てっぺんまで駆け上がれ!(和歌祭 麒麟 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 タブロスの近くに小さな山がある。特に珍しい山ではない。
 この山の頂上には小さな神社があることが知られている。
 参拝客が一時期少なくて、寂れていた。
 理由は、100段もある急な石段を登らないと神社に行けないからだ。
 ある時期から参拝客が増えるようになって、近年では毎年、参拝客で賑わうようになっている。
 この神社に参拝客が沢山集まるようになったのには、あるイベントが関係していた。
 一部の人たちは熱狂的に毎年参加している。

 そのイベントというのは、新年はじめの月に行われる。
 内容は馬でこの急な石段を駆け上がるという過激なものになっている。
 なんでこんな事になったかというと、オーガに追われていた旅人が神社に逃げ込んできたことから始まる。
 オーガから逃れるため旅人が、石段を馬で、頂上まで駆け上がって来たのだ。
 参拝客集めに、石段を馬で駆け上がるパフォーマンスを始めた所、これが難しくて成功しない。
 参拝客がこれでは集まらないと思われたが、めったに成功しないということから、馬術に自信がある者が次々に集まってきたのだ。
 今では年始の馬術イベントとして知られる程度に人気スポットになっている。

 イベントとは別に、この神社は縁結びの神がまつられているという。
 神社にパートナーを待たせて、石段を駆け上がると、今年一年仲良く過ごせるといわれている。
 馬術に自信がある人以外でも、縁起担ぎで参加する人も結構いるのだ。
 馬が石段を駆け上がるという、珍しい光景を見に来る人も沢山いて、イベント当日は石段の端は人だかりが出来るほどになっている。
 パートナーと今年も仲良く過ごせるように、挑戦してみるのはいかがだろう。

解説

 馬で石段を駆け上がるエピソードです。
 頂上まで登り切るのはとても難しいですが、別に登り切れなくても問題ないです。
 多くの人たちが失敗しています。
 楽しく馬と一緒に、パートナーのもとを目指して石段を駆け上がりましょう。

★ストーリーの流れ
 前半は、神人と精霊のどちらが、馬で石段を駆け上がるか相談して、イベントにエントリーしてください。
 馬術自慢が集まっていますが、最低限、馬に乗った経験があれば参加できます。
 馬に乗る人が決まったら、パートナーは先に神社で待機となります。

 後半は馬術の限りを尽くして石段を馬と一緒に駆け上がってください。
 馬が石段を登り切れるかどうかは、乗り手の技術だけではなく、テンションも大事です。
 乗り手のテンションが馬に伝わるので、急な石段でも、自信を持って行けば馬も頑張ってくれます。
 駆け上がるのに成功してもしなくても、パートナーは勇気を出して挑戦した相手を労ってあげてください。

★参加費300Jrが必要です。

ゲームマスターより

 急な斜面を馬で駆け上がるという「スタントマンかよ!」といったお話です。
 近くで見られたら、さぞかし楽しいだろうなと思います。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

手屋 笹(カガヤ・アクショア)

  【駆け上り】
…1年前は縁起担ぎを淡白にしか考えられませんでした。今ではわたくしはどう思ってそれを行うのか…
少なくとも淡白な想いでは無いみたい…

貴方がわたくしに怪我させたくないという想いを
無下にはしませんよ。
カガヤの心配を絶つ為に行きましょうか。

お馬さんに乗って階段を昇っていきます。
(スキル:騎乗レベル1使用)
馬の背が高いのに加えて階段の傾斜…
早い者勝ちではありませんし落ち着いていきます。
手綱はしっかりと持ちます。

…上にカガヤが待っているのです。
どんな顔して待っているでしょうか。
きっと待っているだけなんて苦手でしょうから
おろおろしているかもしれません。

カガヤの顔を楽しみに頑張って上りましょう!



ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  【乗り手】
自分の順番の前に
自分にあてられた馬を理解する必要があります
ブラッシングをして話しかけます
そのあとに軽く乗ってその子の走るときの癖を把握しておきます。

緊張してます…元騎手だというのに情けない
だって、また、落馬したらと思うと…
私のことだけではありません、馬も骨折するかもしれない
骨折した馬の将来は……、決して明るくはないです。

私の考えとしては、無理をさせ過ぎない方向で
ですが決して脚の速さをゆるめないギリギリのラインを保持していきたいと思います。
以前は自分の事ばかり考えて、馬の事は考えてませんでしたから。
ディエゴさんといる時と同じように、ともに走ることを考えて。

使用スキル
騎乗5
動物学3



ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
  精霊を見て
そんな訳ないでしょ!(両手を握り締め、がうぅ全身で否定
何時もと違うから吃驚しただけよ(ぷいっ
応援してあげるから…格好良い所みせないさいよね?(びしっ

人込み掻き分け頑張って最前列!
上から見ると急ね、他の人も苦戦してるわ

拳を握りしめ見守る
危険時、思わず大声
アルヴィン、頑張りなさいよっ!!

う…っと息をのむ(目…合った…?

成功時
自分の横を風が髪をなびかせ駆け抜ける姿を目で思わず追う…
あ、えっと、おめでとう(視線合せられず段々ぼそっと

失敗時
仕方ないわよね
楽しかったなら何よりよ、お疲れ様

せっかく来たし厄払いにでもいく?
怪我してばかりだもの
…な、仲良く!?良いも悪いもパートナーでしょ!(照れて反論



アマリリス(ヴェルナー)
  参加する事に意義がある、とは言いますけれど…
貴方ならきっとやり遂げられますわ
ではわたくしは神社で待機しています

白です
え?ではありません
わたくし白馬がいいですわ
新年ですもの、夢くらいみせてくださいませ

ただ待つだけというのもなかなか…
大丈夫かしら
信じてはいますが落馬して怪我でもしていたりしたら…

本人がいない所ではわりと素直になれるのですけどね
どうしてわたしってこうなのかしら
伝わらなければ何も意味がないでしょう

成功していてもしていなくても健闘称える
ああ、そういえば白馬ではないですね
全く見ていませんでした
まあ…察してくださいませ

貴方ばかり見てたとはとてもいえない
こういう時ばかりは鈍くてよかった、と思う


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  私、挑戦したいな!
(縁結び…やらない訳がないよ!登りきれば、羽純くんと今年一年仲良く過ごせる…!)
大丈夫だよ、馬なら一応乗れるし(騎乗Lv1)
羽純くんは上で待ってて
ね?(笑顔で押し切る)

わぁ、凄い人…!
皆さんを、羽純くんを笑顔に出来るような
そんな馬術を見せられたらいいな

馬さん、どうか私に力を貸してね…!
行こう!

呼吸を合わせて、焦らず着実に
けど、時間を掛け過ぎても馬さんに疲労が来るから
テンポよくリズムを取って
そうだ、歌いながら笑顔で行こう!
少々格好悪くても、背筋を伸ばして笑顔
これが今の私の全力
(ゴール出来ても出来なくても笑顔は崩さないよ)

