その指輪の意味を翼人は知らない(あき缶 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●きらきらひかる
 ハーピーというモンスターが居る。
 手は羽、足は鋭い爪が光る、半人半鳥の女だ。
 ハーピーはキラキラと光るものに執着し、ときおり人が所有する貴金属を強奪することがある。

 さて、タブロス郊外の山間の町。崖に面した町は、のどかでこじんまりとしたその町の真ん中で、泣いて泣いて訴えている妙齢の女性がいる。
「誰か! 誰か助けてください! 誰か!」
 彼女の名前は、ミレーユ。この町いちばんの金持ちの娘である。
 昨日、隣町の富豪、クリストフに求婚され、幸せのまっただ中にいるはずの娘だ。
 だが、ミレーユは顔面蒼白にして、泣き叫ぶ。
「ハーピーが! ハーピーが私の婚約指輪を!」
 立派なダイヤがはまっていたエンゲージリングを、散歩の途中でハーピーに強奪されたのだという。
 確かに指輪を失ったとなれば、クリストフとて良い気分ではないだろうが、許してくれるのではなかろうか。
 指輪は高価だが、同じようなものを作らせてごまかすこともできるだろう。ミレーユの家であれば、それくらいの金は出せるはずだ。
 しかしミレーユは首を横にふる。
「あの人がくれた、あの指輪じゃなきゃ意味がないの! 代わりなんてないの! 裏側にあの人と私の名前が彫られた特注品なの……!!」
 しかし、ハーピーは強い。生半可な人間では命と引き替えになる。
「お願い! 取り返してくれた人には十分なお礼をするからっ!!」
 泣きじゃくるミレーユは、必死に往来の人々に訴えた。

 ハーピーは町に面した崖の上に住んでいる。
 そのあたりは、オーガが住まうという噂がある地域だ。
 ただしA.R.O.A.の調査によれば、オーガの噂に信憑性は皆無とのことだが、念には念を入れたほうがいいだろう。
 一般人が立ち入る前に、ミレーユの願いをウィンクルムが叶えてしまえばいい。
 ハーピーは、崖の頂上の花畑に巣を作って、巣の中に集めた貴金属を貯めているようだ。
 彼女はそれはそれは美しい歌を歌うが、気を抜くと、歌に魅了されて彼女の虜となってしまう危険な歌だ。
 それに足の蹴爪は脅威である。さすがモンスターという威力を誇るので、細心の注意が必要だろう。
 しかしハーピーの知能は子供レベルだし、とても忘れっぽい。ハーピーの注意を逸らし、こっそりミレーユの婚約指輪だけを巣から抜き取れば、うまく行けば戦わなくても済むかもしれない。

 ウィンクルムも装備に御洒落に、何かと入用だ。
 オーガの心配はほぼないとはいえ、大金が手に入る機会は、やはり見逃せない……??

解説

●成功条件:ミレーユの婚約指輪をゲットする

●ハーピー 1体
 崖の頂に広がるお花畑に、わらで編んだ籠のような巣をつくっています。
 巣の大きさは大人の女性が一人座れるくらいで、中にキラキラ光るものが雑多に貯められています。
 なお崖は、町の反対側が急な坂になっていますので、歩いて登ることが出来ます。

 ハーピーの歌は、抵抗判定に失敗すると、ハーピーに有利になるような行動をとってしまう魅了の効果を与えます。
 効果は1分(4R)です。

●ミレーユの婚約指輪
 プラチナを繊細に彫刻し、大きなダイヤをはめ込んだ、見るからに高そうなキラキラした指輪。
 裏側にミレーユとクリストフの名前が彫られています。

●オーガ?
 崖にはオーガが住んでいるという噂はありますが、オーガは出ません。

ゲームマスターより

お世話になります。あき缶でございます。
ハーピーは強敵です。今は逃げるが勝ちかもしれません。
指輪さえ取り返せば成功ですので、決して無理はしないように!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)

  婚約指輪…
大切な物ですもの、必ず取り返してあげないとです!

