【指南】白を添めし黒、その想い鮮やかに(上澤そら マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●その穂先に漆黒を
「お正月といえばっ!?」
 A.R.O.A職員の問いに、言葉が詰まる。
 初詣?着物?初日の出?お年玉?福袋?
 色々思い浮かぶものがあるだろう。
「うふふ、なんだか素敵なイベントを発見したので、お知らせしまーす!」
 ご機嫌な職員が一枚のポスターをビラン!と出してきた。

『お正月だよ!書初め大会』

 と、筆文字で書かれている。
「皆で着物を着て、書初めしましょう!っていう非常にお正月らしいイベントですねー。
 着物のレンタルはできますし……あと、書初めの完成度によって、賞品も……」
 えぇと、何々……と職員が眼鏡をずらして改めてポスターを見やる。
 それ位、把握しとけ!と思いつつ。
「最優秀者は、着物レンタル料金が無料になるのと、お餅たくさん。準優秀者も着物レンタル料が無料になるみたいですよー!」
 どうやら上位2名がレンタル料が無料になるようだ。
「書く文字は自分の好きな文字でいいそうですね。字の綺麗さだけでなく、バランスだとか色々参考にして賞が決まるようですねー!
 書く文字は1文字でもいいですし、逆に長文でもオッケィ」
 なかなか自由度高いですよね、と職員が微笑む。

「よかったら、参加してみませんか?文字に自信なくても、貴女の着物姿を見たい!と思っている人がいると思います、よ!」
 職員は悪戯な目で微笑んだのだった。

解説

●流れ
 会場にて書初めをはじめるところから、です。

●着物
 拘りのある方は色、柄お好きにご指定ください。
 男性も着物着れます、っていうかせっかくなので着てください。
 お互いの着物姿にキュンキュンしてください。
 ご指定ない場合は私が勝手に着せますゆえ!

●書いてほしいこと
 さてさて、優秀者の判定はこちらのダイスにて判定させていただきます。
 神人様、精霊様それぞれ

 ・字の綺麗さ
 ・センス
 ・思い切り

 の三要素を、合計で10になるように振り分けてください。0はつけられません。
 例【字:7 セ:1 思:2 書く文字:団地妻】
 テンプレ
 【字: セ: 思: 書く文字: 】

●書く文字
 基本的に自由です。公序良俗に反するものはマスタリングさせていただきます。
 抱負を書くもよし、愛の言葉を書くもよし。思いつくままに書くもよし。
 記載なき場合は此方が適当に(略)

●費用
 お一人様、着物レンタル代250Jrいただきます。
 但し上位2名様は無料となります。

 さぁさ、レッツ書初め!

ゲームマスターより

お世話になっております、上澤そらです。
クリスマスからの怒涛のイベントシーズン、大好きです。
タイトルは中二病風味です。

そんなこんなで書初めです。着物姿でキャッキャウフフ、楽しんでください。
一つの会場で皆でわぁわぁ書くかと思います。
レンタル着物なので墨汁ブシャー!にはお気を付けください。叱られます。

お互いの着物を褒めあうもよし、相手がどんな文字書くのかドキドキするもよし。

ぜひまったりお正月を楽しんでくださーいー!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆心情
書初めかーお正月って感じでわくわくするね♪
エミリオさん、どんな着物を着るんだろう
私の着物姿褒めてくれるといいな

☆着物
白地に桜と牡丹柄の着物

☆書初め
(何を書けばいいか決まらないよ)(精霊に見つめられていたことに気づき、赤面)
どうして分かったのっ!?
(精霊の提案を聞いて)エミリオさんのイメージ…(精霊を見つめ)
っ、ごめんなさい、私も集中しなくちゃ(照れて顔を逸らす)

『英姿颯爽』
エミリオさんの戦う姿を見てきて思っていたことなの
奪う為じゃなく守る為に戦うことを決意したエミリオさんはカッコイイと思うから
そんな貴方の隣に立っても恥ずかしくないような私でありたい

