【メルヘン】Get out! 鬼(山内ヤト マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 オーガの脅威にさらされているショコランド。
 マシュマロニア王国の小さな村にも、オーガの爪痕が残っていた。
 この村のマシュマロ畑を荒らしていったオーガはすでに別の場所へ立ち去ったが、周辺にまき散らされた瘴気はなかなか消えずにいる。

 瘴気にさらされると、お菓子は変色して酸っぱい嫌な臭いを出すようになる。
 村の近くの森に住む動物たちは、瘴気の影響で神経質になったり警戒心が強くなっている。
 マシュマロ畑にも瘴気が残存しており、このままではマシュマロ農業を再開することができない。
 村の住人である小人たちは一生懸命に復興作業をおこなっているが、オーガが残した瘴気にはたちうちできない。

「ああ……、大変。こんなありさまじゃ、チョコまきのお祭りなんてしてる場合じゃないよね……」

 悲しそうな顔で、一人の小人がつぶやいた。

「いや。あの行事は邪を退けて幸を招く儀式でもあるんだ。こんな時だからこそ、やってみる意味があるはずだよ」

「ウィンクルムって人たちは、特に瘴気を払うすごい力があるんだって! ウィンクルムがこの村にきてくれたら、きっとこの瘴気もキレイさっぱりなくなるんじゃないかな?」

 そんなこんなで、村の伝統的な祭り、チョコまきにウィンクルムが招待された。

 瘴気を払う儀式の手順は簡単だ。
 小人たちから、袋に入ったアーモンドチョコを受け取る。
 村、森、畑、好きな場所へ移動。
 平和への願いや、打倒ギルティへの意気込みなどを言葉にして、勢い良くアーモンドチョコを投げる!
 ウィンクルムのパワーで瘴気が浄化される。

 ウィンクルムの愛情、優しさ、強さ、高潔さ、気合で、オーガが村に残していった瘴気を払おう!

解説

・必須費用
チョコまき参加費:1組300jr

・エリアについて
ウィンクルムごとに、村、森、畑のどれか一つのエリアが選べます。
場所のかぶりや分担などは特に気にせず、各ペアで好きなエリアを選んでください。
同じエリアを選んだウィンクルムが複数いても、リザルトではウィンクルムごとの描写になります。

・村
瘴気は薄いです。
ウィンクルムに好意的な小人(身長50cmほど)がいっぱいです。恋の話題に興味津々の小人がいます。村長以外の小人は、プランで指定すれば盛り上げ役としてリザルトに登場します。
村でチョコまきをすれば、オーガの襲来で暗澹としたムードの村を活気づけることができそうです。

・森
瘴気濃度は村と畑の中間です。
小鳥、リス、シカ、ウサギ、犬、ネコなど、森や人里にいそうな動物であれば、プランで指定すればリザルトに登場します。この森の動物たちはパステルカラーだったり、甘い匂いがする個体が多いようです。
森でチョコまきをすれば、衰弱したり警戒心の強くなった動物たちを癒せるかもしれません。

・畑
オーガが荒らしたので、特に瘴気が濃く残っています。
現状では小人も動物も、ウカツに近づくことはありません。以前はメルヘンチックなマシュマロ段々畑でしたが、今は荒涼とした不毛の地になっています。
畑でチョコまきをすれば、瘴気に侵された土地を浄化できる可能性があります。

・チョコまき
祝福の魔法がかけられたアーモンドチョコを投げます。この村では「福カモン! 鬼ゲッラウト!」という掛け声が一般的ですが、強い気持ちが込められていれば他のセリフでも大丈夫です。

ゲームマスターより

山内ヤトです。
ショコランド風にアレンジされた節分の行事です。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆心情
祝福の魔法がかけられたアーモンドチョコか~
なんだか投げちゃうのが勿体ないね
瘴気だけじゃなく悲しい気持ちを吹き飛ばせるように頑張ろう!

☆畑を選択
(大声で元気よくチョコを畑にまきながら)福カモン!鬼ゲッラウト!
福さんこっちですよー!
鬼さんは出ていってくださいー!

ほら、エミリオさんも!
もうっ、声が小さい!
しかもなんか弱気だし…どうしたの?

