プロローグ
●天才ショコラティエの憂鬱
「はぁ……」
ここはショコランドにあるチョコレート専門の人気店『月の庭』。妖精ショコラティエのレティシエは、閉店後の店のテーブルに肘をついて、深い深いため息をつきました。
「スランプ……完ッ璧なスランプだわ……。甘く蕩けるチョコレートの季節――バレンタインはすぐそこなのに!」
ギルティの横暴によるバレンタインの危機は、きっとウィンクルムたちが何とかしてくれるだろうとレティシエは信じています。けれど、無事にバレンタインを迎えられてもバレンタインを盛り上げる素敵なチョコレートを用意できなかったら。『月の庭』のチョコレートを気に入ってくれているお客様たちは、きっとがっかりするでしょう。レティシエは頭を抱えます。
「甘くて幸せなチョコレートが作りたい……例えるならそう、恋人たちの甘やかな囁き合いのような! ああ、どこかに私の心にビビビ! っと刺激を与えてくれる、素敵なロマンスが転がっていないかしら!」
レティシエが思わず声を上げた、その時。
「た、大変だよレティシエ!」
『月の庭』の年若い店長が、蜂蜜色の羽を煌めかせて慌ててレティシエの元へと飛んできました。
「どうしたんですか、店長。そんなに慌てて」
「ちょ、チョコレートの滝の近くに、デミ・オーガが出たって!」
チョコレートの滝は、その名の通りチョコレートがまるで巨大チョコレートフォンデュのように流れ落ちるショコランドらしいメルヘンな滝です。『月の庭』のチョコレートは、この滝のチョコレートを材料にして美味しい創作チョコレートを作っているのでした。
「ウィンクルムたちがデミ・オーガを退治しにきてくれるそうだけれど、もし万一のことがあったら……。ああ、全くなんて……」
「全くなんてハッピーなチャンスなのかしら!」
レティシエの台詞に、店長は目を丸くしました。首を傾げて、言うことには。
「レティシエ。……僕にはこの事態は、とてもアンハッピーなピンチのように思えるのだけれど」
「いいえ、店長、これはチャンスです! ウィンクルムと言えば、愛の象徴のような存在じゃないですか! 彼らの愛とロマンスに満ちた活躍を間近で見たら、きっと素晴らしい新作チョコレートのインスピレーションが湧くはずです! ええ、そうに違いありません!」
「間近で見たらって……レティシエ、君、まさかチョコレートの滝へ行くつもりじゃないだろうね?」
「勿論そのつもりです! 大丈夫ですよ、私にはこの妖精の羽がありますから。オーガの手の届かない高いところから、じっくりばっちりしっかりとウィンクルムの活躍を目に焼き付けてきます!」
おろおろと眉を下げる店長に、レティシエは晴れやかな笑顔で言いました。
解説
●目的
デミ・オーガを退治すること(但し後述の特殊条件あり)
●敵
デミ・大ラットの群れ。
体長30cmほどで一匹一匹は弱いです。
敵の数は参加者様のレベルやプランに応じて変動いたします。
戦闘難易度低め予定。
●特殊条件
今回は依頼主『月の庭』のショコラティエの要望を汲むことも任務の一環となっております。
レティシエが満足するような、愛とロマンスに満ち溢れた戦いを魅せてください。
ざっくり言うと、戦いながら、らぶらぶっぷりを彼女に見せつけてあげてください。
らぶらぶっぷりはロマンチックでもコメディ寄りでもガチでも演技でもOKです。
ノリノリなパートナーにたじたじ……等でもレティシエが勝手に脳内補完してくれるので問題ございません。
厳しく判定はいたしませんので、『愛を魅せる戦い』を楽しんでいただければ幸いです。
●チョコレートの滝とは
50mの高さの崖の上から温かいチョコレートが流れ落ちてきます。
滝壺の周りはチョコレートが固まって岩のようになっています。
戦闘は滝の近くの戦闘に支障のない拓けた場所が舞台となりますが、会議室にてご相談の上、皆様で戦闘後に滝を訪れていただいても構いません。
但し、戦闘後にチョコレートの滝を楽しむ場合、描写割合を可能な限り平等にするため全員の合意が必須条件です。
何卒ご了承くださいませ。
●レティシエについて
ショコランドのチョコレート専門店『月の庭』のショコラティエで、月明かりの羽を持つ妖精の女性。
今回の依頼に同行いたしますが、プロローグでの本人の発言の通り小さくて空を飛べるという妖精の特徴を生かして危なげなく皆様のらぶらぶな戦いを観戦いたしますので、彼女の安全への配慮は不要です。
彼女のことは気にせず、どうぞ愛とロマンスに溢れた戦いを繰り広げてくださいませ。
なお、戦闘後にチョコレートの滝を楽しむ場合、必要な物があれば彼女がご用意いたしますのでプランにて欲しい物をご指定くださいませ。
ゲームマスターより
お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!
