プロローグ
タブロスのふとした街角にある小さなお店、黒猫屋は、その季節ごとは勿論、仕入れによってメインが変わる料理屋だ。大きくはないがのんびりとした店構えは、近所の奥様方のよい会議室になっている。
パスタやケーキを食べながら、子供達が学校に行っている間のひととき、おしゃべりして過ごす。今日も今日とて、何処かから聞きつけたニュースで、話は持ちきりだ。
「ほら、たまご村、あるでしょう?」
「卵と鶏肉で生計を立てている、郊外の小さな村のこと?」
「ああ、あなたの妹が嫁いだ村ね。お裾分けの鳥ハム、美味しかったわ~」
「その村の一番の養鶏所に、化け物が出たんですって!」
えええ、女性は三人よれば姦しいということわざ通り、三人の奥様の声は甲高く、リアクションも店に響く。少し落ち着いてきたピーク過ぎ、ほっと出来る時間に降ってわいた話題に、店長も気になって厨房から顔を出す。
「困ったなあ。オーガかな、デミかな、あそこの卵と鶏肉、贔屓にしてたのに……もしも村がつぶれてしまったら、どうなるのだろう」
厨房のボヤキは、奥様方には届かない。甲高い声からするに、話題を出した奥様の妹は、無事ではあるようだ。
料理人見習いのアネットも、厨房から顔を出した。アネットは料理が大好きだ。贅沢はいらない。料理を作れて皆を楽しませて、かつ、自分も美味しく食べられればそれいい、それがアネットの生き方だった。
噂話が、ぴん、とアネットの中の電球に、明かりを灯す。
「店長、空腹が一番のスパイスならば、苦労してお腹すいて手に入れたものは、ますます美味しいわよね?」
「ん?そうだね」
突然、わくわくとした声で話し出したアネットに、店長はきょとんとする。尋ねられて、頷いた。
「雪の中のキャベツが美味しいように、つらい環境にある食材は、とっても美味しいんじゃない!?」
「そ、そう、かな?」
嫌な予感がした。アネットは、自由奔放な娘なのだ。明るい声色に店長は曖昧に答えたが、アネットの瞳は勢いよく輝き出してしまう。うきうきいそいそと三角巾とエプロンを取り、畳むのもそこそこに棚の上に載せると、厨房から店内へと飛び出す。
あ、と止めようにも、アネットの足は速い。名前を呼んでも、こちらを向いてくれない。
「あら、アネットちゃん」
「もうお帰りなの?」
元気なアネットは、この店でも人気者だ。にこやかに声をかけられて、大きく頷く。一人、赤毛が美しい奥様は、本日とても綺麗なブリリアントイエローのワンピースを着ていた。
「奥様、村の地理について、詳しくお伺いしてよろしいですか?」
奥様からいただいた、とある村の詳しい地図を持ち、アネットは店を出て行った。行先は勿論、A.R.O.Aである。
「卵!美味しい卵で、オムライスを作ろう!」
そうすれば、不安な村人達の心とお腹も、きっとほっとするに違いない。そして、自分もそんなオムライスを食べてみたい。アネットはきらきらとした表情で、町を駆け抜けていった。
解説
美味しいオムライスの為、デミ・ベアーが出たという噂の養鶏所に、卵を取りに行こう!
■とある村は鶏を育てて生活していましたが、そこで一番大きな養鶏所にデミ・ベアーが一匹、入り込んだということで、村の人も困っています。倒してくれるならば、お礼として卵も沢山持って行っていいそうなので、入り込んで調べ、倒してください。
■鶏を放し飼いにしてのびのびと育てていた養鶏所で、鶏が夜過ごす小学校の体育館ほどある鶏小屋と、昼に過ごす校庭ほどの牧場があります。デミ・ベアは鶏小屋に住み着いたようです。鶏小屋の天井は低いので、おびき出して戦うのがお勧めです。
■噂によると、入り込んだデミ・ベアーは、その名の通り毛むくじゃらの熊のような見た目だということがわかっています。全部で一匹ですが、立ち上がると3メートルほどもあり、大きいです。大きな三本の爪で攻撃してきます。
■養鶏所の主が無我夢中で逃げたとき、たまたま手に取った石を投げると二本の角の間に当たりました。するとデミ・ベアーはとても痛がって動きが鈍くなり、主は逃げられたようで……?
