プロローグ
「ふぅ」
各国の故事を記した書物から目を上げると、甕星香々屋姫は溜息をついた。
「恋愛に現を抜かす男女ときたら、本当にどうしようもないものですね……」
書物には、恋路に夢中になるあまり仕事に精が出なくなった男女の物語が記されていたのだ。
「私が初恋宮にいる間は、そんな不祥事は決して許しません!」
香々屋姫が自分の髪の毛1本をぷつんと抜くと、そこから1人の可愛らしい少女が生まれた。
「色恋沙汰から職務怠慢を招く、職場恋愛というものを根絶やしにしてくるのです!」
「はぁい!」
少女の姿をした童子は鈴の鳴るような声で返事をすると、ひゅうっと空に消えていった。
タブロスにある酒蔵「ミキノツカサ」は、若き杜氏のホマレが取り仕切っていた。
一昨年杜氏となったばかりのホマレが立派に酒蔵を切り盛りしていけるのは、彼を支える幼馴染の女性、シズクの助力があったからに他ならない。
ホマレとシズクは単なる幼馴染から今は一番に信頼し合える仲となっており、2人の間には自然と恋愛感情が芽生えていた。酒蔵の者たちも、それを温かく見守っていたのだった。
が、そんなミキノツカサに香々屋姫の使いである童子がやってきた。
「甕星香々屋姫の命令です。職場に恋愛を持ち込んではなりませぬ。ホマレ、シズク、どちらかがこの職場を離れなさい。それができぬのなら、2人の恋愛を禁じます」
にこにこと愛らしい笑顔で酷なことを告げる童子。
ホマレはもちろん、酒蔵の職人たちみんなが反対の声をあげるが、童子は笑顔を崩さぬまま、
「香々屋姫の命令です」
と繰り返すのみであった。
「仕方ないわ、ホマレ」
「シズクは黙って引き下がるつもりなのか」
「いいえ。きちんと仕事で結果を出して、香々屋姫を納得させればいいと思うの」
「仕事で?」
「そうよ。この時期は『永久の深森』で神様たちが正月の宴を開いていると言われているわ。そこに、うちで作った新酒を奉納するのよ」
「香々屋姫以外の神様がうちの新酒を評価してくれれば……香々屋姫も考えを改めてくれるかもしれないな!」
ミキノツカサの新酒を積んだ荷馬車が永久の深森へと向かう。
ところが、困ったことに……。
「塞!ここは通さない塞!」
身長3メートルはあろうかという土偶のような岩石のような生物が2体、剣を振り回し永久の深森への道を塞いでいるのであった。
「仕方ない……一旦戻ろう」
ホマレの判断で、荷馬車は来た道を引き返すことになった。
その後ろ姿を、寂しそうに見送るのは……神様たちであった。
「美味そうな酒じゃのう……飲みたかったのぅ」
「ふぅむ、なんとか彼らに、永久の深森まで来て欲しいものじゃのぅ……」
ホマレとシズクはA.R.O.Aに助けを求めることにした。
「それは、塞の神ですね」
2人の話を聞いたA.R.O.Aの受付職員が言う。
「塞の神?」
「ええ、元は初恋宮の衛兵です。今は、至る所で恋人たちの通せんぼをしているとか」
「初恋宮……」
ホマレとシズクは香々屋姫の命令を思い出し沈んだ表情になる。
「塞の神の顔の部分に何か書いていませんでしたか」
受付職員が訊く。
「そういえば、何か書いてあったような」
2人は塞の神の姿を思い返す。
「そこに書いてあるなぞなぞを解くと、神の鎧が解け、塞の神を消去することができるでしょう」
「塞の神の頬に、『1+5』って書いてあったわ」
シズクが言うと、
「俺が見たのは、『10000+10』だったな」
とホマレ。
「それを解ければなんとかなります」
受付職員は自信たっぷりに頷いた。
ホマレも自信に満ちた顔で、
「答えは『6』と『10010』だな」
と告げるも、隣のシズクは
「そんな単純じゃないと思うわよ」
と冷めた顔。
「大丈夫です。ウィンクルムがきっと正しい答えを出しますから」
受付職員が2人をとりなした。
ホマレとシズクが帰ると、突如、窓がガタガタと揺れた。
受付職員が訝しんで窓を見ると、窓に雪が張り付いて文字を作っている。
