プロローグ
●板チョコの立て札と綿菓子の霧
瘴気を晴らすためショコランドでのデートを楽しんだ帰り道、貴方とパートナーは森への道を見つけました。行きは通らなかった道です。森の入口には、板チョコで出来た可愛らしい立て札が1つ。
『この森を抜けるとショコランドの木。森はそんなに深くない』
ショコランドの木は、ショコランド世界への出入り口です。浅い森を抜ければそこまで戻れると立て札が教えたことに、貴方は安堵の息を漏らしました。たっぷりお菓子な世界を楽しんだ後で、すっかり疲れていましたので。早速森に入ろうとする貴方を、パートナーが引き留めます。この立て札はちょっとおかしい、と。そう言われてみると、確かに立て札はへんてこな形をしていました。まるで誰かが、端っこの方からどんどん摘まみ食いしたみたいな歪な形。何せ立て札は美味しそうなチョコレートで出来ていますから、誰かがこっそり食べてしまったっておかしくないような気がします。けれど、この辺りにオーガやその他の危険な生き物が出るという報告は聞いていませんし、危ないということはないでしょう。貴方とパートナーは、この森を通って帰ることに決めました。そして……これは貴方たちは知らないことですが、悪戯好きの妖精が齧ってしまったこの立て札には、本当はこう書いてあったのです。
『この森を抜けるとショコランドの木。森はそんなに深くない。
けれど森を通る時は、綿菓子の霧にご注意を。
私が貴方に、貴方が私になりたくなければ、森の中、決して手は繋がずに』
さて、そうして森の中。2人で暫く歩いていると、淡い桃色の霧が俄かに辺りの景色を曇らせ始めました。舐めると甘いその霧は、どんどん深くなっていきます。このままでははぐれてしまいそうだと、貴方とパートナーは手を繋ぎました。手探りで森を進みます。やがて不思議な霧は、現れた時と同じに突然に淡く薄くなって消えました。ふうと息を吐いた貴方は、ようやっと異変に気づきます。貴方の隣で、『貴方』がとっても驚いたような顔をしています。霧が晴れてみると、パートナーは貴方に、貴方はパートナーに、そっくり入れ替わってしまっていたのでした。
「ああ、遅かった!」
狼狽する貴方たちの耳に、鈴の鳴るような声が届きました。その小さな身体には大きすぎる板チョコをよいしょと背負った、チョコレート色の衣装を身に付けた妖精――カカオの精です。
「今、立て札を直しにいくところだったんです。間に合わなくってごめんなさい」
貴方たちはカカオの精から、立て札に書いてあったことを教えてもらいました。困惑し顔を見合わせる2人に、「でも大丈夫です」とカカオの精は請け負います。
「長くても数時間も経てば、何もかもすっかり元通りになりますよ。その姿で貴方たちの世界へ戻るのが不都合なら、知り合いの経営しているお菓子のログハウスを使っていただけるよう頼んでみます。こうなってしまったのは、僕の手落ちのせいですから」
貴方たちはカカオの精の言葉に甘えて、お菓子のログハウスで元に戻るまでの時間を過ごすことに決めたのでした。
解説
●綿菓子の霧の森について
舐めるとお砂糖の甘い味がする、淡いピンク色の綿菓子で出来た霧が発生する森。
霧の中で手を繋ぐと、手を繋いだ者同士の精神がすっかり入れ替わってしまいます。
カカオの精の言う通り、長くても数時間でちゃんと元に戻りますのでご安心を。
戻る時は瞬間ふっと意識が飛んで、気付くと全部元通りになっている感じです。
●お菓子のログハウスについて
貴方たちが元に戻るまでの時間を過ごすことになったお菓子で出来たログハウスです。
お菓子で出来ていますが、べたついたりはしません。快適です。
ログハウスにはマシュマロ製のふわふわソファーやクッキーで出来た椅子とテーブルなどがあります。
テーブルの上には個包装の各種甘いお菓子が器に用意されていますので、こちらもご自由に摘まんでください。
ウィンクルム様お1組につき1軒のログハウスが用意されますので、他の参加者様と出会うことはありません。
●消費ジェールについて
ショコランドでのデート代として一律300ジェール消費とさせていただきます。
●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなりますので、どうかお気をつけくださいませ。
ゲームマスターより
お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!