報酬は村人からと、アネットからの美味しいオムライスです。アネットはその場で皆様に振舞うため、自分が食べる為についていきますが、非戦闘員ですので後ろに下げたり守ったり、戦いを知っているPCさん達が指示してあげてください。
プロローグはNPCが多数登場しておりますが、討伐は勿論PC主体となります。解決に向けて作戦を練り、頑張ってください。
レッツクッキング!
ゲームマスターより
はじめまして、くにともほしと申します。習うより慣れろ、で一つ冒険を作成してみました。よろしくお願いします。コメディよりの簡単なものですので、肩の力を抜き、お腹を空かせて頑張りましょう!
①キャラクターが参加した動機
例1「どんなオムライスか興味があるから」
例2「村の為だと思ってたら、オムライスがついてきた」
例をそのまま引用しても構いません。
②どんなオムライスがお好き?
行動プランの他に、そちらもお伺いしたいです。因みに私は、卵にチーズと生クリームを混ぜてふわっとろにした、定番チキンライスにデミグラスソースのオムライスが今食べたいです。オムライスはカロリーを気にしたら負け。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
シャルル・アンデルセン(ノグリエ・オルト)
1村の為だと思ってたら、オムライスがついてきた 2オーソドックスなケチャップオムライス 鶏小屋での戦闘は狭いですし他のニワトリさん達も巻きむわけには行きませんのでまずは外までおびき出します。 誘いだしにはオ・トーリ・デコイさんに頑張ってもらいましょう! 後は私達が石などを投げれば反応してくれるでしょうか? 誘い出しに成功したら攻撃です。 角の間が弱点のようですのでできればそこを狙いたいです。 私は戦うのは苦手なので戦闘中にニワトリさん達に危険がないように戦闘している場所に近付かないようにしてあげようと思っています。 オムライス…美味しそうですね。 あ、そうだ(ケチャップでハート) はい、ノグリエさんどーぞ♪ |
菫 離々(蓮)
「村の為だと思ってたら、オムライスがついてきた」のです 養鶏所が熊牧場になる前に解決しましょう 養鶏所に到着次第トランス。 建物の位置関係を把握し デミ・ベアーを鶏小屋から牧場側へ誘き出します。 オ・トーリ・デコイで気を惹き、ベアーが小屋から出たら すぐに扉を閉め再度中へは入らせません。 後の対応はハチさんに任せ、後方でアネットさんと待機です。 鶏の群れがあれば一緒に。 被害状況はどの程度でしょう 後片付けと……アネットさんのお手伝いができれば 協力させて頂きますね オムライス 私はふわとろ半熟デミグラスが好きです ハチさんはケチャップですか ハート? 構いませんが難しいリクエストですね 心房と心室の区別が上手く表現できません |
アンダンテ(サフィール)
村の人と美味しいオムライスのためにも頑張って退治しましょうね 勿論、両方大事よ 牧場に入ったらトランス まずは戦いやすいようにデミを鶏小屋から誘き出すわ オ・トーリ・デコイを放って注意を引いてみるわね ざーっと牧場の様子をみて何もいない所を意識して放しておくわ 放ったらあとは危険だから下がるわね デミが牧場に出てきたら私は後衛からクリアレインでサポートするわ 相手の攻撃力が高そうだし喰らわずに済ませられればということで 閃光効果で目晦ましを狙ってみるわ 前衛の動きをみて邪魔にならないよう支援 余裕があったら角の間を狙う 一体どんなオムライスなのかしら… わくわくするわね! 私はふわふわとろとろな半熟卵オムライスが好きなの |
水瀬 夏織(上山 樹)
①村の為だと思ってたらオムライスが付いてきた ②バター風味ライスで大根おろしと刻み大葉ののった醤油ベースのソースをかけたもの 鶏舎に近付いてからトランスします。 アネットさんを農場の外で待つよう説得します。説得が駄目なら自分と上山さんの傍を離れないよう伝え、皆の後方に控え常にアネットさんの傍らで剣を構えて警戒します。上山さんと私でアネットさんを挟むように位置を取ります。 敵が此方まで来るようであれば、上山さんのバリアで弾かれた所を眉間もしくは二本角の間を狙って剣を突き出し攻撃し、すぐに後ろに引きます。バリアを突破された場合、間に立塞がる等アネットさんの身の安全の確保を第一に行動します。 |
■養鶏所に向かおう!
