【メルヘン】囚われの君を救え!(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「突然だが、姫は預かった!」

 そんな悪党声と共に、貴方は仮面を着けた男達に捕まりました。

「あ、ここでは、『なんだと!? 姫を返せ!』って叫ぶ所です」
 こそこそと黒子達に囁かれ、貴方のパートナーはコホンと咳払いします。
「何だと? 姫を返せ!」
 若干棒読み気味なのは、パートナーは役者ではないという事で、許してあげて下さい。
「はーはっはっはっはっ! そうは行かない! 姫は連れ帰って私の后にするのじゃー!」
 高笑いと共に、貴方と貴方を捕らえた男を煙幕が包みます。

「はい、お疲れ様でしたー!」
 次の瞬間、貴方は豪奢でメルヘンな部屋の中に居ました。そう、まるで王宮の王様のお部屋のような。
 仮面の男が、にこやかに貴方達を見遣ります。
「これから、パートナーの王子様が数々のアトラクションを切り抜けて、貴方を助けに来ます。
 貴方は、その様子をモニターで観ながら、助けを待って下さい」
 男が指差す先には、複数のモニターがありました。
「あと、お着替えもしましょう! 是非、お好きな衣装を選んで着飾って下さいね」
 そう言いながら、隣の部屋の扉を開けると、綺羅びやかな王族衣装と装飾品が所狭しと並んでいます。
「メイクも承ります」
 メイド服に身を包んだ女性達が、笑顔で会釈しました。
 貴方達は、お姫様な衣装に身を包んで、メイクをして貰い、ふかふかのソファーに座ります。
 目の前には、美味しそうなお菓子にお茶、そしてモニター。
 そのモニターの一つ──恐らくお城の入り口に、パートナーの姿が映っていました。
 その出で立ちは、王子様。
 パートナーは、囚われの姫となった貴方を助けに、悪の王が居る城へと乗り込むのです。

 ここは、ショコランドにある古城。
 城の中をアトラクションに改造した、小さなテーマパーク。
 期間限定イベントとして、カップル限定で『囚われの君を救え!』が開催されています。
 内容は、カップルのどちらかが攫われたという設定で、それを助けに行くものです。
 城の中にある複数のアトラクションを切り抜けて、最上階に居るパートナーを救い出せばクリアとなります。

 お芝居だけど、アトラクションだけど、パートナーはどんな風に助けに来てくれるんだろう。
 美味しいお茶とお菓子を楽しみながら、貴方はパートナーの助けを待ちます。

解説

【ショコランド】にある古城なテーマパークで、『囚われの君を救え!』に参加いただくエピソードです。

囚われた側、救出する側、どちらを神人さん、精霊さんが担当するか、プランに明記をお願いします。
文字数削減のため、文頭に、囚われる側は『囚』、救出する側は『救』と記載頂ければ大丈夫です。

また、お好きな衣装を選べますので、拘りのある方はこちらもプランに明記して下さい。
※記載ない場合は、雪花菜がチョイスします。但し、文字数の都合上、詳細な描写を省く事がありますこと、何卒ご了承下さい。

救出側を待ち受けるアトラクションは、以下から、挑戦したいものを選んで、プランに記載をお願い致します。

1.水鉄砲ゾーン
…四方から水が噴射されています。当たると折角の衣装が濡れてしまいます。結構な勢いなので、当たると少し痛いかも。
 上手に避けて進むのが良いでしょう。敢えて突進して、水も滴る…になるのも良いかもしれません。

2.飛び石ゾーン
…部屋一面に水が張られており、その上に飛び石があります。飛び石を使って、次の部屋まで渡り切って下さい。
 石の中には、浮いているだけのダミーがあります。これを踏んでしまうと水の中へ落ちてしまいますので、注意が必要です。
 こちらも敢えて飛び石を使わず、水の中を泳いで突っ切る事も可能です。(深さは2m程あります)

3.パズルゾーン
…巨大なジグソーパズル。床に散らばるピースを壁に嵌めて完成させて下さい。
 完成する事で、文字が浮かび上がります。
 この文字は、囚われ側が、『あらかじめパートナーに伝えたい文章』を決めておき、表示させる事も可能です。

4.坂道ゾーン
…ローションがまかれた坂を越えて頂きます。
 途中、補助ロープがありますので、掴めむ事が出来れば、一気に登れるでしょう。
 転ぶとローション塗れになりますので、ご注意下さい。

参加費用(衣装レンタルを含め)「300Jr」掛かります。
あらかじめご了承下さい。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『チョコレートは年中無休で受付中!』な方の雪花菜 凛(きらず りん)です。

自分の為に頑張るパートナーさんを見るのってドキドキしませんか?という事で、エピソードを出してみました。
格好良く決めても、少しコメディでも、どっちも素敵だと思います♪
お気軽にご参加頂けますと嬉しいです!

