一緒に、オヤスミ(木口アキノ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 商店街を散歩中のあなたとあなたの精霊は、小路の入口に見慣れぬ看板を見つけた。

『メリーノ・ドリームの夢羊牧場』
 夢羊?こんなところに牧場?
 好奇心のままに、あなたは小路を進む。すると、小路の奥に広い牧場が現れた。
 商店街のど真ん中にこんな広い土地があったとは、ますます奇妙である。
「こんにちは。夢羊牧場にようこそ。私はオーナーのメリーノ・ドリームです」
 あなたの前に、1人の少女が現れた。両側頭部にくるりと丸まった角が生えている。
「夢羊の毛刈りにいらしたんでしょう?」
 毛刈り?
「夢羊の毛で作った枕で眠ると、良い夢が見られるとお客様たちから好評をいただいています」
 枕?
「それでは、毛刈りの仕方をお教えしますね」

 牧場には、色とりどりの羊がいた。そう、色とりどり。白ではない。
 桃色、赤、紫、青、緑、黄色……単色のものもいれば、2色、3色とミックスされたものもいる。
 メリーノは、よいしょ、とどこからか1メートルほどもあろうかという巨大な割り箸のような棒を取り出す。
 そして、手近なところにいた桃色の羊の毛を、その棒でくるくると絡めとっていった。
 想像していた毛刈りとかなり違う。まるで、大きな綿あめを作っているかのようだ。
「一抱えぶんくらいの毛があれば十分です」
 絡めとられた部分の毛は、後からゆっくりと再生していく。
 毛というよりは、ふわふわの綿が羊から発生しているようである。
「この毛を袋に入れて、枕にするんです」
 良い夢が見られる、とは?
「まさにその人の『夢』がみられるんですよ。お金持ちになりたい人はお金持ちになった夢、美味しいものが食べたい人はごちそうの夢。大冒険の夢や希望の仕事に就けた夢など、人それぞれです。それと、もう一つ面白い効能があるんですよ」
 メリーノが悪戯っぽく笑う。
「ひとつの枕で2人一緒に眠ると、同じ夢が見られるんです。あなたたちもいかがですか?」
 一緒に、眠る!?
 あなたと精霊は顔を見合わせる。
 同じ夢を見られるのは楽しそうだが、一緒に眠るのは……。

解説

 料金が400Jrかかります。
 あなたはどんな夢が見たいですか?あなたの精霊はどんな夢を見たいのでしょうか。

 お好きな色の羊から毛を貰ってください。逃げる羊もいますので、頑張って追いかけてください。

 羊の毛を貰うよりも、一緒に眠るほうがハードルが高いかもしれません。
 だって、一緒に眠るのはちょっと気恥ずかしいですし、誘うのは勇気がいりますから。
 精霊のほうも、照れてしまって素直に応じてくれないかもしれません。照れつつも、応じてくれるかもしれません。一緒に眠るなんてどうってことない、むしろ一緒に寝せろという精霊も……?
 さて、あなたの精霊は、どうでしょうか。

 牧場に宿泊施設はありませんので、眠るのはあなたか精霊、どちらかのご自宅でお願いします。
 また、枕を持ってテルラ温泉郷の宿に一泊する、というのもいいかもしれませんね。その場合には、宿のランクに応じて別途600~1200Jrの費用がかかります。


ゲームマスターより

 初夢の時期からは少し遅れてしまいましたが、1月のうちに羊のエピソードを提供したかったのです。

 一緒に眠ることが『特別なこと』の2人には、2人の距離を縮めるイベントとして。一緒に眠るのが普通になった2人でも、いつもと違う時間を過ごすスパイスとして、参加していただけたらなぁ、と思います。
 さらに特別な一夜にしたい場合には、温泉郷まで足をのばして宿に泊まることもできます。
 それでは、よい夢を。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

篠宮潤(ヒュリアス)