(精霊の不安に気づき、微笑みながらチョコをまく)…エミリオさんが笑顔になりますように!
(精霊の手を握る)誰かを笑顔にしようと思ったらまず自分が笑顔にならなきゃ
私ね、エミリオさんと一緒にいれて凄く幸せだよ
貴方と過ごす時間の一秒一秒が愛しくてたまらないんだ(笑顔)


淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)
  チョコをまく…そう言うお祭りなんだって思うんですけど…やっぱりチョコをまくってもったいない気分になっちゃいますね。
でも私達が投げて瘴気がなくなるなら頑張らないとですね。
森でのチョコまきも惹かれますが一番大変なのは畑の様ですしそちらに行きましょうか。

(チョコまき中)
以前も瘴気をなくすために森に行ったことがありましたが瘴気が薄くなってるのか今一つ自覚がないんですよね。
オーガと戦ったりってのはすごく分かりやすいんですけど…こんなこと言っちゃだめなのかもしれませんが…イヴェさんには傷付いてほしくないです。
ウィンクルムの仕事もきちんとしなきゃって思うんですよ…私を助けてくれたのもウィンクルムだったから。


かのん(天藍)
  近付くことが出来ない畑を何とかしたい
チョコを手に持ち天藍と手を合わせて重ね、瘴気が晴れるようにと2人分の想いを込める
豊かな大地に戻るように!
願いをそのまま言葉にし天藍と声を合わせチョコをまく
段々畑の要所で行動を繰り返す

天藍の心配に
天藍が傍らにいてくれますから
2人なら大丈夫だと思うのです

畑の中を移動中
天藍から告白され同じ想いだったと答えた事で恋人という間柄ではあるものの、好きという自身の気持ちを伝えていない事が棘のように引っかかっている
言葉で伝えられたらと思うも、面と向かうと言葉が喉の奥から出てこない
お話したい事があるのですが、もう少しだけ待って貰えますかと答え、いつかちゃんと伝えようと心に誓う



ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  【チョコまき場所】


ここが一番瘴気が濃いようです
瘴気の耐性がある私達が赴いて払わなければ
ディエゴさんも賛成してくれているようですし。

それに…ここなら人はあまり来ないでしょうし
いつも依頼で二人っきりになるタイミングが最近なかったもので、少し聞きたかったことがあるんです。

最近ディエゴさんの様子がおかしいんですが
私は何か気に障ることでもしましたか?
…意地悪言ったりしてたので心当たりはあるんですが。
その……ごめんなさい
ディエゴさんが嫌いで意地悪言ってるんじゃなくて
必ず言い返してくるから嬉しくてつい。

……
ちゃんと瘴気を払わないとですね、一緒に
ショコランドが元の美しい国に戻りますように!



水瀬 夏織(上山 樹)
  上山さんを誘い、畑へ行きたいと思います。
被害の深刻な場所こそ、最も助けの必要な場所だと思います。
大声を出すのは恥ずかしいですが、まずは基本の「福カモン! 鬼ゲッラウト!」の掛け声でチョコを投げたいと思います。
続けて「上山さんと一緒に立派なウィンクルムになります!」と言えたら良いのですが、やはり恥ずかしいものがありますよね。でも、これが私の決意表明ですから。最後は気合で、言えたら良いな…
こんな私に優しくしてくださる上山さんと、少しでも仲良くなりたいので見損なわれないように頑張ります。
でも、上山さんに想い人がいたら…ウィンクルムであることを説明してくださいとお願いしなくては。勘違いされないように。


 瘴気を払うチョコまきの行事に参加した五組のウィンクルムたち。
 偶然にも全てのウィンクルムが、一番瘴気被害の深刻な畑へいくことを選んだ。マシュマロの段々畑は広く、それぞれ別々の方向でチョコまきをしているので、他のペアとはち合わせになることはない。