「これは……ムスビヨミの眷属神からの言葉……?」
窓の文字は、『森への道中、酒を狙う盗賊潜む。用心せよ』と読めた。
解説
今回の依頼は、酒蔵ミキノツカサの荷馬車に同行し、塞の神を消去することである。荷馬車には酒樽が3本積載され、ホマレとシズク、そしてミキノツカサの職人1人が乗っている。
塞の神は2体。いずれも神の鎧による高い防御力を有するが、なぞなぞを解くことにより、神の鎧を解くことが可能である。
塞の神の他にも、数人の盗賊が出現する。攻撃力、防御力は低いが、それなりの素早さがあるので油断は禁物である。
無事に永久の深森にたどり着き、神の宴にミキノツカサの酒を奉納して欲しい。
なお、永久の深森では、昔なくしたものを見つけることがよくあると言われている。それは「物」であったり「想い」であったり……。
あなたも、そしてあなたの精霊も、もしかしたら「何か」を見つけるかもしれない。「何」を見つけるのかは、あなたたち次第である。
ゲームマスターより
今年もよろしくお願いいたします。
お正月といえば宴会、酒盛り……。
ミキノツカサのお酒を神様たちも楽しみにしています。是非届けてあげてください。
困った時には、神様が助けてくれるかもしれません。
そして、永久の深森では「何」が見つかるのか……。あなたやあなたの精霊が見つけそうなものを教えてください。必ず見つかるとは限りませんが、もしかしたら……。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ひろの(ルシエロ=ザガン)
(塞の神も神様だよね?倒して……いいのかな) 皆と同じで。私も、答えは。 『1+5』が苺で。 『10000+10』は饅頭だと思う。 荷馬車の傍にいる。 トランスは戦闘前。 塞の神と戦ってるときに、盗賊が来るかも知れないから。周りに気を配っておく。 酒樽が割れたら困るから、荷馬車に攻撃がいかないよう気をつけなきゃ……。 飛び道具は、よく見て盾で防ぐ。 確か、まともに受けるより少し斜めにすると良いんだっけ。 弾いたのが、他の人に当たらないように気を付ける。 「初恋の神様なのに、恋愛の邪魔してたら駄目じゃないかな……」 (言うか少し考え 「私は、確か。保育所の先生のおにいさん」 (……たぶん、私は。構って欲しかっただけなんだ) |
リオ・クライン(アモン・イシュタール)
いくら何でもやって良い事と悪い事があるぞ・・・!(怒) 二人と神様のためにも、私達が頑張らねばな。 なぞなぞの答え・「万」と「10」→まんじゅう→饅頭、「1」と「5」→いちご→苺 <行動> ・「大体『人間界風紀粛清大作戦』だと?初恋の女神が人の恋路を邪魔するなど・・・間違っている!そうは思わないか?」 ・ホマレとシズクに「安心して下さい。お二人の仲を引き裂くなど、絶対にさせません!」 ・周囲を警戒。 ・塞の神を見て「あれはドグウというやつか?何か面白そうかも・・・」 ・トランス後、なぞなぞの答えを叫ぶ ・盗賊が来たら精霊達に相手をしてもらって、神人達と共に荷馬車を護る アドリブOK |
フィオナ・ローワン(クルセイド)
事前に、苺とお饅頭とを購入 (できるだけ上等のものを購入します) バスケット、或はランチボックスに入れて持参 また、トランスは出発前に済ませておきます 他の方々と一緒に馬車で移動 途中、塞の神が現れたら、なぞなぞの答えを告げるとともに 現物を差し出してみます (効果はないかもしれませんが、お供え、という形です) 戦闘の際は、馬車に待機して他の方と協力してホマレさんたちや、樽を守ります どうにか無事に森に辿り着けたらお酒を奉納します |
椿姫桜 姫愛姫(麻琵 桜玉 殊月)
