プロローグ
●ポルタ村のスイーツフェスタ
タブロスの近郊に位置するポルタという小さな村。
普段は閑静なこの村、年に一度この時期だけは見違えたように姿を変えます。
歴史ある祭典、甘い物をたくさん集めたスイーツフェスタが開催されるのです。
タブロスや付近の町からも多数の屋台が出店されるスイーツフェスタ。
どうぞ皆様、心ゆくまで甘い時間を楽しんで。
●その男、甘党につき
ひゅるるり~。
ポルタ村周辺はここ数日晴れた気候が続いており、村の入り口付近は乾いた風が吹き、土埃が立っていた。
ざっ。ざっ。
ギザギザの拍車が光るウエスタンブーツ。2メートル近い長身にぴったりフィットした、細く長いジーンズ。
とどめは、やや大きすぎるほどの、見事なウエスタンハット。
魔法使いのような大きなかぎ鼻が、帽子の陰からのぞいている。
その男は、スイーツフェスタの設営を始めている村人の一人に、ニヒルな声で話しかけた。
「甘いもんをたらふく食わせてくれる、ポルタ村のスイーツフェスタってのは、ここかい」
「は、はぁ……」
話しかけられた村人、怪訝そうな声で、
「でも、まだ、設営中です」
「スイーツフェスタってのは、当然、タダじゃねえんだろ」
「そうですね。お菓子を買うには普通にお金がかかりますが」
「俺は手持ちがあんまりねえ。そこでだ、フェスタを手伝う代わりに、タダで甘い物を食わせてもらえねぇかな」
「は、はぁ……」
村人、不審者を見るように彼を見た。しかしその時、設営に関わっていた村人の一人、普段は仕立屋をしている者が、はっと気がついたように、
「あなたはまさか……流しの着ぐるみ師、早縫いのジョーでは!」
「な、なんだって??」
男に声をかけられた村人が、仕立屋に尋ねると、
「着ぐるみ業界では知る人ぞ知る、謎の着ぐるみ職人です! 各地を放浪し、時折地方の村の小さな祭りやイベントに出没しては、どんな複雑な着ぐるみもたった一時間で縫い上げる早技を披露するとか! まさかあなたがポルタ村に!」
ジョーと呼ばれた男、ニヤリと笑って、
「俺を知っている奴がいるとは話が早くていいねぇ。そういうことだ。着ぐるみならなんでも作るぜ。どうだい、俺の腕を買わねぇか?」
どよどよ……と村人の間に動揺が広がった。
「折角だから、スイーツフェスタのマスコットを作ってもらおうか」
「けど、誰がデザインするんだ?」
一同、うーんと頭を悩ませた。
「むしろ、誰か一人がデザインするんじゃなくってさ。たった一時間でどんな着ぐるみでもできるなら、祭りに来ている人何人かに着ぐるみをデザインしてもらって、着ぐるみコンテストを開いたらどうかな?」
村人の一人が言う。
「それ面白そうだな!」
もう一人が賛同する。
かくして。
スイーツフェスタに、突如として、「スイーツ着ぐるみコンテスト」なる会場が新たに設置されたのであった――。
●スイーツ着ぐるみコンテストの概要
・スイーツ着ぐるみコンテストは、「スイーツ着ぐるみコンテスト」の看板が出ているテントに行き、申し込みをすることで参加できます。
・デザインする人と着る人の、二人一組で参加となります。
・デザインする人は、「スイーツ」をテーマに、もう一人に似合うような着ぐるみをデザインします。
(鉛筆、紙、色鉛筆などは貸し出されます。絵心がなくても、「クマです」などと適宜文章で指定を入れれば、ジョーがすてきな着ぐるみをアドリブで作ってくれます)
・着ぐるみが実際にできるまでは、適宜スイーツフェスタで時間をつぶしてもらい、甘味を楽しんでいただけたら幸いです。
・着ぐるみが仕上がったら、着る方は、他の参加者たちと一緒に着ぐるみを着てレースに出場します。
●着ぐるみレースと優勝について
・着ぐるみレースでは、村の道に設置された50メートルのコースを全力疾走してもらいます。
・コースは直線で平坦ですが、低いハードルが1つ設置されています。
・1着になった人にポイントが加算されます。
・また、着ぐるみの出来映えやアイデア、似合っているかどうか、走っているときの印象度などの点から、村人の投票によるポイントも更に加算され、最終的にコンテストの優勝者が決定します。
●参加費用
・無料。
(しかし「着ぐるみができるまでの時間潰しにお使い下さい」と、スイーツフェスタの各店舗で使える「スイーツチケット」を400ジェールで強制的に購入させられます)
解説
●目的
スイーツフェスタにふさわしい着ぐるみを作って、パートナーに着せちゃいましょう!
