プロローグ
●古城カフェがピンチなんです
甕星香々屋姫(みかぼしかがやひめ)の『人間界風紀粛清大作戦』の余波は、タブロス近郊の小村の外れ……という少々辺鄙な場所に位置する古城カフェ『スヴニール』にも及んでいた。古城カフェの主でパティシエのリチェット青年は、古城の入り口を塞ぐ塞の神(さいのかみ)――岩石と土偶を合わせたようなずずんと大きい生き物(?)を首が痛くなるほど見上げて、困り顔で声を掛ける。
「あの、すいません。デートに来てくださったお客様をとおせんぼするのはやめていただきたいのですが……」
「塞塞! それは成らぬ! 我は神の使いぞ。我が行いは神の意思なり」
リチェットはため息を零した。こんなやり取りが、もう何度も続いている。
「困ったなぁ……」
皆さんに新しい年の始めを楽しんでもらいたくて折角限定メニューも用意したのにと、リチェットは眉を下げた。ちなみに1月限定の新メニューは、味わい深い抹茶しるこに可愛い羊の白玉をぷわぷわと浮かべた見た目も楽しい和の一品だ。生クリームで羊の真っ白ふわもこの毛を、クッキーで出来たパーツで愛らしい顔を表現した羊さんケーキも古城の中でお客様の笑顔を待っている。
「うーん、一体どうしたら……」
困惑しきりのリチェットの元に、間もなく少し遅れた吉報が訪れる。A.R.O.A.が塞の神を何とかしてくれるらしいという話をカフェを訪れた観光客から聞いて、リチェットは早速A.R.O.A.へと速達の手紙を出しに走ったのだった。
解説
●目的
塞の神を倒し古城カフェの入り口を開放すること
●敵
塞の神1体
矛を持った神さまの下っ端。
攻撃はスローすぎてよほどのことがなければ食らうことはないでしょうが、歴戦のウィンクルムでもダメージを与えるのは難しいほどの防御力を誇ります。
ですが、顔に書かれたなぞなぞを解けば、神の鎧が砕けて攻撃が普通に通るようになります(それでも防御力はかなり高めです)。
なぞなぞは、『黒い犬と茶色い犬と白い犬が仲良く遊んでいますがそのうち1匹は全く吠えません。さて、吠えないのは一体どの犬でしょうか?』。
塞の神は、倒されるとぽわん! と煙を上げて消えてしまいます。
●戦闘後は……
任務完了の暁には、プロローグにあるスイーツをリチェットが振る舞ってくれるようです。
スイーツは、食べたい方をプランにてご指定くださいませ。
パートナーやご友人と楽しい時間を過ごしていただけると幸いです。
(同行の方との絡みは、両者のプランに記載があった場合のみ描写いたしますことをご了承ください)
●古城カフェ『スヴニール』について
小さな村の外れにある豪奢な造りの古城の中、価値のあるアンティークやとっておきのスイーツが楽しめるカフェ。
『古城カフェの~』というタイトルのエピソードは全て同じ場所を舞台にしていますが、該当エピソードをご参照いただかなくとも任務に支障はございません。
●リチェットについて
一族に伝わる古城をカフェとして蘇らせたパティシエの青年です。
戦闘のお邪魔はいたしませんので気にかけていただかなくて問題ございません。
戦闘後のスイーツタイムも、極力お邪魔しないつもりです。
ゲームマスターより
お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!
冬の古城カフェは久しぶりのアドベンチャーになりました。
なぞなぞのヒントは『漢字』です。
吠えないということはそのわんこは『黙』っています。
プランは戦闘後のスイーツタイムや皆で謎解き等のお楽しみ部分に比重を置いていただいてOKです!
パートナーさんたちと楽しい時間を過ごしていただければと。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!
