着物よきかな(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 タブロス市旧市街。
流行を取り入れた鮮やかな色合いの店が並ぶ新市街より、やや老舗が多いように見えるこの市街地。

ここに一軒、歴史の香り漂う看板を掲げた、とある呉服店があった。
その呉服店内にて今、畳の上で膝を付き合わせるようにして向かい合う老夫婦が居る。

「ハァ……。今の若い方は、やはりあまりお着物に興味ないのだろうかねぇ。うちの店もそろそろ潮時だろうか……」
「あなた、まだ諦めないで頂戴。私たち、やれることを全てやったわけではないでしょう」
「チラシ配りや声かけなら、ずっと歩き回ってやってきたじゃないか」
「いいえ。アイディアが一工夫足りなかったのよ。他の商店街から、噂を聞いたのだけれど……――」


「……――、なるほど。それでウチにですか……」
「ええ。本当に、こちらをウィンクルムの方々に案内してもらうだけで構いませんので」
 A.R.O.A.本部受付。
呉服店の老夫婦は、受付職員に事をすっかり話し終えた。

「まぁ……それ程お困りなのでしたら。此方を貼って、ウィンクルムが必ず目を通すとは限りません。足を運ぶかどうかも」
「勿論です。承知しています」
「分かりました。そちらをご理解頂いているのでしたら、このチラシはお預かりしましょう」
「! ありがとうございます、ありがとうございます!」
「ああ、いえいえ」
 老夫婦の本当に丁寧なお辞儀を何度も受けて、受付職員は恐縮しお辞儀をし返し。
『これで少しでもお客様が増えますように』と話しながら、寄り添うように歩いていくその背中を見えなくなるまで見送った。
そうして独り言。

「まともだ。大変まともな市民がちゃんと居た」

 A.R.O.A.職員たちも決して人のことは言えないはずだが。
時折舞い込む奇怪な依頼(人)を思い返し、思わず呟く受付職員であった。

解説

●本部任意掲示板に貼られたチラシより●

 『新年を前に、着物を身近に感じてみませんか?』

<着物モデル募集>
当店の着物を着て、ちょっとしたミニイベントにご参加下さる方(男女問わず)
・着物・小物一式レンタル、着付けまで全て当店が致します。
・お着物を着た上で、下記のどれかに挑んで頂けたらと思います。
 一般の方々が気軽に覗いたり、通りすがりの方に目を留めて楽しんで頂くのが目的です。

<挑んで頂くアクション>
・お茶点て(店内)
  ⇒ 当店スタッフが点てたお茶を慎ましやかに飲んで頂くだけでも構いません。
・弓引き(店外)
  ⇒ 多少経験のある方がいらっしゃれば。是非お着物で的に射る凛々しい姿を。
・お着物で散歩(店外)
  ⇒ 商店街をしずしずニコニコと一周。当店着物宣伝効果と、気軽に出歩ける姿をお披露目して頂けたらと。
・上記以外。
  ⇒ お着物が引き立つこと前提に入っていれば、他に思いついたコトを
    店主にご相談の上なさって頂いても構いません。

<参加費用>
ウィンクルム一組につき400Jr
(着物一式レンタル代、着付代、ミニイベント後のささやかなお茶菓子代 込み)

 ウィンクルムの皆様は、ペアで本当に素敵な男女とお聞きしました。
ご一緒に楽しんで頂きつつ、ご協力頂けたら本当に嬉しく思います。
                             (呉服店・店主より)

― ― ― ― ― ― ― ―

<プランについて☆>
上記、アクションを一つ選んでお書き下さい。

お着物は2人共着ても、神人・精霊どちらかでも構いません。
「お茶点て」、「弓引き」についても同上。お二人共挑んでもOK。
「商店街を散歩」のみ、2人一緒に仲良く並んで歩いて行ってもらいます。
オリジナルアクションに挑んで頂くのも大歓迎♪

着物の柄などお好みがありましたら、そちらもプランへ。
(お任せの場合、GMがキャラ様の印象などから自由気ままにチョイスします☆)

ゲームマスターより

執筆してないと落ち着かない病、末期患者の蒼色クレヨンです!!
来年までエピ我慢できなかったの(きぱー)

自由度は高いと思われます。
お茶点てって正座だよね。しびれるよね。よろけちゃったりするよね(分かるな?的期待顔←)
キャラ様方がキャラ様らしく挑んでいただければクレヨンも幸せです!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  着物でお散歩

着物は天藍の好み聞きつつお店の方と一式選ぶ
好きな色と映える色が同じとは限らないと聞きますしどれが良いでしょう(詳細はお任せします)

