プロローグ
滝が飛沫を上げ、湖の周りを白く煙らせる。
それぞれ気合の滝と誓いの湖という名前がついている。
かつて数多くの武闘家や修行者が、気合の滝に打たれていたという。
それが由来なのか、冷えきった冬の日に誓いの湖で水浴びをすると願望成就のご利益があるとか、決意や信念を後押ししてくれるなどと、地元住民の間では伝承になっている。
そう! パワースポットである!
村興しも兼ねて、気合の滝が流れこむ誓いの湖で寒中水泳大会が開かれることとなった!
参加者に渡されるのは、真紅のハチマキ。
案内をする係員と医療班と、そして寒中水泳大会のマスコットキャラでもあり優秀な救護チームでもあるアシカ一同が参加者を見守っている。
まさに万全を期した安全対策。
寒中水泳大会のスタッフは、アシカも含めて白いハチマキをしている。
湖からあがった参加者にはバスタオルが渡され、バチバチと燃え上がる焚き火のそばへと誘導される流れだ。地元の主婦が作ったホカホカの豚汁が見学者も含めて無料で振る舞われる。食事をする気分でなければ、食べないという選択をするのも自由であろう。
ウィンクルムとして打倒オーガへの戦意を抱いて泳ぐのか。
パートナーへの愛を胸に燃やしながら泳ぐのか?
自分の信じる道に導かれて泳ぐのか!?
業火のごとき熱意を持たぬ者に、この極寒の湖を泳ぐことなどできぬのだ!
誓いをたてたことはあるだろうか。
絶対諦めたくない目標はあるだろうか?
自分の信念を貫いたことはあるだろうか!?
凍てつく水の中でもけっして消えない、燃え上がる心の炎! そんな熱いハートを持った挑戦者を誓いと気合の寒中水泳大会は待っている。
解説
・必須費用
寒中水泳参加費:1人300jr
神人か精霊のどちらか、あるいは二人一緒に参加できます。
見物は無料ですが、二人とも見物のみは受け付けておりません。
・寒中水泳の判定
これは「キャラがどれだけ極寒の湖で泳ぐことができるか」の判定で、ハピネスでの「デートは成功したか」による親密度上昇値の判定とは無関係です。
ジャッジはダイス判定でおこなわれます。後述するプラス補正値が高いほど有利ですが、ダイスの出目という運要素も絡みます。
判定のダイスは、公正性に注意しながらGMが振ります。
寒中水泳に参加するキャラの抵抗力が高いほど、プラスの補正がかかります。
またデートコーディネートでアンダーウェアに水着を装備している場合も、プラスの補正がかかります。水着のみがボーナス対象で、下着は対象外なのでご注意ください。
デートコーディネートで水着が装備されてないキャラが寒中水泳をする場合、会場に用意されたシンプルな安物の水着が無料で着用できます。ただし水泳の判定に補正はかかりません。
ゲームマスターより
押忍! GMの山内ヤトだ!!
寒いのか熱いのかわかりゃしねえハピネスだ!
へへっ……。いったいどんな熱いプランがくるのか、楽しみで武者震いしちまうぜっ!
