【メルヘン】甘色ラッピング(錘里 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 バレンタイン地方に、ブレーダーマンのお菓子工場というチョコレートのお菓子をメインに製造している工場があるそうな。
 普段からも申し込みをすれば試食し放題の工場見学が可能ではあるが、今回はバレンタイン領の王子の一人である少年、ヘイドリックからの紹介で赴く事になった。
 曰く、
「バレンタイン領の中でも、特に甘くて素敵な場所なので……この機会に、ウィンクルムの皆さんにご紹介できればと思ったんです」
 とのこと。領内に瘴気が満ち始めている中、甘いお出かけを提供することで、王子として少しでも瘴気を払う手伝いが出来ればという思いもあるのだろう。
 14の少年の頑張りを微笑ましく思いながら、ウィンクルム達は楽しく工場見学をしていた。

 が。

 ひ、ふ、み――。
 幾ら数えても、最初に訪れた時よりも人数が足りない。明らかにあからさまにどう見ても足りない。
 具体的には半分になっている。
「……迷子、ですかね」
 見学の際、とてもとても広いですから迷子にならないでくださいね! と念押しされたのを思い出し、やれやれと誰かが溜息をついた。
 仕方ない、呼び出し設備のようなものはあるだろうかと踵を返しかけたところで、工場のスタッフが駆けつけてきた。
「あぁ、居た居た。工場見学の人達だろう? ちょっとうっかりしてしまって、お連れさんがお菓子と一緒にラッピングされてしまったんだ」
 ……なんですと?
「あ、大丈夫大丈夫、怪我とかする状況じゃないから。ちょっとチョコレート菓子と一緒にでかい袋に入ってたりリボンで括られてるだけだから」
 それはそれで面白い……じゃなくて、大変だ。
 出荷ラインからは降ろして貰っているそうなので、一先ず迎えに行くとしよう。

「またはぐれるのも困るだろうし、繋ぐ用のリボンでも、貸してあげようか? 台車の方がいい?」
 ――それは、パートナーとの相談のうえ、だろう。

解説

パートナーがラッピングされてしまいました
幸い袋やリボン等の簡易ラッピングだったので救出は容易です
神人さんか精霊さん、どちらがラッピングされるかをご指定下さい
また、ラッピングの状態もプランにてご指定いただいても構いません
していない場合でも、自力では脱出できないけどちょっと手伝えばすぐ出られる感じになります

・あまーいチョコレート菓子の香りが染みついたパートナーを救出して工場見学再開
・パートナーを救出しないまま工場見学再開(台車使用)

パートナー迎えに行くつもりがうっかりお菓子に気が行っちゃって後回しになっちゃったてへぺろ☆
も可能ですが、ちゃんとフォローしてあげて下さいね

なお、迷子防止のリボンも貸し出しできますが良識の範囲内でのご使用をお願いします

工場見学費用としてウィンクルム一組に付き500jr頂戴いたします

ゲームマスターより

別にリボンで繋がれたウィンクルムが見たいとか
私がプレゼント状態になった神人さんや精霊さんにによによしたいとか
そんなんじゃないんだからね!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

木之下若葉(アクア・グレイ)

  工場見学していて気付いたら梱包されていたんだよね
お店の棚に飾られているプレゼントになった気分だったよ
ん。出荷されなくてよかったよかった

おや、半分しか解いてくれないの
…成程。もう一度梱包されるのを防ぐため、か
流石にもう不用意に機械に近づいたりはしないよ。多分

でも、これはこれで楽しいかも。だね
運転手さん、安全運転でお願いしますだよ

お菓子が沢山
これが全部いろんな場所へ向かうんだね
ん。俺そんなに甘い香りする?
アクアは…確かにそんなに甘い香りはしないね
そうだね。近いからかも

はい、アクアこっち向いて
香りだけだとお腹すいちゃうから
一緒に梱包されちゃったチョコレートおすそわけ
大丈夫。踏んでは無いからさ



スウィン(イルド)
  ちょっと、誰かいないの~?!(もぞもぞ)あら、イルド…
お、おっさんがプレゼント~☆なんちゃって
(ふざけて、迷子になった事や
ラッピングされてしまった事を誤魔化す)
待って!見捨てないで!ふぅ、助かったわ。ありがとね
この工場、自動でラッピングされるのねぇ。びっくりしたわ
あんまり動いたら一緒に入ってたお菓子が潰れちゃいそうで
自分で脱出できなかったのよ
というかあのリボンは何?!どういう結びなの?!
人間だとああなっちゃうの?!
(喋りながら二人の手首を器用にリボンで繋ぎ)
ん?ほら、今度はイルドが迷子になっちゃったら困るし
ふふ、はいはい
じゃあまたおっさんが迷子になっちゃったら困るから、ね?
見学再開しましょ♪