馬さんに感謝

少しでも羽純くんに相応しい女性に近付けたかな




「一年前は縁起担ぎを淡泊にしか考えられませんでした。今では、わたくしはどう思ってそれを行うのか……。少なくとも淡泊な思いではないみたい……」
 手屋 笹はエントリーを終えて馬を選んでいる。
 石段の下に馬が集められていて、自分と相性がいい馬を使わせてもらえる仕組みである。
「笹ちゃんが挑戦するの? じゃあ、俺は上で待ってるね」
 そういってカガヤ・アクショアは神社へ向かおうと思うが、笹が心配で後ろ髪を引かれた。
「とはいえ……、階段を馬で駆け上がるなんて、危険な感じしかしないな……。笹ちゃん、くれぐれも怪我だけは無いようにね! 約束だよ!」
「貴方が私に怪我させたくないという想いを無下にしませんよ」
 カガヤに笹がそう言うと、カガヤはそれ以上いうことがなく、頷いて神社へ向かっていった。
 馬を選び終えた笹は、鞍に跨がり手綱を握る。馬を操りゆっくりと歩かせ、石段の下へ移動した。
(馬の背が高いのに加えて階段の傾斜……)
 山の上に向かって続く石段は、天に向かって延びているように見える。
 急勾配で神社は見えない。石段の左右に桜の木が植わっていて、桜の木の終わりがゴールだと思う。
 馬は笹が怯んでいるのを敏感に察知して、歩みが重い。
(早い者勝ちではありませんし、落ち着いていきます)
 手綱を握り直して石段に向かって馬で駆け出した。
 神社で待機しているカガヤは体育座りで、笹が駆け上がってくるのを待つ。
(……待っているだけってこんなに落ち着かないものだったのかな……)
 石段の下の方で歓声が上がっている。おそらく笹が石段に挑戦しているのだ。
(本当に……怪我だけはしないでくれよ……。ひやりとした思いをするのはもう嫌だから……)
 馬が石段を蹴って急勾配を駆け上がっている。いままでに、これほどまでの急勾配を馬で走ろうと思ったことは無かった。
 笹は馬から振り落とされないように、足に力を入れる。
 駆けるペースはゆっくり慎重に。段数が上がって高さが増すにつれて、馬の足は重たくなっていく。
(……上にカガヤが待っているのです。どんな顔をして待っているのでしょうか。きっと待っているだけなんて苦手でしょうから、オロオロしているかも知れません)
 カガヤのことを想うと自然と気力が溢れてくる。笹は馬にもその気持ちが伝わるようにと、馬の腹を足で押す。
「カガヤの心配を絶つために行きましょうか」
 笹の気持ちが伝わったのか、馬は止まりかけていた歩みを再び加速させる。
 もう半分登ってきている。ここまで駆け上がるだけでも、笹にとっては大変なことだったし、馬にとっても恐怖感があった。
 ついに馬は歩みを止めて、石段を駆けて下り始めようとする。
 操縦を失いそうになった笹をサポートするように、石段の左右に控えていた係員が馬を抑えた。
 石段を登ってきたのは笹だけだった。馬はいない。
「おかえりー、お疲れ様!!!」
 体育座りで不安な時間を過ごしていたカガヤは、笹の無事な姿を見て走り寄る。
 神社の近くに来た笹に飛びつくのだった。
「大丈夫だった? 怪我してない? 約束した矢先に怪我されたらほんとどうしようかと……」
 安堵の表情を浮かべるカガヤに、笹はいう。
「カガヤの顔を楽しみに頑張ったんですのよ。無事にカガヤの元に行けるように」
「約束……気にしてくれてありがとう……」
 笹の無事と、勇気にカガヤは感動した。


