てるのだった。


□瞼を閉じず
 こうして。なんとか一日の授業と言う名の戦闘に打ち勝った佳代。満足げにノートを鞄に詰め込んだ。
(よっし、それじゃ薬屋へー……って、あれ?薬屋さんってどこにあるしぃ?)
 今まで宏介が日用品を買っていたのだろう。タブロスに来てから佳代は薬屋へ行ったことがないことに気付く。
「まー、人が多い方に行けばなんとかなるしぃ!」
 スマホ片手に、佳代は街へと歩き出した。 
 

■RPG
 薬を飲んで眠れば、少し回復したように思える。
 宏介は枕元に置いておいたスマホにメールが届いているのに気付く。
 佳代からかな、と画面を見れば……スマホゲームの案内だった。
(そういや最近、勉強系のゲームインストールしたんだよな……)
 意識もしっかりしてきたし、とログイン。
 数学の知識を使いつつ敵を倒していくこのゲーム。遊びだけでなく、頭も使う。
 しばし布団に包まれながら没頭する。RPG的な要素があり、レベルが上がり小さくガッツポーズ。
(それにしても……自動的に組まれたパーティーだけど、この『うみぃみ』さん無茶苦茶やりこんでるな)
 何度も宏介のキャラを助けてくれる『うみぃみ』に感謝した。

 気づけば、結構な時間が経過していた。流石に疲れを感じた宏介。
『うみぃみさん、たくさんありがとう。そろそろ落ちます』
 メッセージを送れば。
『またね (*´∇`)ノ』
 と返事が来、宏介は安心してログアウトした。
 そしてまた訪れた睡魔に宏介は身を任せるのだった。


□薬とお土産
 佳代はすぐに薬を扱う店を見つけることが出来た。
「おほほ。同居人が風邪で寝込んでおりますの。良い風邪薬はありませんかしら?」
 病人の風邪の症状を聞かれ、佳代はやや戸惑う。
「そうですわね……げふん。えっとぉー、顔が超真っ赤でー!クシャミたくさんだったしぃ。熱も超ヤバイ!って感じぃー」
 お嬢様モードは三分ももたなかったようだ。

 それでも難なく風邪薬を購入し、笑顔で店を出る佳代。
 いつも帰る時間よりはまだまだ余裕がある。
(なんか知らないお店たくさんだし、時間はまだまだあるし……少ーし寄り道しちゃおっかなぁ)
 見た目は清楚系おさげ眼鏡女子な佳代。
 それは神人として顕現してからの話で、以前はヤンキー風を吹かしていた。お嬢様な口調を使うが、たいていメッキは直ぐに剥がれる。
 だが、ロマンチストな一面はしっかりと初期装備。
 アクセサリーやメイク用品に目を輝かせ、普段来ることのないデパートにも足を延ばした。

 地下の食品売り場でお洒落なスイーツに目を輝かせる。
「うわぁ、ヤバい!超美味しそうだしぃ!」
 思わず声が出る佳代。しかし残念ながら薬を買ったことで手持ちはない。
 そんな佳代に声がかかった。
「お、佳代。制服姿なんて珍しいな」
「クロス姐さん!超奇遇だしぃ!しかもヤバい!超可愛いしぃ!」
 現れたクロスはいつもと違ったガーリーな服装で。
 戦闘時とのギャップに驚き、キラキラした目でクロスを見る。
「え、そ、そっかな?」
 照れ顔のクロス。今日は一人か?と聞かれ、宏介の風邪を伝える。
 そうか、心配だな……と言いつつクロスはケーキを購入した。
 包みは二つあり……クロスは「はい」と一方の包みを差し出してきた。
「とりあえずゼリーとプリンにした」
 え!?と慌てる佳代に
「お見舞いに行けない代わりだ。とっといて」
 そう言うと、自分の分のモンブランとショートケーキを携えて去っていった。
「クロス姐さん、超ハンパないしぃ……!ゴチになりますッ!」
 去りゆくクロスの背中にお辞儀し続ける佳代であった。 
 