精霊と神人、どちらがデザインする方か、どちらが着て走る方か、プランにお書き下さい。
●着ぐるみについて
スイーツにちなんでいれば、着ぐるみのお題は何でもOKです。
「これって着ぐるみでなくて仮装なのでは……」「コスプレでは」と思うようなものでもOK。
ただし、優勝を狙うなら着ぐるみがお勧めです。
●スイーツチケットについて
このエピソード内でのみ有効です。他のエピソードには持ち越せませんのでご注意下さい。
プランに余裕があれば、お二人で待ち時間に甘味を楽しんでいる様子などを描写頂ければと思います。
(待ち時間の描写は必須ではありません)
●レースについて
レースの際には参加キャラの素早さの値が影響します。
また、着ぐるみの動きやすさや、偶然の要素も加味されるようです。
●おまけ
神人と精霊、どっちがデザインする側で、どっちが着る側か、サイコロで決めて頂くこともできます。
ダイスAを振ります。(6面、10面どちらでも可)
・出た目が奇数(1、3、5……)なら【神人】がデザインする側で、【精霊】が着て走る側。
・出た目が偶数(2、4、6……)なら【精霊】がデザインする側で、【神人】が着て走る側。
スイーツ着ぐるみコンテストのテントには、実際にダイスがおいてありますので、ダイスを振って決めたという描写をプランに描いて頂いてもOKです。
もちろん、ダイスを振らずに役割を決めて下さってもかまいません。
ゲームマスターより
こんにちは、蒼鷹です。
スイーツフェスタなのに甘くないコメディ系の依頼でごめんなさい。
いや、趣旨に沿っていれば、シリアスやロマンスに走って頂いてもOKですよ……!(笑)
皆様の素敵な思い出の一ページになればと思います。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
ま、祭りが盛り上がるんならいいんじゃないか……って 待て、俺が走るのか!? いや確かにお前の方がそういうセンスはありそうだが…… (溜息)前の見える奴にしてくれよ、せめて デザイン考えてる間にチケット使って何か買おう お、シュークリームか。じゃあこれを……3つ。 一つはジョーに差し入れだな おーい、進捗どうだ…… 図らずもシュークリームつながりなのは置いといて。 何故サングラス。リボンついてるんだから女子じゃないのか。 というかお前これモデルいないか?なあ? まあやるからには全力で走るがな…… (見回して) ……頑張ろうな、お互い 諸々終わったら相方と合流 はー、疲れた お前あんまりシューちゃん呼ぶなよ……何か恥ずかしいわ |
柊崎 直香(ゼク=ファル)
早縫いのジョーも参戦か……血湧き肉躍る祭典になりそうだぜ ものどもまつりじゃー ダイス投げたら僕が【デザインする側】だってさ こういうのは直感が大事だよ シンプルに着ぐるみはケーキモチーフにしよう 縦に長方形を描いて □ 頂点に苺を乗せます ○ 長方形の右上から左下に斜めにフォークを刺しまして / 高さ180cm+αの苺のショートケーキの完成です フォークは長方形貫通してもいいんじゃないかな 種も仕掛けもありません! 四面のうち一面は断面図にして 内臓もといスポンジとクリームの層を見せてもかわいい 考えてたらケーキ食べたくなった ゼクー、おごれー、刺させろー レース? そういえば走りやすさ考えてなかった まあ健闘したら褒めてあげるよ |
蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
フィンに甘い物食べ放題だから!と引っ張って来られたスイーツフェスタ 甘い物は嫌いじゃない 疲れた時は欲しくなる けど、コンテストなんで聞いてないぞ 勿論俺がデザインする方 着ぐるみを着て走るなんて有り得ない テーマはクレープ これならかなり走りづらい筈だ 普段澄ましているフィンの慌てる様子が見られるかもしれない 着ぐるみが出来るまで、スイーツを堪能 チョコとオレンジの組み合わせが好きだ どんなデザインかは後のお楽しみと答える 想像以上にフィンが間抜けな格好で思わず笑う 走れないだろうと思ったら… どうしてそんな笑ってられるんだ 悪戯を仕掛けた俺が馬鹿みたいだ レース後、フィンに まぁ、頑張ったよな …ごめん(消え入りそうな声で |
暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
アドリブ歓迎 ダイスを振って決める 僕が走る側ですね 先生のデザイン楽しみです …なんですか、コレ (どうやっても妖怪の一種にしか見えない…! 体を引きちぎるって、それはもうホラーなんじゃ…) …ジョーさん、どうか宜しくお願いします *完成まで精神安定の為、甘味巡り あまり食べると支障がでそうですから、少しずつ頂きます どうせ先生が大量に買うでしょうし 着ぐるみとは、なかなか、動きづらいものなのですね これで全力疾走とは…いや楽しみにしている観客もいるんだ 楽しんでもらえるよう頑張らなければ 僕はヒヨコ、僕はヒヨコ…(自己暗示 とりあえず何があっても僕はこけるわけにはいかない…! だってこれ、一人じゃ起き上がれないと思うから |
16歳の割には大人びた外見の少年、蒼崎 海十は、ポルタ村を彩る露天や、賑やかな人通りを眺めていた。
「本当に甘いものばっかりだな。嫌いじゃないけど」
呟いた少年の服を軽く引っ張るようにして歩くのは、金髪碧眼の美男子フィン・ブラーシュだ。
少年はこの青年に「甘い物食べ放題だから!」と連れてこられたのである。
「俺も。疲れてる時に食べると身体に染みるし、何より食べて幸せだ」
「確かに、疲れた時は欲しくなるよな」
通りを歩くと、村全体を漂う甘い香りが鼻腔に広がる。フィン、足を止め、
「あ、ほら、海十、着ぐるみコンテストだって」
「コンテスト? また変わった出し物やってるな」
と、フィンがすたすたとテントに歩いて行くのを見て、
「おい、フィン、まさか参加するつもりか?」
「だって面白そうじゃないか。やろうよ!」
屈託のない笑顔が海十を向く。逃げようとする少年の手を無理矢理引っ張って受付へ連れて行く。
「コンテストなんて聞いてないぞ」
「まぁまぁ、折角来たんだし、オニーサンと想い出作りしよう」
受付嬢に、デザインする方と着て走る方とどっちにしますか、と聞かれ、少年は断固として「勿論俺がデザインする方」と言い切った。
「着ぐるみを着て走るなんて有り得ない」
フィン、泰然自若といった様子で、
「いいぜ。俺が着る方な」
フィンがこうしてスイーツフェスタに、そしてよりによってイロモノな着ぐるみコンテストに誘ったのはわけがある。
契約を済ませ、パートナーとなった海十のことが、彼は気になっていた。
