【スイーツ!】想包(錘里 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●ポルタ村のスイーツフェスタ
 タブロスの近郊に位置するポルタという小さな村。
 普段は閑静なこの村、年に一度この時期だけは見違えたように姿を変えます。
 歴史ある祭典、甘い物をたくさん集めたスイーツフェスタが開催されるのです。
 タブロスや付近の町からも多数の屋台が出店されるスイーツフェスタ。
 どうぞ皆様、心ゆくまで甘い時間を楽しんで。

●『花』を告げる
 小ぢんまりとした屋台の前で、ひらりと甘い香りを漂わせる女性が微笑む。
 花告げ鳥と呼ばれる、花弁をそっと忍ばせる習性を持つ鳥の生息する公園からの出店だった。
 彼女の身を包むのは、公園で花告げ鳥を誘うために纏われている、淡い色の浴衣のような、花衣。
 袖に仕込んだ蜜がほのかに香るそれをそっと翻し、女性は通りかかる人々に包みを差し出した。
 紙で折られた巾着のような形のそれは、口の部分が羽のように折り込まれており、今にもふんわりと飛んでいきそうだった。
「出張版花告げ鳥、『花包』です」
 微笑む女性の言うには、包みの中は花弁の砂糖漬けだそう。
 ふくよかな毛の中に花びらを潜ませる花告げ鳥の修正をモチーフに、まぁるく折られた紙巾着の中身は、開いてみるまで判らない。
 それもまた、ひっそりと袖の中に花弁を残して飛び去る花告げ鳥と同様で。
「花弁の持つ花言葉で、お二人の関係を占う事が出来ますよ」
 例えば「幸福」、例えば「迷い」。数多ある言葉は、とても曖昧だけれど、だからこそその意味に思い馳せる事で、見つめ直せる関係もあるかもしれない。
 二人で選んで一つを買うもよし、一つずつ買って贈り合うもよし。自分で食べる用にも、明日のお茶菓子の準備にと購入するのも良い。
 だけれどどんな場合でも、パートナーの事を思い描いて選ぶことを、推奨する。
 思い馳せながら悩んだ指先が、きっと、自分と相手に見合う花を選んでくれるから。

解説

費用について:
花包一つ150jr
お一人様一つを推奨しますが、幾つ購入して頂いても構いません
その場合は、花言葉占いは幾つもの言葉を足して解釈して頂くと良いでしょう。

お持ち帰りして頂く事も可能ですが、暖かい紅茶(一杯50jr)も同時に販売しておりますので、
近くのベンチでのんびりと楽しむことも可能です。

花包について:
包みの中身をお任せして頂いても構いませんし、指定して頂いても構いません。
また同様に、花言葉をお任せして頂いても、指定して頂いても構いません。

お任せの場合は錘里的解釈を多大に含みつつ、お二人に合うと思う花を選ばせて頂きます。

ゲームマスターより

巴めろGM主催【スイーツ!】連動エピとなります。
どなたさまも、甘いひと時をお過ごしいただけますように。

花告げ鳥の詳細に関しては知らなくても問題ありません。
興味のある方は拙作『花纏』をご参照ください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)

  以前花告げ鳥の話を聞いた時、ラキアが好きそうだって思った。
今回のフェスタでの出会いは偶然だけど、今回出会えてとても嬉しいぜ。この出会いが何か素敵な未来とか暗示してくれそうじゃん?
『花包』はオレとラキアと一つずつ、合わせて2つ頂戴しよう。
一個ずつ貰って、お互いそれを交換し合ってから、開けてみるんだ。
貰う時には、オレがラキアをとても大切にしているって念じつつ貰う!
どんな花の砂糖漬けが出てくるか楽しみだなぁ。
砂糖漬けになった花弁は元々どんな花だとか、花言葉だとか。オレ、よく判んないんで!
花の解説や花言葉とかで占いの結果をひも解くのはラキアに頼むぜ。
紅茶飲みながらその話をベンチに座ってゆっくり聞こう。



ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
  花包は一つ
中身等お任せ

普段着でドーナツを食べながらサーシャと出店を巡る
途中、甘い香りに釣られて屋台へ
袖から香る蜜と鳥に顔には極力出さないが興味津々

占いは信じてないが最近サーシャの所為で調子を狂わされる事が多いので、
今後平静を保てる様な参考になる結果が出るかもと占ってもらう
どんな花弁が出るか気になるが中を見るのに少し躊躇
向日葵の花弁でない事を祈る
歩きながら花包について話す

・アーノ→サーシャ
利害一致してる相棒に近しき協力者
全てのオーガを倒す為の力が必要だったから
…の筈が最近は微妙に心情変化
恋愛感情ではなく必要だから傍に置いておきたい存在
失うものはもうないと思っていたのに”また”誰かを失うのが怖い



アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
  神人・精霊ともに包の中身、花言葉はお任せします

賑やかな祭りの雰囲気に楽しそうに辺りをきょろきょろ
はぐれないように軽く背中を掴んでいる

肩をつつかれ視線を花包の屋台に向け
説明を聞いて照れ笑い
一人一つずつ買う

互いを想いながら選ぶんだって
なんだか照れくさいな

(クレミーは、月みたいだなって思う
静かで、綺麗で、不安な夜も照らしてくれる

でもなんか、満ち欠けて見えるとか、自力で光ってないとかは
「自分は自分」って事で全く悩んでないっぽいよな

ほんの少しでも、俺を頼ってくれると嬉しいな
俺はいつでも月の光に癒されているんだから)

はい、クレミー。
俺からの『ラブレター』だよ。
うん?変なのが出たら笑えばいいんじゃないかな



鳥飼(鴉)
  花占い、素敵ですね。(にっこり

では、1つ……いえ、2つにしますね。
(相手、というと鴉さんのことですよね?
鴉さんと楽しく過ごすにはどうすればいいのか知りたいです。今でも十分楽しいですけど。
もっと楽しくなるといいなって)

やっぱり、出店のものはその場で。
ということで、紅茶もいただいて少し休みましょう。
鴉さん、いいですか?

鴉さんも、細いじゃないですか。
食べきれないときは、明日のお茶請けにしますから。(微笑み
1つより、2つの方が解釈の幅が出て楽しいかなと思ったんです。

ふふ。砂糖漬けだから、やっぱり甘いですね。

そうだ。鴉さん。
今度、僕の家に来ませんか?

家族が、鴉さんに一度会ってみたいと言ってるんですけど。



暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
  アドリブ大歓迎
花包(150jr):全てお任せ
紅茶(50jr)

僕たちの関係、ですか…?
占いに頼るほど困ってないと思いますが…
先生がそういうなら一つずつ頂きましょうか

花には詳しくないのですが、この花弁は何の花でしょうか?

(花言葉を聞いて意味を考える)
僕は先生とどういう関係になりたいのだろう
(周りの人を見渡して)家族、友人、相棒……恋人?
先生のことは好きだけど、でもそれはそういう意味じゃないし…
そもそも僕は先生のこと、まだ何も知らないのかもしれない
…先生は僕の事どう思っているんだろう…?