入れ替わり&お菓子のログハウスで2人きり! なエピソードです。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!
また、余談ではありますがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
手屋 笹(カガヤ・アクショア)
(容姿:カガヤ) カガヤと入れ替わっているなんて…! でも、目線が高い! 背が高い景色とはこんななのですね!? それもそうですね。 戻るまでそこで過ごしましょう。 何ばくばく食べてるんですか!? 私の身体を太らせる気ですか! カガヤだって結構細(服の上から腹に触る) …いわけではなかったのですか…? 腹筋が割れていますね… 何か思ってたのと違って悔しい…! カガヤも私の身体でお菓子を摘んでいますし、 わたくしも遠慮なく頂きますか… 先に食べてますけどどれが美味しかったです? チョコチップクッキーを頂きます。 (身体が入れ替わっていますし少し遊びますか) ありがとうございます (カガヤの手を掴み、カガヤの手からクッキーを食べる) |
かのん(天藍)
天藍の体と元来の目測が合わず、扉の枠に頭をぶつける 椅子に座り痛みが引くのを待つ 濡らしたタオルが額にあてられたので、お礼と天藍の体を傷つけた事を謝る 隣に座る自分の姿に違和感 挙動不審な様子なので尋ね返ってきた答えに、気遣いには感謝するも思わず笑う ここには私がいるだけですし、天藍が楽な姿勢にしてください 寛ぐ仕草に、中身は天藍なのだと感じる 2度とない機会だと思いお願い 了承を受け天藍を姫抱きに 自分がどれだけの負荷になっているのか知りたくての行動だったが、想像より重くなく驚く 元に戻り 現在の姿勢に思わずばたつくも危ないとかえって強く抱き寄せられる 改めてこの腕の中が一番安心できる場所なのだと肩口に頭を乗せる |
夢路 希望(スノー・ラビット)
ログハウスを見て少しはしゃいだ後 彼の方へ振り返り、小さく苦笑い 「本当に入れ替わっちゃったんですね、私達」 いつもより高い視線 口を開けば聞き慣れた彼の声 …今なら、普段聞けない言葉も自由に… なんて、つい 小さく小さく、ノゾミ、と名前を呼び捨てで …本当にユキに呼ばれたみたいで照れます 彼の様子を見ると 真っ赤な顔で俯いていて、尋ねれば …スカート? あ…そ、そうですよね とりあえず腰に上着を… 落ち着こうとソファへ 改めて今の身体を見つめ ユキの肌は本当に白くて綺麗ですね 身体も細くて …羨ましいです 劣等感のあった部分を褒められると 嬉しさと恥ずかしさで無言に 少しして、小さくお礼 お世辞でも、ユキにそう言ってもらえるの、嬉しい |
エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
心情 鏡以外で自分の姿を見るのは新鮮な感覚ですね。表情も自分のものとは違いますし。 行動 ソファに座り葡萄の飴をいただきます。 手の大きさ比べしましょう。雑学ですが、拳の大きさは心臓と同じらしいですよ。 居心地悪そうですね。髪が長すぎて動きづらいのですか? ではお団子にまとめておきましょう。 そういえば、と回想。この前見たホラー映画で、想い人のハートを物理的にゲットしちゃう女性がいました。今の私の状態は、ある意味その映画よりもダイレクトに心臓ゲットしてるのでは!? 思わず笑みが浮かびます。 一方ラダさんは不安げな様子。もし元に戻れなかったらとか考えてるんでしょうかね? 大丈夫! カカオの精の言葉を信じましょう! |
桜倉 歌菜(月成 羽純)