 自分と相性が良さそうな馬を順番が来る前に選んでいるハロルド。蹄の音や歩く姿勢などから、一頭選んだ。
 体が大きく、黒い毛並みの馬である。ブラッシングをしてあげながら語りかけると、馬はすぐにハロルドに心を開いた。
「少し乗ってみます」
 そういって、鞍に跨がるハロルドをディエゴ・ルナ・クィンテロは心配している。
「大丈夫なのか……、何かあったらただではすまない。……いや、エクレールの馬術は誰より俺が理解している。ただ、石段を駆けるというのは……」
 心配するディエゴだが、ハロルドは自分の順番が来るまでに、丁寧に馬とのコミュニケーションを重ねていく。
 ハロルドの順番が回ってくる頃には、人馬一体になっていた。一度馬を下りて、エントリーの最終確認をハロルドは行った。
「緊張しています……元騎手だというのに情けない。だって、また落馬したらと思うと……。私のことだけではありませ。馬も骨折するかもしれない。骨折した馬の将来は……、決して明るくはないです」
 石段を駆け上がるという、高難易度のイベントにハロルドは弱音をディエゴにいう。
「だが、……緊張してたら実力を発揮するも何もないな」
 ハロルドの頭を撫でるディエゴ。言葉を続けた。
「エクレール、これはレースじゃない。お前に成功を強要する奴はここにはいない。お前は馬に乗るのが楽しくて騎手になったんだろう。楽しめばいい。
 それに……、成功しようとしまいと、仲良く過ごせるとか気にしなくて良いんじゃないか。仲が悪くなったって、何度でもできた溝を埋めてそばにいるよ」
「仲良く過ごせる……、そんな言い伝えがあるんですか」
 ハロルドの関心は馬術イベントである。神社に縁結びの神様がまつられていることは知らなかった。
「ぐっ……! ま、まあ行ってこいよ」
 縁結びに対してのハロルドの淡泊な反応に、ディエゴはダメージを受けながらも元気に送り出す。
 ディエゴが神社で待機している頃、ハロルドは先ほど選んだ馬の鞍に跨がっていた。
(以前は自分のことばかり考えて、馬のことは考えてませんでしたから。ディエゴさんといる時と同じように、ともに走ることを考えて)
 手綱を握り、馬を石段の手前まで歩かせた。ここからは駆け上がるのみ。
 覚悟を決めてハロルドは馬のお腹を蹴って、合図を送った。馬はハロルドの意思を受け取り石段に向かって走り出す。
 馬に無理が無い程度、それでも甘やかしすぎずに走らせる。厳しい斜面だが、ハロルドの勇気に馬はおびえを一切見せない。
 石段の真ん中を駆け抜ける。今日は、この場所を越えた参加者はいなかったので観客から歓声が上がった。
 馬が徐々に弱気になってきているのをハロルドは感じとる。馬に優しく語りかけ、頑張れと馬のお腹を足で叩く。馬はゴールの頂上に視線を送り、走り続ける。
 石段の上にある神社で歓声がわき上がった。ハロルドの操る馬が石段を駆けきったのだ。
 石段を駆けきった事で馬は興奮しているのか、一度鳴く。ハロルドは馬を撫でてあげた。 係員に馬を返えしたのを確認するとディエゴはハロルドに寄っていく。
「おめでとう。よく頑張った」
 ディエゴの言葉が終わる前に、ハロルドは抱きついた。驚くディエゴ。ハロルドが泣いていたからである。
 馬と心を通わせることができたことが、ハロルドを感動させていた。涙はなかなか止まらない。
 ディエゴはハロルドの気持ちを察して頭を撫でてあげた。  