そう、ですね
僕も…一緒にいられて嬉しいです
ですから、これからも宜しくお願いします



●想い合う甘さ
「ラキア見ろよ!」
 ぐいぐいと腕を引くセイリュー・グラシアに素直に連れられたラキア・ジェイドバインは、屋台の前に訪れて、あ、と小さく声を上げた。
「花告げ鳥だ」
「だよな」
 にこにこと嬉しそうなセイリューを見て、ラキアは顔を綻ばせた。
 花告げ鳥が生息する公園の話は、以前に聞いたことがあった。その時は都合がつかず赴く事が出来なかったが、自然と、何より花木を好むラキアが好きそうな話だったと、セイリューはずっと思っていたのだ。
「このデフォルメの鳥、それっぽいって思って話聞いてみたら大当たりでさ。なぁラキア、買っていこうぜ。この出会いが何か素敵な未来とか暗示してくれそうじゃん?」
 品物の端っこに飾られた花告げ鳥のイラストを示しながら笑いかけてくるセイリューに、ラキアは素直に頷く。
「一つずつ、選んで貰えますか?」
 屋台の女性に声をかけて、笑顔で頷いた彼女が無作為に取り上げる花包を受け取る。
「よし、ラキア、交換だ」
 紅茶の入った蓋つき紙コップも一つずつ受け取って、ベンチに腰掛けたセイリューは、ラキアの前に花包を差し出し告げる。
 互いに、互いを思いながら、鳥を模した包みを交換する。
「どんな花の砂糖漬けが出てくるか楽しみだなぁ」
 ふわりと開く羽。セイリューが開いた巾着のような箱の中には、紫と赤の花弁が入っていた。
 何となく高貴な色合い。砂糖に浸されたそれは、あまり植物に詳しくないセイリューには、元が何なのか判らなくて。一つ摘まんでひょいと口に入れてから、隣のラキアを見た。
 ラキアの手元にある花は、何だか見覚えがある気がした。
 だけれどそれよりも、それを見つめるラキアの顔が、何だか幸せそうなのに、気が付いた。
「……ラキア?」
「あ……ごめんね、何の花か、分からないよね。見せて」
 幸せそうな顔のまま、ラキアはセイリューの花を確かめて、ふふ、と小さく笑う。
 彼ばかりが理解しているのが何だか狡くて、少しだけ唇を尖らせて結果をねだれば、ラキアはそれぞれの砂糖漬けを一つずつ、自分とセイリューの紅茶に入れながら、説明する。
「セイリューのは、ストックだね。花言葉は、豊かな愛とか、平和、見つめる未来……かな」
 ――それから、永遠の恋。
 仄かに甘くなった紅茶を飲んで、敢えて言葉も一緒に閉じ込めたラキアは、嬉しそうに語る。
「セイリューと出会ってから毎日が楽しい。自分でも驚くくらい。これからも驚きの日々が続きそうって、考えてたからかな」
「なるほど、見つめる未来……ラキアとの未来がそんな風になったら、俺も嬉しいな!」
 朗らかに笑うセイリューも、ラキアの籠めた思いの甘さを味わうように、紅茶を一口。
 ほっと一息ついてから、それで、と、続きを促す。
「俺が、渡したやつは?」
 問えば、ラキアはまた、嬉しそうに笑って、花を一つ、手にした。
「これは、コスモスだよ」
 とてもメジャーな花だ。だから見たことがあるのか、と、セイリューはまじまじと花を見つめた。
 その花が、ラキアの微笑んだ口元に添えられ、ぱくり、口に含まれるまでを見つめてから、今度はほんのりと頬の染まったラキアの顔を、見つめる。
「花言葉はね、調和、真心……純真な愛情」
 ゆっくりと告げられる言葉に、ぱちぱち、瞳を数度瞬かせたセイリューは、少し照れたように頬を掻いた。
「それで、その顔かー……」
「だって、嬉しいじゃない」
「オレがラキアをとても大切にしているって、その思いが伝わったみたいだな」
 顔を見合わせて、また笑って。
 砂糖を孕んだ花弁を、その甘い味のまま、楽しむのであった。