  ・緑や黄の羊を愛でながら「お、おいで…」と呼んだりして刈る
・宿1000Jrまで(消費量お任せ☆)

「えっ?ぼ、僕の、夢!?ど、どうして、も…?」
「ぅ…そう、だよね…」
珍しくも精霊が乗り気で動揺
見られるのは大変気まずい…が、押し切られる

「ヒューリの部屋、では?」
自分の家も精霊の家もダメだと言われ首傾げ
じゃあ宿で??と温泉郷宿泊

「み、見ても…笑わ、ない…?本当?」
同じ枕への羞恥心は無い

●夢
笑顔で沢山の友達や仲間と 流 暢 に 喋る神人の姿
(神人仲間かのんさんに憧れている為←)

●覚めた後
「ぼ、僕だって、気には、して…!」
時折思い出すように肩震わせる精霊に
珍しい反応だと思うもののむくれずにはいられない



夢路 希望(スノー・ラビット)
  (ユキと一緒に…)
さ、さすがにそれは…
でも、憧れている自分もいて
結局最後は頷いてしまいました

赤い毛の夢羊さん
怖がらせないように注意を払い、近付いたら
教わった通りに棒をくるくる
…これくらい、でしょうか
ありがとう夢羊さん

作った枕は自宅で試すことに
(き、緊張します)
なかなか心の準備ができなくて
何度か深呼吸したら意を決し
「し、失礼します」
向き合うのは恥ずかしいので背を向けて横に
暫くはドキドキして眠れなかったけど
だんだん心地よくなり、いつの間にか眠りに

夢の中だといつもより素直になれるみたい
頭を撫でたり
スノーくんって名前で呼べたり
してみたいけど恥ずかしくてできなかった事ができて、楽しいです
(覚めたら真っ赤


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  動物学スキルで羊と仲良くなり、白い羊毛を貰います

枕を一人で使っても不安だからと説得します。
自宅(同居)で寝る

【夢】
私は騎手に戻ってました
今まさにステークスで一着をとって沢山の人に囲まれてます
ディエゴさんも見ているのかと探したのですが、いません

彼の夢の中に入ったという、日記の記述を思い出しました
枕を使っても悪夢から逃げだせないのでしょう
…このまま馬に乗って迎えにいきます!

彼をのせて海に行きましょう
海は死んだ人が帰るところですから
そう都合よくいくものか?いきますよ
夢ですから

夢の中の別れを済ませたら
ディエゴさんに次にどこへ向かうか聞きましょう
きっと彼はこう言います。
AROAに、仲間のもとへ行くと。



八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)
  こんな所に牧場があるなんて
でも楽しそう、ちょっとやってみよう

色は私の好きな紫とアスカ君イメージの赤がいいな
羊さんを驚かせないようそっと近づいて
こんにちは、貴方の毛を少し分けてくださいね

自宅の自室で就寝
せっかくだから同じ夢見てみたいな…駄目?
一緒に寝てくれないの…?(しょぼん
それじゃあ明日の朝に夢の内容を話すね、おやすみなさい…

家族や友達、ウィンクルムの仲間、それにアスカ君…
皆が楽しく笑い合っている夢
私の一番の夢は、この人達を守りたい

そうだ、この夢アスカ君は見てないんだよね
だったら普段照れくさくて言えないことが言えるかも
皆をかき分けてアスカ君の前に行きとびきりの笑顔
いつもありがとう、大好きだよ



リヴィエラ(ロジェ)
  ※神人と精霊はAROA職員の自宅、別々の部屋に住んでいる。

リヴィエラ:

あ、あの…今日は雷の音が凄くて…ロジェ様の部屋で一緒に寝ても良いですか?
ご、ごめんなさい。でも良かった、私怖くて怖くて…
わわ、ロジェ様とこんなに密着するなんて恥ずかしい…
きゃっ、くすぐったいで、す…