天藍の着物姿が格好良いので
着物を着て一緒に歩くのは初めてですよね、ドキドキします
着慣れていないのでお散歩の途中着崩れたりしませんように

自身の着物の感想を天藍に尋ね、手放しの褒め言葉に頬を染める
差し出された手に、自身の手を重ね指を絡め体を寄せる
(クリスマス前の告白もありこの位は良いのかなと)

段差の移動等、些細な所にまで先回りの気遣いをくれる天藍に感謝の気持ちを

途中で半分こしたコロッケのパン粉が口元に付いているのを見て
クスリと笑みを浮かべつつ指先でそっと拭う



エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  心情
私もラダさんも、あまり和の習慣に馴染みがありません。興味津々です!

行動
お茶点てを。作法の心得はないので、お店の方にお茶を点ててもらいますね。
うふふ……。ラダさん、お味の感想は?
ラダさんが苦手と断言した抹茶と自分が、彼の好物と好みの女性が、重ね合わせて見えてきます。和文化でいう見立てというものでしょうか。
しってますよ。ラダさんの一番好きなお菓子はチョコチップクッキーでしたね。
たとえあなたにとっての一番になれなくても、少しでも関心を持ってもらえたら、それで良いんです。
さて、いつまでも食べ物に自己投影してもしょうがありませんね。着物の袖など所作に気をつけながら、美味しくいただくといたしましょう!


アメリア・ジョーンズ(ユークレース)
  着物を着たのはいいものの、なにすればいいんだろう?
ん?なにユーク…初詣?
この格好で行けば、十分宣伝になる…か。
そうね、それはいいかもね…人も一杯集まるし。
じゃあそれで行きましょう。

予想以上に人多いわね…。
ん?なによユークその手は?
は、はぁ!?迷子にならないように手を繋ぎましょうですって!?
冗談言わないでよ!こんな人混みに誰が迷子になんか…って、あれ?ユーク…どこ!?
(その後無事に参拝しました。願い事は恋人が出来ますように)

な、なんとか販売所まで来られた…。
ん?おみくじか…そうね、やってみようかしら?
えーとなになに…吉…待人…遠からず…。
他はあまりいいこと書いてないけど、これだけで頑張れそう!



宮森 夜月(神楽音 朱鞠)
  着物は初めて着るので
「似合うといいけど」
とちょっとドキドキ。
着方もわからないので店員さんに助けてもらう。
帯を締められたら思わずぐえ、と変な声がでちゃうかも。

着替え終わり、朱鞠に着物姿を褒められ
一瞬ドキッとするものの、直後の言葉に怒る。

朱鞠が弓引きをやりたい様子なので付き合う。
弓引きも初めてな為、的に全然当たらない。
隣を見ると、朱鞠はそこそこ。
夜月をみてにやにや笑う朱鞠を
心の中で一方的にライバル視して再度挑戦するが
朱鞠には勝てない。
いつか絶対勝って見せる、と
心の中でリベンジを誓う。

※着物デザインはGM様にお任せいたします



エレオノーラ(ルーイ)
  モデルとなると緊張しますがとりあえずは着ればいいのですよね
着物はいつか着てみたいと思っていたので嬉しいです

…手放しに褒められるとさすがに照れます
ルーイも似合っていますよ
いつもと雰囲気が違って、その…何でもないです
素敵だと思ったけど口には出せず

お茶点てを体験してみます
正座はあまり縁がないので少し不安はありますが…頑張ります
やり方は詳しくないのでスタッフの方に教えて貰いながら行えれば

確かこういったものは渋いのでしたっけ…?
顔に出ないように気をつけなくてはなりませんね
…ルーイ(頭を抱え

なかなかお茶点ても奥が深いのですね
勉強になりました
…とても足が痺れるという事も含めて
案外、似たもの同士ですね、私達…



「まぁまぁ。皆様本当に麗しい方ばかりねぇ。女性方は付け下げや訪問着ではもったいないわ」
「既婚の方はいないとのことですし、全員お振袖でもよろしいのでは!」

 店主の奥様と従業員たちが歓声を上げながら、着物選びに盛り上がっている。
本振袖は花嫁衣裳や成人さんのお祝いで着るけれど、中振袖や小振袖ならもう少し着易くなるのよ♪なんて
老舗呉服店独特の着物のうんちくが始まりそうになるたび、店主が苦笑いを浮かべ止めに入る光景も見える。