 馬乗袴の姿で馬に跨がるアルヴィン・ブラッドロー。馬乗袴とは中仕切りがあるズボンタイプの袴をいう。
「見惚れた?」
 アルヴィンの演出にミオン・キャロルは両手の拳を握りしめていう。
「そんな訳ないでしょ!」
 がうぅと噛みつかんばかりに、全力で否定した。
 優しい笑顔でそんなミオンをアルヴィンは眺める。
 そっぽを向いてミオンがいった。
「いつもと違うからびっくりしただけよ。応援してあげるから……格好良い所みせなさいよね?」
 アルヴィンに向かってびしっと指さすミオン。
「了解、頼んだ」
 アルヴィンは一言いうと、ミオンの頭をぽんぽんと撫でて移動していった。アルヴィンの後ろ姿に見惚れてしまうミオン。先に神社で待っていないと行けないことを思い出して、神社に向かってミオンは歩き出した。
 神社は見物客で人混みが出来ていた。ミオンは出来るだけ石段の近くでアルヴィンを応援したい。
(人混みを掻き分けて頑張って最前列を確保するよ。……それしにても急な石段ね。ほとんど上がってこられないじゃない……)
 近くで見ると斜面の勾配は圧迫感を感じるほどだった。これから馬で駆け上がると思うとアルヴィンは怯みそうになる。
「落ち着いていこう。楽しませれば勝ちだ、一緒に頑張ろう」
 緊張する馬を撫でて落ち着かせた。馬は石段に対して多少の恐怖心を持っているようだ。アルヴィンが「大丈夫」と言葉を繰り返して撫でると、馬も徐々にやる気が出てくる。
 スタートの時が来た。石段に向かって馬を駆けさせる。蹄鉄が石段を叩き心地いい音が辺りに響く。
 序盤は順調。しっかりと確実に駆け上がっている。左右に植えてある、まだ花を咲かせていない桜の木が視界の外に流れていく。
 真ん中付近まで駆け上がってくると、徐々に馬の足が重たくなってくる。速度は落ちて鳴くようになる。高さの恐怖で怯えているのだ。
「あぶなっ……!」
 馬が怯えて竿立ちになった。両足を持ち上げて真っ直ぐに立ち上がってしまっている。
 上から見ていたミオンは拳を握りしめ思わず大きな声が出る。
「アルヴィン、頑張りなさいよっ!!」
 アルヴィンは落馬していなかった。しっかり足と腕で馬に抱き付き、振り落とされないように耐えている。
 馬が落ち着きを取り戻すまでに時間がかかったが、持ち直した。
 石段を見上げたアルヴィンが目にしたのは、拳を握りしめて叫ぶミオンの姿だった。余裕はないが、にっこりと笑顔を見せる。
 ただ、馬の方は恐怖で限界が来ていた。動こうとしないので係員が馬に駆け寄ってくる。
手綱を渡してアルヴィンは歩いて神社に向かった。
「応援してくれたのにごめんな」
「仕方ないわよね。楽しかったら何よりよ。お疲れ様」
 無事に神社で顔を合わせた二人は安堵の表情を浮かべていた。
「せっかく来たし、厄払いにでもいく? 怪我してばかりだもの」
「石段を駆け上がると『今年一年、仲良く過ごせる』らしいよ」
 アルヴィンがイタズラっぽく笑みを浮かべる。
「……な、仲良く!? 良いも悪いもパートナーでしょ!」
 照れてミオンは反論する。アルヴィンは楽しそうにいった。
「今年もよろしく」


「私、挑戦したいな!」
 一緒に来ている月成 羽純に桜倉 歌菜はいった。
(縁結び……、やらない訳がないよ! 登りきれば、羽純くんと今年一年仲良く過ごせる……!)
「歌菜が挑戦するのか? ……危ないだろ。やるなら俺が……」
 心配した羽純は歌菜に自分がでた方がいいと説得を試みる。この日の歌菜は頑固だった。どうしても挑戦したいという歌菜に、羽純は根負けした。
「大丈夫だよ、馬なら一応乗れるし。羽純くんは上で待ってて、ね?」
 満面の笑みを見せる歌菜に「無茶するなよ? 上で待ってる」と一言告げて、羽純は歌菜がエントリーする姿を眺めるしかなかった。
 神社に行く前に歌菜の頭を撫でる。
「本当に気を付けて」
 いって、羽純は神社に向かった。
 歌菜が馬に跨がって石段の下に移動すると、沢山の見物客に圧倒される。
「わぁ、凄い人……! 皆さんを、羽純くんを笑顔にできるような、そんな馬術を見せられたらいいな」
 自分の順番になると緊張してくる。馬にも緊張が伝わっているようだ。馬の緊張に気がついて歌菜は笑顔を作る。
「馬さん、どうか私に力を貸してね……! 行こう!」
 馬のお腹を蹴ると、ゆっくりと駆け始めた。馬と呼吸を合わせて人馬一体を意識する。
 焦らず着実に駆け上がっていくようにとペース配分をする。かなりの急勾配で、しがみつくような体勢になりそうだ。
 少し格好が悪くても背筋を伸ばして笑顔を浮かべる。最後まで笑顔でいたかった。
「本当に大丈夫なのか?」
 神社からハラハラしつつ、歌菜を見守る羽純。馬の操縦を見ていると危なっかしい。
 歌菜の表情を伺うと笑顔を浮かべている。羽純に衝撃が走った。不思議と暖かい何かが胸に灯るのを感じる。
「歌菜を守りたいと、そう思った。けど……、守られるだけじゃない。そんな強さが、歌菜にはあるのかもしれない」
 羽純は歌菜の勇姿に感動していた。
 中盤にさしかかった所で、馬が急に怯え始めた。急斜面を駆け上がってきたわけだが、石段の高さに恐怖心が芽生えたのだ。
「あと、もう少しだけ頑張って」
 歌菜の願いが馬に伝わったようで、来た道を引き返そうとしていた馬は、再び石段の上を見た。
 それも、長い時間は続かず、立ち往生している所に係員が助けに来るのだった。
「馬さん、おつかれさま」
 馬に感謝の言葉を言うと、石段を徒歩で登っていく歌菜。上では羽純が待っている。
 歌菜が羽純と合流する。羽純は歌菜を笑顔で褒め称えた。
「よく頑張ったな。見てて楽しかった」
 頭を撫でると、歌菜は嬉しそうにしている。頬を紅潮させている歌菜を見て、羽純は胸がざわめいた。
(少しでも羽純くんに相応しい女性に近づけたかな)
 歌菜はしばらく、二人の時間を満喫する。
「……腹減っただろ? 神社にお参りして、何か食べに行くか」
 羽純と共に参拝に向かう歌菜。帰り、歌菜が乗った馬に、羽純が「……歌菜をありがとう」とこっそりお礼をしてやると、馬は嬉しそうに鳴くのだった。
 歌菜と羽純は仲良く食事をしに歩いて行く。