■夢の中
 宏介が目覚めれば、もう夕暮れ。
 少しずつ身体は軽くなってきた宏介は、ベッドから起きると椅子に座る。
 そして目に入った数学の参考書を手に取った。
 今の学年ではなく、下の範囲からじっくりと取り掛かる。
「あれ、さっきのゲームでやった所だ!」
 見覚えのある問題に嬉しくなる。コツコツと参考書を進めていく。
 彼は勉強は不得手ではあるが、努力家と言えよう。きっと実を結ぶ時が来るはず。
 しばし後、宏介がチラリと時計を見れば……いつも佳代が帰ってくる時間。
(佳代はまだ帰ってこない……か)
 いつも傍に居る佳代が、今はいない。
(決して、寂しいわけでもないし、心配なわけでもないが……)
 身体のダルさを感じ、またベッドに潜り込む。勉強のし過ぎでぶり返したのだろうか。
(帰ってきたら知恵熱とかバカにされそうだな……)
 次はちゃんと言い返してやるんだ!と宏介は思う。
(しっかり寝て治しておくか……)  宏介はまた夢の世界へ。
 いつか見た、小さな頃の佳代。彼女が心配そうな表情で宏介の額に手を充てる夢を見た。

 ……宏介の額に、熱を冷ますジェルシートが貼られ
『起きたらご飯食べて、薬飲め!だしぃ!』
 というメモが枕元に置かれたことに気付くのは、もう少し後の事。



▼過去と現在
(暇ね……)
 街にある一軒の武器屋の中。暇を持て余す少女が一人。
 黒髪をサイドテールに束ね、赤い瞳を持つその少女は一見店にそぐわない。
 だが彼女にとってこの店は幸せな環境だった。その少女、リーリア=エスペリットは立派な武器マニアなのだから。

 リーリアはウィンクルムとしての活動がない日は武器屋でのアルバイトに精を出す。
 武器マニアな常連と会話を楽しむ、いわば看板娘でもあるのだが……何故だか今日は人が来ない。
 リーリアは新しく入荷されてきたロングソードを真剣な表情で点検しつつも、溜息が漏れる。
 忙しければ気が紛れるのに。静寂は否応なく思考を刺激した。

 彼女の精霊である、ジャスティ=カレック。
 銀色の長髪の一房を三つ編みにした、美麗なディアボロの青年。
 初めて出会ったのは13歳の時……だと思っていた。
 しかし真実は違う。
 ジャスティから紡がれる言葉によって、薄ぼんやりとしていた彼女の記憶は光を当てられた。
 
 リーリアの故郷の風習で、生まれた子供に二つ授けられるそのペンダント。
 二つ授けられるのは、片方を伴侶となるものに渡すため。
 だが、彼女はその片割れをいつの間にか失くしたと思っていた。

 そんな片割れはある日、恋虹華の花畑で見つかった。
 ジャスティが己の首からはずし、リーリアへ見せたもの。
 彼が肌身離さず身に着けていたペンダントは、コスモスの花とイニシャルが入り。紛れもなくリーリアの片割れだった。

 そして彼女は思い出した。
 過去に父と旅をしていた途中で、宿屋で一度だけ会った少年がいた。
 口数は少ないが自分の話をしっかりと聞いてくれた銀髪の少年。
 その時に何を話していたのかは、正直覚えていない。
 ただ、不安と悲しみを携えた彼の紫色の瞳は、安らぎと安堵に変化していったのを思い出す。
 ほとんど自分が話していたようにも思うが、話を聞いてもらい随分と心が安らいでいた、と思う。

 ―友達の印―
 そう言い彼にペンダントを渡した、とジャスティから聞いた。
(その時の私は、ペンダントが二つある意味……知ってたのかな……)
 当時のことを一生懸命思い出そうとするも、そう簡単に記憶は戻らない。

 そしてペンダントを見せられた直後……彼に抱きしめられた。
 切なげなジャスティの声と表情。
 以前、転びそうになる自分を抱き止めた時よりずっと強い、腕の力。
 たくさんの驚きが一度に訪れた。
 しかし、彼の腕の中の温もりは……
(嫌……ではなかった)
 思い出すだけでも、顔が火照る。
(うぅ……なんだか顔が熱い……。これが示すものは何?)
 その時のことを思い出すと身体がポォッと熱くなり。
(わからないことだらけだ……)
 手入れをしていた剣の刀身に映る赤い瞳。うっすら熱に潤んでいるようにも見えた。


▽馴染みの店
 遠縁の植物学者に育てられたこともあり、興味を惹くのは植物のこと。
 ジャスティの生活の中心は植物の実験や育成だった。
 自分の時間はこの物言わぬ草花たちに出来る限り注いでいたい。
 ジャスティはそう思っていた。