【字:5セ:3思:2書く文字:英姿颯爽】



淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)
  イヴェさん今年もよろしくお願いしますね(ぺこり)
お着物なんて小さい時に着て以来ですなのでちょっと緊張します。
汚さないように気を付けないと…。
イヴェさんの着物姿、とっても素敵ですね…イヴェさんあの私似合ってるでしょうか?(似合ってるって言ってもらえたらやっぱり嬉しいな)

書初め頑張りましょうね。
【字:6セ:2思:2書く字:絆】
ウィンクルムと言ったらこれですよね!「絆」と書かせていただきました。
何とかお着物も汚さずにすんで一安心です…。
ってイヴェさん何書いててるんですかー!!そ、それ私の名前じゃないですか。これしか書くことないって…うぅ…恥ずかしいですよぅ。
あ、イヴェさんほっぺに墨が今拭いますね。


Elly Schwarz(Curt)
  【字:3 セ:2 思:5 書く文字:春】

・書く字の理由
クルトさんと書く字を交換。
精進は初心者には難しい字のようです。
でもこちらも難しそう…。頑張りますっ!

・書き初めは初心者
・手等汚しつつ四苦八苦
習字?と言いましたか。初めてなのでドキドキです。
うぅ…汚れます…どうしたら綺麗に書けるのでしょうか?
クルトさんに交換してもらって良かったかもしれませんね。
僕に「精進」は難しかったかもです。
もうからかわないで下さい!へ?で、ではお願いします。
(!?)

(元からあった緊張に変な緊張が上乗せされましたが
なんとか書けたでしょうか…)
上位はなれたらと思う所存。

・着物
E:白地の青柄
C:黒地の白柄
※柄はお任せです。



アマリリス(ヴェルナー)
  【字:5セ:4思:1書く文字:虚心坦懐】

着物
おまかせ

こうしているとお正月という気分になってきますね
案外似合っていますわよ
い、言い直さなくてもいいですから!

好きな文字でいいのなら今年の抱負にしようかしら
昨年を踏まえて今年は…これ、かしら
色々と浮かんだが見るからに物凄く悩んでいる精霊を横目に見て決心

ヴェルナーは何を書きましたの?
なるほど、では期待していますわ

(いつも斜め上思考なのではっきりと口にして欲しい所ですが
わたくしのためというのなら、悪い気はしないのが不思議ですわ

わたくしはこれです
意味?自分で調べてくださいませ

…あなたが変わろうとしているようにわたくしだって変わりたいとは思っていますのよ



●お正月だよ!書初め大会
 書初め会場は、既に熱気に包まれていた。
 華やかな着物で着飾ったウィンクルム達と、それを見守る観客達。
 年明け直後のイベントということもあってか、ここで新年初めて顔を合わすウィンクルムもいるようで。

●新年のご挨拶
「イヴェさん、今年もよろしくお願いしますね」
 そう微笑むのは淡島 咲。
 柔らかな黒髪に澄んだ蒼い瞳。咲は愛しのパートナーであるイヴェリア・ルーツを見つめた。
 その眼差しにイヴェリアは時間が止まる。
「……あ、あぁ、こちらこそ、サク」
 愛しい人の晴れ着姿に目を奪われたことは言うまでもなく。
 足元の濃い青から胸元に向かって徐々に薄い青へと変化していく、グラデーションある着物には白や薄桃色で小花が散りばめられている。そして柔らかな黄色の帯が暖かさを感じさせている。
 いつも以上にハーフアップにされた髪には、青や薄紫の大輪の花の髪飾りが。
 艶やかだ、とイヴェは思う。
 その感動を伝えるよりも先に、咲が
「イヴェさんの着物姿、とっても素敵ですね……」
 咲がうっとりした眼差しでイヴェの着物姿に見惚れた。
 イヴェの着るオーソドックスな黒の紋付き袴姿は、そのまま和装の結婚式に使えそうだ。
「サクが似合ってるって言ってくれるなら着た甲斐があったな」
 イヴェが微笑み、己の着物の裾をつまむ。
「着物は初めてだし、自分では似合っているかわからないからな」
「イヴェさん、あの……私、似合っていますか?」
 上目遣いで、そして不安そうな瞳で見つめる咲。そんな咲にイヴェは心を込めて伝えた。
「咲の着物姿、よく似合っているよ。心配しなくてもよく似合っているし……可愛いよ」
「か、可愛いだなんて、そんな……」
 赤くなる頬を掌で包み恥ずかしがる咲を
(可愛いって言うと照れるところ含めて、咲は可愛いんだがな)
 イヴェは愛しげに見つめたのだった。