(最近、というか出会ってからずっとだけど、常に気を張ってる)
16歳の少年には似合わない疲労の陰が見える。
ウィンクルムになったことを気負いすぎているのではないか。
オーガと戦う事は、ウィンクルムとなったものの宿命だ。だが、気負いすぎてもいいことはない。
その内に暗い影を秘める、少年の繊細な心を、フィンは気遣う。
(若者らしく、もっと肩の力を抜けばいいのにな)
人生は楽しまなくちゃ。フィンはそう思う。だから、少しでも気分転換になればとフェスタに誘った。コンテストはついでだったが、海十もいつもと違った事をすればリラックスするだろう。
そんなフィンの気持ちなど知らずに、海十はけっこう真剣にデザイン画を描いていた。フィンがのぞきこもうとすると、「どんなデザインかは後のお楽しみ」と紙を手で覆う。フィン、気になるものの、おとなしく引き下がる。
(テーマはクレープ……これならかなり走りづらい筈だ)
いつも爽やかな顔をして澄ましている美形のフィン。慌てる様子が見られるかもしれない、と思うと、口元がちょっと綻ぶ。
着ぐるみができるまで、二人はスイーツフェスタの露天を歩いた。海十はチョコのかかったオレンジが乗ったワッフルに目をとめ、チケットで購入する。
「フィン、これ美味いぞ」
美味しそうにほおばる姿は年相応の少年らしくて、誘ったかいがあった、とフィンが微笑む。あまりに美味しそうなので、同じやつを、と頼み、フィンもワッフルを楽しんだ。
「チョコとオレンジの組み合わせ、好きだ」
「いまの美味かったな。オレンジも蜂蜜でつけてあったけど、嫌な甘さじゃなくてさ」
いくつか露天を回り、休憩所でのんびりしているうちに、着ぐるみレースの時間が近づいてきた。
「海十がどんなデザインをするか単純に楽しみだ」
フィンが呟くと、海十がクスッと笑った。
元々真面目そうな金の瞳は眼鏡の奥で更に真面目に見える。暁 千尋と彼の精霊、ジルヴェール・シフォンは、小さな村のスイーツフェスタを満喫していた。
屋台で花包の占いに耳を傾けた後、二人の目はちょっと風変わりなこのコンテストに引き寄せられた。
面白そう、やってみましょう、と言ったのはジル。不可思議な人生のいたずら(?)の後に中華系の美人となった彼は、戯れにテントへ千尋を連れて行く。
「恨みっこなしに、ダイスを振って決めましょう」
振って出た結果は「精霊がデザイン、神人が着て走る」であった。千尋、嫌がるかと思えば、いたって素直に、「僕が走る側ですね。先生のデザイン楽しみです」と呟いた。青年の根底には恩師への尊敬の念がある。
ジル、ふふっと笑って、「スイーツって言ったら、やっぱり可愛いのがいいわよね。腕がなっちゃうわ」
そして紙とペンを受け取ると、流麗なペン使いでサラサラと何かを描き始めた。
……「何か」を。
千尋の眼鏡の奥の目が点になり、頬が引きつる。
「…なんですか、コレ」
「何って……ヒヨコよ」
当然でしょ、という声である。
(ひ よ こ ? !)
千尋、心中で絶叫する。
(どうやっても妖怪の一種にしか見えない……!)
何というか、色遣いや全体の構図には通常の人にはないセンスを感じる。
しかし、絵心が皆無なのである。
「ここに、ぴよぴよって書いてあるでしょう」
(ぴよぴよ?! そんなかわいい声で鳴くのか?! グオォとかガアァじゃなくて?!)