「参加することに意義がある、とは言いますけれど……。貴方ならきっとやりとげられますわ」
 ヴェルナーにアマリリスはいう。ヴェルナーの実力をきちんと評価しての言葉である。
「これは挑戦しがいがありますね。騎乗は得意なので楽しみです」
 多くの挑戦者が失敗に終わっていくなか、この高難易度のイベントを攻略したいという気持ちがヴェルナーを高揚させる。
 一筋縄では攻略できそうにない。石段の中盤を過ぎると、馬が怯えて動かなくなるのを何度も目にした。ある程度、度胸のある馬を選ばないと攻略は難しいだろう。
 待機している馬の様子を眺めながらヴェルナーは相棒となる馬を選んでいた。
「白です」
「え?」
 突然の横からの声にヴェルナーは声が漏れた。
「え? ではありません。わたくし、白馬がいいですわ。新年ですもの、夢くらい見させてくださいませ」
「それは構いませんが……。夢とはいったい」
 よくわからないとヴェルナーは首を傾げた。アマリリスは白馬の王子の事を言ったのだろう。そのことにはヴェルナーは気がつくことが無かった。女心に鈍いヴェルナーらしい。
「では、わたくしは神社で待機しています」
 そういうと、アマリリスは神社へ向かっていく。その背中をヴェルナーは見送った。
 白馬でエントリーをする予定でいたヴェルナーだが、黒くて大柄な馬が先ほどから視線を合わせてくる。自分に乗れという強い視線だ。
 今日の駆け上りで、この馬は一度しか走っていない。そして、その一度は駆け上りに成功していた。馬は人を見ると言うが、ヴェルナーは乗り手として馬に選ばれたようだ。
 エントリーするときに急遽、この視線が合った馬と白馬をチェンジした。この馬なら駆け上がれる。そうヴェルナーは感じたのだ。
 神社では、不安そうな表情を浮かべてアマリリスが石段の下を心配していた。
「ただ、待つだけというのもなかなか……。大丈夫かしら。信じていますが落馬して怪我でもしていたりしたら……」
(本人がいない所ではわりと素直になれるのですけどね。どうしてわたくしってこうなのかしら。伝わらなければ何も意味がないでしょう)
 素直になれないアマリリスは一人反省し、ヴェルナーの無事を願う。
 ヴェルナーは選んだ馬に乗って石段の下に来ていた。見上げるとかなりの急勾配だった。恐怖心はないが、緊張してくる。
 深く深呼吸をしてもう一度、石段を見上げる。この上にはアマリリスが待っているのだ。行かなければならない。そういう気持ちが自然とわき上がってきた。
 馬にも気持ちが伝わっているのか、足取りが軽い。
 スタートの合図で、ヴェルナーは力強く馬のお腹を蹴って合図を送った。任せろという馬の強い意志が走りに現れている。
 今日、一番のスピードで石段を駆け上がっていく。観客から歓声が上がった。
 アマリリスの期待に応えたい。この馬はきっと思いを感じ取ってくているはず。ヴェルナーは馬と心を一つにして石段の上を目指した。
 神社から石段の方を見ていたアマリリスは馬に乗ったヴェルナーが石段を勢いよく駆け上り、神社の前で止まるのをしっかりと目にした。
 全力を出し切ったからか、ヴェルナーは満足そうな表情を浮かべている。アマリリスから安堵の息がこぼれた。
 馬にお礼を言ってからヴェルナーは降りて、係員に馬を返す。その足でアマリリスの元に向かった。
「見事でした」
 称えるアマリリスにヴェルナーは謝罪を口にする。
「申し訳ありません。白馬を選べませんでした」
「ああ、そういえば白馬ではないですね。全く見ていませんでした。まあ……察してくださいませ」
 アマリリスは話をはぐらかす。
(貴方ばかり見ていたとはとても口に出来ませんわ)
 ヴェルナーはアマリリスが何を考えているか、話からはわからなかった。
(馬を見ていないのなら何を……もしや私を?)
 ヴェルナーはまさかと思って口にしなかった。アマリリスはヴェルナーの鈍さに救われたかのように、笑みを浮かべるのだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ハロルド
呼び名:ハル、エクレール
  名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ
呼び名:ディエゴさん

