【指南】朝露に厄を掲げて(錘里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 鎮守の森は知っておろう? ぺらりと薄い二次元色白美女、クジノアタリ・ソウナ姫はとてもいい笑顔でウィンクルム達へと切り出した。
『かつてお主らを頼った際には瘴気に満ちていたあの場所が、今では清浄な森に戻っておる。実にいい場所だ』
 話の趣旨が窺えず、はぁ。と気の無い返事をするが、姫は意に介した様子もなく、さらに続けた。
『デートスポットとでもいうべきか。ちょっと二人で散歩するにもよく、軽食なんぞを持ってゆったりとした時間を過ごすのも良い』
 聞けば虹が生まれると言う池があったり、岩が笑ったりするスポットもあるらしい。神秘的な公園の装いだ。
 が。その森の一部が、カップル立ち入り禁止状態になっているらしい。
『あの小娘……もとい、年若い女神殿の手厚い手厚い措置のお陰様でな、それはもう清廉潔白とした実に詰まらんことになっておる』
 本音が零れた。若干忌々しげに舌打ちした気がした。
 どちらかと言えば恋多き姫は、今回の甕星香々屋姫の大暴走が大層気に入らないのである。
 とはいえ、宮を任されるほどの女神さまとソウナ姫とでは、神格が段違い。文句の一つも言うことは許されていない。
 そこで白羽の矢を立てられたのがウィンクルム達である。
『お主ら、ちょっと鎮守の森でデートしてまいれ』
 突飛すぎる姫様は実にいい笑顔だった。
 ぶっちゃけドン引きしている様子のウィンクルム達はやはり意に介することなく、姫はぺらりとした手を翻して、何処からともなく御神籤の箱を差し出した。
『この箱の中には凶の札しか入っておらん。ここから各々一枚引いて行くが良い』
 そうして、カップルと見ればすぐさま寄ってくる童子や道を塞ごうとする塞の神などにそれを見せ、凶の御神籤を鎮守の森の某所に収めれば厄が払われるとごり押してスポットまで辿り付けとの事。
『童子は女神の分身じゃ。それが厄払いをも禁止しては神として勤まるまい? 相手を思いやる演技を見せるのも良い。本音でも勿論構わぬぞ。むしろ心からの思いならなお良い。そう言った行動は、あの小娘にも伝わるじゃろう』
 ころころと笑った姫は、最後に鎮守の森の地図を示して、告げた。
『して、今回お勧めの場所じゃが……森の奥にな、最近小さな滝が出来たのじゃ。朝日の当たる瞬間、その滝の前に居ると、小さな竜が飛び出してくるそうでのう』
 これくらい。と、両手を広げて示した大きさは、1メートルほど。子供のようなサイズだ。
『優しくしてやれば、懐いてくるだろう。ちなみにこの籤はその子竜が食べられるよう加工してある』
 つまり偽御神籤の奉納と子竜への餌やりが同時にできて一石二鳥である。
 この姫、なかなか狡い事を考えるものである。
『人の気配が減って、寂しくしておるだろう子竜と、少し遊んでやってくれ。どうせなら、将来の我が子でも思い描いてな』
 にやりと笑ったソウナ姫は、頼んだぞとウィンクルム達を見送るのであった。

解説

●出来る事
・滝の傍でご飯を食べたり散歩したりのんびりする
・子竜と遊ぶ

両方する必要はありませんが両方して頂いても構いません

●して欲しい事
全体を通して、恋人(親しいパートナー)と過ごす時間がどう言うものかと言うことを、監視役の童子に伝えて下さい
言葉でも行動でも、どちらでも

●費用
子竜の餌(御神籤)に提灯、ウィンクルム用の温かい飲食物を付けて1ペア400jr頂戴いたします

●滝について
姫より地図を預かっているので基本的に迷う事はありません
朝日の当たる瞬間に子竜が飛び出しますので、出発は日の出前となります
暗がりなので足元にお気を付けください
寒いので暖かい格好をしてきましょう

なお、滝までの道には塞の神が通せん坊をしてきますが、籤を見せて厄払いと言えば通して貰えます
(上記「して欲しい事」に関わる行動がない場合は描写されません
 到着後の方を重視したい場合は特にプラン内で気に掛けなくて構いません)