また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
……普通に死活問題だな…… 生活かかってるんだ、分からず屋にはさっさと退場願おうか 謎解きは俊に任せ とにかく攻撃を受けないように注意しつつ ヒット&アウェーを意識して行動 少しでもイグニスのスキルの威力を上げるために コネクトハーツでの連携狙い うちの火力馬鹿をなめんじゃねえぞ? あーはいはい、わかったからちょっと黙れ……お疲れさん。 仕事が終わったら限定メニューを頂く 俺は抹茶しるこにするか 待て、ちゃんとやるからそんな目で見るんじゃない! ったくお前は…… (まじまじと見つめた後頭を撫で) しっかし、これで髪が白けりゃ本当に羊だなお前 (楽しそうに笑って) ……なんだその顔。心配しなくてもディアボロだってわかってるぞ? |
天原 秋乃(イチカ・ククル)
いくら神様でもデートにきてる奴らの邪魔をするのはよくないだろう 悪いが倒させてもらうぜ 顔に書かれてるなぞなぞは俊に任せる もしもその間に塞の神が攻撃してくるようなことがあれば、弓で牽制 …それにしても、なぞなぞを解けば防御力が低下するのか…塞の神の優しさなんだろうか。問題も簡単だし 戦闘中は基本的に後衛から援護 ◆戦闘後 古城カフェ、実は前から気になってたんだよな こういう形で来ることになるとは思わなかったけど ……デート?誰と誰が? ……はあ??っていうかその呼び方やめろ イチカの言ってることはよくわからないが、それはそれとして、この限定メニュー美味しいな。見た目も可愛いし こういうの作れるなんて、ちょっと憧れる |
俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
着いたらトランス 塞の神でけえな こりゃ俺の攻撃は通じなさそうだ 大人しくなぞなぞに専念するか 敵の動きは遅いが攻撃を受けないよう他の前衛に隠れて慎重に近づき 額の字を見て呆れ顔で即答 答えは黒い犬だな 黒犬と並べて書けば黙という字になる、つまり吠えずに黙ってるってことだ 正解したら後退 余裕があればネカのスキル使用の直前にコネクトハーツを一回当てておく 神の謎解きというからどんなもんかと思えば…次はもっと歯ごたえのある問題を持って来い スイーツは抹茶しるこ シェアってお前…こっち汁物なんだがっておいやめろ恥ずかしい! …しょうがねえな、ほら 震える手でスプーンで掬って差し出し まただ、好意的な行動のはずなのに怖いと感じる |
ウィーテス=アカーテース(パラサ=パック)
○賽の神 こ、困った神様だなぁ…… と、とにかく、カフェへ被害が出ないようにしないと 賽の神の攻撃が届く範囲を確認しながら 距離を取りつつパラサに声を掛けます 周りに人や、カフェに来たお客さんがいたら 危ないので離れていて貰うようにお願いします ○戦闘後 無事に賽の神を何とか出来て任務が完了したら 被害などの確認をしながら片づけや掃除を手伝おう その後でカフェで休憩させて貰います えっと、抹茶のおしるこ、頂いても良いのかな 食べながら今日の任務についてパラサと話をします ……あ。これ、美味しいねぇ、パラサ 緊張していたのが解れるっていうか、ほっとする 前に来た時も美味しかったし 無事にお店が営業出来るようになって良かったなぁ |
フラル(サウセ)
古城カフェは来てみたいと思っていた場所だった。 『人間界風紀粛清大作戦』…。 なんだそりゃ…。 塞の神のなぞなぞについては、回答者に任せる。 戦闘時は、サウセのサポートにつく。 自分の手持ちの武器でも攻撃を仕掛けるが、あまり無理せずにできる範囲のことをする。 塞の神はどのような攻撃を仕掛けてくるのかわからないが、冷静に対処したい。 なるべく、自分で自分の身は守る。 他の仲間の様子も良く見る。 戦闘後は、サウセとスイーツを楽しむ。 普段はあまり表情が変わらない相棒だが、甘いものが大好きなので、きっとここのスイーツを喜ぶだろう。 相棒の喜ぶ顔(あまり表情は変わらないかもしれないが)と、美味しいスイーツを楽しもう。 |
●神様・邪魔者・通せんぼ
