虹色に光る雪(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「今年もこの季節が来たね」

 タブロス市近郊にある、小さな町『ケスケソル村』。
 寒さ厳しいこの季節、村名物の花『恋虹華(れんこうか)』が咲き誇ります。
 ケスケソル村の若き村長シリルは、恋虹華を鑑賞できるお祭り『恋花祭り』の準備に追われていました。

 『恋虹華』は、クローバーに似た三つの花びらを持っている花です。
 その花びらは、角度によって虹色に輝く不思議な色。
 非常にデリケートで、寿命が短かい花で、手折ったり掘り起こしたりなどすると、虹色の花びらは色を失い、すぐに枯れてしまいます。
 このため、この小さな村にしか存在していません。

 ──この花の花びらを紅茶に浮かべ飲むと、願い事が叶う──
 ──極稀に存在する、四つの花びらを持つ個体を見つけたカップルは、永久に結ばれる──

 そんな言い伝えがあり、恋虹華を見ることが出来る『恋花祭り』には、沢山の人々が集まります。
 バレンタインの季節、愛を伝え合いたいカップルにも人気のお祭りです。
 ケスケソル村が、一年で一番賑わう時期と言っていいでしょう。

「雪だ」
 屋台の準備を手伝いながら、シリルは空を見上げました。
 白い雪の結晶が、キラキラと光ります。

 どうやら、今年の恋花祭りは雪模様のようでした。
 白い雪の中、恋虹華は、訪れた貴方達にどのような色を見せるでしょうか。

解説

『恋花祭り』を楽しんでいただくエピソードです。

参加費用として、お一人様300Jr掛かります。

恋虹華の花畑から花を採る事はできませんので、ご注意ください。
(きついお叱りを受け、町から追い出されてしまいます)

花畑から少し離れた場所で、屋台が出ています。
一般的な日本の縁日にあるような食べ物と飲み物が売られています。(成人している方はお酒も飲めます。)
飲食は、屋台近くの決められたスペースでお願いします。このスペースでは焚き火がありますので、温かいです。

花畑に併設されているカフェからも、花畑を見る事が可能です。
『恋虹華の花びらを浮かべた紅茶』を含めた、一般的な日本のカフェにあるようなメニューが楽しめます。

屋台もカフェも、飲み物は50Jr、食べ物は100Jrです。

また、宿泊費(200Jr)を追加することで、夜の恋虹華が楽しめます。
カフェに併設されている宿屋に宿泊する事となります。
二人で一部屋。
ベッドが二つある、小じんまりとした(8畳程)部屋です。
部屋の窓から、恋虹華を見ることも出来ます。

昼にお祭を楽しみ、夜の恋虹華も見るといった行動も可能ですが、両方の描写が薄めになります。
どちらをメインにしたいかを、プランに明記頂けますと幸いです。
(勿論、どちらかに行動を絞って頂くのも歓迎です。)

行動可能な場所は、以下となります。

・恋虹華の花畑(周囲に雪がうっすら積もっています。夜も行けます。)
・花畑に併設された小さな展望台(花畑を一望することができます。夜も行けます。)
・花畑から少し離れた場所で営業している屋台(飲食可能なベンチが設置されているスペースがあります。昼間のみ。)
・花畑に併設されたカフェ(村長のシリルが営業しています。夜も特別営業中で、宿から直に行けます。)
・宿泊者限定で、宿の部屋(窓から花畑が見れます。)

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『寒さに指先がかじかむのが、執筆中の一番の敵!』な雪花菜 凛(きらず りん)です。

一年ぶりとなる『恋花祭り』を楽しんで頂くエピソードです。
虹色の花と共に皆様と過ごす時間が、今から楽しみです♪

皆様の素敵なアクションをお待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)

  昼間、ジャスティと一緒に恋虹華の花畑を見に行く。

恋虹華、凄く素敵…!
ここにしか存在しない花…。
ロマンチックだけど、少し寂しく感じる…。

ジャスティ、どうしたの?
真剣な顔して…。

ペンダントを見せられ、驚く。
それは故郷のものだからだ。
なぜ、彼がこれを…?