●二人の誓い
 近付くことが出来ない畑を何とかしたい。『かのん』は強くそう思った。
 お菓子な農業と一般的なガーデニングでは若干ニュアンスも分野も異なるような気がするが、植物を育むという点では共通している。植物への関心の深いかのんだからこそ、マシュマロ畑の浄化を決意したのかもしれない。
 パートナーの『天藍』もまた、そんなかのんに協力的な姿勢を見せている。
「畑に立ちこめる瘴気を払うため、チョコまきをしますよ」
「ああ。はじめるとするか」
 かのんがアーモンドチョコを手に持つと、天藍は包み込むように手を合わせ重ねた。二人で重ねた手でチョコを包み、目を閉じて気持ちを集中させる。
 瘴気が晴れるように。かのんと天藍は二人とも同じ思いを込める。
「豊かな大地に戻るように!」
 願いをそのまま言葉にする。
 凛としたかのんの声が、腹の底から出された天藍の声が、不毛の地となったマシュマロの段々畑に響いていった。
 畑は広大だ。ウィンクルムの力が全体に行き渡るようにと、二人は段々畑の要所でチョコまきを繰り返した。念入りで丁寧な配慮だ。
 付近には誰もいないが、もし村の住人がかのんと天藍の行動を見ていたら、きっと感謝の気持ちで胸がいっぱいになったことだろう。

「かのん。つらくないか?」
 チョコまきの途中で天藍が声をかけた。
「畑の瘴気は特に強いって話だっただろう? かのんの体に悪い影響がないか心配だ」
 自分を気遣う天藍の優しさと思いやりを感じながら、かのんは穏やかに微笑んだ。
「天藍が傍らにいてくれますから。二人なら大丈夫だと思うのです」
 そういって笑うかのんを見て、天藍の心もまた温かな思いに包まれる。かのんの言葉と態度は、天藍への信頼を示すものだった。それが嬉しい。
 大切なパートナー。かのんのことを必ず守る。天藍はそう誓った。

「ここは少し足場が悪いな」
 段々畑の斜面で、先を進む天藍がかのんに手を差し伸べる。
「ありがとうございます」
 かのんは素直にその厚意を受け取った。
 元々は斜面で転ばないようにと繋いだ手だったが、平坦な足場でも二人の手が離れることはなかった。そのまま並んで人気のない畑を歩いていく。
「……」
 かのんはいっておきたいことがあった。そう思って天藍の顔を見上げれば、切ないような恥じらうような表情をしてしまう。
「どうした? かのん」
 そんな様子に気づいた天藍が言葉をうながした。
「その……、ええと……」
 この前、かのんは天藍からの告白を受けて恋人という関係になった。しかし、好きという自身の気持ちを伝えていない。それがかのんの心に棘のように引っかかっている。ちゃんと自分の気持ちを言葉で伝えられたら、引っかかった棘の痛みはなくなるだろうか。
 そう思いながらも、いざ天藍と面と向かうと言葉は喉に張り付いて出てきてはくれない。
 いいたいけど、いえない。もどかしさと恥じらいで、かのんの頬がほのかに紅潮する。
 沈黙が続いたが、二人の間に漂うのは重苦しい雰囲気ではない。
 かのんの表情から、少なくとも悪い話ではないだろうと天藍は想像していたからだ。せかすことなく、静かにかのんの言葉を待つ。
「お話したい事があるのですが、もう少しだけ待って貰えますか?」
 かのんにとって大切で重要な言葉だ。まだ軽々しく口にすることはできない。だから、しばらく待ってほしいと恋人に告げた。
「わかった。無理はしなくていい」
 天藍は大人っぽい落ち着いた笑みを浮かべた。
「かのんの心の用意が出来るまでゆっくり待つから準備が出来たら教えてくれるか?」
 急ぐ必要はないのだと、天藍はそういってくれる。
「はい。準備ができたら、その時は教えます」
 いつか天藍にちゃんと伝えようと、かのんは心に誓う。

