暗闇の中で~Girl‘s Side~(沢樹一海 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「凄い嵐だな……」
 A.R.O.A.職員、ロズウェルは残業して事務仕事を片付けながら窓の外に目を遣りました。ラジオのノイズのように激しい雨音が耳を叩き、実際にこの夜闇の下、大粒の雨が降っているのが窓越しにでも確認出来ます。
「今日は帰らない方が良いか……」
 立ち上がり、凝りをほぐそうと背を伸ばします。
「あれ、まだ居たのか」
 その時、後ろから声がしました。事務室の入口に立って、先日、オーガから助け出した精霊――デュークが立っています。何だかんだとやりとりする間に、彼とロズウェルは職員とウィンクルムという立場を超えて友人同士となっていました。
「仕事が終わらなくてな。……こりゃあ、帰れそうにないよな。お前は?」
「室内トレーニングしてたんだ」
 ヘッドホンしながら走ってたから雨音に気付かなかったのだ、と彼は言いました。彼の故郷である都市カロンには、未だにギルティが居座っています。そのギルティを倒すのが、彼の目標でした。
「雨の中帰ってもいいけど、やっぱ風邪引くかなあ……」
「止めた方が良いだろう。リースは家なのか?」
「ああ、心配させるから帰りたいんだけど……」
「電話しておけばいいだろう。今日は仮眠室で……」

 窓の外で稲妻が走り、轟音が聞こえて2人は会話を中断します。
 確実に、どこかに……

「……落ちたな」
「あっ!」

 視界が真っ暗になり、デュークは声を上げました。停電です。

「これは……ブレーカーを上げれば何とかなるのか? とにかく、見に行ってみるか」
「そうだな。にしても、見事に真っ暗だな。何も見えない」

 空は雲に覆われ、月明かりや星明かりも期待できません。その中で、2人は移動を開始しました。

解説

2人で居たら、突然停電してしまった! そこで何があったのでしょう。というフリーエピソード(女性神人編)です。

本文に出てくるNPCは「支配された都市――新たな神人――」のNPCですが、こちら、読んでいなくても全く問題ありません。絡んでいただいても、ガン無視していただいても大丈夫です。

シチュエーションはもう、観覧車の中でも雨ざらしでもA.R.O.A.本部でもなんでもありです。ただし、夜です。

持ち込める明かりアイテムに制限はつけませんが、
まあスマホ画面の光とか、懐中電灯くらいでしょうか。
それ以外でも、シチュエーション的にOKと判断したら採用します。

でもまあ、あんまり明るくても面白くないですよ……ね?(意味深)

こちらのシナリオは、光熱費として(ツッコミは受け付けます)一律300ジェールが消費されます。

ゲームマスターより

前からやってみたいなーと思っていたエピソードを出してみました。
趣味全開です。
こちらは女性神人編になります。男性神人編と同様の時間帯での展開となります(特に絡みはありません)

ご参加お待ちしています。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)

  ○場所
A.R.O.A本部
※階段があればそこで

○行動
嵐が止むまでと思いましたけれど
これはダメそうですわね
電気も消えてしまいましたし

下手に動き回っても転んでしまいそうですし
目が慣れるか、灯りが点くまで
座って話をして待っていましょう

でも雨降りだから、ちょっと寒いですわね
……え!い、いいですわ!
サフランが寒くなってしまいますし!

うー、それならば!
サフランの隣にひっついて掛けてくれたコートを
2人一緒にコートを頭からかぶります
これなら2人ともあたたかいですわね

お、オバケは余計ですわ!
ででででてきたって雷の音で聞こえませんもの!

理由は……そうですわね
雷は今日みたいな月も星も見えない空を
照らしてくれますもの


ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
  同居中の自宅にて

雷と、停電…?
兎に角手どうにかグレンの部屋まで…っ!