・夢の中
これは…ロジェ様の夢? ロジェ様、ここから出し…
ううん、良いんです、ロジェ様がそれを望むなら。私は貴方だけの鳥だから。

・夢から覚めて
(涙を流しながら抱き付く)もう、ロジェ様は心配性ですね。
私が貴方を置いて、どこかへ行ったりするものですか。
えっ、ロジェ様のモノに、ですか…? あ、あの…(真っ赤になってモジモジ)


●夢羊の枕を作ろう
 こんなところに牧場が……。
 八神伊万里は夢羊が広い牧場を眺めた。
「好きな夢が見られる枕ってことか」
 アスカ・ベルウィレッジが言うと、伊万里は
「楽しそう。ちょっとやってみたい」
と瞳を輝かせる。
「へぇ」
 アスカは、伊万里がどんな夢を見るのか興味が湧いた。
「じゃあ、やってみるか」
 巨大割り箸を手に2人は牧場の中へ入る。
「何色の羊がいい?」
 アスカが訊く。
「そうですね……紫と、赤がいいな」
 紫は伊万里が好きな色。そして赤は、アスカのイメージの色だ。
「あ、ちょうど赤と紫のストライプの奴がいるぞ」
 アスカが前方を指さす。
「ではあの羊さんから毛を貰いましょう」
 伊万里は夢羊を驚かさないように静かに、ゆっくりと近づく。
 夢羊も伊万里に気付き、近寄ってくる。
「こんにちは、貴方の毛を少し分けてくださいね」
 手が届きそうなほど近寄ったところで、伊万里は声をかけ、夢羊を撫でてやる。
すると、嬉しくてはしゃいだのだろうか、夢羊が伊万里にどんっと体当たり!
「きゃっ」
 伊万里はその場に尻餅をつく。
「もぅ~、夢羊さんっ」
 伊万里は夢羊の頭をわしゃわしゃと撫でまわした。
 伊万里と夢羊がじゃれている間に、アスカはそっと夢羊の毛を刈って袋に詰める。
「よし、枕一個分、貰ったぜ」
 アスカが夢羊の背中をぽんと叩くと、夢羊は、今度はアスカに体当たり。
「おわっ」
 アスカも地面に倒れる。
「あは、アスカ君たら、牧草だらけね」
「伊万里もだろっ」
 2人はお互いの姿を見て、笑い合った。


 メリーノの説明を聞き終えたスノー・ラビットは
「不思議な話だね。ノゾミさんと一緒なら凄く幸せな夢が見られそう」
と、夢路希望に微笑む。
「え……」
(ユキと、一緒に?)
「駄目……かな?」
(さすがに、それは……でも)
 躊躇しつつも、スノーと一緒に眠ることに憧れている自分もいて。
 希望がこくんと頷くとスノーはぱっと明るい表情になる。
「どの色の子から、貰おうかな」
「あ、あの赤い毛の夢羊さんはどうでしょうか」
 スノーと希望は夢羊を怖がらせないように注意を払いつつ近づく。
「えいっ」
 希望は夢羊の毛にさくっと棒を差し入れ、くるくる回す。
 しかし、羊は動き回るのでなかなかうまくいかない。
 するとスノーが横から手を伸ばし、希望を手伝ってくれた。
「このくらいでいいかな」
「はい。ユキのおかげで、上手にできました。ありがとう、夢羊さん」
 希望とスノーは微笑み合い、赤い羊を撫でた。