「古城カフェは来てみたいと思っていた場所だったんだが……」
少し離れた場所から件のカフェの入り口を見やり、フラルは疲れたようなため息を零した。
「これは店主が気の毒だな。『人間界風紀粛清大作戦』……なんだそりゃ……」
「本当に一大事ですね……カフェにとっても、ここを訪れる人たちにとっても」
サウセが言葉を継ぐ。「そうだな」と応えたフラルの口から再びのため息が漏れた。古城カフェの唯一の入り口である大きな扉の前には、塞の神が、どでん! と立ち塞がっている。
「……普通に死活問題だな……」
色付き眼鏡の奥の目元を険しくして、初瀬=秀が難しい顔を作った。喫茶店の主である秀には、この事態の深刻さがよくよく分かる。
「何たることでしょう由々しき事態ですよ!」
と、秀のパートナーたるイグニス=アルデバランも、いつもはほんわか笑顔を浮かべているそのかんばせに、むうう、と怒りの色を乗せていて。
「こんな誰も幸せにならないようなお邪魔虫さんはお帰り頂きます!」
霊錫『黄泉塞岩』の先をズビシ! と塞の神へと向け、今にも掛かっていきそうな勢いのイグニスを、「待て、ちょっと落ち着け」と秀がぐいとその肩を掴んで引き留めた。そんな2人のやり取りを見て、イチカ・ククルは楽しそうな笑い声を上げ、
「初恋の神様もやることがおもしろいよね」
と視点の違う感想を漏らす。
「恋は障害あってこそ。こういうことしても意味ないと思うんだけど」
「意味があるかないかは置いとくにしても、いくら神様でもデートにきてる奴らの邪魔をするのはよくないだろう」
相棒の言葉に、真面目な面持ちで続く天原 秋乃。イチカがへらりと笑った。
「うんうん、あきのんの言う通りだよ。ちゃちゃっと倒してゆっくりお茶しようか♪」
「って、その呼び方はやめろって言ってるだろうが!」
秋乃に怒鳴られても、どこ吹く風のイチカである。
「こ、困った神様だなぁ……。と、とにかく、カフェへ被害が出ないようにしないと」
ところどころ言葉を詰まらせながらも、古城カフェのことを第一に考えて言葉を零すはウィーテス=アカーテース。気が弱くも心優しい相棒のその背を、勇気づけるようにパラサ=パックがパシンと叩く。
「わ、パラサ……!」
「となりの、このパラサ=パックに任せるぎゃー。カフェに何かあったら、美味しい物どころじゃなくなってしまうのさ」
古城カフェの味をタダで食べられるこの機会をみすみす逃す自分ではないのだと、パラサは自信満々、晴れた笑みをウィーテスへと向けた。その笑顔に釣られるようにして、ウィーテスの口元も自然柔らかくなる。その様子に、パラサは白い歯を零した。
「……でけえな、塞の神」
ズンとそびえる下級神の姿に、琥珀の瞳を瞠るのは俊・ブルックス。
「堅そうだし、俺の攻撃は通じなさそうだ。大人しくなぞなぞに専念するか……」
クイズは好きな分野だ。自分は自分の役割を果たそうと改めて思い決める俊の傍らで、ネカット・グラキエスはにっこりとした。
「シュンとのデートの邪魔なんて、神様が許しても私が許しません」
「……おい、いつ俺とお前がデートするなんて話になったんだよ」
「さあ、さっさと片付けてスイーツを楽しみましょう。シュン、トランスを!」
「お前は、人の、話を、聞けっ!!」
俊の全力のつっこみを受けてなお、ネカットはけろりとしている。そして、そっと自らの頬を俊に向ける。トランスを急かすが如くに。俊は深い深いため息を零した。
「ネカ、お前なぁ……まあ、話は後か」
俊が力呼ぶスペルと頬への口づけを零せば、青白いダイヤモンドダストの幻影が2人を包むようにきらきらと舞う。彼らに倣って、他のウィンクルムたちも次々にトランス状態に入った。オーラを纏ったイグニスが、後方で不安げに古城カフェを見やっていたリチェットの方へ、くるりと振り返って懐っこいような笑みを見せる。
「リチェット様は離れていてくださいね。大丈夫です、お店には傷一つつけさせませんよ!」
「あ、ありがとうございます……!」
イグニスの言葉が、笑顔が、リチェットの心に安堵を運んだ。
「では、行きましょう、秀様!」
「ああ。生活かかってるんだ、分からず屋にはさっさと退場願おうか」
そうして一行は、古城カフェの入り口へと向かった。
●らぶらぶかっぷる?