●含み合う甘さ
 スイーツフェスタを楽しんでいたジルヴェール・シフォンは、偶然通りかかった屋台に並べられた鳥のような包を見て、あら、と声を上げる。
「可愛らしい」
 立ち止まって一つ手に取るジルヴェールを横目に、暁 千尋はこれが何なのかを店員に尋ねた。
 中身は花の砂糖漬け。だが、モチーフにした花告げ鳥という鳥の習性や、その鳥が運ぶ花が花占いに使われる話などを聞いて、ほんの少しだけ難しい顔をした。
「僕達の関係、ですか……? 占いに頼るほど困ってないと思いますが……」
「あら、こういうのは一種のお遊びみたいなものよ。深く考えずに楽しみましょう?」
 先生がそう言うならと促しに頷いた千尋は、深く考えずにと言われたが、じ、と真剣な顔をして花包を選ぶ。
 真面目ねぇ、と。心の中で微笑ましげに笑んだジルヴェールは、どれにしようかと楽しげに悩んだが、最終的には直感に従って、先程拾い上げた包みを選ぶ。
 一つと一つをそれぞれ手にして、ついでに紅茶も購入すると、ベンチに腰を下ろした。
 どこか恐る恐る包みを開いた千尋は、じっ、と己とジルヴェールの花を見つめて、首を傾げる。
 包みの中の赤と白は、千尋にとっては見慣れないものだったが、ジルヴェールのものは、見覚えがある気がした。
「先生のは、パンジーですか……? 花には詳しくないのですが、僕の花弁は何の花でしょうか?」
「この大きさだったら、ヴィオラの方ね。パンジーはもう一回り大きいものを指すのよ」
「そうなんですか? それで、その……花言葉は……」
 占いに頼る程困っては無いけれど、目の前に示唆する言葉が見えるのは気になるのだろう。少し躊躇いがちに尋ねてくる千尋に、ジルヴェールは記憶をたどりながら、頷き答えた。
「ワタシの、ヴィオラの方は、誠実、信頼……乙女チックなのだと少女の恋、とかね。チヒロちゃんの方は……信じた愛、恋の予感、暖かい心……辺りが一般的かしら?」
「……恋の、予感」
「意外と当たってるのかしら?」
 少なくとも、ワタシのは。付け加えて、ジルヴェールは一つ摘まんで口にする。
 示された誠実の言葉が千尋に良く似合うと思うためか、普段口にする砂糖の味わいとは違ったものを感じる気がした。
「こういうのも楽しいわね」
 ふふ、と笑みを零したジルヴェールだが、求めたつもりの同意は、返ってこない。
 ちらりと千尋を見やれば、自分の花をじっと見つめて真面目な顔をしていた。
(あら、チヒロちゃんってば真面目に考えてる……? でもワタシの事を考えてくれてるのなら嬉しいかしら)
 微笑ましさを含んだ表情には、千尋は気づいていない。
 気付かないまま、考えた。
(僕は先生とどういう関係になりたいのだろう)
 家族、友人、相棒……恋人?
 フェスタには沢山の人がいる。今挙げたような関係性の人達も。彼らと同じようになりたいのか。また違うものになりたいのか。千尋には、俄かに答えの出るものではなかった。
(先生のことは好きだけど、でもそれはそういう意味じゃないし……)
 それ、以前に。千尋はジルヴェールの事を、何も知らない気がした。
 誠実と信頼を、「当たっている」と称したジルヴェールは、千尋を、どう思っているのだろう。
「チヒロちゃん」
 不意にかけられた声に、思考が途切れる。
 はっとして顔をあげれば、かすかに苦笑を浮かべたジルヴェールと目が合った。
「占いは当たるも八卦、当たらぬも八卦。そんなに難しく考えなくてもいいのよ」
 諭すような声で、ね、と小首を傾げて。大切なのは「今」だと告げる。
「こうして一緒にいられるだけでワタシは嬉しいわ」
 綺麗な微笑を、見つめて、見つめて。
「そう、ですね……僕も…一緒にいられて嬉しいです」
 真面目な顔は、変わらないまま。千尋も穏やかに微笑む。
「ですから、これからも宜しくお願いします」
「はい、こちらこそ」
 何かの切欠になるかもしれない今日は。
 何を変える事もないのかもしれないけれど。