だ、誰もいないと怖くてっ
電気点くまででいいので側にいて下さいっ!
思わず抱きついちゃいましたけど、離れません。
怖いから…

雷と真っ暗な場所苦手で…
停電がなければ部屋で毛布被ってるつもりだったんですけど、
グレンの側なら両方怖くないと思ってそれで…
すみません、こんな理由で押しかけてしまって。

子供だとか、弱い子だと呆れられてしまうでしょうか…
グレンには嫌われたくないのに、何やってるんでしょうか、私。

…うん、ちょっとづつ、頑張ってみます。
ありがとうございます、グレン。
…グレンの手、優しいから好きです。
落ち着いて、ゆっくり眠れそう…です…



ミヤ・カルディナ(ユウキ・アヤト)
  AROAに居たら真っ暗に!
思わず腰を浮かせてアヤト名を呼んだら…

【行動】
スマホを咄嗟につけて周囲を確認
声のする方を探してデューク達と合流したい
「あら?今日はリースは?」

ところで2人共、ブレーカーの位置って、知ってる?(←
職員と言えども暗闇の中ブレーカーの場所を探すのは…というかマズは思い出すところから
…っていうか果たして覚えていただろうか的な前途多難の騒動が置きそうで(頭抱え

あっアヤト、それ助かる
有難うね(にこ

物音にキャッて言いかけるけど絶対途中で飲み込むわ
私をそのへんの怖がりの女の子と一緒にしないでよ(←実は怖い

居なくなるアヤトには心細くなる
けれど、普段ツンな彼もやる時はやるって信じてるから



ユラ(ルーク)
  アドリブ歓迎

AROA本部にて

外は雨、中は停電、おまけにルー君とはぐれてるし
今日は厄日かなぁ…はぐれたのは私のせいだけどさ
あれ、停電の時って携帯使えたよね?

うーん…そろそろルー君が心配しだす頃かなぁ
あんまり動き回りたくないんだけど、探しに行くしかないか
はぁ…暗闇でかくれんぼって難易度高くない?

携帯の明かりを頼りに散策
なんかこういう状況ってホラー映画とかにありそうだよねぇ
こう、背後からガバーッと……ルー君大丈夫かなぁ

あ、ルー君見っけ
え、え、えぇ?どうしたの?何か出た??
…?えーと、ごめんね?

大丈夫だよ、私はここにいるし、どこにいてもちゃんと帰ってくるよ
だからさ、そろそろ私の事信用してくれないかなぁ



リィン・アシュヴェイル(ルーティス・W・フォルテッサ)
  二人で遊びにきた遊園地。観覧車の頂上付近で急に停電…。
なんか冗談みたいに絵に描いたような展開でどうしよう?
と、とりあえず安全確認しなきゃだよね。
周囲を見渡して安全が確認出来たら、次は復旧までの間の時間つぶし…。
しりとりしたり。色んなところ見たり…。やっぱり、高いところって見晴らしがいいから。あんまり見えなくても、色々見ておかなきゃ!!ルー君と一緒に楽しまないとね!
あんまり長いときは…。
まだ寒いし。ちょっとだけ怖くなるし。貰ったマッチに火を灯して、手帳のいらないページを燃やしたりして時間を潰すね。少し、暖かいし…。
火って、不思議だね。暖かいし、安心する。
…ずっとこのままなんてこと、ないよね?



 1、A.R.O.A.本部にて(前編)

「……!」
 落雷らしき轟音がした1拍後、A.R.O.A.本部は真っ暗になった。思わず腰を浮かし、ミヤ・カルディナはパートナーの名前を呼ぶ。
「アヤト……アヤト!」
「ミヤ」
 暗闇の奥の方から、ユウキ・アヤトの声がする。彼は障害物となっているのであろう机をがたがたと動かし、こちらへ来ようとしているようだった。
(あ、そうだ!)
 ミヤはスマートフォンを出した。画面から発せられる光が暗闇で灯る。それを目印に、ユウキの影は近付いてくる。
「何慌ててるんだ。ただの停電だろ」
「停電……あ、うん。そうなんだけど……」
 状況からして、確かにただの停電だ。ユウキと会話して、ミヤは少し冷静になった。ぼそぼそと、遠くの方で複数の人声が聞こえてきている。2人は顔を見合わせた。
「誰かいるみたいね」
「行ってみよう」
 周囲を確認しながら歩き出す。声のする方へと移動していくと、前からふたつの人影が歩いてくるのが分かる。向こうもミヤ達に気付いたようだ。
「あんた達も残ってたのか」
「何してるんだ?」
 彼等の声は、聞き覚えのあるものだった。近付いてお互いに顔を確認すると、4人はそれぞれ「ああ……」という顔になった。声の正体はデュークとロズウェル――ミヤ達の知り合いだったのだ。
「声が聞こえたから気になって……今日はリースは?」
「家に居る。携帯で連絡したら、電気が点くまで大人しくしてるっつってたよ」
「そうか。ところで、夜まで何してたんだ?」
 世間話ついでにユウキが訊く。
「ああ、仕事が片付かなくてな……」