皆様の素敵なアクションをお待ちしております♪

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

 

衣装:王子様の格好(お任せ)

☆心情
カッコ良くエミリオさんを助けられるように頑張らなきゃ

☆お互いの衣装を見て
…エミリオさん、女の私より綺麗(ショック)
(気を取り直し)待ってて、『エミリー』姫
私がたす・・いひゃい、いひゃい!
頬つねっちゃ嫌ー

☆坂道ゾーンに挑戦
よーし、いく・・ひゃああっ!?(初っ端からコケる)
うっ、負けない、よおおっ!?(またまたコケる)
絶対にエミリー姫を助けるんだから!
あ、今寒気がした

☆終了時
衣装ビショビショだー
後でスタッフさんに謝らないと
私ねいつもカッコ良く守ってくれるエミリオさんみたいになりたかったの
(ご褒美を貰い)私カッコ良くできなかったのに…エミリオさん、ありがと(赤面)


日向 悠夜(降矢 弓弦)
  ◆囚
水鉄砲ゾーン

弓弦さんが王子様…弓弦さんが…
…えっと、とりあえず着替えて待つんだよね
今も昔もお姫さまってタイプじゃないからこの格好はちょっと恥ずかしいな

とりあえず座って待ってっと…
…なんでかな、じっと待つなんて出来ないや
スタッフのメイドさんにタオルと温かい紅茶を用意してもらえるかお願いしたいな
それらを持って弓弦さんがやってくる扉の近くに立って待つね

弓弦さんお疲れ様
弓弦さんなら大丈夫だと分かっていたんだけれど…どうしてもそわそわしちゃって

…これは言わないとね
手を付けられなかったお菓子のチョコレートを一粒、弓弦さんに差し出して
「王子様…助けてくれてありがとう」

●服装
水色と緑のグラデーションドレス



吉坂心優音(五十嵐晃太)
  ☆囚

☆衣装
セルリアンブルーのローブデコルテドレス

☆モニターを見ながら紅茶やお菓子を頂く

「晃ちゃん大丈夫かなぁ…
ってほわぁ!
晃ちゃんの衣装格好良い…!
王子様だけど国の軍人みたい!
晃ちゃん似合うなぁ(ニコニコ
ふふっ晃ちゃんったらテニス部なめんなや?とか言っちゃって(微笑
可愛いなぁ(微笑
あっ晃ちゃん飛び石?
大丈夫とは思うけど心配だなぁ
水に落ちたら冷たそうだし寒そう…
風邪ひかないかな?
…わぁ晃ちゃん身軽~
流石晃ちゃんだねぇ!
ダミーも今の所踏まずに来てるし~
これならもう少ししたら助けに来てくれるや♪」

☆助けに来たら

「晃ちゃん!
無事で良かった(ホッ
助けに来てくれて有難う
晃ちゃんはあたしの王子様だよ(照笑」


クラリス(ソルティ)
  (救)
衣装:髪を一つに纏め白い王子服着用

ちゃーんと助けてあげるからイイ子で待ってるのよ、お姫様~(にやにや)

ソルは過保護すぎなのよね。少しは守られる側の気持ちを知ってほしいわ!
過保護な精霊への文句を言いながら進む
ズカズカと水鉄砲ゾーンに踏み込んだ直後、顔面に水噴射
…ふふふ。あたしは漁師の娘よ!昔は翡翠の悪魔と怖れられ数々の荒波を越えた女なのよ!
こんなしょっぱい水なんて吹き飛ばしてやるわよっ
水圧の地味な痛みを堪えながら意地で正面突破

…あら。大変愉快な格好じゃない、ソルティ姫様?
自分を二の次にされて守られる気持ち、わかったかしら

…わかったわよ。もうきっと無茶はしないわ。だから、約束は守りなさいよね


名生 佳代(花木 宏介)
  『囚』

おーほほ、わたくしがお姫様で、宏介様が王子様。
衣装だってお姫様ドレスに王子様マントで揃えましたわ。
王子様らしく、カッコよく、助けに来てくださいまし。
楽しみにしてますわよ。
…ちょっとぉ、ちゃんとなりきれしぃ!

