【指南】絆に虹を掛けて(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「やっぱりカップルなんて…っ、カップルなんて!」

 人間界の漫画を投げ捨て叫ぶ神様が1人。
甕星香々屋姫(みかぼしかがやひめ)。
新年から、初恋宮という神社にやってきた新任の女神さまである。
神様年齢10歳程なお子さま女神様であるが、大変几帳面で勤勉であり、任命を受けてから着任するまで
人間界の様々な小説や漫画などから、恋愛のイロハを学んでいた。

 しかして。チョイスがまずかったようだ……。
まだ恋愛というものを知らないこの女神様は、いつの間にか「地上のカップルはけしからん!」という基本思念が身についてしまったらしい。
どんな本選んじゃったのか女神様。

 初恋宮を始めとし、今やカップルの定番デートスポットである映画館や遊園地等が、カップル出入り禁止の如く
見えない壁に圧されるとかで入れなくなってしまっていた。
途方に暮れたり、愛を育めずイライラが募るカップルも増えてきていた。
その様子すらも甕星香々屋姫の分身である童子から女神様に伝わり、良くない印象を与え、悪循環をもたらしてしまっている。

 女神様のお付き人的立場になっているテンコが頭を抱え始めたその時。
一人の神様がテンコに泣きついてきたのであった。


* * * * * * * * *

「虹の小神様?」

 任意で集められたウィンクルムたちが、口を揃えて聞き返した。
男性職員が頷く。

「鎮守の森の中に、虹の池というスポットがありまして。虹が生まれるという噂の池ですが、実は本当に生まれます。」

 へぇ、という好奇心の瞳をちらほら受けながら、男性職員は続ける。

「全ての虹がそこから生まれているわけではありません。
 ただテンコ殿が仰るには、その池が虹を生み出す瞬間を見た人々の感動を栄養にして、虹の小神も生まれるのだそうです」
「虹の小神は、その名の通り池と同じように虹を生み出します。
 雨上がりだけでなく、時折、心が枯れてしまった人の前に意図的に虹を生み出す、
 ちょっとした奇跡を世界の至るところで起こしているそうです。」

 もう一人居た職員が補足した。そして少し顔を曇らせる。

「実は…その虹の小神が今回の依頼主でして。
 甕星香々屋姫のせいで、虹の池もすっかり人が訪れなくなり……新たな虹の小神が全く生まれなくなってしまった、と。」

 何となく察し始めたウィンクルム一同。

「はい。皆さんには、その虹の池に行って頂き、感動して来てもらいたいのです。」
 
 ……意図的に感動って出来るもんなのだろうか。
虹は確かにキレイだと思うが、生まれるとすでに聞いた今では少々難しいかもしれない。
そう思ったウィンクルムの表情を見つけた男性職員が、大丈夫というふうに笑みを浮かべた。

「池から生まれた虹を触ってみて下さい。きっと素敵な感動に出会えると思います。」

 ならば、と安心顔を見れば、もう一人の男性職員が何故か目を泳がせ始め。
もごもごと言葉を発する。

「雨上がりの、1分間しか虹は出ないのですが。そこは、天気に運を任せ昼間の雨の日に挑むということで構いません。
 しかし、その……カップルだと思われるとそこへ近づけない可能性がありまして……」

 ならカップルだと思われないように、一人一人で行けばいいのでは?という表情たち。
ごもっとも、と頷きながらそれでも男性職員の目は泳ぐ。泳ぐ。

「それだと、感動力?というものが分散されてしまうそうで。出来れば一気に虹の小神を生んで欲しいらしく。
 それと、カップルの素晴らしさを甕星香々屋姫に伝えられれば、一石二鳥だとテンコ殿が……」
「そこで、ですね……今回の話をどこからか聞いて……、その、協力者が申し出てくれて……」
「ロドリゲ、おっほん!えーと、シャロームという方が是非ウィンクルムたちの力になりたい、と」

 何故だろう。途端に嫌な予感がみなぎってきた。

「シャロームさんとその団員の方々が、虹の池を独り占めする役回りをするそうで。
 ええ、カップルたちを追い出せばいいわけなので、それで甕星香々屋姫も自らの力を振るうことはしないだろう、と。」
「言うなれば、通せんぼしてるそうです。
 それを、ウィンクルムの皆さんが力を合わせて突破し、虹の池に入って頂くとそういうシナリオ……らしい、です。」

 おい。まだ目が泳いでるぞ。言え。他にも何かあるだろう。言え。

「シナリオ的には……我々も試す価値はある、と納得しまして。ただ……その……シャロームさんの悪癖が炸裂するかも、と……」
「後でコッソリと団員である部下の方が教えてくれまして……。通せんぼを装って、あの、シャロームさんが……お触りしてくる可能性高い、と」

 呆れる者。絶句する者。ああアイツかあああ、と思う者。
ウィンクルムたちの各々の反応に、男性職員二人は直角にお辞儀をした。

「スイマセン!ある意味安全な策である一方、ある意味ではとても危険な方法になってしまい……っ」
「でも虹の小神が、仲間が増えないと泣いているらしんです!どうか……どうか……!」

 よし。もうちょい詳しく聞かせてもらってから引き受けるか考えようか。

解説

★妨害を愛の力で突破して虹の池に入ろう!
★生まれた虹を触って感動を味わおう!

