ザ☆視点切替(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「あなたに何が分かるの……!」

 責める言葉を紡ぐ彼女が、今の俺には泣いているように見えた。

 彼女にとって自分は部外者。
黙って姿を消した俺には、彼女の失った心の支えがどれほどのものだったか、想像することも出来ない。

 それでも。
踏み出さずにはいられなかった。
抱きしめずにはいられなかった。

「っ……放し、て……!」

 放さない。たとえ俺のエゴでも。
きっと、今放してしまったら
彼女は心ごと、あの空へと飛び立ってしまうと思ったから。
アイツの待つ……あの空へ……――――


* * * * * * * * * * * * *

「……休憩終わるわよ?」
「やだ、もうそんな時間?」

 本部正面ホールに設置された受付デスクのいつもの風景。
女性職員が昼食から戻ると、果たして昼ご飯をちゃんと食べたのか怪しい、昼食に出る際に見た同僚の変わらぬ姿勢が目に入った。

「何をそんなに夢中で読んでいたの?」
「ベタベタの三角関係恋愛小説」
「……面白い?」
「微妙ね」

 えー、という視線を受けながら手の中の本を閉じる女性職員。

「途中で物語の視点が、登場人物以外の第三者じゃなくて、男の側の視点に切り替わるのよ。そこはちょっと面白いかな」
「ああ。たまにあるわよね。同じ場面でも、視点が変わると主人公が変わって全然違う物語になるの」
「こういうの、現実で形になったらまた楽しそうよねー!」
「え。どういうこと?」

 怪訝な顔を浮かべる同僚に、至極幸せそうにうっとりと遠い位置を見つめる女性職員。

「例えばデートしてる時!気になるあのコを見つめる精霊さんの、心の声がモノローグのように見える……!
 胸のうちでこっそり想っていることが目に見えたらステキじゃない!?小説みたいでっ」
「……見られた方はたまったもんじゃないと思うわ」
「ステキよぉ!とりあえず私が楽しいわ!!」

 自分だけなのね……、とは飲み込み、中々帰ってこない同僚を気の毒そうに見つめる視線が一つ。

「ああああ。普段のデート中っ、今頃!精霊さんたちは何を想っているのかしら――――っ!」

解説

●パートナーとの とある平和な風景♪ ~ただし!精霊視点!~

以下から場所を選び、パートナーとまったり過ごして下さい。
今回は、描写は全て精霊様視点(プロローグ前半参照)でお送り致します☆

・グリーンヒル公園
新市街にある小さな公園。グリーンヒル男爵が趣味で集めたサボテンたちが公園全体を覆っており、ちょっとした迷路となっている。
公園の南半分は温室となっており、南国の花々が咲き乱れている。
温室に入る場合のみ、一人40Jr必要(ウィンクルム一組80Jr)

・エルビス水上公園
 冒険家エルビス卿の孫が、祖父の偉業を記念して作ったエルビス記念館がもとで、
現在は東方の植物を植えた4つの島と、記念館のある島の計5つが人工の湖の中に浮かんでいる。
手漕ぎボートが50Jrで借りることが出来る。四つの島の周囲をぐるっと回るコースが、風景を楽しめてウリ。

・その他
お家でまったりや、二人の思い出のある神社など、具体的なオリジナル名称のみ避けて頂ければ
上記2つの公園以外でも構いません。

●デート費用として、一律<300Jr>消費
 上記記載の別途Jrが必要な場に行く際は、300Jrにプラス、という形となります。


★普段あまり形として見えない、精霊様の心情視点をお楽しみ下さい★
今回は、ウィッシュが主体となり出来うる限り拾わせて頂きます!
※ただし、親密度やステータスの関係でどうしても困難な描写と判断する場合もございますこと、ご了承下さい。
逆に、アクションの神人様の心の声などは反映されにくくなることが予想されるので、
実際口にする台詞や行動中心が良いかもしれません。

ゲームマスターより

イケメンたちの心の中が見たかったんです。見たかったんです。

心情がんばるよクレヨン……!(言い聞かせ)

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)