トランス はぁ?なぞなぞとかマジ意味わかんないんですけどぉ 姫愛姫そういう面倒なの嫌いなのでぇサクッといきましょぉ 塞の神のなぞなぞに回答 ※戦闘時は荷馬車を見張り、馬を怯えさせないようにする※ (塞の神との戦闘は被害を受けそうなら後方へ誘導) 答えは「苺」と「饅頭」ですかぁ? 盗賊戦闘時も※と同様の行動 自衛・荷馬車に被害が出ないようにする。 盗賊が襲ってきた場合は反撃する。あくまで退かせる方向で。 永久の深森にて タマちゃん とっても嬉しそう……。 っていうかぁ、独り言多すぎじゃありませんかぁ? |
アンダンテ(サフィール)
このままじゃ誰も幸せになれないわ… きちんとお酒を届けて認めてもらいましょう 永久の深森まで護衛するわね 移動中はよく周囲を確認しておくわ 急な襲撃があってもすぐに対応できるよう武器は手近に 襲撃があったらトランス 神人で荷馬車を囲んで守る 戦闘面は基本精霊さんにお任せで周囲をよく見て状況を伝えるわ 荷馬車に近づいてきたら精霊にしらせつつ撃退 なぞなぞの答えは食べ物かしら まんじゅうといちごって読めるわよね おいしいものね、神様も好きなのかしら? 戦闘中は後方で控えているわね 森の中、名前を呼ばれた気がして振り返る ああ、そういえばこの森って… そんな名前で呼ばれていたこともあったわね、忘れていたわ 今の私はアンダンテだもの |
依頼内容を聞いたリオ・クラインは
「いくら何でもやって良い事と悪い事があるぞ……!」
と怒りをあらわにする。
「大体『人間界風紀粛清大作戦』だと?初恋の女神が人の恋路を邪魔するなど……間違っている!そうは思わないか?」
「よし、とりあえず落ち着け」
アモン・イシュタールがリオの頭をぽんぽんと叩くと、リオは「むむぅ……」と不機嫌ながらも口を閉ざす。
「このままじゃ誰も幸せになれないわ……。きちんとお酒を届けて認めてもらいましょう」
「困った神様もいるものですね。誤解を解けるよう頑張りましょう」
アンダンテとサフィールが言う。
「どうした?何か考え込んでいるようだな」
ルシエロ=ザガンがひろのに訊く。
「う……ん、ちょっと……」
(塞の神も神様だよね?倒して……いいのかな)
ひろのとしては、その点が気がかりなのであった。
「塞の神の鎧は、なぞなぞを解けば消えるみたいね」
アンダンテが言うと、
「なぞな……ぞ?」
「はぁ?なぞなぞとかマジ意味わかんないんですけどぉ。姫愛姫そういう面倒なの嫌いなのでぇサクッといきましょぉ」
と、怪訝な顔をする麻琵桜玉殊月と不満げな椿姫桜姫愛姫。
「タマちゃん、なぞなぞなんかぁ、さっくり解いちゃってくださいねぇ」
「塞の神のなぞなぞは『1+5』と『10000+10』だったな」
アモンが言うと、桜玉はうぅむと首をひねる。
「さ、さっぱり解らぬぞ……」
「んもぉ、タマちゃん!姫愛姫悲しいですよぉ」
姫愛姫はぷぅっと頬を膨らませたのち、しくしくと泣き真似を始める。
「ず……随分個性的なお方だな……」
リオは姫愛姫の言動に戸惑っている様子だ。
「なぞな、ぞ……。いち、と、ご……いちまん、と、じゅう……だから、きっと……」
ひろのが呟く。
「それですぅっ」
先ほどまでの泣き真似はどこへやら、姫愛姫が勢いよくひろのを指さす。
「いちごとまんじゅうって、読めるわよね」
と、アンダンテ。
「てか、なんだこのなぞなぞ?簡単すぎじゃねえか」
アモンが鼻で笑う。
「私も、苺とお饅頭だと思って、用意してきました」
フィオナが手にしたバスケットを掲げる。
「塞の神も一応神様ですから、お供え、と思ったんです。効果はないかもしれませんが」
「なぞなぞの答えは皆一緒のようだな」
クルセイドが言うと、
「では、そろそろ依頼人のところへ行きましょう」
とアンダンテが言い、皆頷いた。
酒蔵ミキノツカサでは、荷馬車に酒樽を積み込んだホマレとシズクが待っていた。
不安そうな顔で立つシズクに、リオが
「安心して下さい。お二人の仲を引き裂くなど、絶対にさせません!」
と、力強く声をかける。
「道中で、視界の悪い場所や足場の悪い場所はありませんか?そのような場所は敵の襲撃を受けやすいですから、教えていただければ事前に備えることができます」