「好きな色と映える色が同じとは限らないと聞きますし……どれが良いでしょう」

 奥様の話にも楽しそうに耳を傾けながら相談するかのん。
天藍は好みありますか?とパートナーにも振ってみる。

「そうだな。……それとか、どうだ?」
「か、可愛すぎません?」
「普段と違う印象のかのんも見たい」

 臆面なく告げる天藍に頬を赤らめるかのん。
二人の会話を成程と聞いていた奥様が、一つ着物を差し出してきた。

「ならこれは如何かしら?こういった淡いお色でも柄が大きいものなら、可愛い中にも大人っぽさが入りますよ」
「それで頼む」

天藍、即答。
え……?とまだ可愛らしい着物に戸惑うかのんを、従業員たちがニコニコと連行していった。
その合間に天藍自身の着物も選ばれていく。
出来れば彼女を引き立たせる色合いで、という相談に店主が微笑ましそうに頷いて見立てていた。

 程なくして、着付けを終えたかのんがおずおずと姿を見せた。
淡い空色に袖や裾には大きく藤が刺繍され、そこから色とりどりの蝶が舞っている。
小花が散った紺色の帯が全体を引き締め、帯締めと伊達衿は同じ色のベビーピンク。
すらっとした長身のかのんの存在感を、凛とさせつつ歩くとどこか可愛らしさを演出するような。
先に着付け終わり待っていた天藍の目に、そんな彼女の姿が飛び込んできたのだった。

「あ、あの……天藍?」

 無言で見つめられることしばし。
沈黙に耐え切れずかのんが声をかけると、天藍はハッと我に返る。
惚れ直していた真っ最中だったとは流石に公衆の面前では言いにくい。

「あぁいや。では、このあたりを散歩してくるか」
「そうですね」


 連れ立って歩く天藍とかのんの姿は、商店街の中一際目を引いていた。
空色の着物が映えるように、天藍が着ているのはグレーと白の混ざった長着と羽織に、かのんの帯と同じ色の紺袴。

「ん?どうかしたか?」

 横から時折感じる視線に問いかける。

「天藍、着物似合いますね」

 格好良いです、とはにかむかのんに嬉しそうに笑い返す天藍。

「着物を着て一緒に歩くのは初めてですよね。少し、ドキドキします……」
「浴衣とはやはり違うものな」
「あの。わ、私の着物姿、おかしくないですか……?」

 ずっと気になっていたことを、かのんは勇気を出して尋ねた。
一度目を丸くし天藍は立ち止まる。

「おかしいはずがない。あまりに似合っていて、見蕩れてしまった。それに……これにも、合っているな」

 手放しの褒め言葉に頬を染めるかのんの頭へと手を伸ばし、そこに揺れる硝子細工の小花にそっと触れながら。

「簪、してくれてるんだな。着物の色合いととても合っている」
「天藍がくれたものですから」

 もしかして簪も見て着物を選んでくれたのだろうか、と店の人たちにこっそり感謝をするかのん。
それとは余所に、天藍の胸の内は少々複雑であった。

(着物に映える白い肌も、向けてくれる微笑みも……自慢したくもあり、あまり人目に晒したくない思いもある。……欲張り、だな)

 自身の葛藤に苦笑いをする。
お互いの気持ちをハッキリと確認した今、かのんの方からも体を寄せてきてくれる。
このぬくもりに新鮮な気持ちを覚え、せめて手放さないようにと。
絡め繋ぐ手を、指を、強く握り返す。

「あっ。コロッケ屋さんがあるみたいですよ。寄ってみましょうか」

 そんな天藍の身の内に増した独占欲にはまだ気付くことなく、かのんは天藍の前でだけ見せるのであろう、
無邪気な表情を浮かべ店を指す。
着物に慣れないかのんが段差などで転ばないよう、常に注意しながら天藍も手を引かれ続く。
そうして、着物纏った二人が仲良く店先でコロッケを頬張る姿は、道行く人々の微笑ましい視線を一身に受けていた。
着物にこぼれないよう注意しながら。
クスリ、と笑んで恋人の口元についたパン粉をそっと細い指先で拭う仕草も。
不意打ちな行動に耳を赤らめ誤魔化すように周囲を観察するような動作も。
一つの絵画の様に、商店街に彩を添えるのだった。


「お着物は初めてですか?」
「は、はい。……似合うといいけど」
「着物など、珍しくもなかろう」

 ドキドキと従業員に着付けされながら言葉を発しているのは、宮森 夜月。
彼女のパートナーで普段から着物を着なれている、神楽音 朱鞠は、着付室から聞こえてくる会話に余裕のある声色で混ざる。