●癒し合う甘さ
 スイーツフェスタの賑やかな人通りの中を、クレメンス・ヴァイスがすいすいと通り抜けていくのを、アレックス――アレクサンドル・リシャールはきょろきょろしながらついていく。
 はぐれないようにと背に添えられた指先が、歩調を変える度に引かれたり緩んだりするのを、クレメンスは小さく微笑みながら感じていた。
 人混みは少し苦手だ。賑やかなのも同様に。だから、背に触れる指先だけを感じて、歩いた。
 ――その視線が、一つの屋台を見止め、風流な装いに足が止まる。
 とんとん。アレックスの肩をつついて視線を促せば、クレメンスの視線を追うようにして、屋台を見つける。
 鳥を模した包み。閉じ込められた花の砂糖漬けは、二人の関係を占うものに。
 屋台の女性が説明してくれるのを聞いて、クレメンスとアレックスは思わず顔を見合わせ、照れくさそうに笑った。
 互いを思い合いながら選んでください。促す言葉に、クレメンスはアレックスを横目に見つめてから、花包に向き直る。
(アレクスは御天道様みたいや、思う)
 いつでも、誰にでも変わらず明るい笑顔を向けて、暖めてくれる人。
 クレメンスにも向けられるそれは、クレメンスにだけ向けられるわけではない。
 だけれど、だからこそ、彼は決して閉じ込めては置けない人。
 せめて時折、日蝕と称して、独占するしかない。
 ふうわり。滑るようなクレメンスの指先が、不意に羽根の一つを撫でて、止まる。
 選びあげたクレメンスの隣では、アレックスが同じように視線と指を迷わせ、悩んでいた。
 思い描くのは勿論、クレメンスの姿。
(クレミーは、月みたいだなって思う)
 静かで、綺麗で、不安な夜も照らしてくれる。
 足元が優しく照らされる心地は、安心して進むことのできる、指針。
 だけれど、月が満ち欠けて見えるとか、自力では光ってないとか、時折聞こえてきそうなマイナスなイメージは、感じない。
 自分は自分と割り切って、悩むことの内容に見えるクレメンスが、ほんの少しでも頼ってきてくれると嬉しいと、アレックスは思う。
(俺はいつでも月の光に癒されているんだから)
 願うような想いを湛えた視線が、包の一つで止まる。何故だか、ぼんやりと光って見えた気がして。
 ぱちくりとしてから、そっと手に取って。アレックスは、緩やかに笑みを浮かべた。
 紅茶を二つ購入していたクレメンスがベンチに誘ってくるのに従って、腰を落ち着けたところで、アレックスは自身が購入した分をクレメンスに差し出した。
「はい、クレミー。俺からの『ラブレター』だよ」
 その切り出しと、包みを。クレメンスは真顔で受け止めた。
 それから、そっと朱の差した顔を背けて、こほん、と気持ちを落ち着けようとするかのように小さな咳ばらいをした。
「ほんまに思い切りのええお人やねぇ。どないなもんが出るか、判らへんのに」
「うん? 変なのが出たら笑えばいいんじゃないかな」
 それもそうだと頷いて、クレメンスもまた自分の包みを差し出した。
 互いに互いの選んだ包みを開いて、眺める。
 砂糖漬けは本来の花の形を少しおぼろげにしたが、判らないほどではなく。
 確かめ合いながら、示された言葉の意味を、考える。
 アレックスの手元に渡ったのは、ボリジ。
 そしてクレメンスの手に渡ったのは、ペチュニアだった。
「……無遠慮?」
「や、違う。違う。安息ちゅう言葉もあるんよ? あたしは……」
 言いかけて、口を噤んで。少し悪戯気なアレックスの目が、続きを促すのを見やってから、小さく続ける。
「あたしは、アレクスと居ると、落ち着くし」
 ぷいと照れくさそうにそっぽを向いてしまったクレメンスを嬉しそうに見つめて、アレックスはクレメンスに送った『ラブレター』を読み上げる。
「『あなたと一緒にいると心から和らぐ』」
 今日という一日も、今までの時間も。
 きっと、これからも。
 確信した顔をするアレックスを、ちらり、見て。クレメンスは大切そうに花弁を摘まんだ。
「確かに『想いを籠めた』言葉やし……恋文は言い得て妙やね」
 食めば、想いの味がしそうな赤の花。
 指先の熱で砂糖が解けるまで見つめてから、その甘さを、互いに湧いた安らぎと共に受け入れるのであった。

