【メルヘン】ついではどっち?(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

『にゃぁ……お菓子、いいにゃあ……』

黒耳ぴこぴこ。
ショコランドにある森の中をとぼとぼ。

本来、プリメール公園一帯でしか見かけないはずの二足歩行の黒ネコが一匹。

何故かここ数日、公園内には甘い香りのするお菓子を持ってくる人が多かった。
ちょっと分けてーと、いつものように隙をみてお菓子を拝借して食べてみると、何とまぁ美味しいものばかり。

 どうしてだろう。
 モノによっては時折見かけるお菓子とおんなじなのに、こんなに違う味に感じるのは。

黒ネコは不思議に思って、公園に訪れる人たちをいつも以上に観察してみる。
するとどうだろう。
お菓子を持ってきた人のほとんどが、連れ立ってやってきた相手や後から駆けてきた相手に
そのお菓子をプレゼントしているようだった。
もらった相手は女性だったり男性だったり、それでも皆、とても嬉しそうにそれを受け取って。
渡した人もその様子をとても嬉しそうに見つめて。
『あなたの為に作ったのよ』
なんて言葉がよく聞こえた。

 プレゼント?誰かのために?
 誰かをおもったお菓子だから、あんなに美味しいのだろうか。

 ……いいなぁ。自分にも誰かくれないかなぁ。

黒ネコは思ってしまった。
味わうだけなら、いつもの通りに公園を訪れた人から失敬すればいいけれど。
横取りするんじゃなく、プレゼントされたお菓子はまた違った味な気がして。
そういえばイタズラばかりだったから、わざわざ『はい♪』なんてお菓子をもらったことは無いんだった。

かといって、ここに来る人たちのほとんどが自分の姿を見ることは出来ない。
たまに小さな子供から指を指されることはあるけれど。

 ……、そうだ。
 うぃんくるむ。
 あのヒトたちなら。

 でもここ最近は忙しいのか、あまり見かけない気がする。
 どこだったかな……どこかへおしごとに行ってるって聞いた気がする。
 あ!ショコランドだ!きっと今行けばそこにいっぱい、うぃんくるむがいるに違いない。

黒ネコは思うが早いか、この時期行きやすくなっている妖精だけの秘密の道を通って
あっさりとショコランドへやって来たのだった。ウィンクルムたちの姿もすぐに発見出来た。
しかして。

 どうしよう。
 ちょうだい、って言ったらあの優しいヒトたちならくれる気がするけれど。
 そうじゃないの。ねだって貰うんじゃなくて……

黒ネコは何も考えていなかったので、途方に暮れた。
キャンディの木の陰から覗いたり、ビスケットの窓から様子を窺ったり。
何日過ぎても、ウィンクルムに中々声をかけることができない。どうすればいいか分からなくて。


* * * * * * * * *

「っていうケットシーが、ここのところすっかりショゲてる様子で森に居るそうです」

 とある通りすがりの小人がそんな話をもってきた。
え?ケットシー?いるのっ?
そんなウィンクルムたちの視線を受けて、妖精がコトっと首を傾げる。

「気づきませんでした?ここ最近やってきたみたいで、ウィンクルムさんたちの行く先々で見かけましたよ。
 話しかけたそうにして、でもすぐ去っていくのを繰り返してたので……『どうしたの?』って聞いてみたんです。
 そうしたら……ね?」

 わぁ。全然気付かなかった。
それにしても、プレゼントしてもらいたいなんて、いつの間にかどんどん人間っぽさを学んでいるような。
まぁでもそれくらいなら、と頷く様を見て、小人は嬉しそうにニッコリ。

「作る場所も材料も提供しますので。ぜひ、手作りのお菓子を持っていってあげて下さい!」

解説

●ケットシーへお菓子のプレゼント!ついでにパートナーへも……つ、ついでよ!ついで!作戦☆

ショコランドの森でしょぼくれているケットシーへ、
サプライズ!という空気を存分に作って喜ばせてあげましょう。

完成されたお菓子を持って、森でケットシーを探す所(または見つけた所)からスタート!
どんなお菓子を持ってきたかもお書き下さい。作っている最中の描写は入りませんのでご注意っ。