「あ、あの、腹部にバズーカ砲でやられたような大穴が空いているのは……」
「頭がヒヨコで体がドーナツなの。丸っとしてて可愛いでしょう」
ジル、可憐に微笑む。
(こんな着ぐるみが遊園地にいたら子供が泣きそうだ……! ああ、お化け屋敷にいればいいのか)
千尋、一人納得する。
「ちなみにお腹がすいて困っている子がいたら、体を引きちぎって分け与える優しい心の持ち主よ。
可愛くて正義感溢れる…チヒロちゃんにぴったりよね」
(体を引きちぎるって、それはもうホラーなんじゃ…)
しかも、引きちぎったら血がしたたり落ちそうな奇妙なリアル感に溢れている。
「……ジョーさん、どうか宜しくお願いします」
この途方もない原画を何とか可愛い着ぐるみにするには、もう、職人の腕に頼るしかない……そう思った千尋は、神にすがるような気分でジョーに頭を下げたのだった。
完成まで時間があるので、甘味巡りをした。千尋にはあの原画のショックから立ち直るための精神安定が必要だった。
「あまり食べると支障がでそうですから、少しずつ頂きます」
(どうせ先生が大量に買うでしょうし)
彼が思った通り、ジルは嬉しそうにあちこち歩き回っては、チケットを使い果たす勢いで甘味を購入している。
(ジョーさん、なんとかアレを可愛く仕上げて下さい……)
ジルに引っ張り回されつつ、心ここにあらずな様子で、千尋は心中で呟いた。
一方その頃、女装少年の柊崎 直香と男前のゼク=ファルは、可愛くラッピングされたり(男前の方が)、パンケーキをどっさり焼いて食べたりしてスイーツフェスタを満喫していた。
直香、通りを歩いていると、変わったコンテストの看板に目をとめる。
後ろのテントを眺めると、なにやらカウボーイ風の男が目にもとまらぬ早業で巨大な何モノかを縫っている。
「早縫いのジョーも参戦か……血湧き肉躍る祭典になりそうだぜ」
露天で見つけた、チョコレート弾が発射される銃をクルクル振り回し、楽しそうに直香。
「スイーツフェスタなんだから血肉は無いだろ」
とてもまともなツッコミを入れるのは祭りに来てから(いや、それ以前からか)まともな目に遭っていないゼク。
「ものどもまつりじゃー」
振り上げた銃が、ぽん、と可愛らしい音を立てて空に発射されると、直香は器用に落ちてきた弾丸を口でキャッチした。
楽しいこと好きな直香がコンテストに参加しないはずはない。テントでダイスを振ると「神人がデザイン、精霊が着て走る側」であった。
「こういうのは直感が大事だよ。シンプルに着ぐるみはケーキモチーフにしよう」
直香、サラサラと紙にデザインを描いていく。
「縦に長方形を描いて、
□
頂点に苺を乗せます。
○
長方形の右上から左下に斜めにフォークを刺しまして、
/
高さ180cm+αの苺のショートケーキの完成です」
「……四角柱だな。角柱をフォークが貫いてるな」
ゼク、またもや至ってまともなコメントを述べるが、自分が着るというのに取り乱しもしないあたり、なにか達人めいた境地を感じる。
「フォークは長方形貫通してもいいんじゃないかな。種も仕掛けもありません!」
「本当に貫通したら俺が死ぬだろ種も仕掛けも仕込んでおけ」
直香、デザイン画を見せてジョーと打ち合わせ。
「四面のうち一面は断面図にして、内臓もといスポンジとクリームの層を見せてもかわいい」
「ほほぅ……嬢ちゃん、通好みの着ぐるみだね」
「うん。ジョー、よろしく!」
小悪魔な美少女スマイルで直香、ジョーに微笑むと、多分彼の性別を勘違いしているジョー、ニヒルに微笑む。
直香とゼクは着ぐるみレースの時間まで露天を眺めて歩く。
ゼクは「走るんだから体力つけないと!」との名目で直香が指定するケーキやら団子やらをチケットで購入している。
「考えてたらケーキ食べたくなった。ゼクー、おごれー、刺させろー」
「直香、買いすぎだ少し控えろ」
などと言いながらも結局付き合って食べる彼には諦めが入っている。ゼクのそれはフォークのぶっささったケーキと化して走ることに対するやけ食いではない。彼はもう慣れてしまった。直香のパートナーであると言うことは、常人では慣れないようなことに慣れるということなのだ。レースの前に食べすぎは腹にこないだろうかと思うが、そんな心配は二人はしていない。