上記二本立てな目的です。
パートナーと協力は勿論のこと、参加者同士で協力するのもOK!
一組ずつ順番に挑むか、もしくは全員でか。
会議室で話し合って決めて下さい。
阻む団員は、挑むウィンクルムの人数と同じになります(必ずシャロームは居ます)
一組ずつとなった場合、団員突破~虹に感動まで、描写は完全に個々で執筆予定。

●雨の降りしきる真昼間(もうすぐ止みそう)に、虹の池ほとりに到着した所からスタート!
 すでに団員たちは準備万端。
「おーっほっほっほ!ここから先は通さないわよぉ!カップルは出ておいき!」
と、シャローム団長が野太い声でノリノリ悪役台詞をぶっ放してます。
とにかくかわして、池の中にざぶっと入ったらもう団員たちは妨害してきません。
距離にして約20m程。
そばには甕星香々屋姫の分身である童子が、事の成り行きを伝えようと生暖かく見守っています。気にしなくともよし。

あくまで、カップルの素晴らしさを見せることが目的なので、団員たち突破は難しくないです。
(ただし、イイ男が大好きなシャロームは結構本気で体触ろうとしてきます。殴っても蹴り飛ばしても構いません頑丈なので)
雨が上がった瞬間に団員たちは撤退(邪魔なので)

●虹の池
 30m四方くらいの小さな池。
 雨上がりなどに通りかかると、池から虹がニューと出てくるらしい。
 深さ30cm程度。

☆虹を触って起きる奇跡(PL様情報)☆
チャンスはほんの1分程。
虹はちょっとパリパリする感触で、触ると自分の周りにも小さな半円形の虹が出る。
感動の瞬間だ!
※無害だが、効果が丸一日なので夜は明るくて寝にくそう。

●シャローム団長から、動きやすくムレにくい運動合羽&長靴、強制販売
1人150Jr(ウィンクルムペアで300Jr)

ゲームマスターより

「ある時は美と毒を司る魔女・ポワゾン……ある時は神の栄光を借りる御使い・シャローム!
 ウィンクルムの為に見参よ!(ばちこーん☆)」

なんかすいませんでした!逃げないでっ、怖くないから、逃げないでええ!

乗っ取られそうなヘタレGM、蒼色クレヨンです!
遅まきながら新年おめでとうございます♪本年も何卒よろしくお願い致します!(ヘコヘコッ)

「入れ替えパイ投げ」に登場した団長が、再び出張ってきました。
・愛の名の下、団長&団員を避ける
・パートナーと共に感動に馳せる
どちらに重点をおくかで各自で描写バランスが変わってきますのでご了承下さい!

キャラ様らしい生き生きしたプランを楽しみにお待ちしております☆

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハティ(ブリンド)

  リンと並ぶべく踏み出した一歩を踏まれる
確認する 近寄り過ぎたと言えなくもないが触ってない
牽制か 流石リン容赦ない
これは紛らわしい動きをしたらやられる
相手がそういう人間だと聞いた以上は難しいかもしれない
わかっていれば気にならないし、俺は演技が下手だ
それを乗り越えるというシチュエーションならリンに協力してもらう他ないと考えていたが、思わぬところで試練になりそうだ
リンの前に出て壁になりつつ、リンの攻撃からも周囲を守りながら前進。皆と池を目指そう
なるほどカップルをもう一組作ってしまおうというわけか、発想の転換だな
雨も止んだみたいだ
指を伸ばして触れた虹の音に急かすように繋いだ手を引いてしまう
リンも来いよ


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  虹が起つ?神が生まれる?
神秘的な話だな(興味深い

●突破
仲間達と突破…かな

皆が突破し易いように俺達が注意を引こう
その隙に手薄な所から皆が突破できたら良い
そんな話をランスにする

触らせるつもりも無いよ
皆から引き離すようにシャロームに声かけだ

真剣に逃げないとヤバそうだ
ランスと左右に分かれて樹の影に
そしてクイックターン!からのー⇒全速ダッシュ!

