【メルヘン】囚われの君のために(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 ショコランドに、古城をアトラクションに改造した、小さなテーマパークがあります。
 参加者は、城を乗っ取った悪の王を倒すため、王族・貴族な衣装を身に纏い、城の中へ潜入します。
 城の中にある複数のアトラクションを切り抜けて、最上階に辿り着けばクリア。
 ご褒美に特製スイーツが頂けます。
 バレンタインのこの時期、カップル限定のとあるイベントが開催されていました。

「ふはははは! こいつの命が惜しければ、大人しく武器を捨てろ!」

 最上階まであと少し。
 最後のアトラクションは、悪党達との水鉄砲での銃撃戦。
 胸と頭に着けた的(水に溶ける素材)を射抜かれると、負けとなります。
 貴方とパートナーは協力して、後から後から湧いてくる黒尽くめの悪党役達の、胸と頭を狙って水鉄砲の引き金を引きました。

 そのバトル中、不意打ちを受けた貴方は、突然壁から現れた仮面を着けた男に捕まってしまいます。
 お芝居とはいえ、仮面の男は貴方をしっかりホールドしており、簡単には抜け出せそうもありません。
 悪役の数は、まだ両手で数えきれない程、残っています。
 至近距離で向けられた水鉄砲は、簡単に胸と頭を射抜いてしまうでしょう。そうなると、貴方は失格となってしまいます。
 けれど、パートナーだけでも生き残れば……ゲームはクリアです。

 パートナーと目が合います。

 さて、貴方はどうしますか?
 その時、パートナーは?

解説

【ショコランド】にある古城なテーマパークで、アトラクションに参加いただくエピソードです。

アトラクションのラストで、水鉄砲バトル中、神人さんか精霊さんが、悪党役に掴まってしまう所からのスタートです。

囚われた側、救出する側、どちらを神人さん、精霊さんが担当するか、プランに明記をお願いします。
文字数削減のため、文頭に、囚われる側は『囚』、救出する側は『救』と記載頂ければ大丈夫です。

どのように切り抜けるか、プランに記載をお願い致します。
あくまでもアトラクションの余興ですので、難しく考えず動いてみて下さい。
※悪役達は、皆さんを盛り上げるべく行動します。悪役にこうして欲しいなという事があれば、記載頂くと出来うる限り採用します。

お好きな衣装を選べますので、拘りのある方はこちらもプランに明記して下さい。
※記載ない場合は、雪花菜がチョイスします。但し、文字数の都合上、詳細な描写を省く事があります。

参加費用(衣装レンタルを含め)として、「300Jr」掛かります。
あらかじめご了承ください。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『バレンタインは専ら自分用チョコを買い漁る』方の雪花菜 凛(きらず りん)です。

究極の選択、ピンチな状況を、アトラクションで疑似体験出来たらなと、エピソードを出してみました。
皆様がどのような選択肢を選ぶのか、ドキドキです♪
お気軽にご参加頂けますと嬉しいです!

皆様の素敵なアクションをお待ちしております♪

リザルトノベル

◆アクション・プラン

マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)

  『救』

○服装
羽根つき帽子+チュニック+ズボン+ブーツ+マント
※貴族の銃士風な衣装
的は帽子の所でも、帽子がNGの場合は帽子がない状態でも構いません

○行動
囚われの相棒、悪役、絶体絶命…!
まるで騎士物語みたいですわね!燃えますわ!
悪役からサフランを助けだしますわっ

悪役に囲まれると厄介ですので
悪役を盾にして移動しながら
水鉄砲で的を狙います

床に水が落ちて滑りやすいかもしれませんから
その時はブーツを脱いで裸足になって動きますわっ

結果に関わらず終わったらサフランとハイタッチ

あら、本当に起きても変わりませんわよ?
サフランは私が助けますし
それでピンチになった時は
サフランが何かしでかしてくれるって信じてますもの



篠宮潤(ヒュリアス)
  ※衣裳お任せ☆

『救』
え!?ヒュ、ヒューリ…っ?