「夢を共有できる、と」
 メリーノの説明に、ヒュリアスは興味津々といった様子だ。
「是非、見てみたいものだね」
 ちらり、と篠宮潤を見る。
「えっ?それってまさか、ぼ、僕の、夢!?」
無論、とヒュリアスが頷く。
「ど、どうして、も……?」
「先日、俺のは見ただろう。ウルのも見せないのは不公平ではないかね?」
 確かに潤は、以前紅月ノ神社でヒュリアスの過去の夢を共に見ている。が。
「ヒューリのあれは、夢とはちょっと、違う、よ!?」
 あれは夢というよりは過去の記憶だったではないか。
 しかし、ヒューリは潤の抗議を聞き入れる気はないらしい。
「お互い公平にいこうではないか」
「ぅ……そう、だよね……」
「まぁ、俺と枕を共にするのは少し抵抗があるかね」
 すると潤はきょとんとして顔をあげる。
「え?どうして?」
ヒュリアスに夢を見られるのが気まずいのであって、一緒に寝ることについては抵抗がない。
「どうして……って。……以前にも言ったが。俺は男でウルは……いや、もういい」
 成人女性が普通持っているだろう羞恥心を未だ学んでいない様子の潤に、ヒュリアスは溜息をつき、これ以上の説明を諦めた。

 潤とヒュリアスが牧場に入ると、興味を持って近づく夢羊もいれば、逃げていく夢羊もいた。
「……お、おいで」
 潤は近づいてきた夢羊たちを撫でて愛でる。
「す、少し、もらうね」
 緑の夢羊と黄の夢羊から毛を刈り取り、枕を作る。
「ところでウルは、この枕をどこで使うつもりかね」
「ヒューリの部屋、では?」
「何を言っているのかね」
 気軽に男の部屋に入るなど……と言おうとしたが、やめた。潤に言っても理解しなさそうだからだ。
「じゃあ僕の部屋?」
「論外だ」
 気軽に男を部屋にあげるなど……と言おうとしたが、やっぱりやめた。
 どちらの部屋も駄目と言われ、潤は首を傾げる。
「そうだな、宿ならどうかね。テルラ温泉郷にあるだろう」
 ヒュリアスの中では、互いの部屋に入るのは抵抗があっても、宿ならいいらしい。実質的には一緒だということに気づいているのかいないのか。


「良い夢を見られる枕なんて、素敵ですね」
 ロジェと共に夢羊牧場に訪れたリヴィエラは、
「ロジェさん、私、この枕を作ってみたいです」
と言う。
「この枕で、ロジェさんに良い夢を見ていただきたいんです」
 リヴィエラが微笑む。
 日々職務に忙しいロジェを少しでも癒したい、そんなリヴィエラの心遣いがロジェにも伝わった。
「リヴィーがそういうなら……まずは羊から毛を刈らないといけないのか。そうだな……リヴィー、君と同じ青色の毛にしよう」
 ロジェとリヴィエラは、青色の夢羊にそっと近づく。
 夢羊は2人に気付くと、どうぞ毛を刈ってくれとばかりに首を上げて身じろぎもしない。
「このように、するんでしたっけ」
 リヴィエラが毛刈りの棒を持ち上げる。が、意外に重くて手が震える。
「無理をするな」
 背中からロジェが腕を伸ばし、リヴィエラと共に棒を支える。
 2人で協力して毛を刈り終わると、夢羊は用が済んだとばかりにすたすたと去って行ってしまった。
「すごい、ふわふわです。今度私にも、この枕貸してくださいね」
 リヴィエラは青い羊毛に顔をうずめて微笑んだ。


「羊の毛の枕、ですか」
「ここに迷い込んだのも何かの縁だ、作ってみるのもいいだろう」
 ハロルドとディエゴ・ルナ・クィンテロはメリーノから巨大割り箸の毛刈り棒を受け取った。
 初めは2人を警戒していた夢羊たちであったが、ハロルドが動物学スキルを用いて接するうちに、次第になついてきた。
 気が付けば、たくさんの夢羊に囲まれていた。
「この子から、貰います」
と、ハロルドは白い夢羊から羊毛を刈りはじめる。
「ディエゴさん、一緒に使ってくれますよね」
「一緒に?」
「はい。枕を一人で使っても不安ですから」
「それは、添い寝……ということになるが」
「何か不都合でも?」
「いや、何でもない……」