らぶらぶな戦いについては、難しく考えず楽しくらぶらぶしていただけますと嬉しいです!
戦闘後のお楽しみを盛り込む場合ですが、チョコレートフォンデュやホットチョコレート等色々な楽しみ方があるのではと。
何か必要な物があれば、お気軽にレティシエにお声掛けくださいね。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!
また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハティ(ブリンド)
いつも通りだと無心で戦いを終える事になるだろう事は予測できたので、 少し考えて武器を持ち替えてみた これならリンも無理なく連携を考えられるだろう …二度手間だとかミもフタもないこと言うなよ 二刀を使い攻撃を引き受けつつ敵を誘導 リンの攻撃から敵の体力状況を確認 体力の高い対象を優先しコネクトハーツで攻撃 リンに追撃を頼む 良かったのは武器だけか…とボソリ 不満というわけではないが、これではいつも通りだ それらしい方向へ導こうとしたまでなのだが、褒められたと思ったら違った 愛…とは…… …… 俺だって込めてこうしていると言ったら? もう一声と視線を向ける …目で人は殺せないぞリン 難しいな愛 チョコがけに挑戦できれば俺は苺一択で |
柊崎 直香(ゼク=ファル)
ねえ、ゼク。早く屈んで。キスできないでしょ? 事、総て、成る。はい、よくできました☆ 始終ゼクに甘く接してあげるにゃん それも含めて任務との認識なので戦闘で気は抜かないよ レティシエちゃんに事前にゼクが使う魔法について説明 空に居ても危険だから 僕が合図したらあの樹の辺りまで避難してね 僕はゼクの詠唱中、槍で応戦 柄を長めに扱い、近寄らせないことを目的に薙ぎ払う 大丈夫、ゼクは僕が護るからね 詠唱完了次第、魔法いっきまーす、と皆にお知らせ 戦闘後はチョコレートの滝へGO 大鍋と串の準備を依頼。フルーツやマシュマロでフォンデュするよ 鍋にチョコ汲んだ方が食べやすいよね。ゼクお願い☆ 林檎は食感も良い感じ ゼク、あーん、して? |
アリス(ティーダ)
終始真顔 参加メンバーをじっと見つつ、 お兄さん達はほっぺにちゅー(トランス)した事あるんだ 凄いね ねぇ 君は愛が何なのか知っている? うん、その通りさ わかりたくもないね 早く終わらせてあの滝へ行こうよ 僕は愛よりもチョコレートさ トランス 不思議 さっきよりティーダと繋がってる感じがする これがトランスなんだ 精霊に向かって来るデミを攻撃 逃げようとするデミがあれば牽制 そうだね 君が居れば安心だ とは言え少し怖いので精霊の手をぎゅっと握る チョコレートの滝ではあればイチゴとかバナナが欲しいな チョコフォンデュ…お兄さん達と食べたいんだ |
スコット・アラガキ(ミステリア=ミスト)
はぐれた敵をミストが作った群れの方へ追いやる 精霊が囲まれそうなら背を守る 残党は仲間と連携対応 ロマンスはお昼のドラマで勉強したよ 雅人さんはあたくしの物よッ この泥棒猫!(鼠) 姫を救う騎士様も定番だね! あーれー、おたすけをっ…!? (くるくる回転、フリのつもりが滑る足) (…あ。怖がらせてしまった) ご、ごめんね もう危ないことしないよ、だから 泣かないで! わかるよ、君の神人だもん うんっ。俺も大好き でも、ちゃんと伝わったよ (敵をいなしながら近づき とん、と触れ合う背中、かかる言葉に頷いて) もちろん。あいしてるよ! さっきはごめーんあいしてるー …えッ。あ、うぅ 口に出して言われるの久しぶりだから びっくりしたんだよぅ! |
ハーケイン(シルフェレド)
●心境 ……妙な依頼だった 笑うなシルフェレド! 腹立つからべったり絡んでやる ●戦闘 弓で援護 範囲攻撃持ちがやり易いよう敵を集める バラけた敵は打ち漏らさん 普段はHBの奴とは離れているが、今回は同じ前線に行く 「貴様の背中を守るのは俺だ。他の誰にも許さん」 ギリギリまで顔を寄せて言ってからトランス やってみたはいいが、何故奴はやたら乗り気なんだ 何が傷付けたくないだ 俺が足手まといだと言うのか 「貴様一人危険に晒して俺が何も感じないと思ってるのか!」 ………違う!今のは無しだ! ●滝 チョコフォンデュは少し酒を入れてもいいな シルフェレド、他の奴の器に酒を入れるな。子供もいるんだぞ! |