彼のペンダントを借りて、中を開いてみる。
そこには、自分の誕生花のコスモス、そして、自分と同じイニシャルが彫られていた…。
これはもしかして、子供のころに誰かに渡したもの?
うっすらと覚えているのは、少し年上の男の子だったことだけだ。

彼の話を聞いて、思い出す。
8歳の頃に父と一緒に旅をしていて、途中立ち寄った村の宿屋で、仲良くなった男の子…。
もしかして…。



日向 悠夜(降矢 弓弦)
  夜の恋虹華を楽しみたいから宿泊する事にしたけれど…なんだか弓弦さんの様子が…楽しめて、ないのかな

お昼も花畑を見よう
恋虹華はやっぱり綺麗だね、弓弦さん…弓弦さん?

●夜
弓弦さんの様子も可笑しいし丁度良い時間まで少し部屋でゆっくりするね
…やっぱりぼーっとしてる
誘わない方が良かったのかな…いや、そんな事は…
え?あ、うん…行こっか

わぁ…夜の恋虹華も綺麗だね
弓弦さんの話はじっと聞くね
そっか…改めて考えると私も恥ずかしく…っ

よし、弓弦さん!四つ花の恋虹華を探そう!
見つかるまで宿には戻らない!
頑張って探して、疲れて、喜びを共有したまま寝よう!
今日も、明日も、いつの日も!一緒に疲れて一緒に喜ぼう!

◆追加Jr
宿代



シャルル・アンデルセン(ノグリエ・オルト)
  綺麗なお花畑ですね。雪が積もってとっても綺麗。
クローバーみたいな花だと聞きましたが三つ葉のクローバーと同じ様に四つ葉の花もあるそうです。
その…それを見つけるたカップルは永久に結ばれるって…ロマンティックで素敵ですよね。
永久がどれくらいの長さなのかはわかりませんがずっと一緒に居られるのは嬉しいです…なので探してみます!(照れ)
見つかっても見つからなくても私はノグリエさんと居るつもりなのであんまり変わりわないのですが…
さっきお花の入った紅茶を飲んだ時もお願いしたんです。一緒に居られますようにって。
でも一番は今でも「ノグリエさんが幸せでありますように」なんですよ。神様に欲張りって言われちゃうかな?


アメリア・ジョーンズ(ユークレース)
  行く場所:夜の恋虹華、宿へ泊まる

「なにが寂しくてアンタとこんな所に来なくちゃいけないのよ。」
行きたくも無いのに、ドアを無理矢理こじ開けられ、訳もわからず連れてこられた。
まったく、あたしの予定とか気にならないのか!?
…まぁ、元々、無いけど。
だからと言って、なんで宿なんかに…!

宿に着いて早々、あたし達はカフェに来た。
綺麗な風景と、美味しそうな紅茶とショコラケーキ。
ま、まぁこれだけでも、今日の行いは許してやろうじゃないの!
「…こんな幸せな気分が、いつまでも続けばいいなぁ…」
そう、ぼそっとあたしは言った。

と思ったけど、前言撤回!
なんで二人部屋なのよ!
いくらユークが無害と言っても、これは…え?(焦り)



アンダンテ(サフィール)
  素敵な言い伝えがあるのね
恋花祭り、楽しみだわ


直接見たいし花畑に行ってみたいわ

まあ、綺麗…
丁度雪も降っていて幻想的ね
なんだか別の世界に迷い込んでしまったみたい

屈み込んで花の近くに顔を寄せる
ね、サフィールさんも見てみて
本当に角度によって色が変わって見えるのよ

あら、お仕事熱心ね
確かにこの色を残せたら素敵でしょうね…
でも、儚いからこそ美しいとも言うわよね

それじゃあ花も堪能した事だし花びらの紅茶でも飲みにいかない?
願い事が叶うんですって!

四葉を見つけると永久に、ってやつね?
きっと今の私達じゃ見つからないと思うわ

いつか、お互い四葉を見つけたいと思うようになった場合は…
その時には、また一緒に来ましょう?



●1.