  ジャスティとグリーンヒル公園に行く。
温室があるようだったので、「ジャスティ、南国の花が見られるんだって。入ってみようよ」と声をかける。

南国の花は独特な外見と明るい色合いのものが多く、見ていて飽きない。
花と解説を見ながら彼の一歩前を歩く。

声をかけられ振り返ろうとしたら、下が少し濡れていて足を滑らせてしまう。

ジャスティが助けてくれたが、抱きしめられた形になり、一瞬何が起きたのかわからなくなる。

さらに少し強く抱きしめられ、余計わからなくなる。
こんな風に男の人に抱きしめられたことなんて、ない。
顔が熱い…。

い、いったん離れないと!
「ジャスティ、は、はなして…」

赤面してる彼を見て、怒るかどうかで悩む…。



ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)
  ねぇねぇヴァル、一緒にグリーンヒル公園行きましょっ。
サボテン迷路も面白そうだけど、温室に南国の花がいっぱいあるんですってっ!
アクセサリー作る参考にもなりそうだし、楽しみー!
お花いっぱい咲いてるの見たいし、ヴァルと一緒だったらもっと楽しいと思うしっ。
ま、迷子になんてなんないものっ、意地悪!

迷路は一緒に攻略しましょうねっ。ヴァルこういうの得意そうだしっ。
迷子になるのが怖いんじゃないのよっ。効率を目指してなんだからっ。

迷路も楽しんだし、次はお待ちかねの温室ー!
南国の花って色が鮮やかで綺麗よねっ♪
こういう大ぶりのアクセサリーとか華やかでいいかもっ。鮮やかな色の宝石使って!


ロア・ディヒラー(クレドリック)
  グリーンヒル公園へ。
最近私達操られてお互いに戦ったり、大変だったよね…主にクレちゃんが大怪我だったと思うけど…大丈夫?
(思わずクレちゃんの唇の方を見てしまい)…!な、なんでもない。ほら、だって周りの景色楽しまなきゃでしょ!せっかく珍しいサボテンだらけなんだから。
温室にも行く。
珍しい植物に喜びながらもクレちゃんの視線が気になる。

お弁当作ってきたよ。この間は調味料間違いでなんか凄い味になっちゃったけど、今度は大丈夫!(おにぎりとから揚げ、デザートにホットケーキでジャムを巻いたロール)ちょっとはクレちゃんの気分転換にもなった?



ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)
  場所・エルビス水上公園

…お前、煙草吸うんだ(吃驚)
ん?
煙草は喉を痛めるな…だが、今更関係ないか
(手にとって少し躊躇いながら吸う。壮絶に咳き込む)
お前よくこんな物が吸えるな
信じられん

ボート乗ろうよ
私が漕ぐ(スポーツスキル)

白鳥可愛いな

黙って乗ってるとお前、白鳥の騎士みたいだ(天然)

(芝居に笑って)
…以前はな、お前がいなくなるんじゃないかって
少し心配だった
私がお前の好みでないのは知っていたし
でも
「ずっと護る」って言ってくれたから
それからは安心してる

(お前でよかった、にすごく嬉しそう)
そう言ってもらえるのは、恋人扱いされるより嬉しい
ありがとな

(照れて)
あ、いや、そういうわけでは
ただなんか、照れるよ


出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
  現在は気を遣わなくていい友人として振る舞う
同時に自然体でいられる相手のことを
異性としても意識し始めている

水上公園でボートに乗る
バイクとは違うけど乗り物は好きよ
漕ぎながらレムの話を聞く
友人らしく、昔の彼女の話とか?
…うわぁ、それって脈なしで相手が諦めちゃったのね
その子も可哀想に…
でもそんなものかもね、恋はいつか終わるもの…きゃぁ!