 彼は己の研究室に籠り、自分だけの空間で実験に没頭する……予定であった。だが。
(そういえば……実験道具が破損していたな)
 直ぐに必要と言う程では……と思いつつ郵便受けを覗くと、注文していた資料が入荷されたとの手紙。
(せっかくだ。今日は買い出しを優先しよう)

 馴染みの店に向かって進むジャスティ。
 歩を進めると銀色の髪がサラリと揺れ、女性たちはその美しさに足を止める。
 そんな様子に気付くことなく、彼は気難しそうな表情で街を行く。
 途中で何やら人だかりに気がついた。
 金色の髪を持つ、長身なファータの姿がチラリと見えた。薄着だが、笑顔を絶やさず愛想を振りまいている。
 どちらかと言うと人付き合いは苦手、と自覚しているジャスティ。
(色んな人間がいるものだ。植物と同じように……そうだ、試験管も必要だったな。あとは……)
 撮影の横を通り過ぎつつ、脳内で必要なものをリストアップ。その作業が終わる頃には馴染みの店へ到着した。

 ドアを開く。
「おぉ、カレックさん。久々だねぇ」
 高齢の店主が目を細めた。
「本が届いたようですね。他にも必要なものがあるので、少し見させてもらいます」
 淡々と告げるジャスティに、店主は
「好きなだけ見とってくれ」
 白い髭を撫でながら、店主は読んでいた本へ目を戻した。
 品揃えの豊富さは勿論、必要以上に干渉してこない店主と落ち着いた内装は彼の数少ないお気に入りの店。
 ビーカーにフラスコ等の消耗品に、水温計。それに実験用の手袋も。

(これだけあれば、しばらくは大丈夫だろう)
 目的物と、注文していた資料も受け取った彼は満足げに店を後にした。
(……今育てている植物の研究がまた少し進められる。とても喜ばしいことだ)
 早く資料に目を通したい気持ちを押さえつつ、ジャスティは実験室へ急いだ。


▼早退
「ちょっとちょっとっ。どぉしたのぉ?」
 不意に声がかかり、リーリアはビクリと体を跳ねさせた。振り向けば、店長。先程とはまた違う意味で頬が熱くなる。
「て、店長っ!大丈夫ですっ」
 慌てて声を上げる彼女に、重度の武器マニアのオネエ店長は
「熱でもあるんじゃない?やぁね、ちゃんと栄養とりなさいよぉ?」
 と心配した表情を浮かべる。母性たっぷりだ。男だけど。
 普段真面目に仕事をこなすリーリアのぼんやりとした姿、しかも頬が赤い。真っ先に風邪や病気の可能性を疑われて仕方ない。
「ちゃんと食べてますし、大丈夫ですよ!」
 白く細い腕を上げ、笑顔と力こぶを見せつける。流石肉体言語派乙女。
「そお?ならいいんだけれど……」
 颯爽と仕事を再開するリーリア。
(いけない、切り替えないと……)
 そんな彼女の背中をしばらく見て、店長が声をかけた。
「ねぇ、今日は早めに上がりなさいな」
「え、でも……本当に体調悪くないですよ」
「いつも頑張ってるし、忙しくしてるでしょ?今日位休みなさぁい。これは、め・い・れ・い」
 バチン、とウィンクする店長の姿に本当に寒気を感じたリーリアだった。  

 好意に甘え早退した、帰り道。
 彼女は今のうちに数日分の食糧を買っておくことにした。
 夕暮れの商店街は人で溢れている。

 日持ちする食材をいくらか購入すれば、気づけば両手に食べ物がいっぱいに。
 彼女の可愛らしい容姿から色んなものをサービスしてもらえたのだろう。
 帰り際、肉屋の前を通ると香ばしい香りが鼻をくすぐった。
 視線をやると、見覚えのある青年の姿。幸せそうにコロッケを受け取っていた。
 以前、喫茶店を併設した、ブローチを売るお店で彼を見かけた気がする。
(今日は荷物がいっぱいだけど……いつか私も買ってみよう)
 そう決意するリーリアだった。
(……これ、1人で全部食べきれるかな……)
 そんな折、ふと。今日も植物研究に没頭してるだろうジャスティを思い浮かべた。
(ちゃんとご飯食べてるかな……)
 気が付けば彼のことを考えている。赤く染まる頬に、彼女はぶんぶんと頭を振り、熱を冷ますのだった。