柊崎 直香(ゼク=ファル)
  工場見学って社会科見学の響きを思い出して敬遠しがちだけど
お菓子ばっかりなのは楽しくていいね

それでゼク先生
いったい僕にどんな知識を与えるおつもりですか?

あなたに聞いてるんですよ
リボンまみれで出荷待ちのディアボロさん?

……ゼクってば意外に大胆だね
プレゼントは俺だから優しく食べてねっていうやつ?
返品きくかな。クーリングオフだっけ

それは冗談としてちゃんと引き取るよ
首に迷子札付けとこう
お。本気で反省してる? 心にもないフォロー要る?
ダイジョブ、キミ、キュートね。オケオケ

リボンは解いてあげるけど
両手を括ってそこから一本長く垂らして。
僕が引っ張って歩けば……なんか連行してるみたいだね?

僕から目を離した罰だよ


大希(琥太郎)
  うわー!うわー!すっげー!
チョコレートがいっぱいだ!
あのヒーローグッズのおもちゃがついたチョコレート菓子ないかな?

★ラッピング
似たお菓子見つけて近づいたら袋に閉じ込まれちまった…
頭の上のトコ縛られてて出れねーよー!

別に暗いけど、怖くねーし…。
こ、こないだTVに出てきた怪人のコトなんて思いださねーし…
アイツが出て来たって、オ、オレがやっつけて…

う…うぅ…。コ、コタロー!!
(叫んだ瞬間、袋があけられる)

★工場見学
別にオレは怖かったわけじゃないからな!
ちょっとオマエのこと気になって呼んだだけで、このリボンもオマエの為に持つんだからな!

あ!ほらコタローあのチョコレート菓子おいしそうだぜ!!行こう!



明智珠樹(千亞)
  ふ、ふふ…!イケメン&かわいこちゃんだらけの工場見学ですね。
千亞さんのお陰で私も甘いものに詳しくなった気がします。
(楽しそうな千亞に目を細め。そして何かに気付き)
おや?
(フラッとどこかへ。ラッピングは餅巾着的な、顔だけでてる風で細部お任せ)

はっはっは、掴まってしまいました(楽しげ)
周りに人がいません、なんと素敵な放置プレ…(くしゃみ)
噂されてますね、ふふ。

おや、千亞さん。
さぁ私がプレゼントです…!
「言うと思ったよ…おまえちゃんと服とか着てるだろうな?」
残念ながら中で脱ぐことができませんでした。
「脱ぐ気だったのかド変態。急にいなくなるな」
すみません、素敵なものを見つけたので、つい。
(千亞に渡し)


●憧れを詰め込んで
 工場に入った大希の瞳は、きらきらと輝いていた。
 何せチョコレートが一杯。甘い香りに可愛らしいラッピングは少女向けのようにも見えるが、食玩等の付いたチョコレートは、少年にとってもわくわくの元なのだ。
「うわー! うわー! すっげー!」
 大好きなヒーローグッズの玩具が付いたチョコレート菓子は無いだろうか。
 そうでなくても、キャラクターを描いたお菓子なんかも、作っている所を見てみたい。
 11歳の少年がはしゃぐ様を、保護者同然のパートナー、琥太郎は微笑ましげな顔で見ていた。