 虹色の輝きが、キラキラと積もった雪を照らしているようだった。
 シャルル・アンデルセンは感嘆の吐息を漏らし、虹色の花が広がる光景を見つめた。
 喫茶店の大きな窓からは、恋虹華の絨毯が存分に眺められる。
 シャルルの瞳がうっとり細められるのを、ノグリエ・オルトは微笑んで見つめた。
 こんな彼女の表情が見れただけで、ここに来た収穫は十分にある。
「恋虹華、綺麗ですね」
「はい……!」
 シャルルはコクコクと頷いて、紅潮した頬でノグリエに視線を戻す。
「綺麗なものはボクも好きですが、シャルルはもっと好きでしょう?」
「話には聞いていましたが、実物は本当に素敵です」
 シャルルはにっこり笑って、また花畑へ視線を向けた。
「お待たせしました」
 店員が紅茶を運んできた。
 虹色の花びらが入った琥珀色がゆらゆらと揺れる。
 シャルルが嬉しそうに瞳を輝かせた。
「頂きましょうか」
「はい……!」
 そう返事をして、シャルルはハッと思いついた顔で、カップを前に両手を組んだ。
 祈るような仕草を、ノグリエは見守る。
 ──花びらを紅茶に浮かべ飲むと、願い事が叶う──
 シャルルは願い事をしているのだろう。
 彼女は何を願うのだろうか?
 ノグリエは瞳を細める。
 ノグリエが願うなら、それは一つだ。
(どうか、君の願い事が叶いますように)
 ゆっくりと紅茶を楽しむ一時が流れた。
 空になったカップを置いて、シャルルが少し遠慮がちにノグリエに口を開く。
「ノグリエさん、私、外で花畑を直に見たいです」
 寒いかもしれないけど……と、付け加える彼女に、ノグリエは微笑み頷いた。
「ええ、行きましょう。寒くなったら、またここに温まりに来ればいいですし」
「はい……!」
 二人は勘定を済ませると、外へ出た。
「雪が虹色の光で光ってるみたいに見えます。とっても綺麗!」
 白い息を吐き出しながら、踊るような足取りでシャルルが笑う。
「ノグリエさん、知ってます? クローバーみたいな花だと聞きましたが、三つ葉のクローバーと同じ様に四つ葉の花もあるそうです」
 シャルルは屈み込み、三つの花びらを確認するように覗き込んだ。
「あぁ、噂の四つ葉の恋虹華ですか?」
「はい。その……それを見つけたカップルは、永久に結ばれるって……。ロマンティックで素敵ですよね」
「そうですね。とてもロマンチックで素敵だと思いますよ」
 ほんのり頬を染めて、シャルルがノグリエを見上げる。
「『永久』がどれくらいの長さなのかはわかりませんが……ずっと一緒に居られるのは嬉しいです」
 シャルルは自分の顔が熱いのを感じながら、きっぱりと言った。
「……なので探してみます!」
 ノグリエは僅か驚いたように瞬きし、それからにっこりと笑みを見せる。
「私もお手伝いしましょう」
 二人は四つの花びらを探し始めた。
(見つかっても見つからなくても、私はずっとノグリエさんと居るつもりなのであんまり変わりないのですが……)
 懸命に目を凝らし探しながら、シャルルは同じく真剣に探しているノグリエの横顔をチラッと見る。
 虹色の花びらを飲む際も、お願いしたのだ。

『ノグリエさんと一緒に居られますように』

 彼と一緒に居られれば、それがシャルルにとっての幸せ。
 けれど、それ以上に、彼に幸せで居て欲しい。

『ノグリエさんが幸せでありますように』

(神様に欲張りって言われちゃうかな?)
 それでも、シャルルは願うのだ。

 永久に……なんて保証は、誰にもできない。
 ノグリエはそう考える。
 隣で一生懸命、四つの花びらを探すシャルルをそっと見遣る。
(だから、ボクもキミを閉じ込めたいなんて思ってしまう)
 愛すら鎖に変えてしまう、その感情。
 一緒に居たいと、そんな風に思ってくれているシャルルを傷付けたくはない。
 ノグリエにとって一番の願いは、シャルルの願いが叶う事。
(ボクの幸せをと願ってくれるキミのお願いを……誰にも邪魔なんてさせない。たとえ神であってもです)
 シャルルには言えない、昏い欲が、ある。
(こういう歪んだ所は治さなくては……と思うのですが。シャルルが可愛いからつい、ね)
 ノグリエはそっと、寒さにかじかんでいる様子のシャルルの手を取った。
(いつかキミはそんなボクも認めてくれるだろうか?)
 驚いた顔をするシャルルに微笑んで、そっとその手に口付けたのだった。


●2.

