人の夢(こーや マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●人の夢
 夏祭りの成功によって安定したゲートを通って、君はパートナーと紅月ノ神社を訪れた。
夏にはたくさんの屋台が並んでいた参道も、今はしんと静まり返っていて無性に寂しさが募る。
屋台がないせいか、あんなにも長く感じた参道も今は短く感じる、
手水舎で身を清めた後に拝殿で手を合わせた。
すると、一人の女妖狐が君達に気付いた。
「あら?こんな時期に人が……ああ、そうでした。ゲートが安定したのでしたね」
 まだどうしても慣れなくてと、女妖狐はおっとりと笑みを浮かべる。
「この後の御予定は?」
 ふるり、君は首を横に振る。
紅月ノ神社を見物した後はタブロスに戻ってそのまま夕食、くらいしか考えていなかった。
「でしたら、夢を見られませんか?」
「夢、ですか?」
「はい。二人で一つの夢を見るのです。その夢はただの夢ではなく、貴方々のどちらかの最も幸せだった時のもの」
 どちらの過去になるかは分からない。
けれど、かつての幸せへの憧憬が強い者の夢を見ることの方が多いらしい。
例えば、存命していた両親が事故で死別している者、村がオーガに襲われて壊滅してしまった者。
 あの時の、あの幸せを見ることが出来るなら……その甘さはまるで誘蛾灯のよう。
君とパートナーが向き合う。お互い、見られて困るような『過去の幸せ』はない。
「じゃあ、お願いします」
「はい、それではこちらへどうぞ」
 奥へと案内しながら、女妖狐は釘を刺すように告げた。
「私共に伝わる文字では、『人の夢』と書いて『儚い』と読みます。その事を、くれぐれもお忘れなく」

解説

○参加費
女妖狐さんのちょっと変わった術代400jr

○すること
過去、神人か精霊のどちらかが、最も幸せだと感じたときの夢を二人で見ます。
二人で同じ映画を見ているようなものだとお考え下さい。
どちらの夢かは明確に指定をお願いします。
大体は不幸に見舞われてる側の夢を見ると女妖狐さんは言っていますが、
幸せいっぱいな側の夢を見ても問題ありません。

○その他
しっとり系orほんわか系です。
Notコメディ。

ゲームマスターより

初夢は、特に好きなわけでもない乙女ゲーのキャラに延々と酒をたかる夢でした

リザルトノベル

◆アクション・プラン

霧白(クロスパール)

  ▼心情
……ああ、此処は
……『僕の、夢』


▼内容
(勉強が出来ても、感情の希薄な子供だった
そんな僕を両親が持て余しても、彼だけは違ったんだ
黒瑯は――僕の、弟は)

(肩までのさらさらの黒髪に青色の瞳
小学生にして美少年なだけでなくて成績も優秀
それに僕とは違って良い子だった、完全無欠だった
大勢の中の一人だったのかも知れないけど
それでも僕に懐いてくれたんだ)

(あ、そっか
この日はお弁当持って湖に行こうって
にこにこ太陽みたいに笑う弟の手を僕が引いて
バスケットを持って、眠そうな顔してたけど
それでも、)

(――僕は、確かに『笑っていた』)


▼事後
……寝てた

大丈夫……後悔は、してないよ
弟が幸せで生きてるなら、良いんだ……


篠宮潤(ヒュリアス)
  「こ、れ…ヒューリの、視界…?」
映るはオーガに殺された大事な友の元気な姿
一瞬『自分の夢』かと思うが、望んだ通り精霊のだと気付く

「夢でも…また、笑顔が見れるなん、て…」
嬉しいような泣きたいような
呆然と見つめる中聞こえる精霊の声は、どこか楽しそうだとふと。
たまに『彼女』が親友自慢をしていて驚く
「僕、のこと…会話、に?」

●見終わって
「知りたいことは、直接聞く、って言ってた、のに…ご、ごめん…っ」
これは言葉じゃなく映像だった!と今頃気付いて慌て

あれがヒューリが一番幸せな…じゃあ、今、は…

「えっ?う、うん!そう出来るよう、頑張る…!」
思わず必死に返事
…うん??何か恥ずかしい返ししたような…
はぐらかされた


かのん(天藍)
  かのんの過去の夢を見る
10代半ばに死別した両親とかのん10歳程度
自宅の庭で木に上るかのん
地上から樹上の彼女を叱る母親、母を宥める父親
場面変わり庭のテーブルを囲み両親の間に座り、3人で母親特製のお菓子とお茶を楽しむ誰もが笑顔だった何気ない日常の情景