「塞? 主らは何だ? 神の意に反するかっぷるというものか? らぶらぶなのか?」
5組のウィンクルムを見て、塞の神は大真面目にそう問うた。その場の誰が何を言うよりも早く、キラリ、ネカットの深い緑の瞳が光る。
「おや、ご明察ですね。そうです、らぶらぶです。流石は腐っても神様、中々見る目がありますね」
キリリとしてネカットが言った。褒められて(?)、ちょっと照れる塞の神。
「やっぱりこう、滲み出ちゃってるのかな? 僕と秋乃の愛の力的なものが」
面白がっているように笑ってイチカが続く。
「というわけで、こんなのは私と秀様が許しませんよ! 天誅です!」
塞の神をびっと指差してぷんぷんしながら言い放った後で、「あれ? 神様がお相手なら天誅はちょっと違うでしょうか?」とイグニスが首を傾げた。
「塞! やはりらぶらぶか。ならばここは通すわけにはいかな……」
「「「って、違うだろうが!!!」」」
塞の神の台詞を遮って、俊が、秋乃が、秀が、声を揃えて各々の相棒につっこみを入れる。
「何がらぶらぶだ! 仮にも神様相手に適当言うなっての!」
「いいじゃないですか、シュン。どうせすぐ倒しちゃうんですし」
「身も蓋もねえな!」
俊の怒涛のつっこみを受けてなお、やはりけろっとしているネカットである。
「誰と誰の愛の力がどうだって? 何にも滲み出てないよな? おい」
「あはは、秋乃こわーい。ちょっとしたジョークだよ、ジョーク」
愛しの秋乃に蔑むようなジト目で睨まれてなお、イチカは笑みを絶やさない。健気とかの域はもはや通り越している。
「イグニス、お前も乗っからなくていいから、本当に」
「乗っかる……? それより秀様、お顔が疲れてますよ。大丈夫ですか?」
とても真面目に労わられて、秀は痛む頭を抑えた。天然って怖い。
「……何だかコントを見ている気分だ……」
フラルが遠い目をして青い空を仰ぐ。
「なあ、サウセ。今は一応任務の真っ最中だよな……?」
「そう……だと思います。私たちは塞の神にご退場願いにきたはずです」
「だよな、良かった」
相棒の言葉に、ほっとしたように息をつくフラル。儚げな外見を裏切るクールな男前なのに、何の因果か本日はため息が絶えない。お疲れさまです。
「あっはは。パラサ=パックは、賑やかでいいと思うのさ。面白いからね」
「え、ええっと。僕たちはどうしたらいいんだろう……?」
からからと楽しそうに笑うパラサの隣で困惑するウィーテス。同じくこの状況に困惑していた塞の神がウィーテスに問うた。
「塞、何やら揉めているようだが、主ら、本当は何をしにきたのだ?」
「あ、その、神様を倒しにきた……はず……?」
「塞! 何と、神の意思に逆らう者か! かっぷるではなかったとは!」
塞の神が驚きの声を上げる。ネカットがにっこりと笑んだ。
「でも、あながち嘘は言ってないですよ」
「そうそう、時間軸の問題だよ。将来の可能性って言うのが……あっ、痛い。秋乃の視線が痛い」
「ええい、黙れ黙れ! 我、神の意思を執行するものなり! 成敗してくれる!」
ぶんと振るわれた矛の一撃はものすごく重そうだったけれど同時にとてもスローモーだったので、ウィンクルムたちはそれを軽々と避ける。なし崩し的に戦闘が始まり、一行は各々の配置についたのだった。
●おやつの前の一仕事
「このまま放っておくわけにもいかないからな。悪いが倒させてもらうぜ」
言って、秋乃は後方より、鉱弓『クリアレイン』から矢を放った。塞の神に向かって飛んだ矢はその固すぎる装甲に傷を付けること叶わず地に落ちたが、その矢尻のクリスタルの煌めきは、光を集めて塞の神の目を眩ませる。神人を含む多くが前衛に立ち武器を振るっているが、彼らの攻撃を受けても塞の神は僅かも揺るがない。けれど、今は塞の神の注意を引けさえすればそれでいい。
「先ずはなぞなぞ、だな」
他の前衛に紛れて慎重に塞の神へと近づいた俊は、その額のなぞなぞをじっくりと読み、読み終えると拍子抜けしたような呆れ顔を作った。なぞなぞは、『黒い犬と茶色い犬と白い犬が仲良く遊んでいますがそのうち1匹は全く吠えません。さて、吠えないのは一体どの犬でしょうか?』である。
「答えは黒い犬だな。『黒』と『犬』を並べて書けば『黙』という字になる、つまり吠えずに黙ってるってことだ」
俊、迷いなく即答。ピンポーン! と戦場には似合わない明るすぎる音がして、神の鎧は煌めきの欠片になって大気の中に溶け消えた。