ボートが揺れて水を被っちゃった
あら、レム、髪が乱れてるわ
近づいて髪を整えてやる
一瞬見惚れてしまい顔が近いと気付いて慌てて離れ
俯いたまま黙ってボートをこぐ
レムの問いに謝りつつ
怒ってないわ、さっきのは友達の距離感じゃないなと思っただけ

好きになっちゃ駄目
レムは友達なんだから…



●グリーンヒル公園・3つの視点

 ―― いまだ交わらずともそれは優しい想い。リーリア=エスペリットとジャスティ=カレックをひっそりと繋ぐは月桂樹。

「ジャスティ、南国の花が見られるんだって。入ってみようよ」
「いいですね。行きましょうか」

 今、私とリーリアはグリーンヒル公園にいる。
以前から珍しい植物も多いと聞いており、気にはなっていたといつだったか漏らした気はするが。
彼女の優しい思い混じる誘いに、喜んで応じた。

 温室で咲いている南国の花々は、とても美しかった。明るい色合いの花たちが互いを引き立たせるよう咲き誇っている。
飽きる気配どころか興味深そうに歩調ゆるく隣りをゆくリーリア。
時折花のそばに解説を見つければ、私の前を足早に進みそこで立ち止まって見入っている。
花を見て喜ぶ彼女を見ると、胸の奥が温かくなった。

 その感じる温かさに手を当てながら考えにふける。
私は自覚してしまったのだ。
ずっと、リーリアを見つめるたびこみ上げる複雑な感情が何であるかを。
あのレコードによって思い出の少女に確信を持ってから、しばし……戸惑いのあまりその感情から逃げそうにもなったけれど。
リーリアは、事情も知らぬはずなのに、いつも私に言葉をくれていた。
慌てなくていい、待っている、と。

 そんな彼女に応えたいという、強い気持ちが最近は湧き上がってきていた。
思い切って聞こう。9年前のことを、リーリアに……覚えているかどうか。

「あの、リーリア」
「え?」

 私の呼び掛けにリーリアが振り返った。
その瞬間、視界に入った光景情報に私の足は考えるより早く走り出していた。
彼女の足元のタイルが濡れており、振り返り踏み出したリーリアはまさにそこで足を滑らせたのだ。

「きゃ! ……っ……?」

 胸を撫で下ろす。
何とか彼女の腕を掴むことに成功し、転ばせてしまう事態を避けられた。
が、ここで私は気付く。
引っ張り込んだことで、今、リーリアを己の腕の中に閉じ込めている状況だと。
……これでは、まるで、抱き締めているような……

 リーリアも咄嗟のことで訳がわからなくなっているらしい。
呆然としている空気を彼女から感じ取れた。
普段から鍛えている彼女だが、やはり女の子だから細い……
彼女も怪我をしなかったのだから、早く解放せねば。

 だが、放したくない……。
一度触れてしまうと、こんなにも愛しくなるものなのか。
その思いから、無意識に彼女を少し強く抱きしめる。
一時満ちていく感覚の狭間に、熱を感じた。
……リーリアの体温が熱い、気がする?

「ジャスティ、は、はなして……」
「すっ、すいません……!」

 しまった……!
彼女の声に私の意識が完全に浮上し、慌てて彼女を解放する。
何をしているのだ私は…… 話をしたかっただけなのに。
恐る恐る、ちらりとリーリアを見ると彼女の顔が見たこともない程赤味を帯びていた。
普段凛としている彼女と違い、どこか幼さ混じったような……、可愛らしいとさえ思えるほど。
そんなリーリアの表情を見てしまうと、自分のしてしまった大胆な行動が実感出来てしまい、
ふつふつと私自身の顔にも熱が集まるのを感じた。

 あぁ……リーリアの拳がわなわなと震えているような……怒らせてしまっただろうか。
完全に私に背を向けるリーリアから、怒気とも困惑ともいえる複雑なオーラのようなものを感じ取れてしまう。
ウィンクルムの絆という力は、時に便利で時に厄介なようだ。

 ふとリーリアの頭上にある植物が、どこか、月桂樹の葉の形に似ている気がして。
私は思わず、祈るようにそれを見上げていた。
せめて、嫌われませんように、と………――

★★

―― 日の光を浴び青緑豊かなサボテンたちの横をゆっくり歩きながら、ロア・ディヒラーとクレドリックは互いを気遣う言葉を紡ぐ。

「最近私達操られてお互いに戦ったり、大変だったよね……主にクレちゃんが大怪我だったと思うけど…大丈夫?」
「私の怪我などたいしたものではない。ロアに傷が付かないことが何よりの優先事項だ」