念の為にと、ある程度の範囲内の村人を避難させると、途端に辺りには閑散とした空気が漂う。元は穏やかで優しい村が、人も家畜もいなくなると、一つ一つが広く多い牧場や畑であるからか、寂しい。
そんな中を、さくさくと進む集団が一つ。一際声が大きいのは、大きな荷物を背負ったアネットだ。
「たまごまごまご、まごまごたまごー。おいしーいたーまーごーで、オムライスー!」
オリジナルの歌を歌いながら、うきうきと進むアネットに、苦笑しつつ咎めたのは水瀬 夏織だ。
「アネットさん、ピクニックじゃないんですよ」
「あ、ごめんなさい。つい」
弾む声を聴いて、アンダンテがくすくすと笑う。その横でサフィールは空を見上げながら、本当にオムライスがあるのか、と心の中で妙な感心を寄せた。来るまで半信半疑だったが、どちらにせよ仕事は仕事なので、頑張ってこなすのみである。
うきうきとしているのは、アネットだけではない。シャルル・アンデルセンも同じように鼻歌交じりで、綿毛のような髪を揺らしながら目的地へ進んでいた。それを微笑ましく、ノグリエ・オルトが傍らで見つめている。
「私、オムライス大好きなんです。まさか、まかないがついてきて、しかもそれがオムライスだなんて!楽しみです」
「ふふ、そうね。討伐もオムライスも、両方大切だわ」
ねー、と微笑みあうシャルルとアンダンテとは別に、こっそりと楽しみにしている者もいた。黙々と歩く菫 離々の隣でそわそわしているのは、蓮だ。彼にはオムライスと聞いてから、彼女にやってほしいとある目的があった。
ちら、と横を見ると離々はその視線に気付き、いつものふわんとした笑みで蓮を見上げた。
「熊牧場に、なってないといいですね」
「……そうなってたら、この人数じゃいくら命があったって足りませんって、お嬢」
ずれた感想に脱力しそうになるが、今は任務が最優先なのも頷ける。いつもふんわりしている離々だが、任務となると前をきちんと見据えていて、蓮も仄かな野望を押し込めて背筋を伸ばした。
「く、熊牧場」
その会話を聞いた夏織は、沢山のデミ・ベアーが牧場内にひしめいているのを想像し、改めてアネットの前に出て、目線を合わせた。卵で頭がいっぱいだったアネットも、夏織の必死な様子に真っ直ぐ見やる。
「アネットさん、やっぱり逃げてください。熊牧場になっているにしろなってないにしろ、戦いになったら危険です」
「水瀬に同意するよ。もうここまで来てしまったから、僕らがバリアで守る。傍を離れないで」
上山 樹も頷き、夏織に同意する。真剣な二人の様子に、アネットも笑みを消した。
消して、少し周囲を見てからまた笑って頷いた。荷物の横にぶら下がったフライパンや菜箸が、からんと音を立てる。
「わかった。私は遠くに行っているわ。これは村の人の為だから、養鶏所を守ってあげて。私は、丘の上のほうにいるわ」
「本当ですか?」
地図を見ただけだが牧場は広く、丘の上と養鶏所は充分に離れている。それならば、よっぽど足が速くて目的があって丘を目指さない限り、安全だろう。夏織はほっと胸をなでおろし、樹と顔を見合わせ笑いあう。
そろそろ、養鶏所が見えてくる頃だ。一同の作戦会議も、最終段階に入る。ノグリエはあと少しの位置の養鶏所を、目を細めて遠く眺めた。
「ここまで来て静かだと言うことは、どうやら熊牧場にはなっていないようですね」
耳を澄ますと、こけこけと聞こえるのは鶏の声のみで、悲鳴も咆哮も何もない。
鶏の声。シャルルが表情を輝かせる。
「鶏さん、生きていますね!」
「本当だわ。全滅、してなかったみたいね」
声が聞こえると言うことは、そのぶんまだ生きているということだ。シャルルの言葉に、一同も気付いて胸をなでおろす。遠くに微かに聞こえるということは、丘のほうへ逃げたのかもしれない。
「じゃあ、卵も丘にあるかも」
「なら、私がアネットさんを手伝いに行きます」
「助かるわ、離々さん!」
養鶏所から、まがまがしい気配が漂う。仲にいるのは明白だ。手前に養鶏所の主の家があり、そこから柵を越えた少し離れた場所に、くだんの養鶏所が建っている。その先は広い敷地と小高い丘が見えて、確かに、頂上のほうにひょこひょこと動くものが見えた。
ざっと確認したアンダンテは、ポケットから可愛らしい鳥のおもちゃのようなものを出す。オ・トーリ・デコイ、囮に使えるアイテムだ。
「アネットさん達が丘へ登り切ったら、戸を開けましょう。これを囮に使うわ」
■いざ!