「神の謎解きというからどんなもんかと思えば……次はもっと歯ごたえのある問題を持って来い!」
「さ、塞~! し、しかし、まだまだ我は揺るがぬぞ!」
振るわれる矛を避け、俊が後ろへと下がる。と、その時、塞の神の視界に後方で魔法の詠唱をしているエンドウィザード2人の姿が映った。
「ええい! させぬぞ!」
矛をぶん回し、塞の神は後衛への道を切り開こうとする。だが、簡単にそれを許すウィンクルムたちではない。手裏剣『ワーウルフファング』が唸りを上げて空を裂き、塞の神に刺さった。ダメージこそないが、敵の注意を引くには十分だ。
「このパラサ=パックを無視しようとはいい度胸だぎゃー!」
「パラサ! 気を付けて!」
「わかってるのさ、となりの!」
ウィーテスの心配そうな声に応じたパラサが、術を用いて自身の幻影を出現させる。惑うた塞の神が振るった得物は、分身の方を断ち切った。翻弄されて益々猛る下級神。
「塞、塞、塞~!」
「おっと、神様、お相手はこっちだよ」
双剣『穿つ月』でイチカが鋭く塞の神に斬りかかる。素早い動きで舞うようにその岩の肌を傷つければ、何とかイチカの姿を捉えようとする塞の神もくるくると不格好に踊って。その隙をついて、フラルのウィンクルムソードも塞の神に叩きつけられた。前後からの攻撃に、すっかり混乱する塞の神。
「サウセ、今だ!」
ごく冷静なフラルの声を合図に、マジックブック『目眩』を開いたサウセがタロットカードの幻影を召喚する。等身大のタロットカードにぐるりと囲まれた塞の神が闇雲に1枚のカードを斬り付ければ、現れるは『吊るされた男』の絵図。タロットの中に隠れているサウセが、小さく笑った。
「おや、『吊るされた男』の逆位置ですか。意味は、困難、犠牲、徒労、失敗……さて、あなたの言う神の意思は通るでしょうか?」
「さ、塞……」
不吉な予言に怯む塞の神に、サウセは背後からマジックブックを飛ばして攻撃する。飛翔した本の噛み付きは塞の神に大したダメージこそ与えなかったものの、その役割は十分に果たした。
「詠唱完了、攻撃開始です」
両手杖『泉の貴婦人』の先端を真っ直ぐに塞の神へと向けたネカットの瞳が光る。
「今年の初カフェデートへの意気込みをこの魔法に込めました。聞いてください、殺意の虹光!」
「だから! デートじゃないって言ってるだろうが!」
放たれる魔法、冴え渡る俊のつっこみ。なお、放った魔法は『乙女の恋心Ⅱ』である。エナジーが塞の神の身体を内部から烈火の如く焼くが、流石は神の端くれ、何とか倒れずに踏み止まる。
「おや、アンコールです? しぶといですね」
言って、ネカットは再度杖を構えようとしたが――ふともう一人のエンドウィザードへと視線を遣ってその手を下ろすと、にこりとして呟いた。
「2曲目の準備も整ったみたいですね」
イグニスの杖にも、充分な魔力が集まっている。それを見て取って、前衛に立っていた秀は短剣『コネクトハーツ』で何とか立っているという様子の塞の神に斬りつけた。ダメージはないが、トランスを応用したこの武器は、続くパートナーの攻撃の威力を底上げする。
「うちの火力馬鹿をなめんじゃねえぞ?」
にやりと笑って秀が引けば、タイミングを図って放たれる強大なエナジー。
「これが! 私たちの! 愛の力ですよ!!」
イグニスが力強くそう宣言したのと、ぐらりと傾いだ塞の神の身体がぽわん! と煙を上げて消えたのは同時だった。えへん! と腰に手を当てるイグニス。
「ふふー、愛の勝利というやつですね! 秀様にもお褒め頂きましたー!!」
得意げな相棒の様子に、先ほどの台詞が聞こえていたかと秀は首の後ろを掻く。苦い顔になるのは照れ臭さのせいだ。
「あーはいはい、わかったからちょっと黙れ……お疲れさん」
「はいっ!」
秀に声を掛けられて、イグニスは幸せ全開の笑顔を零した。先ほどまで塞の神が居た場所を見遣って、「それにしても」と秋乃は首を傾げる。
「なぞなぞを解けば防御力が低下するっていうのは塞の神の優しさだったんだろうか。問題も簡単だったし」
ふと湧いた疑問に、答えられる者はいなかった。
●羊スイーツな時間
「リチェットさんが中に入れないお客さんを避難させてくれてて、本当に良かった」
誰かが怪我をするのを見るのは嫌だものねと、ウィーテスは前髪で隠れた目元を柔らかくする。幸い物損等の被害もなく、ウィーテスたちはすぐに甘いご褒美をご馳走になることが出来たのだった。深い、けれど優しい緑色の抹茶しることそこにぷわぷわ浮かぶ羊白玉をウィーテスはそっと口に運ぶ。その口元が綻んだ。