ポルタ村のスイーツフェスタは、初瀬=秀とイグニス=アルデバランにとって感慨深いイベントだ。賑わう町並みに目を細め、二人でのんびりと屋台を回る。奇妙なコンテストの看板に気がついたのは、そんなときだ。
「着ぐるみコンテスト……?」
イグニス、看板の説明をフムフムと読んで、
「流しの着ぐるみ師さんがフェスタに飛び入り参加したので、急遽開催することになったみたいですね。なんだかかっこいいですね!」
「流しの着ぐるみ師……変わった職業もあるもんだな」
ま、祭りが盛り上がるんならいいんじゃないか、と秀が立ち去ろうとすると、隣にいたイグニスがいつの間にか消えている。
見ると、テントの中で、今まさに参加受付を済ませたところだった。
「というわけで私が着ぐるみのデザインをさせて頂きます!」
にっこり微笑んで、イグニス。
「……って、待て、俺が走るのか!?」
聞いてないぞ、と言いたげな秀だが、意に介してなさそうにイグニス、
「スイーツフェスタのマスコットですから、やっぱりお菓子モチーフですよね!」
とはしゃいでいる。
「いや確かにお前の方がそういうセンスはありそうだが……」
秀、ため息ついて、
「前の見える奴にしてくれよ、せめて」
悪意はなくてもうっかりで、のぞき穴のついていないマスコットとか作りそうだ。イグニスなら。
イグニスが本気でデザインのアイデアを練っているので、秀、その辺の屋台を回って、チケットを使って何か甘味を買おうとぶらぶらする。ふわっと丸いシュークリームが目にとまった。
「じゃあこれを……3つ」
自分たちの他にも一つ余分を買うと、秀はのんびりと町ゆく人々の幸せそうな顔を見ながら、テントに戻ってきた。
「おーい、進捗どうだ……」
「あ、秀様お帰りなさいませ!」
イグニス、嬉しそうに手を振る。
「どうですかこれ! かわいくないですか?」
見せられたデザイン図に秀、思わず目が点になる。
それは、シュークリームから手足の生えた感じの何か、であった。
「こちら、『シューちゃん』です!体はシュークリーム、リボンはキャンディなんですよ! サングラスはチョコで目はドーナツです!」
ジョー、感心したように、
「そこの兄ちゃん、中々センスあるねぇ」
「……図らずもシュークリームつながりなのは置いといて。
何故サングラス。リボンついてるんだから女子じゃないのか」
「かわいらしさを強調するにはリボンは必要ですよ!」
「というかお前これモデルいないか? なあ?」
イグニス、嬉しそうに、
「ふふ、『着る人に似合っていることも審査対象です』って書いてありましたし!」
「これ着て俺に走れと……」
秀、頭を抱えた。しかし、やると決めた以上棄権することは考えないのが彼である。それにイグニスがとても楽しそうだし。
差し出されたシュークリームを、ジョーは驚いた顔で受け取った。
「兄さん、優しいね。顔に似合わず」
秀、ジョーに言われたくないと思ったが、ジョーが少年のように顔をほころばせて、感謝するぜ、と嬉しそうにほおばったのに満足した。
村の道路に設置された即席のレースコースには、村人や観光客の人だかりができていた。
「これは……」
フィン、整った口がぱっかり開いている。
美味しそうに焼き上がった巨大クレープ、その隙間からは真っ赤なイチゴと純白の生クリームが、さながらドレスのレースのようにはみ出して、風にひらひらと揺れている。
海十、着替え用に設置されたテントから出てきたフィンが、想像以上に間抜けな格好で思わず声を上げて笑う。
「フィン、似合ってる……! 」
そう、隙間からちょっと見える金髪碧眼に黄色いクレープはよくマッチしているし、イチゴと生クリームは何だか女装しているみたいで、それが似合うのだ。海十、笑いをこらえながら、
「どうだ、フィン? 感想は」
「これはこれで面白い」
えっ、と海十の目が丸くなる。
「障害があった方が燃えるだろ?」
どうやら走りにくさのことを言っているらしい。不敵に笑うフィンに、海十、呆然とする。
(走れないだろうと思ったら……どうしてそんな笑ってられるんだ)
「海十、しっかり俺の勇姿を見とけよ~」
クレープは端をひらひらさせて、勇ましくコースへ向かっていった。