夢から覚め
胸の奥に燻る死別時からの寂しさが古傷の様に疼き涙が零れる

重ねられた手に顔を上げ天藍の気遣わしげな表情に少し昔を思い出しただけです、大丈夫ですよと答える
隣に天藍がいてくれる事に安堵し彼の肩口に頭を乗せ温かな優しさを向けてくれる事に感謝の想いを伝える

天藍の行動に頬を染めつつその言葉に頷く
きっとこれから2人で作れますよねと花が綻ぶ様な笑顔を浮かべる



クロス(オルクス)
  心情
「へぇ幸せだった頃の…
俺さ、オルクの幸せだった夢見たいな(微笑
オルクの師匠に逢ってみてぇ!」


「あの人がオルクの師匠…
焦げ茶にエメラルドの瞳?
確かポプルスで元ウィンクルムだっけ?
そりゃ格好良いわ…
それにオルクの兄さん達もイケメンだよな
狐と狼のテイルスで!
と言うかオルクの中学時代可愛いなぁ(微笑
初々しくて幼さが残ってる!
なのに不良の頂点だろ?
やっぱオルク格好良いな(微笑
そういや神聖にして崇高なる宴の任務で名乗ってたな(ニヤリ
ふふっ木刀で峰打ちとかオルクらしい
オルクなら持てるさ、良い家族を…(その横にいるのは俺なら嬉しい、な
高校卒業間近にオーガに襲われて…
なら俺と約束しようぜ
俺を死ぬ迄護って」


名生 佳代(花木 宏介)
  アタイ達お互いのこと知らないしぃ。
どっちの夢を見ても知り合ういい機会じゃん!

十歳の時かな。
家族とミュージカルを見に行ったんだしぃ。
題目はシンデレラ。超有名な童話だしぃ!

きらびやかな舞台演出、メルヘンな世界で、
歌って踊る役者さんは輝いて見えたっけ。
舞台終盤の舞踏会のシーン、役者がアタイの手を取った。
アタイもステージ上で一緒に慣れないダンスを、
夢中になって踊ったんだしぃ!
王子様とも踊ってめちゃドキドキした。

目が見えなくなる前ってのもあるからかな。
…色鮮やかな世界でさ、忘れらんないんだしぃ。

今はあの頃程鮮明に世界は見えない。
寂しくて、霞む世界が怖い気持ちはあるしぃ。
…って、宏介ぇ余計なお世話だしぃ!



●翠玉
「へぇ幸せだった頃の……」
 興味深そうな顔つきでクロスは隣に立つオルクスの顔に目を向ける。
靴を脱いだことによりいつもより広がる二人の身長差。
「俺さ、オルクの幸せだった夢見たいな。オルクの師匠に逢ってみてぇ!」
「師匠に?そうだな、良いぞ」
 微笑みに微笑みを返す二人へ女妖狐は苦笑いを零した。
「先程も申し上げましたが、どちらの夢になるかは見るまでは分かりませんよ。予め決めれるものではありませんから」
 そのことを聞き流していた二人は、僅かに目を丸くする。
その様子を見た女妖狐は苦笑いを深くし、襖を開いた。
「お二人の強い希望に惹かれ、見られるかもしれませんが……出来れば、こちらの説明はきちんと聞いてくださいね」