『翻訳』
山内ヤトです。
参加された皆さんのプランにもよりますが、GMはコメディかつ熱血な雰囲気のリザルトになることを想定しています。リザルトの文体や描写も通常の山内ヤトの文章に比べて、ヒートアップしたノリと勢いになる可能性が高いです。
あと、アシカは本来海だけに生息する生き物なのですが、まあ細かいことは気にせず大目に見てくださいね。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
☆心情 エミリオさん、競い合える相手がいてとても嬉しそう なんだか私も嬉しいな ☆水着を着て精霊を応援 エミリオさん、もしかして怒ってる? だってエミリオさんだけ寒い思いをするのは不公平だもの そりゃあ実際に泳ぐのと泳がないのとでは違うけど せめて水着だけでもって思ったの…迷惑だった?(精霊が怒っている理由に気づかず) エミリオさん行っちゃった(しゅん) ☆寒中水泳本番 エミリオさん、頑張れー!! ゴールしたらあったかスープが待ってるからねー!! (一般女性から注目を受けているエミリオを見て)あ、あれ?何だか心がモヤモヤするよ…どうしちゃったんだろう、私 ☆終了時 おかえりなさい、エミリオ・・っ!?(首筋にキスされ硬直) |
月野 輝(アルベルト)
なんか最近の私、色々抜けてる気がするから 気合い入れるのに参加してみようと思うの それに勢いを付ける為にも そんな呆れた顔しなくてもいいじゃない だってアルにだけ辛い事をやらせるって何か違う気がするんだもの それに一緒に泳ぎたいし…(ごにょごにょ 大丈夫、ちゃんとスキューバースーツ着てきたし! ……どうして更に複雑な顔になってるのよ、変なアル (スキューバースーツがアウトの場合は脱ぐ それにしても、知ってる顔多いわね しかも女子のみんなは泳がないの? あ、ハルちゃんは泳ぐのね、良かった、お互い頑張りましょうね! つっ、冷たいっ!! 想像以上に冷たい…けど、頑張るっ! これを乗り切れたらアルに聞いてみたい事があるんだもの! |
リゼット(アンリ)
世界平和って…欲にまみれてばっかりじゃない! 食べ物以外のことに興味はないわけ? (鉢巻きをアンリに巻いてやり さっさと行って身を清めてきなさい ついでにバカが治るかもしれないわよ 犬かき…ですって… いくらバカ犬だからってカッコ悪! ほんとどこまでも私の期待を裏切っていくわね って、別にあいつに何にも期待なんてしてないけど! もっとスピードの出る泳ぎ方で早く泳ぎ切った方が有利なんじゃないの? なんでもいいけどごちゃごちゃ言ってないで泳ぎに集中しなさいよ 早く帰ってこないと先に豚汁食べちゃうわよ! (カイロの入ったポーチを渡し まあ、がんばったんじゃない? 豚汁は確かに美味しいし平和といえば平和よね は?あげないわよバカ! |
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
ディエゴさんとの力量がだんだんとついてきて… 私は足手まといにならないでしょうか そんな不安を払拭するべく寒中水泳に参加します 私も精霊の人たちに負けないんだと、ディエゴさんに認めてもらえるようにハチマキしめて頑張ります。 …見てるだけで寒くなってくるロケーションです ちゃんと準備体操で体を温めておきますか 水泳は得意ですけど…参加者の皆さんも鍛えてる方ばかりですし 頑張れるでしょうか 神人といっても能力自身は精霊に敵わないのはわかってます、だけど… …わああああ!女子力なめんな!!(全力クロール) …私頑張りました、寒いです ディエゴさんの為に泳いだんですからね… さ、寒い! 参照スキル【スポーツスキル】 |
ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
勿論見学 極寒の中で水泳だなんて…呆れ顔 完全防寒、手には羊のカイロ ぽむっとされると何もいえず、うぅ …寒いから早く戻ってきなさいよ(上目使いに強がり アルヴィン、頑張って!(うーうー悩みつつ意を決し精霊の背中を勢いよくドーン:応援 あ、ごめんなさい…1回、水に浸かっちゃえば案外平気よね!? 気合よ、気合っ!!(ぞくっと何かを感じる 精霊用のタオルを握りしめ紋様に触れつつハラハラ見守り アルヴィンお疲れ様、だいじょ…ぶ!!?(一瞬どきっ はぅあっ!?首、冷たいっ!! 離れ…重っ、倒れるむりー(ばしばしばし精霊叩く アシカさん、助け… いやあぁ、アシカさんも冷たい!ぬるっとしてる!!焚火…たき火(ずるずるずる |
誓いと気合の寒中水泳。一般参加者であれば、九割から八割が途中で脱落する過酷なイベントだ。
参加したウィンクルムの中で最も好条件を備えている者でも、計算上この湖を泳ぎきれる確率は半分に満たない。
ウィンクルムたちの情熱は、極寒の湖の中でも消えずにいられるのか……!? 今こそ根性を出す時だ。
●うちに秘めたる闘志
「極寒の中で水泳だなんて……」
『ミオン・キャロル』がそう口にする。彼女は当然、見学側のつもりだ。赤いファー付きリボンハーフコートや、Vネックセーターワンピース、ゴージャスファー付きレザー手袋、他にも冬の装いで身を固めていた。カイロポーチ「ねむりひつじ」も欠かせない。
まさに完・全・防・寒!
