プロローグ
ショコランドには、『チョコリート』と呼ばれるチョコを原料とした魔法の建材があります。
風雨では溶けず、舐めると甘いその建材は、街の至る所で使われています。
「この紙も、チョコを原料とした魔法の紙で、『チョコット』です」
綺麗なピンク色の紙を持った妖精の女性店員は、そう言ってウィンクルム達を見渡しました。
ここは、ショコランドにある小さなカフェ。
現在、バレンタイン限定のイベントを開催しています。
「ですので、このように食べられます」
モグモグとピンクの紙を食べて、店員はにこっとしました。背中の蝶の羽がヒラヒラと揺れます。
「これはストロベリー味のチョコです。甘くて美味しいです」
そこまで言って、妖精は新たなチョコレート色の紙を取り出しました。
「それだけじゃなくて……このように、普通に折り紙として折れるのですよ」
妖精は小さな手で、丁寧に紙を折り畳んでいきます。
「出来ました! 折り鶴です」
ちょこんとテーブルに、チョコレート色の鶴が置かれました。
「色も何種類かあります。色によって味も違うんですよ」
ウィンクルム達の前に、色とりどりの紙が現れます。
「お好きな色で、お好きなものを折ってみて下さい。出来上がったら記念撮影をします」
妖精は、よいしょと、その身体には少し大きな人間用の本も取り出しました。
「折り紙の折り方が載った本もありますし、分からない所は私がお教えします。お茶を飲みながら、のんびりと折ってみましょう」
にっこり微笑んで、店員は再び紙を折ります。
器用な指先で、あっという間に作ったのは、薔薇の花でした。
「作ったものを贈り合うのも素敵だと思います。勿論、そのまま持ち帰っても食べても大丈夫です」
プレゼント用にラッピングも用意されています。
「では、始めましょうか」
ウィンクルム達は、思い思いにチョコレートの紙を手に取りました。
解説
【ショコランド】にあるカフェで、のんびりとチョコレートな折り紙を楽しんで頂くエピソードです。
プランに以下を明記して下さい。
・折り紙の色や味(一般的なチョコレートであれば何でも可。自由にプランに記載して下さい。)
・折るもの
・飲みたいお茶
・折ったものをどうするか(ラッピングしてプレゼントしたり、食べたりするか)
参加費用として、「300Jr」掛かります。
あらかじめご了承下さい。
ゲームマスターより
ゲームマスターを務めさせていただく、『折り紙がマイブーム』の雪花菜 凛(きらず りん)です。
折り紙好きが昂じて、折り紙でチョコなエピソードを出してみました。
丁寧に折り込んだ折り紙の価値は、プライスレスです!
お気軽にご参加頂けますと嬉しいですっ。
皆様の素敵なアクションをお待ちしております♪
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ひろの(ルシエロ=ザガン)
……緑のに、しようかな。たぶん。抹茶チョコ、だよね。 覚えて、たの? 折り紙は、好きだよ。難しいのは、折れないけど。 本見ながらなら、少しは作れるし。 きれいに折れたら、嬉しい。 飲み物はセイロンティーで。ミルクと砂糖はいらない。 (連鶴の本を借り、嘴の繋がった二連鶴を作る 一枚でも色々作れるけど。 何枚か使って、箱とかも折れるんだよ。 先をまるめるのは、定規とか使うの。 ルシェ、初めてって言ったのに。 きれいに折れてるよ? (ルシェって、なんだろう。……『妥協しない』が、一番近いかな) (私は、すぐ諦めるから。駄目なのかも) なら、私のはルシェにあげる。 交換。 これ、食べてもいい? だって、食べれるなら、食べてみたい……。 |
ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)