ケットシーが喜んで満足してくれた後……おもむろにアナタが取り出したのはパートナーの分。
日頃の感謝を込めて?材料が余ったからついでに?それとも ――
ついではパートナーでしょうか、ケットシーでしょうか……☆

●お菓子材料代
ウィンクルム一組につき<300Jr>消費。

また、どんなに頑張っても上手に作れなかった……!!こんなのケットシー(またはパートナー)に渡せない!
そんな方用に、ショコランド洋菓子店がご提供!可愛いラッピング付き☆

 ・クッキー詰め合わせ(花形・星形・ハート形 各種) <100Jr>
 ・フォンダンショコラ <200Jr>

※上手に作れなかった後(材料消費後)購入となるので、<300Jr>にプラス、という形になります。
 勿論、上手じゃないけど自分で作ったの渡したい!という方は、ご購入されずともOK。
※自分で作れた「手作りクッキー」等と紛らわしくなる可能性があるので、
上記洋菓子店から購入される方は「購」の文字をプランのどこかにご記載下さい。
(ケットシーとパートナー、両方の分を購入される場合「購×2」など分かるようお願い致します)

ゲームマスターより

計算誤った蒼色クレヨンです!いつも大変お世話になっておりますざしゃああああ!!(顔面からスライディング)

うっかりと!どう頑張ってもこのリザルト完成するのバレンタイン本番後になっちゃいますごめんなさいいいい!!
そんな主旨予定だったプロローグでございます……!

ケットシーにプレゼントを渡して喜ばせる、
パートナーにもお菓子を渡す、
上記二点が中心となります!甘甘でもコメディでも、キャラ様らしく楽しんで頂ければ幸いです♪

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  ケットシーさん いませんか?
可愛くラッピングしたチョコを手に かくれんぼ感覚で相手を探す
会えて嬉しい 
なかよしになりたくてプレゼントを持ってきたの
受け取ってくれる?
包み紙を開けると 出てくるのは魚の形のチョコレート

あの、ね
いつもお世話になってるからお礼

頬を赤くして 精一杯さりげなさを装いチョコを差し出す
甘いものの苦手な彼には ちょっぴりほろ苦いビターチョコ

受け取ってもらえば安堵の息
赤い頬のまま はにかむように笑う

それはアスターの花よ 可愛いでしょう?
花びらがたくさんあるから 女の子が恋占いに使…な、何でもない!

『私はあなたを想うでしょう』
今は口にできない想いを 花言葉にこっそり託して


八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)
  今年は手作りに挑戦しようと思っていたのでちょうどいいです
ケットシーさんにもアスカ君にも喜んでほしいな

作るもの
ケーキポップ
スポンジを丸めて串に刺しチョコでコーティング
カラフルなトッピング

ケットシーさんに渡した後、皆と離れて二人になり包みを差し出す
開けて一つ取り出しアスカ君に
去年のバレンタイン、覚えてる?
あの頃の私は内気で、友達もあまりいなくて
でも契約を機に自分を変えたいって思った
今は友達や仲間も増えて、アスカ君とも親しくなれて
素敵な一年になったと思う
あの時のアスカ君が勇気をくれたの
今年も受け取ってくれるかな…?

…どうしよう
真剣に考えて答えなきゃいけないのに
頭の中が真っ白になって、何も考えられない



Elly Schwarz(Curt)
  クルトにもケットシーにも手作りを

・ケットシーへ感謝を込めて
・でもこの後クルトへ渡す事を考え緊張で挙動不審。
(折角キッカケを下さったんです。
ついでなんてとんでもない!…寧ろ感謝を込めてプレゼントさせて下さい!)
以前はあまりお話し出来ませんでしたし、今回良い機会です。
そ、そんな事無いですよ(震

・クルトへ思いを込めて
あのっ…えっと、クルトさんにも…あるんです、よ。
あ、ウィンクルムとしてではない、です。
…僕、クルトさんの事ずっと前から好きです。
以前断ってしまったのは自信が無かったんです。貴方の隣に立つ事が。
でも今更ですよね、貴方はずっと隣に居て下さってた。
これからも隣に居たいです。もう、ダメ…ですか?