●ほっぺにチューで始めましょ
「ねえ、ゼク」
デミ・大ラットの巣食う場所からほど近い、ここはチョコレートの滝。痺れるような甘い香りが漂う中、口火を切ったのは柊崎 直香だった。金の双眸で、パートナーたるゼク=ファルを上目遣いに見上げ、甘えるような声音でその名を零す。普段とは違うその様子に、たじろぐゼク。
「た、直香?」
「ね、早く屈んで。キスできないでしょ?」
ことり、首を傾げられて、名状し難い気恥ずかしさに頬を熱くしながらゼクはそれでも直香の指示に従う。とっくに慣れたはずのトランスに、こんなにも心を乱されることになろうとは。
『事、総て、成る。』
零される力呼ぶスペル、頬に落ちるいつもより甘やかな口づけ。儀式を終えれば、「はい、よくできました☆」と頭にぽんと手が触れた。想定外の直香の言動の数々に翻弄されつつも、何とかその動揺を胸の内に押し込めるゼク――の傍らで、つい今までの過剰気味なスキンシップはどこへやら、直香はあっさりと、同行しているレティシエの方へと顔を向けて、言った。
「レティシエちゃん、こんな感じでオッケーかにゃ?」
「ばっちりです! 最高です! ありがとうございます!」
「気にしないでいいよ、これも任務の一環ってことだから」
2人の会話に、ゼクはため息をついた。そう、これはそういう任務なのだ。そして直香は、任務に対してはとても真摯なのだ。ゼクのため息は、任務が終わるまでこのノリに翻弄されるのか、という諦念の籠ったそれである。
「ミーストっ! 俺たちもトランス、しよっ!」
ゼクの複雑な心中には一切気づかない様子で、スコット・アラガキは満面の笑みで愛しのパートナーたるミステリア=ミストへと両手を広げる。幼子の如く無邪気で真っ直ぐな笑顔をミストへ向けるスコット、こちらは直香たちとは違っていつも通り、通常営業である。だからミストも、
「あー、はいはい」
とはしゃぐスコットを宥めるようにそう応じて、背の高い相棒へと頬を差し出した。
『神様の言うとおり』
唱えたスコットが、嬉しそうにミストの頬へと唇を寄せる。トランスの行程を無事に終え、満足げに目を細めるスコット。青の瞳に宿るのは、崇拝にさえ似たどこまでも深い愛。ミストを見つめるどこか底の見えないような色を纏ったその瞳が、不意に、ぱっと明るくなる。
「そうだ! ね、俺さ、ロマンスはお昼のドラマで勉強したよ」
「……それはまた碌なもんじゃなさそうだな。大丈夫かよ、おい」
「大丈夫だって! 雅人さんはあたくしの物よッ! この泥棒猫!」
声を高くして、スコットは自信満々に所謂昼ドラで学んだ台詞を披露した。ミストが、スモークブルーの瞳を呆れたように眇める。
「もしかしなくても雅人って俺か……。ハイハイにゃんにゃん」
敵は猫じゃなくて鼠だし、というかそれ以前にもう色んな部分が破綻しすぎているとミストは思うも、可愛い弟分がやり切った感に溢れる満足げな表情をしているので、つっこみは諦めた。何だかんだとスコットに甘いミストなのである。
「リン。いつも通りだと無心で戦いを終えることになるだろうと俺は予測した」
燐光の瞳で、パートナーのブリンドを真っ直ぐに見据えて。ハティは淡々と、けれどどこまでも真面目に言葉を零す。一体何を言い出すのやらとブリンドは眉根を寄せたが、ハティにそれを気にする様子はない。
「それで、少し考えたんだ。武器を持ち替えてみた。これならリンも無理なく連携を考えられるだろう」
言ってハティがブリンドの目前に翳したのは、短剣『コネクトハーツ』。それ自体に威力はないが、この短剣での攻撃に続けてパートナーが攻撃すればその一撃の威力が上がるという代物だ。ブリンドはわざと大仰なため息を漏らした。
「おい、テメーなぁ」
「……二度手間だとか、ミもフタもないこと言うなよ」