宏介はアタイのパートナー…アタイの王子様にしては、
王子様度が足りてないしぃ。
これで少しは王子様らしさを身につけるといいしぃ!

シノビってのも王子様らしくないけど…、
どうせならシノビらしくカッコよく助けに来いしぃ!
アタイは甘さ控えめチョコ食べながら見守ってるから!

…ダサッ、プークス。
って、何だしぃ!?
俺様系王子!?
ここ、宏介の癖に調子に乗るなしぃ!
煩い!
満足とか、ドキッとなんかしてないし!



●1.

 気品ある濃紺のフロックコート。
 胸元の王族を示すエンブレム、頭上の王冠が華やかさを演出している。
 スレンダーなシルエットが、ミサ・フルールにとても似合っていた。
 エミリオ・シュトルツはその姿を眼福で眺めていたのだが──。

「……エミリオさん、女の私より綺麗」

 ミサの口から零れ出た言葉に、エミリオは固まった。
「凄く綺麗……!」
 ミサは立ち尽くすエミリオの回りをクルクル歩いて、じーっと見つめる。

 エミリオが身に纏っているのは漆黒のドレス。
 Aラインのロングドレスで、大粒宝石の装飾が美しい。髪にも同じ宝石の髪留めが輝く。
(恋人としては、ミサの願いは何でも叶えてあげたいとは思ってる。どうしてもっていうから渋々承諾したけど……)
「ねぇ、ミサ」
 バッチリとメイクされ、ボリューミーな睫毛を震わせて、エミリオは微笑んだ。
「どうして俺が姫なわけ?」
 ミサは黒いオーラを纏う彼を見上げ、にっこりと笑って拳を握った。
「待ってて、『エミリー』姫! 私がたす……」
 むに。
「いひゃい、いひゃい!」
 エミリオの指が、緩んでいたミサの頬を抓る。
「頬つねっちゃ嫌ー」
 嫌々と首を振るミサに、少し溜飲が下がったらしくエミリオは指を離した。
「せいぜい頑張りなよ、オウジサマ?」
 にっこり。
 女王様然とした彼の美麗な微笑みに、ミサはまた『綺麗』と呟いてしまう。
「……何か言った?」
「う、ううんッ」
 再び頬に伸びそうな指にミサは頭を振った。


 悪役に攫われていったエミリオを見送って、ミサは気合を入れる。
(カッコ良くエミリオさんを助けられるように頑張らなきゃ!)
 コートを靡かせ、ミサは走り始めた。
 石造りの階段を駆けて、程なくしてその部屋へと辿り着く。
「部屋の中に坂道?」
 部屋いっぱいに広がる急勾配の坂道。坂道を上がった先に、次の部屋へ続く扉が見える。けれど、その坂道には。
「ローションが撒かれてる……」
 ミサはキッと坂道を見据え、深呼吸した。一気に登ってしまうしかない。
「よーし、いく……ひゃああっ!?」
 一歩踏み出して、ミサは転んでしまった。
「うっ、負けない……よおおっ!?」
 ツルッ。ベシャッ。
「どーして滑っちゃうのーっ?」
 ミサは何度も転びながら、必死に前を目指す。


 最上階で待つエミリオは、モニターでミサの様子を見守っていた。
「ミサ、どうしてあんなに……」
 転んでは立ち上がって。何度失敗しても、ミサは必死で前へ前へ踏み出す。

『絶対にエミリー姫を助けるんだから!』

 聞こえてきたミサの声に、エミリオは顔が熱くなるのを感じた。
(俺の為だから……そんなに必死になってくれるの?)
 じわりと込み上げる温かい気持ち。
 赤くなった顔を見られないよう、片手で隠す。
(……こんな意地悪なアトラクションを用意したスタッフは、ちょっと許せないかな)