●虹
小さいけど神聖清浄な空気に神妙に
ああ、そうだな(おずおずと手を伸ばす
運命の瞬間を見逃さないように

!俺達の体から!

息をするのも忘れて俺は思わず左手でギュッと握ると思う
夢じゃない証拠に握り返してくれるランスの手を…

「もっともっと沢山の虹神と幸せが生まれますように」



柊崎 直香(ゼク=ファル)
  出逢えた偶然に感動するのであって
必然的に生み出されたものに心動かされるかな。
虹の話だよ?

大きな紙とガムテープ持参。
雨上がったらゼクの背中にぺったり貼り紙。
『どなた様もご自由にお触りください』
シャロームさんが見えたら「ゼク、ちょっとこっち向いて?」と
貼り紙見えるように。
僕はそんなゼクの背中に隠れ。
守って貰ってる感、出てるでしょ?

お触りも頃合い見て
「そろそろ返して貰おうかな。これ、僕のだから」
と蹴り飛ばす感じで。
さっさと回避して目的を達成しないとだ
池へと走り抜け。……突き落したりは、しないよ?

虹。本当に七色あるのか数えてみよう
楽しみと言ったけど虹はゼクが触ったらいいよ
そういうの好きそうだし。


明智珠樹(千亞)
  ふ、ふふ…!
面白いことを考えてくださいますね、ロド…シャロームさん。
恋に障害は付き物です。
障害を乗り越え共に感動しましょう、可愛い千亞さん!

★皆と池
イケメンや可愛こちゃんがくんずほぐれつ…!素晴らしい…!
むしろ私も団員に…!
冗談です、嫉妬していただけるとは、私は幸せ者ですね、ふふ。

雨が降ってますし、千亞さん足元に気を付けてくださいね。
(千亞狙われたら本気で護る)
「千亞さんに触れていいのは私だけです…!」

★虹
ふふ、美しいですね。
千亞さんと見れて嬉しく思います(微笑み)
パチパチが気持ちいぃ…ッ!

千亞さん、寒くはありませんか?
早く耳や尻尾を乾かしましょう。私が暖めて差し上げます、人肌で
『黙れド変態』



 通せんぼする団員たちと池とが視界に入った位置にて、一度立ち止まるウィンクルム一行。各々が突破口を見定めるながら。
「虹が起ち、神が生まれる……か。神秘的な話だな」
「虹の小神様たち、助けないとね」

 アキ・セイジの言葉に、千亞が力強く頷く。

「俺は演技が下手だ。カップル、というモノを装い二人で乗り越えるというシチュエーションなら
 リンに協力してもらう他ないと考えていたが……思わぬところで試練になりそうだ」
「待て。なんの話だ……?俺は依頼の詳細をまた直香から聞いたんだが」

 ハティから難しそうな顔で呟かれた言葉に、ゼク=ファルが『また』を強調しながら反応。隣りでは柊崎 直香が素知らぬ顔している。
そんな(ごく一部)噛み合っていないかもしれないウィンクルムたちに、ねっとりとした視線が絡みつく。

「相変わらずツブ揃いだわー!」
「団長、目的忘れないで下さいね本当お願いします」

 まともな団員の切実な声、残念ながら団長の耳には届いていない様子。
まとわりつく視線も心地いい!とシャローム団長を視界に捉えた明智珠樹は、堂々と正面から声を放った。

「ふ、ふふ…!面白いことを考えてくださいますね、ロド……シャロームさん!」
「アンタはあの時の……!言うじゃないっ。今日こそはアタシのテクに沈んでもらうわぁ!!」
「恋に障害は付き物です。障害を乗り越え共に感動しましょう、可愛い千亞さん!」
「そうだな、障害は付き物だな……って、恋ぃ!?」

 千亞、長い耳をピィンッと伸ばして頬赤面。『可愛い』にまでツッコミが追いつかない。

「おい。ただ邪魔者を避けて池まで行けばいいだけじゃないのかっ?」

 先程からどうも会話がおかしい!とゼクの声が響く。勿論直香から返答はない。

「大体触る人間像って何だ、むしろ人間像に触ってなくね?実は何か他にもあんだろ、いや知らねえが」

 ブリンド、まともそうな団員にとりあえずシャロームについて聞いた話をふってみる。
裏に考えがあるのでは勘繰って。とはいえ言った本人はあまり重要視はしていない風だが。
団員からは、心底申し訳なさそうにフルフル……と力なく首が横に振られただけだった。