▽瞳 
 ジャスティが実験室へ帰る途中。
 ふと視界に入り込む赤に、思わず足を止めた。
 良く見れば、雑貨屋のショーウィンドウに赤い石をメインとしたブレスレットが美しく飾られていた。
 よく通る道ではあるが、雑貨屋があることを認識していなかったジャスティ。
 目の高さに飾られたそれは、否応なしに彼女の瞳の色を想像させる。
(まるで……彼女に見つめられているようだ)
 力強さと暖かさを感じさせる赤。石の色だけではない。彼女にとても似合いそうなデザイン。
(黒いグローブでも素肌でも、どちらでも似合いそうだな)
 ショーウィンドウに映る自分の姿が少し微笑んでいることに気づいた。
(今、彼女は何をしているだろうか)
 これまで、植物の研究以外で何かに没頭することはなかった。
 しかし今は違う。
(今度会ったら、何を話そうか……)
 以前出会った少年が、自分であったことで2人の関係は変わるのだろうか。
 ジャスティは己のペンダントに服の上からそっと触れた。
「リーリア……会いたい……」
 赤いブレスレットの石を見つめ、誰にも聞こえぬ声で呟いた。



★起床
(あー……流石に寝すぎた……)
 和泉 羽海が目覚め、ぼんやりと時計を見つめればとうにお昼を過ぎていた。
 確かに昨夜は寝るのが遅かった。むしろお日様が顔を出すのと入れ替わり眠った気もする。
(まぁ、いっか……)
 特に何か予定があるわけでもない。
 羽海は毎日が日曜日!……だったのだが。
 ウィンクルム契約したことにより、彼女のひきこもり生活は音を立てて崩れ始めた。


☆仕事
 いつも笑顔で爽やかで。整った容姿を持つ、羽海の精霊であるセララ。
 彼は今、スマホを片手に唇を軽く噛みしめている。
「セララくん、どうしたんだろ……!?もしかして珍しくオーディションに落選、とか……!?」
 と、スタッフ達が密かに騒めいた。

 日頃は学生生活を満喫する彼だが、容姿の美しさを活かし雑誌モデルとしても活躍中だ。今日は学校は休みだが、お仕事中。
 休憩時間にスマホの画面を見れば……たくさんのメッセージは届いているものの、大好きな羽海からの返信はない。
(せっかくの休日だというのに羽海ちゃんに会えないなんて……!)
 羽海を連れ出し、アハハウフフとデートに行きたいところだったが、仲間に仕事をお願いされたら断ることも難しく。
 いくらか彼女へメールを送るが、想定通り反応はない。
 落ち込んでるかと思いきや。
(この、照れ屋さんめ……!そこが可愛いんだけどっ!)
 超ポジティブシンキング。
 彼の脳内では、スマホを握り天蓋付きのベッドで横になり、愛のメールを作るも『送信』のボタンを押せずに困り顔の羽海の姿が映し出されている。
 ……よく羽海の家に遊びに行く彼。天蓋付きのベッドじゃないのは知ってるけど!妄想の中ぐらい好きに想像していいじゃない!
 ちなみにオーディション合格メールも来てましたが、いつものことなのでスルー。
 

★絵文字
『おはよー、羽海ちゃん!たくさん眠れたかな?オレは羽海ちゃんのこと考えてたら、胸がいっぱいで眠れなかったよぉ!(泣いてる絵文字)』

『羽海ちゃん(ハートの絵文字)だいすき(照れる絵文字)』

『せっかく天気も良い(太陽の絵文字)し、羽海ちゃんとラヴラヴ(星の絵文字)デート(ハートの絵文字)したかったけど、今日お仕事(バイトと書かれた絵文字)入っちゃった、ごめ~ん!(土下座する絵文字)このお詫びは必ず(ビックリマークの絵文字)するからね(ハートの絵文字たくさん)』

『今日も羽海ちゃん(ハートの絵文字)に会いに行きたかった(ビックリマークの絵文字)けど、仕事いつ終わるかわかんないや……(泣いてる絵文字)今日は行けそうにないよー(土下座する絵文字)』

(目が滑る……)
 セララからのメールを無表情に開いては閉じる羽海。
 今日はセララが家に来ないということだけ、かろうじて理解した。
 最近の彼は羽海の家に来ることが日課となり、親も歓迎し『羽海にお友達が出来た!』と大喜びだ。