サフィールが訊ねると、ホマレとシズクは
「基本的には一本道なんだけど、崖の合間を抜ける時なんかは、上から何か落ちてきそうで怖いかな」
「塞の神に出会う500メートルくらい手前は、他より木が生い茂っていて視界が悪いと思うわ」
と答えた。
先に危険個所を予測しておけば、不意打ちをくらうこともないだろう。
「全員馬車に乗れるでしょうか」
フィオナが訊く。
「私とホマレが御者席に乗って、荷台には6名ほどが乗れるわ」
と、シズク。
「もし馬があれば、私は馬に乗るのだが」
クルセイドが言うと、
「荷物運びのための馬なので、速さは期待できないけど……」
と、ホマレが1匹の馬を引いてくる。
クルセイドは「十分だ」と頷いた。
「さぁタマちゃん、私たちの力の見せ所ですよぉ」
姫愛姫が桜玉の頬に口づける。
「夢と知りせば」
インスパイアスペルを唱え、トランス。
「私たちも、急な襲撃に備えて、先にトランスしておきましょう」
フィオナとクルセイドもトランスする。
「では、出発ですぅ~!」
姫愛姫が馬車に乗り込む。
神人たちが荷台に乗り、その両側を守るように精霊が徒歩で進む。さらに後ろに、騎乗したクルセイドがつくという形で永久の深森を目指すことになった。
レンガ敷の道から未舗装の道へ、そして周囲に木々が増え始める。永久の深森へと近づいていく。
水晶玉を覗いていたアンダンテが、
「何か、不穏な影が見えるわ」
と言う。
「深森の神様からの忠告かもしれないな」
リオは気を引き締める。
それと同時に、御者台のシズクが振り返り、
「そろそろ崖の合間を通ります」
と伝える。
「上から、何か……落ちてきたら、これで防げる……かな?」
ひろのは自分の装備品である勇者の盾「ラメトク」を胸に引き寄せる。
「えぇ~。こんなところでぇ、敵に襲われるの嫌ですぅ」
姫愛姫がぷぅっとふくれる。
「前方の崖の上に、怪しい影だっ」
クルセイドが敵の存在にいち早く気が付いた。
ホマレが慌てて手綱を引き馬車を止める。その行動で、こちら側が相手に気付いたことを知られてしまう。
3つの人影が崖を滑り下り、こちらへ向かってくる!
「こっちからも来る」
後方確認していたクルセイドの視界に、2人の盗賊の姿。
「ここは余の出番じゃの」
桜玉がマジックブック「眩暈」を構える。
クルセイドは馬から降り後方からの敵にダガーを構える。
「ヒロノ」
ルシエロがひろのの傍に行くと、ひろのも頷き、ルシエロの頬に口づける。
「誓いをここに」
インスパイアスペルを唱えたとたんに、金色の粒子が混じった、荒々しく吹き付ける蒲公英色のオーラがひろのから、鶸色のオーラがルシエロから溢れる。
「荷馬車は私たち神人が守るから、盗賊の方をお願いね」
アンダンテもサフィールに口づけ、トランスする。
前方3人の盗賊は桜玉のマジックブック「眩暈」により、その場にくらくらと膝をつく。
そこへルシエロが斬りかかる。
後方の盗賊とはクルセイドが刃を交えていたが、サフィールがマジックスタッフ「高峰の賢者クラバード」により援護攻撃。
突然始まった乱闘に荷馬車を引く馬が動転し暴れるのを、アモンとホマレがなんとかなだめる。
ゴロツキ盗賊と精霊の力の差は歴然である。
「今のうちに退いた方が賢明だぞ」
盗賊の短剣を余裕で捌きながらルシエロが告げると、盗賊たちは悪態をつきながら逃げてゆくが、逃げざまに短剣を荷馬車に向かって投げつける。
「!」
桜玉とルシエロが慌てて荷馬車に駆け寄るが、短剣はひろのの盾によって弾き飛ばされた。
「上手く……できた、かな」
「ああ」
ルシエロはひろのに微笑んだ。
後方でクルセイドたちと戦っていた盗賊も、仲間が逃げるのを見て自らも退散していった。
「深追い不要ですね」
サフィールが言うと、ルシエロも
「つまらぬ奴らの血で折角の酒が不味くなるのは神といえど嫌だろう。盗賊については、また新たに依頼を出すといい」
と頷く。
アンダンテが水晶玉を覗く。