「ブリンド……『触る』とはなんだ……」

 白髪もとい銀髪のディアボロさんはまだ把握し切れていないが、もうろくでもない予感しかしていない。
ヴェルトール・ランスが軽い準備運動も終了し、一歩前へ出た。

「で?セイジ、何か作戦あるのか?」
「一斉に突撃突破、かな。皆が突破し易いように俺達が注意を引こう」

 その隙に手薄な所から皆が突破できたら良い、と数メートル先で構える人間たちに聞こえないようセイジが呟く事に、
真面目なハティやゼク、千亞が頷きを返す。
直香も、承知~と言うように片手ひらり。

(作戦を立てる時のセイジは生き生きしてるな。皆を先に進み易くするため……ね。セイジらしいな)

 ランスも微笑んで頷きながら、しかし触らせる気はないんだぜ、と首を一度コキッと鳴らし気合充分。

「よく分からんが神人たちを守りつつ突破すればよい、のだよな?」

 いまいち不安そうに口にしてから、ランスと同じく一歩前へ出たゼク。
その背中に突如ばちーん!と攻撃を受けた。

「!?」
「良かったぁ。開始前に雨上がりそうで」

 気持ちいつもより大人しいと思っていた直香。どうやら大きな紙とガムテープを持参しさっきから何かこさえていたらしい。

「おい、直香。俺の背中に何をした」
「「「…………」」」

 ゼクの背中が見える数名から、気の毒そうな視線が飛んでいることにゼクは気付かず。
隣に居たランス、その背中をひょいと覗き込んだ。

 『どなた様もご自由にお触りください』

 ぽんっ。
ゼクの肩に無言で激励を送り、ランスは駆け出した。セイジも後に続く。
眉間の皺を深め、頭に疑問形いっぱいで出遅れたゼクの横を過ぎ次々と他のウィンクルムたちも特攻していく。

「ほら何してるのさ。僕たちもいくぞー、おーっ」

 直香が走り出したのを見てとりあえず追うしかないゼク。

「直香さんの許可下り……!私もゼクさんお触りしていいんですかねっ」
「馬鹿言ってないで行くぞ、珠樹」

 パートナーを飛び蹴りで押し出す千亞。
最前線では、すでにシャロームと対峙した組の姿。
ブリンドの横に並ぼうと前へ踏み出したハティが、そのブリンドによって足を踏まれたところだった。
 団員突破ミッションまさに開始!
そんな様子を、少し離れた木陰から見守っている童子の姿があるのだった。


「リン……足が痛いんだが」
「馬鹿かテメー。率先して生贄になる気か」
「失礼ね!アタシに触られた人はご利益とかあっちゃうかもなんだからぁっ」
「……そうなのか」
「真に受けてんじゃねー!」
「団長も……趣旨が違います」

 シャロームとハティの会話が続くと、ブリンドとそばにいた団員Aのツッコミが大変そうだ。
面倒くさそうに早々に突破を試みるブリンド。真面目に通せんぼ業務をまっとうする団員A。
カップルを装う、という事項をどうにかそれっぽくしようと、ハティは己のパートナーに合わせることへと意識を向けた。
じりじり狙おうとするシャロームから常にブリンドを庇うように動き、また、
ブリンドのカウンター蹴りが一度炸裂するのを見てとれば、団員に被害がいき過ぎないよう同じく自分が盾になり。
突破よりフォローに回ってすでに息が切れ始めているハティに気づくブリンド。アホめ……と盛大にため息を漏らした。

「アーアー、そこまで、な!」

 動きの鈍ったハティの体に魔の手が伸びた瞬間、ブリンド、そばにいた団員Aの首根っこを捕まえ。
ハティとシャロームの間に割って突き出した。

「理解のある男ならここにいるぞー」
「え!?あんたそうだったの!?」
「え゛」

 シャロームと団員Aが見つめ合う。

「なるほどカップルをもう一組作ってしまおうというわけか、発想の転換だな」

(その発想は無かったんだが)

 感心するハティの手を掴んで、今がチャンスかとブリンドが池を目指す。

「ハッ!そ、そうはいかないんだからぁあ!」

 我に返ってしまったシャロームの腕がブリンドへ伸びたところで、セイジが意図的に叫んだ。

「おいランス!こんなところで脱ぐな!(上着を)」

 なんですって!☆ とシャロームの気が逸れた瞬間。
ハティ&ブリンド組、池へゴール。


「もう一組に突破されちゃったじゃないー!今度は逃がさないわよぉ!」

 シャロームが次なるターゲットにしたのは直香とゼク。
邪魔者といっても一般市民に怪我をさせるわけには……と真剣に団員の壁と向き合って思案していたゼクの横で、
直香がいち早く身の危険を感じ取って。