そして、『アルヴィン・ブラッドロー』を見るミオンの顔に浮かぶ表情はまぎれもなく呆れ。
だが、いかに冷ややかな視線とて、アルヴィンの熱意を冷ますことなどはできはしない。
慢心していたつもりはない。それでも何度もヤックドロア・アスに敗北をきした。
アルヴィンは自分自身に気合を入れるために、この誓いと気合の寒中水泳に参戦した。それが彼がうちに秘めた闘志。悔しさは顔には出さない。
「応援よろしく」
ミオンの頭にアルヴィンの手がぽむっと触れる。
「うぅ。……寒いから早く戻ってきなさいよ」
強がるも上目遣い。
アルヴィンは、極寒の水に少しずつ体を慣らしていく。ふぅーっと吐いた息は白い。
「アルヴィン、頑張って!」
ミオンはうーうー悩みながら、意を決しアルヴィンの背を勢い良くドーンと叩く!
バランスを崩したアルヴィンは頭まで冷水に浸かる。
「つめたっ!」
まさかの不意打ち! すわ乱闘か!?
「あ、ごめんなさい……一回、水に浸かっちゃえば案外平気よね!?」
否! これがミオン式の応援だ。当然悪意はない。
覚えておけ……と念を込め、ぎっとミオンを睨む。
「気合よ、気合っ!!」
一悶着あったが、これで気合は入ったかな、とアルヴィンは物事を肯定的にとらえた。
そろそろ寒中水泳がはじまる。アルヴィンは、情熱の海パンで参戦だ。
アルヴィンはゴール地点を目で確認した。
過去の戦いの苦い敗北を思い出し、憤怒を糧に奮起する。
次こそは無様に負けない。
アルヴィン・ブラッドローは、そう誓いと気合を掲げて泳ぐ。
「アルヴィン……」
用意したタオルを握りしめ、ミオンはハラハラしつつ見守る。時折左手の甲に触れるのは、彼女が不安を感じた時のクセだ。
寒中水泳は、通常の水泳よりもハードだ。泳ぎのフォームやスピードよりも、どれだけ冷たい水に耐えられるかが肝心だ。水着を自前で準備するのも、それだけ気合を入れてイベントに参加しにきた、と自分を鼓舞する意味合いが強い。
アルヴィンは水の冷たさを笑顔でごまかす。敵を騙すには味方からとはよくいったもので、彼はそうやって自分を騙そうとした。
脳裏に浮かぶのは、呆れ顔をしたミオン。
途中でリタイアして、アシカ救護班に引っ張られたりしたら、彼女は怒るだろうか。あるいは心配するだろうか。ミオンに泣かれるのは困る。
泳ぎながら、アルヴィンはそんなことを考える。
感情豊かなミオンのことを思ううちに、騙し騙しのはずだった笑顔が、やがて本当に楽しくなってくる。
なんとかアルヴィンはゴールまで泳ぎきる。ウィンクルム以外の一般参加者なら九割から八割が脱落する過酷な水泳大会だ。充分頑張ったといえる結果だろう。
ゴールではミオンが待っていた。
「ミオン……」
アルヴィンはふっと微笑を浮かべる。
「アルヴィンお疲れ様、だいじょ……ぶ!!?」
彼から抱きしめられて、一瞬ドキッとするミオン。
「……あったか」
寒さで朦朧とした意識と、それから少しの仕返しの気持ち。
「はぅあっ!? 首、冷たいっ!! 離れ……重っ、倒れるむりー」
ばしばしとアルヴィンを叩く。
「アシカさん、助け……。いやあぁ、アシカさんも冷たい! ぬるっとしてる!」
アシカチームは溺れかけた人は救えるが、この状況のミオンの助けにはならなかったようだ。
「た、焚き火ぃ」
アルヴィンの体をずるずる引きずって、ミオンは温かな焚き火を目指した。
●今こそ女子力を見せる時
寒中水泳への参加を希望する『ハロルド』だったが、着替えを済ませた彼女は浮かない表情をしていた。
インナーウェアでスキューバースーツ「海の自由人」を用意してきたのだが、この大会で推奨されているのはアンダーウェアの水着だ。厳密なスポーツ競技ではないのでスキューバースーツを着ていても別にルール違反にはならないが、変に目立つ。ハロルドはシンプルな水着で参加することにした。
「予想外のアクシデントに見舞われたようだが、大丈夫か」