●待ち合わせ
 会場入り口で恋人を待つ者もいる。
(書初めかー。お正月って感じでわくわくするね♪)
 ミサ・フルールが会場内の華やかな雰囲気に胸をトキメかせる。勿論、わくわくは書初めだけの効果ではなく。
(エミリオさん、どんな着物を着るんだろう?)
 ミサの中で妄想が膨らむ。見目麗しいエミリオならどんな着物だって似合うだろう。
(私の着物姿、褒めてくれるといいな)
「ミサ、お待たせ」
 ミサがそんなことを考えていると、丁度エミリオ・シュトルツがミサの前に現れた。
 中性的な顔立ちと気品あふれる貴族的なエミリオが纏うのは黒い着物にグレーの帯。シンプルながらも、その生地が上質であることが見て取れる。
「エミリオさん……!」
 その麗しさに頬を染めるミサ。
「ミサ、晴れ着も似合うな」
 ミサの姿を見て、エミリオは目を細めた。
 白地の着物に大輪の牡丹や桜模様が入ったミサの着物。赤い帯が更に可憐さと華やかさを増している。
 アップに纏めた髪がまた新鮮で良い、とエミリオは思う。いつもの髪飾りもいつも以上に輝いて見える。
「エミリオさんも、凄く凄く似合ってる」
 微笑み合う二人は手を繋ぎ、会場内へと入っていった。

●乙女心
 参加者それぞれが、自分の席に案内される。
 真っ赤な絨毯に座布団。書道用の下敷きの上には既に半紙が文鎮によって挟まれている。
 通常であれば硯で墨を磨り卸すが、今回は参加者が着物姿ということで既に墨汁が用意されていた。
 ……それでも、着物が汚れる心配がないわけではないが。

 半紙を目の前に、心を落ち着かせているのはアマリリス。
 いつも暖色系の服を着ることが多いアマリリスだが、今日は黒の着物姿。
 艶やかなピンクの髪は結い上げられて、黒や赤の花飾り。
 着物は赤やピンク、白のコスモスが描かれており、赤い帯も相まってキリッとした中にも可愛らしさがある。
 アマリリスはチラリ、と隣に座るパートナーのヴェルナーの姿を見る。
「こうしているとお正月という気持ちになってきますわね」
 黒い袴に白の着物と羽織姿のヴェルナー。彼の正座姿は背筋も張り、凛々しく美しい。
 そんなアマリリスの視線と言葉を受け
「そうですね、身の引き締まる思いです」
 と真剣な表情を見せた。これ以上どこを引き締めるのか、と思いつつ。
「案外似合っていますわよ」
 そっぽを向きつつ呟けば。
「ありがとうございます」
 爽やかな笑みを浮かべ、ヴェルナーが礼を伝える。
「アマリリス様も…あ、アマリリスもよくお似合いです」
 途中ではっ、と約束を思い出し、言い直してみるも。
「い、言い直さなくてもいいですから!」 
 着物姿を褒めてもらい嬉しく思う気持ちと、ぎこちないヴェルナーに複雑な思いを抱える乙女心だった。

●チェンジ!
「それでは、書初めスタートです!特に書く枚数に制限はありません。自信作を最後に一枚提出してくださーい!」
 進行役がマイクを通し伝えると、開始の合図のほら貝笛が鳴った。