「ゼク、ちょっとこっち向いて?」
「なんだ」
「そうじゃなくて体ごとー」

 首だけ動かしたゼクを無理矢理回転させる直香。
その広い背中にぺたりと貼られた張り紙を見た途端、シャロームの両目がギラギラ輝いた。

「きゃー!!」

 体当たりを受け一瞬攻撃かと思い、腕を振り上げたゼク。
しかして、さわさわさわ~~~、という感触に鳥肌が立てばビタッと動きが止まってしまう。

「これは一体どうすれば……直香か!」

 害は無い。害は無いが精神的にきつい。振り返れば己の背中に隠れた直香と目が合った。

「ほら。守られてる感、出てるでしょ?一応カップルに見える必要あるみたいだし」
「それは初耳だ……!」
「鍛え上げられた筋肉に褐色の肌がステキ――!!」

 遠目に、明智の羨ましそうな視線を感じた気がするのは気付かなかったことにして。
ゼク、シャロームごと引きずって、ズルズルと池を目指すしかなく。
団員も、光景が気の毒過ぎて壁役を中断してくれている。
それを見た直香は、ヒョイと大きな背中から飛び出した。

「そろそろ返して貰おうかな。これ、僕のだから」

 油断しきったシャロームを難なく蹴り剥がした。
一体なんだったのか……と小さな背中を見つめ呆然気味のゼクの腕をよいしょと掴んで、直香は意気揚々と池まで走り抜けたのだった。


「やぁんケチー!もうちょっと触っていたかったわぁ!」
「では私がお相手しましょうか、シャロームさん」

 明智が自らシャロームの前に名乗り出た。
その跳躍力と小回りで団員を交わし、一人ならすぐ池に入れそうな千亞だったが、明智の行動を止めぬわけにはいかないと
物凄く不本意そうに踵を返す。

「イケメンや可愛こちゃんがくんずほぐれつ…!素晴らしい趣向…!むしろ私も団員に……!」
「あらアタシは構わないわよぉ♪こっち側にク・る?」
「珠樹そこまで堕ちたのか……!」

 情けないぞキックが炸裂しようとした瞬間、くるりと明智が千亞へと振り返った。

「冗談です、嫉妬していただけるとは、私は幸せ者ですね、ふふ」

 嬉しそうな明智の微笑に、振り上げた足が硬直する。

「べ、別に嫉妬ってわけじゃっ……!!」
「もうなんて可愛い小兎ちゃんなのかしらぁあ!!」

 感極まったシャロームのある種殺気に、千亞は咄嗟に体を捻って交わしながら。

「ちょっ……ぼ、僕はイイ男には程遠いんだけど……!」

 言ってて少々悲しくなりながらシャロームに告げる千亞。

「アタシには充分ストライクゾーンよ☆」

 諦めず詰め寄ろうとしたシャロームの前に、ついと明智が立ちはだかった。

「千亞さんに触れていいのは私だけです…!」
「何言って……うわっ」

 突然お姫様抱っこされ守られて、白い耳まで染まりそうな程赤らめた顔を覚まそうとぶんぶん振る千亞。
シャロームとその後ろにいる団員の壁をさてどう突破しよう珠樹が触ろうとする前に……と抱えられたまま千亞が考え込もうとしたその時。

「お。水も滴るいい男だな!セイジ!」

 その声にまたもシャローム、くわっと振り返った。
そこには合羽のフードを取って、ちょっぴり、ほんのちょっぴり、小雨で前髪濡れたセイジの姿。ランス、Vサイン。
それを見た明智が視線で感謝を伝えてから、千亞に囁いた。

「池まで突っ切ります、しっかり掴まってください」
「……ばか」

 そして駆け出す。すっかり油断したシャロームと団員の横を突っ切って池までまっしぐら。
(か、かっこいい、だなんて思ってない、思ってないぞ……)
千亞の視線はずっと明智の横顔に注がれていた。


「アンタたちぃ……悉く邪魔してくれたわねぇ!その分触らせなさいよぉ!!」
「断る!」

 シャロームが本気になった。趣旨も完全に忘れ去られて。
だがしかし。
二人まとまった所に詰められれば、左右の木陰に散開し。
隙をついてクイックターン後ダッシュするセイジの背後に追いつきそうになった手には、ランスから手刀がずびし!と浴びせられ。
そのランスへ魔の手が伸びれば回し蹴りがヒット。
スポーツスキルLv.5は伊達じゃない!と表すように、スタミナ充分のランスの動きに隙は全く無かった。