 しかし。
 彼とは……住む世界が違う、と羽海は思う。
 見目麗しく、愛想も良い。誰にでもフレンドリーで。あの人は自分とは正反対だ、と考えてしまう。

 そんな時、スマホにメールの着信が。
 またあの人か……と思い開けば、最近始めたネットゲームから。
 今日は両親も遅くなると確か言っていた。
(ちょうどいい。最近は外出が多かったから、今日くらいは引き篭もっていよう)
 久しぶりにダラダラ過ごそう、のびのび過ごそう、とスマホをいじり始めた。


☆休憩中
 モデルの仕事は、華やかでいて苦労も多い。
(寒ぃ……)
 春に近づいてきているとはいえ、まだまだ寒さが身に染みる。
 しかし雑誌の発刊の都合、今は初夏の服。 
 撮影の休憩時にはコートを持ったスタッフが寒さを感じさせない彼を労う。
 ブラックコーヒーを片手に、セララは仲の良い男性スタッフと和やかに過ごしていた。
 顔見知りが多いため、いつも以上に気楽に楽しく撮影を行う。ただ。
(今日はスタッフに女性陣が少ないのが寂しいけどね~)
 しかし、周りを見ればいつの間にか撮影に集まる人だかり。

 雑誌を見て彼を知る者も、知らぬ者でさえも彼の整った容姿に足を止め、見惚れる。
 セララが「はろはろ~」と笑顔で愛想良く手を振れば、黄色い声が上がった。
 女の子大好き!なセララにとって黄色い声を上げる彼女たちは皆可愛いく思える。
(やっぱり羽海ちゃんが一番だけどっっ!)
 心の中で愛しき彼女を思って、ニヤけた。
 そんな折、人だかりは気にも留めない様子で一人の少女が通りを足早に歩いていった。
 長い黒髪を左耳の上で結んだサイドテールの少女。
(あ、あの子可愛いなぁ)
 たくさんの食材を抱えているが、その重さをものともせず軽々と運ぶ少女。歩くたびにサイドテールが揺れる。
 可愛い、と思う。以前の自分だったら声をかけに走ってるかもしれない。だが今は。
(羽海ちゃんが髪伸ばしたらどんな感じになるのかなぁ……きっと可愛いだろうなぁあ)
 恋の力は偉大だ。


★ごろんごろん
 スマホゲーム内で『コースケ』なる相手と組み、ダンジョンを進む羽海。
 とても組みやすい相手だ、と羽海は思う。
(もしかしてウィンクルムだったりして……)
 だが、そこには触れず。しばらくし、彼がログアウトするということで
『またね (*´∇`)ノ』
 と別れを告げた。自分もログアウトし、スマホを充電器へ。
 
 何度も読んだ漫画を開き、ベッドの上でごろごろ。
 用意されたサンドイッチを自室へ持っていき、ジュースと共にパソコンを見ながらもぐもぐ。
 それはそれは幸せな一日を羽海は過ごした。


☆お仕事終了
 撮影が終わると馴染みのスタッフに声をかけられた。
「セララくーん、皆でご飯行こー!」
 一瞬心が揺らぐも、
「ごっめ~ん!明日は学校早いんスよ~!」
 と両手を合わせるセララ。残念そうなスタッフはセララの表情を見て呟いた。
「最近、変わったよな」
 その言葉に一瞬キョトンとした表情を見せるセララ。
「変わった?オレが?」
「うん、何が……って言われると難しいんだけどさー」
 ヘラリと笑うスタッフの表情は付き合いが悪くなった……という意は感じず、率直な感想と受け取れた。
「そうかな……」
 一呼吸考えると、容易に要因が見つかった。
「ああ、でもそうかも」
 スタッフが興味津々でセララの言葉を待てば。
「だってオレ、恋しちゃってるから!内緒だよ!」
 屈託なく純粋な笑顔を輝かせるセララに、スタッフは驚きを隠せない。
 そしてそれが冗談ではないこともわかる。とてもとても幸せそうな笑み。
「おぉっ!そっか!恋する男も綺麗になるもんだなっ。内緒にする、が今度はご飯付き合えよー」
 そう言いって去るスタッフの背中を見送セララ。
(あ~あ、会いたくなっちゃったな)
 スマホを見るが、やはり羽海からの返事はない。
(……メールして返事が来たら、やっぱり行っちゃおうかな♪)
 ポジティブシンキングセララは今日も元気だった。