私達はハーピー誘導係です。
安物の装飾品を数点囮として袋入りで持参します。
どこでも光を反射させて気を引けるように
手鏡を袋に入れて持ち歩き、必要な時だけ出します。

巣から見えて、往来の少ない場所を探しておきます。
紐を通して木の枝に結び付けておくなど、
取り難くなるように工作をして鏡で誘います。
こっちに気づいたら鏡をしまって隠れます。
ハーピーが巣を離れて5分程度を作戦時間にします。

万一戦闘になりそうなら気をそらすことを優先します。
持ってきた指輪を放ったりして気をそらして、
どうにかこっちのことは忘れてもらうようにします。

作戦後は皆と婚約指輪の確認。



夢路 希望(スノー・ラビット)
  目的:
婚約指輪の奪還

所持品:
光り物(おはじき・玩具のアクセサリー)、時計、袋
、手鏡、地図

準備:
作戦の流れを確認
解釈に間違いがあれば修正する
周辺の地図が手に入れば
誘導ルートや合流地点と時機等について皆と相談(難しければ道中で)

注意:
光り物を身に着けていかない

行動:回収班
敵と巣を目視できる位置で待機
敵が巣から離れれば作戦開始
時計で時間を計りつつ
指輪の状の物を優先的に袋へ回収、持参した光り物とすり替える

回収中か後に敵が戻ってきた際に備え
事前に巣から離れた場所にも光り物を置いておき
時間稼ぎを狙う

実際に見つかった場合は速やかに撤退
光り物をばら撒いたり
手鏡を使用し光り物に日を反射させて目立たせ
足止めを狙う


古浄 ミヨリ(イオ=ハンス)
  大事な人から貰った婚約指輪!
代わりなんて無いたった一つのものだよね
しっかり取り戻してあげなきゃ!

▼目的
ミレーヌちゃんの婚約指輪の奪還

▼用意
硝子やビーズなど、安価でキラキラしてるもの(以下『道具』)

▼行動:回収班
ハーピー(以下『敵』)と巣が確認できる位置に潜伏
敵が巣を離れた瞬間を狙い、貴金属回収に向かう
回収にかける時間は5分を目安に
確認は後回し、『指輪状のもの』を優先的に、可能な限り回収
持参した道具とすり替えておく

敵に勘付かれた場合、速やかに撤退
道具をばら撒いて気を惹ければ、時間稼ぎにもなるかな

▼事後
貴金属はできるだけ持ち主さんに返したいな
AROAや役所とかに似たような依頼は入ってきてないかな?



●のどかな花畑までの道すがら
 山間の町の後ろにそびえる切り立った崖。崖の反対側は急な坂のようになっていて、険しい小山といってもいいような地形である。
 林が生えそろった坂を登る三組のウィンクルム。
 町の令嬢ミレーユの涙ながらの訴えに応じて、彼女の大事な婚約指輪をハーピーから奪還しにやってきたのだ。
 ハーピーは半人半鳥の女モンスターである。野犬などの野生動物よりも強いはずだ。
 いかなオーガと戦うウィンクルムであっても、まだ未熟な彼女達ではまともにハーピーとやりあうと生命すら危ない。
 だがしかし、ウィンクルムは考える葦である。
 一計を案じ、ハーピーと戦わずしてミレーユの指輪を取り返すつもりなのだ。
「えぇっと……こ、今回の作戦について、か、確認させて、ください」
 おどおどと夢路 希望は他の面々に声をかけた。まだ初対面に近い仲間と視線があわせられない希望は、常に伏し目がちだ。それにどことなく固い表情である。まだまだ戦闘には慣れていない希望は、緊張しきりのようすだ。
 それを感じ取り、希望のすぐ後ろを歩いていた精霊スノー・ラビットは、希望の顔を覗きこんだ。
「っ」
 あわあわと頬を染めて、視線をそらす希望。視線を合わせる行為は、たとえ契約した精霊相手でもまだ苦手なのだ。
 しかし目の端で捉えるスノーの表情はやわらかな笑顔。
 彼女の緊張をほぐそうと、励まそうと、そんな優しい気持ちが伝わるような……。
 ますます頬を赤くしながらも、少しだけ緊張がとけた希望は、ふうと小さく息を吐いて体を緩める。
 そんなちょっと挙動不審気味の希望に、快活そのものの少女は笑顔で朗らかに答えた。
「作戦ね! ニーナちゃんがハーピーの誘い出し、ハーピーが巣から出てる間に私と希望ちゃんとスノーちゃんで指輪を回収! って感じかな!」
 古浄 ミヨリの元気な解説に押されるように希望は頷く。
「誘導係はお任せください! でもあまり長い間は無理かもしれませんので、早めに……」
 回収版に安心してもらおうと、ニーナ・ルアルディは笑顔で大きく頷いてみせたものの、やはりあのハーピーを誘い出すのは危険な仕事だ。不安を隠し切れない様子である。
「ハッ、ま、なんとかなんだろ」
 ニーナの精霊グレン・カーヴェルは、腕を組んでニヤと笑った。
 どこまでも強気な男である。
「回収班の護衛にウチのイオちゃんをつけるよ! だから安心して、ね? 希望ちゃん!」
 ミヨリは自分の精霊であるイオ=ハンスに振り返り、ニッと笑ってウインクを送った。
 ハーピーはオーガではないので、今回トランス状態になる必要はないだろう。ここは、オーガが出るかもしれないという噂が流れる地域だが、調査結果によればそれは根拠の無い嘘であることも確定している。
 何事にも動じない山のような佇まいのイオは、当然と言わんばかりに表情を変えずに頷き返す。
「神人様には指一本触れさせますまい。安心してください夢路様」
 真面目一徹なイオは、すでにマジックスタッフを握り、いついかなる時でも戦闘行動にスムーズに移行できるように構えたまま進んでいる。
「頼もしいね」
 とスノーが素直に喜ぶ一方、グレンは珍獣を見るかのような目つきでイオを眺め回して、笑った。
「ハン、クソ真面目なこって」
「グレン!」
 グレンが小さく呟くのを聞きつけ、ニーナが息だけで叱る。だがニーナの叱責などどこ吹く風。グレンは口笛吹き吹き歩いて行く。
「ああもう……!」
 契約当初は口も聞いてくれないどころか、目も合わせてくれなかったのだから、だいぶ進歩ではあるのだが……。ニーナはハーピーに出会う前から疲労を覚えてしまっていた。