「朱鞠はそうだろうけど私は、ぐえ!」
「喋っておると帯を締められる時に苦しいぞ。 おっと、もう遅かったようだな」

 楽しそうにしながら自分の方の着付けが終わったのを見れば、朱鞠の狐尻尾がどこか嬉しそうにパタリパタリ、と揺れた。
正絹の心地よい重みのする無地の黒地に、小菊が咲いた赤と橙で彩られる羽織をかけ。
テイルス独特の耳や尻尾すらも調和に含まれるように、あえて袴は履かず着流しで。
白黒格子柄の帯に、つつ、と手を置きながら、このような高級な肌触りは久しぶりだ、と笑みを浮かべた。
そこで夜月が、着付を終えて朱鞠の前に姿を見せる。
意図的に笑みを引っ込ませるつもりが、夜月のその姿にそれは自然と驚きの表情へと変わったようだった。

「……これは意外。中々に似合うではないか」
「え!?ほ、本当?」

 夜月が纏うは、新緑色の地に真っ白な桜が華々しく咲き誇る中振袖。
黄金色の帯に紅色の帯締めと伊達衿がアクセントになっている。
まさか素直な褒め言葉が来るとは思わず、ドキッとしたのも束の間……夜月の耳に、すぐにいつもの調子の台詞が入ってきた。

「やはり着物は、宮森のような胸のない女性には最適だな」
「その一言いらなかったよ……!」

 怒られてもどこ吹く風で店の外へと歩み出た朱鞠の視界に、弓引きの道具が映る。
もう!と続いて出てきた夜月は、動きを止め一点を見つめる朱鞠に首を傾げその方向を覗き込んだ。

「弓?ああ、そういえば店主さんが、やりたい方は是非どうぞって言ってたような」
「ほぉ。面白そうだな」
「えっ。やるの?」

 早々に弓を手にした朱鞠を見れば、諦めた顔をして付き合う夜月。

(弓引きなんて初めてなんだけど……)

たどたどしく、隣で弓を引く姿を観察してから見よう見マネで弓を引く。
 ばちんっ ポトン
派手な音とは反対に全く飛ぶことなく手前で落ちる矢。

「何をしておるのかね」
「だ、だってやるの初めてだし……!」
「仕方がない」

 溜息をついた朱鞠。己の弓を一旦置くと、徐ろに夜月の背後に立つ。

「うわ?!な、なに?」
「いいからしっかり構えるのだよ」

 背中に感じる温もりと同じ体温が今、弓引く自分の手に添えられる。
心拍数が上がるのを誤魔化す為、意識を的に集中する夜月。

「ここで力むと弦がカラ弾きし怪我をするぞ。角度だけ保ったまま肩の力は抜くのだ」

 最低限、怪我回避の段取りを教え、構えを保たせたまま朱鞠が離れた。
どこかホッとしながら、集中が残るうちに夜月は矢を射る。
 シュッ とす!

「わ!当たった!」

 喜ぶと同時に、目が合った朱鞠が渾身のドヤ顔を浮かべた。
むぅと表情を変える夜月。

「こ、今度は自分の力で当ててみせるんだから……っ」
「それは楽しみだ。勝負でもするかね?」

 にやにやと笑う朱鞠に、『絶対負けない……!』と一方的ライバル闘志を燃やす夜月だったが。
弓引きを行うこと数度。
夜月 惨敗。

「な……何でそんなに上手なの……」
「ふむ。殊更得意なわけではないのだが。まぁ大道芸をやる中で多少かじっていたのはあるがね。夜月が下手すぎるのではないかね?」

 ムキになる夜月の反応を堪能する朱鞠。
いつか、いつかこの余裕綽綽の笑みを崩してやる……!と心にリベンジを誓う夜月。
麗しい姿で袖捲くりして弓を引く夜月と朱鞠の白熱する姿に、いつの間にか人だかりが出来、拍手が沸き起こっているのだった。


「大人っぽい着物は自然と似合うようになりますから、今だからこそ出来る着こなしも大事だと思いますよ」
「そ、そうよね!」

 従業員に励まされ勇気を得るアメリア・ジョーンズの声に気付き、ユークレースは振り返る。
深紅地で裾の方に黒ボカシが入り、胸元から裾にかけ大きな牡丹が色とりどり華やかに散るモダン柄。
ラメが星のように煌く漆黒帯にはカナリア色の帯締めが可愛らしく。刺繍入りの伊達衿が首元から覗く。
髪も一本に高く結い上げ纏めたアメリアのその着物姿を見つけると、ユークは一度目を見張ってから笑みを深めた。

「赤いドレスもお似合いでしたが。着物になると同じ色でも印象が変わりますね」
「素直に褒めたらどうなの?」
「とても美しい、お 着 物 ですね」
「……そういうアンタは馬子にも衣裳ね!」