 ――のが、ほんの数分前の事だ。
 琥太郎がちょっと目を離したすきに、大希はヒーローグッズの食玩に目を奪われ、ふらっと機械に近づいてしまい、ごっそりと袋に丸ごと詰め込まれてしまったのだ。
「頭の上のとこ縛られてたら出れねーよー!」
 ぼふぼふと袋の内側で暴れてみるも、きっちりと縛られている袋の口が緩む様子はない。
 布の袋であるため、息苦しい、なんてことは無いけれど。
 けれど、厚手のそれは、光を薄らとしか通してくれなくて、中は暗い。次第に、大希の勢いが薄れていった。
「別に、暗いけど、怖くねーし……こ、こないだテレビに出てきた怪人の事なんて思い出さねーし……」
 人間を浚っては怪物の生贄にしたり、洗脳して配下にしてしまったり。
 そんな怪人に苦戦を強いられるヒーローを、大希ははらはらとした心境で見つめていたのだ。
「アイツが出て来たって、オ、オレがやっつけて…」
 憧れのヒーローと同じように。
 だって、大希は今は、憧れのウィンクルムになったのだから。
 ……だけど、ウィンクルムだって一人では、なんにもできないのだ。
「う……うぅ……」
 一人きりの暗闇を急に自覚してしまって、大希の瞳が潤む。
「コ、コタロー!!」
 たまらずに叫んだ瞬間、頭上に光が差した。
 そうして覗き込んできたのは、今しがたその名を叫んだ、琥太郎だった。
「はい、コタローですよ」
 銀髪に真っ赤な瞳。鋭い顔立ちの琥太郎は、普通の子供にとっては近寄りがたく、何だか怖い大人の人。
 だけれど大希にとっては、ピンチの時に駆けつけてくれる頼もしい仲間、ヒーローブラックだ。
 幾らヒーローの格好をさせてもらしくないと思っていた琥太郎が、まるで本物のヒーローに見えて、大希は大きな瞳をぱちくりと瞬かせた。
「何て顔しているんですか。もう大丈夫。怖くないですよ」
 ひょいと抱き上げて袋から出してやれば、色んな感情で呆然としていた大希が、はっとしたように慌てて目元をぬぐった。
「別にオレは怖かったわけじゃないからな!」
「はいはい。解ってますよ」
 やんわりと宥めながら、琥太郎は大希がラッピングされていた袋を振り返る。
 何がどうなったらこんなことになるのかは判らないが、寄りにもよって、嫌がっている『イエロー』の袋に包まれているとは、何とも大希らしいと言うかなんというか。
(ふふっ……結ばれた赤いリボンがせめてもの救いですね)
 黄色に映える、真っ赤なリボン。回収していくスタッフに頼んで、同じ色の迷子防止リボンを貸してもらった。
 目を離した自分も悪いが、きっと大希はまた、懲りずに色んな物が気になって駆け出してしまうだろうから。
「大希、手を貸してください」
「うん……あ、い、言っとくけど、さっきのはちょっとオマエのこと気になって呼んだだけで、このリボンもオマエの為に持つんだからな!」
「はいはい。そうですね。私のこと気にしてくれてありがとうございます」
 少年の可愛らしい強がりは、ただただ微笑ましい。
 良し出来た、と、お互いの手首に綺麗に巻かれたリボンを琥太郎が確かめるより早く、つん、と、リボンが引っ張られる。
「あ! ほらコタローあのチョコレート菓子おいしそうだぜ!! 行こう!」
「ほら、早速飛び出してリボンビーンってなってますよ。犬みたいですね」
「コタロー! 早く行こうってば!」
「はいはい」
 駆けまわる少年を追いながら、琥太郎もまた、些細なハプニングに見舞われた工場見学をのんびりと、楽しむのであった。

●好みを包んで
「工場見学って社会科見学の響きを思い出して敬遠しがちだけど、お菓子ばっかりなのは楽しくていいね」
 くるん。体ごとターンを決めて360度工場内を見渡した柊崎 直香は、回ったついでに発見した試食のチョコを一つ摘まんで口に含むと、可愛らしく小首をかしげた。
「それでゼク先生。いったい僕にどんな知識を与えるおつもりですか?」
「……」
「あなたに聞いてるんですよ。リボンまみれで出荷待ちのディアボロさん?」
 居た堪れないレベルで沈痛な顔をしているリボンまみれで出荷待ちのディアボロこと、ゼク=ファルは、目に見えて凹んでいた。
 物理的に凹むかもしれない勢いでハートブレイクされていた。
 ゼクは思った。何がどうしてこうなったと。
 そうして、見ない・聞かない・考えないで現実逃避していた思考回路を、じわじわと記憶の回想へと振り分けた。