・ブラックチョコ ・猫 ・アールグレー ・プレゼント (最近レオンを意識するようになり、態度がぎこちない 質問には) 猫だよ! (触れられかっと赤くなる。さっと振りほどき) …あのな、お前は私の事を恋人だと思ってるかもしれないが 私は恋人だと認めた覚えはないぞ (レオンが傷ついた様子なのに慌てる) ま、待て、そういう意味じゃない お前は…た、大切な相棒だ ただ、恋人って言葉がしっくり来ないだけだ (黒猫差し出す) 誰のために折ってたと思ってる バレンタインに誰かにあげるなんて初めてだよ …それと、誕生日おめでとう (深呼吸して、意を決して) 好きだよ 最初に一目見たときから好きだった でも… 私には「恋人」っていうのが良くわからないんだ |
アマリリス(ヴェルナー)
飲物 珈琲 ではピンクの折り紙にします 桃か苺あたりの味でしょうか 折るのは何にしましょう あまりこういった遊びには縁がなかったので詳しくありませんの 定番に鶴にしてみようかしら あら教えてくださるの? 案外わかりやすくて意外 なるほど、それなら納得です いつか会ってみたいですわ できました なかなかいい出来ではないでしょうか? 自慢げに見せる 写真撮影は鶴を手に持ちいつも通りの笑顔で 心持傍に寄る そういえば、贈り合うのも良いって言… …何を早速食べようとしていますの? 食べるくらいならわたくしのを上げますからその子はください もう貰ったものですもの 返しませんわ 食べないのならその子の事、わたくしだと思って大事にしてあげてください |
和泉 羽海(セララ)
アドリブ歓迎 折るもの:2連鶴 飲み物:ホットミルク ……美味しい 折り紙やったことあるんだ 『(筆談で)鶴がいっぱい繋がってるやつ』 …連鶴っていうのか あれ作りたい 色は…適当でいいかな (本を見ながら黙々と作成) あ、破れちゃった… 難しい…ていうか、思ってたより不器用だったんだ、あたし む、一人で作れるもん…たぶん バラ、綺麗…だけどなんだろう、この気持ち… (形に若干引いたのと、自分より上手にできてて、ちょっと悔しい) お返ししなきゃ…お返し……えと上手じゃないけど 「…いる?」(口パク) そ、そんなに嬉しいもの…!? ……ちゃんとラッピングした方が良かったかな… (薔薇の花を一つ食べる) ……?だって。 『お腹すいたから』 |
淡雪(ノエル)
食べれる折り紙、ですか…? 折ってもよし、食べてもよし、ですね 楽しみです …何でもう食べてるんです? それは…、確かにそうかもしれません(真面目な顔で頷く じゃあ私も食べてみます これは苺でこれはミルクでしょうか… 緑茶飲みつつ …はっ、これじゃ折る前に紙がなくなってしまいます 折りましょう、と袖を引っ張って促し では私はこの青の折り紙で鶴を折りますね 何味なんでしょう…(しげしげ それにしてもノエル不器用すぎないです? それが、鶴…? 格好いい…? 写真は苦手、です 緊張して固めの表情 結局、完成してても食べるんですね? 思いでは心の中に、…そうですね じゃあ私も、いただきます あ、ソーダ味です |
●1.
淡雪は、目の前に現れた色とりどりの紙を興味深く眺めた。
陶器の器に載った紙は、チョコレートの折り紙。
「折ってもよし、食べてもよし、ですね」
手に取ってみると甘い香りが広がって、彼女は青い瞳を細める。
「楽しみですね、ノエル……」
隣のパートナーに話し掛けて、淡雪はぴたっと止まってしまった。
「……何でもう食べてるんです?」
ノエルが鴬色の折り紙を齧っている。
「どんな味がするか気になったんだ。これは抹茶味だね」