丘の上遠く、離々がゆっくり手を振るのを、蓮はきちんと見ることが出来た。ハチさーん、と口がぱくぱく動いているのが見える。
「うちのお嬢とアネットさんは、充分離れたみたいです」
広い養鶏所は、体育館ほどの広さがあり、デミ・ベアーは奥の方に潜んでいるようだ。小声で話しているとはいえ、こちらに気付く様子がない。ぐるる、と寝息を立てているのか、小さく恐ろしい唸り声が、等間隔で遠くから聞こえてくる。
トランス状態で待機した一同が、互いに頷きあう。養鶏所の一番大きな扉を、シャルルとノグリエがゆっくりと開いた。
全員で開いたドアに隠れながら、シャルルが持っていた小石を投げる。丘手前の広場へ投げた小石は、踏みしめられた広場の地面にカツンと高らかに当たり鳴った。
「グォオ」
奥から、声が聞こえた。続いて、のしのしと、こちらへ歩いてくる音。覗かなくてもわかる、デミ・ベアーがこちらに向かっているのだ。しかし、まだ警戒しているのか、完全に出てくる様子がない。
続いて、広場わきにある餌などを保管する小屋の影から、アンダンテがオ・トーリ・デコイを投げる。ピイピイと可愛らしく鳴きながら動き出したそれに、中にいたものが飛び出してきた。どうやら、餌だと思ってくれたようだ。
大きな体躯に日本の角、まだオーガになっていない、デミだ。ひょっとして潜伏している間に、とも考えたが、杞憂だったことに取り敢えず安堵する。
デミ・ベアーがオ・トーリ・デコイに飛びついた瞬間、シャルルが養鶏所の中に滑り込み、ノグリエが思い切り扉を閉めた。音に気付いたデミ・ベアーがこちらに振り向くが、その時には既にトランス状態の蓮が飛び出し、腕を振り上げる。
「オーガになる前に、仕留めなければ、ですね!」
手甲に白蛇を宿し、まだ突然のことに驚いているすきをついて、デミ・ベアーの眉間に振り下ろした。ガガン、と岩が割れるような音がして、デミ・ベアーが額を押えうずくまる。
「サフィールさん!」
「任せてください、アンダンテ」
落ち着き払った声と共に、サフィールが美しい杖を両手で持ち、詠唱を始める。口から泡を吹き、転げ舞わっているデミ・ベアーにとどめを刺すべく、力を注ぐ。サフィールの周囲に、夏織がバリアを貼った。
スネイクヘッドの後遺症により、はあ、と蓮は疲労の溜息を付く。のたうち回っていたデミ・ベアーが、我武者羅に人の気配がするほうへ腕を振るい始めた。ダメージで視界が悪いのかとんちんかんな方へ爪を立てるが、こちらに来るのも時間の問題だ。
何より、まだ蓮が傍にいる。アンダンテはクレアレインを引いた。
「目を閉じて!」
ぱあ、と光が当たりに散る。言われた通り目を閉じた者は大丈夫だったが、まともに閃光をくらったデミ・ベアーは、完全に光を失ったようだ。更に足がおぼつかなくなり、悔しそうに呻き叫ぶ。樹が咄嗟にバリアを貼って、蓮の安全も完全に確保した。
「こっちですよ」
ノグリエが出した鳥のぬいぐるみがデミ・ベアーの頭を突いて方向を狂わせ、蛇のぬいぐるみが足にひっかかり転ばせる。蓮がその隙にデミ・ベアーから離れて、サフィールに目配せをした。
タイミングは、今しかなかった。
「完璧ですね」
滅多にない笑みを浮かべて、サフィールは乙女の恋心Ⅱを放った。弱り切っていたデミ・ベアーに効果抜群だったようで、今迄で一番大きな声で叫び声をあげると、それきりぴくりとも動かなくなった。
土ぼこりがいくらか晴れた頃、そろ、と蓮が近付く。顔を覗き込み、軽く蹴って、完全に絶命したことを確かめた。一同に歓喜が広がり、声を上げようとしたところで、養鶏所の中でガランとけたたましい音が鳴り響く。
「まさか、中にやはりもう一匹隠れて……!」
中にはシャルルが入っている。青ざめたノグリエが慌てて、養鶏所の扉を開け放った。
「いったあ」
シャルルは、出入り口付近にいた。デミ・ベアーが破壊した柵につまずいたのだろう、地面に座り込んでいる。痛む箇所をさすれないのは、バケツを抱えているからのようだ。痛みに目を潤ませても、バケツを大事に抱えて離さない。
慌ててノグリエが駆け寄って、夏織も傍により回復魔法をかける。