ゲームマスターより

滝の傍でしっとりでも、子竜ときゃっきゃでも、過ごし方はご随意に
重用なのは二人で過ごす時間を楽しむ事です
有意義な時間をお過ごしいただけますように

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  何、束で持ってんだよ(咎
…確かに、分からなくもないが(汗
子竜か…どんなかなあ(想像

◆滝まで
懐中電灯一本ずつ
照らして滑らないように踏みしめて
通行料代わりの籤は一枚ずつ見せるよ
サクサクと足音がやけに心地よく耳に届くのは何故だろう…

◆滝
ああ、今出すよ(飲物を渡す
こんなことも有ろうかと背嚢にブランケットも入れてきたんだ一枚ずつ
*ランスの行動は、驚くけど素直に受ける

夜明け少し前に腕時計アラームセット
寄り添うように暖かさを求め夜を過ごす
⇒あれ?俺寝てた?(汗

子竜に籤をあげる
嬉しくなって沢山あげたい
撫でたりじゃれたりして遊べるかな

ああアレね(雪だるま棒を渡す←アレで通じる

よし、お前の名前は「モルゲン」だ(笑



セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  籤の厄払いに行くんだ。通らせてもらうよ
…どうする?

わ!?(動揺と暗さで躓いた)ごめん。僕は…見られるのは苦手だ…何したらいいかわからない

…やってみる
(デートとか子供とか…言われた事を難なくできるだけ肝は据わってない。けど大切な人を想う気持ちならできるはず)
手を繋ぎ


愛嬌あるね。瞳がくりくりしてて可愛い
初めまして言葉はわからないかな
食べる?(籤を出し)
食べたら感動。おずおずと触り

そうだね。僕はレモンパイ(メイド作)もってきた

◆滝を眺めタイガ達を微笑ましそうに

『あいしてる』は本心だったの?
(あれはアイタケのノリできてるのかも知れないけど、最近なにか)

あ、え…いやまって頭回らない(赤く
思い切り良すぎ



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  デートしてまいれ、って、姫様本当に幸運の女神だな!
「神サマのお墨付きでデートに行こうぜ」と超笑顔でラキアを誘ったぜ。

朝早いから防寒はしっかり。
色違いの帽子と手袋。マフラーもしていくぜ。
懐中電灯で足元の明かりも確保。
「早朝登山でも灯りは大事」
ラキアがつまずいたりしたら大変じゃん。
少し早目に行って森の散策を楽しみながら行くぜ。
ラキアは花や樹が好きだから、ゆっくり森の木々を眺めたいだろうし。
楽しそうなラキアを見ているとオレも嬉しい。
もこもこにまるくなったスズメって可愛いな。

子竜の姿を見たら「おはよう」と笑顔を向ける。
頭を撫でて、御神籤食べさせてあげよう。
傍でオレ達もお弁当食べるぜ。温かくて嬉しい。



アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
  籤を子竜に食べて貰い、優しく頭を撫でてから他の人に場所を譲る
滝の近くにレジャーシートを敷いて二人で並んで座る

それにしても『我が子』か
俺は考えてないけど、クレミーはどうなんだろう

「クレミーは、子供は欲しいのか?」
俺はこのまま傍にいてもいいんだろうか

精霊の想定外の答えに思わず絶句
続いての言葉に赤面
確かに18才未満じゃなくなるんだけど
そう言うつもりで聞いたわけじゃ……(もごもご小声)

え?家に行っていいの?
変な意味でも俺は嬉しい、かな

(体を寄せて手を重ね)
俺、いつも一方的に喋ってるけど
クレミーはいつでも穏やかに、幸せそうに俺の事見てて
『ずっと一緒』が揺るぎなくて
俺は、安心して甘えられて、癒されるんだ



明智珠樹(千亞)
  ふ、ふふ。千亞さんと見る朝焼け…!素敵な響きです。
お足下お気を付けくださいね(提灯持ち)
寒かったらいつでも人肌で暖め(略)

★道中
可愛い子竜。そして子竜たんを愛でる可愛い千亞さん…!
私達の家族生活の予行演習ですね、ふふ。
『何言ってんだ馬鹿!人前でっ(赤面&蹴り)』
童子さん、これがツンデレというものです。
攻撃は愛情表現の一種です。
周りのカップルさんしかり、愛は色んな形がありますね…!