「そ、そん、な…ヒューリ置いて、先に、なんて…」
悪役さんのノリノリ台詞には完全に流され雰囲気のまれ中

「僕…は…っ」
めっさシリアス顔(素)
直感任せで頑張って避ける、避ける、当てる。必死に救出に努める
・2人してやられたら:ぅぅ…ご、ごめん…(しょんぼり)
・成功したら:良かったっ(嬉しそうに最上階へ)

「本当に、こういう状況になった、時…うん。覚えて、おく」
精霊の言葉に真剣に頷いて
いざ選択に迫られた時…迷わないように…

「逆、だったら…ヒューリなら、どう、してた、の?」
や、やっぱり、教えてくれないんだ、ね
うん。正解は無い、から…せめて一緒に考えていけた、ら…



リヴィエラ(ロジェ)
  リヴィエラ:

『囚』※神人・精霊共にアドリブOK

あ、悪役の方の腕が首に食い込んで…
『こいつの命が惜しければ武器を捨てろ』? 『命乞いをしてみせろ』?
(にこりと微笑み)良いのですロジェ様、私の事は良いのです。私の事はどうか見捨ててください。

(…強がってみたけれど、不安で胸が押しつぶされそう…)
(涙を流しながら、騎士が姫を助ける内容の歌を歌う(スキル『歌唱3』)

ロジェ様…私の騎士様(涙を流して背伸びして頬にキス)貴方を愛しています。
大丈夫と言ったけれど、本当は不安だったの…ありがとう、ロジェ様。
きゃっ、ロジェ様!? あ、あの、この抱き上げ方は…はい、もうどこにも行きません。


クロス(オルクス)
  ☆囚

☆衣装
SP風な黒のスーツで髪は下ろしている

☆悪役
・人質の命が惜しかったら銃を捨てろ
・銃突き付け
・お前が死ぬなら人質解放
・暴れたら力で押さえ込む
・目の前で一斉に撃つ指示

☆行動
・精霊が撃たれたフリして交わしての攻撃に驚く
・腕が緩んだら抜け出し応戦
・アクロバットな動きで交わしながら的確に射撃

☆人質中
「ちっしくじったぜ…
このっ離せ!(暴れる
っ…(少し苦しむ
オルク!俺は大丈夫だから条件を呑むな!
だから…オルク!?
何言って…!?
オルクっ!
いやっ止めてっオル…へっ?」

☆クリア後
「馬鹿!アレが本物だったら死んでたぞ!?
お願いだから俺を置いて死ぬな!
でもオルク、格好良かった!
有難う俺の大好きな人(口にキス」



ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)
 
男装王子様服

くっ…レオン、私に構うなっ
(敵の攻撃が胸に当たるのと、レオンの攻撃が敵にヒットするのとほぼ同時)

あーあ、失格か…
ってレオン?!(慌てて止めに入る)

おい、ゲームまだ終わってないから!
(怖い目に遭った役者さんの気持ちも考えろ!と思いつつ
精霊が投降したのでゲームオーバー)

●その後
…傭兵としては当然の選択だったと思うが
むしろその後降りた方が気に入らないぞ、私は
私の犠牲が無駄じゃないか

…レオン、以前もそうだったが、
私を失う事に恐怖を抱いてるだろ
何か理由があるんじゃないか
(ただの契約や情以上の恐れを感じるので)

…無理に言わなくていいよ
何か、甘いものでも食べて帰ろう?(微笑)
(手を差し出した)


●1.