『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』が気遣う。体の古傷を気にする彼は水泳には参加しない。
ハロルドは静かに頷く。
彼女はパートナーの精霊との力量差を感じていた。自分が足手まといにならないかと気にかかる。大会へ参加したのは、そんな不安を払拭するためだった。
高い身体能力を持つ精霊と比較すれば、平常時の神人の力はわずかなものだ。
ディエゴに認めてもらえるように。強い思いを胸に抱いて、ハロルドは真紅のハチマキをしめる。
眼前に広がるのは飛沫を上げる滝と凍てつく湖。
「……見てるだけで寒くなってくるロケーションです」
軽くつぶやいてから、きちんと準備体操をしておく。
「……何故いきなりこのイベントに参加する気になったのか」
白ハチマキのアシカたちを怪訝な表情で眺めながら、ディエゴは独り言をこぼす。この寒中水泳大会では多くの脱落者が出るので、有志のボランティアメンバーで救助活動をおこなっているそうだ。アシカが。
「もともと体を動かすのが好きなんだろうが、結構負けず嫌いな所あるよな、あいつ………」
他の参加者やアシカに混じり、湖のそばに並ぶハロルドの姿を見て、ディエゴはそう思う。
(水泳は得意ですけど……参加者の皆さんも鍛えてる方ばかりですし、頑張れるでしょうか)
武闘家や修行者と縁の深い場所ゆえに、一般参加者たちは老若男女を問わずに武骨で硬派そうな者が多かった。それに、もっと手強いライバルがいるとすれば、他のウィンクルムたちの存在だろう。
スタートの合図だ。
(神人といっても能力自身は精霊に敵わないのはわかってます、だけど……)
整然としたクロールのフォームで泳ぎはじめるハロルド。水は肌に刺さるかと思うほどに冷たい。あまりの寒さで、思うように体が動いてくれない。
この寒中水泳では根性と精神力が試される。どれだけスポーツ技能に秀でていても、極寒の水に耐えられなければゴールまでたどり着くことはできない。
「……」
ここで終わるのは嫌だ。自分が頑張る姿を見てほしい人がいる。
「……わああああ! 女子力なめんな!!」
咆哮! 絶叫! 女子力上等ッ!!
本来無口な彼女が、激しく叫んだ。その勢いに呼応するように、会場から歓声と拍手が起きた。
全力でクロール! 目指すのはゴール!
「はあっ、はあっ……」
気合の入った追い上げで湖を泳ぎきった。
出迎えたディエゴに、ハロルドが抱き着いた。
「……私頑張りました、寒いです」
「頑張ったのはわかったから、体拭かないと」
ディエゴがそういっても、頑なに離れようとしない。
「寒いのなら、早く体を拭いて焚火で温まらないと駄目なんだが」
医療の知識を持つディエゴは、冷えた体への適切な処置を考える。抱き着いてから、1ミリたりとも離れないハロルド。
「仕方がない……」
少々滑稽になるが、背に腹は代えられない。ディエゴはハロルドの肩にタオルごと腕を回して、焚き火の方へと引きずっていくことにした。
「ディエゴさんの為に泳いだんですからね……。さ、寒い!」
彼女の小さなつぶやきをディエゴは確かに聴きとった。
「……なんだ?」
そして自分の中に湧き上がってきた気持ちは、ディエゴにとって謎めいた不思議なものだった。
●かくして彼は平和を手に入れた
「俺は世界平和を願って泳ぐぞ」
『アンリ』が宣言する。
「あったかいメシとふかふかのベッド、一緒にバカやれる友達がいれば世界は概ね平和になる。だから手始めにおばちゃんが作った豚汁というあったかいメシを最高においしくいただくために泳ぐ!」
「世界平和って……欲にまみれてばっかりじゃない! 食べ物以外のことに興味はないわけ?」
すかさずツッコミを入れる『リゼット』。ツッコミがボケを輝かせ、ボケがあるからこそツッコミが活きる! まさに息のあった掛け合いッ!