●認め合う甘さ
 屋台の前で立ち止まり、頷きながら説明を聞いた鳥飼は、うん、と最後にもう一つ呟いてから、店員に微笑んだ。
「花占い、素敵ですね」
 そんな台詞に、隣で同じものを眺めていた鴉も頷く。
「随分と見た目にも力を入れていますね。件の鳥も、似た様な見た目をしているのでしょうか」
 飾り置かれているデフォルメのイラストは、花包に似ていると言えば似ているし、似ていないと言えば似ていない。折り鶴と同じような物だろうか。
「では、一つ……いえ、二つにしますね」
「……私は一つで結構です」
 何故二つ、と言いかけたが、主殿の思う所があるのだろうと納得して、包みに視線を戻す。
 お互いの事を想いながら選ぶと良い。告げられた通り、鳥飼は鴉のことを思いながら、眺める。
(鴉さんと楽しく過ごすにはどうすればいいのか知りたいです)
 今でも、十分楽しいけれど。もっと楽しくなると良い。人間的な素直な欲求が、とん、と鳥飼の指を導き一つを選ぶ。
 もう一つ、は。迷わせた鳥飼の視線が、包みを選ぶ鴉の指先を見つける。
 悩むような気配はないけれど、彼もまた、自分の事を考えながら選んでくれているのだろうか。
 彼はきっと、考えていても曖昧な返事だけしかしてくれないだろうけれど。
 すとん。と。鳥飼の指が一つの包みに落ちる。決めた、と取り上げれば、鴉もまた、一つを選び終えていた。
 目が合うのを確かめて、にこり、微笑みかける。
 出店の物はその場で食べようと誘う鳥飼に、構わないと頷いた鴉は、紅茶の代金も含めた支払いを済ませる。
 そんな鴉に礼を述べ、ベンチに着くと、鳥飼は早速二つの包みに手をかけた。
「二つも食べるのですか? ……まぁ、主殿は細いので、体重を増やすのは良い事だと思いますよ」
「鴉さんも細いじゃないですか。一つより、二つの方が解釈の幅が出て楽しいかなと思ったんです。食べきれないときは、明日のお茶請けにしますから」
「糖尿病には注意するように」
 言いながら、自身の包みに手をかけた鴉は、選んだ時と同様に、ちらと盗み見た鳥飼の事を、思う。
(主殿に対してどう接していくべきなのか。運に任せるのも偶にはいいでしょう)
 当然、従うかどうかは別の話だけれど。
 はらり、開いた鴉の包みから現れたのは、青みが強い紫色の花。
 特別花に詳しいわけでもない鴉は、首を傾げてから、鳥飼の方を確かめるように見た。
 一つは、オレンジ。そしてもう一つは紫の……ラベンダーだった。
 三つの内二つが馴染みの薄い花とあって、詳しそうな店員に尋ねれば、笑顔で回答を貰う。
「青紫の方は、トレニアですね。花言葉は、温和、愛嬌……魅力的な貴方とかが良く聞かれます」
 店員の告げる言葉を一つ一つ反芻して、鴉は何となく納得したような顔で頷いた。
「こちらのオレンジの花は、ナスタチウム。オレンジ色のは有能な人という言葉が選ばれますね」
「有能な人……」
「ちなみにラベンダーは優美、期待、貴方を待っていますなどですね」
 なるほど、と呟いて、礼を述べた鳥飼達は、再びベンチに腰を落ち着けると、改めて砂糖漬けの花を口にした。
「砂糖漬けだから、やっぱり甘いですね」
 にこにこと楽しそうに砂糖漬けを味わう鳥飼をちらりと見て、鴉は小さく肩を竦めた。
(何に対しても楽しそうな事で)
 そう言う所が、きっと『魅力的』なのだろう。そうと感じる自覚は、鴉にはまだ薄かったが。
「そうだ。鴉さん。今度、僕の家に来ませんか?」
 唐突な申し出に、鴉は珍しく不思議そうな顔で鳥飼を見つめた。
「それはどういった意味でおっしゃられているので?」
「家族が、鴉さんに一度会ってみたいと言ってるんですけど」
 いけませんか、と、素直に尋ねる感情で首を傾げた鳥飼を、やはり見つめて、鴉はゆっくりと思案する。
(主殿の家族……。家系的に掴めない血筋という事はないでしょうね)
 性格は環境に由来する。可能性は、無きにしも非ずだった。
「機会があれば」
 曖昧に答えて目を逸らした鴉の回答を、鳥飼は好意的に受け止める。
「『期待』してますね」