 恋虹華のおまじないに似た言い伝え。
 それはとても素敵なものだと、アンダンテは思った。
「恋花祭り、楽しみだわ。素敵な言い伝えのある花、どんな色を見せてくれるのかしら?」
 村へ向かう道すがらアンダンテの足取りは軽い。
「評判通りの花なら、そういった言い伝えがあるのもわかる気がしますね」
 その隣を歩きながら、サフィールは冷静にそんな事を言う。
 彼らしい言葉に、アンダンテはふふっと笑った。
「どうしたんです?」
「なんでも! あ、あそこかしら」
 賑やかな音と、華やかに彩られた村の入り口が見えていた。

 村の中は、沢山の見物客と、屋台の賑やかで香ばしい香りに包まれている。
「直接見たいし、花畑に行ってみたいわ」
「そうですね、やはり来たからには直接」
 二人は意見が一致したのに微笑み合うと、案内板に従って花畑を目指した。
 程なくして、二人の眼前に虹色の絨毯が現れる。
「まあ、綺麗……」
 アンダンテが声を上げ、サフィールは小さく息を呑んだ。
 陽の光に虹色の花びらが光って、それが積もった雪にも輝きを与えている。
「丁度雪も降っていて幻想的ね。なんだか別の世界に迷い込んでしまったみたい」
 アンダンテが一歩踏み出し虹色の絨毯に近付くのに、サフィールは漸く一つ瞬きした。
 虹色の花畑に近付く彼女の、毛先になるにつれ色がなくなる濃淡のある髪が、虹色と呼応するように輝いて見える。
 いつもの格好とも相成り、彼女こそ、幻想の世界の住人のようで。
「見事ですね」
 やっとそれだけ感想を述べ、花畑の前で屈み込んだ彼女の隣へ歩み寄った。
「ね、サフィールさんも見てみて」
 花に顔を寄せ、アンダンテがサフィールを見上げる。
「本当に角度によって色が変わって見えるのよ」
 キラキラ、キラキラ。見る度に色を変える。
(アンダンテの瞳と同じですね)
 そんな言葉を飲み込んで、サフィールもまた、彼女の隣に屈み込んだ。
「どういう原理なんでしょうね。この色合いを表現できれば、綺麗な布地になりそうです」
 染料に出来たら、どんな色を見せてくれるのか、興味は尽きない。
 けれど、寿命が短いのを思い出し、サフィールは無念そうに眉を寄せる。
「あら、お仕事熱心ね」
 クスッとアンダンテが笑う。
「確かにこの色を残せたら素敵でしょうね……」
 ふわふわと風に揺れる虹色に瞳を細めた。
「でも、儚いからこそ美しいとも言うわよね」
「そうですね」
 サフィールは小さく頷く。
「こういった状況だからこそ、より美しく見えているのかもしれません」
 サフィールの言葉に応えるように、虹色の花が光って見えた。
「それじゃあ、花も堪能した事だし……花びらの紅茶でも飲みにいかない?」
 立ち上がって、アンダンテは隣にある喫茶店を指差す。
「願い事が叶うんですって!」
「いいですね」
 サフィールも立ち上がり、そう言えば……と小首を傾げた。
「もう一つ言い伝えがありませんでしたっけ?」
「四葉を見つけると永久に、ってやつね?」
 アンダンテが即座に答え、サフィールはそうだったと頷く。
 そんな彼に微笑んでから、アンダンテは花畑を見遣った。
「きっと今の私達じゃ見つからないと思うわ」
 風が吹いて、彼女のベールと髪を揺らす。
 寂しそうにも見える彼女の表情に、サフィールは小さく目を見開いた。
 が、それは一瞬。
「いつか、お互い四葉を見つけたいと思うようになった場合は……その時には、また一緒に来ましょう?」
 彼女の顔には、いつもの笑顔が広がっている。悪戯っぽく見上げてくる瞳が、不思議な色で。
「そんな関係になっているというのが全く想像は付きませんが……」
 サフィールは、表情を隠すように、自分も花畑に視線を向けた。
「まあ、未来の事ですからどうなるやら」
 その答えに、アンダンテが笑った気配がする。
 何となく、本当に何となくだけど。
 そんな日が来ていたら自分も自然に笑えていそうだ。そう、サフィールは思った。
 だから、紅茶に浮かんだ花びらに、いつかそんな日が来ますようにと、そう願うのも悪くはない。
 正面にアンダンテの楽しそうな笑顔を見ながら、サフィールは紅茶を楽しんだのだった。


●3.