 甘い匂いに惹かれる。
 →よそ見して立ち止まってるところを機械に捕まった。
 →ラッピングされる。
 →解けない。
 →解けない。
 →千切れない。
 →▼ぜくは とても 凹んでいる!←いまここ

「ゼクってば意外に大胆だね。プレゼントは俺だから優しく食べてねっていうやつ?」
 チョコの付いた指をぺろりと舐めて、そのままちょこんと頬に添え、直香は首を反対にかしげる。
 うーん、困ったなぁ、という台詞がついてもおかしくない感じの仕草になった。
「返品きくかな。クーリングオフだっけ。まぁ、それは冗談としてちゃんと引き取るよ。首に迷子札付けとこう」
 窺うように、俯いたゼクの顔を覗いた直香は、ちらり、ゼクが目線を合わせてくるのを確かめる。
「お。本気で反省してる? 心にもないフォロー要る? ダイジョブ、キミ、キュートね。オケオケ」
 素敵な棒読みの片言が止めを刺してくるのに、ゼクの脳裏に過ったのは、どうして寄りにもよってこんな所見つかるんだという後悔。
 だが仕方がない。それもこれもゼクがふらふらとお菓子に釣られたせいだ。自業自得。言い聞かせて、ゼクはようやく直香を見上げた。
「わかった。俺が悪かった。呆れているのは知ってるからその口調やめろ。ついでに解いてくれ。このままでは見学どころじゃない」
「先に見学どころじゃなくされたの僕なんだけどなー?」
「悪かったから」
 言いながら、リボン結びの先端を摘まんで引っ張る直香の視線から気まずげに逸らした目で、ゼクは直香の背後に台車が用意されているのを見つける。
「……先に言っておくが、スタッフが用意したあの台車には乗らないからな? それ以外なら……譲歩する。今回は」
 今回は、と。念を押すのが、なんだかおかしかった。
 肩を竦めて、リボンをくるくると解いてやった直香だが、解きながらもゼクの両手はくるりと括って解放せず、鼻歌でも歌い出しそうな調子で、ゼクの両手にたらりと長くリードのようにリボンを結えた。
「はい、じゃあ行こうか」
「譲歩するとは言ったが」
「なんか連行してるみたいだね?」
「思うならやめ……まぁ良い。良い」
 仕方ない。仕方ない。先行する直香に連行されるような形になっているのも、仕方ない。譲歩すると言ったのだ。
「僕から目を離した罰だよ」
 つん、と前を向いてさっさと歩きだしてしまった直香に、小さくため息を零して付き従うように続いたのは、最初だけ。
 再び工場見学を始めたゼクは、リボンのことなどすっかり忘れて見学に集中していた。
 ベルトコンベアーを流れていく細工の華やかなチョコ菓子を目で追って、辛うじて使える指先で試食を摘まんで、甘い味を転がして。
 前を行く小さいものと、手首に触れる手触りの良いものと、空間を満たす甘いもの。比較的好むものを、楽しんだ。
「また、よそみして」
 つん、と。パートナーが足を止める度に少し惹かれるリボンの先端を指先でくるりと遊びながら、直香は小さく、呟いていた。