              ∞

「……最っ悪だ」
 A.R.O.A.本部でルークは1人、吐き捨てた。雨で足止めを食らった上に、停電とは。
 傘を借りてくるから待っててね、と事務所へ向かったきり、ユラが帰ってくる気配もない。
「どこまで行ったんだ、アイツ」

 ――相変わらず、豪雨が建物を叩いている。明かりは全て落ちて周りは真っ暗。おまけに、ルークとはぐれてしまった。
「今日は厄日かなぁ……はぐれたのは私のせいだけどさ」
 立ち止まったまま、ユラは溜め息を吐く。
(あれ、停電の時って携帯使えたよね?)
 ルークと連絡を取りたい、と考えると同時に思いついて電話を取り出す。早速掛けてみると、聞こえてきたのは『お客様のおかけになった番号は……』というアナウンス。
「ルー君、電源入れてないのかなあ……」

「げ……マジか」
 ルークの携帯は、電池切れを起こしていた。役に立たない端末を仕舞い、ユラは何をしているのかと想像する。
(アイツのことだから怯えて泣いてるなんてことはないだろうが……変なとこで抜けてるからな)
 何となく、フラフラ動いて迷子になっている予感がした。
(早く見つけねぇと……アイツまでいなくなったら……――)
 ユラと出会う前に契約し、今はどこにもいないパートナーの顔を思い出す。続けてユラの顔が浮かび、彼は「ちっ」と舌打ちした。
 窓の外の嵐は、全く過ぎ去る気配がない。
「……こう嫌な天気だと、こっちの気まで滅入ってくるな」

(うーん……そろそろルー君が心配しだす頃かなぁ)
 少し待ってみたが、まだ電気は点かない。物音は聞こえず、自分達以外に人がいるのかも分からない。あまり動き回りたくはないが、ルークを探しに行くしかないようだ。
「はぁ……暗闇でかくれんぼって、難易度高くない?」
 携帯の明かりを頼りに、廊下を歩き出す。
(なんか、こういう状況ってホラー映画とかにありそうだよねぇ。こう、背後からガバーッと……ルー君、大丈夫かなぁ)
 そう考えつつも自身は特に怖そうにもせず、ユラは本部内の散策を続けた。