「恋虹華、凄く素敵……!」
 視界を埋める虹色を眺め、リーリア=エスペリットは感嘆の溜息を吐いた。
「恋虹華の実物を見るのは初めてです」
 彼女の隣で、ジャスティ=カレックもまた、目の前に広がる光景に小さく息を飲む。
「角度によって、本当に色が変わるのね」
 くるっとターンして微笑むリーリアに、ジャスティは口元を僅か緩めた。
 彼女の嬉しそうな笑顔を見ると、心がぽかぽか温かい。
 三つの花びらが風に揺れるのを眺め、ジャスティはふと思い出した。
(確か、この花には言い伝えがあった……)
 四つの花びらの恋虹華。
 見つける事が出来たなら、ずっと彼女の隣に居られるだろうか?
 気持ちを彼女に伝える事すらまだ出来ていないけれど、もし、もしも見つけられたら──。
(勇気を貰えそうだと、そう思うんだ)
 ジャスティの瞳が、四つの花びらを探し始める。
 一方、その傍らで、リーリアは不意に込み上げてきた気持ちに僅か瞳を曇らせていた。
(何でだろう? ロマンチックだけど、少し寂しく感じる……)
 ここにしか存在しない花。ここにしか居られない花。
「……リーリア?」
 ジャスティの声がして、リーリアははっと顔を上げた。
 彼が直ぐそこに来ていて、心配そうにこちらを見つめている。
「どうかしましたか?」
「う、ううん! 何でもない」
 慌てて笑顔を作って、リーリアは首を振った。
「ただ……」
「ただ?」
「ここにしか咲かない花なんだって思ったら、少し寂しく感じちゃって……」
 変だよね?と笑う彼女を見つめ、ジャスティはぎゅっと小さく拳を握った。
「変ではないと思います」
「ジャスティ?」
 見つめてくる彼の瞳が、真剣な色を帯びている。
「どうしたの?」
 ジャスティは瞳を伏せ、己の首の後ろへ両手を回す。
 シャラリ。
 鎖が陽の光に光った。
 彼の掌に、月桂樹の葉のレリーフが描かれているペンダントが載せられ、リーリアに差し出された。
 リーリアは小さく瞳を見開く。
 いつか、彼の部屋で見つけた物。
 リーリアの故郷で生まれた子供に授けられるペンダント。
 一人に二つ。リーリアも同じペンダントを身に着けている。
 ただ、彼女は『片割れのペンダント』を持っていない。将来、伴侶となるべき人に渡す物である片割れを。
 何故、これを彼が?
 リーリアは、恐る恐るそのペンダントに触れた。
 痛いくらいの彼の視線、ドキドキと五月蝿い己の心臓の音を感じながら、震える指でペンダントを手に取る。
 カチリ。
 ロケット型になっているそれは、中に持ち主の誕生花とイニシャルが掘られている。
(コスモス、そして、このイニシャル……!)
 それは、リーリアのものに間違いなくて。
 ドクンドクン。
 記憶を辿る。
 ……子供の頃、誰かに渡した。うっすらと覚えているのは、少し年上の男の子だった事……。
「ロケットになっているのは知りませんでした」
 ジャスティの声に、リーリアは彼を見上げた。
「これは、10年前に僕の心を救ってくれた少女が『友達の印だ』と言って、僕にくれたものなんです」
 彼の瞳が、戸惑うように、けれど確信を持った色で、彼女を映している。
「その少女は、リアと呼ばれていました」
「!」
 リーリアの記憶の扉が開かれた。
「……8歳の頃に父と一緒に旅をしていて、途中立ち寄った村の宿屋で、仲良くなった男の子が居たの……」
 遠い記憶の男の子と、ジャスティの顔が重なる。
「もしかして……ジャスティ?」
 瞬間、彼の表情が切なそうに歪んだ。
「そうです」
 強く強く、抱き締められる。重なる鼓動。
「リーリア、だったんですね……」
 身体に響く彼の声は、泣いているようだった。


●4.

「エイミーさん、一緒にお泊まり行きましょう」
 扉を開いて開口一番。
 アメリア・ジョーンズは、思わず口をぽかんと開けて、いつもと変わらぬ彼の笑顔を見た。
「行きましょう、今直ぐ」
 彼、ユークレースは、僅か開かれた扉をガッと掴むと、無遠慮に開いてくる。
 アメリアが彼の力に敵う訳もなく、扉は簡単に開け放たれた。
「ちょ、ちょっと!?」
 戸惑うアメリアの返事はどうでも良いのか、ユークレースはアメリアの腕をがっちり掴んで歩き出した。