一手先を読まれて、「チッ」と苛立ったような舌打ち一つ、ブリンドは早く済ませろとばかりにハティへと頬を差し出す。こくりと頷いて、ハティは表情一つ変えぬままスペルを唱えた。
『Báleygr』
次いで口付け零せば、オーラと共に力が溢れ出す。ブリンドが、首の後ろをがりがりと掻いた。
「それにしても、ネズミか……足止めつったって足すっぽ抜けんじゃねぇか?」
すっ転ぶなよ、とそっけなく、けれど確かに付け足された言葉に、ハティはほんの僅かだけ目を見開く。目聡くそれに気づいたブリンドが、
「何だその顔はブチ抜くぞ」
と物騒な台詞を一息に言い切った。一方、整ったかんばせを苦く歪めて、天を仰ぐのはハーケイン。
「……妙な依頼だった」
表情だけでなく、その声音も苦いものを含んでいる。その様子に、パートナーたるシルフェレドがくつくつと面白がっているように喉を鳴らして笑った。
「笑うなシルフェレド!」
アメジストの瞳でシルフェレドをキッと鋭く睨み据えると、ハーケインはぐいとシルフェレドの腕を掴んで引き寄せる。
(腹が立つ……こうなったからにはべったり絡んでやる)
覚悟しておけと胸中に呟いて、シルフェレドへとギリギリまで顔を寄せるハーケイン。
「貴様の背中を守るのは俺だ。他の誰にも許さん」
至近距離で囁くも、シルフェレドは一切の動揺を見せず、どころか、ごく楽しげに金の眼を細めた。ハーケイン、苛立ちの滲む声で口早にスペルを唱える。
『精々働け』
半ば強引に頬に口付け零せば、シルフェレドはそれさえも面白いというように薄い唇に笑みを乗せた。シルフェレドがこの状況を楽しんでいるようなのが、ハーケインには面白くない。
(やってみたはいいが、何故奴はやたら乗り気なんだ)
そんなハーケインの考えすら察しているかのように、シルフェレドはくすりと、また小さく笑みを漏らした。そして、そんな一同のトランスの様子を、レティシエと同等かそれ以上にじーっと見つめていた少年がひとり。本依頼の最年少ペアの片割れ、アリスである。
「お兄さん達はほっぺにちゅーしたことあるんだ。凄いね」
凄いというわりには、アリスはどこまでも真顔である。表情筋は一切仕事をしていない。それでも幼い少年の『ほっぺにちゅー』発言は、それがトランスのことを差すと分かっていても一部のメンバーをいたたまれないような気持ちにした。しかしそんなことにはお構いなしで、アリスは傍らに立つ自分のパートナー、ティーダへと声を掛ける。
「ねぇ、君は愛が何なのか知っている?」
問われて、ふっと口の端を上げるティーダ。
「相手の立場を慮る……互いを尊敬し合う関係……違うな。少なくとも俺の愛はそんな可愛いものではない」
「ふぅん。じゃあ一体、君の愛ってどんなものなのかな」
さして興味なさげなアリスの言葉に、「仕方がない、特別に話してやろう」とティーダが上から目線で言い放つ。
「奪い、己の思うままに染め上げ、その全てを支配する。狂気の中にこそ真実の愛は生まれるのさ」
そこまで言って、ティーダは『クククッ』と喉を鳴らした。
「いやぁ失礼。子供にはまだ早かったかな?」
「うん、その通りさ。わかりたくもないね」
「まぁ見ていろ。これからたっぷり教えてやるさ」
にやりと笑って、ティーダはおもむろにアリスの手を握る。繋いだ手から伝わるのは、微かな震え。戦闘の際はこの俺が直々にフォローしてやらねばな、等と思いながら、ティーダはどこまでも傲慢な仕草で自身の頬をアリスへと向けた。繋いだ手は離さぬままに、アリスがスペルを唱える。
『赤の女王(ブラック・クイーン)に罰を』
頬に口づけ落とせば、オーラが2人の身体を包んだ。
(……不思議)
初めての感覚に、アリスは思う。
(さっきよりティーダと繋がってる感じがする……これがトランスなんだ)
けれど、感慨に浸ってばかりもいられない。全員がトランス状態に移行したことを確認して、シルフェレドが口を開いた。
「それでは、行こうか」
ゆるり、口元に弧を描く。それを合図にしたように、一行は戦場へと足を向けた。
●愛の形は数あれど
「こりゃ骨が折れそうだな」