●日常を彩って
 まいったなぁ。木之下若葉は心の中で呟いた。
 言葉の割には、表情に焦りらしいものは無かったけれど。
 何せ焦った所で使用の無い話なのだ。気が付いたら梱包されていたのだから。
 もぞもぞと脱出を試みては諦めてを繰り返して、小さな吐息一つ。
 ふらふらと機械に近づいたのがいけなかった。
 でも危険を感じなかったからいいと思った。
 気が付いたら、そう、気が付いたら、袋詰めでリボンがぐるぐるだったのだ。
「お店の棚に飾られているプレゼントになった気分だったよ」
「その光景が目に浮かぶようです……」
 ほろほろと、今にも涙を零しそうなかおで、アクア・グレイはしみじみと吐き出した。
 スタッフから連絡を受けてきてみれば、己の神人はやはりいつもの通りだった。
 迎えに来たアクアを見つけてこくりと一つ頷いては順を追って丁寧に説明してくれた上にそれがあまりにも予想通り過ぎて、うっかり真顔になったりもしたアクアである。
「ん。出荷されなくてよかったよかった」
 喜んでいるらしい、かすかな笑みを浮かべた若葉の口元に、アクアも眉を下げながら苦笑して。
 ぐるぐる巻きのリボンを解いて、若葉を包む袋を外す。
 ただし、腰まで。
 腰の位置でリボンを再び巻き直すアクアを不思議そうに見ていると、どこから借りてきたのか台車を取り出して、乗せられた。
「……おや、半分しか解いてくれないの」
「はい、これでふらふらできないでしょう。二重包装回避です!」
 若葉を台車に乗せてやり遂げた顔をしているアクアを見上げて、小首を傾げて。成程、と、若葉は頷いた。
「もう一度梱包されるのを防ぐため、か。流石にもう不用意に機械に近づいたりはしないよ。多分」
「多分って言っちゃう辺りがワカバさんですよね」
 呆れたような台詞だが、先程の苦笑よりより穏やかな笑みになったアクア。ころり、台車を押し出せば、おっと、と少しふらついた若葉が後ろに凭れた。
「これはこれで楽しいかも。だね。運転手さん、安全運転でお願いしますだよ」
「ふふ、安全運転まかされました!」
 振り返って、見上げて。微笑めば、笑顔が返る。
 ゆっくりと動き出す台車にころころと揺られるのは、テーマパークでよくある遊覧系アトラクションのようで。
 ベルトコンベアーの上を流れていくお菓子の流れを追いかけたり、硝子の向こうで型抜きされているチョコを眺めたり、お菓子工場を満喫した。
「お菓子が沢山。これが全部、いろんな場所へ向かうんだね」
 自分も下手をすればその中に混ざっていたかもしれない事は、もう半分忘れている。
 ただ、幾つも幾つも作られていくお菓子が、甘い夢のようで。この夢が世界中に送られていくのが、なんだかとても素敵な事に思えた。
 アクアも同じような心地なのだろう。流れるお菓子たちを一つ一つ眺めながら若葉の言葉に相槌を打って。
 それから、流れに沿って見つめた若葉に、すん、と鼻を寄せた。
「でも、ワカバさんが一番甘い香りがする気がします」
「ん。俺そんなに甘い香りする? アクアは……確かにそんなに甘い香りはしないね」
 見上げれば、先程よりも近い位置のアクアの顔。真似るように鼻を寄せても、甘いとは、思わなかった。
「近いからでしょうか」
「そうだね。近いからかも」
 若葉が一番で、アクアがきっと二番。
 ほど近い互いの香りが漂わせるのは、心を満たすささやかな甘さ。
「はい、アクアこっち向いて」
 再び進みだそうと顔を上げたアクアの鼻先に、ひょいとチョコレートが差し出される。
「香りだけだとお腹空いちゃうから」
 差し出したのは、一緒に梱包されていたチョコレート。お裾分け、と微笑んでから、踏んではいないから大丈夫だよ、と首を傾げる。
 その一連の所作を、ぱちくりとした瞳で見つめて居たアクアは、不意にパッと笑んで、差し出されたチョコを見つめた。
「わあ、有難う御座います! ふふ、プレゼントさんからプレゼント頂いてしまいました」
 鼻先を擽る香りは、若葉から漂ったのと同じで、甘い。
 食べるのが少し勿体無いと思いながらも、アクアはチョコを食んで、転がす。
 あまいあまい工場見学は、ベルトコンベアーの流れと同じで、緩やかに緩やかに、続いて行った。

●大好きを模って
 甘い香りに満たされた工場内には、沢山のお菓子。
 右を見ても左を見てもチョコレートだらけの光景に、千亞は大きな瞳をきらきらと輝かせて視線を彷徨わせる。
「うわぁ……! なんて夢のような空間っ!」
 甘いもの好きの千亞は、試食をどうぞと勧められれば喜んで飛びついていく。
「美味しい……! 自分も楽しめて、しかも瘴気を払うお手伝いが出来るなんて、ヘイドリック王子に感謝だね」
 長い兎耳も、嬉しそうにゆらゆらと揺れる。そうして、また新しい試食コーナーを見つけては、パートナーの明智珠樹の袖を引く。
「珠樹も何か食べ……あれ?」
 袖を引いたと思ったのに、摘まんだそれはファンシーなマスコットの裾で。
 珠樹の姿は、見当たらなかった。
「……珠樹、どこ行った?」
 千亞の瞳が、ほんの少し不安げに曇る。