「シャルル、どうし……」
「見てください。瓦礫の隙間にいたんです!」
微笑み、シャルルがバケツを差し出す。首を傾げて後からやって来た蓮とアンダンテとサフィールとともに、バケツの中を覗き込む。
あどけないひよこが五羽ほど、ぴいぴいと皆を見上げていた。
「もしやと思って、入って見たら」
「まあ」
ふかふかで可愛らしいひよこは、元気な姿でバケツの中を歩いていた。散らばった餌が、数日の間でももったらしい。小さな雛だからこそ、助かったのだろう。戦闘から一変し、愛おしいひよこ達に、完全に一同の緊張が解けた。
「夏織さん、回復魔法、ありがとうございます」
「軽い擦り傷だったので、治せてよかったです」
すっくと立ち上がったシャルルに、夏織はほっとして微笑んだ。早く、親鳥たちに会わせてやらねば。そうしたら、待ちに待ったオムライスタイムである。バケツを持つシャルルを筆頭に、全員は養鶏所を後にした。
■召し上がれ!
ふわふわと漂ってきたのは、甘いバターと卵の香り、そして酸味の利いたトマトの香りだ。オムライスが着々と出来上がっているのである。
アネットは、とても大きな荷物を背負っていた。ぱんぱんに膨らんだリュックサックにはフライパンと菜箸もぶら下がっていたので、まさか、という空気はあった。
そのまさかはその通りだったようで、アネットは丘の上で例の歌を歌いながら、石を積み重ねコンロを作り、オムライスを作り始めていた。
「たまごまごまご、まごまごたまごー。おいしーいたーまーごーで、オムライスー!」
「たみゃご……」
は、と夏織が口を押える。アネットの歌は妙に脳に残って、無意識に口ずさんでしまったうえ、噛んだ。横でそれを聞いた樹は、容赦なく噴き出して、口を押えて震えた。
ぶくくと笑う樹に、夏織は破裂するかというほど、羞恥で顔を赤く染める。
「もうっ、いっそ大声で笑ってください!」
「ん?どうしたの?」
「な、なんでもありません!」
首を傾げるアンダンテが受け取ったオムライスが最後で、全員にオムライスが行きわたる。ほかほかと湯気を立てるオムライスは、全員がオーダーしたものだ。
「リクエストがなかったサフィールさんのはアンダンテさんと同じ、ふわとろ半熟たまごにオムライスにしてみたの!シャルルさんはオーソドックスって言ってたけれど、オムレツ風のふかふかオムライスでよかったかした?ノグリエさんもリクエストなかったから、同じにしてみたわ。夏織さんは大根おろしと刻み大葉の醤油ベースの和風オムライス、樹さんはふんわり卵のオムライスね。離々さんはふわとろデミグラスだったわね!蓮さんは、薄焼き卵のオムライスで、完璧かしら!じゃ、召し上がれ!」
べらべらべらと完璧に覚えていたオーダーを復唱し、アネットは合図とばかりにフライパンを叩いた。
お盆を膝に置いて、その上にお皿とスプーンと紅茶が載っている。めいめいのメニューを載せて、いただきます、と全員で頭を下げた。
「んん、美味しい!」
「うん、いい卵ですね。貰ってもいいと村の人達も言ってましたし、嬉しい収穫です」
生クリームと卵とでふわふわにとろけた卵は、チキンライスとともに口の中で溶けて行った。騒がしく自由奔放なアネットが作ったとは思えない優しい味に、一同同じ思いらしく、幸せな空気が流れている。
加えて、のびのびと鶏が育つよう整えられた丘からの景色は美しく、天気も悪くない。気持ちよく終えた任務の後、この景色で食べるオムライスの味は格別だった。
そわそわとしていた蓮が、隣に座る離々に耳打ちする。今こそ、無事目的を果たせたらかなえたかったことを、実行するときだった。
「お嬢、その、ハートを」
「んん?」
一口オムライスを食べ、その味にふわんと表情を綻ばせた離々は、首を傾げる。蓮は色黒の肌でもわかるくらい、赤くなって主張した。
「オムライスに、ハートを描いてほしいんですがっ」
「ハート」
離々は更にきょとりと首を傾げる。詳しく説明するのは、恥ずかしくて死ねた。しかし、と口を開こうとしたとき、わ、と明るい声が響いた。