              ∞

「怨霊?」
「そう。今までに倒してきたオーガ達の怨念が怨霊となって深夜のA.R.O.A.を彷徨ってるんだ」
 暗闇の中でユウキは話す。いつもより背筋を伸ばしているミヤをちょっと弄ってやりたくなったのだ。
「俺も聞いたことがあるな。オーガにも、魂や感情はあるということだろ。だから何だという話だけどな」
 即興ででっちあげた話だったが、デュークはあっさりと彼の話に乗り、カロンで捕われていた時の事を思い出したのか顔を顰めた。その時、近くで何かが音を立てる。かたん、という音にミヤは「!」と肩を震わせる。小さく「きゃ」と聞こえた気がしたが聞かなかったことにしてやろう。
「怖いのか?」
「怖くないわ。私をそのへんの怖がりの女の子と一緒にしないでよ」
 あからさまに怖がっているのが面白い。だが、スマートフォンの明かりだけのぼんやりとした視界の中でミヤが涙目になっているのを見てユウキは「ごめん」と言った。ミヤは彼を恨みがましげに見てからデュークとロズウェルに言う。
「ところで2人共、ブレーカーの位置って知ってるの?」
「俺は知らないな。でも、ロズウェルが知ってるだろう?」
 デュークとミヤは、ほぼ同時に事務長を見た。職員といえどもこの状況ではブレーカーを探すのは簡単ではないだろう。そう思ってのミヤの確認だったが、ロズウェルは2人に答えずにその場に立ち尽くしていた。暗闇でも分かるくらいに顔面蒼白だ。
「そ、そうか、最近よく物音がすると思ったら、そういうことだったのか……」
『ロズウェル?』
 3人同時に驚き、声を掛けるがロズウェルはもう聞いちゃいない。
「お、俺はもう明日から定時に帰るぞ。絶対に1人では残らないぞ……お、怨霊に呪われる……」
『…………』
 これは、もうロズウェルはあてにできないかもしれない。否、確実にできない。
「……事務室に行って懐中電灯取ってくる。それからブレーカー探せばいいだろ。お前等はその辺にいろ」
「あっ、アヤト、それ助かる」
 ユウキの言葉に、ミヤはほっとしたように笑顔になった。
「有難うね」
 にこ、と笑みを向けられ、ユウキは一瞬どきりとした。急いで彼女に背を向ける。
「じゃあ、行ってくる」

 2、観覧車の中で

「「わっ……」」
 突然の激しい揺れを感じて、リィン・アシュヴェイルとルーティス・W・フォルテッサは驚いて声を上げた。真っ暗になってしまった空間に、静か過ぎる程の静寂が訪れる。まだ揺れ続けるゴンドラの中で、2人はしばらく体を硬直させていた。突発事態に、緊張もしていたかもしれない。
「……はぁー、びっくりしたね、ルー君」
「うん。停電みたいだけど……」
 ミットランドにある、透明ドームの中にある遊園地『クリア・ドリームパーク』――嵐も凌げるし何より楽しいしと、今日も来園者で賑わっている。停電があったのは、2人が乗った観覧車のゴンドラが頂上付近まで行った時のことだった。
 街が、そして遊園地全体が停電したようで窓の外全てが真っ暗だ。
「なんか、冗談みたいに絵に描いたような展開だね。どうしよう……? と、とりあえず安全確認しなきゃだよね」
 リィンが立ち上がると、ゴンドラがまた揺れた。「リィンさん」とルーティスが立つ気配がし、腕が取られる。
「大丈夫?」
「うん。ありがとう!」
 窓に掌を当てて外を眺める。暗くて様子はよく分からないが、どのアトラクションも動いてはいないようだった。懐中電灯らしい灯りが所々で動いている。来園者を誘導しているのかもしれない。
「揺れも収まったし、すぐに危ないことにはならないと思うよ。停電が直るまで、待つことになりそうだね」
「そうだねー……じゃあ、その間、しりとりでもしよっか!」
「しりとりか。いいよ」
 ルーティスの手がリィンの腕から離れかける。向かいの席に戻ろうとしたのだろう。それを、リィンはがしっ、と掴んだ。
「リィンさん?」
「えっと、私の隣に座ってほしいなー……なんて」
 咄嗟の行動だったけれど、明るくなるまで――観覧車が無事に動き出すまで、傍にいてほしい。そう思って、照れ笑いを浮かべつつ彼女は言った。
「隣……あ、う、うん」
 慌てたような焦ったような、そんな返事の後で2人は同じ側の席に座った。
「じゃあ、私からだね。えーと……遊園地!」
「ち、だね。ち……ち……チケット」