 さてさて、習字初体験!という人もいるわけで。
 Elly Schwarzは無表情に半紙を見つめる。筆を持つ手は心なしかプルプルと震え、緊張感が伝わってくる。
(習字、と言いましたか?初めてなのでドキドキです)
 白地に青い蝶が羽ばたくエリーの着物は少女らしい可愛さと、どこか透明感のある雰囲気にピッタリとマッチしている。ベージュ色の帯が更に柔らかさも醸し出す。
 エリーは筆を持ち、穂先に墨を染みわたらせた。
 半紙に筆を向け、えいやっ!と思いをぶつける。
(あぁっ!)
 画数の多い漢字、また墨のつけすぎか……なんとも素晴らしい芸術作品に仕上がっているようだ。
(手に墨がついちゃいました……)
 しょんもりとした表情を見せるエリー。
(うぅ…汚れます…どうしたら綺麗に書けるのでしょうか?)
 エリーは隣にいるパートナー、Curtの挙動を見る。
 黒地にうっすらと白で格子柄が入った着物はクルトに良く似合っている……と見惚れつつ、クルトが筆を取り、文字を書く動作をエリーはジーッと観察した。
 真剣に半紙に向き合うクルト。書初めは初めてではないが、かじった程度の経験。
 しかしピンと張った背中、プロの如き凛とした佇まいを見せる。
 見つめるエリーの視線を知ってか知らずか、彼は見事に筆を滑らせた。
「……まぁまぁか」
 書き上げた文字を見て頷く。数枚も書けば勘は取り戻せるだろう。
「エリーは……」
 彼女の方を見れば、クルトを見つめていた瞳と目が合う。
 真剣な眼差しと、汚れた手。彼女の半紙に踊る芸術作品……!
「大変そうだな……」
 エリーが何を書こうとしていたのか……クルトは読めなかった。
「うぅ……なんでそんなにクルトさんは上手なんですか……!」
「良い子ちゃん、何を書こうとしてたんだ?」
 エリーが持ってきていた見本を見せてもらう。その字は――『精進』
(なんて難しい字書こうとしてんだ……!)
 初心者には画数が多く、バランスも難しい文字だろう。
 そこでクルトは閃いた。
「よし、エリー。その字は俺が書くから、おまえは俺が書こうと思ってた字を書け」
「へ?」
 サラサラッとクルトが半紙の一枚に文字を書き「ほらよ」とエリーに渡す。
 書かれていた文字は――『春』
(初心者でも大丈夫そうで、且つ簡単すぎないもの。簡単過ぎるとエリーが落ち込むような気がするしな……)
「『精進』は流石に初心者には難しいぞ。どうだ?書けそうか?」
「そうですね……此方も難しそうですが、これなら一文字ですし、書いてみます!」
 エリーはググッと筆を握った。

●イメージ  
(何を書けばいいか、決まらないよ) 
 むぅぅ、と可愛らしい表情でミサが半紙をじっと見つめる。テーマが自由となるとそれはそれで難しいもの。
 そんなミサの表情を、エミリオは微笑ましく見つめ。
「ミサ、何を書くか迷ってるんでしょ」
「どうしてわかったのっ?!」
 エミリオがクスリ、と笑う。
「おまえ、顔に出やすいんだよ。……ミサらしくて好きだけど」
「エミリオさんっ」
 楽しげなエミリオにミサがアワアワと頬を染めた。
「エミリオさんは書く文字、決まったの?」
 心を落ち着けるように頑張りながら、ミサが問えば。
「俺もまだ決まってないんだよな……あ」
 名案を思い付いたエミリオに、ミサがきょとんとした視線を送る。
「それなら、俺がミサをイメージする言葉を書いて、ミサが俺をイメージする言葉を書くのはどうかな?」
「それはいいですね!エミリオさんのイメージ……」
 ミサがジィッとエミリオを見つめる。
 華やかな着物姿のミサに視線を送られれば、そりゃあ胸が高鳴るわけで。
「……ミサ、あまり見つめないで。集中できないでしょ」
 照れながら、半紙へと視線を落とすエミリオに、ミサも
「っ、ごめんなさい、私も集中しなくちゃ」
 彼の反応に、ミサも半紙へ目を落とす。
 恋人同士となった今でも、大好きな思いは変わりなく。
 また、真剣な表情で半紙へ向かうミサを見て、エミリオは思う。
(優勝できたら嬉しいけれど、こうしてミサとの時間を楽しめればそれだけでも来てよかったと思えるよ)
 ミサを見つめるエミリオの眼差しは、限りなく優しい。