 それから暫くして。
「なにが寂しくてアンタとこんな所に来なくちゃいけないのよ」
 村の宿屋で、アメリアは困惑していた。
(あたしの予定とか気にならないのか!?……まぁ、元々ないけど)
 脳内で考え至った事は口に出さず、誤魔化すようにコホンと咳払いする。
(だからと言って、なんで宿なんかに……!)
「しかも、同室ってどういうことよ!」
「まぁまぁ、この時期は満室になるんで、知り合い同士は成る可く同室推奨なんですよ」
 ユークレースはしれっと言い切ると、にっこり微笑んだ。
「それよりエイミーさん。カフェに行きましょう」
「はぁ?」
「いいから、いいから」
 再びユークレースはアメリアを引き摺るようにして、下階にあるカフェへと向かった。
「わぁ……!」
 大きな窓いっぱいに広がる虹色の花畑に、アメリアが目を見開いた。
 既に暗い時間帯だが、花畑は仄かにライトアップされており、カフェからの灯りも手伝って鮮やかに見える。
「綺麗ねぇ!」
 予約していた窓際の席に座り、瞳をキラキラさせるアメリアに、ユークレースは瞳を細めた。
「恋虹華って言うんです」
「へぇ……」
「なんでも恋虹華の花びらを浮かべた紅茶を飲むと、願い事が叶うらしいですよ。子供のような噂は、エイミーさんにぴったりです」
 紅茶の載ったメニューを指差せば、アメリアは引ったくるようにして見入った。
「これ飲みたいわ!」
「お待たせしました」
 そのタイミングで、予めユークレースが注文していた紅茶とショコラケーキが運ばれてくる。
 紅茶には虹色の花びらが浮かんでいた。
「わぁ……」
 アメリアの瞳が更に輝く。
「いただきましょう」
「そ、そうねっ」
 手を合わせて、早速紅茶とケーキを楽しむ。
「お・い・し・い!」
「美味しいですね」
 アメリアに可愛らしい笑顔が溢れる。
 そんな彼女を眺め、ユークレースが微笑んだ。
『エイミーさんの可愛い笑顔が見たい』
 そんなユークレースの願いは、紅茶を飲む前に叶ってしまった。
 一方、アメリアはアメリアで。
(ま、まぁこれだけでも、今日の行いは許してやろうじゃないの!)
 チラッと微笑むユークレースを見て、そんな事を考えていた。
 彼の視線が何だか温かい。どうして? ドキドキするような……。
「……こんな幸せな気分が、いつまでも続けばいいなぁ……」
 花びらの入った紅茶を飲みながら、アメリアはそう呟いていた。

「けどね、やっぱり男女が同室って、どーなの!?」
 前言撤回!
 部屋に戻ったアメリアは、再び叫んでいた。
「エイミーさん、迷惑になりますから」
 ユークレースはさっさと自分のベッドを確保している。
(そりゃね、男と二人ですもんね)
 プンプン肩を怒らせるアメリアに、ユークレースはこそっと苦笑いした。
「いくらユークが無害と言っても、これは……」
 アメリアの言葉に、ユークレースがぴくりと眉を上げる。
(ちょっと、驚かせてみましょうか)
「エイミーさん」
 彼女の肩を掴む。
(男としての僕を、見てもらえるように)
「え?」
 どさり。
 視界が反転して、目の前にユークレースの顔。
「!?」
 ベッドに押し倒されてる。
 気付いた瞬間、アメリアの顔が真っ赤に染まった。
「誰が、無害なんです?」
 互いの息が掛かる程、距離を詰める。
 ビクッとアメリアの身体が跳ねた。カタカタと震え、怯えるように瞳が潤む。
「……」
 額にキスをして、ユークレースは彼女を開放した。
「冗談ですよ。余りにも無警戒なんで、からかってみました」
「なッ……!」
 ガバッと身を起こしたアメリアの顔が、違う意味で真っ赤に染まる。
「ば、バカー!」
「だから近所迷惑ですって。……唇、塞ぎますよ」
 固まるアメリアを見つめ、ユークレースは笑ったのだった。


●5.