●お花畑を遥かに見る
「さっそく居たぜ。目立つ場所に巣作りしてくれてありがてえこったな」
 神人を気遣うことなく、サクサク先頭を進んでいたグレンは、崖の頂、素晴らしき眺望が広がる一面の花畑の美しさ――ではなく、ひらけた花畑の真ん中に藁の巣を作り、こちらに背を向けているハーピーを見て、にやりと口端を上げた。
 だが戦闘馬鹿と言っても過言ではないグレンも、単身ハーピーに斬りかかるほどは、流石に無謀ではなかった。
 花畑の手前、林の樹の陰に隠れ、仲間を待つ。
「グレン! 先々行かないで……」
 文句を言おうとしたニーナを手で制し、グレンはハーピーを親指で示す。
 大声を上げれば気づかれ、襲われてしまうだろう。むぐぐと自分の口を手で押さえ、ニーナは他のウィンクルムらに注意を促す。
「わー、あれがハーピーかぁ。初めて見るよ。今は背中向けてくれてるし、気づかれてなさそうだね。よかった!」
 ミヨリは、できるだけ声量を抑えて、しかし嬉しそうに言った。
 コソコソと林の陰にしゃがんで集まり、少女達は婚約指輪奪還作戦の準備を整える。
「それでは私達は、一旦離れますね。ハーピーを反対側に誘導してみます」
 ニーナがそう言って、会釈をすると林の反対側の岩場にそっとしゃがみながら移動した。
 その後をズカズカ普通に歩いて続くグレン。
「グーレーンーッ。気づかれたらどーするんですかぁ!」
「お前のうるせー声のほうが気づかれるぜ。なぁにバレたらたたっ斬るだけだ」
「無茶しないでくださいっ」
 泣きたくなり、疲労感を通り越して頭痛すら感じながら、ニーナは岩場に身を潜めた。
 様子をうかがい、ハーピーがまだこちらに気づいていないことを確認したニーナは、ほっと胸を撫で下ろす。
 そして、大きな岩のあちこちに安物の装飾品を設置しだした。
 全部は使わない。少し残しておいて、万が一の時のために使うのだ。
 もう一度岩場に身を潜めたニーナは、息を整え、集中しようとしながら、後ろに座っている精霊に話しかけた。
「グレン、ハーピーに気づかれるといけないので、指輪はちゃんと袋にしまっておいてくださいね? 失敗するわけにはいかないんです、だって目標は婚約指輪ですよ、女の子の夢ですよ!」
「ふーん。お前もそんなんに憧れるのかよ」
「えっ? 勿論ですよ。私もいつか……」
 と夢見る乙女の顔になりかけたニーナは、ふとグレンを見て愕然とする。
「なんで袋から指輪出してるんですか?」
 しかも、しまっておけといった矢先に!
 グレンは、玩具の指輪を太陽にすかして眺め、そしておもむろにニーナの左腕を掴んだ。
「ひえっ?」
 驚いている間に、グレンはつまんでいた指輪をニーナの左手薬指にはめようとし始める。
 ようやく状況を飲み込んだニーナは、必死で抵抗を始めた。
「やめてくださいっ、やめ、左手の薬指だけはまだ駄目ですー!」
「なんでだよ、減るもんじゃないだろ」
 本気で不思議そうなグレンを、懸命に押し戻しながらニーナは懸命に言い返す。
「減ります! 減りますー!」
「何が?」
「何かは分かりませんけど何かがっ!」
 ……ぜえはあ。
「つ、つかれました……」
 あうーと脱力して、息を荒げながらニーナは岩に取りすがった。
(ああいうの、からかう為にやってるっていうのは、十分に分かってはいるんですけど、流石にあれはどきどきしちゃいますよ……)
 何を考えているんだ、と考えかけて、ニーナは諦念めいた悟りに行き着く。
(面白いから、なんでしょうねっ。どうせ……どうせ……)
 はぁ~っとながーい溜息の後、ニーナは気を取り直して、手鏡を取り出した。仲間が待っているのだ、いつまでもおふざけに付き合っている暇はない。
 慎重に太陽の位置を確認し、ニーナは鏡に光を反射させ、地面にひときわ光る円を作り出す。
「釣れますように……」
 祈りながら、光をハーピーに近づけては離す。猫をじゃらしているような気分だ。
「?」
 ようやくハーピーは、不思議な光に気づいた。
「♪~?」
 光をもっと近くで見ようと身をかがめる。すると、光はすいっと逃げてしまう。
「~ッ」
 むっとしたハーピーは光を追いかけ始めた。じりじり、じりじり。諦められない程度の速さで逃げていく光。
 とうとうハーピーは光に夢中になり、巣から出ると、花や草に移っていく光に釘付けになってしまった。
 どんどんハーピーは巣から離れていく――。