★竜
(可愛がる千亞を微笑ましく見守り)
…私も撫でていいですか?
『ん?勿論』
千亞さんの尻尾を。
『断る』
残念です、ふふ。

楽しそうな千亞さんの姿を見させてくださり
ありがとうございます、子竜たん(なでなで)
また遊びにきますね。



 まだ暗い森の道。それでも明智珠樹の足取りは軽い。
 提灯をさりげなく足元に向けて、隣を歩く千亞の足取りをも照らす。
「ふ、ふふ。千亞さんと見る朝焼け……! 素敵な響きです」
 揺れる提灯の灯りは、珠樹の口調に呼応するように、ふわふわしているように見えて。千亞は露骨に溜息をついて見せたが、その裏側では、今から逢いに行く子竜に思いをはせてそわそわとしていた。
「寒かったらいつでも人肌で暖め」
「黙れ変態」
「ふふ! 千亞さんは恥ずかしがり屋ですね」
 マフラーを冷えてくる頬を覆うように上げながら、対の肘で珠樹の脇腹を的確に抉る千亞。
 それでも楽しそうな珠樹は、踊るような足取りだ。
「可愛い子竜。そして子竜たんを愛でる可愛い千亞さん……! 私達の家族生活の予行演習ですね、ふふ」
 うっとりとしたような珠樹の台詞に、寒さとは違う赤みが頬を染めるのを自覚した千亞は、思わず数歩後ずさって。
「何言ってんだ馬鹿! 人前でっ!!」
 ドン引きと見せかけて、全力の跳び蹴りを喰らわせた。
「ぐふっ……童子さん、これが、これがツンデレというものです……攻撃は、愛情表現の一種です」
「もうお前一回黙れ!」
 暗い森に千亞の怒号が響く。じとーっと見つめてくる童子とは対照的に、さわさわと揺れる木の葉は、まるで微笑ましさに笑っているよう。



 じゃあなーと元気に手を振って塞の神を通り過ぎたのはいいが、ふよんふよんと浮いてついてくる童子の姿をちらりと見て、セラフィム・ロイスは小さくため息をついて、隣の火山 タイガに視線をやった。
「……どうする?」
 んー、と考えるような返事をしたタイガは、セラフィムと同じようにちらりと振り返ってから、からりと笑う。
「そりゃカップルはいいもんだって分からせるっきゃねーだろ」
「え、わっ!?」
「おっと……大丈夫か、セラ」
 タイガのあっさりとした返答に思わず動揺して躓いたセラフィムを支えれば、ごめん、と小さく声が返って。
「僕は……見られるのは苦手だ……何したらいいか判らない」
 困ったような顔が、提灯の灯りで翳って見えて。タイガはセラフィムをちゃんと立たせてやりながら、明るく笑った。
「何とかなるって、子竜と遊ぶだけでもいいし恋人らしい話題だすとかさ。足元気をつけろよ」
 そう言って、セラフィムの手を引くタイガの手を、握り返して。
「……やってみる」
 頷いて、タイガの隣に並んだ。
(デートとか子供とか、言われたことを難なく出来るほど肝は据わってない、けど)
 大切な人を思う気持ちは、意識なんてしなくても、現れるはずだから。
 ――そうやって、真面目に考えるところも、少し震えたように感じた手のひらも、いじらしいとタイガは思う。
 抱きしめたい衝動は、堪えて。代わりに繋いだ手にほんの少し力を籠めて、歩んで行った。