 その頃の珠樹はというと、可愛らしいハート柄の大きな袋の中に首だけ出して詰め込まれ、きゅっ、とこれまた可愛らしいリボンで飾られながらにこにことしていた。
「はっはっは、掴まってしまいました。周りに人が居ません、なんと素敵な放置プレっくしゅ!」
 言い切る前に盛大なくしゃみが漏れた。これは千亞に噂されているに違いない。
 実際、千亞はパートナーが数名ラッピングされた状態だと聞いて、「どうせ珠樹の事だから『放置プレイですね、ふふ……!』とか言って楽しんでるに違いない!」なんて憤慨していたわけで。
 そんな姿が想像できたりするから、珠樹はますますにこやかに楽しげな表情を作る。
 それにしても、今回の工場見学は楽しいものだと珠樹は思う。
 周囲はイケメン&かわいこちゃんだらけだし、千亞の影響で甘いものに詳しくなりつつある珠樹自身も楽しめる。
 何より、千亞が楽しそうなのが、良い。
 無垢な笑顔で工場を見て回る千亞を思いながら、珠樹は身動きの取れない袋の中で、掌に触れる感触を大切そうに確かめていた。

 程なくして、呆れ全開で迎えに来た千亞の姿を見止めれば、珠樹はにこやかに両手を広げる。括弧、心の中で。
「おや、千亞さん。さぁ私がプレゼントです……!」
「言うと思ったよ……おまえちゃんと服とか着てるんだろうな?」
 袋の口を結んでいるリボンを解きながらの千亞の問いに、こくり、珠樹は頷く。
「残念ながら中で脱ぐことが出来ませんでした」
「脱ぐ気だったのかド変態。急にいなくなるな」
 まったく、と、文句を言いながらも、唇を尖らせた表情は拗ねているようで。
 いつもならすぐさま飛んでくる跳び蹴りもなく、真っ先にリボンにかけられた指に、珠樹が気付かないわけでもなかった。
「すみません、素敵な物を見つけたので、つい」
 はらりとラッピングから解放された珠樹の台詞に、千亞はきょとんとした顔をする。
 そんな彼の手に、珠樹は大事に持っていた物を手渡す。
 それは、可愛い兎型のチョコ。それを見かけ、手に取って眺めていたがゆえに、珠樹はラッピングに巻き込まれたのである。
「これ、僕に?」
「はい、千亞さんに」
 微笑む珠樹の顔と、チョコとを見比べて。最後には、ほんのりと頬を染めて、ぷい、と顔を背ける千亞。
「……う、嬉しいけど……勝手にいなくなるなっ」
 工場スタッフに借り受けたリボンを珠樹の手首に巻きつつ、ぐいぐいと急ぎ足気味で歩き出した千亞に引かれながら、珠樹はやはり穏やかに微笑む。
「工場見学再開するぞ」
 告げた千亞が、やっぱり大切そうに、そのチョコを見つめて微笑んでくれたから。