★夜の空気
 外はもう暗い。
 親がまだ当分帰ってこないのは、冷蔵庫に晩御飯の用意があることからわかっていた。
 晩御飯を食べ終え、冷凍庫を開けると衝撃的な事実を羽海は知った。
(……アイスがない)
 寒い時に暖かいお部屋で食べるアイスは格別なのだ。
(……買ってくる?今から?)
 家族の心配もあり、暗くなってから出掛けることはほぼない羽海。
 だが、今日のアイス欲は最大級。
(よし……行こう……)
 羽海は簡単に身支度を整え、コンビニへと向かうのだった。

 夜の街……だが、遅い時間ではないこともあり人は多い。
 家路を急ぐ者、飲食店に入って行く者。
 雑貨屋の前を通れば、長い銀髪を持つ美しいディアボロがアクセサリーを眺めていた。
 これが皆の日常なのだ、と羽海は思う。
 だが彼女にとっての今は、非日常。
(親が知ったら心配するだろうな……なんだか悪いことをしているみたい)
 しかし、それと同時に。
(でも少し……楽しい)
 そう思える自分に気がつく羽海。

 コンビニに到着すると同時に、スマホにメールが届いた。
「お仕事思ったより早く終わった!羽海ちゃんに会いたいなー」
 絵文字の記載は省略させていただきます。
 セララの顔が頭に浮かび。
(……アイスは甘いものに入るのかな)
 羽海はメールを送った。
「アイス、食べる?」
 ただ、それだけ。
 日持ちするし、自分も食べられるし、と返事を気にせずレジに行こうとしたその瞬間。
「食べる!食べたい!今から行くよ~!!!」
 速攻のメールの返事に、セララの笑顔が容易に想像できる。

 羽海はアイスを二つ購入し、家へと急ぐのだった。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 上澤そら
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月21日
出発日 02月28日 00:00
予定納品日 03月10日

参加者

会議室

  • [7]和泉 羽海

    2015/02/25-22:53 

    はろはろ~
    セララ君と可愛い羽海ちゃんだよー皆よろしくね!

    僕もバイトだけど、街中うろつけたらいいなぁと思ってるよ
    羽海ちゃんはどうするのかなぁ・・・?

  • こんばんは!
    みんな、よろしくね♪

    私はバイト先の武器屋にいる予定。
    ジャスティは、どこかに買い物に行くって聞いているわ。

  • [5]クロス

    2015/02/24-20:32 

    クロス:
    クラリス、佳代、リーリア達は久しぶりだな!
    和泉さん達は初めまして(微笑)

    俺は久々に家族の墓参りに行こうと思ってるんだ
    最近忙しくて行けてなかったから…
    その前に花屋とお供え物買いに行くけど、道中会ったら宜しくな♪
    オルクは稽古してから師匠の墓参りに行くとか言ってたな

  • [4]クロス

    2015/02/24-20:14 

  • [3]クラリス

    2015/02/24-18:48 

    はぁーい、あたしはクラリスよ
    相棒はソルティ。よろしくね!

    クロスちゃん、佳代ちゃん、また会えて嬉しいわ!
    リーリアちゃんはブローチのお店以来かしら…お久しぶり!
    羽海ちゃんも初めまして。よろしくねっ

    うーん…まるっと1日任務も仕事もなーんにも無いのよねぇ…
    ソルティは買い出しに行ったみたいだし、
    あたしは散歩にでも行こうかしら
    あ、もし散歩中に皆を見かけたら声かけちゃうかもしれないわ!

  • [2]クラリス

    2015/02/24-18:46 

  • [1]名生 佳代

    2015/02/24-12:08 

    おほほ、EXエピソード一番乗りですわ。
    わたくし、名生佳代と申しますわ。
    連れは花木宏介ですわ。
    …げふん、ってな訳で、クロス姐さん、クラリス姐さんはまた会ったね!
    バレンタインデーはどうもありがとう!
    リーリア姐さん、羽海姐さんははじめましてじゃん!よろしくだしぃ!

    宏介が風邪ひいたしぃ!
    チョーウケるんだけど。
    あっ、ガッコー終わったら薬買ってやんないとねぇ。
    (神人はタブロス市内をウロウロしている予定です)


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