「あ、今寒気がした?」
 思わず一瞬足を止めて。それが功を奏したのか、ミサはぶら下がっている縄を掴む事に成功した。
「よし……!」
 縄を手繰り寄せるようにして、一歩一歩坂道を上げる。
 やがて、無事に頂上に辿り着く事が出来た。
「エミリー姫!!」
 扉を開けて飛び込めば、ミサの視界には微笑むエミリオの姿。
「まったくそんなにローション塗れになって」
「衣装ビショビショになっちゃった。後でスタッフさんに謝らないとね」
 ミサは小さく舌を出して笑う。
「私ね、いつもカッコ良く守ってくれるエミリオさんみたいになりたかったの」
 瞳を細め告げられた言葉に、エミリオが軽く目を見開く。そして、ふわりと柔らかく笑った。
「……頑張った子にはご褒美をあげるよ」
 柔らかい唇が降ってくる。ミサは瞳を閉じて、それを受け入れた。
 唇が離れると、至近距離にエミリオの微笑みがある。
「私カッコ良くできなかったのに……エミリオさん、ありがと」
 赤くなりながらそう言えば、彼はぎゅっとミサを抱き締めた。
「俺の為に必死になってくれて、有難う……ミサ」


●2.

「どう? 似合う?」
 蒼い髪を後ろで束ねて、クラリスは微笑んでパートナーを振り返った。
 白基調のテールコートが凛とした印象の王子衣装だ。
「凄く似合ってる。似合ってるんだけどね……」
 端切れの悪いソルティを見つめ、クラリスは口の端を上げる。
「ちゃーんと助けてあげるからイイ子で待ってるのよ、お姫様~」
 クラリスはニヤニヤと瞳を揺らした。
「それじゃ、お願いしま~す!」
 準備は整ったと手を上げるクラリスに、悪役達がソルティを取り囲む。
「ちょっと……!」
 目を丸くするソルティを捕まえ、
「姫は預かった~! 救いたくば、追い掛けて来るがいい~!」
 高らかに笑いながら宣言する。
「姫! 必ず助ける!」
 クラリスが叫ぶと同時、ソルティと悪役達を煙が包む。そして煙が消える頃には、その姿は消えていた。
「さて、行きますか!」
 パンと一つ手を打って、クラリスは城の最上階を目指し、早速走り出した。
「ソルは過保護すぎなのよね」
 いつも優しい笑顔で、クラリスの心配ばかりしているソルティ。
「少しは守られる側の気持ちを知ってほしいわ!」
 今日は、ソルティに守られる側の気持ちを知って貰う。そのために王子役を選んだのだ。
 そして──。
「それに、あたしは守られるだけじゃない!」


「どうしてこんな事に……」
 ソルティはずらっと並ぶお姫様なドレスを見つめ、頭を抱えていた。
「これ、着なきゃダメ、です…………よね」
 スタッフの笑顔にソルティは言葉に詰まり、なるべく地味目なロングドレスを選ぶ。
 エンパイアラインのロングドレスに身を包めば、ロングヘアウィッグにメイクまで。
「あはは……」
 ソルティはぐったり疲れた顔でソファーに腰掛け、モニターに映るクラリスを見守る。


 クラリスが扉を開くと、ひんやりと冷たい水気を感じた。
 部屋の四方にある穴から、一定のリズムで水鉄砲のように水が放たれている。
「水くらい、どうってことないわ!」
 クラリスは構わず進む事にした。

「少しは警戒しようよ!」
 ソルティが思わず叫ぶと同時。
 バシャア!
 水がクラリスの顔面に当たった。

「……ふふふ」
 肩を揺らして、クラリスが睨むように前を向く。
「あたしは漁師の娘よ! 昔は翡翠の悪魔と怖れられ、数々の荒波を越えた女なのよ!」
 翠の瞳が強く煌く。
「こんなしょっぱい水なんて吹き飛ばしてやるわよっ」
 叫ぶなり、正面突破すべく駆け出す。

「正面突破は無謀過ぎるだろッ」
 ソルティは立ち上がっていた。
「そこ右、危ないっ!」
 右側から飛んできた水を、クラリスは避けない。その水に負けてなるかと、足を踏み出す。
「今度は左……!」
 肩を押すように噴射される水にも構わない。
「あのー……」
 ソルティは控えているスタッフを振り返る。
「これ、俺が助けに行っちゃいけない……ですよね?」
 スタッフは静かに頷いた。
「そうですよね、ダメですよね」
 モニターに向き直り、ソルティは眉を下げた。
「じゃあ……すみませんが、タオルを貸していただけませんか?」