「水晶の陰りが消えたわ」
「盗賊についてはもう心配ないようだな」
「残るは塞の神、か」
リオとアモンが言う。
フィオナが、
「荷物は無事のようです」
と樽を点検しながら言う。
「良かったですぅ。さぁ、この先も頑張って行きますよぉ!」
姫愛姫がウインクしながら可愛らしいポーズで拳を上げた。
馬車を進めるうちに、周囲の木々が鬱蒼と生い茂ってきた。
「なんだかぁ、薄暗くって姫愛姫こわぁ~い」
姫愛姫はぶるっと震えた。
「ここを抜けてしばらく行くと、以前塞の神が現れた場所になります」
シズクが説明する。
「あ……れ、誰か……いる?」
ひろのが目をこらす。
「どうした?」
「う、ん……木の影に、小さな女の、子……ルシェは、見えた?」
「オレは気付かなかったが」
「じゃあ……見間違い、かな」
やがて木々が減り道は明るさを取り戻した。
すると、どこからか地響きが聞こえてくる。
「な、なんだ、この音は」
リオが怪訝な顔をする。
すると前方に土煙がむくむくと湧き上がり、それが消えたのちに……
「ここは通さない!塞!」
「塞!塞!」
2体の塞の神が現れた。
「あれはドグウというやつか?何か面白そうかも……」
リオは塞の神の見た目に興味津々の様子だが、姫愛姫は
「なにあれぇ、キャワいくなぁい~」
と、ぶんぶんと頭を振る。
「懲りずにまた来たのですか」
片方の塞の神の肩に、香々屋姫の使いの童子が座っている。
「あ……さっき、見たの、あの子……」
と、ひろの。
「何度来てもここは通せませんよ」
童子が言うと、桜玉がずいっと前に出る。
「この方を何方と心得ておる!今すぐ道を開けよ!!」
しかし塞の神は微動だにしない。
シズクが立ち上がった。
「どうして、私たちを否定するの?私たちが間違っているかどうか、このお酒を飲めば神様たちはわかってくれるわ」
童子は塞の神の肩から降り、溜息をつく。
「ならぬものはなりません。さあ、帰るのです」
2体の塞の神がゆっくりと剣を振り上げる。
「む!そなたら、下がるのじゃ」
危険を察し、桜玉はホマレとシズクを後方に下げる。
それと入れ替わるようにクルセイドとルシエロが前に出て、塞の神たちにそれぞれ一撃を入れる。が、まるで岩を叩くような手ごたえがあるだけで、ダメージを与えられた様子はない。
「アモン!」
リオはアモンを呼び寄せる。
「わかってる、あのドグウたちを粉砕してやるぜ」
「そうではない、なぞなぞだ」
「おっと、そうだったな」
リオとアモンは急いでトランスを終わらせると、
「なぞなぞの答えは、『苺』と『饅頭』!」
と、声を合わせて叫んだ。
次の瞬間、クルセイドとルシエロの攻撃が塞の神の芯を突き、塞の神はぐらりと揺れる。
そこへサフィールが魔法攻撃で畳みかける。
鎧が解けたらこちらのものだ。
アモンが塞の神の懐に飛び込む。
「グラビティブレイク!」
アモンのスキル攻撃により防御力が下がった塞の神を、ルシエロとクルセイド、サフィールが集中して責めると、『ぽわん!』と音をたてて消えてしまった。
「ごめんなさい。せめて、お供えにこれをどうぞ」
申し訳なさそうにフィオナがバスケットの蓋を開け、それを地面に置く。
大きくて真っ赤な苺と滑らかな皮のお饅頭は、見るだけで高級品とわかる。
「う……美味しそう」
童子はバスケットの中身に目を奪われている。
もう1体の塞の神は桜玉がマジックブック「眩暈」で足止めしていたが、アモンはそちらにも続けてグラビティブレイクを発動させる。
「どうにも旗色が悪いですね。退きましょう」
童子はそう言うと、塞の神と共に空に溶けるようにその姿を消した。
「いなく……なった?」
リオがきょろきょろと辺りを見回すが、もうどこにも塞の神の姿はない。
「お供えもなくなりました」
フィオナがきょとんとした顔で言う。バスケットの中は空っぽになっていた。
塞の神が消えた道を進んでゆくと、アンダンテの水晶玉がほのかな光を帯びてきた。