●同じ思い
「お着物なんて小さい時に着て以来です。なのでちょっと緊張します」
 汚さないように気を付けないと、と半紙の前で気を引き締めるのは咲。
「俺もだ。借り物だから汚さないようにしないとな」
 隣に座るイヴェリアが呟く。同じタイミングで同じことを考えているなんて、なんだか嬉しいと咲は思う。
「イヴェさん、書初め頑張りましょうね」
 柔らかに笑む咲にイヴェリアも頷き、二人は筆を取り半紙へ向きなおった。

●抱負
「そうね……好きな文字でいいのなら、今年の抱負にしましょうかしら」
 アマリリスがポツリと呟く。
 ふ、と隣を見ればヴェルナーは半紙から視線を上げ、ハッとした表情を見せていた。
 そうか!と思えばまた腕組みをして、真剣な表情で考えこんでいる様子。
 きっと生真面目に考えているのだろうな、と見て取れる。
(昨年を踏まえて……今年は……)
 昨年の出来事を思い返すアマリリス。様々なシーン、様々な言葉が思い浮かぶ。
 この一年、ヴェルナーと様々な場所へ出かけた。
 危険な任務もあれば、様々なデートスポットへ出かけることも。
 ヴェルナーとの関係も、最初の頃に比べるとだいぶ変わってきたと思える。
 しかし、変わらないこともある。出会った時から真面目で、それでいて正直なところ。
 偽らない態度に自分の感情を動かされた。
 そして彼の信頼の気持ちに、自分も応えたい。
 見るからに悩んでいる彼を横目に見て、アマリリスは書く文字を決め、筆を取った。
(色々言葉は浮かんだけれど……これ、かしら)
  
 一方、ヴェルナーは。
 アマリリスの呟き「今年の抱負」が耳に入り、ならば自分もそうしよう、と思った。
 それでは、さて何にしよう……と昨年を振り返る。
 浮かんでは消えていく、アマリリスとの数々の任務。その表情は真剣そのもの。
(自分はアマリリス様……、アマリリスの役に立てただろうか)
 思考の中でもまだ呼び名が戻り、それを直す生真面目さん。
(よし、これにしましょう)
 ヴェルナーも筆を取った。

●お手本
 エリーは自身が書き上げた『春』という字を見、うんうんと頷いた。
「見てください!僕も書けました!」
 クルトに向かって書初めを高々と掲げるエリーに、クルトは「どれどれ」と覗き込む。
 そこにはかろうじて『春』と読める芸術作品が……!
 いや、クルトが『春』を書けと言ったから自分は読めるワケで、果たして他人から見て読めるものなのか……!
 引きつった表情を見せるクルトには気付かず、エリーは満足げだ。
「やっぱり僕に『精進』は難しかったかもです。クルトさんに交換してもらってよかったです」
 お、おぅ、とクルトが呟く。そして、せめて……またも名案を思いつく。
「エリー」
 クルトが立ち上がり、エリーの背中に回った。
「ちょっと筆を持て」
「へ?な、なんでですか?」
「俺が教える」
「は、はい、では、お願いします」
 すぐ背中に感じるクルトの身体。否応なしに緊張が走る。
 筆を持ったエリーの手をクルトは更に掴む。
「まず、墨汁は浸しすぎない。この位」
「は、はい」
「太くしたいところは筆を低く、細くしたいところは筆を高く持ち上げる。ペンじゃできない強弱をつけるのが書道の醍醐味だ」
「は、はい」
 話を聞いてるものの、手と背中に伝わるクルトの体温に、エリーは余計緊張する。
「で、こうして、止める。こんな感じ……だ」
 書き終わり、手を離す。
(元からあった緊張に更に緊張が上書きされましたが……なんとか書けたでしょうか……!)
 半紙の文字はもはやクルトの字。だが、良いお手本になっただろう。
「エリー、書けそうか?」
「は、はい!」 
 こうして、手本を見ながらさっきの動作を思い出すエリー。
 そしてクルトは己の『精進』をもう一度。
(考えたら、無茶苦茶距離近かったな……まぁ良いか)
 こうしてエリーとクルトは気に入った一枚をそれぞれ提出した。