これが羽純くんの目線なんだね… いつもより凄く視界が高い ドキドキしちゃう… 当たり前なんだけど、口を開けば羽純くんの声が出る…! う、迂闊な事は言えませんっ もし私一人だったら、『歌菜、大好きだ』と言ってみたいとか 羽純くんの声で…うぅ、幸せで死んじゃいそうかもっ ハッ! 「べ、別に変な事は考えてないよ…! 取り敢えずお菓子食べよう」 羽純くんの指、く、唇… お菓子を食べるのにも緊張 羽純くんはどう思ってるのかな? 羽純くんin私は、いつも鏡で見る私より大人っぽく見える 「中身でこうも違うんだ…がんばろっ」 元に戻ったら やっぱり私、羽純くんになるより、こうして隣に居る方がいいな (貴方の顔、声を近くで見て聞けるのがいい) |
●貴方の隣で
「面倒なことになったな。戻るまで大人しくしておくしかないか」
桜倉 歌菜の姿で、声で。月成 羽純はやや疲れたように呟いて、お菓子で出来たログハウスの中を見渡した。そして、仄か眉根を寄せる。
(……視線が低い。力も……こんなに弱いのか)
きゅっと握った手に視線を落とす羽純。その手は元来の自分のそれより幾らも華奢で、どこか儚げにすら思えた。重ねる思考を断ち切ったのは、今は羽純の姿をした歌菜の声。
「これが羽純くんの目線なんだね……いつもより凄く視界が高い」
感激したようにそこまで言って、歌菜は思わず口元を抑える。頬が火照るのを感じた。だって、口を開けば唇から溢れるのは、大好きな羽純の声だから。胸が、ドキドキする。
(当たり前なんだけど、口を開けば羽純くんの声が出る……! う、迂闊なことは言えませんっ)
ああ、だけど。
(もし私一人だったら、『歌菜、大好きだ』と言ってみたいとか……)
羽純の声で、その言葉を紡ぐのだ。それを想像して、うっとりとする歌菜である。
(……うぅ、幸せで死んじゃいそうかもっ)
なんて、羽純の顔で百面相を繰り広げる歌菜を見遣って、羽純は止めてくれと頭を抱えた。
「……歌菜」
「へ? あ、は、はい!」
声を掛けられて我に返った歌菜が、慌てたように返事をする。
「おい、何考えてる?」
「べ、別に変なことは考えてないよ……! あっ! 取り敢えずお菓子食べよう! ねっ?」
いそいそとクッキーの椅子に腰掛ける歌菜。羽純はため息を一つ零した。
(……考えてたな、変なこと。大体想像が付く)
仕方ない奴だと、マシュマロ製のソファーへと腰を下ろす羽純。ふわふわとした座り心地は、中々悪くない。
(いいな、気に入った)
けれど。
(座り方にも気を使わないと……スカートがふわふわする。歌菜は……)
ぎこちなく座り直して、羽純は歌菜の方へと視線を遣る。そこには、女性らしく椅子に腰掛ける自分の姿。クッキーを口に運ぼうとする些細な仕草も、女の子のそれで。羽純はズキズキする頭を抑えた。
(……見なかったことにしよう)
自分にそう言い聞かせる羽純。一方の歌菜も、クッキーを食べる、ただそれだけの動作に緊張しきりだ。
(羽純くんの指、く、唇……)
そんなことを思ってどぎまぎする歌菜だったが、クッキーを口にした途端、そのかんばせにぱああと明るい色が浮かんだ。
「羽純くん! このクッキーすっごく美味しいよ!」
「どれだ?」
「ほら、これ!」
勧められるがままにクッキーを口にして、
「本当だ、美味いな」
と羽純はぽつりと漏らした。よくよく見れば、テーブルに用意されたお菓子はどれもとびきり美味しそうだ。甘い誘惑にやや夢中になる甘党の羽純。羽純くんはどう思ってるのかな? なんてふと気になって、歌菜は密かに羽純の様子を窺ったが、羽純はちょうど、チョコレートを口に楽しんでいるところだった。ああ、でも。
(こうしてお菓子を食べる姿も、いつも鏡で見る私より大人っぽく見える)
歌菜、その姿に決意する。
「中身でこうも違うんだ……がんばろっ」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん、何でもないよっ!」
歌菜の笑顔に、羽純はその目を見開いた。