「これ、美味しいねぇ、パラサ。緊張していたのが解れるっていうか、ほっとする」
「そうだね、となりの。タダだと思うと余計に美味いぎゃー」
「もう、パラサったら」
同じく抹茶しるこを味わっていたパラサの言葉に、ウィーテスは苦笑する。その声音の楽しそうなのを耳に留めて、パラサはにっと笑った。ウィーテスがまた口を開く。
「前に来た時も美味しかったし、無事にお店が営業出来るようになって良かったなぁ」
「それはオイラたちが頑張ったからさ。勿論、となりのもね」
しみじみと呟いたウィーテスに、視線は今まさに掬おうとしている白玉に固定したままで、さらりと言うパラサ。ウィーテスが前髪の奥で目を丸くしたのを見て取ったように、白玉を口に運んだパラサがにっかりとする。
「つまり、となりのもここにスイーツを食べにくる人たちの笑顔を守ったひとりなのさ」
その言葉に、ハロウィンの時にちょうど同じ場所で交わした会話が思い出されて。ウィーテスは「ありがとう」と、大切な相棒にひとつ笑みを向けた。
「古城カフェ、実は前から気になってたんだよな」
カフェの内装を見渡しながら呟いて、秋乃は抹茶しるこを口に運ぶ。ちなみに、目の前の席に座るイチカのスイーツは羊さんケーキだ。どちらにするか決めることが出来なかったので、とりあえず1種類ずつ。ケーキのふわふわ生クリームをフォークでつつきながら、イチカが笑った。
「古城カフェが気になってたってのは僕と一緒だね」
「一緒って……非常に癪だがそういうことになるのか」
こういう形で来ることになるとは思わなかったけど、と付け足して、秋乃はぷわぷわ羊白玉を掬う。イチカ、にこにことして曰く。
「それはつまり『デートとして来たかった』ってことでいいんだよね?」
「……デート? 誰と誰が?」
スイーツを食べる手を止めて思いっ切り怪訝な顔で自分を見る秋乃へと、イチカはにこやかに人差し指を立ててみせた。
「誰と誰って、もちろん僕とあきのんだよ~」
「……はあ? っていうかその呼び方やめろ何回も言わせるな」
絶対零度の冷たさで言い捨てられて、けれどもイチカは「あはは、怒られちゃった」なんて笑っている。まあ、秋乃にそんな気がまったくないのわかってたけどと、胸の内だけで呟いて。一方の秋乃、イチカの言ってることはよくわからないがと抹茶しるこを口に楽しんで、
「それはそれとして、この限定メニュー美味しいな。見た目も可愛いし」
と、羊白玉をつつく。
「うんうん、見た目も味も文句なしだね」
「こういうの作れるなんて、ちょっと憧れる」
「秋乃も勉強すればいつか作れるようになるんじゃない?」
その時は僕に食べさせてよ♪ と相変わらず笑顔のイチカの言葉に、秋乃は諾も否も返さず抹茶しるこをまた口にした。
「ありがとうございます、フラルさん」
フラルとサウセの前には抹茶しること羊さんケーキが1つずつ。どちらを選ぶか悩みに悩むサウセを見かねて、フラルがそう注文したのだ。これなら両方の味が楽しめるだろうと。
「このカフェは初めて来たので、どんなスイーツがあるか楽しみだったんです」
仮面の奥の表情はしかとは窺えないけれども、甘い物好きなサウセの声はどこか嬉しそうで。見た目以上に喜んでいるのだろうなと判断して、フラルはふっと口元を緩めた。
「お前はきっとここのスイーツを喜ぶだろうと思ったんだ。勘が当たったな」
「スイーツも勿論嬉しいですが……その、フラルさんの気持ちも嬉しいです」
フラルと共にこうした時間を楽しめるのが自分には嬉しいと、サウセは遠慮がちにぽつぽつと語る。その言葉に、フラルは笑みを返した。
「オレも、お前の喜ぶ顔が見られて良かった」
そう零せば、サウセは照れたように俯いて。
「それじゃあ、しるこが冷めないうちに頂こうか」
「あ、はい。そうですね、頂きましょう」
甘くて優しい時間を、2人ゆっくりと楽しもう。
「ああいう時のシュンは本当に生き生きしてますね、それに頼もしいです」
羊さんケーキを前に、ネカットはにこやかな笑みを目の前の席に座る俊へと向ける。『ああいう時』というのは俊が塞の神のなぞなぞを解いた時のことだ。何と反応すれば良いのか言葉を選びあぐねている俊の抹茶しるこを見遣って、ネカットはまた柔らかに笑んだ。
「好みが分かれましたね……ちょうどいいのでシェアして食べましょう」