リオ・クライン(アモン・イシュタール)
  アモンの手を借りずに作れたのはいいが・・・。
果たしてこれで喜んでくれるだろうか?

<行動>
・作ったのはチョコマフィン(生チョコ入り)
・アモンの手は借りず一人で調理した結果、やや形が悪い感じに
・手には所々火傷の痕(てんやわんや状態だったらしい)
・渡そうか悩むが、あげることに決める
「やっぱり自分で作った物を渡したいからな・・・」
・ラッピングはしっかりと
・ケットシーにプレゼント
「上手に・・・という訳ではないが」(微笑)
・「ついで」にアモンにもプレゼント
「いつも世話になっているだけで・・・別に深い意味はないぞ!」(照れ)

アドリブOK


●とある昼下がり

(ケットシーさんにもアスカ君にも喜んでほしいな)

 八神 伊万里はチェック柄の紙袋を抱き締めながら、黒猫の姿を探す。
パートナー、アスカ・ベルウィレッジのことでは勿論無く、ケットシーのことだ。
途中で偶然にも同じ目的で顔を合わせたリオ・クラインたちと共に。

「リオさんは……何を作ってきたんですか?」

 何となく、男性たちに聞かれないようこっそりと寄って伊万里は尋ねる。
どうやらてんやわんやして、やっとこ手作りの品を完成させたらしいリオは、己の手の火傷たちを隠すように握り込みながらも答える。

「チョコマフィンだ。アモンの……精霊の手を借りずに作りたく頑張ったのだが…しょ、少々不格好になってしまった」
「手作りの温かさは形じゃないですよ」

 にっこりと優しく答える伊万里に、リオも少し緊張を解いていく。

「……キミは?」
「私はケーキポップよ」
「けーき、ぽっぷ……?」
「スポンジを丸めて串に刺して、チョコでコーティングして色々なトッピングをしてあるの」

 家柄ゆえただでさえ世俗に疎いリオは、全く馴染みのない名称に首を傾げた。
こういうのよ、と伊万里はこっそり紙袋の中を見せてあげる。
可愛らしいお菓子に自然と微笑み合うリオと伊万里。
そんな二人を余所に、ケットシーを意外と真面目に探している姿が違和感増しな、アモン・イシュタール。
どこか楽しそうに口の端が上がっている。何か思惑がありそうである。
同じく真面目に探している、……ようでどこか上の空なのが大きな黒猫さんの方、アスカ。

(そういえば初めて二人で出かけたのもバレンタインの頃だった。今年もくれるかな、チョコ……)

 男の子にとっても人によっては心の準備の要る日が近づいている故か、そわそわと落ち着きがない様子。
そんな一行の目前にある茂みの向こうに、小さな黒い耳がぺたんとしているのが見えた。

 その瞬間、誰よりも早く動いたのはお菓子を持っている女性二人ではなく、アモンであった。
茂みの隙間をぬって音を立てずその小さな黒い背中に近づくと……。

「わっ!」
『ふにゃっ!?』

 ケットシー、全身の毛を逆立てながら驚きのあまり切り株からすってーん。
思いもしない行動に驚いたのはパートナーであるリオも同じで。
慌ててアモンに駆け寄った。

「何をやってるんだ、キミは!」
「何って、サプライズ的な?」
「そういう意味じゃない!」

 リオに怒られてもどこ吹く風なアモンである。
当のケットシー、驚かされたのももう忘れて呆然と見上げている。

『……うっ、うぃんくるむ、にゃ?!』

 突然目の前に現れた二組のウィンクルムに、目がくりんくりん。
驚かせてごめんなさい、と微笑みながら伊万里はケットシーへと近寄って。
そっと、紙袋の中から取り出した、チョココーティングの上からカラフルなカラー砂糖まぶしたケーキポップを差し出した。
ケットシー、もはやまん丸お目めがこぼれ落ちそうである。
それに続き、リオもチョコマフィンの入った、可愛く青いリボンでラッピングされた箱を手渡した。

『にゃ…?これ……にゃ、にゃ??』
「プレゼントです」
「上手に……という訳ではないが。その、キミのために、作ってみた」
『ほっ、ホント、にゃ!?』

 伊万里とリオの微笑みを見て、瞳をきらっきらさせるケットシー。
その様子を見守る男性2人。

(本当は俺以外に渡してほしくないんだけど……。ケットシーってなんか憎めないよなぁ、猫だし)

 黒耳黒尻尾を持つ者同士。アスカの心中は少々複雑だ。
一方アモンは。

(正直作ってんの見ててハラハラした……。が、まあ、お嬢様にしてはがんばった方じゃねーの?)