●求め合う甘さ
 出張版『まんまる堂』で購入したドーナツを食べながら、ヴァレリアーノ・アレンスキーはパートナーのアレクサンドルと共に出店を回る。
 甘い香りが幾つも漂う中、ヴァレリアーノの鼻腔を掠め、意識を引いたのはふうわりと翻る袖から香る甘さだった。
 興味のままに店員に尋ねれば、花言葉による関係性の占いとのこと。それにほんの少し眉を顰めたのは、ヴァレリアーノが占いを信じていないから。
 だが、嫌悪するわけでもないそれは、たまに試すならば悪くはないものだ。
(最近、サーシャの所為で調子を狂わされることも多いしな……)
 今後平静を保てる様な参考になる結果が出るかもしれない。思いつつ、少し真面目な顔で並べられた花包に向き合った。
 と。
「アーノ。折角だからお互いに一つずつ買って、交換しないか」
 唐突に降らされた、提案。
 その台詞に、アレクサンドルを見上げたヴァレリアーノは、ふむ、と思案する。
「相手を思い合って渡す花包から、何が現れるか。興味はないかね」
「……そう、だな。ああ、そうしよう」
 思案を、して。頷いたヴァレリアーノは、するりと外した視線で、花包を選ぶ。
 選びながら、改めて、アレクサンドルという精霊の事を、考える。
 彼は、利害が一致している協力者だ。相棒という言葉が、近いのかもしれない。全てのオーガを倒すために、精霊の力は必要不可欠で、行動を共にするのはウィンクルムとしての責務の範囲内だった。
 ――だった。
(いま、は……?)
 その認識が少し変わったと、ヴァレリアーノは自覚していた。
 強くなるためには傍に居なければならなかった。
 それ以上に、傍に、置いてきたいと思うようになった。
(居て、欲しい――)
 願う感情の裏側には、切望があった。
 何かを得る事で生まれる、失う事への恐怖。
 ふるりと震えた指を誤魔化すように、包みを一つ取り上げる。アレクサンドルに差し出せば、やや間を置いて、彼からも包みを渡された。
 さらりと開いて中身を確かめるアレクサンドルを横目に見てから、ヴァレリアーノは少しの躊躇いを覚えながら、包みを開く。
 ちらり、覗いた黄色い花弁。その色に、一瞬連想した花は向日葵で。ヴァレリアーノは否定するように思い切って包みを開けた。
「パンジー、か……?」
 少しの黒を包むような、黄色を含んだ色取り取り。
 安堵したようなヴァレリアーノを覗き込むようにしてきたアレクサンドルは、ふむ、と呟いた。
「物想い……転じて、私を思ってなども聞くようだ」
「……思ってほしいのか」
「欲しくないわけも、あるまい?」
 何せパートナーだ。付け加えたアレクサンドルの台詞に、ヴァレリアーノはかすかに訝る目を剥けたが、納得したように頷く。
 そうしてから、サーシャのは、と尋ねた。
「カレンデュラだったな」
「花言葉、は?」
「美しい姿、別れを惜しむなどを、聞くがね」
 回答に、ぴくりとヴァレリアーノの表情がかすかに歪む。
 それには気付いていたが、気付かぬ素振りで。アレクサンドルは微笑んでヴァレリアーノを見つめる。
「惜しまれるとは、嬉しいものだな」
 微笑みながら、アレクサンドルは思案した。
 ヴァレリアーノが選んだ花は、彼が表情を歪めたとおりの感情を宿しているのだろう。
 『別れの悲しみ』。別れることに、惜しむ以上の悲嘆を、感じているのだろうと、アレクサンドルは推察する。
 そして、アレクサンドルもまた、ヴァレリアーノに対して、明らかにしていない感情が、あった。
(私を思って、などとは、随分と和らいで伝わったものだ)
 保護対象から始まった関係は、いつしか独占欲にまで膨れていた。
 ヴァレリアーノ一人が居ればいい。それだけで、敵に対峙する力は維持できるのだから。
 歪んだ執着を、アレクサンドルは自覚できるはずだった。
 だけれど、見て見ぬふりをする事を、選んでいた。
(我の渇きはこの手で敵を殺める事でしか癒されぬ……筈なのだが)
 失うことを恐れる小さな少年の存在が、アレクサンドルの心に変化をもたらしていた。
 互いが互いの内側に干渉し合う存在。
 それは、決して微笑ましいものではなかったけれど。
「甘い、な」
 砂糖の花は、ただ、ただ、甘かった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月20日
出発日 01月28日 00:00
予定納品日 02月07日