 映像を見ているような感覚だった。
自分達は確かに相手を見ているのに、相手は自分達のことが見えていない。
 二人の視線の先には一人の男と数人の少年達。
そのうちの一人はクロスも良く知っている人物だ。今よりも幼さが見えるが、オルクスだ。
「あの人がオルクの師匠……。確か元ウィンクルムだっけ?そりゃ格好良いわ……」
 焦げ茶とエメラルド、左右で色の違う瞳を持つ男は一見して普通の人間だが、オルクスから話を聞いていたクロスは彼が人霊族――ポブルスであることを知っていた。
名はギルバート。
目の前にいる彼は、学生の少年達を叱りつけているところだった。
「懐かしいな……。師匠と出会ったのは中1。そこから高校卒業迄、担任だった」
 真っ赤な目を細め、オルクスは過去の光景を見つめる。
学ランを着崩した過去の自分は、説教してくる教師を面倒がっていた。
親戚から三人の兄と比較された反動で問題児となり、いつの間にか不良の頂点となっていた。
その時に今の周囲の人々と出会ったのだ。
「『狂気じみた鮮血』と呼ばれるくらい手が付けられなかったが、師匠達は見捨てなかった。
師匠には奥さんと息子がいて、仲が良くて、オレもいつかそんな家族を持ちたいと思ってたな」
 幸せだったとオルクスが呟くと同時に、目の前の場面が変わる。
今度は教師から色々なことを教わっているところだ。
元ウィンクルムとはいえ、ただの学校の教師が剣術や銃の扱いを生徒に教えていたら大問題となるので、そこは別だが。
 そういえばその二つ名をかつて参加した宴で使っていたなとクロスは思いながらも、オルクスの話を聞いている。
「バカやって怒られて、いろんなこと教わって……。あぁ、家族共々…護ると誓ったのにな」
 ふっと、視界が黒くなる。
もう会えない人に思いを馳せるオルクスの手に、クロスはそっと自身の指を絡めた。
「なら俺と約束しようぜ。俺を死ぬ迄護って」
 銀の視線と赤の視線が重なる。
刹那の間を置いて、オルクスはクロスの体を抱きしめた。
「勿論だクーだけは何が何でも護りきる絶対に、だ」
 まるで自分に言い聞かせているようだとクロスは思いながらも、オルクスの腕の中で目を閉じた。


●青玉
 ……ああ、此処は。
僕の夢。
 黒髪の少年と、白髪の少女――幼き日の霧白がいる。
目の前の光景に霧白が抱いた感情はなんだったのだろうか。
哀愁?懐かしさ?それとも、幸福感?
 同じ光景を見ているクロスパールにも、黒髪の少年が誰なのかすぐに分かった。
霧白の弟だ。
髪だけでなく瞳の色もパートナーと違い、彼は青い瞳だが霧白と似て可愛らしい子だとクロスパールは思う。
 中性的な印象の霧白の弟は屈託なく笑っている。
子供ゆえかもしれないが、打算なく心優しい笑顔だ。そこには間違いなく姉への好意がある。
 勉強が出来ても感情が希薄な霧白を両親は持て余していた。
けれど、弟は――黒瑯だけは違った。彼は霧白を慕ってくれていた。
 青々とした緑の中、弟の手を引いて過去の霧白が走り出す。
反対の手にはバスケット。
「あ、そっか……この日はお弁当持って湖に行こうって……」
 何をしていた日なのか思い出す。
弟はにこにこ笑っている。そして、眠そうな顔をしているが霧白も、笑っていた。
 凛とした表情のままであったがクロスパールはそのことに驚いていた。
それと分らない程ではあるものの、霧白が確かに笑っているのだから。
こんな笑顔をクロスパールは見たことがない。
 弟と自分を食い入るように見つめる霧白を、クロスパールはちらりと覗き見る。
今が不幸なわけではないと霧白は言うけれど。
それでも、今とは比べ物にならない程にこの時の霧白は満たされていたのだろう。
何故ならば、過去の彼女は笑っているのだから。
 霧白はまだ未成熟なのだ。
そんな素振りはを見せたことはないが、寂しくない訳がない。
 クロスパールの視線に気づかぬまま、霧白は夢の終わりまで過去の光景に見入っていた。

「……寝てた」
「おはよう、シロちゃん」
 瞼をこする霧白にクロスパールが声をかけた。
起きてすぐの霧白の言葉が可笑しかったのか、女妖狐はくすりと笑う。
「おはようございます。目覚ましのお茶をお持ちしますね」
 そう言って立ち上がった女妖狐の背を見送り、足音が遠ざかったのを確認してからクロスパールはしっかりと霧白の顔を見つめる。
「辛くないか?」
「大丈夫……後悔は、してないよ」
 弟が幸せで生きているから、いい。
そんな想いを抱きながら霧白は答えた。
「弟の代わりにはなれないだろうが限界を感じる前に……」
 俺を頼るといい、言おうとしたもののクロスパールは言葉を切った。
首を傾げる霧白になんでもないと言い添えつつも、クロスパールは胸中で語りかけた。
 君は、一人じゃない。



●霞
「ヒューリの、夢、見れる、かな……?」
「さて、どうだろうな。まあ、見る分には構わんよ」
 ヒュリアスを見上げる篠宮潤はその言葉にほっとしたようだ。
女妖狐はその様子に淡い笑みを漏らし、「それでは」と言葉をかけて二人を夢へと導いた。