ブリンドが苦々しく呟いた通りに、デミ・オーガの出現が報告された箇所には、数を数えるのも億劫なほどのデミ・大ラットがちょろちょろしていた。一刻も早い駆逐の為に、3つの宝玉を抱いた両手杖を構えたゼクが、すぐさま魔法の詠唱を開始する。精霊も神人も問わず残りの面々がとび出していく中、直香は槍『緋矛』の柄を握り直しながら、近くをふわふわしているレティシエへと声を掛けた。
「ゼクの魔法、空に居ても危険だから、僕が合図したらあの樹の辺りまで避難してね」
「はい、分かりました!」
聞き分けのいい返事にひとつ笑んで、「それじゃあ行くよ」と直香は槍を振るう。鼠が散る。それでいい、と直香は口の端を上げた。元より、戦局を左右するエンドウィザードに敵を近寄らせないのが目的だ。
「大丈夫、ゼクは僕が護るからね」
レティシエの熱い視線に応えるように振り返ってそう言った直香へと、ゼクは「前を向け」と既に疲れたような顔をして顎で示す。直香が笑って前に向き直るのを見て、
「絆……! 絆感じちゃうわ……!」
とレティシエは至極ご満悦であった。
「こっちだ鼠共!!」
鈍器『ヘッジホック』で鼠の波をかき分けてゼクから充分に距離を取るや、ミストは戦場に朗々と声を響かせる。周囲の存在を自分へと引き付ける、ロイヤルナイトの特別な力。鼠たちが、ミストの元へと殺到する。
「おいでなすったか」
とバックラー『ノクターン』で敵の攻撃を音もなく受け流すミストを見て、「俺も頑張らなくっちゃ!」と気合を入れるスコット。しかしその気合は主にいちゃらぶの方に向けられている。レティシエ的には待ってました! という感じなのだが、ミストが彼の心中を知れば疲れたため息をつくこと必至である。あ、勿論、戦闘のことも忘れてはいません。スコット、手にした2本の短剣で、鼠たちを群れの方へと上手く誘導していく。
「あ、姫を救う騎士様も定番だね! あーれー、おたすけをっ……わわっ!?」
くるくる回転……のつもりが、鼠に足を取られて体勢を崩すスコット。そのまま転ぶパートナーの姿にひゅっと息を飲んで、次の瞬間、ミストは我を忘れたように怒鳴り声を上げた。
「……なにやってんだッ! 弱いったって相手はオーガだ! 忘れんな!」
激昂するミストの姿に、怖がらせてしまったとスコットは思う。集る鼠たちを短剣で追い払い立ち上がると、スコットは叱られた子犬のようにしゅんとして、言った。
「ご、ごめんね、ミスト。もう危ないことしないよ、だから」
泣かないで! とスコットは真っ直ぐにミストを見つめる。その言葉に、ミストは咄嗟に乾いているはずの自身の目を擦った。
「なに訳のわかんねーこと……」
「わかるよ、君の神人だもん!」
「って、だから前見ろ、バカ!」
「うんっ。俺も大好き!」
「……会話が噛み合ってねぇよ……!」
「でも、ちゃんと伝わったよ?」
「ああ、もう……」
ちぐはぐな会話を続けながらも、2人の手は動き続けている。敵をいなしながら距離を詰めて、2人は背中を合わせた。とん、と背に触れるミストの温度に、スコットは口元を緩める。
「……せーのでいくぞ。次は真面目にやれ」
「もちろん。あいしてるよ!」
ミストの言葉に頷くスコット。返る言葉のずれっぷりに脱力しつつ、ミストは得物を構え直した。
「ほー、けっこー使えるな、その武器」
ミストとスコットが背中合わせでの戦いを選んだのに対して、ブリンドとハティは向かい合っての挟撃で鼠たちの数を減らしていく。ハティが二刀で敵を引き受けつつ誘導、ブリンドは海賊仕様の改造銃で敵を牽制し、またその数を減らしながら、盾『車盾』を用いて鼠たちを巧みに追い込んでいっている。ブリンドの言う『その武器』とは、ハティの『コネクトハーツ』のことだ。ハティがぽそりと呟いた。
「……良かったのは武器だけか」
「ああ? 不満そうな顔だなぁ、おい」
「不満というわけではないが……」
眉を顰めるブリンドにそう返しながら、ハティは胸の内に思う。それらしい方向に導こうとしたのにこれではいつも通りだ、と。
「まあ」
狙った鼠を正確に撃ち抜きながら、ブリンドが言う。
「もう使う機会もねーだろうけどよ」
「……せめて武器は褒められたと思ったんだが、違ったのか」