 リオの手の火傷の跡へと視線をやりながら、その表情を見れば本人が満足そうなのが分かって。
ただ肩をすくめるのだった。


* * * * *

 無事、ケットシーにお菓子を渡した後。

 伊万里とアスカはまだ談笑する二人と一匹からそっと離れて木々の奥へと進んでいく。
あたりを窺い、
2人だけだと確認すれば伊万里はいまだ大事そうに抱えていた紙袋から、おずおずと何かを取り出した。
それは猫の形をとった可愛らしいケーキポップ。
串の持つ手を両手でぎゅっと握り締め、アスカへと向けて差し出した。
え……?と固まるアスカに、静かに伊万里は語りかける。

「去年のバレンタイン、覚えてる?」
「覚えてるよ、あの時は恥ずかしくてろくにお礼も言えなかったけど、チョコ嬉しかった」
「私こそ。ヒール履いてた私に気遣って、ベンチに座らせてくれたこと……どう伝えればいいか分からなくて、言い出せなかったの」

 お互い、そんな風に思ってたんだ、なんて照れくさそうに微笑み合う。

「あの頃の私は内気で、友達もあまりいなくて。でも契約を機に自分を変えたいって思った」
「伊万里はすごいよ、去年の俺はつんけんしてたのに、自分から踏み込んできてくれて……
 俺のために勇気を出してくれて、それにすごく救われた気がする」
「今は友達や仲間も増えて、アスカ君とも親しくなれて、素敵な一年になったと思う。
 ……あの時のアスカ君が勇気をくれたから」

 自分自身がもどかしくて変わりたいと行動してきた伊万里。
その行動を起こさせる根源となったアスカも、そんな伊万里によって支えられて変化してきた自分を認め。
伊万里は、出会えた幸せを形にする。

「今年も受け取ってくれるかな……?」

 差し出されたチョコ、アスカは伊万里の手ごと握り締めた。

(……俺にも勇気をくれ)

 そう。今だからこそ。想いを伝える勇気を――。

「俺は伊万里が好きだ。家族やパートナーじゃなく一人の異性として」
「……え?」

 ただただ一緒に居てくれる奇跡が嬉しくて。
伊万里はそれが特別な感情かどうかは、全く考えていなかった。
アスカの真剣な表情を見れば、次第に戸惑いの色を浮かべ始める。

(……どうしよう。真剣に考えて答えなきゃいけないのに。頭の中が真っ白になって、何も考えられない)

 そんな伊万里の困惑した雰囲気をアスカはすぐに見てとって。

「返事は急がない、けど知っておいてほしかった」

 決して困らせたいわけじゃないんだ、と。
真摯な思いの中に優しさも混じっていることを、今の伊万里にはすぐに感じ取れた。
じゃあ帰ろうか、とチョコを受け取った方と反対の手を自然に差し出されて、伊万里は促されるように自分の手を重ねる。

 途中、思い出したように一度アスカが振り返り。しかし視線は泳がせながら。

「その……そういう格好、も!似合ってる!」

 それだけ言ってすぐ正面へ向き直り、ぐいぐいと伊万里の手を引っ張っていくアスカ。
首まで赤い。告白した時よりも赤いのではなかろうかという程。
いつものキチンとしたシャツにスカートではなく、ハート柄にチョコレート色。少し甘めなフリルスカートを
少し今日の日を意識して履いてきていたことに、アスカが気付いてくれたのだと伊万里も分かって胸を抑えた。