●2人の夢
 自宅である探偵事務所に戻った伊万里とアスカ。
「その枕、早速今夜使って……あ、でも確か今日って……」
 アスカは、伊万里の父である所長を始め、事務所の職員たちが皆泊りがけの用事で一晩いないことを思い出した。
 伊万里は無邪気に
「せっかくだから同じ夢見てみたいな……駄目?」
とアスカに微笑みかける。
「い、一緒に寝るとか恥ずかしくてできるか!」
「一緒に寝てくれないの……?」
 しょんぼりする伊万里に多少心を動かされるが、首を縦には振らない。
 伊万里は、就寝の時間にはまだ早いにも関わらず、
「それじゃあ明日の朝に夢の内容を話すね、おやすみなさい……」
と肩を落として自室に入る。
 アスカはそれを、なんともいえない罪悪感とともに見送った。
 そして……。
(やっぱり、気になるしな)
 伊万里が完全に眠ったころを見計らって、アスカはこっそりと伊万里の部屋を訪れる。
 こっそり部屋に入って、さらに布団に入るなんて、なんだか悪いことをしている気分にもなってしまう。
(いや、やましいことは何もない!ちょっと夢を見るだけ!)
 自分に言い訳をしてから、
「おやすみ……」
と眠る伊万里に呟き、アスカもそっと瞳を閉じた。

 夢の中には、たくさんの人がいた。
 伊万里の家族や友達、ウィンクルムの仲間。その輪の中に、いつの間にかアスカも入っていた。
 その中心で、伊万里が楽しそうに笑っている。
 何気ない話をしたり、冗談を言われたりして。
 普段とあまりかわらぬ光景に、アスカは肩透かしをくらった気分になった。が。
(そうか……)
 アスカは気付く。
 伊万里にとって、一番の幸せはこうした『日常』なのだ、と。
(伊万里の一番の幸せ……俺も一緒に守っていきたい、な)
 伊万里の笑顔を見つめつつ、アスカも微笑む。
 すると、伊万里が人をかき分け、アスカの前にやって来た。
「いつもありがとう、大好きだよ!」
 真っ直ぐにアスカを見つめ、とびきりの笑顔で告げる。
「……!」
(まさか、俺の願望も混じった夢なのか?)
 それとも……?
 アスカは伊万里の瞳を見つめ返す。
 返事をしようとアスカが口を開いたときに……。
 ぐらり、と視界が揺れて、目が覚める。
 隣には、まだ眠っている伊万里。
「期待して、いいのか……?」
 アスカはそっと布団を抜け出し、伊万里が目覚めないうちに、部屋を出ていった。


「そ、それではっ。た、試してみましょうかっ」
希望は緊張しながら、ぽふん、と枕を自分のベッドに置く。
「良い夢が、見られるといいね」
 スノーが身体を横たえる。
 希望は何度も深呼吸を繰り返してからやっと、
「し、失礼します」
と、スノーの隣に横になる。
しかし、向き合うことはできなくて、スノーには背中を向けてしまう。
「なんか、ヘンな感じだね。そわそわするっていうか」
 スノーが苦笑する。
「は、早く眠ってください……」
「でも僕、ぬいぐるみを抱いてないと眠りにくくて」
「頑張って眠ってください!」
 希望はずっと背中を向けたまま。スノーは、希望の背中を見つめる。その背中に、思わず触れたくなるのをぐっと我慢した。
 触れなくても、これだけ近くにいたらお互いの体温を感じる。
 温かくて、心地よくて。2人とも、いつの間にか眠りについていた。