「あ」
 提灯の灯りの向こう側で、まぁるくふくよかになった雀が飛び立つのを見つけた。
 ちちち、と小さな声を響かせる雀を追って灯りを上げかけたところで、セイリュー・グラシアは低い枝に下がる赤い実を見つけて、そちらに興味を奪われる。
「それは、ナンテンだね」
「ナンテン?」
 セイリューの後ろから顔を覗かせたラキア・ジェイドバインが、説明するように告げるのを聞きながら、つん、と実を小突くセイリュー。
「うん、お正月飾りとかに使われてる実だよ。難を転ずるって名前が、縁起がいいって言われてるんだ」
「あ、なるほど。どうりで見たことあると思ったら!」
 合点がいったような顔をしたセイリューは、物知りなラキアに純粋な賛辞を贈る。
 吐き出す息が白く冷たくても、笑い合えば暖かい。
 早めの出立、暗い森は足元が時折おぼつかない事もあるけれど、森の草木を眺めながらの道中は、とても楽しい物だった。
「ラキア、あれは?」
 気になる物を見つけては足を止めてラキアに尋ねるセイリュー。
 ラキアもラキアで、大好きな草花を眺めては足を止めるのを、セイリューが振り返って一緒に覗き込む。
 雪が残るのをそっと指先で払えば、椿の赤が映える。
 仄かに甘い香りを感じて顔を上げれば、ロウバイの花が咲いていた。
「――ね、冬でも、色んな花が咲いてるでしょう?」
 楽しそうなラキアの顔を見ていると、自然と笑顔になるのがセイリューだ。
(デートしてまいれって、姫様本当に幸運の女神だな!)
 神様が言うのだから、と。堂々と「デート」に誘ったセイリューに、ラキアは一度は瞳を瞬かせたが、ゆるりと笑みを浮かべて、頷いたのだ。
 朝日を拝みながら子竜に御神籤を食べて貰うなんて、幸福を呼び込みそうだと笑ったラキアは、自分達の朝ごはんもお弁当として詰め込んで颯爽とお出かけ準備を済ませてきた。
「お、また雀。おはよー」
 朗らかな声が、暗い森の雰囲気を掻き消すように明るく響く。
 小鳥たちもそれに応えるかのように、小さく鳴き声を零す。
 穏やかに流れる時間。逃げないように遠巻きに、それでも笑顔で手を振りながらのセイリューを、可愛らしい、と思いながら。
 のんびりとした滝への道中を、ゆるり、二人は歩いて行った。



 ぴらり。2メートルはあろうかという土偶じみた巨体に、アキ・セイジとヴェルトール・ランスは通行料と言わんばかりに凶の御神籤を示してみせた。
「厄払いなんだ」
 堂々と言い放つセイジとランスはどう見ても、どー見てもカップルじみたオーラが迸っている。
 が、塞の神も神の端くれ。少し唸ったようだが、何を言うでもなく道を開けた。
「お勤めご苦労さん」
 ぽん、と岩肌に似た体を撫でて通り抜けたランスは、見せた籤を懐にしまい込む。
 そこには、ソウナ姫からたっぷり預かってきた御神籤がある。曰く、餌ならば一枚じゃ少なかろうとの、事。
 その辺に結んでくれば勝手に食べるだろうと気前よく渡してくれた姫の姿を思い起こして肩を竦めたセイジは、不意に視界の端に木の根が映るのを見止めて、ひょいと跨ぐ。
「そこ、気を付けるんだぞ」
「ん、サンキュー」
 照らされる灯りを辿るように同じ根を跨いだランス。
 再び並んで進む足音が、何だか、とても心地よく耳に届く気がした。
「子竜か……どんなかなあ」
「子供だし、鳴き声とか可愛いかもな」
 思いを馳せながら目指した滝は、程なくしてたどり着き。
 小腹も空いた事だし、とチキンサンドを取り出したランスは、一口齧りながら、「アレもほしいなと」セイジに強請る。
「ああ、今出すよ」
 何、とは聞かない辺りが色々完成されている。
 当たり前のように飲み物を手渡し、朝食には早い夜食を、二人で味わった。
 程よく満たされたところで、日の出の少し前にアラームをセットしたセイジは、ブランケットを二枚広げて、一枚をランスに手渡した。
「こんな事もあろうかと、な」
 けれど、受け取ったランスは少しだけ思案するような間を置いてから、自分の分とセイジの分、二枚を重ねると、セイジを抱きしめるようにして、羽織った。
「この方が暖かいじゃん?」
 耳元で聞こえる声に、セイジは少しだけ目を丸くしたけれど、異を唱えることはせず、大人しく身を預けた。
 じんわりと広がる暖かさに、穏やかな時間が流れるのを、感じながら。