 私がロアを傷つけるなどあってはならんのだよ。
いつも嘘偽りなく伝えているのだが、どうして口にする度今のように驚いた表情をするのだろうか。
視界の端に映る植物に時折珍しいモノもあった気がするが、ロアと一緒にいる間は彼女から目を逸らすのは難しい。
ロアの前では全てが霞み、一挙一動をこの目に焼き付けておきたい衝動に駆られるのだ。

「……それに得るものもあった」

 そう。ロアを傷つけることなく正気に戻す手段として、私は血の味と共に私の初めてを捧げた。
その感触がふと思い出され、指を自らの口へと触れさせながら。そしてまた思い出す。
我を失った私に涙しながら信じている、大好きといっていたロアを思い出すと心が温かい。
その指を口から心臓の上へと移動させた。

 一瞬の思考に囚われていると、先程の私の言葉で何故か足早に先を進んでいたはずのロアから視線を感じた。
すぐに己が目を合わせると。

「……! な、なんでもない。ほら、だって周りの景色楽しまなきゃでしょ!せっかく珍しいサボテンだらけなんだから」

 あ!あっちに温室もあるみたいだよ!とまた先を行ってしまうのを、見失わないよう追いかけながら。
こちらを見ていたのはロアのはずだったと思うが。何故顔を赤くしていたのだろうか。
まだまだ彼女については分からないことだらけだ。

「すごい!見たことない花がいっぱいだよ!」

 温室の中に入れば、ロアは常に珍しい植物や色味溢れる花のそばで、笑顔を向けていて。
日頃から鮮やかに見えるその姿が一際輝いて見えた。

「クレちゃん、丁度いい所にベンチがあるよ。あそこでお昼にしよっか!……クレちゃーん、聞いてる?」
「……、ああ聞こえているとも。分かった」

 ロアを見るのに夢中で一瞬聞こえていなかったとは少々言いにくかった。
それに、私を『クレちゃん』と抵抗無く呼んでくれるようになった。
その呼び掛けを何度も聞くのが私は嬉しいのかもしれない。
流石に未分析の薬を飲んだ時は早まったかと後で思いもしたが……あれ以降、またロアの態度が変わったように感じる。
結果オーライ、というのだろうかねこういうのは。

「お弁当作ってきたよ。この間は調味料間違いでなんか凄い味になっちゃったけど、今度は大丈夫!」

 おにぎりとから揚げ、デザートにホットケーキ……これは、ジャムを巻いたロールだろうか。
ロアは最近、よくホットケーキを作ってくれる。私の為だ、というのが実感出来る瞬間でもある。

「ど、どう?」
「とても美味しい。幸せだ」
「クレちゃんはいつもオーバーだよっ。でも……ありがと。ちょっとはクレちゃんの気分転換にもなった?」

 私を気遣う言葉を発しながら、首に巻いたマフラーを外し大事そうに畳んでは横に置くロア。

 ―― ああ。その言葉が、行動が、存在全てが、私の心を満たしていく。
こういう時……返答と礼の代わりに、唇を触れ合わせてはいけないものだろうか……。

★★

―― ファリエリータ・ディアルは花咲く笑顔を向け、ヴァルフレード・ソルジェは宝石の光を見つめるように目を細める。

「ねぇねぇヴァル、一緒にグリーンヒル公園行きましょっ」

 ファリエが突拍子もなく何かを言い出すのはもういつものことだ。
一つ欠伸をして視線を合わせ、俺は続きを促した。

「サボテン迷路も面白そうだけど、温室に南国の花がいっぱいあるんですってっ!アクセサリー作る参考にもなりそうだし、楽しみー!」
「……ほぼ行くことが確定してんだろ」
「お花いっぱい咲いてるの見たいし、ヴァルと一緒だったらもっと楽しいと思うしっ」