(……俺の顔って、こんな風に笑えるのか)
自分の顔をした歌菜の笑顔の向こうに、本来の歌菜の笑顔が重なって見えるような気がして。中身って大事だと、羽純は思わず感心した。
「やっぱり私、羽純くんになるより、こうして隣に居る方がいいな」
無事元の姿に戻り2人で帰り道を歩きながら。歌菜は、羽純をいつものように見上げてそう笑み零した。
(貴方の顔、声を近くで見て聞けるのがいい)
そんなことを思う歌菜を常の目線から見遣って、羽純は何でもないふうで呟く。
「俺も、歌菜になるより、歌菜を見ている方がいい」
「え……?」
驚きに目を丸くする歌菜を見て、羽純はふっと笑みを漏らした。
●貴方にもっと触れたくて
「わあ、すごいです……!」
どこもかしこも甘い香りのお菓子で出来ているログハウスの内装に、今はスノー・ラビットの姿になっている夢路 希望は顔を輝かせる。瞳をキラキラさせている希望の様子に、スノーは借り物の黒茶の瞳を和らげた。小さくはしゃぐ希望は今は自分の姿を借りているけれど、それでも何だか微笑ましくて。ふと、希望がくるりとスノーへと向き直る。視線が合った。
「本当に入れ替わっちゃったんですね、私たち」
「戻れなかったらどうしようかと思ったけどね」
でもその心配はないことが分かっているから、希望の苦笑に同じく苦笑いで返すことができる。それでも低くなった視界に何だかやっぱり妙な心地がして、スノーは視線を借り物の希望の身体へと落とした。つい、まじまじと観察してしまう。
(色んなところが僕とは違う……女の子の身体、だ)
改めてそのことを自覚すれば、実感に顔が熱くなった。一方の希望は。
(いつもより視線が高いです……それに、口を開いたら聞き慣れた声。ユキの声です)
ああ、今なら。
(普段聞けない言葉も自由に……)
つい、そんなことを思って少し俯き小さく小さく声を紡ぐ。「ノゾミ」と。いつも彼が自分を呼ぶのとは違って、呼び捨てで。唇から零れた音は、まるで本当に、スノーが自分の名を囁いてくれたみたいに聞こえた。
(……本当にユキに呼ばれたみたいで照れます)
頬の仄か火照るのを感じながら、誤魔化すみたいに面を上げて、希望はスノーを見た。希望の姿をしたスノーは、真っ赤な顔をして俯いている。
「ユキ? あの、大丈夫ですか……?」
「っ!?」
尋ねれば、スノーは弾かれたようにバッと顔を上げた。
「いやその、え、えっと……!」
慌てるスノーの姿に首を傾げる希望。その様子に、スノーは胸の内にほっと息をついた。
(見られて……は、いないみたい)
心臓はまだどきどきしているけれど、スノーは何とか落ち着きを取り戻す。そうして、ぎこちなく笑った。
「その……す、スカートがスースーするなぁって」
「スカート? あ……そ、そうですよね。えっと、とりあえず腰に上着を……」
「あ、ありがとう、ノゾミさん」
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる希望の姿に、ちくりと痛むスノーの胸。嘘はついていないけれど、罪悪感が首をもたげる。希望が言った。
「あの、ソファーに座るのはどうですか? 少しは落ち着くかもしれません」
「うん……そうだね」
提案に、精一杯気持ちを込めて「ありがとう」と応えれば、はにかんだような笑みを見せる希望。2人並んでソファーに座れば、改めて今の自分の身体を見つめた希望が、ぽつりと漏らした。
「ユキの肌は本当に白くて綺麗ですね。身体も細くて……羨ましいです」
首を傾げつつも真っ直ぐな言葉に照れを覚えたスノーの耳に、次いで届いたのは小さな、けれど重いため息。思わずといった調子で、スノーの口から言葉が溢れ出た。
「僕は……ノゾミさんの身体の方が、好きだな」
「ユキ……?」
「ふわふわしてて、ぎゅってした時も抱き心地が良くて、もっと触れたい、って……」