「あぁ、もうじき陽が昇るねぇ」
 目の上に掌を掲げれば、遠くを見るように。けれど陽が昇るにつれて、その手のひらは、眩さを遮るように。
 クレメンス・ヴァイスの呟きに、アレクサンドル・リシャールは待ちわびたように顔を上げ、朝日の煌めきを受ける滝を振り返った。
 きらきらと星粒のような飛沫を跳ねさせる滝に、徐々に光が差し込んでいく。
 ――ぱしゃん!
 一つ大きな音を立てて、滝の真ん中を暖簾のように掻き分けて、小さな竜が飛び出してきた。
 小さな、と言っても、その体躯は子供程もある。小さな前足のみの竜は、くるりと旋回すると、見つめるアレクサンドルを、ずいと覗き込んだ。
 くりくりの瞳に、少し驚いたようなアレクサンドルの顔が、映り込む。
「……食べるか?」
 じぃ、と睨めっこのような時間が続いた後、くす、と小さく笑んだアレクサンドルは、ひらりと御神籤をちらつかせ、首を傾げた。
 すんすんと匂いを嗅ぐように御神籤にすり寄った竜は、それが自分の食べるものだと認識したようで、ぱっと口を開けて、御神籤にかじりついた。
 ……どちらかというと山羊がもしゃもしゃと紙を食む光景を想像していたが、幼体でも立派に生えそろった歯を見ると、かじりつく、の方がしっくりくるのであった。
 早々に御神籤を手放し、代わりに優しく頭を撫でたアレクサンドルは、子竜の出現でそわそわしている仲間たちを見て、どうぞと場所を開ける。
 そうして、滝の近くにレジャーシートを敷きながら、じっと一人と一匹のやり取りを眺めていたクレメンスと、並んで腰を下ろした。
「やっぱ子供でも、竜は竜なんだなー」
「せやね。あないおっかないもん既に持ってるとは、思わんかったけども……」
 それでも、やっぱり愛らしいものは愛らしいと、愛想を振りまきながら御神籤を食べている子竜を見つめて呟いたクレメンス。
 ちらり、そんな彼を横目に見てから、アレクサンドルは思案するように、まだ夜と朝の境目でグラデーションを作っている空を見上げる。
 話を持ち込んできたソウナ姫は、『未来の我が子』を思いながら接するのもいいだろうと言っていた。
 そんなものは全く考えてなかったアレクサンドルだが、クレメンスは、一体どうなのだろう。
 ちらり。確かめるように見た彼と、目が合ったから。
「クレミーは、子供は欲しいのか?」
 このまま傍に居てもいいのか、少しの不安を抱えながら、何の気ない素振りで尋ねてみた。
 ら、真顔になった。
「…………」
 クレメンスは考えた。子供が欲しいか。その言葉の意味を。
 流石にコウノトリやキャベツ畑を信じる程ピュアではあるまい。
 とはいえ子供のこと、なんて突飛な話を今から考えて接しているわけでもない。
 ならばなんだ。
 ……まさか。
 いやいやそんな。
 でもまさか……。
「……こないな所で据え膳されても、大した事できへんよ?」
 耳まで真っ赤に染めたクレメンスの小さな声での台詞に、アレクサンドルが沸騰するのは、意外と時間がかかった。
 言葉の意味を解して噛み砕いて組み直して飲み込んで、ようやく、である。
「た、確かに18歳未満じゃなくなるんだけど、そう言うつもりで聞いたわけじゃ……」
 もごもごと小声で告げられる台詞に、若干のやっちまった感に気まずげに視線を逸らしたクレメンスは、けれど思い出したように、再びアレクサンドルを見て告げる。
「そういえば、23日で18歳になるんやねぇ。あたしの家来たがってたし、誕生日に来はってもええよ」
「え? 家に行っていいの?」
「……念のため言うけど変な意味やないから」
 ちらりと先程までの気まずい空気を思い起こして、苦い顔をしたクレメンスに、アレクサンドルは眉を下げた顔で笑う。
「変な意味でも俺は嬉しい、かな」
 その言葉に告げた意味は、口にすることはせずに。アレクサンドルは少し冷えた体を寄せて、手に手を重ねた。
「俺、いつも一方的に喋ってるけど、クレミーはいつでも穏やかに、幸せそうに俺の事見てて……『ずっと一緒』が揺るぎなくて。俺は、安心して甘えられて、癒されるんだ」
 囁くような声に、クレメンスもまた、身を寄せて、重ねられた手をそっと握り返す。
「一緒に過ごす時間は、いつも暖かくて幸せ、やと思うてる」
 思うだけで、よう口には出せへんけど。苦笑交じりに呟く声に、アレクサンドルは何を言うでもなく笑う。
 そうやって、彼が微笑んでくれるから、クレメンスは安心できるのだ。伝わっている、と。感じられて。
(……あたしの方こそ、甘えてるんやろうね)
 その『甘え』に、安心を覚えられていることを、今はただ、幸福だと思う。