「おいランス……」
「大丈夫、協力者ってことで一応加減してる!」
「ならいい」

 頼もしい言葉にセイジも微笑んで。
足並み揃って池まであっさりゴールしたのであった。
団長、がっくり敗北。



 全組が池にざぶんとし終えたところで、雲がさぁっと晴れていく。
なんと空気を読んだお天気。
それに気付いた団員たちが目配せし合い、一人また一人と舞台から退場。
最後に、図太く立ち直ったシャロームが振り返り、ウィンクルムたちに激励的微笑みを向けた。
  ばっちゅーんっ☆(注:ウィンク音)

 見なかったことにし。
ランスが池の中央部の光に気付く。

「見ろ、虹が起つぜ」

 その言葉と、池から感じる神聖清浄な空気にセイジは神妙な表情で固唾を飲んだ。

  サァァァ……

 それは瞬く間に現れた。

 すでに見蕩れているセイジの横から歩き出し、ランスは躊躇うことなくその虹へズバッと手を伸ばした。

「うわ……!」
「ランスっ?」

 パリパリと、薄い薄い氷の割れるような不思議な音に、流石に驚きの声を漏らしたものの。
ランスは己の体にも周囲にも何もないことを確認して、セイジを手招きした。

「OK!平気だ」

 ――そうか……もしも何かあった時の事も考え、先に試してくれたのか……

 セイジはその優しさに気付く。
微かに目を細めてから、その思いと行動を受け止め、口にする代わりにランスの隣へと寄り添うように並んで。
運命の瞬間を見逃さないよう、虹に手を触れささやかな変化も逃さないよう集中した。
そんな二人をまるで囲うように、新たな小さな虹がその寄り添う体から浮かび上がった。

「! 俺達の体から!?」

 思わず声を上げたものの、それ以上セイジは言葉に出来なくて。
いや。言葉はいらないのかもしれない。
この感動を、共に味わってくれる存在がいるのだから。
無意識にセイジの左手が、縋るように宙を探る。
ランスが、その手をしっかりと握り止めた。
まるで、これは夢じゃない、と、証拠を示すように。
セイジは同じくらい強くそれを握り返す。

「もっともっと沢山の虹神と幸せが生まれますように」

 静かに、厳かに、囁くセイジの言葉に尻尾を一度揺らし、同じ気持ちを乗せてランスも虹を見上げた。
 帰宅後。虹が消えるまで、たまに雑談しては虹を見つめほわん、を繰り返しいつの間にか徹夜して。
翌朝揃って瞼をこする二人の姿があったとか。


 へろりボロリと音がしそうに虹に近づくゼク。
しかし、満身創痍な主に心も、視界に入ってきた七色の光が一瞬にして癒していくのを感じた。

「本当に七色あるのか数えてみよう」

 感動に浸ろうとした瞬間、現実的な声が真横から響いた。

「直香……」
「うん?虹はゼクが触ったらいいよ。そういうの好きそうだし」

 あっさりと言われ、諦めるように直香から再び虹へと視線を戻すゼク。
追いかけても決して触れることのできないもの……

(それに本当に触れるとは)

 中断した感動がまたこみ上げてくるのを感じ。
しかし、そこでゼクはもう一度直香へと向き直った。

「たしかにきらきらしいものは好きだがお前も、触ってみるといい」
「へ?ってうわ!」

 がしっ、と体を掴まれたと思った瞬間、ゼクの右肩へと乗せられる形になっているのに気付いて、直香の表情が明らかに不平になった。

「ちょっとゼク!」
「綺麗だ、きっと」

 読んでいたように、間髪入れずゼクが言葉で遮った。
本来なら、自分の意思を、行動を、無理矢理捻じ曲げられたならば思いつく限りの悪態を全身全霊から放っている。
しかし、その飾らないゼクの言葉に、『そんなの当たり前じゃない』とすら返せない自分に直香は気づく。
当たり前だ。虹がキレイなのは。でもそれを自分の心で体験したことはあっただろうか。
直香は手を伸ばした。
少し驚いた顔をした後、微かに口元を緩めてゼクも手を伸ばす。
そうして同時に触れた虹から生まれた、二つの小さな半円の虹。
見開かれる金と赤。

 ――必然的に生み出されたものに心動かされるなんて思ってなかったのに。

 チラリと褐色の横顔を見る。
虹に映る色の一つが、素直な感動の光を浮かべていた。
出会えた偶然。今二人で虹を見上げているのは……偶然だろうか、必然だろうか。
直香は八つ当たるように、目の前の頭から伸びる白い角に手をかけ体重をかける。