そこまで言葉を紡いで、スノー、希望が下を向いたまま黙り込んでしまっているのに気がついた。
(あ……どうしよう、気持ち悪いって思われたかな)
しゅんと眉を下げるスノー。幾ばくかの居心地の悪い沈黙を破ったのは、希望の方だった。零れ出る、小さな小さな声。
「……ありがとう、ございます」
「え……?」
「お世辞でも、ユキにそう言ってもらえるの、嬉しい……です」
よく見れば、そのかんばせは仄か赤みを帯びていて。実は、劣等感を抱いていた部分を褒められて、嬉しさと恥ずかしさから無言になっていただけの希望である。彼女の言葉と様子にほっと小さく息をついて、スノーは口元を柔らかくした。
(……戻ったら、今度は僕の口でちゃんと伝えよう。お世辞じゃないって)
自分自身の声で、確かにそう告げるのだ。希望は一体、どんな顔をするだろうか。
●貴方という檻・私という鳥籠
マシュマロのソファーに座り葡萄味の飴を口の中に遊ばせながら、ラダ・ブッチャーの姿をしたエリー・アッシェンは、傍らに腰を下ろしチョコチップクッキーを齧っている自分――の姿をしたラダをそっと見遣った。
(鏡以外で自分の姿を見るのは新鮮な感覚ですね。表情も自分のものとは違いますし)
そのラダはというと、好物のチョコチップクッキーが食べ放題だというのにどこか浮かない顔で。
(……体が入れ替わるってちょっと怖いねぇ)
なんて、そんなことを思うラダの苦い表情をしかと見留めて、
「手の大きさ比べしましょう。雑学ですが、拳の大きさは心臓と同じらしいですよ」
と、エリーは口の端を上げ、どうせならこの状況を満喫しようという趣旨の提案をする。常のように不吉な発言でもしているかのような口ぶりにもかかわらず、その外見や声音がラダのものであるが故に、その提案はいつもよりちゃんとポジティブに聞こえた。ほんの少しだけ笑ったラダが、「うん、オッケーだよぉ」と応える。
「それでは」
手が手に触れる。今は己がものである手を、ラダは不思議な心地で眺めた。自分のもののように動かせる手は白く小さく、その指は細く長い。それがどうにも奇妙な感じがしてならないラダである。それに、長い黒髪が気になって仕方がなかった。動き辛い、というだけではない。
(エリーの髪で肩や背中を包まれてると思うと……なんか怖い。人の好意って単純にキレイなもんでもないし)
視線は重ねた手に向けたまま、そんな物思いに耽るラダの表情の曇りをエリーは見逃さなかった。
「居心地悪そうですね」
「えっ? えっと、あの……」
「髪が長すぎて動きづらいのですか?」
「あっ! そう! そうだよぉ! 慣れてないから、変な感じがして」
胸の内に抱いた想いは言葉を濁して押し隠し、エリーの顔でラダは半ば無理やりに笑った。「ではお団子にまとめておきましょう」と笑み返したエリーにされるがまま、ラダはエリーに背を向けて髪を結ってもらう。
(時間がたてば元に戻れるとは思うんだけど、ボクの心がエリーの体に幽閉されてるみたい)
ラダは本来なら自分のものであるはずの逞しい手が器用に髪を纏め上げていくのを感じながら、ふとそんなことを思った。一方のエリーは、
(そういえば)
と、彼女は彼女で、また別のことを考える。
(この前見たホラー映画で、想い人のハートを物理的にゲットしちゃう女性がいました)
ならば、今の自分の状態は。
(ある意味その映画よりもダイレクトに心臓ゲットしてるのでは!?)
ものすごーくポジティブな解釈をしてその口元に弧を描くエリー。その口から、思わず笑い声が漏れる。ラダがびくりとした。
(エリーが含み笑いしてるっ!? ウヒャァ……不気味だよぉ。何を考えてるんだろう?)
思わず身を固くするラダ。そんな彼の今は華奢なその背中に、エリーは緊張と、それから幾ばくかの不安を感じ取る。
(……もし元に戻れなかったらとか考えてるんでしょうかね?)