「どうしたのかしら」
皆がアンダンテの水晶玉をのぞき込んでいると、ざわざわと葉擦れの音が大きくなってきた。
「どうやら……永久の深森に入ったみたいだな」
ホマレが呟く。
あたりは薄い霧に包まれ、目の前には、先ほどまでは存在しなかった小さな祠。
ホマレとシズクは御者台から降り、酒樽を祠まで運び始める。
すると水晶玉が一層明るく光る。
「お酒の到着を喜んでくれているみたいね」
アンダンテが笑う。
「ありがとう」
という神様たちの声が聞こえたような気がした。
そしてそれに紛れて……。
「?」
アンダンテは振り返る。名前を呼ばれた気がして。
けれどそれは、今のアンダンテの名前ではなかった。
(そんな名前で呼ばれていたこともあったわね、忘れていたわ。今の私は『アンダンテ』だもの)
「どうしたんですか?」
不思議そうな顔をするサフィールに、なんでもないわ、とアンダンテは微笑む。
しかし、なぜ今、古い名前を思い出すのだろう。
「ああそういえば、この森って……」
アンダンテが呟くと、酒樽を運びながら、シズクが
「この森は、昔無くしたものを見つける森だと言われているの」
と教えてくれた。
「それは面白そうですね。少し森の中を散策してみませんか」
フィオナがクルセイドを誘う。
「昔なくしたものは……特にはないような気がするが……」
言いつつもクルセイドはフィオナと森の中を歩き始める。
「無くしたものですかぁ。いろんな物なくしてますけどぉ。アクセサリーとかお人形とかぁ。何かキャワいいもの見つけられるかもしれないですねぇ」
姫愛姫も、
「タマちゃん一緒に探してくださいねぇ、姫愛姫のキャワいい無くし物」
と、桜玉の服を引っ張り散策を始めた。
「しかし、不思議な雰囲気の場所だな、ここは」
と、リオが言う。
アモンは、霧の向こうに見えるリオに、昔見た誰かの面影が重なって見えた。
「?」
途端に、アモンの脳裏に少年時代を過ごしたスラム街が思い出される。
泣いている、身なりの良さそうな幼い少女。
アモンはその少女に声をかけた。
『おい、何やってんだ?ここはお前みたいな奴が来ていいところじゃねーぞ』
アモンを見て驚きつつ、『道に迷っちゃったの……。お兄ちゃん知ってる?』と言う少女の顔は……。
アモンははっとして、今目の前にいるリオを凝視する。
「?どうした?」
「いや、なんでも……」
リオは不思議そうに、アモンを見返すのだった。
「う~ん、なかなか見つからないですねぇ」
姫愛姫は不満そうな顔になってくる。
「そう簡単には見つかりませんよ、姫」
姫愛姫に引っ張られるがままについて歩く桜玉は苦笑する。
その時、桜玉はトン、と誰かに背中を押された気がして振り返る。
誰かはわかっていた。
気配だけでわかる。旧き友。
桜玉は知らず微笑んだ。そして姿の見えぬ友に、心の中で語り掛ける。
(我が友よ、心配するでない。余はもう1人ではないのじゃ)
「さぁ姫、皆が待っています。戻りましょう」
「あれぇ?なんだかタマちゃん、嬉しそうな顔してませんかぁ?」
「皆さんはぁ、何か見つかりましたかぁ?」
戻った姫愛姫が訊くと、フィオナが首を振る。
「私は、何も見つかりませんでした。ね?クルセイド」
フィオナに見上げられ、クルセイドははっとする。
「そ、そうだな」
クルセイドは衣服の上からポケットを押さえる。
実は、見つけていた。木の枝にかかり揺れていた翡翠のペンダント。
それは、いつだったか、フィオナがくれたお守り。
どこかでいつの間にか無くしていたのだが、この森で見つかるとは。
クルセイドは、もう二度と無くさないように、とペンダントを入れたポケットを、とん、と軽く叩いた。
「そういえば、祠の中にこんなものがあったな」
酒樽を運び終わったホマレが小さなビーズの指輪を取り出す。
「あっ!それ!」
シズクが声をあげる。
「ホマレが小さいころにくれた、婚約指輪……っ」
ホマレはそっと、シズクに指輪を手渡した。近いうちに本物の婚約指輪が渡されることは誰もが容易に想像できた。