●女の子のだいすきなもの
「やった! さすがニーナちゃんっ」
 ハーピーが巣から離れていくを見たミヨリがグッと拳を握る。
 おてんばな仕草に、イオはちょっとがっかりしたかのように眉をわずかに動かした。
 イオが長年信じてきた『神人とは誇り高く淑やかで強き人』という人物像が、己の神人といると崩れていく一方である。もちろん強き人――というところは揺るぎないと思うが。
「大事な人から貰った婚約指輪! ちゃーんと取り返してあげなきゃね!」
 気合を入れて、ミヨリが林から飛び出す。
 ニーナがハーピーの注意を引けるのは、長くて五分強くらいだろう。その五分を使って、ミレーユの指輪を探さなくてはならない。時間が惜しい。
「ま、まって……!」
 慌てて希望とスノーもミヨリを追う。
 希望の腕に巻いた時計は刻一刻と時間を切り刻んでいる。
 三人は巣の中を見て、思わず目を閉じた。
 きらきらを通り越してギラギラと光るぎっしりと詰まった光物。
 ガラスの破片から高そうな宝玉まで玉石混交とはこのことだ。
 ゴミで怪我をしないように注意しながら、三人は指輪らしきものを次々に袋へ詰めていっては、玩具や銀紙などを巣に押し込む。
 三人がかりの作業は、なかなか捗った。どんどん袋が重くなっていく。すり替える方は玩具や銀紙だったので、本物の宝石のほうが断然重いのだ。
「ピィーヨ!!」
「ひゃあっ!」
 突然の声に希望が肩をびくつかせる。
 ハーピーが、ニーナによって岩に押し込まれた玩具の指輪を取ろうと四苦八苦しているのだ。
 手が翼なので、うまく取れないらしく、癇癪を起こしている。
「ちょっと危ないね、一旦戻ろう」
 ミヨリは真剣な表情で、ハーピーを注視している。まだこちらに気付いていないようだが、もし気づかれれば、イオがいるとはいえ、かなり危ない仕事に急変してしまうのだ。
「でも、この中にミレーユさんの指輪がなかったら……?」
 不安そうに袋を見つめる希望に、ミヨリは明るい笑顔を向けた。
「大丈夫。失敗しても、何度でも、挑戦すればいいんだから。無理するほうがダメだよ」
「そうだね、行こう」
 スノーも希望の肩を優しく叩いて、撤退を促す。
 三人は、なるべく静かに林の定位置へと戻った。
 ずっと構えていたイオが、安堵の表情を浮かべる。
「ご無事で何より」
「よし、中身を確認しよう。この中にミレーユさんの指輪があればいいんだけど……」
 ざらざらと袋を開け、三人は中身を検分し始める。
 その間もイオは油断なく周囲を見張っている。
 自分から離れたニーナも、神人は神人。ミヨリの次ではあるが守るべき存在には違いない。
 岩場のほうにもイオは注意を払っていた。ニーナの精霊はどうも神人を守ろうという気概に欠けているので心配なのだ。
「わー、やっぱ綺麗だねー。宝石とか貴金属は女性の夢だよね~。私も小さいころ、お母さんの宝石箱とか憧れたもん」
 と場をほぐす発言を重ねつつも、ミヨリは注意深く戦利品を観察する。高そうなものは一緒に貰って帰るつもりだ。こんなに光物を貯めこんでいるならば、ミレーユ以外にもハーピーに襲われ、泣き寝入りしている女性が居るはずなのだから。
 スノーは微笑み、言った。
「そうだね、それに大切な人に貰った物は、何物にも代えがたいよね」
「うん。代わりなんて無いたった一つのものだよね。スノーちゃん分かってるー。イオちゃんは婚約指輪の重要性ってわかる?」
 いきなり話しかけられ、イオは困惑した挙句、
「申し訳ございません。婚姻関係を証明するためのもの、としか……」
 と生真面目に答えた。
「んー、男の人にはわからないのかなぁ……。でもスノーちゃんはわかってるし……」
 気質の違いかな、とミヨリはひとりごちた。
 そんなとき、ずっと黙って作業をしていた希望が、アッと小さく声をあげた。
「あった……!」
 きらりとかざすのは、まさしくミレーユが泣き叫んで求めた婚約指輪であった。大きくて立派な、透明度の高いダイヤが見事なカットを施されて輝いている。
 幸い、無傷のようである。
「やったぁ! ならもうここにいる必要はないね! 撤退っ!」
 バッと立ち上がったミヨリ。
 だが、その瞬間、岩場の方で悲鳴が上がった。
 ニーナだ。