『一緒ならもっと楽しい』か。なかなか嬉しい事を言ってくれるが、からかうと面白いし怒った顔も可愛いんだよなあ。

「迷路に花か。面白そうだし行ってもいいぜ。迷路で迷子になるなよ?」

 あからさまな含み笑いを向けてやると、ファリエの頬が少し膨らんだ。

「ま、迷子になんてなんないものっ、意地悪!」

 そうそうこの顔。表情が本当にころころと変わって飽きない。
今膨れていたのが、次にはもう顔を綻ばせるのだ。
そうして結局ファリエの希望通りに付き合う俺もまぁ……傍からどう見えるのかと思うが。

 目的の公園に到着して一目散にファリエが向かったのは、当然サボテン溢れる迷路の入口。

「迷路は一緒に攻略しましょうねっ。ヴァルこういうの得意そうだしっ。迷子になるのが怖いんじゃないのよっ。効率を目指してなんだからっ」
「はいはい」

 うんうん、迷子が怖いんじゃないよな……って、何気に俺を利用しようとしてないか?
まあ別行動して、いつまでも待たされるよりはいいけどな。
飽きない分、目も離せないんだよなあ……あ。早速コケやがった……
やれやれ。顔面からトゲに突っ込む前にとっとと迷路を抜けるか。

 どうにか無事迷路を抜けたと思ったら、ファリエはあっという間に次の場所へ駆け出していた。

「迷路も楽しんだし、次はお待ちかねの温室ー!」

 楽しんでいたなら何より。コケかけるたんび捕まえて支えた甲斐もあった。
ファリエに続いて温室の中に入れば、暖かな風と共に飛び込んでくる花々の姿。

「へえ、これだけ花が咲き乱れてると圧巻だな」
「南国の花って色が鮮やかで綺麗よねっ♪こういう大ぶりのアクセサリーとか華やかでいいかもっ。鮮やかな色の宝石使って!」
「宝石で花を表すか」

 そういえば、以前に淡く光る鉱石でアクセサリーを作ったことはあったな。
その時ファリエが、青紫色をした鉱石からスミレの花を型どっていたペンダントを作っていたことを思い出す。

「色は勿論カットの仕方も関わってくるし、色々細工も出来そうで面白そうだ」
「でしょうっ」
「……ファリエに似合いそうだしな?」

 実際にファリエがペンダントを身につけた姿を見た時にも思ったことを、また素直に言葉にしてやると
途端にファリエの顔に赤みが走った。
見ていて一番楽しい反応かもしれない。

「とはいえ、まだまだ要練習だなファリエは。この間のスミレの形、ちょっと歪んでたし」
「うぅ……っ。わ、分かってるもの!」

 柔らかな言葉のすぐ後に意地悪く笑みを向けてやると、悔しそうな顔をしつつも食らいついてくるファリエ。
根性はあるよな、と思う。これ程分かりやすい反応するヤツも珍しいんじゃないか?
純粋、ってやつなんだろうか。
出来ればコイツが、これからも変わらずいてくれたらいい。
ふと、そんなことを考えている俺自身に心の内で苦笑いをした。


●エルビス水上公園・2つの視点

 ―― レオン・フラガラッハの碧き瞳にガートルード・フレイムが映る時、温度が宿る。それは『特別』な灯火の前兆だろうか。

「飽きたんだよ」

 そう冷たく言い放って俺は携帯の電源を切り捨てた。
ガーティーと待ち合わせている最中に掛けてくるとは間が悪ぃったら無い。

 必要以上に心に立ち入られ苛立ち紛れに振るの、何回繰り返しただろう。
学んでねえな、俺は。
……あいつともいつかそうなるのかな。
今まで伝えてきた言葉に嘘をついてきたわけじゃない。
ただ俺が、俺自身を信じられないのかもしれない。
そんなどうしようもないことを考えながら、咥えた煙草の煙を空虚に見つめる。

「レオン!?すまない、遅れただろうか……っ」

 耳に馴染む声に、それまでの思考を追いやって俺は声の主に笑顔を向けた。
エルビス水上公園入口の外灯に寄りかかる俺の姿を見つけ、慌てて走ってくるその姿にどこか安堵するのを感じながら、軽く手を上げてやる。