ゆっくりと味わって飲み込み、ノエルは微笑んだ。
「ほら、完成してしまったら食べるのがきっと勿体なくなるだろう? だから先に食べるんだ」
「それは……、確かにそうかもしれません」
淡雪は納得した様子で頷く。
「じゃあ私も食べてみます」
思い切った様子で折り紙を手に取った。
「これは苺で、これはミルクでしょうか……」
口に運べば想像通りの甘い味が広がる。
「美味しい……」
「緑茶との相性もぴったり」
二人はほっこり和みながら、緑茶とチョコットを味わう。
「おかわりは、遠慮なく言って下さいね」
「有難う御座います」
店員に声を掛けられ、微笑んでお礼を言ってから、淡雪は我に返る。
「……はっ、これじゃ折る前に紙がなくなってしまいます」
淡雪に袖を引かれて、ノエルは小さく瞬きしてから笑った。
「……あ、本当だ」
いけないいけないと言いつつ、彼は楽しそうだ。
「この青の折り紙で鶴を折りますね」
淡い青色の折り紙を手に取って、淡雪はしげしげと眺める。
「綺麗な色……何味なんでしょう?」
折るのが勿体無いような気持ちになりながら、丁寧に縦横に折り目を付けていく。
「俺はこの折り紙で……」
ノエルは漆黒の折り紙を選んだ。淡雪の手元を覗き込みながら、真似して折っていく。
のだが。
「ノエル不器用すぎないです?」
淡雪がノエルの手元を見遣って目を丸くした。紙の角が綺麗に合わさっておらず、不安になる形だ。
「結構難しいね。まぁ、問題ないって」
ノエルは全く気にしていない様子で、先へ進むよう促す。
そんな彼をやはり心配そうに見つつ、淡雪は鶴を折り上げていった。
「出来ました」
「出来たね」
淡雪の手元には、綺麗に折られた青い鶴。
ノエルの手元には……。
「それが、鶴……?」
ちょこんと丸っこいフォルムの、黒い謎の物体があった。淡雪の首が傾く。
「確かに鶴には見えないけど、何か強そうで格好良くない?」
黒い鳥のようなものを掌に載せて、誇らしげにノエルが微笑んだ。
「格好良い……?」
「うん!」
自信満々な彼の笑顔に、思わず淡雪は笑ってしまう。
「記念撮影しましょう」
そこへカメラを持った店員が歩み寄ってきた。
「は、はい……」
(写真は苦手、です)
青い鶴を手に、淡雪の表情が硬くなる。どうしても上手に笑えない己を感じた。
「淡雪、淡雪」
不意に、目の前に黒い鳥が現れた。
「やっぱりさ、これ、凄く格好良いって」
そう言いながら、ノエルは淡雪の前で黒い鶴のようなものをヒラヒラ飛行をさせる真似。
「……そうでしょうか?」
丸っこいそれが目の前を舞うのが、何だかとても可笑しくて。
「ふふっ……」
ノエルの口元に笑みが浮かぶ。
瞬間、シャッターは切られた。
写真には、青い鶴と黒い鶴、そして楽しそうな二人の笑顔が並んだ。
撮影が終わるなり、ノエルは漆黒の鶴を早速指で摘む。
「結局、完成してても食べるんですね?」
「黒って何味か気になるし。後であれは何味だったんだろうと後悔するよりは」
鶴の羽を撫でてノエルは笑った。
「それに、形は残らなくても思いでは心に残るからね」
「思いでは心の中に、……そうですね」
淡雪もまた、青い鶴を手に取る。
「じゃあ私も、いただきます」
「いただきます」
もぐもぐ。
「あ、ソーダ味です」
ほんわりと淡雪が微笑んだ。
そしてノエルを見やると、彼は少し神妙な顔をしている。
「何味でした?」
「……海苔味」
答えるなり、彼はとても楽しそうに笑って。淡雪も釣られるように笑ったのだった。
●2.
和泉 羽海もまた、『折り紙の味が気になった』派だ。
紅の折り紙を食べて、うんうんと頷いている。
そんな彼女をニコニコを眺め、セララもまたうんうんと頷いた。
(羽海ちゃん、折る前に食べてるけど……まあ可愛いからいいよね!)