 スノーは、名前を呼ぶ声と頭を撫でられる感覚で目を開ける。
「…あれ?さっきまで部屋にいたのに」
 上は青空、下はお花畑が広がっていて。そして自分の頭は、希望の膝の上。希望の柔らかい手が、スノーの髪を撫でている。
(ここは夢の中なのかな)
 そういえば、さっき、希望が名前を呼んでいた気がする。「ユキ」ではなくて「スノーくん」と。
「ねぇ、ノゾミさん」
 希望はスノーを撫でる手を止めた。
「もう一回、名前、呼んで?」
 希望はにっこり笑って
「スノーくん」
と、はっきりと言った。
「えへへ」
 スノーは嬉しくて、笑顔になる。
「うふふ、ずーっと、してみたかったんです。スノーくんの名前を呼んで、好きなだけスノーくんの頭を撫でて……とっても幸せ」
 目が覚めたらきっと、希望は顔を真っ赤にしていることだろう。
 現実の希望にとっては大胆すぎる行動だから。
 いつか、現実でも「スノーくん」と呼んでもらえたらいいな……そう思いながら、スノーは希望に撫でられるがままでいるのだった。


 落ち着いた雰囲気の温泉宿。新しい畳の香りが心を癒してくれる。
 ヒュリアスは、潤が「一緒に温泉に入ろう」と言い出すのではないかとひやひやしていたが、さすがにそれはなかった。
 仲居が敷いてくれたふかふかの布団の上に夢羊の枕を置きながら、
「ヒューリ……」
と、潤は心配そうにヒュリアスを見つめる。
「僕の夢……み、見ても…笑わ、ない…?」
「もちろんだ」
「ほ、本当……?じゃあ……おやすみ」
「ああ、良い夢を」
 宿の布団は気持ちがよく、すぐに2人を眠りへと誘ってくれた。

 夢の中で、ヒュリアスは意外なものを見た。
 たくさんの友人、仲間に囲まれて笑顔で話す潤の姿。
 ミオンや心優音、かのん、楓乃といった仲の良い神人たちと、臆することなく流暢に話す潤。
 そう、流暢に。
(ふ、不自然だな……)
 姿だけはいつもの潤なのに、中身が全く違う。
 そういえば潤は、神人仲間のかのんに憧れていると言っていた。
 人付き合いの苦手な潤は、いつか彼女のように、社交的になりたいと願っているのだろうか。
 しかし、普段とのギャップが大きすぎる……。

「笑わないって……言った、のにっ」
 目覚めた後、真っ赤な顔で潤が抗議する。
 現実の潤と夢の潤との違いに、ヒュリアスはまた笑いがこみあげる。
 一応、顔を横に背け口元手で隠してはいるが、肩が震えるのは止められない。
 ヒュリアスのこんな反応も珍しいのだが、さすがに笑いすぎではなかろうか。
「ウルは、今の自分に不満なのかね」
「そりゃあ、ぼ、僕だって、気には、して……!」
「……まぁ、ゆっくり克服すればいいのではないかね」
 くっくっと笑いを押し殺しながらヒュリアスが言う。
 対人恐怖症気味なところを直そうとするのは悪いことではない。しかし、まるきり別人のようになろうとしてしまうところが、まだ幼いというかなんというか。
 夢の中のような社交的な潤も、現実の潤も。どちらも、ヒュリアスにとって大事な友人の潤であることには変わりないのに。