「着いた!」
 ゴールまで正面突破を完遂したクラリスは、全身びしょ濡れで扉を開ける。
「クラリス」
 そこには、ドレス姿のソルティが立っていた。
「……あら。大変愉快な格好じゃない、ソルティ姫様?」
 クスと笑うと、ソルティは恥ずかしそうに頬を赤らめるも、ズカズカと歩み寄り、持っていたタオルで彼女の身体を包み込む。
「無茶ばっかりして……鼻も赤くなってるじゃないか!」
 至近距離で少し怒った彼の声。
「自分を二の次にされて守られる気持ち、わかったかしら」
 じっと見上げると、ソルティは軽く目を瞠った。
「守りたい気持ちは変わらない」
 濡れた髪を拭きながら、ソルティははっきりとそう答える。
「けど……」
 瞳を合わせ、微笑む。
「俺ももう無茶はしない。約束。だから、クラリスもお願いだからもっと自分を大事にしてくれないかな」
 今度はクラリスが目を瞠る番だった。
「……わかったわよ。もうきっと無茶はしないわ」
 差し出された彼の小指に自分の小指を絡める。
「だから、約束は守りなさいよね」
 ソルティが微笑む顔が眩しくて、クラリスは少しの間、瞳を閉じたのだった。


●3.

 藍色のジャケットに暗めの紅色マント。
 金銀の刺繍が、派手過ぎずも高貴な印象を与えている。
 そんな王子衣装を身に纏い、降矢 弓弦は古城の入り口に居た。
 何とも落ち着かない格好だが、それ以上に落ち着かない事がある。
(囚われの悠夜さん、か……)
 城の最上階で、囚われの姫君となったパートナー、日向 悠夜が待っている。
 新鮮だなと思う。
「普段は彼女に足を運んでもらう事が多いからね」
 そう口に出せば、落ち着かない感情について少しだけ整理出来た。
(……何故かな、早く悠夜さんを助けないといけない気がする)
 身体の奥から沸き上がる感情のまま、弓弦は駆け足に城の中へと突入した。

(弓弦さんが王子様……弓弦さんが……)
 城の最上階では、悠夜もまた、落ち着かない気持ちで居た。
 いつもと違う服装の彼を思い出すと、悠夜は正体不明の胸の高鳴りに襲われる。
「……えっと、とりあえず着替えて待つんだよね」
 ハッと我に返ると、ふるふると首を振った。
 スタッフに促されるまま、ずらっと並ぶドレスの中から、水色と緑のグラデーションのドレスを選んで身に纏う。
 ボディラインにフィットするデザインは、悠夜をぐっと艶めいて見せた。
 続けてメイクもして貰って、悠夜は鏡の中の自分を眺めると、少し眉を下げる。
(今も昔もお姫さまってタイプじゃないからこの格好はちょっと恥ずかしいな)
 ソファーに座ると、目の前のモニターには、城の階段を登る弓弦が映る。
 忙しなく脈打つ胸を押さえながら、悠夜は彼を見守った。

「水鉄砲、か」
 扉を開けて、部屋の中の様子を確認した弓弦は小さく息を吐き出す。
「上手く見極めて、避けていくのが良さそうだね」
 注意深く観察しながら、水が止まったタイミングを狙って進み始める。

「弓弦さん、頑張って……!」
 悠夜はお菓子やお茶を楽しむ所ではなく、弓弦の姿に見入っていた。
「あ、危ない……!」
 半分を超えた所で、水の噴射の感覚が早まってきた。
 咄嗟に身を引くも、纏うマントが濡れる。
 弓弦はゴールとなる扉を見遣った。
 後少し。けれど、このまま水を避けようとするならば、時間が掛かってしまう。
「……」
 瞳に強い光を宿すと同時、弓弦は駆け出した。
「!」
 思わず悠夜は立ち上がる。
 最早、避ける事は考えていない。前へ──悠夜の元へ走るだけ。襲い来る水の噴射に濡れながら、弓弦は走った。
「弓弦さん……」
(じっと待つなんて出来ないや)
 悠夜はスタッフを振り返る。
「タオルと温かい紅茶を用意して貰えませんか?」
 メイド姿のスタッフは快く頷いた。
 手にタオル。ワゴンには温かな紅茶のティーセット。
 悠夜は扉の前で待つ。もうすぐ彼が、やって来る筈だから。