彼女が楽しそうにしている空気が分かる。あれは『美味しい』という顔だ。
「羽海ちゃん、注文のホットミルクが来たよ」
店員が運んできたカップを、甲斐甲斐しく彼女の前に置く。
紅茶を一口飲んでから、セララは陶器の器に入った折り紙を見つめた。
「折り紙なんて何年ぶりかなー」
青と紫の紙を選んでいくセララの声に、羽海は顔を上げて心底意外そうに彼を見た。
「あれ、意外? オレこういうの結構得意なんだよー」
彼女の表情から疑問を読み取って、セララはにこやかに笑う。
「羽海ちゃんは何作る?」
セララの問い掛けに、羽海は傍らに置いていたスケッチブックに、さらさらと文字を書いて彼に見せた。
『鶴がいっぱい繋がってるやつ』
「……あぁ、連鶴かぁ」
(……連鶴っていうのか)
羽海は折り紙の本を捲った。
「連鶴は種類が沢山あるよね。オレ教えてあげようか?」
連鶴の折り方のページは、目次から直ぐに見つかる。
八橋という、八羽の鶴を円形に繋げて折る連鶴を作る事にした。
(色は……適当でいいかな)
目に付いた鶯色の折り紙を選ぶ。
「……あれ、聞いてる!?」
羽海が黙々と折り始めたのに、セララは目を丸くした。
しかし、彼女の瞳が真っ直ぐ集中している様子に、ふっと表情を緩める。
それから、自分も薔薇を折り始めた。
暫し、二人無言で折り紙と向き合う。
(あ、破れちゃった……)
折り重ねた部分が破けたのに、羽海は手を止めた。
(難しい……ていうか、思ってたより不器用だったんだ、あたし)
思い通りに折れない歯痒さと、不甲斐なさに眉を下げる。
羽海はチラリとセララの方を見た。
「~♪」
彼は鼻歌混じりに多くの薔薇を量産していた。口惜しいけど、器用だ。
「羽海ちゃん?」
バチッと彼と目が合う。
彼が『手伝おうか?』と言う前に、羽海は自分の手元に視線を落とした。
(一人で作れるもん……たぶん)
それから、時間を掛けて、羽海は八橋を完成させた。
少し破けたりバランスがおかしい所もあるけれど、8羽が輪になった姿は美しい。
自分の力で完成出来た事が嬉しくて、羽海の表情が緩んだ。
「頑張ったね! 凄く綺麗だよ」
セララの褒める言葉も擽ったくて、今は嬉しいと感じる。
「はい、これは羽海ちゃんにプレゼント」
だから、セララが差し出してきた、リボンでラッピングされた箱も素直に受け取ったのだが。
(綺麗……だけどなんだろう、この気持ち……)
箱を開けて現れたそれに、羽海の瞳が半眼になる。
そこには、沢山の青と紫の立体的な薔薇が、綺麗なハート形に敷き詰められていた。
凄く上手くて、ちょっと悔しい。そして、無駄な女子力の高さに引いてしまう。
とはいえ。
(お返ししなきゃ……お返し……えと上手じゃないけど)
『……いる?』
八橋を指差し、口パクで彼に尋ねる。
瞬間、セララが衝撃を受けたように、大きく身体を震わせた。
「え、え! オレも貰えるの!?」
身を乗り出してくる。羽海は思わず後ろへ下がりつつ、コクコクと頷いた。
(そ、そんなに嬉しいもの……!?)
「ヤバい、どうしよう、泣きそう」
(……ちゃんとラッピングした方が良かったかな……)
うるうると瞳を潤ませるセララに、羽海は少しだけ後悔しつつ、彼が作った薔薇を一つ手に取る。
「もうコレ、家宝にするよ! だから、オレのも大事に……」
涙を拭いつつ羽海を見遣ったセララは、次の瞬間、目を見開いた。薔薇が一つ消え、ハートが欠けている。
「って、えぇ!? 何で食べちゃうの!?」
羽海は?マークを浮かべながら、ごっくんと薔薇を飲み込んだ。
『お腹すいたから』
スケッチブックに書いて答えると、セララは少しだけ遠い目をした。
「いや、別にいいんだけどさ。ところで青い薔薇は何味だったの?」
●3.
「どの色にしましょうか」
珈琲のカップを手に、アマリリスは陶器の器にある色とりどりの紙をじっくりと見つめる。
ヴェルナーも紅茶のカップを手に、真剣な眼差しを折り紙に向けた。こんな時でも真面目な彼の様子に、アマリリスは気付かれないよう口元に笑みを浮かべる。
「このピンクの折り紙にしますわ」
暫し思案してから、アマリリスは可憐な桃色の紙を手に取った。
「私はこれで」
ヴェルナーは純白の紙を手に取る。
「この色なら、桃か苺あたりの味でしょうか」
「この色だと……何味でしょう?」
まじまじと白の紙を眺めるヴェルナーの横顔を見てから、アマリリスは小首を傾げた。
「定番ならば、ホワイトチョコレートだと思いますが……」
丁度通りがかった店員をチラッと見れば、店員は悪戯っぽくウインクした。