振り向けば、離々と蓮の席から一番遠い位置にいるシャルルがにこにこと、ケチャップを持っていた。
「はい、どーぞ!」
「シャルル……」
ノグリエのオムライスには、可愛らしいハートがえがかれていた。シャルルがはにかんで、答えた。
「ちょっと過保護で困ることもあるけど、いつも、ありがとうのハートです」
ノグリエは、感動で涙ぐんだ。元々美味しかったオムライスが、シャルルの手によって極上のフルコースと化したのである。笑顔とオムライス、この二つで、ノグリエにとって高級レストランのそれより勝った。
蓮も、期待で胸が躍る。あれだ。自分は、あれがやりたかったのだ。
「お、お嬢さん!」
期待に離々を見れば、難しい顔で唸っていた。どうやら、シャルル達には気付いていない様子であり、一つ二つ首を傾げて言った。
「ううん、ケチャップでハートを……心臓を描くのは難しいと思うんです。形とか」
わかっていた。わかっていたんだ。蓮は項垂れた。
もぐもぐと自分の分を食べていたアネットが、シャルルを見てしゃきんと様々な調味料を取り出した。
「いいわね、ハート。料理はラブが肝心!」
どーぞ、と一同に差し出したのは、ケチャップだけでなくデミグラスソースにも描ける生クリーム、和風オムライスの為に海苔も刻み始めた。用意されたそれは、一同の真ん中にどんと置かれる。
一拍の思案の後、最初に手に取ったのは、樹だった。刻まれた海苔を取り、夏織のオムライスに振りかける。
「さっき、笑わせて貰ったので」
「うっ、も、もう忘れてください!」
また頬を染めながら、妙な喧嘩腰で夏織も樹のオムライスに海苔を振りかける。それを微笑ましく見ていたアンダンテが、ケチャップを取った。
「あ」
うっかりびしゃりとかけてしまったが、こほん、と咳払いをして改めて描き上げる。歪な形になってしまったが、びしゃりとかかった場所をよけて、なんとか小さなハートが描きあがる。
「どう?」
「可愛いですよ。では、俺も」
「次はボクに貸してください。うちのお姫様のオムライスにも、ハートを描きたいので」
ハートの輪が広がっていく。手から手へ渡っていく愛の姿をじっと見て、蓮は意を決して生クリームを取った。
かけたケチャップを広げてしまっている離々のオムライスには、ケチャップで再び描いたら味が濃くなってしまうし、同じ色で意味がない。生クリームをうまく落として、ハートを描き上げる。
「料理はラブですって、お嬢さん」
描きあがったハートを見て、離々は瞳を輝かせた。はっとした顔で、ハートを描き上げる。こうして、全員の料理に心臓ではなく、愛が行きわたった。
丘にいた鶏達が、数日ぶりに再会したひよこ達と身を寄せ合い、そんな一行を見上げている。小高い丘から美味しそうな匂いが村人達に届くまで、もう少し、時間がかかりそうだった。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | くにとも ほし |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 冒険 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 02月12日 |
出発日 | 02月17日 00:00 |
予定納品日 | 02月27日 |
参加者
- シャルル・アンデルセン(ノグリエ・オルト)
- 菫 離々(蓮)
- アンダンテ(サフィール)
- 水瀬 夏織(上山 樹)
会議室
-
2015/02/16-23:55
-
2015/02/16-23:54
蓮:
いや水瀬姐さん萌え……とか口が滑りそうになっただけです。
ちなみにうちのお嬢は噛まずに普通に発音してくださいました。
萌えどころを華麗にスルーしてくださる。知ってた。
いろいろ口出ししてましたが、
プランの三分の一はオムライスオムライスしてる感じに。
お仕事さっさと片付けたいところですね。まあ、頑張りましょう。 -
2015/02/16-22:37
乙女の恋心って心臓限定じゃなかったのね。
教えてくれてありがとう!