●頬
「書けました、提出するのはこれにします」
 咲の明るい声が響く。その声にイヴェリアは咲の手元を覗き込んだ。
「サクはなんと書いたんだ?」
「ウィンクルムと言ったらこれですよね!『絆』と書かせていただきました」
 大きく書かれたその文字はとても美しい。
「サクが書いた字は綺麗だな。それに凄く暖かい、サクらしい」 
「イヴェさんたら……なんとかお着物も汚さずにすんで一安心です……」
 優しいイヴェの眼差しに咲は照れ、着物を己の視線に移す。
「ところで、イヴェさんは何と書かれたんですか?」
「俺はまぁ、色々思いは込めてみたんだが……」
 そう言いながら手にした文字は――『咲』
「って、イヴェさん何書いてるんですかーー!!そ、それ私の名前じゃないですかっ」
「これしか書くものが思いつかなかった……いや、この字が書きたかったんだ」
 イヴェが己が書いた『咲』という字を見て満足げに頷く。
「むしろこれしかないだろう?」
「これしか書くことないって……うぅ、恥ずかしいですよぅ」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいんじゃないか?そんなサクも可愛いけれど……」
 そう言いつつ、イヴェは照れを隠すように己の頬をぽりりと掻いた。
 しかし改めてイヴェリアの書いた字を見れば、心のこもった字であることが見てとれて、咲は嬉しく思う。
 そして彼にお礼を伝えようと顔を上げれば。
「あ、イヴェさん。ほっぺに墨がついてしまっていますね」
 習字にそこまで慣れ親しんでいるわけでないイヴェリア。
 いつの間にか指についていた墨が、頬を掻いた際に少しついてしまったようで。
「イヴェさん、ちょっと待ってくださいね」
 そう言うと、咲はテキパキとおしぼりを取りに行き、イヴェの頬に優しくあてる。
「すまないな……」
「とんでもないです。はい、ちゃんと拭えました」
 頬に添えられていた手が離れるのを惜しむように、イヴェは咲の手を取る。
「ありがとう、サク……」
 そしてイヴェリアは咲の手に、感謝と愛を込めたキスを落とした。
「イヴェさん……」
 みるみる朱に染まる咲の頬。咲は今年、何回、何百回と彼の行動にドキドキさせられるのだろうか。

●誓い
「ミサ、書き終わった?」
「はいっ」
 エミリオが何枚か書き上げた後、ミサの方を見ればちょうどミサも筆を置いたところだった。
「それじゃあ、せーの、で見せ合おうか?」
「はい、せーのっ」
 二人が声を合わせ、書を見せ合う。
 エミリオの書いたミサのイメージは――『天真爛漫』
 ミサが書いたエミリオのイメージは――『英姿颯爽』
 お互いを想い書かれた文字に、二人は微笑み合う。
「おまえの存在に何度救われたことか……。奈落の闇のような世界でようやく手に入れた光……ミサ」
 エミリオがミサの頬に触れる。
「その光……ミサを守れるよう、俺はもっと強くなりたい」
 誓いの言葉と共にミサを見るイヴェリオ。
 ミサの瞳が少し潤み、ミサも言葉を紡いだ。
「この文字は、エミリオさんの戦う姿を見て思ってきたことなの。奪うことじゃなく、守る為に戦うことを決意したエミリオさんはカッコイイと思うから……」
 ミサの頬に添えられた彼の手に、ミサは自分の手も添える。
「そんな貴方の隣に立っても、恥ずかしくないような私でありたい」
 力強いミサの瞳と言葉に、エミリオは微笑んだ。