「味は食べてからのお楽しみです♪」
少し残念そうにするヴェルナーに、アマリリスは微笑んでから、紙を手元に置く。
「折るのは何にしましょう。あまりこういった遊びには縁がなかったので詳しくありませんの。定番の鶴にしてみようかしら」
少し自信がありませんけれど……と続ければ、ヴェルナーが遠慮がちに口を開いた。
「よろしければ私も折り方をお教えできますが……」
「あら教えてくださるの?」
アマリリスは大きく瞬きする。
「是非お願いしますわ」
「承知しました」
少し緊張した面持ちでヴェルナーは頷いた。
「まず折り目を付けましょう。付けておく事で、紙が重なる部分が綺麗に折れます」
ヴェルナーに倣い、アマリリスは慎重に紙を折っていく。
「ここを上に開いて下さい」
「……破けそうで怖いですわ」
「失礼します。ここを押さえてゆっくり開くと上手く行きます」
ヴェルナーの手がアマリリスの手と折り紙に添えられる。
アマリリスは跳ねる心臓を必死に抑えながら、彼に手伝って貰い難所をクリアした。
「綺麗に折れました!」
「はい」
至近距離の彼の笑顔に、アマリリスは紅くなった顔を隠すように折り紙へ視線を落とす。
「教え方、分かりやすいですわ。少し意外です」
「年の離れた妹が居るんです。折り紙で遊んでいてあげた時期があったので……」
「妹さん?」
アマリリスは初めて聞く彼の家族の話に、顔を上げて彼を見つめる。
「それなら納得です。いつか会ってみたいですわ」
「ええ、是非。妹も喜びます」
ヴェルナーは微笑みながら、胸に温かいものが満ちるのを感じていた。
彼女が自分の家族に会いたいと言ってくれた。それがとても嬉しく……。
「続き、折りましょうか」
正体不明の浮かれてくる気持ちに、ヴェルナーは慌てて首を振り、続きを促す。
丁寧に折り進め、最後、翼を広げて形を整えた。
「できました! なかなかいい出来ではないでしょうか?」
綺麗に前を向く鶴を掌に載せ、アマリリスに笑顔が溢れる。
「はい。とても綺麗です」
ヴェルナーも純白の鶴を手に微笑みを返す。そこへ店員がやって来て、記念撮影をする事になった。
アマリリスはそっとヴェルナーに身を寄せる。
ちらりと彼の様子を伺うと、緊張した顔をしていた。距離の近さには気付いていない様子だ。
「はい、チーズ♪」
上手く表情を作れないヴェルナーと、彼に寄り添い微笑むアマリリス、純白と桃色の鶴が写真に収まった。
(やはり味が気になる)
撮影が終わると、ヴェルナーは純白の鶴を口元へ運ぶ。
「そういえば、贈り合うのも良いって言……何を早速食べようとしていますの?」
アマリリスは慌ててヴェルナーの手から、純白の鶴を奪取した。
「食べるくらいならわたくしのを上げますから、この子はください」
差し出された桃色の鶴を、ヴェルナーは大きく瞬きして見つめる。
「構いませんが……」
アマリリスから桃色の鶴を受け取りつつも、彼の視線は純白の鶴から離れない。
「もう貰ったものですもの。返しませんわ」
アマリリスが腕の中に純白の鶴を隠し、ヴェルナーは掌の上の、桃色の鶴へ視線を落とした。
(アマリリスの色に似ている……)
大事にしなければ。使命感に似た気持ちが沸き上がってくる。
「食べないのなら、その子の事、わたくしだと思って大事にしてあげて下さい」
彼女の声に顔を上げて、ヴェルナーは純白の鶴の事を思う。ならば、あの鶴は自分か。
「アマリリスも、その鶴を私だと思って大事にしてあげて下さい」
真面目な顔で彼がそう言ったのに、アマリリスは瞳を細め頷いたのだった。
●4.
「折り紙か。知ってはいるが折るのは初めてだ」
ルシエロ=ザガンは、チョコレートの紙を手に取り、興味深げに眺めた。
甘い香りに口の端を上げ、隣に座るパートナーを見遣る。
ひろのは、陶器の器に並ぶ紙を真剣に見つめていた。
「……緑のに、しようかな。たぶん。抹茶チョコ、だよね」
逡巡の結果、鴬色の紙を手に取る。
「初めに行った図書館でも折り紙の本を眺めていたな」
その声に、ひろのが目を丸くしてルシエロを見上げた。
「覚えて、たの?」
「直ぐに忘れるほど、記憶力は悪くない」
驚きに染まる焦げ茶の瞳を見つめ、ルシエロは笑った。
「折り紙が好きなのか」
「うん、折り紙は、好きだよ」
少し気恥ずかしいような不思議な気持ちになりながら、ひろのは手元の紙に視線を戻す。
「難しいのは、折れないけど。本見ながらなら、少しは作れるし。きれいに折れたら、嬉しい」
見つめてくるルシエロの視線が優しい。どうして?