「くっ……レオン、私に構うなっ!」
 ガートルード・フレイムはそう叫んだ。
 羽交い締めしてきた男の力は強く、ガートルードの力では振り払えそうにない。
 身動ぎすると、身に纏っている王子服の胸元のネックレスがシャラリと揺れる。
 ガートルードと同じく燕尾服のジャケットが特徴的な王子服に身を包むレオン・フラガラッハは、険しい表情でガートルードと周囲の男達を見遣った。
「……貴様」
 ガートルードを拘束する男に向ける蒼の瞳に、激しい怒りが滲む。
 しかし、それは一瞬だった。レオンの瞳には直ぐに冷静な色が戻る。
「じゅ、銃を下ろせ! さもないとこっちの王子を殺すぞ!」
 レオンの眼差しに、若干しどろもどろになりながら男が叫んだ。
 けれど、レオンが銃を下ろす事は無かった。ピタリと男の頭にある的へ標準を定める。
「今直ぐ銃を下ろせ!」
 男に銃口がガートルードの胸元にある的へ向けられた。それでも、レオンが銃を下ろす事は無かった。
 パシャ!
 的が破れたのは同時だった。
 ガートルードの胸の的と、彼女を拘束する男の頭の的。
「ぐはぁ! やられた~!」
 男がガートルードの拘束を解き、その場に倒れる。
「あーあ、失格か……」
 仕方ないと、ガートルードが肩を竦めた時だった。
 レオンがツカツカとガートルードの足元へ倒れる男へと歩み寄る。
 その場にしゃがむと、思い切り男の首根っこを掴んだ。
「よくも、お前……」
 レオンの氷のように冷たい眼差しが、男を射竦める。首根っこを掴む手は怒りに震えていた。
 男は口をパクパクさせ、何も言い返す事も出来ない。
「レオン?!」
 呆気にとられていたガートルードは、我に返ると慌ててレオンを止めに入った。
「何やってるんだ!?」
 男の襟首を掴むレオンの手に自らの手を添えて、離すように促す。
「あ、すまん……」
 レオンが瞬きする。と同時に、彼の瞳に宿っていた冷たい色は消えた。
 男の襟首を離すと立ち上がる。
 残る悪役達が、レオンに向けて銃を構えた。ガートルードはレオンを見遣り、
「レオン、お前一人だけでもゴール……」
「つか、降りた」
 ガートルードをチラリと見ると、レオンはぽいっと水鉄砲を投げ捨てた。
「おい、ゲームまだ終わってないから!」
(怖い目に遭った役者さんの気持ちも考えろ!)
 ガートルードは銃を拾い上げ、レオンに差し出す。
「やる気なくなっちまったし……」
 ひらっと手を振り、レオンは歩き出した。
「出口はあっち?」
 悪役の一人に訪ね、出口へと向かう。
「レオン!」
 ガートルードはその背中を追い掛けた。

 コツコツコツ。
 城の出口を目指し、石造りの階段を降りる。二人の足音だけが静かな空間に響いた。

「護ってやれなくてすまん」
 暫く無言で歩いていたレオンが、不意にポツリと呟くように言った。
「……傭兵としては当然の選択だったと思うが」
 ガートルードは緩く首を振ると、レオンの隣へ並ぶ。
「寧ろ、その後降りた方が気に入らないぞ、私は。私の犠牲が無駄じゃないか」
 少し拗ねた顔で見上げれば、レオンは口元に苦笑を浮かべた。
「お前を護れなきゃ意味ないだろ」
 素っ気ない口調。でもとても苦しそうで。
「……レオン、以前もそうだったが、私を失う事に恐怖心を抱いてるだろ」
 ガートルードは歩みを止め、レオンの袖口を掴んだ。
「何か理由があるんじゃないか?」
 釣られて止まったレオンの蒼の瞳をじっと見上げる。
 ウィンクルムだからとか、好きだからとか、それだけじゃない。それ以上に、失う事へ彼は暗く深い感情を抱いている。そう感じていた。
「……」
 レオンは上を見上げた。螺旋状の階段の頭上に、高く高く城の天井が見える。
「今はまだ言えねえな」
 じわりと古傷が開くように痛む。心に刻まれた癒えない傷が、ある。
「そのうち……な」
 微笑むレオンに、ガートルードはズキリと胸が痛くなるのを感じた。
「俺が弱いから言えねえんだ。だからほんと……すまん」
「……無理に言わなくていいよ」
 彼に笑みを返して、袖口を離す。
「何か、甘いものでも食べて帰ろう?」
 明るい声で手を差し伸べた。
「立場ねぇなホント」
 レオンの眉が下がる。そして、ガートルードの手をしっかりと握った。
「何が食べたい?」
「お前の食いたい物でいいよ」
 お互いの体温を感じながら、二人は日の当たる外へと歩き出す。


●2.