「ルー君、ほら、ここからだと街同士の境界がよく分かるんだよ! あの辺がビルで、あの辺から三角屋根ばっかりになってるから……」
 やっぱり、高い所は見晴らしが良い。しりとりが終わっても、停電は復旧しなかった。せっかく観覧車に乗ったのだから、あまり見えなくても色々見ておかなきゃとリィンははしゃぎ声を上げる。ルーティスと一緒に、楽しむのだ。
 けれど。
「……どうしたの?」
「ううん……」
 我に返ると、ちょっと、怖さがぶり返してくる。
「寒いよね。何かあったかくなる方法ないかなあ。……あ、そうだ! 貰ったマッチに火を灯して、紙を燃やしてみるとか」
「それは、危ないんじゃ……」
「そ、そうだよね。じゃあ、ルー君は何か閃かない?」
「僕? 僕はそうだね……」
 ルーティスは「うーん……」としばし考え、やがて言った。
「じゃあ、ここで渡しちゃおうかな」
「え? 何を?」
「さっき、こっそりプレゼントを買っておいたんだ」
 荷物をごそごそして、彼は小さな箱をリィンの両手の上に置いた。リボンがかけられているのが、手触りで分かる。
「ありがとう……開けていいの?」
「うん。今ここで開けて、使ってみよう」
 そうして中を開いて出てきたのは、小さなキャンドルだった。
「わぁ……」
 リィンはマッチを擦り、火を灯す。ピンク色のキャンドルが小さな火に照らされた。少し、暖かい。
「どうかな」
「うん……火って、不思議だね。暖かいし、安心する」
「そっか……良かった。リィンさんが元気になると、僕も嬉しいよ」
「ルー君……」
 ルーティスは気付いていたのかもしれない。自分が心のどこかで、暗闇を怖がっていたことを。心細く、思っていたことを。
 ――もう、繕う必要はないのかもしれない。
「……ずっとこのままなんてこと、ないよね? 大丈夫だよね。きっと、降りられるよね?」
「うん、大丈夫だよ、安心して」
 キャンドルが少しずつ溶けていく中、リィンのすぐ近くで彼は励まし続けてくれていた。

 3、時には誰かを

「きゃっ……!」
 ぷつん、という音がしたようなしないような。
(雷と、……停電……?)
 グレン・カーヴェルと2人で暮らす借家――突如真っ暗になった自室で、ニーナ・ルアルディは小さく悲鳴を上げた。周囲を見回し、プチパニックになる。
(と、兎に角どうにかグレンの部屋まで……っ!)
 自室を出て、方向的にこっちだろうという方へと進んでいく。途中で何度も、椅子や机にぶつかった。その度に周りにがたんっという音が響く。
 何とかグレンの部屋前に辿り着いたのと、部屋の扉が開くのはほぼ同時だった。
「おい、どうした何かあったか……って、あっぶね!」
 飛び込んできたニーナをグレンは受け止める。抱きついてきたニーナは、間髪入れずに訴えた。
「だ、誰もいないと怖くてっ。電気点くまででいいので側にいて下さいっ!」
 強く抱きしめ、ニーナはグレンの胸に頬を押し当てる。
「分かった分かった」
 必死さが伝わってきて、グレンは彼女の頭をぽんぽんと叩く。
「この部屋居ていーから。そばにいてやっから」
 彼女の手が、背中の服をきゅっと掴む。
「とりあえず座れ。そして落ち着け」
 ソファに腰掛けさせると、手でしきりに目を拭うニーナの背を撫でる。すると、彼女は腕に抱きついてきた。
 ――泣かれると対処に困る……
 とりあえず背を撫で続けていると、ニーナは涙の残る声で話し始めた。
「雷と真っ暗な場所苦手で……。停電がなければ部屋で毛布被ってるつもりだったんですけど、グレンの側なら両方怖くないと思ってそれで……。……すみません、こんな理由で押しかけてしまって」
 話しながらニーナは、子供だ、とか、弱い子だ、と呆れられてしまうだろうかと考えて少し自己嫌悪に陥った。
(……グレンには嫌われたくないのに、何やってるんでしょうか、私)
「…………」
 暗くて顔は見えないが、グレンにはニーナがどんな顔をしているのか想像がついた。きっと、悔しそうな顔をしているのだろう。こんなことで、軽蔑も嫌いもしないのに。
 雷も暗い場所も苦手なら、仕方がない。
 背を撫でていた手を、ニーナの頭に移す。腕に抱きついている彼女の頭を撫でつつ、それはそれとしてグレンは思った。
 ――しかし、この時間に男の部屋に来るとか一体何考え……
 そこで一瞬、手が止まる。
 ――多分、何も考えてねーわ。
 こうして腕に抱きついているのも、ただ、純粋に怖いからで。
「……いつ、誰が迷惑だとか言った。使えるもんは使っとけ」
「……?」
 ニーナが顔を上げる気配がする。
「お前、何でも1人でやろうとするが、誰かを利用することも覚えとけよ」
「…………」
 時が経つこと十数秒。グレンの手の下で、彼女はこくんと頷いた。
「……うん、ちょっとずつ、頑張ってみます。ありがとうございます、グレン」
『利用する』という言い方をしているが、それが『頼る』という意味なのだということが彼女には伝わっていた。
「まあ、そう意識してやることでもねーけどな。ちょっと素直になりゃいーんだよ。それだけだ」
 ずっと、撫でてくれている。彼の、温もりを感じる。少しずつ、気持ちが和らいでいく。
「……グレンの手、優しいから好きです」
「……そうか」
「落ち着いて、ゆっくり眠れそう……です……」