「……お裾分けは、もう少し後に声掛けようかな」
 ちらり、とだけ見て、ラキアは温かいスープを入れた保温器の蓋を、冷めないようにとしっかりと閉じる。
 そうして振り返れば、子竜の額をうりうりと小突きながら、セイリューはくすぐったげに身を捩る子竜に、「おはよう」と声をかけて笑顔を浮かべていた。
 セイリューとラキアの分の御神籤をぺろりと平らげた子竜に、スープもおすそ分けしようと思ったが、人の食べ物は口にはしないようだ。
 戸惑ったように小首を傾げるような所作に、ラキアは苦笑して、子竜の頭を撫でる。
「ごめんね。まだ御神籤は沢山持ってる人がいるからね」
 人の言葉を介しているのかいないのか、くねるようにして身を翻した子竜が他のウィンクルム達の元へぴゅーんと飛んでいくのを見届け、さて、と荷物を広げた。
「俺たちも朝ご飯だな」
「うん。セイリューは、スープ、飲むよね?」
「勿論だ!」
 満面の笑顔が頷くのを嬉しそうに見つめて、ラキアはセイリューにスープを差し出す。
 ふわりと上る湯気に顔を綻ばせたセイリューは、温もりを味わってから、ほっとしたような息を吐く。
「温かいな」
 しみじみとしたような呟きに、ラキアはただ頷いた。
「温かいね」
 セイリューが嬉しそうな顔をしているのが、ただ、嬉しかった。
 今日は、実に素敵な『デート』日和だ。



 すぅ、と。穏やかに寝息を立てるセイジを、起こさねばならないけれど起こすのは勿体無いような気がしていたランスは、自身もまたうとうととしていた事に、朝日の差し込む光で気が付いた。
「セイジ、セイジ!」
「ん……あれ? 俺寝てた?」
 はっと身を起こし、慌てたような顔をしたセイジに、くす、と微笑みかけて、ランスは滝の方へと促した。
 飛び出してきた子竜が、ウィンクルム達の間をくるくると飛び回るのを見つめ、目が合った瞬間、ぱっ、と膝をつき両手を広げて待ち構える。
 その懐に、餌である御神籤が覗くのを見つけ、子竜は真っ直ぐにランスに飛び込んでくる。
 きゅ、と抱きしめてから、束で預かった御神籤を一枚ずつ食べさせていく。
 セイジもそれを隣で眺めては、うずうずとし、一枚食べきるのを待ってから自分の懐から出した御神籤を差し出してみる。
 あぐあぐと勢いよく食べるのを邪魔しない程度に撫でて、もうないの? とすり寄ってくるのを微笑ましげな顔をして受け止めるセイジ。
 そんな様子をこそ微笑ましげに眺めていたランスは、あ、と思い出したような声を上げる。
「セイジ、アレ出してくれよ」
「ん、ああアレね」
 醸し出される夫婦感再び。
 雪だるまの飾りが付いたステッキをランスへ手渡すと、よーし、とランスは張り切ったようにそれを振る。
「お兄さんが遊んでやろう!」
 猫じゃらし宜しくふりふりと雪だるまを振れば、子竜は面白そうにじゃれてくる。
 しかし忘れてはならないのがこの子竜、人の子供サイズである。
 犬猫ほど簡単にはあしらえず、勢い余って押し倒され、「ギブ、ギブ!」なんて声を上げながらも、ランスは楽しそうに笑っていた。
 一頻り構い倒した後、子竜がかじかじと雪だるまを齧るのを窘めながら、よし、とセイジは一つ頷く。
「お前の名前は『モルゲン』だ」
「モルゲン……? 朝って事か」
 朝日とともに飛び出してきた子竜にはぴったりだと、思ったけれど。
「……なんか、気に入らないっぽいぞ」
「もしかして、もう既に名前が付けられてるのかも?」
 ふるふる、首を振るような仕草を見せ、つぃーと離れて行ってしまった子竜を見送って、ふむ、と小さく呟くのであった。