●宿題
 アマリリスは筆を置くと、隣にいるヴェルナーに視線を送った。
「ヴェルナーは何を書きましたの?」
 その視線と言葉に、ヴェルナーは「私はこれにしました」と見せた文字――『不言実行』
「口に出さずとも意向を汲み取り、物事をいなせれば、と……」
 そしてヴェルナーはアマリリスに向きなおり、彼女の瞳を見据える。
「もっと貴方の……アマリリスのお役に立ちたいのです」
 思いがけないヴェルナーの真剣な表情に、アマリリスは耐え切れず視線を外した。
「な、なるほど。期待していますわ」
 その言葉に、彼は笑みを返す。
「はい、ご期待にそえるよう努力いたします」
(いつも斜め上思考なので、不言よりは有言でハッキリと口にして欲しい所ですが……わたくしのためというのなら、悪い気はしないのは不思議ですわ)
 アマリリスはヴェルナーの文字を見つつ思う。
(それに……書初めをはじめる時よりは、スムーズに名前を呼んでくれましたわね)
 そして次に己の書いた文字を見せた。
「わたくしは、これですわ」
 書かれている文字は――『虚心坦懐』
 見慣れぬ文字にヴェルナーは首を傾げる。
「とても綺麗な字です。しかし……恐れ入りますが、どのような意味を持つ言葉でしょうか?」
「意味?自分で調べてくださいませ」
 にっこりと笑むアマリリス。
 そして帰ったら意味を調べよう、と心に決めるヴェルナーであった。
(……あなたが変わろうとしているように、わたくしだって変わりたいとは思っていますのよ?)

 虚心坦懐。
 その意味は、先入観やわだかまりなく、平穏な心でいること。ありのままでいること。
 つまりアマリリスの今年の抱負は……『素直になりたい』
 果たして、ヴェルナーにその抱負は伝わるのだろうか。

●結果発表
「はぁぁぁ~~~い、みなさぁん、お疲れ様ぁ♪」
 突然、なんだかクネクネした雄が現れた。
「あ。はい。此方有名な書道家の麿宮さんです。皆様の審査をしていただきました。それでは審査結果の発表をお願いします」
 はぁ~い!と麿宮が頷く。
「じゃあ、まずは準優勝の方から発表させてもらうわねぇ」
 集まった皆が息を飲む。
「『不言実行』と書いてくださった、ヴェルナー・カートライトさんよー!」
 観客からおぉお、と拍手が起こる。
 目を丸くしたヴェルナーに送られる拍手。そしてアマリリスが「いきなさい」と壇上へヴェルナーを送り出す。
 アマリリスは、ヴェルナーが選ばれる誇らしさに思わず笑みが零れた。
「ザ!品行方正!と思える、万人が美しいと思える綺麗な字とバランスよねぇ。書かれた文字に強い意志も感じられるわぁ」
 ありがとうございます、とヴェルナーが賞状を受け取り恭しく頭を下げた。

「それじゃあ、優勝作品は……」
 ベタにドラムロールが流れ。
「優勝作品は『春』と書いてくださったElly Schwarzさんよー!」
 おぉお、という観客の声と共に、視線がエリーに集まる。
「エリー、良かったな」
 と、クルトの手がエリーの頭を優しくポムポムと撫でる。
 檀上に上がったエリーは緊張しつつもやはり嬉しいようで、はにかんだ笑顔を見せた。
「シンプルな文字に、大胆なタッチが凄くマッチしてるのよねぇ!書道は芸術!と思わせてくれる素敵な作品だわ!」
 こうして、エリーは賞状とお餅一年分を受け取る。
 事前の告知通り、ヴェルナーとエリーの着物レンタル料も無料となる。
「……クルトさんが教えてくれたおかげです、ありがとうございました」
 戻ってきたエリーはクルトにペコリとお辞儀をすると、クルトは答えた。
「おまえの実力だ」
 

「今回は本っ当にレベルが高かったわぁ♪どれも素晴らしくて、賞を選ぶのに悩んだわよ。一人一人コメントできないのが残念だけど、皆の熱い想いビシバシ感じたわ。今年が素晴らしい一年になりますように♪」

 こうして書初め大会は大盛況で幕を閉じたのだった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 上澤そら
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 12月30日
出発日 01月05日 00:00
予定納品日 01月15日

参加者

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