 これは自分の夢だと潤は刹那、錯覚した。
何故ならば、オーガに殺された大事な友人が目の前にいるのだから。
 けれど、すぐに気づく。
「こ、れ……ヒューリの、視界……?」
 そうであればいいと願ったように、ヒュリアスの『夢』なのだと。
 『夢』の主であるヒュリアスは、僅かに目を見開いていた。少し驚いているように見える。
幸せだと感じていたのかとどこか他人事のように思いながらも、霞がかったようにぼやける光景へ眉を顰めた。
具体的にどういう過去だったのかを覚えていないせいなのかもしれない。
 霞がかってはいるが、それでも鮮やかな女性の笑顔が眩しい。
嬉しいような、泣きたいような気持ちで潤はその姿を目で追う。
目を潤ませながらも潤の口元には笑みがあった。
「夢でも……また、笑顔が見れるなん、て……」
 もう一度見たいと思った友人の笑顔だった。
彼女が何事かを言う。よく聞き取れはしなかったが、潤のことを話しているようだった。
「僕、のこと……会話、に?」
「ああ……アイツの親友自慢は耳にタコだ」
 驚きを見せる潤に、ヒュリアスは常よりも幾分か優しい声音だ。
自身の思い出を彼女に分けようとするような、そんな表情。
 そういえば。
無愛想と緊張屋を会わせたい等とも言っていたな……霞の中で笑う女性に視線を向け、ヒュリアスは過去へと思いを馳せた。

 ゆっくりと瞼を開く。
眠る前に見たのと同じ、見慣れぬ構造の天井がそこにある。隣でヒュリアスが身を起こしたのを潤は感じた。
 ふいに、ぼんやりと天井を眺めていた潤が跳ね起きた。
ヒュリアスへと体を向けながらも、泳ぐ視線を懸命に合わせようとする。
焦ったような潤の言葉をヒュリアスは待った。
「知りたいことは、直接聞く、って言ってた、のに……ご、ごめん……っ」
 潤はかつて自分でそう言ったのに、直接聞くのではなく『夢』で見てしまったと気づいたのだ。
言い終えた潤は項垂れる。
「俺が構わんと言ったのだ。ウル、落ち着け」
 そういえばそんなことを言っていたなと思い出し、律儀ともズレているともいえる潤の反応に、ヒュリアスは噴出した。
息だけとはいえヒュリアスが噴出したことに驚いた潤が顔を上げる。
 何か変なことを言っただろうかと首を傾げた潤の表情がふいに曇る。
あの夢がヒュリアスの一番幸せだった時ならば。今は……?
 潤の表情に気づいたヒュリアスが含み笑いを浮かべる。
「過去は過去だ。今後、上書きしてくれるのを期待しよう」
「えっ?う、うん!そう出来るよう、頑張る……!」
 冗談半分の言葉へ反射的に必死の返事をしてしまった。
何か恥ずかしい返事をした気がするし、しかも、はぐらかされた。
 どこか釈然としない面持ちの潤に対し、ヒュリアスは自身の言葉に驚いていた。
自分がわざわざこんなことを言うとは思っていなかったのだ。
 女妖狐が盆に茶を載せて部屋へ戻ってきた。
その姿を見て、ヒュリアスは先の言葉を思い出す。
「人の夢と書いて『儚い』、か……よく、言ったものだ……」
 彼の小さな呟きが潤に聞こえることはなかった。



●紫水晶
 天藍は気付いていた。かのんの過去を夢見る可能性に。
両親を亡くした時の悲しさを彼女が思い出すのではないかと。
 かのん自身も気付いていたのかもしれない。
けれど彼女は夢を見たいと願った。
天藍の過去を夢見たいという思いもあったのかもしれないが、それでも彼女は願った。
 そして二人は同じ『時』を見る。