「褒める褒めないの話じゃねぇんだよバカ」
大体先に仕掛けるってこたぁイコール反撃がついてくんだ、とブリンド。その手の銃が、鼠をまた1匹仕留めた。
「そういう相手に仕掛けんのはそもそもテメーの仕事じゃねえ、俺の仕事なんだよ」
言い切られた言葉に、ハティは小さく嘆息する。
「愛、とは……」
「ああ? 込めただろ、今」
「俺だって込めてこうしていると言ったら?」
燐光の瞳で真っ直ぐに相棒を捉えれば、ブリンドは苛立ち紛れのように鼠を銃で散らした。
「ハッ! 一人前に目で殺す、ってか?」
「……目で人は殺せないぞ、リン」
天然な返しに、ブリンドが深く長いため息を漏らす。その様子を見て、
「……難しいな、愛」
と、ハティは小首を傾げ呟きを漏らした。
「お前を傷付けたくはないのだがな」
常は自分と離れた位置取りで戦うハーケインが傍らに並ぶのを見て、シルフェレドはそう言って少し困ったように笑みを零した。その言葉に、フェアリーボウから矢を放って鼠たちを群れの方へと追いやりながら、ハーケインは苛立ちに唇を噛む。
(何が傷付けたくないだ。俺が足手まといだと言うのか)
全く気に食わないと憤慨しきりのハーケインの様子に苦笑を一つ漏らし、
「私の隣を許すのも、私が守るのもお前だけだ」
と甘やかに言葉零して。シルフェレドは野太刀『護国坊』を構えて一歩前へと歩み出た。地を蹴るや、敵中へと突っ込み野太刀を振るう。
「シルフェレド!」
捨て身のように鼠共を追い込むパートナーの姿に、ハーケインは思わずその名を叫んでいた。その声を耳にシルフェレドは薄く微笑み、やはり自らが傷付くことも厭わずに得物を振るう。ハーケインが怒鳴った。
「貴様一人危険に晒して、俺が何も感じないと思ってるのか!」
知らず口からとび出した、言葉。太刀の一閃で纏わりつく鼠たちを薙ぎ払ったシルフェレドが、ハーケインの方を振り返って妖しく笑んだ。
「私が危険に晒されるほど、お前は私から離れられなくなるだろう?」
「っ……! 違う! 今のは無しだ!」
狼狽するハーケイン。その反応に、シルフェレドは益々笑みを深くするのだった。
「はははッ! この俺を敵に回したことを後悔するんだな鼠共!!」
高らかに笑うティーダのHS・アーミーM6-38口径×2から、銃弾が飛ぶ。その隣では、アリスが逃げ出そうとする鼠へとウィンクルムソードを振るっていた。牽制の為の一撃。けれどそれは、必死の鼠を猛らせた。不意に攻勢に転じた鼠が、アリスへととびかかろうとする。思わず身を固くするアリス。けれど彼へと攻撃が届くよりも早く、鋭い銃弾が鼠を地面へと撃ち落とした。
「恐れることは無い」
鼠を撃ち抜いた銃を下ろして、ティーダがアリスの耳元に囁く。
「相手はただの獣、アリスが思うように動けば良い」
2丁の銃を得物とするティーダには、トランスの時のようにアリスの手を握ってやることも彼を抱き寄せてやることも叶わなかったが、それでもアリスが安心するようにと、揺るがない言葉にしかと想いを乗せる。アリスの緊張がふっと解けるのが、ティーダには分かった。
「そうだね、君が居れば安心だ」
ティーダの言葉が運んだ安堵を胸に抱き、未だ残る恐怖は彼の服の裾をぎゅっと握ることで押し込めて。アリスは、真っ直ぐに前を向く。
「ティーダ、早く終わらせてあの滝へ行こうよ」
僕は愛よりもチョコレートさと、アリスは相変わらずの無表情でうそぶいた。
(――よし、詠唱完了だ)
ゼクの杖の宝玉が、魔力を充分に蓄えてぶわりと光る。赤の視線を直香へと遣れば、常にゼクの様子を窺っていた直香が小さく頷いた。
「皆、魔法いっきまーす!」
直香が知らせれば、仲間たちが、レティシエが、すぐさま退避を図る。こういうところは普段通りで助かると思いながら、ゼクは魔力を解放した。大気中のエネルギーを取り込み肥大化したプラズマ球が、鼠の群れの中心へと叩きつけられる。プラズマが炸裂四散し、殆ど全ての鼠がその命を手放した。
「次弾の詠唱は……必要なさそうだな」
ゼクが杖を下ろす。間もなく、ウィンクルムたちの手によって全ての鼠が退治された。