「無事に酒も奉納できた。これで香々屋姫も考えを改めてくれるといいんだが」
ルシエロが言う。
「だけど……初恋の神様なのに、恋愛の邪魔してたら駄目じゃないかな……」
ひろのの呟きを聞き、ルシエロは訊く。
「そういうオマエは、初恋はあったのか?」
「私、は……」
ひろのは言おうか言うまいか少し逡巡してから、口を開く。
「確か。保育所の先生のおにいさん……」
「随分と年上が相手だな。年上が好きなのか」
ひろのは首を振る。
(……たぶん、私は。構って欲しかっただけなんだ)
「ま、ヒロノがどんな好みだろうと、オレには関係が無いが」
そう言いつつも、ひろのを自分以外のところに行かせる気が無いことに、ルシエロは気付いた。
「何故だろうな」
と笑うルシエロを、ひろのは不思議そうに見上げた。
「宴会をしていた神様たちも喜んでいるみたいですね」
初恋宮にて、童子が香々姫に報告する。
「むむ……まあ、良い物を作りあげているということだけは認めてあげましょう。ところで、童子、何を持っているのです?」
「お供えと言われましたので、貰ってきました。食べますか?苺とお饅頭です」
「い……いりません!」
香々姫はつんっと顎を逸らす。しかし、視線はちらちらと苺とお饅頭の方へ……。
「美味しそうですね」
にっこりと笑う童子。
「香々姫が要らないのなら私が……」
「ま、待つのです。そう、人間について学ぶためっ。人間の食べ物もたしなまないとっ」
「はい」
童子は笑いながら香々姫に苺とお饅頭を差し出す。
「ん……美味し……。でもでも、こんな、食べ物なんかじゃ釣られないんですからねっっ」
言いつつも、苺とお饅頭は香々姫の胃に片づけられていくのであった。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:ひろの 呼び名:ヒロノ |
名前:ルシエロ=ザガン 呼び名:ルシェ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 木口アキノ |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 01月07日 |
出発日 | 01月15日 00:00 |
予定納品日 | 01月25日 |
参加者
会議室
-
2015/01/14-23:43
-
2015/01/14-23:28
-
2015/01/14-23:06
なら、アモンも盗賊を足止めさせるかな・・・。
-
2015/01/14-09:12
盗賊は、引かせる方で。
盗賊が来たら精霊に相手をしてもらって、神人は荷馬車を護る。ですね。
わかりました。
えと。
たぶん。塞の神と盗賊の両方いっぺんに戦うことは無いと思います、けど。
塞の神と戦ってる時に、盗賊が来たら。
ルシェは、盗賊の方に行く予定です。 -
2015/01/14-00:50
ん、じゃあ私もその方向でプラン書いておくわね。
-
2015/01/14-00:15
>塞の神
コイツ鎧を外したらやっぱり倒さなきゃなんですねぇ
なぞなぞで鎧を外した後は全員でフルボッコですぅ!
>盗賊
私も引かせる方に賛成ですぅ
『精霊さん達に盗賊の相手をして貰う間、神人で荷馬車を護る』ですねん。
タマちゃんにもこの件は気を付けておくように言いました。
-
2015/01/12-20:50
ひろの、またよろしく頼む。
それならば、荷馬車に残るのは神人達でいいと思うのだがどうだろう。
私も引かせる方に賛成だ。 -
2015/01/12-00:41
ひろのさん達もよろしくね。
盗賊は数も襲ってくるタイミングもよく分からないのが怖いわね…。
荷馬車という事は幌とかはない感じなのかしらね。
襲われた際に目視できた盗賊以外が隠れてたりする可能性を考えると、
なるべく荷馬車を囲むようにして全方向を警戒した方がいいのかしら?