「だっ……おい直香!」
「こうしないと落ちそうなんだもーん」


 池から昇る七色の梯子に目を奪われる千亜を、そのピンクの髪にも映り込む光ごと見つめて明智は破顔する。

「ふふ、美しいですね。千亞さんと見れて嬉しく思います」
「なっ……に言ってるんだ、バカ……」

 変態台詞でない、素直な微笑みの明智からは時折、兄の面影を垣間見て語調が緩む千亜。
しかしもう知っている。
これが長く続かないことは。だからまだ絶対言わない。
さてでは、と虹に触れた明智から漏れ出す台詞がまさにそれであった。

「これは……パチパチが気持ちいぃ…ッ!いっそもっと強くともいいんですよ虹さん……!」
「虹の小神サマがビックリして逃げ出したらどうしてくれるんだ!」

 硝子にヒビが入るような音と同時に、静電気を帯びた感覚を受け恍惚とする明智にいつもの飛び蹴りをかました瞬間。
明智の体からふわりと、淡い小さな虹が浮き出たのを見て、千亜の動きがピタリと止まった。

「うわ、綺麗……」

 ドングリ目を更にまぁるく、次第に輝きの表情へと変化させて。
新たな虹の出現に同じく驚きの表情をしていた明智も、そんな千亜の嬉しそうな声色を聞き取って笑みに変え。

「千亞さん、寒くはありませんか?」
「え?あぁうん。これくらい平気だ」
「それは残念です」
「なんでだよっ」
「公認で手を繋ぐチャンスですから!」
「えっ、……あ!」

 いつかの、寒かったら手を繋いでも良い、みたいに言った自分を千亜は思い出した。
当たり前のように自分を気遣う言葉をくれる明智も、恥ずかしい台詞を放つ明智もどっちも、まごう事なき自分のパートナーである明智で。

(カップルの素晴らしさ、は僕にはわからないけど……ま、珠樹と一緒に居ると飽きないのは確か……だな)

 柔らかな微笑を浮かべたのも束の間。

「寒くないとはいえそのままではいずれ冷えますね。早く耳や尻尾を乾かしましょう。
 私が暖めて差し上げます、人肌で「黙れド変態」

 被るツッコミすらも、もうパートナーとしてすっかり出来上がった自然な姿だ。


 パリ、シャラ、という音がしたのに思わず触れた指を引っ込めてから。
ハティはもう片方の手の先を強く引いた。

「リンも来いよ」

 池まで引っ張るために意図せず繋いでいたままだった手を、まるで急かすように強く握り返されブリンドは思い出す。

「まだ続いてんのか」

 カップル設定、という言葉はあえて紡がず。言わずとも分かるだろうという心の声は、ハティの鈍さの前にあえなく撃沈する。
あきらかに、『何が?』といったきょとりとした表情である。

「テメー忘れてただろ」
「リン、…リン、見てみろ」
「聞けよ」

 珍しく、心なし興奮の色の混じったハティの声に仕方なく示された方向を見上げる。
ブリンドの口が閉ざされ、その瞳が色鮮やかに染まった。
それは先程まで見えていた池から生まれた虹ではなく、ハティに寄り添って見える小さな虹の橋。
ブリンドは微か息を吐く。
ハティもしばし目を丸くし虹と向かい合っていたが、ふとその燐光が何かを見つけ細められた。

「この色、そっくりだ」
「あ?」

 七つの色が隣同士の色と混じり合う内の、一つの箇所をそっと指差してから。
ハティはおもむろに上着の内ポケットから何かを取り出し、そして先ほどの虹の一筋へとかざした。
ハティが指すは薄青色の筋。
かざされた物にはほぼ同じ色の硝子。
それはブリンドがハティへ渡した銀色の合鍵だった。

「こんな間近で見ると、普段見えない色も見えるものなんだな」
「テメー、それまさかいつも持ち歩いてんじゃねぇだろうな」
「? 持っているが。いけなかったか?」

 嬉しい発見をしたと零す口からは、求める言葉の代わりに疑問形が紡がれる。
ブリンド、もどかしそうにひと睨み。

「そうじゃねえっ。持ってるなら何で使わねぇんだよ」
「リンの許可無しで勝手に使えない」

 傾げられる首。
合鍵に許可なぞいらねー!という叫びはもはや飲み込むしかない。
言っても判らない可能性の方が高いのは、残念ながらこれまでの経験から学んでしまったブリンドである。
それでも。鍵を探る際にも離されることのなかった繋がれた手はひんやりと心地よく、己の熱を吸い取ってしまうかのようで。
また再び、鍵の色硝子と虹とを見比べている横顔と相まって、ブリンドの身のうちは何故か安心感が広がるのを止められず。
ただ今はパートナーと同じ景色を眺めるのだった。