考えよう。
この優しい温もりに応える為に ―― 。


* * * * *

 天にも昇る気持ちで二人からのお菓子を掲げて見つめるケットシーを、安堵の顔色でしばし眺めてから。
リオはもう一つ残っていた箱を、咳払いと同時にずいっとアモンの眼前に押し出した。
さすがのアモンも一瞬面食らう。
しげしげと、リオと箱へ視線を行き来させている。

 すぐにいつものからかった口調が飛んでくると思ったのに、何だか居心地が悪い……。
仕方なく、そろそろとリオの口が開かれた。

「いつも世話になっているからというだけで……別に深い意味はないぞ!」
「それで、自分で作ると言い張ってたのか?」
「やっぱり自分で作った物を渡したいと思ったからな……」

 あくまでついでだっ、と言うリオの顔はどんどん横に逸らされていく。
照れを隠そうとするリオの姿に、自然と嬉しさがこみ上げるのをアモンは感じた。

 ―― これはなんつーか……

不慣れな温かな感情が、己の意図しないところで湧くのに居心地の悪さを感じ。
アモンはつい誤魔化そうとしてしまう。

「なんだ、お嬢様のことだからてっきり自分で食う用に取ってあるのかと思ってたわ」
「キ、キミは私を何だと思ってるんだ!」

 結局いつも通りリオを怒らせることになった。

「もういい、せっかく作ったのに!」

 さすがに拗ねずにはいられない。
正直、渡そうか本当に悩んだのだ。これでも意を決したのだ。
いつかの、アモンがアモンらしからぬ姿になった時、たとえ欠点があったとてそれも大事なものだと
そう思ったのは本心からだったけれど。

(もう少し、他に言うことはないのかと思ってしまう……いかんな……)

 拗ねながらも、これがアモンらしさなのだからしょうがないか……とリオは諦めの吐息を一つ。
後ろから、おいおい怒るなよ~と宥めてくる軽い口調が聞こえる。
仕方なさそうに振り返ったリオの瞳が、大きく開かれた。
アモンがいつの間にか包装紙を開き、今まさにリオの作ったチョコマフィンを口に運んでいたのだ。

「ん?ただのチョコじゃ無ぇのか」
「……生チョコ、というのを入れてみた」

 まさかこの場で食されるとは思っていなかったリオ。
何やら心拍数が上がっていくのを必死に抑える。
果たして喜んでくれるだろうか。

「へぇ。旨いんじゃねーの」
「え」

 アモンから感想が出た。予想外な感想が。
アモンにしてみれば、それも宥めの一つに入っていただけだったが。
照れて、拗ねて、そして驚くという百面相を目の当たりにしてアモンも、クックッ……と笑みが零れる。
その傍らで、複雑そうに、それでもどこかホッとした表情を浮かべるリオがいるのであった。


●とある夕暮れ時

「ケットシーさん いませんか?」
「ケットシーさーん」

 緑の葉にオレンジ色の光が差し込む頃。
ショコランドの森の中に、愛らしい二人の少女の声が響く。
一人は、まるでかくれんぼを楽しむように草を分け入ったり大樹の裏を覗いたりしているリチェルカーレ。
片手には可愛くラッピングした箱を手に。
もう一人は、何度も自身の持つ紙袋に視線をやるElly Schwarz。
リチェルカーレと声を合わせているものの、その様子はどこか落ち着きがない。
そんな挙動不審気味なエリーの姿を、目を細め見つめるのは彼女のパートナーであるCurt。

(あのチョコ柄のエプロン、中々良かったな…エリーに似合っていた)

 必死に調理していた時のエリーを思い出し、甘い想像を少々堪能中のご様子。
そのうちに、リチェルカーレの後ろを歩き同じようにケットシーを探していたシリウスが、何かを発見した。
尻尾ゆらゆら。
寂しそうな、不安そうな、でも何かを期待するように、たまにキョロキョロ頭を動かして。

「リチェ、いたぞ」
「え?本当っ?」

 その声に気付き、エリーとクルトもリチェルカーレたちの下へ寄って行く。
シリウスが指で指し示した先には、ケットシーが切り株に座っていた。
エリーとリチェルカーレは、一度顔を見合わせコクリと頷き合う。
そうして2人はサクサクとケットシーへと歩き出した。