それじゃあやっぱり今回は乙女の恋心Ⅱにしておこうかしら。
弱点ぽい所は前衛さん達にまかせちゃって内部から攻めてみるわ。
こちらを使うときも、発動前には一声かけるわね。 -
2015/02/16-20:38
蓮さん、まとめありがとうございます。
な、なんだか動揺させてしまったみたいでごめんなさい…?
>オ・トーリ・デコイ
オ・トーリ・デコイについて了解しました。
可愛い、ですね。シャルルさんに同意です。
アンダンテさん、蓮さんも、教えてくださってありがとうございます。
>配置
前衛が蓮さん、オルトさん。
後衛がサフィールさん、上山さんですね。分かりました。
ですが、怪我などなさったら少し後ろに引いてくださいね。
少しになってしまうかもしれませんが、回復しますので。
アネットさんの護衛についても了解しました。
全力で守ります。 -
2015/02/16-03:29
蓮:
たまご……さりげなく水瀬姐さんに動揺。
うちのお嬢にも今度言って貰おう。
>誘き出し
人に被害が出ないのが一番なので、
オ・トーリ・デコイ等、物で誘き出せるに越したことはないですね。
ああ、説明不足ですみません。現在お嬢(離々)が装備しているアヒルさんです。
アンダンテさんも補足ありがとうございます。
>エンドウィザードスキル
「乙女の恋心」は特に心臓限定というわけではなさそうですが、
体の内部を一気に加熱するので弱点関係なく当たれば大ダメージだと思いますよ。
「カナリアの囀り」の方は敵味方区別無しの範囲10m四方攻撃なんで、
もし使う場合は一声掛けてください。
EWの高火力にさらされたらさすがの俺も悦ぶどころじゃn何でもないです。
>大まかな流れ
デミ・ベアーを鶏小屋から牧場側へ誘き出す。
前衛(ノグリエ氏と俺)がデミ・ベアーの主に弱点狙いで攻撃、
その後詠唱が完了次第、サフィール氏の魔法攻撃。
その間、アネット嬢は後方で護衛。
ここは主に水瀬姐さん上山氏が担当して頂けたら俺も有難いです。
……こんな感じでしょうか。
俺のところはプラン毎回出発時間ギリギリまでいじってるんで、
何かご指摘等あればお願いします。
あとは、個人の動きとして。
お嬢を前に出す気無いので後衛組と一緒にいるかと思います。 -
2015/02/16-02:56
わわっ、プラン締切こんなに早かったんですね。
遅くなりましたが。
シャルル・アンデルセンとトリックスターのノグリエさんです。
よろしくお願いします(ぺこぺこ
>誘い出し
オ・トーリ・デコイさん可愛いですよね…
オ・トーリ・デコイはアンダンテさんにお任せしますね。
石も効果がありそうです。
>弱点
角の間が弱点のようですが。
ノグリエさんのトリックスターのスキルだと的確に狙うのが難しいですね…。
攻撃としてはパペットマペットを使用させてもらいますね。
>アネットさん
怪我をさせるわけにもいきませんから。
できるだけ私達といてもらえれば…
私とノグリエさんが出来るのはこんなところでしょうか -
2015/02/15-21:09
アンダンテとエンドウィザードのサフィールさんよ。
色々と大変な事になっているようだけど、無事に片をつけて美味しいオムライスにありつけるといいわね。
>誘き出し
オ・トーリ・デコイも石投げも効果がありそうでいいと思うわ。
あ、オ・トーリ・デコイっていうのは装備品で囮効果があるの。可愛いのよ!