「シェアってお前……こっち汁物なんだが……」
「シュン、はい、あーん♪」
「っておいやめろ恥ずかしい!」
と訴えてみたはいいものの、ネカットの方は引く気はさらさらないという様子。俊はため息を一つ零すと、差し出された白いケーキをぱくりとした。
「……これで満足か」
「いえ、次はシュンに『あーん』をしてもらわなくては」
「おい、何でだよ」
「だって、シュンは私のケーキを食べたんですよ? 私にはその権利があるはずです!」
ごく真面目な顔で主張されて、暫しの逡巡の後、抹茶しること共に羊白玉をスプーンに掬ってネカットの口元へと運ぶ俊。
「ああもう、しょうがねえな、ほら」
何故だかどうしようもなく手が震えるのを、俊は懸命に抑え込もうとする。
(まただ、好意的な行動のはずなのに怖いと感じる……)
不可解な想いを抱える俊の心境を知ってか知らずか、ネカットは美味しそうに白玉を頬張った。
「お楽しみのおやつタイムですね! わー、ケーキふわふわでかわいい!」
「はいはい、良かったな」
隣ではしゃぐイグニスを適当にいなして、秀は抹茶しるこを口に運ぶ。秀の口に消える羊白玉を、名残惜しそうに見つめるイグニス。
「……」
きゅるるんと潤んだ青の瞳が、おしるこもおいしそうと訴えている。その視線に耐えかねて、
「待て、ちゃんとやるからそんな目で見るんじゃない!」
と秀が折れた。
「え、いいんですか!? ではこちらのケーキもどうぞ!」
「ったくお前は……」
言って、秀は傍らの精霊の頭をまじまじと見つめる。そして、おもむろにその後ろ頭を撫でた。
「しっかし、これで髪が白けりゃ本当に羊だな、お前」
突然の行動に、イグニスが目を丸くする。そんな相棒を見て、秀は楽しそうに笑った。
「なんだその顔。心配しなくてもディアボロだってわかってるぞ?」
頭に残る温もり、それから、柔らかい笑顔。
(……笑った。やっぱり秀様が一番かわいいです!)
思わず、イグニスの顔もふにゃりと緩む。
「うん? 何にやにやしてるんだ?」
「ふふー、何でもないです!」
答えれば、秀が不思議そうに首を傾げた。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:初瀬=秀 呼び名:秀様 |
名前:イグニス=アルデバラン 呼び名:イグニス |
名前:俊・ブルックス 呼び名:シュン |
名前:ネカット・グラキエス 呼び名:ネカ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 巴めろ |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 01月07日 |
出発日 | 01月17日 00:00 |
予定納品日 | 01月27日 |
参加者
- 初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
- 天原 秋乃(イチカ・ククル)
- 俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
- ウィーテス=アカーテース(パラサ=パック)
- フラル(サウセ)
会議室
-
2015/01/16-23:52
俺も言いだすのが遅かったですからね
うん、またの機会によろしくお願いします
―さてと、プラン提出してきたぜ
うまくいくといいな -
2015/01/16-23:48
うお、気づくの遅くなった……!
折角誘ってくれたのに悪いな、秋乃。
また次、機会があったら皆で。
イグニス:
うー、色々お話してみたかったのですが残念です……
また今度!ご一緒させてくださいね!! -
2015/01/15-14:22
ネカット:
流れ把握です。
先日、レベルが10になってスキルを二つセットできるようになったので
MPと周囲への影響を考慮して恋心と恋心Ⅱを一発ずつ撃てるようなので
スキルはこの二つを持って行くことにします。
>スイーツタイム
皆さんで食べるの、素敵ですね!
…でも、文字数の関係で残念ながら私たちは入れそうにないです(しょぼん)
機会があれば、次はぜひ! -
2015/01/15-02:38
大体の流れは把握したぜ。イチカにはアルペジオⅡをセットさせておくな
で、話は変わるんだが…
任務完了後のスイーツタイムで俺達と絡んでもかまわないって奴はいるかな?