 小さな虹とそこに映された感動の心。
池は応えるように一度揺らりとたゆたい、虹が歌う。新たな神の命の誕生を。

 ゼクがしっかりと用意してきた人数分のタオルやカイロに包まれている者、
温かい飲み物にホォっと息を零している者。
誰ともなく振り返れば、もしかしたら見えたかもしれない。
虹から滑り落ちた光が池に反射した瞬間に、水面を跳ねて空へと駆け出す、新しい小さなプリズムの光。
ウィンクルムたちへ笑い声を響かせて。

 そして一部始終を木陰でひっそり見守って。
童子はにっこりと微笑み、主の元へと還っていった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: はぎはらみゆき  )


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 01月05日
出発日 01月11日 00:00
予定納品日 01月21日

参加者

会議室

  • [10]アキ・セイジ

    2015/01/10-23:32 

    プランは提出できたよ。
    虹沢山のリザルトが楽しみだな。

  • [9]明智珠樹

    2015/01/10-22:54 

  • [8]明智珠樹

    2015/01/10-22:54 

    ふ、ふふ…!ひとまずプラン提出完了です。
    皆一緒に!パターンで行動させていただきました。
    しかしやりたいことが多すぎる…!!
    皆様に絡めるといいな★と思っております、ふふ。

    ふふふ、色々と楽しみですね、ふふ…!!

  • [7]アキ・セイジ

    2015/01/09-23:19 

    今までの所「皆で行こう」な意見が多いのかな。
    俺もそれで良いと思うので、(今の所は)全員でいくパターンで考えておくよ。
    意見くれた人はありがとう。

  • [6]明智珠樹

    2015/01/09-22:41 

    千亞:
    改めてよろしくです、あぁ確かに似ているのかなぁ…珠樹。人を七種類ぐらいに分類したら同じグループに入ると思う、うん。

    <全員?個別?
    確かにハティさんの言う通り、別々だと待ってる間の時間悩むね…
    せっかくだから皆と絡みたいし、全員一緒希望、かな。

    そして相談時間短いことに直香くんの発言で気づく…!

    明智
    「ゼクさんは触ってもいいんですね…!いいんですね…!」

    そうはさせるか。

  • [5]柊崎 直香

    2015/01/09-21:22 

    遅ればせーながらー、毎度おなじみクキザキ・タダカくんですー。
    よろしくどうぞ。

    僕もどっちでもいいよ、な感じだけどこれ出発明後日なんだね。
    どちらにしろうちの精霊には「ご自由にお触りください」って貼り紙しとくよ。

  • [4]ハティ

    2015/01/09-02:00 

    ハティとブリンドだ。よろしく。
    …これはカップルに扮して苦難を乗り越えるところを見せればいいのだろうか。
    カップルの良いところ。ううむ。
    シャロームさんと明智さんとは類とmむにゃ知り合いなのか。
    俺は全員で一斉にがいいのでは思ったが、協力というかその、今回の格闘を順番待ちでとなるとどこまで見守っていていいものか判断に迷いそうだと思ったまでなので、希望者がいれば一組ずつでも。

  • [3]アキ・セイジ

    2015/01/09-00:44 

    アキ・セイジだ。相棒はウイズのランス。よろしくな。

    ところで、1つ決めておきたいことが有るんだけど、

    >パートナーと協力は勿論のこと、参加者同士で協力するのもOK!
    >一組ずつ順番に挑むか、もしくは全員でか。
    >会議室で話し合って決めて下さい。

    これ、どっちにする?
    バラバラか皆でか。

  • [2]明智珠樹

    2015/01/08-21:49 

    皆様、こんばんは。明智珠樹です。
    ハティさんとブリンドさんはクリームフェスタぶり、
    アキさんとヴェルトールさんは、ぽろり!に引き続き、
    直香さんとゼクさんはかまくらチョコぶりでしょうか。
    今回もよろしくお願いいたします、ふふ……!!

    以前楽しい思い出を作ってくださったロドリゲ…じゃなかった、ポワゾ…でもなくて
    シャロームさんにまたお会いできそうで、参加できて嬉しいです。
    皆様触られまくるがいい、ふははははは!

    千亞「珠樹は顔覚えられてたらおさわり範囲外な気がする。多分」

    触り返したりキャッキャしたら今回は目的達成できそうにないので自重しようと思います。
    むしろゼクさんの筋肉を触りたいで(略)

    千亞
    「(珠樹に回し蹴りしつつ)そうそう、虹の池は個々で行く?協力プレイ?それとも全員で?
     僕らはなんでも対応するよー。」

    池に入りしっとりする皆様と千亞さん…!今から楽しみですね、ふ、ふふ、ふふふふふふ…!!

  • [1]明智珠樹

    2015/01/08-00:19 


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