参加者

会議室

  • プランの提出は出来てる!
    皆、より素敵なひと時が過ごせますように!

  • >セイリュー
    連絡有難い、同様に確認済だ。
    アレクサンドル達の文字数が圧迫されずに済んでほっとしている。
    改めてマスター様にも礼を。

    俺のところも既に愛称で呼んでいるから難しいが、
    愛称になるシチュエーションが出来るのは興味深い。
    その呼び方で呼び合っているアレクサンドル達を見るのは面白そうだ。<ダーリン・ハニー

  • >セイリュー
    ありがとう、確認してきた。

    今回はご厚意に甘えさせて頂こうと思う。
    ありがとうございます。
    (マスター様によって対応は違うと思うので)


    それにしても、うちはもう愛称で呼び合ってるからできないけど、
    今まで「○○さん」って呼んでいたのが愛称になるとか
    確かにちょっとにやにやできそうなシチュエーションだよな。
    ダーリン・ハニー的な呼び方とか?
    ……だめだ、殴られるか、逃げるかされそうだ。

  • セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
    今回もヨロシク!
    花告鳥は前回参加したかったけど出来なかったので。
    今回の『花包』には超期待!
    もうワクワクが止まらない!
    お任せがいいかなってオレ達も思っている。

    --業務連絡--
    同名のPCさん複数参加時に関して。
    GM情報ページにてMSさまの対応記載があるようです。
    皆さま、一度ご確認を。

  • [4]暁 千尋

    2015/01/24-23:51 

    暁千尋です。
    僕達も花包はお任せする予定です。
    楽しみね、とジル先生が言ってました。
    宜しくお願い致します。

  • [3]鳥飼

    2015/01/24-14:53 

    僕は鳥飼と呼ばれています。
    こちらは鴉さん。(精霊を示す
    どうぞよろしくお願いしますね。(にこり

    どんな花弁が入っているのか楽しみです。

  • Добрый вечер、ヴァレリアーノ・アレンスキーだ。
    花包は俺達も全てお任せにする予定だ。
    もしばったり出会ったらその時は宜しく頼む。

    >アレクサンドル
    アレクサンドル達は初めましてだな、改めて宜しく。
    …俺の精霊と同じ名前で妙に親近感が沸いてしまったのは秘密だ。
    あと呼び方の件、配慮してもらってすまない。礼を言う。

  • アレックスと、相方のクレメンスだ。よろしくな。
    面白そうだから、花は全部お任せにしてみようかなって思ってる。


    >ヴァレリアーノ
    おっと、俺と君の相棒が同じ名前なんだな。
    他の人が紛らわしいだろうから、(マスター様に)俺の事は「アレックス」か「リシャール」と(地の文でも)呼んで貰うようにお願いしておくよ。


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