「可愛いねぇ可愛いねぇ。撫でても良いかな?」
 千亞はデレデレだった。
 可愛い物が大好きな千亞は、ぴゅーんと飛んできた子竜をぴらぴらと御神籤で釣ると、それを食べる様をにこにこと眺めていた。
 大きな瞳が撫でてもいいよというように見つめてくるのを見つめ返して、さわさわと撫ではじめる。
「一人で寂しかったかい? きっとこれからたくさんのお友達が会いに来てくれるよ」 
 塞の神さえいなければ、もっと気軽にいろんな人が来てくれるだろう。そうなれば、寂しい思いをせずに済む。
 よしよしと、手のひらに身を寄せてねだってくる子竜を繰り返し撫でていると、傍らで微笑ましげな顔をしていた珠樹が、すすっと寄ってきて、うずうずと尋ねてくる。
「……私も撫でていいですか?」
「ん? 勿論」
「千亞さんの尻尾を」
「断る」
 子竜を、かと思ったのに。構ってやれよ、と唇を尖らせた千亞は、ほら、と子竜を珠樹に差し出す。
 千亞の楽しそうな姿を見て満足していた珠樹だが、きゅるん、とした瞳に見つめられては、思わず手が出ると言うもので。
 先程の千亞同様、よしよしと撫でている隙に、千亞はふよふよしている同時に、こっそりと話しかけた。
「あいつ、見た目怪しいしすぐ触りたがるしド変態だけど……本気で僕の嫌がる事はしてこないんだよね」
 下げて下げて下げてからの、ぽつりと小さな信頼。
 ちらりと見た珠樹には、初対面の時とは違った感覚を認識している。
「なんだかんだ僕の事考えてくれてる? って、最近思うようになってきた……かな」
 認識の変化は、何によってもたらされたものかは、まだ曖昧である。
 恋とか、愛とかは、未だ良く判らないまま。
 それでも、珠樹の傍が嫌ではないと、はっきりと自覚している。
「気を許せる……大事な人が傍にいるって、幸せだなって思うよ」
 微笑む千亞を、童子は黙って見つめていた。
 少しでも届けばいい。幼い女神さまにも。そう思っていた千亞の耳に、珠樹の声が届く。
「千亞さーん、子竜が雄か雌か調べませんかー?」
「黙れド変態」
 いろいろ台無しにしてくれるのが、明智珠樹という男の、きっと、いいところ。



 催眠術で竜に乗った事はあるが、本物は初めてだった。
 タイガはささやかな感動を覚え、セラフィムはくりくりとした瞳と表情に愛嬌があって可愛いと、穏やかな笑みを見せる。
「初めまして。……言葉は判らないかな」
 どうだろう、と首を傾げながらも、御神籤を差し出して、食べる? と尋ねてみる。
 既に色んなウィンクルムの下で御神籤を食べ漁ってきた子竜だが、お腹が空いていたのだろう。セラフィムの籤も、ぺろりと平らげた。
 ちゃんと食べてくれた、と感動に浸りながら、おずおずと触れている間に、タイガが背負ったリュックからボールやミニカーを取り出している。
「弁当も持ってきたし、寛ぐか! そーらこい、高いたかーい!」
 ばさっ、と広げたシートにじゃれてきた子竜を捕まえ、掲げてついでにぐるりと回る。
「うん、そうだね。僕はレモンパイ持ってきた」
 シートの上に腰を下ろして、メイドさんが作ってくれたパイをそっと齧る。
 子竜と遊んでいるタイガを見て微笑ましい顔をしてから、ふと、思い出したような顔をして首を傾げた。
「『あいしてる』は本心だったの?」
 唐突な言葉は、きっとソウナ姫の告げた『未来の我が子』の、せい。
 子竜が子供で、タイガが父親なら……その傍らは、なんて。
 かつて聞いたその言葉は、あのレストランでうっかり混ざった『あいしてる』しか言えなくなるキノコの効果だろう。
 だけれど、最近なにか、なにか、ちがう気がした。
 たったそれだけの、何気ない問いかけに、タイガが沸騰するのは一瞬だった。
 子竜を降ろし、真顔になる。そうしてから、一度頭を掻いた。
(セラ意外と大胆つか乗ったのかああもういいや)
 もういい。もういい。
 募らせた思いには、覚悟だって備えてきている。
「愛してる。アレはどさくさだったけど、本気でセラのこと愛してる」
 真っ直ぐに見つめてくるタイガの眼差しに、セラフィムの頬も、耳まで、真っ赤に染まる。
「あ、え……いや、待って頭回らない」
 何を言われたのだろうか、と。聞こえた言葉を反芻して、けれど飲み込み切れなくて。
「お、思い切りよすぎ……」
 すぃと視線を逸らすセラフィムに、タイガはなおも、募る。
「だから違うって! 本気だ」
 違うと感じたのは、これだった。
 勢いの中に込められた、本音。
 タイガへと戻されたセラフィムの瞳が、ほんの少し潤んで見えたのは、歓喜か、悲嘆か。
 それとも、応えに迷う、葛藤か――。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月08日
出発日 01月15日 00:00
予定納品日 01月25日