 水鉄砲ゾーンを駆け抜けた弓弦は、荒い息を整えながら、濡れた手で扉を開ける。
「弓弦さんお疲れ様」
「悠夜さん?」
 扉を開けた直ぐそこに悠夜が居るとは思ってもいなかった。弓弦は目を丸くして驚く。
「弓弦さんなら大丈夫だと分かっていたんだけれど……どうしてもそわそわしちゃって」
 悠夜は笑って彼の視線に答えると、タオルで彼の濡れた髪を拭いた。
「ずぶ濡れになっちゃったね。温かい紅茶もあるよ」
「……あ、有難う」
 目元を紅く染めて、弓弦は瞳を細める。
「僕も、なんだか急がないといけない気がしたんだ」
「弓弦さんも?」
「待つのが辛いとは知っていたけれど、待たせる方も辛く感じるんだね」
 そう言って、弓弦は髪を拭いてくれる彼女の手に触れた。
「君に、そんな思いをさせない様にしないとかな。……はくしゅん!」
「だ、大丈夫?」
「あはは、何だか格好悪いね」
 照れたように笑う弓弦に、悠夜は首を振った。
「そんな事ない。王子様……助けてくれてありがとう」
 手を付けられなかったチョコレートを一粒、彼に差し出す。
「……貴方の為なら、何時でも何処にだって」
 弓弦は柔らかい微笑みでチョコレートを受け取ると、悠夜の手を取った。
「ドレス、似合ってるよ」


●4.

 セルリアンブルーのローブデコルテドレス。
 清楚だけども、胸・肩・背を露わにした上品な色気もある。
 そんなドレスに身を包み、吉坂心優音はソファーに腰を下ろした。
 スタッフから紅茶のカップを受け取り、ゆっくりと口を付ける。
「ん~美味しい! 晃ちゃんにも飲ませてあげたいなぁ」
 心優音は微笑むと、彼が現れるであろうモニターへ視線を向けた。
「晃ちゃん大丈夫かなぁ……ってほわぁ!」
 モニターに現れたパートナーの姿に、心優音は目を見開く。
「晃ちゃんの衣装格好良い……!」
 彼──五十嵐晃太は、黒基調のインヴァネスフロックコート姿。
 細やかな刺繍と肩章が華やかで気品があり、それでいて──。
「王子様だけど国の軍人みたい! 似合うなぁ」
 凛とした佇まいの晃太に、心優音は思わず見惚れた。

「取り敢えず、早よみゆを助けに行かなアカンな」
 晃太は城を見上げる。
「衣装は動きやすそうな感じのコレにしたけど……」
 クラシカルなケープは少しヒラヒラするが、邪魔にはならない。
「よっ……!」
 地面を蹴って、晃太の身体が宙を一回転する。
 続いて軽くステップを踏むようにして高々とジャンプを数回、そして最後にバク転。
「うん、何とかなるやろ」
 パンと手を打ってから、晃太は口の端をニヤリと上げた。
「テニス部をなめんなや?」

「ふふっ。晃ちゃんったら」
 不敵に笑い駆け出した晃太を見つめ、心優音は微笑む。
「可愛いなぁ」
 早く彼に会いたい。
 心優音は真っ直ぐに駆ける彼を見守る。


 扉を開いて、晃太は目を丸くした。
 部屋の中はまるで大きな湖。点々と飛び石がある。

「大丈夫とは思うけど心配だなぁ」
 モニターに映し出される部屋の様子に、心優音が眉根を下げた。
「水に落ちたら冷たそうだし寒そう……風邪ひかないかな?」
 どうか、晃ちゃんが落ちませんように。
 心優音は祈るように両手を合わせた。

 晃太がふっと息を吐き出した。
 飛び石にはダミーがあるらしいが、見た目では判断出来ない。
 となれば、やる事は一つだ。
「行くで!」
 助走を付けて跳躍する。
 一歩目。ダミーでは無かった。しっかり蹴って次の飛び石へ。
「チッ……!」
 手応えで分かる。この飛び石はダミーだ。
 素早く沈む石を蹴り、次の石へ飛び移った。

「……わぁ、晃ちゃん身軽~」
 心優音は思わず拍手した。見事なバランス感覚で、ダミーに当たっても難なく前へと進む。
「これならもう少ししたら助けに来てくれるや♪」