エリーは妄想の世界から一時帰還し、目の前の背中をぽん、と軽く叩いた。驚いたように振り返るラダに、エリーは笑みを向ける。
「大丈夫! カカオの精の言葉を信じましょう!」
ラダの瞳が見開かれる。ラダの声で言い切られた言葉は、けれどしっかりとエリーのものだった。
(何だかムダに元気で、明るくって)
ふっと、緊張の糸が柔らかく解けていく。そうして、ラダは一つ笑った。
「アヒャヒャ! そうだねぇ、きっとエリーの言う通りだよぉ」
その笑顔に、エリーもまた、ふっと息をついて笑み零すのだった。
●甘やかな悪戯
「カガヤと入れ替わっているなんて……! でも、目線が高い!」
背が高い景色とはこんななのですね!? とカガヤ・アクショアの姿をした手屋 笹は、ごく機嫌良さげにお菓子で出来たログハウスの内装を見回す。借り物の緑の瞳を、傍目にも分かるほどきらきらと輝かせながら。入れ替わってすぐはそれどころではなかったが、じきに元に戻ることを説明され安全な場所へと案内されてみれば、好奇心も湧いて出る。笹――の姿をしたカガヤが、疲れたような苦笑を漏らした。
「笹ちゃんが高い目線を楽しんでいるようで何よりです……」
こちらの目線は、常よりも低い。未だ慣れない視界を持て余しつつも、カガヤもお菓子だらけの室内へと視線を向けた。
「まあ、折角ログハウスに案内してもらったし、戻るまではのびーっとしようよ」
「それもそうですね。戻るまでここで過ごしましょう」
言って、2人でクッキーのテーブルを挟み椅子へと腰を下ろす。目聡くテーブルの上の菓子の器に気づいたカガヤが、
「あ、お菓子だ。これ一緒に食べてようよ」
と言うや否や、笹の返事は待たずにチョコレートへと手を伸ばした。ひょいぱく。うん、甘くて美味しい。
「ところで笹ちゃん、何かすげー細くない? ちゃんとご飯食べてるの?」
言いつつ、今度はチョコチップクッキーをぱくり。あ、これも美味しい。
「って、何ばくばく食べてるんですか!? わたくしの身体を太らせる気ですか!」
「だって笹ちゃん細いからさ。俺なりの気遣いみたいな……」
「そんな気遣いはいりません! それに、そういうカガヤだって結構細……」
言い返しながら今は自分の魂の器であるカガヤの身体、その腹に触れた笹は、驚きに目を丸くした。一瞬、言葉を失う。
「……細い、わけではなかったのですか……? 腹筋が割れていますね……」
「ん? そりゃあ、でっかい斧とか両手剣とか振る為に鍛えてるからね!」
笹、からりと笑うカガヤの声を耳に聞きながら、よく鍛えられた腹部を撫ぜる。そして、小さく呟いた。
「何か思ってたのと違って悔しい……!」
むう、と唇を尖らせる笹だったが、ふるふると首を振って気を取り直す。
「……カガヤも私の身体でお菓子を摘んでいますし、わたくしも遠慮なく頂きますか」
「うんうん、それがいいよ」
「先に食べてますけど、どれが美味しかったです?」
「えっとね、これが美味しかったよ!」
太陽のような笑顔を零して、カガヤが手に取ったのはチョコチップクッキー。「じゃあそれを頂きます」と応じれば、カガヤは個包装を開封して、取り出したクッキーを、
「はい」
と笹の前へと差し出した。それを見て、笹の胸に湧くちょっとした悪戯心。
(身体が入れ替わっていますし少し遊びますか)
密やかにそんなことを思いつつ、笹は「ありがとうございます」とにっこりとする。そうして伸ばした手でクッキー……ではなく、今は自分の姿を借りているカガヤの手を掴んで――。
「え?」
というカガヤの戸惑いの声を余所に、掴んだその手から直接クッキーをぱくりとした。
「カガヤの言う通りですね。美味しいです」
「ちょ、それは笹ちゃんの食べ方じゃないよ?」
「ちょっとしたお遊びです」
そう応えて美味しそうにクッキーを頬張る笹の前で、
(ちょっと、どきっとした……)
と、カガヤはテーブルに突っ伏す。仄か熱く火照る頬を、隠すように。
●心安らぐ場所
ゴンッ! と痛そうな音が辺りに鈍く響き、天藍――の姿をしたかのんは扉の枠に強かに打ち付けた額を堪らず抑え、かのんの姿を借りた天藍は派手な音に思わず首を竦めた。そうしてすぐに、かのんへと声を掛ける。
「かのん、大丈夫か?」
何とかこくりと頷いたかのんだったが、あまりの痛みに声も出ないらしい。天藍、かのんの怪我の酷くないことをテキパキと確認し、その手を引いてログハウスの中へと入る。今度は、かのんが頭をぶつけないように注意して。クッキーの椅子にかのんを座らせて、天藍はタオルを水に濡らすと急ぎかのんの元へと戻った。大人しく椅子に座り痛みの引くのを待っていたかのん、額にひんやりとした感覚に顔を上げる。今はかのんの姿をした天藍が、かのんの額にタオルを当て、紫の瞳を心配そうに細めていた。