胸のざわめきは、店員の声で掻き消えた。注文を聞かれる。
「ダージリンを頼む」
「セイロンティーで。ミルクと砂糖は要りません」
紅茶を頼んでから、ルシエロは白い紙を手に取った。
「色的にホワイトチョコレートか?」
「ルシェは、何を折るの?」
ひろのは、本の中から、連鶴を扱ったものを選ぶ。
パラパラと本を捲って、ルシエロは瞳を細めた。
「そうだな……これにしよう。白の紙で作るのにはぴったりだ」
百合の花のページを開くと、小さく頷いて、作り方に目を通し始める。
「うん。じゃあ、折ろう」
ひろのも嘴の繋がった二連鶴の作り方が載ったページを開き、折り方を確認しながら折り始めた。
「一枚の紙がこうも形を変えるとは……」
暫く黙々と折っていたルシエロが、感心した声を上げた。
彼の手元では、几帳面に折られた紙が百合の花へと変わろうとしている。
「一枚でも色々作れるけど。何枚か使って、箱とかも折れるんだよ」
ひろのがそう言うと、ルシエロは瞳を輝かせ、
「奥が深いな」
折りかけの百合を彼女へ差し出してきた。
「ヒロノ、この先を曲げるのはどうやる」
「先を丸めるのは、定規とか使うの」
ひろのは定規を彼に差し出し、カールさせる方法を伝授する。
「ルシェ、初めてって言ったのに。きれいに折れてるよ?」
花びらをカールさせれば、綺麗な百合が花開く。ひろのは見惚れて小さく息を吐き出した。
ルシエロは喉を鳴らして笑う。
「教える者が居て本まである。これで無様は晒せまい」
ひろのは大きく瞬きした。
(ルシェって、なんだろう。……『妥協しない』が、一番近いかな)
完成した嘴で繋がる鶴を見つめる。
(私は、すぐ諦めるから。駄目なのかも)
「ほう……嘴で繋がってるのか。これはどうやって作ったんだ?」
耳元でルシエロの声がして、ひろのは思わず肩を跳ね上げた。
「せ、正方形二つ分の大きさの紙を、真ん中で下の方を残して切って……二つ鶴を折るんだ」
「紙自体が繋がってるのか」
そんな会話をしていると、カメラを持った店員がやって来て、記念撮影をする事になった。
二連鶴と百合を手に、二人は写真を撮って貰う。
「ヒロノ、これはお前に」
撮影が終わるなり、ルシエロはひろのへ百合を差し出した。
「なら、私のはルシェにあげる。交換」
ひろのは百合を受け取ると、彼に連鶴を手渡す。それから、じっと百合を眺めて、こう尋ねた。
「これ、食べてもいい?」
「愛でる時間の短いヤツだな」
「だって、食べれるなら、食べてみたい……」
少しバツが悪そうにするひろのの髪を、ルシエロの大きな手が撫でた。
「まあいい。ほら、食べてしまえ」
「うん」
ゆっくりと味わって食べるひろのを眺め、ルシエロは瞳を細める。
百合は好きな花だ。
(オレの初恋のヤツも好きだった)
過去の想いも含め、ヒロノに食べられてしまえばいいと、そう思う。
(過去は過去。見て思い出すなら、コイツがいい)
「ホワイトチョコレート、だったよ」
ひろのが笑顔を見せる。ルシエロも笑みを返した。
「オレも食べるか」
●5.
アールグレイのカップが、美味しそうな湯気を立てている。
しかし、それに手を付ける暇もなく、ガートルード・フレイムは折り紙と格闘していた。
漆黒の折り紙が、彼女の手の中で、折られ曲げられ、懸命に形作ろうとされている。
「……何それ、クワガタ?」
「!?」
不意に近くで響いた声に、ガートルードはびくぅと肩を跳ね上げた。
振り返れば、レオン・フラガラッハがロイヤルミルクティーのカップを手に、不思議そうな顔でガートルートを見ている。
「猫だよ!」
言い返して、ガートルートは紅くなった顔を見られないよう、急いで手元へ視線を戻した。
しかし、折り方の載る本へ目線を向けても、ちっとも頭に入ってこない。
(どうして、レオンの事をこんなに意識してしまうんだろう……)
今日だって、レオンを避けるように折り紙に集中しているフリをしてしまっている。
(いや、折り紙は真剣なんだが……!)