「ちっ、しくじったぜ……」
 クロスは唇を噛み締めた。
「人質の命が惜しかったら銃を捨てろ」
 クロスを拘束する黒尽くめの男は、そう告げるとクロスの胸元に銃を突き付ける。
「クー……!」
 パートナーのオルクスは声を上げ、クロスを拘束する男を睨んだ。
「おい、そいつを離せ!」
「言った事が聞こえなかったのか? 銃を捨てろ」
「オルク! 言う事聞くな! このっ、離せ!」
 クロスは自力で拘束から抜け出そうと、手足を思い切りバタつかせる。
 しかし、男の力は強く、クロスの力では振り払えず、身に纏っている黒いスーツと下ろしている長い艶髪が乱れただけだった。
「クーに、オレの女に触るんじゃねぇ!」
 オルクスが声を荒げる。
 男は喉を鳴らして笑った。
「待ってろ、今たす……っ!?」
「っ……!」
 ギリッと拘束する腕に力が入り、クロスが苦しげに眉を寄せる。
「貴様……!」
 銀縁眼鏡の奥、オルクスの瞳に殺気が混じった。そんなオルクスを見つめ、男が愉快そうに口元を歪める。
「お前が死ぬなら、人質は解放してやろう」
「!?」
「なッ……そんなの、絶対にダメだ!」
「お前は黙ってろ」
「あうっ……!」
 喉元を締め付ける腕に、クロスは声を詰まらせた。
「止めろ!!」
 オルクスが叫ぶと同時、周囲の男達が一斉に彼に銃を向ける。
(ちっ……周りは至近距離でいつでも撃てる状態、か……)
 オルクスは油断なく周囲を見渡し、突破口を考え、思考を高速回転させた。
「オルク! 俺は大丈夫だから、条件を呑むな!」
 クロスが叫ぶ。
 オルクスが彼女を見た。その瞳が優しく微笑む。
(しゃァねェ、一か八か)
「ほらよ。オレの命が欲しいなら撃ちやがれ」
 オルクスは銃を捨てた。
「オルク!? 何言って…!?」
「悪ぃなクー……オレは愛する人の為なら、命を捨てる事さえ躊躇わねぇんだ……」
「オルクっ!」
「クー、オレを愛してくれて有難う……」
 両手を上げ、オルクスが何処か淋しげに瞳を細める。
 男達が一斉に、銃の引き金に指を掛けた。
「いやっ、止めてっ!!」

「……なぁんちゃって」

 銃口から水が吹き出したと同時、不敵に笑ったオルクスはバク転で水鉄砲の銃撃を全て避ける。
 そのまま、前に落ちていた銃を拾い上げて、横っ飛びにクロスを拘束する男の頭を狙って射撃した。
「なッ……!」
 水は正確に男の頭にある的を破る。
「……!!」
 男の腕が緩んだ瞬間、クロスは拘束から抜け出した。
「クー!」
「オルク!」
 二人の瞳が合う。
 背中合わせに合流し、二人は男達に対峙する。
「蹴散らすぞ」
「勿論」
 二人の逆襲が始まった。


「馬鹿!アレが本物だったら死んでたぞ!?」
「あーすまん」
 敵を一掃した後、クロスは人差し指を突き付けオルクスを睨んだ。
 オルクスは乱れた黒スーツの胸元を整えて、口元に苦笑を浮かべクロスに頭を下げる。
「お願いだから、俺を置いて死ぬな!」
 ふと顔を上げると、泣きそうなクロスの顔。
「クー……」
「でもオルク、格好良かった!」
 クロスが微笑む。
 オルクスはその表情に魅入った。美しい、可愛い恋人。
「俺はクーを置いては死なないよ」
 オルクスは微笑みを返すと、そっとクロスの肩を抱き寄せた。
「どういたしまして、オレの愛する人」
 二人の唇がゆっくりと重なる。


●3.