●戦略的撤退なのです
 岩からどうにか玩具の指輪を引っ張りだそうとしていたハーピーは、悪戦苦闘の最中にふと岩の陰に潜んでいたニーナに気づいてしまったのだ。
 しかもキラキラした手鏡を握っている。
 岩に挟まって取れない指輪より、奪いやすそうな手鏡のほうが断然ほしい! とハーピーはすぐさま標的をニーナに変えて、飛びかかったのである。
「いやあああっ」
 間近に見るハーピーの迫力に、穏やかな人生を送ってきたニーナはパニックに陥ってしまった。
「おい、落ち着けバカ!」
 キャアキャアと悲鳴を上げて手足をばたつかせるニーナを羽交い締めのようにして、グレンがハーピーから引き離そうとする。
「イオちゃん!」
 ミヨリが焦って叫び、イオも心得たとばかりにスタッフから魔法の力を飛ばす。
「!」
 ハーピーは不意に攻撃されたことに、むっとしたのか反対側のウィンクルムに向き直った。
 その隙にグレンはニーナを引きずるように安全圏へ移す。
「ったく世話かけさせやがって!」
 舌打ちして、グレンが剣を抜く。そしてニーナを背に庇うように彼は立ち、ハーピーに刃を向けたまま、じりじりと下がり始めた。
 戦闘好きのグレンとしてはそのままハーピーと喧嘩としけこみたいが、勝ち目のない喧嘩をして、痛くて情けない思いをするのも本意ではない。
 怒りの顔を歪めたハーピーが息を吸い込む。
 魅惑の歌を歌おうとしているのだ。歌への抵抗力が他の者より低いスノーが、青ざめる。
 それを見て、希望は、なんとかせねばと焦った。
「あうぅ……、せっかく指輪を取り戻したんです……。絶対に皆で逃げます」
 とっさに希望は、おもむろに地面に山と積まれていた戦利品をすくって、ハーピーがいる道の上へとおもいっきりばら撒く。
 バラバラバラ……。
 キラキラキラ……。
 太陽に反射し、道に散らばった光物がまるで銀河のようだ。
「!」
 ハーピーが光物の洪水に目を奪われる。
「今です……っ、ユキ!」
 ただただ必死だった。
 希望はスノーの手を掴んで、転げ落ちるように急な崖を走り降りていく。
「私達も行こう!」
 ミヨリもダメ押しとばかりに、用意していた玩具の残りをぶちまけて、坂を走りだす。
 ハーピーが宝石を一生懸命かき集めようとしているのを見て、グレンは息を吐いた。
「トリアタマで助かったぜ」
 まだぼうっとしているニーナを抱えるように、ミヨリに続くグレン。
「しんがりはお任せください」
 と、進んでイオが最後尾を務める。
 ともかく急いでその場を抜けだしたウィンクルム達は、坂を下りきった所でようやく足を止め、破れそうな心臓と肺が痛いくらいの呼吸を静めるべく、その場にへたり込んだ。
 ハーピーが追いかけてくる様子はない。
 撒かれた光物を収集するのに手一杯なのか、もうウィンクルムのことなど忘れてしまったか。
 どちらにせよ、危機は去った。
 一同は、ようやく安堵し、落ち着きを取り戻す。
「あぁ……っ」
 ようやく希望は、スノーの手を握って走っていたことに気づいて、真っ赤になって離れた。
 スノーは、にこにこと穏やかに優しく微笑んで、
「助けてくれたんだね。ありがとう」
 とトマトのように赤くなって俯き、湯気をあげている神人を嬉しそうに見つめた。
「グレン……」
 救ってくれたのだ、とニーナが感動しかけていると、
「ぼやぼやして、目の前でぶっ殺されたら夢見がわりーからな。ったく世話かけるな」
 グレンは眉を釣り上げニーナを突き放す。
(うぅ、酷いです……。でも照れ隠しですよね、うん、そういうことにしときましょう)
 ニーナは前向きに考えることにした。
 なんだかんだでグレンは口は悪いが、やることはきちんとやる精霊なのだ。芯はきっと優しいのだろう。優しさの表現の仕方がちょっと怖いだけだ。
「ふぅ、なんとかやり遂げたね。じゃ、ミレーユさんに指輪を渡しに行こう。きっと喜んでくれるはず!」
 ミヨリは、ミレーユのエンゲージリングを日にかざし、キラキラと美しい光の反射を浴びて、嬉しげに笑う。
 その様子を、イオが眩しげに見つめていた。