「ありがとうございます、天藍。この身体に慣れないので、目測が合わなくて。天藍の身体を傷付けてしまってごめんなさい」
「いや、大事がないならいい。早く元に戻るといいな。俺の姿をしていても、かのんの痛そうな顔は見たくない」
温かなその返事に、かのんはそっと微笑む。その様子に安堵したように、天藍は椅子をかのんの傍へと引き寄せて、彼女の傍らへと腰を下ろした。が、
(あ……そういえばこれはかのんの身体なんだな)
思い出せば、急にどう動けば良いのか分からなくなった。開いた足を常のかのんがしているように閉じてきちんと座らなくてはとあたふたしていると、隣に自分が座っているという違和に視線を天藍へと遣っていたかのんが、彼の挙動不審な様子に不思議そうに首を傾げる。
「天藍? 大丈夫ですか?」
「いや、外側はかのんな訳だし行儀の悪いことをさせるわけにもいかないだろう」
問えば、大真面目にそう返答する天藍。思わず、かのんはくすりと笑みを漏らした。
「……今、笑っただろう」
「あ、すいません……天藍、気遣いは嬉しいのですが、ここには私がいるだけですし、天藍が楽な姿勢にしてください」
普段通りにと微笑むかのんに感謝しつつ、「お言葉に甘えて」と天藍は背もたれに身体を預ける。かのんがしみじみと言った。
「自分が隣にいるというのは不思議な感じですが……中身は天藍なのですね。仕草を見ていると、そう思います」
「そうだな。隣に居るのは自分だが、その笑い方や所作は確かにかのんだ」
言い合って、顔を見合わせて笑い合う。そうだ、とかのんが思いついたように立ち上がった。
「天藍。その、姫抱きをさせてもらえませんか? 2度とない機会だと思うので」
「姫抱き? かのんがやってみたいなら構わないが……」
「ありがとうございます」
かのんの笑みに笑みを返して、彼女が自分を抱きやすいように天藍も立ち上がる。いつも抱き抱える側の自分が抱き上げられるのは気恥ずかしいと思いつつ、かのんの腕の中に抱かれれば酷くむずがゆい心地がした。一方のかのんは。
(自分がどれだけの負荷になっているのか知りたかったのですが……驚きです)
思ってたより軽い? と思わず呟けば、かのんの腕の中で苦笑する天藍。
「そんなこと気にしていたのか」
必要ないのに、と天藍が優しく呟いたその瞬間――ふっと意識が飛んで、気付けば2人は元の身体へと戻っていた。
「きゃ……!」
「っ、危ない」
自分が姫抱きにされていることを認識して思わずばたついたかのんを、天藍はしっかりと支え、落とさないように強く抱き寄せる。そうして天藍は、少し笑った。
「腕の中にかのんがいる方がしっくりするな、やっぱり」
その笑みが、言葉が、かのんに安堵を運ぶ。この腕の中が一番安心できる場所なのだと、かのんは改めて胸の内に思った。天藍の肩口に頭を寄せる。自分を支えてくれる天藍の腕は、どこまでも優しかった。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
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マスター | 巴めろ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 02月03日 |
出発日 | 02月10日 00:00 |
予定納品日 | 02月20日 |
参加者
会議室
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2015/02/09-20:43
・・・プラン提出してきた
どうにもこの状態は落ち着かないので、早めに戻ることを祈るばかりだ(溜息) -
2015/02/09-20:41
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2015/02/09-01:26
-
2015/02/09-01:25
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2015/02/09-01:25
あらためまして、桜倉歌菜です!
って、羽純くんの声……(ドキドキ)
宜しくお願いします! -
2015/02/08-00:50
あ、あら…?
手屋 笹です…
め、目線が高い!?(歓喜
えと、よろしくお願いしますね。 -
2015/02/07-00:07
-
2015/02/07-00:07
一時的なものとは言え・・・どうしましょう、これ
・・・何とかしてやり過ごしましょうか -
2015/02/06-22:49
うふふ……。ラダ・ブッチャーの姿をしたエリー・アッシェンです。
入れ替わりだなんて、不思議な体験ですね。 -
2015/02/06-22:02
-
2015/02/06-06:34