●穏やかな励まし
 村の小人たちから渡されたアーモンドチョコを見つめて、『淡島 咲』は少し残念そうな顔をしている。
「チョコをまく……そう言うお祭りなんだって思うんですけど……やっぱりチョコをまくってもったいない気分になっちゃいますね」
 アーモンドチョコを持ってしょんぼりしている咲の姿を見て、『イヴェリア・ルーツ』は甘くて熱い思いが胸に広がっていくのを感じた。
「そういえばサクは甘いものが好きだったな」
 甘いものを投げるのがもったいないという咲。そんな反応がなんとも愛らしい。イヴェリア、思わず自分のパートナーのキュートさに悶える。
「でも私達が投げて瘴気がなくなるなら頑張らないとですね」
 少し名残惜しそうな視線をアーモンドチョコに向けてから、咲は村のために気持ちを切り替えた。
「森でのチョコまきも惹かれますが一番大変なのは畑の様ですしそちらに行きましょうか」
 咲の提案にイヴェリアもコクリと頷く。彼も同じ意見だ。
「そうだな畑で作物を育てなくてはならないから瘴気を減らした方がいいな」
 二人は、オーガの瘴気によって不毛の地となったマシュマロ段々畑へと向かった。

 咲とイヴェリアは掛け声と共にチョコをまいていく。チョコまきの行事は滞りなく順調に進んでいた。
 途中で、咲がポツリとこんなことをこぼした。
「以前も瘴気をなくすために森に行ったことがありましたが、瘴気が薄くなってるのか今一つ自覚がないんですよね」
「俺もあまり自覚がないが前の依頼の時も無事成功したんだ。瘴気は払えてるんだろう」
 村の伝統どおりにチョコまきをしてみたが、今のところ、咲とイヴェリアの目の前に広がっているのは荒れた畑だ。ほんの少しだけ、瘴気の邪悪な気配が弱まってきているようにも感じられるが……。
「分かりやすく成果が見えるわけではないがきっと役に立てているんだろう」
 咲はイヴェリアを見つめる。
「オーガと戦ったりってのはすごく分かりやすいんですけど……こんなこと言っちゃだめなのかもしれませんが……」
 青く透き通った咲の瞳と、金色に輝くイヴェリアの瞳。二人の視線が合う。
「イヴェさんには傷付いてほしくないです」
「オーガと戦うのもウィンクルムの仕事だ」
 イヴェリアは控えめな微笑を浮かべて付け加える。
「だが、サクがそんな風に思ってくれるのは少し嬉しい」
「イヴェさん……」
 咲も優しく微笑み返す。
 しかし、口には出さなかったが、イヴェリアはこうも思っていた。
(けど、サクの為なら俺は傷付いたってかまわない。って言ったらサクは悲しむかな)
 咲は話を続ける。
「ウィンクルムの仕事もきちんとしなきゃって思うんですよ……私を助けてくれたのもウィンクルムだったから」
「サクはウィンクルムに助けられたことがあったんだな」
「はい。そうなんです」
 ある日をさかいに、淡島 咲の人生に大きな苦難が降りかかった。突如、ギルティクラスの強力なオーガから執拗に狙われるようになったのだ。そんな彼女を保護したのが、A.R.O.A.である。
 そういった経緯があり、咲はA.R.O.A.に対して好感を持った。そして、自分自身も神人としての役目を果たそうと努力している。
 だが、実際に自分たちの行為で瘴気が払われているのか、咲はいまいち実感がわかずにいた。そして、オーガとの戦いでイヴェリアがケガを負うことも恐れていた。
 ウィンクルムの役目や瘴気やオーガについて語った今日の咲の口調は、けして明るいものではなかった。
 そんな彼女の様子を見ていると、イヴェリアも心を締めつけられる。
「大丈夫、俺達もちゃんとウィンクルムできてるさ……」
 イヴェリアは咲に近づき、優しく穏やかに励ました。

●微笑みの仮面
「被害の深刻な場所こそ、最も助けの必要な場所だと思います」
 『水瀬 夏織』は『上山 樹』を誘い、段々畑へと向かった。村の小人から託された、アーモンドチョコの袋を持って。
 歩幅は樹の方が大きかったが、歩くペースは夏織に合わされていた。