(……寝たか)
 ニーナがすうすうと寝息を立て始めたところで、グレンはゆっくりと彼女の頭から手を離した。嵐は、まだ続いている。だが、雷は幾分か遠くなったように感じられた。
 彼女の腕を解くことなく、そのままの姿勢で時を過ごす。
 寝息が子守唄になったのだろうか、グレンも、いつのまにか眠りに落ちていた。

 4、A.R.O.A.本部にて(後編)

「嵐が止むまでと思いましたけれど、これはダメそうですわね。電気も消えてしまいましたし」
 本部に残っていたマリーゴールド=エンデは、その辺りに居るであろうサフラン=アンファングに向けて言った。暗闇の中から、サフランの声が聞こえてくる。
「ま、しばらくは収まらないだろーな。停電も長引きそうだ」
「下手に動き回っても転んでしまいそうですし……」
「確かにマリーなら転びそうだ」
「! 失礼ですわね、一般論ですわ!」
 軽口に反論しながら、マリーゴールドは自分達の現在地を頭の中に描き出す。ちょうど、近くに階段がある。
「目が慣れるか、灯りが点くまで座って話をして待っていましょう」
「そうだな」
 同意の声が聞こえ、彼女は記憶を頼りにしつつ目を凝らし、何となく見える気がする階段へと歩く。何とか一段目に座ると、少しして隣に誰かが――サフランが座る気配がする。
 自然と身震いが出る。雨が降っているから、ちょっと寒い。
 そう思った時、隣でまた何か気配があった。サフランがコートを脱いでいる。頭からばさっと何かが掛かったのは、その直後だった。
「……コート……何してるんですの?」
「雨だし、夜だし、寒いだろうからね」
「……え!」
 その意味に気付いたマリーゴールドは、慌てて隣に目を向けた。掴んでいなかったコートが、微妙にずれる。
「い、いいですわ! サフランが寒くなってしまいますし!」
「俺? 俺はいーの。そんなに軟じゃないからサ」
「…………」
 隣を見るが、まだ表情が分かる程は闇に慣れていない。きっと前を向き、いつもと変わらぬ大して意味のない笑みを浮かべているのだろう。
 そう言われたからと言って、はいそうですかと納得はできない。でも、一度被ったコートは暖かく、この温もりからも離れ難かった。
「うー……」
 考えた挙句、それならばとマリーゴールドはサフランに触れるまで横移動した。彼にひっついて、1枚のコートを共用できるように自分と彼の頭から掛ける。
「これなら大丈夫。2人ともあたたかいですわね」