依頼結果:成功
MVP
名前:ニーナ・ルアルディ
呼び名:ニーナ
  名前:グレン・カーヴェル
呼び名:グレン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター あき缶
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 冒険
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 多い
リリース日 03月10日
出発日 03月20日 00:00
予定納品日 03月30日

参加者

会議室

  • [15]古浄 ミヨリ

    2014/03/19-23:28 

    アクションプラン、こんな感じで大丈夫かな?
    なんか取りこぼしとか食い違いがあったらご指摘お願いしますっ

    =====
    ▼用意
    硝子やビーズなど、安価でキラキラしてるもの(以下『道具』)

    ▼行動:回収班
    ハーピー(以下『敵』)と巣が確認できる位置に潜伏
    敵が巣を離れた瞬間を狙い、貴金属回収に向かう
    回収にかける時間は5分を目安に
    確認は後回し、『指輪状のもの』を優先的に、可能な限り回収
    持参した道具とすり替えておく

    敵に勘付かれた場合、速やかに撤退
    道具をばら撒いて気を惹ければ、時間稼ぎにもなるかな

  • [14]ニーナ・ルアルディ

    2014/03/19-22:29 

    ハーピーがこちらの光に気がついて最初に巣を飛び立ってから
    一応5分程度を作戦時間とさせてもらいますね。
    戦闘にはならないように気をつけますけど、そうなったら…
    …うん、光物でも投げて私達のことは忘れてくれることを祈りましょう!