「急がなくていいって。時間ぴったりだぞ」
「……お前、煙草吸うんだ」

 息を切らしながら、意外な程驚かれてしまった。

「たまにな。吸ってみるか?」
「ん?煙草は喉を痛めるな……だが、今更関係ないか」

 戯れに差し出しただけだったんだが、あっさり手に取るのを見て。
この反応もまた他のヤツに無い反応なんだよなぁ……
そんなことを思った瞬間、壮絶に咳き込むガーティーの姿が。

「お前よくこんな物が吸えるな……っげほ……信じられん……ごっほ」
「あー、大丈夫か?」

 変な所で無茶するよなと付け足し、背中をさすってやる。
気まずそうに見つめ返してくる深紅の瞳が『もう大丈夫』と告げてくれば、俺たちは公園内を散策し始めた。

 「ボート乗ろうよ」

 自分が漕ぐからと言い出して、ガーティーが2人乗りの手漕ぎボートへと俺を先導した。
か弱いとは無縁だろうし、むしろ自分の力で何かをする意思があるヤツの邪魔をする気はなく。
俺はお言葉に甘え漕ぎ手の向かい側に座った。

 日頃、意識的に鍛えている部分があるらしいガーティーの漕ぎは中々スムーズで、冷たくも緩やかな風を受け気持ちがいい。

「お、白鳥」
「白鳥可愛いな」

 声が重なった。視線が合えばガーティーは照れくさそうに微笑む。

「黙って乗ってるとお前、白鳥の騎士みたいだ」

 時折メルヘンチックな言葉を真顔で放つんだよなコイツ。
その天然っぷりが面白いので乗っかるか。俺の口から芝居がかった台詞が口をつく。

「姫よ。私の素性を訊いてはなりません。訊けば私は立ち去るでしょう」

 なんてな、と片目つぶればガーティーが笑う。
そして笑んだまま俺に横顔を向ける。

「……以前はな、お前がいなくなるんじゃないかって、少し心配だった。私がお前の好みでないのは知っていたし。
 でも……。『ずっと護る』って言ってくれたから。それからは安心してる」

 オールから離した手で風になびく黒髪を自然な動きで押さえる仕草を見つめながら。
紡がれた言葉に勝手に俺の口が開いた。

「俺、お前がパートナーでよかったよ。今更好みの子と契約し直せるって言われても、お前を手放す気にはならねえよ」
「……そう言ってもらえるのは、恋人扱いされるより嬉しい。ありがとな」
「恋人扱いは嫌いか?」
「あ、いや、そういうわけでは。ただなんか、照れるよ」

 自分でも出し抜けだったと思う言葉に、心から嬉しそうな笑顔を浮かべるのを見て、
俺はオールを握るガーティーの手に自分の手を重ねた。
握る手に力を込め、共に漕ぎ出す俺に頬を赤く染めながら応えるガーティーの反応に、今まで感じたことのないような満ち足りる感覚を感じる。

 ―― これが続きますように

 冷たい筈なのに温か味を帯びた、蒼い石の感触。
俺の手は無意識に、胸元にぶら下がるそれに祈り込めるよう重なるのだった。

★★

 ―― パートナーと同時に大事な友人。出石 香奈とレムレース・エーヴィヒカイト、その想いの狭間で揺れ動く。

 「水上公園、一緒に行ってくれる?」

 オーガ討伐に加え、最近は自らの出生について根を詰めるまで頑張る香奈の姿をよく目にしていた。
自分一人のみの力でなく、俺にも時折声をかけ頼ってくれるようになったのは喜ばしいと思う反面、頑張りすぎに拍車もかかっている気がし。
そろそろのんびりさせようと思っていた最中だったので、俺は安堵しながら頷いたのだ。

「レム、ボートも乗れるみたい」
「乗りたいのか?」
「バイクとは違うけど乗り物は好きなの」

 屈託なく告げる香奈の様子に、友人として心を許してもらえているようで嬉しさを感じる。
動き回る気満々で来たのか、今日の香奈は今までの見てきた服装と少し違い、こう、ラフというものだろうか。
確かに俺の前で取り繕う格好をする必要はないが、俺好みの服装を着てくれなくなったのは少々残念……
―― ……何を考えているんだ俺は。