ジルは着ぐるみの仕上がりに満足している様子だった。
「流石早縫いのジョー、流しで着ぐるみ師をしているだけあるわね」
全体的には丸鳥のように丸々として、とても美味しそう。頭はヒヨコで、つぶらな目はパッチリと人々を眺めている。胴体は丸いドーナツで、色とりどりのチョコスプレーでカラフルに仕上がっている。手の部分は羽なので掴んだりはできない。
(うん、デザイン画時点のアレよりはだいぶまし。ジョーさんやはり凄い人だ)
着ぐるみを見た千尋の感想だ。
しかし、観客の間からは「何あれキモかわいい」という声が聞こえる。
気にしないことにする。
「着ぐるみとは、なかなか、動きづらいものなのですね」
ジルに言うと、彼は微笑んで、
「応援してるわね。頑張って!」
(これで全力疾走とは……いや楽しみにしている観客もいるんだ。楽しんでもらえるよう頑張らなければ)
真面目な千尋青年、悲壮な決意を胸にスタートラインに立つ。
「レース? そういえば走りやすさ考えてなかった」
しれっと言い放ったのは直香、ゼクはテントの中で着ぐるみをチェックしているところだ。
「底面から足出すなら被るだけか」
中に入ると直香がチャックを閉める。
「脱げないよう気を付けておく」
ゼク、至って真顔で、
「目のあたりには穴が空いてるから視界は確保されているが、手を出すところはないな」
「本当だ、イチゴのつぶつぶが穴になってる。芸細かーい」
直香が正面をのぞき込む。
「転んだら根性で起き上がるしかないな」
「まあ健闘したら褒めてあげるよ」
直香、ショーケーキの背中を叩いて、レースへ送り出す。
「シューちゃん、似合っていますよ!」
テントから出てきた秀をイグニスの歓声が迎える。
ジョーの着ぐるみの出来映えは流石のもので、シュークリームの生地はふわっと、チョコのサングラスやキャンディーのリボンも本物のような質感だ。
「グラサンかわいー」
観客にも評判のようだ。秀、着ぐるみの中でやれやれと思いつつ、やるからには全力で走るつもりだった。
回りを見回す。皆、さんざんにパートナーに振り回されたのだろう。同情をこめて、
「……頑張ろうな、お互い」
と囁いた。一同、しみじみと頷いた。
なぜか直香がスタートの合図を出す。軽い音を立てて銃が鳴ると、各着ぐるみ一斉にスタート。
ゼク、レースは顔がわからないのは幸いと思っていただけに、
(実況者は名前を呼ぶなよ? 絶対に呼ぶなよ?)
と心中で繰り返す。
しかし。
「おお! シューちゃん早い! シューちゃん早い! しかしゼク選手のケーキも負けていないぞ! フィン選手はクレープがひらひらして進み辛そうだ!! 千尋選手、ヒヨコの頭が揺れて走りにくそう!」
ゼク、心の中でずっこけるも、現実にこけるわけにはいかない。こけたら二度と起き上がれない。何の捻りもなく走るだけだ。パフォーマンスなんて気の利いたことする余裕もない。
こけたら起き上がれないのは皆同じだった。大の男達、着ぐるみの中は超真剣な顔で激走している。
千尋は、
(僕はヒヨコ、僕はヒヨコ……)
と必死で自己暗示していたし、秀も、フィンも必死である。
一方その頃、ジルは片手に扇子をひらり、片手に甘味で優雅に応援していたし、直香もゼク差せー! とフォークを振り回していた。一方、イグニスは「シューちゃんファイトですよ!!」と全力で応援し、海十はハラハラしながら様子を見守っていた。
レース、大詰め。ハードルに差し掛かった。
秀、目の回りのドーナッツのせいで足元が見えていなかったが、カンで飛んだ。
見事にシュークリームは弧を描き、着地する。
ゼクケーキ、同じく飛ぶ。タイミングは完璧だったが、
ごすっ。
フォークがハードルに引っかかった。
激しくバランスを崩したが、なんとか転倒には至らず。しかし、体勢を立て直した頃には、シュークリームは一着でゴールインしていた。
フィン、風に煽られ苦心しながらも、ハードルは何とか飛び越えて3着。
そして……。
ゴールできなかった人がいる。
なんと着ぐるみに空いた穴にハードルがはまってしまい、そのまま派手に転んでしまったのだ。
とりあえず何があっても僕はこけるわけにはいかない、そう思っていたのに、最悪の事態だった。
一人では起き上がれない。
じたばたじたばた。