●ご褒美は甘い時間
「鍋にチョコ汲んだ方が食べやすいよね。ゼクお願い☆」
「重労働は俺任せか。いつものことだが」
という直香とゼクのやり取りの末、無事任務を終えた一同の前にはチョコレートの大鍋がスタンバイ。
「俺は苺一択で」
といつも通りのポーカーフェイスながら燐光の瞳は子供のように輝かせて、先ずはハティが、串に刺した苺を鍋の中のチョコレートへと潜らせ、口に運んだ。
「リン、美味しい」
「はいはい、そりゃあ良かったな」
そんな会話を交わすハティとブリンドの傍らでは、コニャック入りのホットチョコレートに柿ピーで、ミストが一息ついていた。
「ミーストっ」
フォンデュしたバナナの串を手にしたスコットが、彼の隣にちょこんと座る。
「さっきはごめーんあいしてるー」
「ハイハイ俺も愛してる」
「……えッ。あ、うぅ」
冗談めいた愛の囁きにおざなりに応じれば、耳まで真っ赤になってバナナを取り落としそうになるスコット。ミスト、思わず叫んだ。
「そこで照れるのやめてくんない!?」
「く、口に出して言われるの久しぶりだからびっくりしたんだよぅ!」
一方、ハーケインとシルフェレドは、小鍋にチョコレートと一緒にシルフェレドの選んだ酒を垂らして大人のチョコフォンデュ。
「チョコフォンデュは少し酒を入れてもいいな」
とハーケインが遠回しに『美味しい』と言えば、シルフェレドも口元を艶っぽく緩ませて。
「お兄さん達のチョコフォンデュは僕達のとは違うんだね」
チョコ掛け苺を口に楽しんでいたアリスが、真顔のまま、それでも興味深げにハーケインたちの鍋を覗き込む。笑みを深くするシルフェレド。
「食べてみるか?」
「シルフェレド、子供に酒を勧めるな!」
すぐさまハーケインの叱咤が飛び、シルフェレドは一つ苦笑を漏らすとハーケインの口の端を指でなぞった。そこに付いていたチョコレートを、口に運ぶ。
「なっ……!」
「ふむ、こちらのほうが余計に美味だな」
言ってシルフェレドが笑むまでの一部始終をじーっと見遣って、傍らのティーダへと水を向けるアリス。
「ねぇ、ティーダ。大人というのは難しいね」
「はッ。いかにも子供じみた台詞だな、アリス」
尊大に言って、ティーダがとろりとチョコレートを纏ったバナナを口に運べば、アリスは「子供だからね」としれっとして応えた。
「んっ、林檎は食感も良い感じ」
チョコ掛け林檎を口に楽しんだ直香、おもむろに林檎をもう一切れチョコレートに潜らせて、ミルクを混ぜたチョコレートドリンクを飲んでいたゼクの口元へとそれを運ぶ。
「ゼク、あーん、して?」
ゼクは心中でため息をついた。思うことは、
(今まで何度このやり取りをしたことか……)
である。けれど、どうせ今回も寸止めか冗談の類だろうと思いつつ一応口は開けてあげるゼク。と、その口にチョコ掛け林檎がとび込んできた。ゼクの赤の瞳が見開かれる。
「レティシエちゃんが見てるからね」
さらっと言って、固まるゼクは放置で今度はマシュマロを大鍋に潜らせる直香。一同が過ごした甘い時間をふわふわと眺めていた妖精レティシエは、今ならとびきり素敵なチョコレートが作れそうだとその口元に笑みを乗せたのだった。
依頼結果:成功
MVP:
名前:柊崎 直香 呼び名:直香 |
名前:ゼク=ファル 呼び名:ゼク |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 巴めろ |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 02月11日 |
出発日 | 02月22日 00:00 |
予定納品日 | 03月04日 |
参加者
会議室
-
2015/02/21-23:57
俺は定番のバ・ンナァーナァーがスキでぇーす。オウイェ~
ミスト『プランは提出済みデェース。らぶいちゃは若人にまかせたー』
そんな…!ミスト、そんな!エクストリーム殺生な!!
ミスト『ああ、チョコがけのアイスクリームもうまいよなー』
ミストおぉ…!!! -
2015/02/21-23:47
僕、りんご、好きーφ(..)