 日向 悠夜は、パートナーの様子が気に掛かっていた。
 待ちに待った恋虹華の咲く季節。そして恋花祭り。
 二人で楽しみにして来た筈なのに……。

「恋虹華はやっぱり綺麗だね、弓弦さん」
 陽の光の下、雪を七色に染めて輝く花を眺めてから、悠夜は降矢 弓弦を見上げる。
 しかし、彼から返事は無かった。
 何かを思い悩む表情。
「弓弦さん……弓弦さん?」
 軽く袖を引いて名前を呼べば、彼はハッとした顔で悠夜に視線を合わせる。
「あ、ごめん……何か言ったかい?」
「ううん、何でも……」
 悠夜は首を振ってから、彼に気付かれないよう、吐息を吐き出した。
(夜の恋虹華も楽しみたいから宿泊する事にしたけれど……弓弦さん、楽しめて、ないのかな)
 宿に付いてからというもの、ずっと彼はこんな感じだ。
 自分はとても楽しいけれど、彼が楽しめていなければ意味が無い。
「くしゅん!」
 一際冷たい風が吹いて、悠夜からくしゃみが漏れる。
「長い間外に居たから、冷えてしまったね。中で温まろう」
 気遣うように弓弦が肩を押してくれた。その優しさに少しホッとする。
 二人は宿に戻る事にした。

(参った……)
 宿の部屋に戻って、弓弦は行き場を無くした視線を取り敢えず窓の外へと向けた。
 悠夜も黙って窓の外を見ている。
 恋虹華の花畑が見下ろせる絶好のロケーション。それはとても嬉しいのだが。
(ふ、二つ返事で来たは良いものの……まさか同じ部屋に……)
 混み合う時期、知り合い同士は同室にというお願いがあったらしい。
(いや、悠夜さんから事前に説明はあった……何故失念したんだ僕は……!)
 己を殴り付けたい気持ちになりながら、弓弦は両手を組む。
(こんな態度ではいけない。不安にさせてしまう……悠夜さんは、僕を信頼して誘ってくれたに違いないのに)
 けれど、悠夜と一室で夜を過ごすという事実が、心を掻き乱す。
 この落ち着かない気持ち、自分でも整理出来ない。
 ほとんど会話らしい会話がないまま、日が暮れた。

「悠夜さん、恋虹華を見に行こう」

 不意に弓弦が立ち上がりそう言った。
 このままではいけない。そう決断しての誘いだった。
「う、うん……行こっか」
 悠夜は驚きながらも頷き、二人は防寒対策してから外へと出る。
 外の空気は冷え切っていて、吐く息が一層白い。
 恋虹華は夜の闇の中、喫茶店からの灯り、そして控えめな街灯の灯りに照らされ、虹色に光っていた。
「わぁ……夜の恋虹華も綺麗だね」
 昼間と違う幻想的な色に、悠夜が感嘆の吐息を吐き出す。
 彼女の輝く瞳を見つめ、弓弦は口を開いた。
「今日は、ごめんね。……その、僕は上の空だったろう? 君と一緒に居られたのに……」
 悠夜の青い瞳が真っ直ぐに弓弦を見上げる。月のイヤリングが耳元で光った。
 弓弦も逸らさず彼女の瞳を見る。
「その、今日は一緒の部屋で寝るだろう? いざとなると勝手に恥ずかしくなって……さ……」
 最後、困ったように眉を下げて言う彼に、悠夜の胸が温かいもので満たされていく。
「そっか……」
 嫌じゃ無かったんだ。
 微笑んで、それから徐々に悠夜の頬が紅く染まっていく。
「改めて考えると私も恥ずかしく……っ」
 二人で真っ赤になった顔を見合わせ、笑った。
「よし、弓弦さん! 四つ花の恋虹華を探そう!」
 ぐっと拳を握って、弓弦を正面から見つめて悠夜がそう言う。
「見つかるまで宿には戻らない! 頑張って探して、疲れて、喜びを共有したまま寝よう!」
 弓弦の金の瞳が驚きに満ちた。
「今日も、明日も、いつの日も! 一緒に疲れて一緒に喜ぼう!」
 悠夜の手が弓弦の手を取る。愛おしい温かさ。
 くしゃりと弓弦が微笑む。
「一緒に」
 握り返された手の優しさに、悠夜も微笑んだ。

 二人は四つの花びらの恋虹華を探す。
 見つかったかどうかは、二人だけの秘密。

Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:リーリア=エスペリット
呼び名:リーリア
  名前:ジャスティ=カレック
呼び名:ジャスティ

 

名前:日向 悠夜
呼び名:悠夜さん
  名前:降矢 弓弦
呼び名:弓弦さん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月03日
出発日 02月09日 00:00
予定納品日 02月19日

参加者

会議室


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