『……にゃっ?だれ、にゃ?』
「あなたが、ケットシーさん?会えて嬉しい。なかよしになりたくてプレゼントを持ってきたの」
『にょにゃっ?!』
「僕は、感謝を込めて……プレゼントさせて下さい」
『…かんしゃ?な、なんの、にゃ?』
「……あなたがココに来てくれたおかげで、大事なキッカケを下さったんです」

 リチェルカーレに続いて声をかけたエリー、最後の言葉はそっとケットシーに耳打ちするように囁いた。
以前はあまりお話出来ませんでしたしね、と微笑んで渡された包み紙。
リチェルカーレからも手渡されたラッピングされた箱。
肉球ぷるぷるさせて、ケットシーはそっと受け取った。

(エリーのチョコ、一番乗りで貰うとは……なんて大人気ないか。でもやっぱり羨ましい……当たり前だろ)

 クルトさん、開き直っていらっしゃる。視線はケットシーの持つ包み紙に注がれまくりである。

『うぃ、うぃんくるむが、うぃんくるむが、お菓子……くくくれた、にゃ……!』
「ふふ。喜んでもらえたなら嬉しい」

 あわあわするケットシーに、にこにこと微笑むリチェルカーレ。シリウスはその様子を見つめ表情を和ませる。
暫く包み紙と箱を交互に凝視していたケットシーだったが、ちょこなん、と立ち上がれば
徐々にもじもじと後ずさりしていく。

 ―― 照れてる
 ―― 照れてますね

 エリーとクルトの心の声同時。

『あ、ありがとうにゃ!ホントにっ、ありがとうにゃ!えとっえとっ、だ、誰もいないところで、開けてみるにゃー!』
「勿論、どうぞですよ」
「……危ない生き物がいるかもしれない。あまり森の奥へは行くなよ」

 微笑ましそうに手を振るリチェルカーレの隣りで、最後にシリウスもケットシーへと一声かけて。
ぺっこぺっこお辞儀する様が見えなくなるまで、一同は笑顔で見送るのだった。


* * * * *

 ケットシーが見えなくなり、リチェルカーレたちにも挨拶した後歩き出したエリーとクルト。
ショコランドの森が終わる頃、つとクルトが立ち止まった。
それに気付いたエリーも足を止める。
(……今、でしょうか、チョコを渡すのは……)

「エリー。俺から誕生日プレゼントだ、……おめでとう」
「……へっ?」

 あまりの唐突な言葉に驚きすぎて。
おかしな声が出たのを、思わず片手で恥ずかしそうに口元覆うエリー。
肩を揺らしながら、クルトはこっそりエリーの調理が終わった後自身も作っていた、フォンダンショコラの入った箱を
その小さな手に握らせた。

「えっ?僕が、貰っていいんですか…?」
「エリーの為に作ったんだからお前以外誰が受け取るんだ」
「……ありがとう、ございます」

 誕生日なんて忘れていたのに。
瞳が潤みそうになるのをグッと堪えて、エリーは決意する。
この人に応えたいと、心から。

「あのっ……えっと実は、クルトさんにも……あるんです、よ」

 腰についたポシェットから取り出された、丁寧に梱包されたプレゼント箱が差し出されて、
クルトは首を傾げながらも受け取った。
開けようとすると、『ひ、一人の時に開けて下さい……!』と顔を赤くして止められる。
一体何が……いやそれよりも。

「?……これは、ウィンクルムとして、か?」
「あ、ウィンクルムとしてではない、です」
「……は?」

 それ以外になにが?と言わんばかりの表情に、深呼吸をしてからしっかりと目を合わせるエリー。

「……僕、クルトさんの事ずっと前から好きです」

 クルトの金色の両目が見開く。
いやまて。まだ期待するな。ずっと前からとはどういうことだ。
落ち着こうとするもすでに思考はこんがらがり始めていた。

「それは本当なのか?嘘じゃないんだな?……この前断ってたじゃないか」
「その、以前断ってしまったのは自信が無かったんです。貴方の隣に立つ事が」
「自信が無かった?はぁ」

(なんで努力家のエリーに限って……いや、それはいい)