    地図があればすごく助かるんですけど…
    なければないで自分の足で誘導場所は探そうと思います(ぐっ)
    あと、皆さんくれぐれも光物を身につけていかないように気をつけてくださいねー!

  • [13]夢路 希望

    2014/03/19-20:10 

    …では…私とユキも、回収に専念、します。
    人数が多ければ、その分、少しでも早く済む…かと。
    …すみませんが、誘導の方、宜しくお願いします。
    けして、ご無理はなさらないで下さいね。

    合図は…場所の都合上、携帯電話等の通信機器は、あまり頼りにならなそうですし…
    古浄さんの仰るように、時間で、やってみましょうか。

    誘導ルートや隠れ場所、合流地点を決める上でも、
    もし、周辺の地形に詳しい地図などが手に入れば、便利なんですけど…。
    難しければ、道中で話し合うしか、ない…ですね。

  • [12]古浄 ミヨリ

    2014/03/19-19:14 

    じゃあ、誘導はニーナちゃんたちにお任せするね。無理はしないでね!
    誘導の流れはそんな感じでいいと思うな。
    止めるタイミング……うーん、合図を出そうにも、
    隠れて離れるように誘導してる以上、お互いの状況を確認できない可能性があるよね。
    回収自体にはそんなに時間はかからないと思うから、
    ハーピーが巣を離れて3分とか5分とか、時間で決めちゃってもいいかも?

    私はアクセサリの回収に専念して、イオちゃんはその間、巣の付近で
    ハーピーの動向を警戒しててもらおうと思ってるよ。
    戦闘になったら合流して一緒に足止めするように、ウィッシュプラン書いておくね。

  • [11]ニーナ・ルアルディ

    2014/03/19-10:55 

    それだったら私とグレンが誘導に回りますね。
    一応鏡を持っていって、不定期に日に当てて反射させておきます。
    あまり同じ場所に長居すると見つかりそうなので、
    鏡を反射→光物を置いて移動→鏡を反射→移動(以下略)という感じになるかと。
    光物を置いていくときは、ちょっと取りにくくすると時間稼げるかも?

    えっと…流石に町の中に誘導するわけにもいかないので、
    どこか巣の近くで身を隠しやすい森とか、町外れの人のいない場所を探さないとですね。
    誘導をやめるタイミングはどうしましょう?

  • [10]夢路 希望

    2014/03/19-08:00 

    プランは今日中に提出、でしたね。
    …いけない、急いで纏めないと(あわあわ)


    抵抗判定…初めは、私もその解釈でいたんですが…どうなんでしょう。
    …抵抗力、だとしたら…ユキが、心配です…(確認した中で一番値が低かったので)

    えっと…もし、分けるとしたら、
    誘導班(ハーピーの監視、必要なら足止め)
    回収班(指輪状の物を優先的に)
    みたいな感じです…?
    …でも、どう分かれましょう…。
    身体能力的には、素早く動ける方の方が、注意を逸らす手立ては打ちやすい…のでしょうか。

    あ。安全面も考えると、道具の設置案は、いいと思います。
    …設置のタイミングが、悩み所ですね。

  • [9]古浄 ミヨリ

    2014/03/18-23:11 

    ニーナちゃんはじめまして!よろしくねっ。

    食事だとか貴金属収集だとか、巣を離れる機会は待てればあると思うんだけど、
    それが果たしてどれぐらいの時間なのかはわからないんだよねぇ。
    一応ハーピーに張り付いて監視、必要なら足止めって係は必要かもね。
    歌の抵抗判定に使われるのは、やっぱ抵抗値なのかなぁ。

    巣から離れたところに道具を設置しておいて、
    更に離れたところから鏡を使って日光を当ててキラキラさせて~って感じだと
    わりと安全に誘導できるかな?
    遠ざかるように点々と散らばせといたら距離も取れるかも。

  • [8]夢路 希望

    2014/03/17-21:48 

    (連投失礼します)


    注意を引けるような道具として考えていたのは、
    硝子やビーズの他に、
    おもちゃのアクセサリー、アルミホイル、手鏡、です。
    おもちゃのは、
    貴金属類を貯め込んでいるようなので、形がそれっぽい物もあった方が、いいかな…とか。
    アルミホイルは、丸めて投げたらどうかな…とか。
    手鏡は、日の光を反射させて、どうにか使えないかな…と、か。

    ハーピーが巣から離れそうにない場合は、
    ルアルディさんが仰るように、光り物を使って誘導、でしょうか。
    …離れる頻度や、戻って来るまでの時間は、
    現状、予測できないんですよね。
    …場合によっては、
    ハーピーの気を逸らす人、その隙に回収する人、と
    役割を決めた方がいいでしょうか…?