 大声を出すのは恥ずかしい。そんな理由で夏織は少しの間ためらっていたが、やがて意を決してチョコまきを始める。
「福カモン! 鬼ゲッラウト!」
 まずはこの村に伝わる基本的な掛け声で、邪を退ける祝福の魔法がかけられたアーモンドチョコを投げる夏織。
「あの……。私だけじゃなく、上山さんもチョコまきをしてほしいです」
「ん? ああ、そうだね」
 夏織は樹に、一つかみのアーモンドチョコを渡した。
「はい、どうぞ。お願いします」
 樹は軽い微笑を崩さずに、静かな声でチョコをまいていく。パッと見た表情はにこやかなのだが、樹の行動はどことなく機械的だ。
「……」
 夏織はしばらく考えてから、思い切って掛け声をアレンジしてみた。
「福カモン! 鬼ゲッラウト! 私、上山さんと一緒に立派なウィンクルムになります!」
 大きな声でそう宣言した夏織に、樹は少し驚いた視線を向けた。一瞬だけ、彼の作り笑いが消えて無表情になる。けれど樹はすぐにとらえどころのない笑顔の仮面をつけた。
「水瀬は真面目だね」
「これが私の決意表明ですから」
 大声を出した後、夏織は恥ずかしさで俯いてしまった。元々物静かな性格なので、さきほどの大声での宣言は夏織にとってかなり緊張するものだった。気力を振り絞って、なんとか口にした言葉だ。
「上山さんも、何か個人的な目標やオーガ退治に対する意気込みなどを掛け声にして頂けないものでしょうか……?」
 夏織と樹はウィンクルムになって日が浅く、まだそれほど親しくはない関係だ。ちょっとしたお願いをする時も、樹に断られてしまうのではないかと夏織は不安だった。
「ウィンクルムとしての意気込みを掛け声にすれば良いんだね?」
「はい。私一人では寂しいですから」
「それじゃあ……。オーガの脅威から人々を守れますように」
 樹のジョブは、癒やしと守りの力でオーガと戦うライフビショップだ。
「こんな感じかな?」
 にこやかな笑顔が向けられる。
「ありがとうございます」
 あまりノリ気ではない様子だったが、社交的な樹は夏織に合わせたのだろう。
 優しく接してくれる樹の配慮が嬉しい。夏織は彼と仲良くなりたい、見損なわれたくはないと願う。そして、もっと夏織自身に興味を持ってほしいと思った。
「上山さん。今回が二度目のウィンクルムとしての活動になりますが、その……どう思っていらっしゃるのでしょうか」
 樹は少しの間を置いてから、人当たりの良い笑顔で答える。
「ウィンクルムか。普段はできない経験ができるのは、有意義なことだと思うよ」
 当り障りのない模範解答といったところだ。
「有意義……ですか。それは、少なくとも、私と行動を共にすることは嫌ではないと思っても良いのでしょうか?」
 樹はただ曖昧に微笑んだ。解釈は夏織に任せる、とでもいうかのように。
「それから、上山さんに想い人がいたら……ウィンクルムであることを説明してくださいね。勘違いされないように」
「はは。水瀬は心配事が多いんだね」
 一生懸命で誠実な夏織に対し、樹は社交的ではあるがどことなく軽薄に応じている。
 上山 樹は二面性のある性格の持ち主で、人間の負の面に対して興味を持っている。彼はそういう自分の本性を自覚しており、意識して「普通」の人を演じていた。
 今、樹が夏織に見せているのは、演じられた「普通」の人の部分だ。
 これから先、二人の親密さが深まっていけば、いつか隠された彼の本性に夏織が触れる時がくるのかもしれない。