 衝撃に霞んでいた視界がクリアになるかのように、クルトの瞳には今とても鮮やかに、エリーの姿が映し出される。

「でも今更ですよね、貴方はずっと隣に居て下さってた」
「本当に今更だ、俺は最初からお前の傍に居るだろ」
「これからも隣に居たいです。もう、ダメ……ですか?」

 エリーの、最後小声となった言葉が紡がれた瞬間、クルトはエリーを抱き上げていた。

「わわ……!」
「……改めてもう一度言おう、俺も好きだ」

 嬉しさがクルトの胸いっぱいに広がった。
待っていてくれた背中に、やっと追いついた……という喜びがじんわりと湧くエリー。

「漸くお前を手に入れた」

 抱き上げる腕に込められた力。
そろそろと、その首へとエリーも腕を回すのだった。


* * * * *

 ケットシーを無事見送った後、踵を返そうとしてシリウスは少女の様子が違うのに気づく。
よく見ると、後ろ手に何かを隠しているような。

「あの、ね。いつもお世話になってるからお礼」

 頬を赤くして、精一杯さりげなさを装いリチェルカーレは箱を差し出した。
先程ケットシーに渡した箱より、少し大人っぽいシックなリボンを纏ったラッピング。
シリウスにしてはとても珍しいかもしれない、ぽかんとした表情が思わず浮かべられていた。
が、リチェルカーレの緊張に強ばった体や真っ赤に染まった頬、いっぱいいっぱいながらも
無理に何でもない風を装っているのがいじらしくて。
徐々に口元に柔らかい笑みを形作ると、その箱を静かに受け取った。

「……ありがとう」

 感謝の言葉を素直に伝える。
受け取っても貰えたことに心からの安堵の息を漏らして、リチェルカーレははにかむようにシリウスへと笑う。

そんな笑顔をこうして向けられたのは、果たして何度あっただろう。
最初は真っ直ぐに向けられることに戸惑っていたはずなのに。
日を追うごとに少しずつ綻ぶ蕾のように……シリウスは自覚する。

 ―― 愛おしい。

 しかしまだ、何もかもを信じることのできない己の心のままでは、この純粋な少女を傷つけてしまいそうで。
シリウスは表面に浮かびかけた熱い感情を、もう一度その瞳の奥へと押し戻す。
何事も無かったように、開けても?と少女に目で尋ねてから、シリウスは包みを開いた。
そこには花形の、甘いものの苦手な彼を思って、ちょっぴりほろ苦いビターチョコ。
食い入るように見つめるシリウスの顔を覗き込みながら、リチェルカーレは嬉しそうに言葉を紡ぐ。

「それはアスターの花よ。可愛いでしょう?花びらがたくさんあるから、女の子が恋占いに使……な、何でもない!」

 説明しかけて、再び赤く染めた顔を背けるリチェルカーレに気付くと、自然と自分の視線も下へと向くシリウス。

 ―― 耳元が熱い 。

 普段体温など感じたことのないそこへ、熱が生まれたような気がした。

『私はあなたを想うでしょう』

 アスターの花言葉に託された、まだ今は口にできないリチェルカーレの想いが
まるでシリウスのそこへと灯されたかのように……。



 ショコランドの森のちょっぴり奥。
かさかさと紙が重なる音。

『き、昨日、と、今日!うぃんくるむが、お菓子くれたにゃ!嬉しい!嬉しいにゃ……っ』

 自分の為に作ってくれたお菓子だと、そう手渡された時の
幸せな幸せな気持ちをケットシーは思い出しては、ふにゃんと頬を緩める。

そうか。これが、気持ちのこもった物なんだ、と。
ケットシーはまた一つ、ヒトの気持ちを学ぶ。

最後に、可愛らしくラッピングされた箱をもそもそと開けた。

『!!さ、魚のチョコにゃーーーー!!』

 森へ実の採取に来た妖精が、そんな歓喜の叫び声を聞いたとか――。



依頼結果:成功
MVP
名前:リチェルカーレ
呼び名:リチェ
  名前:シリウス
呼び名:シリウス

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 白金  )


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 02月04日
出発日 02月10日 00:00
予定納品日 02月20日

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