リゼットは、赤いハチマキをアンリの頭に巻いてやる。
「さっさと行って身を清めてきなさい。ついでにバカが治るかもしれないわよ」
厳しい言葉を投げるが、その手つきには優しさがあった。
アンリは湖の方へと向かう。着ているものは、海パン「ホワイトデラ」一丁だ。
「うおぉつめてぇ! 死ぬ!」
足先を水に入れただけで鳥肌が立つ。テイルスのアンリの尻尾は、寒さのせいでピンと伸びてぶわっと膨らんだ。
「だがこんなとこで終わるわけには……!」
まるで勇者か小学生男子のようなセリフ。しかし見た目は王子様。
リゼットが残念なイケメンを見る眼差しで、アンリの動向を見ている。
「飛び込んじまえば水の中の方があったかかったり……しろぉー!」
意を決し水中にザブンと浸かる。今度は獣耳の毛までが逆立った。
水泳大会の参加者たちが、ゴールを目指して泳いでいる。
リゼットはその中からアンリの姿を目で探す。……そして彼女はパートナーを見つけた。
そこには、なんと! 華麗な犬かきを披露するアンリの姿が!
「犬かき……ですって……。いくらバカ犬だからってカッコ悪!」
わなわなと震えた後、リゼットは声を限りにバカ犬と罵る。
「ほんとどこまでも私の期待を裏切っていくわね。って、別にあいつに何にも期待なんてしてないけど!」
その一方で、アンリの行動は水泳大会のスタッフや見物人の期待には沿っていたようだ。マイクを持った司会者が犬かきの実況をし、武闘家風の男がお主なかなかやりおるな……みたいな視線をアンリへと向ける。
「フッ。リズにはこの泳ぎのスタイリッシュさがわからんとは」
せっせと犬かきをしながら、どや顔で解説をするアンリ。
「小刻みに手足を動かす事により体が温まる! かもしれない!」
「あ、そういう作戦なのね……って、かもしれないって何よ! 根拠がないじゃない! もっとスピードの出る泳ぎ方で早く泳ぎ切った方が有利なんじゃないの?」
「自由形がクロールでなくてはいけないという決まりはない。俺は俺のやり方で勝つ!」
とても格好良いセリフだ。犬かきでなければ。
「今俺を突き動かしている食欲を見くびるなよ! アシカの出番など無い!」
「なんでもいいけどごちゃごちゃ言ってないで泳ぎに集中しなさいよ。早く帰ってこないと先に豚汁食べちゃうわよ!」
リゼットの言葉で、アンリの食欲に火がついた。
計算上、アンリが湖を泳ぎきれる確率はそれほど高くはなかった。だが、彼はそのわずかな可能性を見事につかんだ。人の運命を決めるサイコロがあるとすれば、よほど良い出目に恵まれたのだろう。
意外な健闘ぶりに、会場がわく。
「まあ、がんばったんじゃない?」
ゴールまでたどり着いたアンリに、羊のデザインをしたポーチが差し出された。中にはカイロが入っている。
「豚汁あったけぇ……」
「豚汁は確かに美味しいし平和といえば平和よね」
アンリは宣伝通りに豚汁と平和を手に入れた。が、その平和はつかの間のものにすぎなかった……。
「リズ、お前の分もくれっ」
「は? あげないわよバカ!」
欲を出して、リゼットから叱られる。微笑ましい二人のケンカだった。
●寒さに消えた言葉
『アルベルト』は自分を鍛え直そうと寒中水泳に参加した。ある依頼の際、いわゆる闇堕ちを経験したことがきっかけだった。
「……輝? どうして貴方まで参加申請してるんですか」
スタッフに参加申請をしている『月野 輝』に、アルベルトが気づいた。
「なんか最近の私、色々抜けてる気がするから気合い入れるのに参加してみようと思うの」
それに勢いを付ける為にも。
「この寒いのに泳ぐとか正気ですか。陸で暖まってて下さい。泳ぐのは私に任せて」
「そんな呆れた顔しなくてもいいじゃない。だってアルにだけ辛い事をやらせるって何か違う気がするんだもの」
それから輝は、小さな声でごにょごにょとつぶやいた。
「それに一緒に泳ぎたいし……」
声がアルベルトに聞こえたかはわからない。
「大丈夫、ちゃんとスキューバースーツ着てきたし!」
「ウェットスーツ……ああ、まあ、それなら多少はマシかもしれませんが……」
アルベルトは複雑な表情を浮かべた。ホッとしたような、残念なような。