 やはりと思う反面、天藍は微笑ましくもあった。
幼い頃のかのんは天藍の目の前を駆け、するすると木の上へ登っていく。
自宅の庭にある木だろう。
 登り終えると同時に家の中から母親が出てきて彼女を叱る。
間を置かず出てきた父親は、母親を宥めている。
 どこにでもありそうな、幸せな日常がそこにある。
だからこそ、天欄は隣にいる、今のかのんの様子を窺った。
 彼女は静かに涙を流していた。
「お母さん……お父さん……」
 小さく、静かな呟きに胸が締め付けられる心地がしながらも天藍はかのんの手を強く握った。
傍に自分がいるのだと示したくて。
 重ねられた手に驚き、ゆっくりとした仕草でかのんは天藍を見上げる。
気遣わしげな表情の天藍はかのんの目元を拭う。潤んだ瞳のまま、かのんは僅かに笑みを浮かべた。
「少し昔を思い出しただけです、大丈夫ですよ」
 そして再び過去の光景へと目を向ける。
天藍が隣にいてくれる事に安堵したように、その肩へかのんはもたれる様に頭を乗せた。
もう少し近づきたくて、天藍は重ねた手を離してかのんを抱き寄せる。
 場面は変わり、三人は庭のテーブルを囲んでいた。
母親特性の菓子と茶を親子で味わっている。おいしいねと、笑う。
父親も、母親も、幼い頃のかのんも。
涙は零れ続けている。
けれど天藍が隣にいる安心感ゆえか先程とは違う感情で、かのんは過去の光景を見つめ続けた。

 現実のかのんも泣いていた。
胸の奥に燻る、両親と別れた時から抱いている寂しさが古傷のように、胸刺すように疼く。
 天藍は夢と同じようにかのんの肩を抱き寄せた。
かのんも夢と同じように、天藍を見上げる。濡れた紫の視線と茶の視線が重なる。
「今もこれからも俺が傍にいる。かのんを1人にはしない」
 ぐっと、かのんの肩を抱く天藍の手に力が篭る。
痛くはない。それどころか、心地良さすらある。
「これから2人で幸せだと思える時間を作っていこう」
 静かな天藍の囁きに、三度かのんは涙を零した。
嬉しさから来る、温かな涙が頬を伝う。
「はい……ありがとうございます」
 かのんの言葉に微笑みを浮かべてみせ、天藍はその手を取り、指先にそっと口付けた。
いつか、きっと、いつか。
自分がかのんの中で彼女の両親よりも大きな存在になりたいとの想いを込めて。



●煙水晶
「アタイ達お互いのこと知らないしぃ。どっちの夢を見ても知り合ういい機会じゃん!」
 とは名生 佳代の言葉。
組んでから間もないのだから、これを良い機会だと彼女は捉えたようだ。
 花木 宏介は自身のこれまでのことを月並みだと認識していた。
つまり、幸福もあり不幸もあった。
けれど、佳代に不幸なことがあったように見えないと宏介は思うがそれを口にすることはない。
 そういえば佳代の過去はまだよく知らないと、宏介はふと気づいた。
さて、どちらの夢を見るだろうか――

 舞台の上で女が高らかに歌っている。華やかなドレスに、城のような背景。
こんな光景は宏介の記憶にはない。
「……これは、佳代の夢か?」
「十歳の時かな。家族とミュージカルを見に行ったんだしぃ」
 宏介の小さな呟きに佳代が答えた。
彼女の眼鏡の奥で輝く瞳には、懐かしさと嬉しさ、そして、ほんの少しの寂しさがある。
「題目はシンデレラ。超有名な童話だしぃ!」
「王子と姫のラブロマンスか……好きそうだ」
 舞台の中央では王子とシンデレラが、そしてその周囲を何組もの男女が踊っている。
お互いの素晴らしさを讃え、出会えた幸運と二人の時間を喜ぶ歌が響く。
 幼い佳代はキラキラと目を輝かせ、身を乗り出すようにして舞台を見ていた。
そこにある何もかもを見逃したくないように忙しなく視線が動く。
「えらくはしゃいでいるな」
「きらびやかな舞台演出、メルヘンな世界で、歌って踊る役者さんは輝いて見えたっけ」
 懐かしそうに目を細める佳代の横で、宏介は今の彼女との違いに気づいた。
幼い彼女は眼鏡をかけていない。けれど、コンタクトでもなさそうだ。
つまり、これは佳代が目を患う前のことなのだ。
 役者が舞台から客席へ降りた。
少し客席を移動した末、佳代に目を止めて手を伸ばし、舞台上へと導いた。
佳代は嬉しさからか、顔を真っ赤にしながらも役者のリードに従い、舞踏会の一員となる。
「夢中になって踊ったんだしぃ!王子様とも踊ってめちゃドキドキした」
 佳代がそう言うと同時に、過去の佳代が王子に誘われ踊り始めた。
慣れない様子だが懸命に踊る様子は微笑ましい。
 佳代の口元が緩い弧を描いている。
「目が見えなくなる前ってのもあるからかな。……色鮮やかな世界でさ、忘れらんないんだしぃ」
  よくあるミュージカルだと宏介は思う。
けれど、それでも佳代にとっては大切な記憶なのだろう。
 宏介自身も眼鏡をかけてはいるが、佳代と違って視力が悪いわけではない。
宏介にとっての当たり前は、佳代にとっては当り前じゃないのかもしれない。
今までは佳代の性格もあって意識することは出来なかったが……思いがけずいい勉強になったようだ。
 舞台の上で踊る佳代は、笑っていた。