「ハハッ」
その時、背後で吹き出す声がした。
「お前不器用だな」
背中に温かい何か。
ヌッと伸びてきた手が、折り紙とガートルードの手に触れる。
「猫ならもっとこう、耳とか……」
それがレオンの手だと気付いた瞬間、思考が一瞬で沸騰した。
レオンの手を振り払い、距離を取る。
「……あのな、お前は私の事を恋人だと思ってるかもしれないが、私は恋人だと認めた覚えはないぞ」
言い放ってしまった言葉に、レオンが目を見開いた。
それから、その瞳が歪むように細められる。
「それ、振られたって事かな」
小さな声だった。
「すまん、勘違いしてて」
耐えるように伏せられた瞳に、ズキリとガートルードの胸が痛む。
「ま、待て、そういう意味じゃない」
一歩彼へと踏み出して、ガートルードはぎゅっと拳を握った。
「お前は……た、大切な相棒だ。ただ、恋人って言葉がしっくり来ないだけだ」
ガートルードはテーブルの上の『猫』を掌に載せ、彼へと差し出した。
「誰のために折ってたと思ってる」
レオンの瞳がガートルードを見た。
「バレンタインに、誰かにあげるなんて初めてだよ」
ぎこちなくガートルードは微笑む。
「……それと、誕生日おめでとう」
「ありがとな」
レオンの指が、優しく猫に触れた。大切そうに掌に包み込む。
「でも……そうか、俺は大切な相棒か」
ふわりと寂しそうにレオンは笑った。
ガートルードの胸を、叩くような痛みが襲う。
こんな顔をさせたいんじゃない。そうじゃないんだ。
深呼吸をする。
ガートルードは真っ直ぐにレオンを見て、そして、口を開いた。
「好きだよ」
そう。
「最初に一目見たときから、好きだった」
告げて、ガートルードは迷うように視線を彷徨わせた。
「でも……私には『恋人』っていうのが良くわからないんだ」
だから逃げていた。分からない事が怖くて。変わってしまうのが怖くて。
「要するに、恋人って言葉が嫌なだけ?」
ガートルードを見つめ、思案するように瞳を細めていたレオンが言った。
「なら、パートナーでも相棒でもなんでもいいよ」
彼は、折り紙の薔薇をガートルードへと差し出した。
少し不格好だけど、丁寧に折られた紅の薔薇。
「なんでもいいけど、俺もはっきり言うから」
レオンの眼差しが、ガートルードを射抜く。
「俺もお前が好きだよ」
彼の言葉が、ガートルードの身体を駆け巡る。目眩のするような熱さ。
薔薇と彼の手にそっと触れて、ガートルードが微笑む。
「変だな。どうして涙が出るんだろう……」
瞬間、強い力で抱き締められた。
「……どうしてだろうな」
呟いたレオンの声が、切なくて、愛しくて。
重なる鼓動の速さに、ガートルードは瞳を閉じたのだった。
Fin.
依頼結果:大成功
MVP:
名前:ひろの 呼び名:ヒロノ |
名前:ルシエロ=ザガン 呼び名:ルシェ |
名前:ガートルード・フレイム 呼び名:お前、ガーティー |
名前:レオン・フラガラッハ 呼び名:お前、レオン |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 雪花菜 凛 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 02月03日 |
出発日 | 02月08日 00:00 |
予定納品日 | 02月18日 |
参加者
- ひろの(ルシエロ=ザガン)
- ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)
- アマリリス(ヴェルナー)
- 和泉 羽海(セララ)
- 淡雪(ノエル)
会議室
-
2015/02/07-14:05
…淡雪、です。
よろしくお願いします。
折り紙、楽しみです。
何を折りましょう…。 -
2015/02/06-09:26
やあ、オレはセララ。よろしくー
可愛い可愛い羽海ちゃんとデートだよー!
折り紙なんて何年ぶりかな~上手く折れるといいんだけど
-
2015/02/06-07:56
ひろの、です。
よろしくお願いします。
食べれる折り紙……。
何作ろうかな。 -
2015/02/06-02:16
-
2015/02/06-00:16