●構ってほしくて
 『ハロルド』と『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』は、荒涼とした畑に佇んでいた。周囲に人や獣の気配はない。
「ここが一番瘴気が濃いようです」
 不毛の地と化したマシュマロ畑。瘴気の耐性がある自分達が赴いて払わなければ。そう決意して、ハロルドたちはここへやってきた。
「マシュマロ畑は小人達にとって大事なものだと聞いた。協力は惜しまないつもりだ」
 ディエゴもハロルドと同じ思いのようだ。
「それに……ここなら人はあまり来ないでしょうし」
 そう小さくつぶやくハロルド。まるで人がいない方が都合が良い、というかのように。
「……人っ子一人いないな……」
 周囲を見渡したディエゴの感想。こんな場所で何を話せば良いだろうか、と考えこむ。
「いつも依頼で二人っきりになるタイミングが最近なかったもので、少し聞きたかったことがあるんです」
 すっかり思案に没頭していたディエゴに、ハロルドが声をかけた。
「最近ディエゴさんの様子がおかしいんですが」
 やや不服げなツンとした口調で、ここ最近のディエゴの態度を指摘する。
「いや、別に。……避けてるわけじゃない」
 弁解するようなディエゴの言葉。まるで、二人の関係の原因をわざと考えないようにしているような素振りだった。
「様子がおかしいといっただけで、避けられている気がするとは、私は一言もいってませんけど」
 おかしい点を追求すれば、ディエゴは視線をそらす。
 さらにハロルドは問いかける。今度は責めるような口調ではなく、誠実な思いが込められた真剣な質問だった。
「ディエゴさん……。私は何か気に障ることでもしましたか?」
 原因については、ハロルド本人にも自覚があった。
「……意地悪言ったりしてたので心当たりはあるんですが」
 悪気あってのことではなく、構ってほしくて意地悪なことをいってしまうのだ。その裏に隠された本当の気持ちをわかってほしい。でも、何もいわないでおいて相手が察してくれることを待つのではなく、ちゃんと自分の口から本心を明かした方が良い。ハロルドはそう決断した。
「その……ごめんなさい。ディエゴさんが嫌いで意地悪言ってるんじゃなくて、必ず言い返してくるから嬉しくてつい」
 そういわれたディエゴは伊逹眼鏡の奥で瞳を少し丸くして、それからふっと柔らかな笑みをこぼした。
 ハロルドの本当の気持ちは、ちゃんと彼に伝わったようだ。嬉しそうな表情と慈しむような眼差しがハロルドに向けられている。
「エクレール……実はな……」
 エクレール。それはハロルドの本名でもあり、二人きりの時だけの特別な呼び名でもある。
「意地悪でも良いから構ってほしくて少し避けてた。その様子を見たら大成功のようだな」
 そういってディエゴはからかうように、にやりと口角を上げた。
 構ってほしいから意地悪な態度をとる。意趣返しを含んだウィットだ。当意即妙にこんな返しができるのは、ディエゴの知性と教養が優れているのと、ハロルドの複雑な心情を彼がちゃんと理解したからだ。
「……」
 自然とハロルドの表情も、微笑みへと変わっていく。

「ちゃんと瘴気を払わないとですね、一緒に」
「……別々じゃなく、一緒にチョコ撒くか。俺の神人は寂しがりのようだし……」
 わざとそんな意地悪をいうディエゴの体をハロルドはごく軽い力で叩いて反撃する。楽しげなケンカだった。
 気を取り直し、二人は小人から渡されたアーモンドチョコを手にする。
「ショコランドが元の美しい国に戻りますように!」
「ショコランドが元の平和な国に戻りますように」
 二人の掛け声とともに、祝福のアーモンドチョコが大地にまかれていった。

●幸せに包まれて
「祝福の魔法がかけられたアーモンドチョコか~。なんだか投げちゃうのがもったいないね」
 パティシエを目指し、喫茶店のウエイトレスとしても働いている『ミサ・フルール』にとって、お菓子を投げることには若干の戸惑いがあった。
 しかし、これもショコランドの瘴気を払うために必要な行事なのだ。そう考え直して、決意を新たにする。
「瘴気だけじゃなく悲しい気持ちを吹き飛ばせるように頑張ろう!」
「うん……そうだね……」
 明るく元気なミサとは対照的に、『エミリオ・シュトルツ』はどことなく悲しげでつらそうな表情をしていた。