 目を覚ました佳代は枕元に置いた眼鏡を求めて探る。
指先に当たった感触を元に眼鏡を取り、かける。ぼやけた世界から輪郭のある世界へと変わる。
「佳代、夢は楽しかったか?」
 先に身を起こしていた宏介が問い掛けた。
佳代はうっすらと笑む。そこに一抹の寂しさを滲ませて。
「今はあの頃程鮮明に世界は見えない。寂しくて、霞む世界が怖い気持ちはあるしぃ」
「今は
「って、宏介ぇ余計なお世話だしぃ!」
「あぁもう、せっかく心配してやったのに!」
 言い返せば始まる口喧嘩。
言葉に言葉を返しながらも、先程の佳代の笑みと言葉が宏介の頭に焼きついて離れることはなかった。


 女妖狐は廊下を一人、静かに歩く。
そして、小さく呟いた。
「人の夢は儚いもの。だからこそ、輝く美しさがそこにある」



依頼結果:成功
MVP
名前:名生 佳代
呼び名:佳代、バ佳代
  名前:花木 宏介
呼び名:宏介、バカ眼鏡

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター こーや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月12日
出発日 01月17日 00:00
予定納品日 01月27日

参加者

会議室

  • [10]かのん

    2015/01/16-23:23 

  • [9]クロス

    2015/01/16-23:07 

  • [8]クロス

    2015/01/16-18:34 

    クロス:
    かのんさんと潤達は久しぶり!
    佳代さんと霧白さんは初めましてだな

    今回はオルクの幸せだった頃を見る予定だ
    もっとオルクの事知りたいからな(微笑)

  • [7]霧白

    2015/01/15-21:12 

    ……こんばんは、初めまして……
    霧白、と……相方のクロさん、です。宜しく……

    うーん、クロさん……毎日充実してそう、だし……
    ……僕は、別に不幸でもないけど……うーん、うーん(何事か考え込み)

    ……僕の夢、かも知れないなあ……
    良い夢見られると良いけど……それはそれで複雑、かも……
    特に目覚めた後とか……まあ、こればっかりは、ね……

  • [6]かのん

    2015/01/15-19:32 

  • [5]かのん

    2015/01/15-19:31 

    こんばんは
    霧白さんと名生さんははじめまして、潤さんとクロスさんはお久しぶりです
    幸せだった時の夢、ですか・・・
    (首傾げ)何だか、天藍があまり乗り気じゃない様な感じなのですよね・・・
    それはさておき、

  • [4]篠宮潤

    2015/01/15-09:47 

    えっと、改め、て。霧白さ、ん、名生さん、初めまして、だ。
    篠宮潤(しのみや うる)という、よ。どうぞよろしく、だ。

    かのんさん、と、クロスさ、ん、お久しぶり、だね。また…ご一緒出来てうれしい、よ。よろしく、ねっ

    幸せだった時の、夢…
    そう、だね、僕、は…ヒューリの夢、見てみたいなと…思ってるんだ、けど……
    (み、見せてくれるかなぁぁぁ……、と若干遠い目)

  • [3]篠宮潤

    2015/01/15-09:44 

  • [2]名生 佳代

    2015/01/15-02:42 

    おほほ、皆様はじめましてですわ。
    わたくし、名生佳代ですわ。
    どうかよろしく…ゲフンゲフン、よろしくだしぃ!

    アタイが幸せだったのは……うん、あの時…かな。
    ん、今もそれなりに楽しいからいいじゃん!
    「俺は月並みだしな…多分佳代の夢を見ることになりそうだ」

  • [1]クロス

    2015/01/15-00:17 


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