「……どうして更に複雑な顔になってるのよ、変なアル」
といったやりとりの後で、輝はスタッフにスキューバースーツの着用が認められるか尋ねた。ルール違反にはならないが、推奨しているのは水着であるとの回答。
「あら、そうなのね。どうしようかしら……」
会場の雰囲気や水着姿の参加者たちを見て、スキューバースーツはやめることにした。だが準備は万端で、輝はアンダーウェアに情熱のビキニを着ている。
アルベルトが着ているのは、競泳パンツ「ブルースタン」だ。
「それにしても、知ってる顔多いわね。しかも女子のみんなは泳がないの?」
顔見知りのウィンクルムたちへの挨拶に回る輝。自分と同じく寒中水泳に参加する神人を見つけて、輝は励ましの言葉をかける。
「良かった、お互い頑張りましょうね!」
水に入った輝は、思わず声を上げた。
「つっ、冷たいっ!!」
アルベルトも心配そうに輝の様子をうかがっている。
「輝、無理することはないですよ」
棄権をほのめかす精霊の提案。
「想像以上に冷たい……けど、頑張るっ!」
この寒さを乗り切れたら、輝はアルベルトに聞きたいことがあった。
スタートの合図だ。アルベルトは最初は輝を気遣い一緒のペースで泳いでいた。しかし、他の参加者に追い抜かれると、彼の負けず嫌いな一面が顔をもたげてくる。
さらに普段絶対に見せないようなアルベルトの熱血な部分が出てくる……かと思えたが、それは具体的な行動としては現れなかった。
ただ、泳ぐ速度は上がる。アルベルトはゴールまで泳ぎきることに成功した。
その時輝は、救護アシカの背中につかまって陸地へ誘導されていくところだった。自分が最後まで泳げなかったことは残念だが、ゴール地点にアルベルトがいるのを見て、輝は心の中で彼の奮闘を賞賛した。
女性スタッフが、凍える輝にバスタオルを渡し、焚き火コーナーまで案内する。震える体で火にあたっていると、ふわっとした食べ物の匂いがした。
「どうしてそこまで頑張ったのですか」
アルベルトが立っていた。輝の体を温めるために、豚汁を持ってきてくれたようだ。
「……」
答えようとしたが、寒さで歯の根があわない。
聞きたかったことがあった。そのために泳いでいたつもりだった。
アルベルトにとって、自分は妹扱いなのか、と。
だが輝は結局、アルベルトに何も聞けなかった。
ゴールできなかったことが原因ではない。運命の采配が輝の邪魔をしたわけでもない。
ただ、輝自身があまりの寒さで話す気力を失っていたのだ。
「今は会話どころではなさそうですね、輝。まずは体を温めて下さい」
弱々しく、コクリと頷いた。
輝の質問は、いつかアルベルトに伝わる時がくるのだろうか。
●燃えるジェラシー
他のウィンクルムたちを見渡して、『エミリオ・シュトルツ』はクールに笑う。
「強敵揃いだね、競い合うのが楽しみだ。全力を尽くすよ」
競泳パンツ「グリーンスタン」を身につけて、競争心を燃やす。
「エミリオさん、競い合える相手がいてとても嬉しそう。なんだか私も嬉しいな」
エミリオの姿を見て、『ミサ・フルール』もにこやかに感想を述べる。ちょうど会場の更衣室で、ビキニ「ホワイトセパ」に着替えてきたところだ。
「……? ミサ、何で水着を着ているの?」
そう問いかけるエミリオの声色は、少し不機嫌そうだった。
「エミリオさん、もしかして怒ってる?」
怒っているようなエミリオに戸惑いながらも、ミサは自分の意図を説明する。
「だってエミリオさんだけ寒い思いをするのは不公平だもの。そりゃあ実際に泳ぐのと泳がないのとでは違うけど」
ミサは寒中水泳には参加しないが、エミリオを応援するために自分も水着姿になろうと思い立ったのだ。
「せめて水着だけでもって思ったの……迷惑だった?」
エミリオが不機嫌になっている理由が、ミサにはわからなかった。
「まったくお前って奴は」
それだけいって、エミリオは顔を逸らした。彼の頬は赤くなっていた。
エミリオの主観では、水着姿になった自分のパートナーに、多くの男性たちから不埒な視線が注がれているように思えてならないのだ。