もしくは戦う人と馬車を護衛する人でわかれてみるとか。
あとは馬も怪我をさせられないよう気をつけなくちゃいけなそうね。
…あら?そういえば私達もその荷馬車に乗せてもらっていると考えていいのかしら?
追加で5組も乗ると相当ぎゅうぎゅう詰めになりそうね。
サフィールさんはエンドウィザードだから後方で詠唱してて貰うわね。
私は荷馬車に残って荷物やホマレさん達を守れればと思っているわ。
>引かせる方と捕縛
私も引かせる方に賛成よ。 -
2015/01/11-12:10
リオさん、達は。また、よろしくお願いします。
他の人達は、初めまして。
ひろのと。テンペストダンサーの、ルシエロ=ザガンです。
よろしくお願いします。(軽く頭を下げる
護衛しながら、永久の深森に行くんですね。
盗賊の人数がわからない、けど。
出てきたら、ルシェが切り込もうと思います。
盗賊は引かせる形と、捕縛と。どっちが、いいのかな。(呟く
無事届けるのが、今回の任務、だから。引かせる方……? -
2015/01/11-10:00
キャワいい神人さん大集合ですねん☆姫愛姫嬉しいですぅ!
なぞなぞの答えは皆さんと一緒みたいですね。安心しちゃいました。
戦闘のお話なんですけどぉ、
確か塞の神とかいうブサい奴はなぞなぞの答えを言えば退いてくれるんでしたっけぇ?
(退かなかったら倒しちゃうだけなんですけど!)
盗賊も怖いですねぇ。でもでも、頼りになる先輩達が居るのでおおぶね?にのった気ですぅ!
タマちゃんにはマジックブック「目眩」で皆さんのサポートをしつつ
戦闘後は治療にあたって貰おうと思ってますぅ。 -
2015/01/11-01:54
初めまして。私はアンダンテよ。
パートナーはエンドウィザードのサフィールさん。
どうぞよろしくね。
大変な事になっているようね…。
お2人のためにも無事にお酒を届けられるよう頑張りましょうね。
なぞなぞは私もその食べ物2つだと思うわ。
美味しいわよね、私も好きよ。 -
2015/01/11-00:18
みんな、初めまして。
リオ・クラインとハードブレイカーのアモンだ。
いくら神様とはいえ、やりすぎだな・・・。
二人のためにもなんとかしなければ。
「万」と「10」→まんじゅう→饅頭、「1」と「5」→いちご→苺ということか?
盗賊にも用心しないとな。
誰かが囮になって誘き寄せるとか? -
2015/01/10-12:51
はじめまして。フィオナ・ローワンと申します。
此方は精霊のクルセイド、テンペストダンサーです。
よろしくお願いいたします。
なぞなぞの答え…確かに、姫愛姫さんの仰る通りかも…?
若しも、それが正しいとしましたら。
最初の食べ物が入った大福餅とか。美味しいですね。 -
2015/01/10-01:29
はっじめましてぇ☆ 姫が三つで椿姫桜 姫愛姫(ツバザクラヒメキ)ちゃんで……?
きゃああんっ!タマちゃん以外誰も居らっしゃらないですぅ よよよ……。
あ、そうそう! 実は姫愛姫、なぞなぞの答えを考えていたんですけどぉ
お空からヒントを受信しちゃいましたぁん
これ「万」と「10」 「1」と「5」 で、食べ物の名前になっちゃったりしませんかぁ?
もしそうだとしたらぁ、二つとも姫愛姫の大好物ですぅ!
麻琵:
ふむ、謎かけの件は暫し置いておき……
申し遅れた。麻琵桜玉殊月(アケビオウギョクノコトツキ)じゃ。
余は非力故、盗賊の退治を後方から手助けする形になるかのう……。
魔法書物 「眩暈」を持って行く。上手い事奴らに効いてくれると良いのじゃが