 何が大丈夫なのか良く分からないけれど。
 確かにあたたかいけれど。
(……どちらかと言うと、マリーの体温あたたかいと言うか)
 そして、この状況は微妙に照れ臭い。
 なので、サフランはからかって誤魔化すことにした。
「ヤダ、マリーゴールドサンッタラセッキョクテキー」
「……言うと思いましたわ」
 隣を見るが、近すぎて彼女の表情は分からない。だけど何となく前を向き、少し赤くなった頬を膨らませているような気がした。……気がしただけで、全然違うかもしれないけれど。
「マリーは、オバケは苦手なのに雷は平気なんだな」
 横顔を見ようと試みてしばし、思いついたことを言ってみる。すると、今度は分かりやすい反応が返ってきた。
「お、オバケは余計ですわ!」
 声が見事に裏返っている。
「ででででてきたって、雷の音で聞こえませんもの!」
 出てくるかもしれない、と考えていたような怯え方だ。
「ハハハ、ヤダマリーゴールドサンッタラコワガリサンー」
「そ、そんなことはありませんわ!」
 むきになって否定するところが面白い。この頃には、目が慣れてマリーゴールドの表情も少し見られるようになっていた。こちらを向いていた彼女は、窓の外にまっすぐに視線を向ける。
「雷は……怖くありませんわ」
「へえ、どうして?」
「雷は、今日みたいな月も星も見えない空を照らしてくれますもの」
 窓の外で、稲妻が光る。一瞬、微笑むマリーゴールドの顔が見えた。一瞬遅れで轟音が空気を震わす。
「……俺は、マリーみたいに考えた事はなかったなぁ」
「あなたは、どうなんですの? 雷」
「俺は好きでも嫌いでもないよ」
 鋭い光と低い音が、また嵐の中に加わり、消えていく。天気は良くなりそうにない。それでも、サフランの心は穏やかだった。
(……でも、今日みたいなのは、悪くはない、かもネ)

              ∞

「あ、ルー君見っけ」
 手探りで歩くルークの後姿を見つけ、ユラは声を掛けた。携帯の光が照らす先でびくりと肩を震わせたルークは、緊張が一気に溶けたような、心の底から安堵した顔で振り返った。その様子に、ユラはびっくりする。
「ユラ……」
「え、え、えぇ? どうしたの? 何か出た?」
「そうじゃなくて……」
 ルークはユラの手を取ると、彼女の肩に頭を乗せるようにもたれかかった。
「……勝手にいなくなるなって言っただろ」
 耳元で、あまり余裕がなさそうな声が聞こえた。
「……? えーと、ごめんね?」
 彼が何を恐れていたのかが伝わってきて、ユラは謝る。その理由はピンと来なかったけれど、心配などという言葉では片付けられないくらい、彼女を心配していたことも。
「大丈夫だよ。私はここにいるし、どこにいてもちゃんと帰ってくるよ」
「…………」
「だからさ、そろそろ私のこと信用してくれないかなぁ」

「……信用とか、そういうことじゃないんだ」
 それは経験から来るものだから、ユラへの感情とは別のところから来る恐怖だから。
 けれど、彼女の言うことも分かる。
 彼女に頭を預けたまま、ルークは束の間、目を閉じた。

              ∞

「大丈夫、大丈夫よロズウェル。よくある噂話よ、多分。うん、多分」
「多分……し、しかし、火のないところに煙は立たないとも言うじゃないか」
「そ、そうだけど……そ、そんなこと言わないでよ!」
 ユウキが戻ってくるまで、ミヤはデュークと一緒にロズウェルを安心させるべく自分を納得させるべく、話しかけ続けていた。おかげで、静まることはなく割と気は紛れた――筈なのだが。
 平静であるデュークには失礼な気もするがこの3人では何となく頼りなく、ユウキが居ないことにミヤは心細さを感じていた。
(アヤト、普段はツンだけど、やる時はやるって信じてるからね)
 怨霊に怯えながらも3人で固まっていると、廊下が一気にオレンジ色に照らされる。
「待たせたな。……どうした? ミヤ」
「な、なんでもないわ。さあ行きましょ」
 ブレーカーを探すべく歩き出す。デュークもロズウェルを引きずるようにしてついてくる。横に並んだアヤトは彼等とミヤを順に見て、超小声で「悪かった」と謝ってきた。ちょっと恥ずかしそうでもある。
「あの話、でたらめなんだ」
「ええっ!?」

 ――ブレーカーが上げられたのはそれから数分後で、A.R.O.A.本部は無事に明るくなったのだった。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 沢樹一海
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月10日
出発日 01月18日 00:00
予定納品日 01月28日

参加者

会議室


PAGE TOP