もしも自分がプレストガンナーだったなら、あそこの観客席にいる野郎の目を狙撃してやりたいのにな! ……と、真顔で危ない冗談を考えるエミリオだった。
「エミリオさん行っちゃった……」
立ち去っていくエミリオの背中を見て、ミサはしゅんとした。
エミリオは一人黙々とストレッチをする。泳ぐ前の準備体操だ。
準備を終えて極寒の湖に入る。水は冷たく、針のように寒さが体に突き刺さる。
スタートの合図と同時に、エミリオは全力で泳ぎはじめた。
スポーツやサバイバルの技能が役に立つかと思ったが、今回の寒中水泳でゴールまで寒さに耐えられるかどうかは抵抗力で決まる。抵抗力は毒や病気への耐性を示すものでもあり、忍耐力の目安でもある。
経験を積んだ精霊であるエミリオは高い抵抗力を持っており、自前の水着を用意したことで意気込みも充分入っている。
「エミリオさん、頑張れー!!」
ミサが元気に声援を送る。エミリオの態度には困惑したが、それでも彼を応援しようと思ったのだ。
「ゴールしたらあったかスープが待ってるからねー!!」
一刻も早くゴールしてミサを連れて帰りたい。彼女の水着姿を見ていいのは自分だけだと、エミリオは嫉妬の炎を燃やしてゴールを目指す。
果敢に泳ぐエミリオ。
ミサはその姿を見ているうちに、エミリオが他の女性たちから熱烈な注目を受けているような気がしてきた。一度そう思うと、どうしても気になってしまう。
(あ、あれ? 何だか心がモヤモヤするよ……どうしちゃったんだろう、私)
ミサが見守る中で、エミリオは湖を泳ぎきることに成功した。大会のスタッフがバスタオルを渡すが、彼は自分の体を拭こうとはしなかった。
「ゴールおめでとう、エミリオさん!」
ミサが近づく。エミリオはタオルをふわっと広げて、スレンダーなミサの体を隠すように包んだ。
そして……。
「おかえりなさい、エミリオ……っ!?」
突然の驚きで、ミサの口調が若干乱れた。
急にエミリオから首筋にキスをされたのだ。首筋へのキスが示す意味は、執着。
「俺を嫉妬させた責任とってもらうよ」
硬直するミサを軽々と抱き上げる。
「……帰ったらお仕置きだ」
意味深な言葉を口にして、ミサを連れてエミリオは家へと帰る。
依頼結果:成功
MVP:
名前:リゼット 呼び名:リズ |
名前:アンリ 呼び名:アンリ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 山内ヤト |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 02月14日 |
出発日 | 02月19日 00:00 |
予定納品日 | 03月01日 |
参加者
会議室
-
2015/02/17-22:26
こう、気合を入れる為に参加しにきた
とりあえず、ゴールまで泳ぎきる事が目標だ(ぐぐぐっと拳を握る
ミオン:
この寒い中泳ぐなんて…私は全力で応援にさせてもらうわ(←寒いの嫌い
えぇっ!?ハロルドさんと輝も参加するの、無理しないでね! -
2015/02/17-10:42
-
2015/02/17-00:56
(小声)
アルはあんな事言ってるけど、私、泳ぐ気満々なの。よろしくね。 -
2015/02/17-00:37
わあ、知った顔ばかりね。皆さん、よろしくね。
水着どんなのにしようかしら……(ちょっとウキウキ
アルベルト:
「輝は陸にいて下さい。水泳は私がやります。風邪でも引かれたら面倒ですからね。
ああ、皆さん、よろしくお願いします。やるからには本気で行きますよ(眼鏡キラン☆)」
-
2015/02/17-00:28
みなさん、よろしくお願いします
女子力見せます -
2015/02/17-00:27
ミサ:
さぁ、エミリオさん!
苦手な水属性を克服する時だよ!
エミリオ:
(頭を抱えながら)寒中水泳には俺が参加するよ。
皆どうぞよろしく。
-
2015/02/17-00:22
よう。知った顔ばっかだな。
だが今回は全員ライバルだ。負けねえからなー。
世界平和のために泳ぐ俺に勝てる奴なんざいるもんかよ。
あー、早く豚汁食いてぇー