 紺色ジャケットの燕尾服に身を包んだヒュリアスは、小さく唸った。
(しまった…遊びとはいえ、慢心はいかんな……)
 彼の背後には、黒尽くめの男が二人。
 ヒュリアスは二人の男に背後を取られ、拘束されてしまったのだ。
「え!? ヒュ、ヒューリ……っ?」
 目の前で、彼のパートナーである篠宮潤が目を丸くしている。
 こちらは白いジャケットの燕尾服型の王子服だ。
 二人で動きやすそうな衣装をチョイスした結果、色違いのお揃い衣装のようになってしまった。
「ウル」
 びっくりしすぎて、水鉄砲を握り締めたまま固まっている潤へ、ヒュリアスは語り掛ける。
「クリアが目的であろう。構わず先に行きたまえ」
「えっ?」
 更に驚いた様子で、潤の肩が跳ねた。
「王子様、それはいけねぇな!」
「王子様が見捨てたら、こちらの王子様は我々が殺してしまうぞ!」
 男達はヒュリアスに銃を突き付けてそんな事を言う。
「うっ……」
 ぎゅっと水鉄砲を持つ手に力が入った。
「構わん。先に行きたまえ」
「そ、そん、な……ヒューリ置いて、先に、なんて……」
 こちらを真っ直ぐに見てくる潤の眼差しに、ヒュリアスはふむと僅か頷く。
(ウィンクルムとして任に着く以上、仲間を助けるか先に行くか、二択を迫られることもあろう)
「僕……は……っ」
 真剣な光を宿す潤の瞳。どうやらスタッフの演技に上手い事流されたらしく、真剣そのものだ。
(ウルがどう判断するか、見守るとしようかね)
 そう決めると、ヒュリアスは口を挟む事を止めた。
「僕は……ヒューリを、助ける……っ」
「勇ましいな、王子様!」
「さぁ、どうやって助ける?」
 潤を囲んだ悪役達が、踊るように輪になって尋ねて来る。
 本当に潤達を倒す気なら、一斉に掛かってくる所だろうが、彼らにその気はないらしい。
(あくまで客を楽しませる趣向という事か)
 ヒュアリスは感心しながら、自分をホールドする男二人にコソッと囁く。
「男をホールドしても楽しくなかろうな……すまんな」
「いえいえ」
 男二人はにこやかに首を振った。
「ヒューリっ……待ってて……」
 男達の動きを観察しながら、潤が銃を構える。
「ヒューリを、返して……貰う……!」
 潤が水鉄砲を撃ちながら、駆け出した。
 まずは囲んできた男達を倒す。潤は動き回って勘で敵の攻撃を避けながら、男達の頭と胸の的を狙って引き金を引く。
 冷たい水が腕に足に当たるが、胸と頭は守り切った。
「おお! やるな、王子様!」
 囲んでいた男達を倒し、ヒュリアスを捉えている男二人に向き合う。
「ヒューリ……っ」
 潤が真っ直ぐにヒュリアスを見つめる。信じて欲しい、そう言っているように見えた。
「行く……よ……!」
 男達も応戦すべくヒュリアスを盾にしながら、水鉄砲を構える。
 潤が横に飛びながら、水鉄砲を撃った。
 男達の放つ水が、間一髪潤のこめかみを掠る。
「や・ら・れ・たぁ~……!!」
 頭の的を破かれた二人の男が、ヒュリアスを開放し、その場に倒れ込んだ。
「や……や……った?」
「よくやったのだよ、ウル」
 地面に倒れ伏す潤に、ヒュリアスが歩み寄り手を差し伸べる。
「良かったっ」
 その手に掴まり、立ち上がらせて貰いながら、潤は心から安堵の笑顔を浮かべた。


「実際にこういう状況になった時も、迷わずに判断するのだよ」
 ゴールへ向けて歩きながら、ヒュリアスがそんな事を言う。
「いざという時、一瞬の迷いが生死を分けることもあろう。ある意味いい経験だったのではないかね」
「……本当に、こういう状況になった、時……うん。覚えて、おく」
 こくりと潤は頷いた。
 今回、お芝居とはいえ、潤は真剣にヒュリアスを助けたいと思った。彼を置いていくなんて微塵も考えなかった。
(いざ選択に迫られた時……迷わないように……)
 そこまで考えて、潤はふと気になる。
「逆、だったら……ヒューリなら、どう、してた、の?」
「……さあ、ウルはどう思うかね?」
 逆に聞き返されて、潤は眉根を下げた。
(や、やっぱり、教えてくれないんだ、ね)
「正解等、何処にも無いのだよ」
 そう言いながら、ヒュリアスは小さく自嘲の笑みを口元に浮かべる。
(一瞬の迷いが生死を分ける……それは俺もだ……)
「うん……」
 正解等無い。けれど。
(せめて一緒に考えていけた、ら……)
「ホラ、もうすぐゴールなのだよ」
 温かい手が潤の手を包む。
 潤はこの手を大切にしたいと、そう思ったのだった。


●4.