 扉のあるゴールまで、飛び石二個分。
「クッ……!」
 足が沈む。ダミーだ。すかさず次の石へ足を踏み出した。
 が、その次の石もダミー。晃太の身体が傾く。

 けれど、次の瞬間、晃太の身体が一回転した。

 前のめりに身体を倒した晃太は、目の前の飛び石に手を付いてバク転をしたのだ。
 綺麗に扉の前に着地すると、晃太は白い歯を見せてガッツポーズした。
「なんぼのもんじゃい!」
 そして扉を開き、心優音の元へと走り出す。

「晃ちゃん!」
「みゆ! 助けに……ってやっぱり優雅に待っとったか」
 テーブルのティーセットを見遣り、晃太は苦笑いする。
「無事で良かった」
 心優音は立ち上がり、晃太が無傷である事を確認し、安堵の吐息を吐いた。
「助けに来てくれて有難う」
 ふわりと晃太を見上げて微笑む。
「どういたしまして」
 少し照れた笑みを返してから、晃太はじっと心優音を見つめた。
「みゆのドレス可愛いなぁ」
「晃ちゃんの王子様姿だって素敵……晃ちゃんはあたしの王子様だよ」
 ほんのり頬を染める心優音の手を取り、晃太は瞳を細める。
「似合っとるで、俺のお姫さん」
 手の甲に落ちる彼の甘いキス。心優音に笑顔が溢れたのだった。


●5.

 こうなるって大体分かってた。
 花木 宏介は、紺色のジャケットに真紅のマント、正に王子様な出で立ちでどんよりと彼女を見つめた。
「おーほほ、わたくしがお姫様で、宏介様が王子様」
 実に楽しそうに笑っているのは、名生 佳代。宏介のパートナーだ。
「衣装だってお姫様ドレスに王子様マントで揃えましたわ」
 ドヤ顔をする佳代は、純白のプリンセスラインドレス。胸元にはコサージュとリボン。華やかでキュートだ。
 そう、見た目だけは……と、宏介は思う。
「王子様らしく、カッコよく、助けに来てくださいまし」
 ウフフと笑う佳代に、返事の代わりに溜息を吐き出した。
(ノリノリ過ぎるぞ、勘弁してくれ)
「楽しみにしてますわよ」
 脇腹を肘で突付きながら、佳代が上目遣いで見てきた。
 しかし、宏介は明後日の方向へ視線を向ける。
「……ちょっとぉ、ちゃんとなりきれしぃ!」
 指差しする佳代に、宏介はヤレヤレと頭を振った。
「ちゃんと助けに来るんですわよ~!」
 悪役スタッフの攫われていくノリノリの佳代を見送って、どうしたものかと宏介は頭痛のする頭を押さえる。
「契約した当初から王子王子と煩いし……絶対食いつくと思ったら予想通りだ」
 聳え立つ古城を見上げ、また溜息が零れた。
「演技なんてしない。下らない」
 そう呟きながら、宏介は重い足取りで城の中へと歩いて行く。

 佳代はソファーに腰掛け、チョコレートを摘みながら、宏介の様子を映すモニターを見つめた。
「宏介はアタイのパートナー……けど、アタイの王子様にしては、王子様度が足りてないしぃ」
 映る宏介は、何を考えているか分からない冷めた表情をしている。
(けれど、ビジュアルだけは王子様なんだしぃ)
 じーっと宏介の姿を見つめ、佳代は落ち着かない気持ちになる自分を感じた。
(こ、これが衣装効果ってヤツだったりぃ?)
 そう、衣装のせい。大体衣装のせい。
 結論付けると、佳代はモニターを睨む。
「これで少しは王子様らしさを身につけるといいしぃ!」

「……今寒気が?」
 宏介はゾクゾクする背中を感じながら、扉を開いた。
 目の前に広がるのは、湖のように広がる水のゾーン。水の上には飛び石がある。
「シノビなら余裕だろうと、激しく佳代に推されたヤツか」
 じっと目を凝らして、ダミーの飛び石を見極めようと眺めてみた。
「さてどうしたものか。全くダミーがわからない」
 宏介は腕組みして考える。