「福カモン! 鬼ゲッラウト!」
 瘴気に満ちた畑に、ミサの快活な掛け声が響く。
「福さんこっちですよー! 鬼さんは出ていってくださいー!」
 とても楽しそうだ。元気百倍である。
「……ここに誰もいなくてよかった」
 あまりにもミサがノリノリなので、エミリオは少し照れくさく思っているようだ。赤面している。
「ほら、エミリオさんも!」
「え、ええー……。俺も?」
 エミリオのクールな性格的に、元気ハツラツにチョコをまくのは遠慮しておきたい。しかし大好きなミサにうながされて、エミリオもチョコまきに挑戦してみることにした。
「ふ、福きなよ……鬼は出ていってくれると嬉しい」
 小声の掛け声で控えめなチョコまき。
「もうっ、声が小さい!」
「……ごめん」
 そういった後で、ミサはエミリオが単に恥ずかしがっているだけではないのだと気づいた。
「しかもなんか弱気だし……どうしたの? エミリオさん」
「ねえ。ミサ、今の俺に誰かを幸せになんてできるのかな……」
 一瞬、エミリオの左耳のピアスに禍々しい黒い光がちらついた。
 父親への復讐心。どうしようもない憎しみ。自分でも抑えきれない殺意の衝動。エミリオはそれだけ重く暗いものを背負いながら生きている。
「エミリオさん」
 見る者を安心させる微笑みを浮かべて、ミサはエミリオを見つめた。そして明るい表情でチョコをまく。強い思いを込めた、こんな言葉とともに。
「エミリオさんが笑顔になりますように!」
 ミサのこの行動は、エミリオにとって予想外のものだった。
「ミサ、これは村人の為の行事でしょ、どうして……?」
 驚くエミリオの手を取って、ミサはそっとその手を握った。
「誰かを笑顔にしようと思ったらまず自分が笑顔にならなきゃ」
 優しさの中に強さを秘めた笑顔でミサがいう。
「私ね、エミリオさんと一緒にいれて凄く幸せだよ」
「っ、……俺はお前を幸せにできているの?」
「うん!」
 熱い思いが込み上げるままに、エミリオはミサをぎゅっと抱きしめていた。
 突然の抱擁だったが、ミサは抵抗せずに受け入れる。それだけの深い信頼関係が、この二人の間には築かれていた。体に回されたエミリオの腕をミサは大切そうになでた。
「貴方と過ごす時間の一秒一秒が愛しくてたまらないんだ」
「俺もミサといれて凄く幸せだよ」
 エミリオの心を覆っていた暗い気持ちが少しずつ薄れていく。
 お互いのぬくもりを静かに感じ合ってから、二人はゆっくりと抱擁を解いた。
「ミサの言うとおりだね」
 誰かを笑顔にしようと思ったらまず自分が笑顔にならなきゃ。ミサはエミリオにそういった。とてもステキな笑顔を浮かべながら。
 エミリオの顔にはもう憂鬱の影はなく、晴れ晴れとした笑顔へと変わっていた。
「俺達のこの幸せが村全体に広がるといいな」
「そうだね!」
 ミサとエミリオは手を取り合い、もう片方の手で祝福の魔法がかけられたアーモンドチョコをまく。
 微笑みながら、願いの言葉を口にする。
「村の人達が笑顔になりますように!」
 二人の気持ちが込められたチョコが、大地に残された瘴気を払っていく。

●小人たちからの吉報
 チョコまきの行事から数日後、ウィンクルムたちにファンシーな手紙が届いた。差出人は村長だ。甘い香りと可愛い絵柄がついた便箋には、ウィンクルムへの感謝がやたら丸っこい文字でしたためられている。
 オーガの被害を受けてからあらゆる植物が枯れ果てた畑に、良い変化があったという。この分なら、いずれ農耕地として再生できる見込みだそうだ。
 マシュマロ段々畑に、四葉のクローバーが五つも芽吹いた。手紙には嬉しそうに記されていた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月01日
出発日 02月06日 00:00
予定納品日 02月16日

参加者

会議室

  • [7]ミサ・フルール

    2015/02/05-00:15 

  • [6]ミサ・フルール

    2015/02/05-00:14 

    飛び入り参加失礼します。
    ミサ・フルールです(ぺこり)
    パートナーのエミリオさんと一緒に参加します。

    チョコまきだなんて不思議なお祭りだね。
    瘴気を祓う為に私達も精一杯がんばるよ!
    それでは皆さん、

  • [5]ハロルド

    2015/02/05-00:06 

  • [4]かのん

    2015/02/04-20:32 

  • [3]かのん

    2015/02/04-20:31 

    豆ではなくてチョコをまくんですね
    瘴気を払うために少しでもお役に立てたらと思います

  • [2]淡島 咲

    2015/02/04-11:41 

  • [1]水瀬 夏織

    2015/02/04-08:25 

    こんにちは、初めまして。
    水瀬 夏織と申します。

    どうぞよろしくお願いいたしますね。


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