「う、くッ……!」
 リヴィエラは顔を小さく歪めた。
 後ろからリヴィエラを捕らえた男の腕が、彼女の首に食い込む。
「リヴィー!!」
 ロジェの声が聞こえる。焦り、怒りの混じった色。
「ロジェ……様」
 ぐいっとリヴィエラの身体をホールドした状態で、黒尽くめの男が声を上げた。
「こいつの命が惜しければ武器を捨てろ!」
「何だと……?」
 ロジェは男を睨む。
「武器を捨てて、命乞いをしてみせろ!」
 そうすれば、この娘は助かるかもな。
 男の高笑いが響く。
「卑劣な……!」
 ロジェの身体が怒りに震えた。銃を握る手に力が籠もる。
「ロジェ様……」
 リヴィエラは彼の名を呼んで、にっこりと微笑んだ。
「良いのですロジェ様、私の事は良いのです」
「リヴィー?」
「私の事はどうか見捨ててください」
 そして、どうか貴方は生き延びて。
「どうやら、この娘の方が状況を分かってるようだなぁ?」
「あっ……」
 再びぐいと強く拘束され、リヴィエラの唇から苦痛の声が漏れた。
「ロジェ様、行って……!」
 そう言いながら、リヴィエラの胸は締め付けられるような不安に覆われる。
(……強がってみたけれど……)
 怖くないと言ったら嘘となる。けれど、でも、それでも。
 リヴィエラは彼を見た。
 大好きな、大切な彼。彼を守る為ならば、何でもする。それが自らの命を捧げる事になろうとも。
 リヴィエラは息を吸って、歌を紡ぎ始めた。
 それは愛の歌。
 騎士が姫を助ける御伽話。
 愛おしい貴方。私の騎士様。
 気付けば、つーっと頬を涙が伝っていた。
「リヴィー」
 ロジェはぐっと銃を持ち直す。

『俺を呼ぶ時は歌を歌え。必ず君の傍に行く』

 それは交わした二人だけの約束。
(待っていろリヴィー、必ず君を助ける)
 ロジャの瞳が真っ直ぐにリヴィエラを見る。

「俺を信じろ」

 瞬間、ロジェは地面を蹴って跳んだ。
 跳びながら、取り囲む男達の頭を次々と狙い撃つ。
 放たれる銃弾は正確無比。的を破られた男達が地面へ倒れていった。
「こいつ……!」
 虚を突かれていた黒尽くめの男が、リヴィエラの胸元へ銃口を向ける。
「させるか!!」
 ロジェの放った銃弾が、一歩早かった。
「ぐはぁ!」
 頭の的を破かれた男は、リヴィエラを開放して倒れ伏す。
「ロジェ様……!」
「大丈夫か、リヴィー?」
 駆け寄るリヴィエラをロジェは抱き締めた。
 まだ恐怖に彼女の身体は震えている。
「ロジェ様……私の騎士様。貴方を愛しています」
 リヴィエラは涙を零しながら、そっとロジェの頬へ口付けた。
「言っただろう? 君が歌えば俺は傍に行く、と」
「大丈夫と言ったけれど、本当は不安だったの……ありがとう、ロジェ様」
 ロジェの手がリヴィエラの頬に触れる。その手が震えている事にリヴィエラは気付いた。
「……君がひと時でも誰かの手に渡ってしまう事が怖かったんだ」
 そう囁くと、ロジェの腕がリヴィエラを抱え上げる──お姫様抱っこだ。
「きゃっ、ロジェ様!? あ、あの、この抱き上げ方は……」
「俺のリヴィー、もうどこにも行くな」
 真っ赤になるリヴィエラの唇にロジェの唇が重なった。
 甘い甘い、彼の、彼女の唇。
 唇を離して、見つめ合って。ロジェが一層強くリヴィエラを抱き締めた。
「囚われの姫君はこうやって姫抱きされるものだ」
 耳元で囁くロジェの声が、リヴィエラの全身に響く。それは、甘くリヴィエラを縛る鎖となった。
「……はい、もうどこにも行きません」
 約束。
 二つの影は重なって、暫く離れる事は無かった。


●5.