『同行の方との絡みは、両者のプランに記載があった場合のみ描写いたします』
ってことらしいから、もし「2人きりの時間を邪魔されたくない!」とかじゃなければ一緒に食べようぜ -
2015/01/14-14:19
あー悪い、勘違いしてたわ。
倒したときに建物の方に倒れこまれたら厄介だと思ったが、
煙を上げて消えちまうなら問題ないな。
あと言うの忘れてたが謎解きの回答は俊に任せた、
攻撃喰らわないように気を引くように立ち回らせてもらうな。 -
2015/01/14-00:05
引き離し…んー、敵がどういう入口の守り方してるかにもよるか。
体を張って通せんぼしてるなら動かすのは難しそうだし
侵入者を排除しようとしてある程度動いてくれるんなら
回り込んで中に入ろうとする奴とかを狙いに行ってくれねえかな…
まあ『塞』の神ってくらいだし、前者のような気がしないでもない。
動きも遅いみたいだし、誘導するよりさっさとなぞなぞ答えて倒す方がいいかもしれない。 -
2015/01/13-15:18
ん、作戦はそれでいいと思うぜ。
なるべくなら少しでも入り口から引き離したいな、
ちょっとずつでも移動させられんだろうか……
攻撃はヒット&アウェイで喰らわないように注意しておけば大丈夫だろう。
イグニスには恋心Ⅱと、火力底上げの天空の涙(パッシブ)を持たせておく。
一応2発は撃てるから決着つけられるはずだ、駄目だったら地道に削ろうか…… -
2015/01/12-21:38
はい、僕もその作戦で良いと思います。
えっと、パラサは陽炎を持って行く予定です。
僕らの攻撃力は低めなので、
相手の気を引いたり、散らせたり出来るように、が、頑張ります……! -
2015/01/12-09:34
そうだな。
EWは後衛で呪文詠唱で前衛系ジョブの精霊たちには前に出てもらう方が安心だな。
カフェに被害が出ないように、サウセのスキルもパペットマペットⅡではなく、タロットダンスに変えておくか。
パペットが破裂して被害が出たら大変だ…。 -
2015/01/12-00:40
この間の依頼…あっ(目をそらす)
そうだな、前衛が引き付けておいてEWが後ろから攻撃、でいいと思う。
なぞなぞの文章を読むために俺も前に出ないといけないと思うから、
前衛の陰に隠れて接近させてもらうな。
場所がカフェだし、被害を抑えるためにもスキルは恋心Ⅱを持って行く予定だ。 -
2015/01/11-00:58
挨拶が遅れてしまったな。
フラルさんとウィーテスは初めまして、俊は引き続きよろしくな。
秀さんは確かこの間の依頼………あっ(察し)
と、ともかくみんなよろしく。天原秋乃とテンペストダンサーのイチカだ。
>戦闘
なぞなぞは俊が答えてくれるなら、それでかまわないぜ。
EWの2人が詠唱している間に残りの前衛組が塞の神の注意を引きつける、という認識でいいのかな? -
2015/01/10-21:15
は、初めまして。
ウィーテスと言います。相棒はシノビのパラサ。
皆さん、よろしくお願いします。
塞の神……な、何だか不思議な相手だね。
なぞなぞ、よろしくお願いします……! -
2015/01/10-20:10
はじめまして。
オレはフラル。パートナーはトリックスターのサウセ。
よろしくな。
なぞなぞは確かに簡単だな。
なぞなぞに答えるのはまかせるよ。
塞の神は防御力が高め…。
精霊たちのジョブは前衛後衛で比較的バランスいいみたいだし、いい感じにいけそうかも…。 -
2015/01/10-13:55
俊・ブルックスとエンドウィザードのネカットだ。
秀達は久しぶり、秋乃たちは引き続きだな。
ウィーテスとフラルは初めまして、よろしく頼む。
俺達はこの古城カフェに来るのは初めてだな。
なぞなぞ答えたら弱体化するようだし、さっさと片付けてご馳走になるか。
…っていうか、簡単すぎるんだが、俺答えていいか?
こういう謎解き系って好きなんだよ。 -
2015/01/10-11:02
一番乗りかね、初瀬とエンドウィザードのイグニスだ。
ウィーテスとフラルは初めまして、秋乃と俊は 久しぶりだな(細かい言及は避けた)
まあ戦闘後の楽しみもあることだし怪我しないように気を付けような、よろしく。