「レム?レム聞いてる?」

 向かい側で漕いでいた香奈が身を此方に乗り出し覗き込んでいた。
いかんいかん。誤魔化すようにオールを漕ぎながら、何だと返事をする。

「だからね、レムの話が聞きたいなって」
「俺の?例えばどういうものだろうか」
「えっと、そうね……友人らしく、昔の彼女の話とか?」
「……男女の友人同士というのはそういう話をするのが普通なのか?」
「私も、男友達ってレムが初めてだから確かじゃない、けど……私が聞きたいの。ダメ?」

 ボートを漕ぐ手を止めず、小首を傾げる香奈。
どうしてだろうか、何でも応えてしまいそうになる。いや隠す過去など無いのだが。

「彼女ではないが、学生時代によく食事や遊びに誘ってくる女子がいた。三か月ほどして全く連絡が取れなくなった……一体何だったのか」
「……うわぁ」

 当時を思い出し、疑問符が表情に表れていたのかもしれない。
香奈が俺の問いに答えるように言葉を続けた。

「それって脈なしで相手が諦めちゃったのね。その子も可哀想に……」
「? 諦めた、可哀想、とは……俺がやはり何かしたのか?」
「あ、ううん!レムは悪くないと思うわ。ただ、うん……ちょっと彼女の気持ちがあたしの経験の一部と重なっちゃったというか」

 どこか遠くを見つめる香奈。
益々もって分からない。が、香奈が可哀想だったことがある、ということだろうか。
……あまり、面白くは無い考えだな。

 己の湧いた思考に覆い被さるように、ふと漕ぐ感触に先程までと違う感覚を感じた。ボートが漕ぎやすいような。
力の強い俺の方に合わせて香奈がサポートするようにオールを動かしてくれているようだ。
『相手に合わせる』 これは彼女の本質なのかもしれない。

 そんなことを考えていれば、香奈が切り替えるように此方に笑みを向けた。

「でもそんなものかもね、恋はいつか終わるもの……きゃぁ!」
「香奈っ」

 突然の強い風にボートが煽られ揺れた瞬間、香奈の体が傾いた。
思わず手を伸ばしかけたが、どうやらすぐバランスを取り戻した様子に再びオールを握り締める。

「ビックリした。ボートがひっくり返らなくて良かったわね。ちょっと水被っちゃったけれど」
「大丈夫か?」
「ええ、平気よ。……あら、レム、髪が乱れてるわ」

 前髪に香奈の指の感触。
……がした、と思った矢先、目の前にあったアメジストの色と出会った瞬間に突然香奈が手を引っ込め後ずさった。

「……?」

 何かあったのかと思い香奈の言葉を待つ。
しかし一心不乱に漕ぎ出した香奈は俯いたままだった。

「すまない」
「えっ?どうしたの、レムが謝ることなんて何もないわっ」
「怒っているんじゃないのか?突然離れただろう」
「全然、怒ってないわ。不自然な動きに見えちゃったならごめんなさい」

 そう笑う香奈は、これまで見てきた彼女の笑顔とはどこか違和感があった。
まるで自分を押し殺しているような、そう、出会ったばかりの頃のような。

「俺は女心というものに疎い。何か気に障ってしまったなら謝る。俺を友と信頼してくれるなら言ってくれないか」
「……本当に、何でもないのよ。さっきのは友達の距離感じゃないなと思っただけ」

 そういうものだろうか。
そうか、と返事をすればどこか安心したような瞳を見つめ。
まだ納得は出来ていなかったが、彼女がそれ以上言わないのなら、今はまだ聞くべきではないのだろう。
香奈の心を守るのも俺の役目だ。
オールで波打つ緩やかな水面を見つめれば、焦らずゆっくりと二人の時間を楽しもうと思うのだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ファリエリータ・ディアル
呼び名:ファリエ
  名前:ヴァルフレード・ソルジェ
呼び名:ヴァル

 

名前:ガートルード・フレイム
呼び名:お前、ガーティー
  名前:レオン・フラガラッハ
呼び名:お前、レオン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月10日
出発日 01月16日 00:00
予定納品日 01月26日

参加者

会議室


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