 夜の帳が降り切ったころ、雨が降り始めた。
 遠くに、雷光が見える。
 ロジェは夢羊の枕をベッドに置く。
 枕から、青い羊毛が少しこぼれた。
「リヴィーの夢でも見てしまいそうだな」
 ロジェは苦笑する。
 その時、部屋の扉がノックされ、リヴィエラが顔をのぞかせる。
「あ、あの……今日は雷の音が凄くて……ロジェ様の部屋で一緒に寝ても良いですか?」
「……ってお前は……」
 ロジェは溜息をつく。男の部屋に女が来る事の意味がわかっているのだろうか?
 その時、雷の音が響き、リヴィエラが小さな悲鳴をあげしゃがみ込む。
「仕方ないな」
 ロジェはリヴィエラの手をひき、部屋に招き入れる。
「ご、ごめんなさい。でも良かった、私怖くて怖くて……」
「寝る場所はひとつしかないが……」
「は、はい、すみません……」
 ロジェに連れられるままに、ベッドに身を置くリヴィエラ。
(わわ、ロジェ様とこんなに密着するなんて恥ずかしい……)
 リヴィエラは少し離れようかと身じろぎするが。
「きゃっ、くすぐったいで、す……」
 お互いに、触れあいすぎないようにと身体をずらしていると、かえって余計に触れ合ってしまう。
 再度、雷鳴がとどろき、
「きゃぁっ」
とリヴィエラがロジェに縋り付く。
「眠るまで、こうしておいてやるから」
 ロジェが大きな手をリヴィエラの耳にあてる。
「は、はい……」
 ロジェの手の感触に少しずつリヴィエラは落ち着きを取り戻し、そして、眠りに落ちていった……。

 ドーム状の部屋。まるで、鳥籠のような。
 リヴィエラは辺りを見回す。何もない部屋。
 閉ざされた窓から、ロジェが表情のない顔でじっとこちらを見ている。
「これは、ロジェ様の、夢?」
 リヴィエラは窓に駆け寄る。
「ロジェ様、ここから出し……」
 言いかけて、口をつぐむ。ロジェが何事かを呟いていたから。
「誰の目にも触れないように。触れさせないように。お前は、俺だけのモノ……」
 リヴィエラは微笑み、息をつく。
「……ロジェ様がそれを望むなら。私は貴方だけの鳥だから」
 ロジェは窓から部屋に両腕を差し入れ、リヴィエラを引き寄せる。
「俺だけの、モノ。お前を汚して、壊すのも、俺だけだ」
「ロ……ジェ様……」
 あまりに強く抱きしめられて、リヴィエラは息が詰まる。
 ロジェはリヴィエラの全てを欲すがごとく、リヴィエラの髪に、頬に、唇に口づける。

 ロジェははっとして身体を起こす。
「今のは……俺の夢、か?」
……何て独占欲にまみれた、醜い夢だったのか……。
「良いんですよ、ロジェ様」
 見下ろすと、横たわったままのリヴィエラが微笑んでいる。
「俺は何て夢を……すまない、リヴィー……」
 暗がりでも、ロジェの頬に涙の痕があるのがわかった。欲望のままの夢を見ながら、その欲望の醜さに苛まされていたのだろう。
 リヴィエラと離れたくない。そんな欲望が、こんな形の夢になるとは。
 そんなロジェの気持ちを思うと、リヴィエラも涙が溢れた。
「もう、ロジェ様は心配性ですね。私が貴方を置いて、どこかへ行ったりするものですか」
 リヴィエラはロジェの胸に身体を預けた。ロジェの腕が背中に回される。
「俺は、君をもっと俺のモノにしたくて仕方がないんだ。本当にすまない……」
「えっ、ロジェ様のモノに、ですか……?あ、あの……」
 リヴィエラは真っ赤になって、俯く。
「おかしなことを言ってすまなかった。部屋に戻って、休むといい」
「いいえ……朝まで、ここにいます」
 リヴィエラはロジェを見上げ、微笑んだ。
 2人はお互いの背に腕を回し、再び眠りにつくのであった。



夢は、過去の過ちを夜ごと確認する作業。
 自分1人、自宅で物に囲まれ、それを選別する。
 これは、彼女の。これは、あの人の。
 ひとつひとつに刻まれた、所有者の記憶を思い出しながら。
 一人延々と婚約者の遺品と上司の形見を片付けている。