介添えをすると失格になるというルールだったので、誰も助けにいけない。
あがき続けるヒヨコ。
すると、イグニスが、「千尋様頑張って下さい!」と叫んだ。
やがて観客の間からわき起こる「千尋! 千尋!」コール。
中の人にとって、これほど恥ずかしいこともない。
着ぐるみの中の青年は耳まで真っ赤になりながら、根性でなんとか起き上がると、ゴールを目指した。
最下位のドーナツヒヨコがゴールを駆け抜けると、一着と同じか、それ以上の拍手が湧き起こった。
レース後、海十はフィンに、「まぁ、頑張ったよな」と声をかけてから、「…ごめん」と消え入りそうな声で付け足した。
(悪戯を仕掛けた俺が、馬鹿みたいだ)
フィンは笑った。彼は嬉しかったのだ。心から笑う海十も見られたし、こうして自分の為にしょげている海十も見ることができたから。
「楽しかったよ」青年は心からそう言うと、少年の頭にぽん、と手を乗せた。
無言で無心でゴール目指すケーキになったゼクも、「惜しかったじゃん」と直香に迎えられた。
「フォークがなければ勝てたかもな」
仏頂面でゼクはそう言ったが、一仕事終えた開放感と、直香の笑顔は悪くなかった。
「皆様お疲れ様です!」
明るい声で全員にそう声をかけたのは、イグニス。
「はー、疲れた」
と、秀がテントから帰ってくると、
「やっぱり秀さ……シューちゃんが一番かわいかったですよ!!」
と駆け寄ってくる。
「お前あんまりシューちゃん呼ぶなよ……何か恥ずかしいわ」
とは言うものの、秀にも充実感が漂っていた。
千尋・ジルペアも勿論、ジルの暖かい歓迎を受けてはいたが、真面目な青年の精神的動揺はそんなもので収まるものではなかった。
着ぐるみコンテスト優勝は、レースで一位になり、審査員からも高い評価を得た、初瀬=秀&イグニス=アルデバランペア。
しかし、そのキモ可愛い容姿と、ひたむきな走りが審査員の感動を呼び、暁千尋&ジルヴェール・シフォンペアには審査員特別賞が贈られた。
着ぐるみ達はデザインした皆と一緒に一枚の写真に収まった。
かくして、ポルタ村のスイーツフェスタに、また新たなる伝説の1ページが刻まれたのであった。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:初瀬=秀 呼び名:秀様 |
名前:イグニス=アルデバラン 呼び名:イグニス |
名前:暁 千尋 呼び名:チヒロちゃん |
名前:ジルヴェール・シフォン 呼び名:先生 |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 蒼鷹 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 01月25日 |
出発日 | 02月01日 00:00 |
予定納品日 | 02月11日 |
参加者
会議室
-
2015/01/31-23:46
プラン提出済です。
どんな面白……じゃなかった、楽しく美味しいコンテストになるか、楽しみです。
改めまして、皆さん、宜しくお願い致します。 -
2015/01/31-00:01
御機嫌よう。クキザキ・タダカです。
精霊はゼク=ファルとかいうらしいよ。
えーと、僕がデザインする方か。
スイーツにちなむんなら可愛くデコっとくべきかにゃー。 -
2015/01/30-23:54
【ダイスA(10面):9】 -
2015/01/29-23:53
こんばんは。
初瀬と相方のイグニスだ。
海十は初めまして、千尋と直香は久しぶりだな。
うちはイグニスがデザインやりたがってるんで俺が走ることになると思う…
諸々嫌な予感しかしないがまあ、お手柔らかによろしくな。 -
2015/01/29-20:18
こんばんは、暁千尋とパートナーのジル先生です。
宜しくお願いします。
僕等はダイスで決めますね。さて、どうなるやら…
【ダイスA(10面):4】 -
2015/01/28-22:49
まだ俺達しか居ないようですが、ご挨拶を。
蒼崎海十です。
パートナーはフィン。
一応、俺がデザインで、フィンが着て走るかと。
(「えー聞いてなーい!」と叫ぶ精霊を、ぐぐぐと押さえ込む)
宜しくお願いします。