●想いを閉じ込めて
「ちょっと、誰かいないの~?!」
 呼ぶ声が、広い広い工場内に虚しく響く。
 あまりに広い工場内で、うっかり精巧な造りのお菓子に見とれて迷子になったスウィンは、口を縛られた大きな袋の中で、もぞもぞと動いてみる。
 ご丁寧にピンクのリボンでぐるぐる巻きにされており、身動きが取れない。
 何だかベルトコンベアー的な物で流されていた気がしたが、いつの間にか止まっているから一先ず出荷は免れたのだろうが。
 が、それはそれとして縛られて袋詰めは割と洒落にならない状況であった。
 と、不意に袋の口が開かれて。思わず見上げたそこには、己の精霊であるイルドの姿があった。
「あら、イルド……」
 やや不機嫌に見える顔と目が合って、スウィンは思わずきゃるんと可愛い子ぶったポーズをとっていた。
「お、おっさんがプレゼント~☆ なんちゃって」
 間が空いた。
 とても気まずい間が空いた。
 その間は、イルドの脳内で浮かんだ「本当に貰ってやろうか」なんて台詞を飲み込むためで。
 だけれど、そんな感情をこそ誤魔化すように、イルドは再び袋の口を閉じようとする。
「待って! 見捨てないで!」
 リボン結びされた両手で必死に阻止しながら叫ぶスウィンに、呆れた体で救出してやれば、ふぅ、と安堵の息を零すスウィン。
「助かったわ。ありがとね」
 やれやれと袋を抜け出したスウィンは、自分が詰め込まれていた袋からチョコレートを取り出して、確かめるように見つめた。
「この工場、自動でラッピングされるのねぇ。びっくりしたわ。あんまり動いたら一緒に入ってたお菓子が潰れちゃいそうで」
 それでなかなか出られなかったのよねー、などと言いながらチョコレートを齧ったスウィンに、イルドは適当に相槌を打つ。
「というかあのリボンは何?! どういう結びなの?! 人間だとああなっちゃうの?!」
「……で?」
「うん?」
 安堵からか普段の2割増しくらいの勢いで喋るスウィンが、喋りながらもちゃっかりスタッフからリボンを借り受け、やはり喋りながら器用にイルドと己の手首を繋いで居るのをじっと見つめていたイルドが、促すように首を傾げて問えば、同じ方向に傾げられた。
「何やってんだ?」
 これ、と。しっかり繋がれた手首を示せば、同じ個所を見つめて、スウィンが笑む。
「ほら、今度はイルドが迷子になっちゃったら困るし」
「なるか!」
 間髪入れない切り返しに、解ってると言わんばかりに笑みを深くしたスウィンは、楽しげに手首を振って、触れた指先を軽く握った。
「ふふ、はいはい。じゃあまたおっさんが迷子になっちゃったら困るから、ね?」
 理由は、必要でしょう?
 そんな風に、尋ねられたわけではないけれど。
 「おっさんがうろちょろしなきゃいいだろ」という台詞を再び飲み込む程度には、イルドにとってその理由は必要だった。
「……仕方ねーな」
 代わりに吐き出したのは、渋々と言うような台詞。
 だけれどその心根に、繋がれる事に対して『嫌悪感』とは対照的なものがある事を、心の距離が近づいている神人には、気取られていた。
 気取って、けれど、それだけのまま。
「見学再開しましょ♪」
 何を強いるでもなく、ただ、促した。
「……チョコ、食いたくなってきた」
「あら、じゃああっちの試食、頂いてきましょ!」
 神人から漂う甘い香りはきっとチョコレートのもので。
 甘い心地になったのは、きっと、その香りに中てられたせい。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月17日
出発日 01月24日 00:00
予定納品日 02月03日

参加者

会議室

  • [9]木之下若葉

    2015/01/23-23:56 

  • [8]柊崎 直香

    2015/01/23-23:54 

  • [7]明智珠樹

    2015/01/23-23:53 

  • [6]明智珠樹

    2015/01/21-20:58 

    改めまして、こんにちは。明智珠樹です。よろしくお願いいたします、ふふ…!
    大希さんと琥太郎さんは初めましてですね。
    何卒よろしくお願いいたします、ふふ…!お二人と対峙すると私悪役みたいですね…!!
    さぁ、私を激しくやっつけに来てくだs

    千亞
    「黙れド変態(蹴り)ごめんね、僕は千亞。珠樹が危害を加えないよう気を付けるから、どうぞよろしくね(ぺこぺこ)」

    ふ、ふふ…!千亞さんやイケメンさんかわいこちゃんと一緒にチョコまみれ…!

  • [5]大希

    2015/01/20-10:23 

    ええと…初めまして!オレは大希。
    で、こっちはオレのパートナーのコタローだ!
    へへっ、よろしくな!

    って、皆の挨拶スタンプ可愛いな!
    みてるとほのぼのした気持ちになるなぁ

  • [4]木之下若葉

    2015/01/20-07:19 

  • [3]柊崎 直香

    2015/01/20-01:39 

  • [2]明智珠樹

    2015/01/20-00:16 

  • [1]スウィン

    2015/01/20-00:07 


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