 ハロルドは歓声に包まれていた。
「ここは……?」
 ハロルドは、過去の自分……騎手に戻っていた。今まさに1着でレースを終えたハロルドを、たくさんの人が取り囲む。
「ディエゴさん、は?」
 ハロルドは人々の群れの中にディエゴを探すが、その姿は見つからない。
 ディエゴを探しつつ、選手控室に戻る。そこで、机の上に1冊の日記帳を見つけた。
 何気なく、そのページをめくる。
 最後のページに、夢羊のことが書かれていた。
「そうだ……私、ディエゴさんの夢の中に入ったんでした」
 ハロルドは顔をあげた。
 ディエゴは、ここにいない。
 彼は、夢羊の枕を使っても悪夢から逃れられていないのだと悟った。
「……迎えにいきます!」
 ハロルドは再び馬に乗り、自宅まで走った。

 これは、彼女の。これは、あの人の。
 遺品を選別する作業は、同時に、自分の過ちを何度も何度も噛みしめる作業。
 過去に苛まされることが、自分への罰。永遠に囚われなければならないのなら、甘んじてそれを受けよう。
 これは、彼女の。これは……。
「ディエゴさん!」
 突然、部屋の扉が開かれる。
 ディエゴがはっとして顔をあげると、そこに、馬に乗ったままのハロルドがいた。
「エクレール……!」
 ディエゴは、彼女の通り名ではなく、本当の名前を呼んだ。2人きりのときだけに呼ぶ、名前を。
「海へ、行きましょう」
「……海?」
 ハロルドは騎乗したまま部屋に入ると、強引にディエゴを馬に乗せ、海に向かって走りだした。
「なぜ、海なんだ」
「海は死んだ人が帰るところですから。お2人を、帰しましょう」
「そんな都合のいいこと……」
「都合よく、いきますよ。夢ですから」
 やがて、2人は海岸にたどり着く。
 潮風に吹かれ、馬を降りる。
 ディエゴには、波と風の音が亡くした2人が自分を責めたてる声のようにも聞こえた。
「ディエゴさん、よく見てください」
 ハロルドが、海を指さす。
 そこには、今は亡き婚約者と上司の姿があった。
 ディエゴは一歩海へ足を踏み入れる。
「俺は、あなたたちのどんな恨み言も、聞き入れよう」
 ディエゴは耳を澄ます。
 聞こえてくるのは、2人の恨み言……ではなかった。
 お前は何をやっているのだ。いつまで過去に囚われている。前へ、未来へ走り出そうとしないのはなぜだ。
 そう、言っていた。
(都合の良い夢だな)
 ディエゴがふっと笑うと、ハロルドがその手をとった。その途端、海上の婚約者の上司の幻影は消えた。
 都合の良い夢。
 もしかしたら、これまでの夢も、自分が贖罪したいがための都合の良い夢だったのかもしれない。
 でも、本当の贖罪は、そんなことではないのだろう。
 ハロルドが、口を開いた。
「私、他の人を馬に乗せたのは初めてです」
 ディエゴはハロルドの横顔を見る。
「私が乗る馬には既に勝利の神が乗っているんです。だから、他の誰かと一緒に乗るのはあり得なかった。誰かを乗せるとしたら自分が信じる勝利の神より特別な存在だけ、なんですよ」
「……そうか……本当にありがとう」
「さあ、ディエゴさん、次はどこへ行きましょうか」
 ハロルドはひらりと馬に乗ると、ディエゴに訊く。
 ディエゴもその後ろに乗り、こう言った。
「俺達の行く先は……」
遺品がある自宅ではない。
「仲間達がいる、A.R.O.Aへ行こう」
「はい」
 2人を乗せた馬はまた、走り出した。真っ白な、未来に向かって。





 目が覚めると、夢羊の枕はきれいに消えていた。
 牧場があった場所にまた訪れようとしても、そこにはただ、狭い路地裏があるだけだった。
 



依頼結果:大成功
MVP
名前:ハロルド
呼び名:ハル、エクレール
  名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ
呼び名:ディエゴさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月17日
出発日 01月23日 00:00
予定納品日 02月02日

参加者

会議室


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