参加者

会議室

  • [12]セラフィム・ロイス

    2015/01/14-23:58 

    できた!・・・・・・・・かなり先行してるのになったけど(遠目)
    いや、うん。がんばろう。間に合ってよかった

    皆お疲れ様。いい1日になりますように

  • セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
    神サマのお墨付きでデートだ!と
    すっかり舞いあがったプランを提出済みだぜ。

    皆、楽しく幸せな時間を過ごせると良いな!

  • [10]セラフィム・ロイス

    2015/01/14-23:40 

    ぼ、僕はまだ最後の追い込みだ・・・(がりがり)
    チキンサンドはタイガ用にお持ち帰りしたいな
    きっとよろこーー
    『セイジ!サンキュー!ありがたーーく頂く!』喜んだね(苦笑)

  • [9]アキ・セイジ

    2015/01/14-23:13 

    プランは提出できているよ。
    うまくいってると良いな。
    一息つこうか。(皿にチキンサンドのせて差し出す

    ダイス:乗算でチキンサンドの個数

    【ダイスA(6面):4】【ダイスB(6面):5】

  • [7]セラフィム・ロイス

    2015/01/14-22:35 

    >明智
    (Mか!?Mなのか)
    う、うん・・・機会あったらね(タイガの後ろに避難)

    子竜か・・・。爬虫類との仲良くなり方って案外難問だ。今、頑張って書いてる最中だけど
    まあ、一番は「指南。見せる」ことだから重視しなくてもいいんだろうけど
    まったり過ごしてみようかな

  • [6]明智珠樹

    2015/01/14-19:04 

  • [5]明智珠樹

    2015/01/14-19:03 

    ひとまずプラン提出完了です。
    子竜たんと童子たんに絡むばかりな気がいたしますが、はてさて。

    ふふ、皆様との明け方ピクニック楽しみですね。よろしくお願いいたします、ふふ…!!

  • アレックスと、相方のクレメンスだ。
    久しぶりの人も、はじめましてもよろしくな。

    子竜は楽しみだなあ。かわいいんだろうな。
    っていうか、我が子を思ってとか言われても、俺まだ17だしなあ。
    いやそれ以前に、ちょっと突っ込み所がある気もしないでもないが。

    まあ、とりあえず滝のそばでまったりしてると思う。

  • [3]明智珠樹

    2015/01/12-12:51 

    なぜだかご挨拶が済んでいた気がしていた明智珠樹です、よろしくお願いいたします…!
    アキさんご両人は虹の池に引き続き、
    セラフィムさんご両人はクリームフェスぶり、
    セイリューさんはかまくら鍋ぶりですね。よろしくお願いいたします…!

    そしてアレクサンドルさんご両人、はじめまして…!よろしくお願いいたします、ふふ!

    千亞
    「よろしくお願いします(ぺこ)子竜、楽しみだなぁ、可愛いだろうなぁ…(うっとり)」

    私は子竜たんは勿論、千亞さんの尻尾にも興味津々ですが。可愛いでしょうねぇ…(うっとり)
    そしてセラフィムさん、先日は良いパイ投げをありがとうございました、またいつかお願いします、とこっそり。

  • [2]セラフィム・ロイス

    2015/01/11-15:26 

    :タイガ
    よおっす!俺、タイガとセラだ!
    デートもできて子竜と遊べると聞いてっ。リアル竜たのしみなんだよなー

    ニアミスでもできたらよろしくな!
    や、遭遇でもいいけど多分「恋人(パートナー)と過ごし見せる」だしなあ。頑張ろうぜ!

  • [1]アキ・セイジ

    2015/01/11-00:25 

    アキ・セイジだ。相棒はウイズのランス。よろしくな。


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