 一方、佳代はぐっと拳を握っていた。
「キタキタ! シノビってのも王子様らしくないけど……、どうせならシノビらしくカッコよく助けに来いしぃ!」

(沈む前に次の石に飛び移る……なんて難しいだろうか)
 飛び石を見つめ、宏介は小さく唸る。
(これが出来たら佳代も満足するだろうが……)
 瞼に浮かんだ佳代の顔を振り払うように、宏介は首を振った。
「モタモタしてても仕方がない、やるだけやってみよう」
 意を決して、軽く助走を付けてから跳躍を始める。
 一つ目はセーフ。
 二つ目はダミーだったが、何とか堪えて先へ飛んだ。
 そこから、暫くはダミーを踏まず順調に進む。
「クッ!」
 しかし、後少しという所で、ダミーに足を取られた。
 勢いを殺さず前へ足と踏み出すが、踏み出した先の飛び石もダミー。
 宏介は水の中へ落ちてしまった。
「クソ……!」
 ずっしりと重くなる衣装に耐えながら、泳いでゴールを目指す。

「……ダサッ、プークス」
 びしょ濡れで辿り着けば、思い切り笑っている佳代が待っていた。
「……はぁ、煩い女だ」
 人が苦労して辿り着いたというのに。
(本で読んだアレをやるか)
 宏介は佳代との距離を詰めると、クイッとその顎を軽く持ち上げて、目を合わせた。
「俺以外の男についていくな。俺以外の男を見るな。オマエは俺だけ、見ていればいい」
「な、な、な」
(俺様系王子!?)
 一瞬で佳代の顔が真っ赤に染まった。それを確認して、宏介は彼女を開放する。
「これで満足か?」
「って、何だしぃ!?」
 佳代が吃ると、宏介はしれっとこう言った。
「リクエストに応えてやったんだ。こういうのが良いんだろう?」
「なッ……ここ、宏介の癖に調子に乗るなしぃ!」
 要望に答えたのに、怒鳴られるのはおかしい。宏介が首を傾けると、佳代は彼を指差す。
「煩い! 満足とか、ドキッとなんかしてないし!」
「……」
「してないしぃ!!」
 二人の言い合い(?)は、暫く続いたのだった。

Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:ミサ・フルール
呼び名:ミサ
  名前:エミリオ・シュトルツ
呼び名:エミリオ

 

名前:クラリス
呼び名:クラリス
  名前:ソルティ
呼び名:ソル・ソルティ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月21日
出発日 01月26日 00:00
予定納品日 02月05日

参加者

会議室

  • [10]名生 佳代

    2015/01/25-23:44 

    はーい!
    あたいたちもプラン提出完了だしぃ!
    宏介がちゃんと王子様できるか楽しみだしぃ!

  • [9]日向 悠夜

    2015/01/25-23:20 

  • [8]日向 悠夜

    2015/01/25-23:19 

    挨拶がぎりぎりになってごめんね。
    日向 悠夜です。

    私たちも水鉄砲ゾーンを選びました。
    本当に、ぎりぎりになっちゃったね…みんな、

  • [7]吉坂心優音

    2015/01/25-21:57 

  • [6]クラリス

    2015/01/24-19:23 

  • [5]クラリス

    2015/01/24-19:22 

    皆さんこんばんはっ、クラリスよ
    パートナーのソルティと参加するわ

    せっかくの機会だからソルティには囚われてもらうつもりよ(ニコォ)
    そうねー…あたしは『水鉄砲ゾーン』にしようかしら
    ふふふっ、楽しみましょーねっ!

  • [4]ミサ・フルール

    2015/01/24-13:53 

  • [3]ミサ・フルール

    2015/01/24-13:53 

    こんにちは!
    相方のエミリオさんと一緒に参加するミサ・フルールです、よろしくお願いしますー。
    私のところは「坂道ゾーン」に挑戦するよ。
    ではでは、お互い素敵な時間になることを祈って、

  • [2]名生 佳代

    2015/01/24-10:23 

    おほほほ、皆様はじめまして。
    わたくし、名生佳代と申しますわ。
    当然わたくしが囚われる側で参加させていただきますわ。
    今回、宏介様にはぜひともかっこ良く救出してもらいたいものですわ。
    ってな訳で、よろしくだし…よろしくお願い致しますわ!

    「パートナーの花木宏介だ。よろしく頼む。
    おい、おい、佳代め、いつも以上にノリノリだな…。嫌な予感がするぞ…。
    アトラクションは自由に選んでいいのか?
    俺は「2.飛び石ゾーン」に挑戦してみて欲しいと佳代が言っている」

  • [1]吉坂心優音

    2015/01/24-00:12 


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