私も持っているから放ってみるわね。
あとはオーガは神人を狙いやすいとも聞くし、そのあたりも使っていければなって思うわ。
>弱点
露骨にそこが弱点っぽいわよね。
乙女の恋心って心臓を焼くそうだけど、心臓しか焼けないのかしら?
よくわからないのでこちらは数打てば当たる、って事でカナリアの囀りをセットして狙ってみる予定よ。
>アネットさん
そうね、護衛はいた方が安心そう。
水瀬さん達が傍についていてくれるのなら心強いわ。
私個人の行動としてはクリアレインで目晦まししてみようかなって思ってるわ。
あとは誘き出しと並行してざっと敷地や鶏の様子を確認しておこうかと。
サフィールさんは詠唱しなきゃだし後衛位置になるわね。 -
2015/02/15-21:07
-
2015/02/15-20:12
たがもg……っ(「たまごまごまご」が言えなかった模様)
ええと、こちらはライフビショップの上山さんです。
私たちは、後衛で回復、もしくはバリアを張ってということになりそうですね。
まだまだ経験が浅い故、「ファストエイド」しかスキルがないのですが…
頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。
>誘き出し
体格の大きい相手ですし、巧妙に隠れてはいないと思うので、石を投げつけるなどの挑発行為でこちらに出てきてくれないものでしょうか?
人の姿を見て襲ってくる可能性も有りますね。
オ・トーリ・デコイが何か分からないのですが、デミ・ベアーの気を引きそうなら利用するのも有りかもしれません。
>弱点?
2本の角の間、狙って攻撃できるものならば攻撃してみて頂きたいところですが、なるべく危険の無いようにお願いしますね。
眉間というのは生き物の弱点の一つですし、角の間ということは眉間に近い部位なのかもしれませんね。
>アネットさん
乱入してこられた場合、私と上山さんで出来るだけ保護できればと思います。
後衛ですし、それくらいしかできないかもしれませんし…
出来るだけ農場の外で待つよう説得し、駄目だったら私たちと行動を共にして頂くというのではどうでしょう?
>鶏
クマって雑食だったような気がするのですが…
食べられてしまっていないことを祈ります。
鶏がいない方へ誘導するというのには賛成です。
蓮さん、色々と考えてくださってありがとうございます。
出発日の事が頭からすっかり抜け落ちておりました。申し訳ありません。
他にお気づきの点などありましたら仰ってくださいね。
私も、無事デミ・ベアーを退治できるよう頑張ります! -
2015/02/15-19:09
蓮:
たまごまごまご。
どうも。スミレ・リリ嬢と、俺はハチスといいます。
シンクロサモナーです。基本は前衛で武器ぶん回し系です。
今回の任務はオムライス……の前に、デミ・ベアー討伐ですか。
現在ベアーは鶏小屋に居るので、まずそこから牧場側へ誘き出す、と。
>誘き出し
人間の姿を見ると、襲ってきますでしょうか。
あるいはオ・トーリ・デコイでも使って気を取られたところを
背後から追い立てるように攻撃、も有りですかね。
>弱点?
「二本の角の間」がこの個体の弱点かもしれない?
試しにそこ狙って攻撃してみましょうか。
>アネット嬢
できれば養鶏所外で待機していて頂きたいのですが、
自由奔放なお嬢さんのようなので、やはりいらっしゃいますかね。
後衛で護衛は必要かと。
>他
養鶏所の主が慌てて逃げたらしいのと、
ベアーが移動していないところを見ると、まだ鶏は居るのでしょうか。
念のため、鶏の群れの居ない方へ誘導の旨
プランに添えておこうと考えています。
いきなり長々とすみません。
出発日が早かったもので、喋らせて頂きやした。 -
2015/02/15-19:06
-
2015/02/15-08:15
水瀬 夏織と申します。
よろしくお願いいたします。 -
2015/02/15-05:14