  • [7]夢路 希望

    2014/03/17-21:46 

    …わ、わ。
    ルアルディさんは、初めまして。
    仲間が増えるのは心強いです。どうぞ、宜しくお願いします。


    はい。指輪状のものを優先的に、ですね。
    …説明で「こっそりミレーユの婚約指輪だけを巣から抜き取れば」と、仰られていたので。
    必要以上の持ち帰りは、厳しいかもしれません、が…
    何とか、減らした分は代理品を混ぜて、誤魔化せたらいいのですが。
    …ばら撒く、なら。
    いくつか光り物は持って行くつもりなので、使えれば。
    それだけで足りなければ、目的外の回収品も、使いましょう。
    …その品の持ち主さんには、申し訳ないです、けど。

  • [6]ニーナ・ルアルディ

    2014/03/17-11:03 

    ちょっと遅れましたが3番目ニーナ・ルアルディですっ
    よろしくお願いしますね。

    ハーピーが巣を離れる頻度とか長さってどのくらいでしょう?
    あまりにも巣を離れない場合は安い光物を持って、
    少し離れた場所で日に当てたら誘き寄せられるでしょうか。

  • [5]古浄 ミヨリ

    2014/03/16-21:56 

    回収に関しては、『指輪状のものを優先的に』って添えれば大丈夫そうかな?
    『出来るだけ多く回収したい』ってのには、
    もちろん持ち主さんに返したいって気持ちがあるんだけど、
    もし見つかって撤退ってことになったとき、
    回収したアクセサリを使って……まあ言っちゃえばばら撒いて、
    少しでも足止めできないかなぁって思ったんだよね。

    それか、用意できそうだったら、
    硝子やビーズとか、安価でキラキラしてるものを持ってって
    巣のアクセサリと摩り替えたり、上記のばら撒きに使えないかなーって思ったよ。

  • [4]夢路 希望

    2014/03/16-07:56 

    は、はい…!
    きっと、無事に帰って…依頼人さんへ、指輪を届けられるように。
    頑張り、ましょう。(こくり、頷いて)


    回収の流れは、それで、いいと思います。

    …そう、ですね…巣の中に、どれだけ貯め込んでいるかは、分かりませんが…
    あまりに変化があれば「巣が荒らされてる!」って、怒らせてしまう…かも…?
    でも、確かに、ハーピーがいつ戻ってくるのか分からない状態で、
    目的の指輪を探すのは、危険ですよね。
    …あまり多くは、難しいかもしれませんが…
    回収するのを特定の条件に当てはまる物だけに絞るのは…どう、でしょう…?
    …ただ、結局選別に時間が掛かってしまうので…
    危険なのは、あまり変わらないかもしれません…?(肩を窄めつつ)

  • [3]古浄 ミヨリ

    2014/03/16-01:23 

    希望ちゃんユキちゃん、はじめまして!
    私たちだけになっちゃうかもって、ちょっと不安だったんだ。
    一緒にがんばろうね!

    ハーピーとは戦わない方がいいってお達しが出てるし、
    ハーピーが巣を離れた時を狙って回収って流れかな?
    危険なところにあまり留まってたくないし、ひとまず可能な限り回収して撤退してから、
    安全なところで件の指輪を探すって感じがいいかなって思ったんだけど、
    回収しすぎても巣の異変に勘付かれて厄介なのかなぁ。

  • [2]夢路 希望

    2014/03/15-06:26 

    えっと、2番、です?(古浄さんに倣って、ぽそぽそと呟きつつ)
    …は、初めまして。夢路希望と申します。
    パートナーは、テンペストダンサーのユキ、です。
    …その、こういった依頼は、初めてで。
    えっと、あの、宜しくお願いします。

  • [1]古浄 ミヨリ

    2014/03/13-15:11 

    1ばーん。
    古浄・ミヨリと、エンドウィザードのイオちゃんでっす。
    よろしくお願いします!


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