 囚われの相棒、悪役、絶体絶命。
「まるで騎士物語みたいですわね! 燃えますわ!」
 金の瞳を爛々と輝かせて、マリーゴールド=エンデはぐっと拳を握った。
 チュニックにズボン、ブーツとマント。頭には羽根つき帽子。マリーゴールドの今の出で立ちも物語に出てくる騎士のようだ。
「楽しそうだネー」
 マリーゴールドとは色違いの騎士風衣装を纏い、サフラン=アンファングはのんびりと彼女を眺める。
 彼女と少し違う事と言えば……。
「ふははははは! はたして我々に勝てるかな? 騎士殿!」
 高笑いする黒尽くめの男に、がっちり捕まっているという事。
「ふふっ、絶対にサフランは助け出して見せますわっ」
 びしっと水鉄砲の銃口を向け、マリーゴールドは宣言する。
「よ~し、では我々も全力でお相手しよう! みなの者、出会え~!」
 男の合図で、ずらっとマリーゴールドを黒尽くめの男達が取り囲んだ。
「マリーゴールド、懲らしめてヤリナサイ」
「ふふっ、お任せあれ、ですわ!」
 サフランの言葉に笑って、マリーゴールドは銃を構えた。
「どぉーりゃー!」
 向かってくる男をヒラリと躱して、その背後に回る。
「鬼さん、こちら!ですわっ」
 一斉に噴射される水を、躱した男の背を掴んで盾にし避ける。
「どわぁー!」
 男が胸の的を射抜かれ倒れる所を、ひょいっと離脱。
 マシンガンのように放たれる水を駆け抜けて避けつつ、応戦した。
 そして、また別の男の背後に回ると盾にして攻撃を避ける。
「ヤダ、マリーゴールドサンステキー」
「エーイ、何をしておるー!」
 サフランが歓声を上げ、その背後で男が声を荒げた。
「こうなれば、人質を……!」
 ピュッ。
「はい、セーフ」
 サフランの胸元目掛けて放たれた水は、彼自身が素手で防御した。
「人質が身を守っちゃいけないって、ルールはないよネ?」
「ないですネ」
 黒尽くめの男が真顔で頷くのに、サフランは笑う。
「サフラン! その調子で頑張ってくださいな……!」
 マリーゴールドはそう叫んで、確実に男達の数を減らしに掛かった。
 気付けば床は水浸し。
「水で滑っちゃいそうですわね……!」
 ポーンと勢い良くブーツを脱ぎ捨てて裸足になる。
「あと、少し……!」
 荒い息を吐きながら、マリーゴールドは縦横無尽にフィールドを駆け巡った。
(そろそろ頃合い、カナ?)
 敵の数が減り、マリーゴールドばかりに目が行って、サフランへの注視具合は減っている。
 サフランは足の力を抜くと、首と相手の腕に自分の体重を一瞬掛けた。
「何を……ッ!」
 結果、サフランの首が締まる形となり、驚いた男が拘束を緩める。
「ハイ、イタダキ」
 コチョコチョコチョ。
「どわっはっはっはっ!!」
 脇を擽られて男が悶絶した。サフランは拘束を解き、マリーゴールドの元へと走る。
「サフラン!」
 マリーゴールドが瞳を輝かせると、落ちていた銃を拾い上げ、彼へ投げた。
 パシッ。
 それを難なくキャッチすると、サフランも銃撃戦へと加わる。
 そして、マリーゴールドとサフランの銃は、悉く男達の急所を捉え、倒したのだった。
「参りましたー!」

「やりましたわ!」
「お疲れ」
 マリーゴールドとサフランは手を合わせてハイタッチする。
「サフラン、良く抜け出せましたわね」
「まぁネ」
 不思議そうにするマリーゴールドにサフランは微笑み、彼女が脱ぎ捨てたブーツを差し出す。
「有難う御座います」
 マリーゴールドは笑顔で受け取ると、取り敢えずゴールまで手に持つ事にした。
 二人はゴールを目掛けて歩き出す。
「そう言えば……さっきの水鉄砲みたいな事が本当に起きたら、マリーはどうする?」
 歩きながら、不意にサフランの口から出た質問に、マリーゴールドは瞬きした。
「あら、本当に起きても変わりませんわよ?」
 間髪入れずきっぱり答え、にっこりと微笑む。
「サフランは私が助けますし。それでピンチになった時は、サフランが何かしでかしてくれるって信じてますもの」
「……」
 今度はサフランが大きく瞬きする番だった。
「ふふっ、さっきだって、拘束から抜け出して助けてくれましたしね」
「……まぁ、出来るコトはやるヨ。しでかすってトコだけ、何だか納得出来ないケド……」
「はい!」
 マリーゴールドは満足そうに頷く。
 そんな彼女の笑顔が眩しくて、サフランは小さく口元に笑みを刻んでから、えいっと彼女の額をデコピンする。
「な、何ですの!?」
「なんとなく」
「なんとなく……って、どーいうコトですのっ?」
「……なんとなくは、なんとなく、ダヨ」
 サフランはふっと微笑むと、デコピンした箇所をふわりと撫でた。
「痛いの痛いの、とんでけーってネ」

Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:篠宮潤
呼び名:ウル
  名前:ヒュリアス
呼び名:ヒューリ

 

名前:ガートルード・フレイム
呼び名:お前、ガーティー
  名前:レオン・フラガラッハ
呼び名:お前、レオン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月21日
出発日 01月27日 00:00
予定納品日 02月06日

参加者

会議室


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