 

名前:アマリリス
呼び名:アマリリス
  名前:ヴェルナー
呼び名:ヴェルナー

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 和歌祭 麒麟
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月09日
出発日 01月16日 00:00
予定納品日 01月26日

参加者

会議室

  • [8]桜倉 歌菜

    2015/01/15-22:34 

  • [7]桜倉 歌菜

    2015/01/15-22:33 

  • [6]桜倉 歌菜

    2015/01/15-22:33 

    桜倉歌菜です!
    あらためまして、皆さん、宜しくお願い致します♪

    今回は、私が駆け上がってみようかなって思ってます!
    楽しんで、羽純くんに格好良いとこ、見せられたらいいな…!

  • [5]手屋 笹

    2015/01/12-23:13 

    手屋 笹です。
    皆様今年もよろしくお願いします。

    駆け上りはわたくしが挑戦予定です。
    うまく行くかは分かりませんが縁起担ぎですしね…
    やってみます!

    カガヤ:
    ミオンさん、アルヴィンさんもあけおめー!

    怪我はもう大丈夫だよ、心配かけてごめん…(耳ぺたん
    ともあれ、今年も元気によろしくお願いしまっす!

  • [4]アマリリス

    2015/01/12-01:51 

  • [3]ミオン・キャロル

    2015/01/12-01:21 

    皆さん、見知った顔ね。
    明けましておめでとう…はもう遅いかしら?

    私は今回は応援に回るわ。
    …格好よいところみせなさいよ?
    応援ってこの上よね…(石段を見上げ、ため息)

    アルヴィン:
    実際見ると急だな
    まぁ、やれるとこまで行くさ。

    カガヤ、もう体は大丈夫なのか?
    お互い無事で良かったな
    今年もよろしく(にこっ

  • [2]桜倉 歌菜

    2015/01/12-00:47 

  • [1]ハロルド

    2015/01/12-00:30 


PAGE TOP