プランは送信してあるよー。
普段いちゃいちゃと無縁の生活してるんで
皆のラブっぷりとレティシエちゃんの脳内補完を期待するのだよ。 -
2015/02/21-23:00
初めましてだね、お兄さん。そういえば人数が揃ったんだ。
わぁい 皆でチョコパーティーやー(真顔)
……苺は僕も食べたいからお願いしてみるつもり。
プラン出来た。出して来る。 -
2015/02/21-18:47
最後、飛び入りになったがハティとプレストガンナーのブリンドだ。よろしく頼む。
俺達も各個撃破になるな。敵の数をまとめる方向で了解した。俺もブリンドも前衛で対応を考えている。
スキルはダブルシューター、武器はコネクトハーツ(追撃で攻撃力プラス)を持っていこうかと思う。
ブリンドの攻撃回数2回の内1回を追撃に使い、残り1回は臨機応変に、撃ち漏らしのないよう加勢できればと。
食材は…レティシエさんにお願いする形になるのだろうか?
事前準備が可能なら苺!はフォンデュしたいこころ。
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2015/02/21-11:14
撃ち漏らしや発動までの対応はこちらに任せろ
脳筋ハードブレイカーのシルフェレドが突撃
俺は弓で援護しよう
滝フォンデュの方も書き込んでおく -
2015/02/20-22:10
チョコフォンデュおいしそう~。何かフルーツを持っていこうかなあ
とか言いつつ文字数足りなくて
プランが「滝へ行く」の四文字だけとかなったらごめんね
せめて「滝フォンデュ」くらいは書けるようにがんばるー
俺はミストが集めきれなかったラットを、一方向に追いやるよう動くよ
その後はカナリアの囀りで倒しきれなかったラットを潰してきまーす
ハーケインやティーダ様たちと力を合わせれば、きっと一匹残らず駆除できるよね! -
2015/02/19-00:35
チョコレートの滝にはGOの方針で良いかな。
定番にチョコレートフォンデュとかやりたい。
の、前のハイハイお仕事。
ミストさんのアプローチ有難いなー。
じゃあうちの攻撃メインは「カナリアの囀り」スキルで。
パッシブで範囲と威力上げてくから範囲15m四方攻撃になるよ。
しかしながらご存知の通りの発動の遅さなので
ラットたちを出来るだけ分散させないこと、
及びカナリア後の撃ち洩らし対応よろしくお願いしますです。
うちは数減らすの目的な感じ。
あとは各自らぶいちゃってればいいんじゃないかな! -
2015/02/17-14:09
ティーダ:
ハンッ、貴様ら小市民に名乗る義理はないが、アリスの頼みとあれば致し方ない。
俺の事は気軽にティーダ様と呼ぶが良い!!(尻尾をぱたぱた振りつつ)
範囲攻撃はない。よって各個撃破する。逃げようとしたヤツは俺が撃ち抜く。
アリス:
初めまして。宜しくね、お兄さん。
……とりあえず仮のプランを書いてみようかな。
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2015/02/17-00:41
ひゃっはー
愛戦士スコットとロイヤルナイトのミストだよー。よろしくねぇ
チョコレートの滝かぁ。修行がはかどりますな!
ミスト『行くのに賛成なのはわかったけど、まちがっても打たれようとか思うなよ…
敵の数はわかんねーけど、戦場が拓けた場所だから
工夫すれば打ち洩らさずにいけそうだな
範囲攻撃を使うなら俺はアプローチを使おっかな
まとまった数の敵を一ヶ所に集める感じに。』 -
2015/02/15-23:50
チョコレートの滝、皆が行くなら僕も行ってみたいな。
ヒャッハァー
ティーダの真っ白な髪をチョコレートでベタベタにしてやるぜー(棒
デミはどのくらい出るだろうね?数が多くても一匹一匹はあまり強くないようだし
油断しなければ倒せそうだ。それにほら、お兄さん達はとても強いしね。 -
2015/02/15-19:33
ハーケインとシルフェレドだ。よろしく頼む。
こっちは範囲攻撃を持っていない。各個撃破で行くつもりだ。
チョコレートの滝か。
甘い匂いが凄そうだが、行ってみてもいいな。 -
2015/02/15-18:27
どうもどうも。
クキザキ・タダカと、精霊はエンドウィザードのゼク=ファルだ。
たぶんその辺にいるであろー。
メンバー揃ってないんで敵の数不明状態だけど、
うちのせいでそこそこの数にはなっているかも?
特に障害物無いなら範囲攻撃スキルも視野に入れてる。
とりあえず、戦闘後にチョコレートの滝を訪れるか否か、
希望聞いておいた方がいいかな?
うちは強い希望は無い系だけど、せっかくの機会なので
行ってみたいなーと思ってるー。 -
2015/02/15-18:26
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2015/02/15-01:21
やぁ、初めましてだね お兄さん。僕はアリス、こっちはPGのティーダだよ。
子供だからね、解らないなりに愛を表現してみようと思ってるんだ。
……今回は挨拶だけ。作戦はまた改めてお話しするよ。