 にっこりと強調するユークに、むぅっと不貞腐れ言葉を放つアメリア。
その移り変わる表情を楽しそうに見つめてからユークは思う。

(驚きますね。こんなに変わって見えるなんて……エイミーさんが美しい、と危うく口走る所でした)

心中を隠し。
濃いグレーの長着の、肩にかけた真っ青な羽織を翻し、袴の裾から踏み出してユークは店主に参拝をしてきて良いかと尋ねる。
その案を聞いた店主は、少々眉を下げ説明した。

「この辺りの商店街内に大きな神社がなくて……。商店街から出て大分歩いた先にはありますが
 この時期では人が多すぎて、恐らくお着物は人波に隠れて周囲の方の視線には留まりにくいかと……」
「あー。確かにすごい混雑してそうですもんね……」

 そうか残念、とユークが諦めかけたそこへ奥様の方から声がかかった。

「この通りの脇に、商売繁盛の神様を祀った小さな鳥居と祠ならございますのよ。
 傍のお店がおみくじ等もやってらっしゃるから、そこで宜しければ楽しんでもらえたらいいのだけれど」
「この格好で行けば、十分宣伝になる……か。そうね、それはいいかもね」
「良かった。エイミーさんがそう言ってくれるなら、そうしましょう」

 かくして、商店街通りへ繰り出した二人。
それ程人口は多くなさそうな商店街も、帰郷してきた人々を足して今は活気に溢れていた。

「予想以上に人多いわね……。ん?なによユークその手は?」
「エイミーさん絶対迷子になるので、手を繋ぎましょうよ」

 にっこりと断定されれば、アメリア、素直に頷けるはずもなく。

「は、はぁ!?冗談言わないでよ!こんなので迷子になる方がおかしいのよ!」

 そう言ってずんずんと先へ行ってしまった。中々どうして上手い裾捌きっぷり。

(人を子供扱いするんだから!こんな人混みに誰が迷子になんか……って、あれ?ユーク……どこ!?)
(あーあ、あれじゃ絶対僕のこと見失……いましたね)

 距離が出来ていても、キョロキョロするアメリアの姿はユークからは丸見えだったようだ。

(目立つ着物のおかげで見つけやすくていいですが……)

 ユークはふと眉間に皺を寄せる。
時折アメリアの姿を目を細め見つめていく、道行く男性たちの視線。
いつかの舞踏会の時のように、また変な輩が近づいてきては堪らない。

「ほらエイミーさん。行きますよ」
「えっ?ユ、ユーク!?」

 あわあわするアメリアを余所に、ユークはさっさか近寄りその手をぎゅっと掴むと、流れるように人を避けリードする。
モヤつく心中はまたも隠して。


(恋人が出来ますように……!)
(今年も一年楽しめますように)

 鳥居まで無事辿り着いてお参りを終えた二人。
商いの神様らしいけど硬いこと言いっこなしよね!と笑い合いながら、おみくじの置いてある店を見つける。
視線で会話をして、それぞれがおみくじを引いてみる。

「えーとなになに……、吉……待人……遠からず……」
「新年早々普通ですね!」
「うるさい!そういうユークはどうなのよ!」
「僕は大吉ですが」
「うっ。……あ、あまりいいこと書いてないけど、待人は期待できそうだもの!これだけで頑張れそう!」

 よく分からない敗北感を、アメリアは振り払うように気合を入れた。
そんなアメリアの背中をクスクスと見つめながら、ユークもチラリと自分の手の中のクジに視線を落とす。
(僕の待ち人も、遠からず……)


「お茶点てご希望なのですね。なら所作が少しでもしやすいよう、小振袖にしましょうか」
「袖の長さが違うのですね。うふふ……着物も種類がたくさんで見ていても楽しいです」

 わーい、お菓子貰えるんだぁ!楽しみーっ、と
すでに紫紺色の着流しに黒檀帯を巻かれたラダ・ブッチャーはうきうきと待ちわびていた。
従業員と会話しながら、そんなラダの気配にクスリと笑みを漏らしてから。
お待たせしました、とエリー・アッシェンが着付室から姿を現した。

「わぁ……エリー、かっこいい!」
「ありがとうございます。ラダさんもとてもお似合いですよ」
「夏祭りで甚平を着たことはあるけど、本格的な着物は初めて……ちょっと動きづらいけど、気分がキリッとするねぇ」
「うふぅ、本当にそうですね。背筋がピシリと伸びる感じがします」

 菖蒲色の地に淡白い枝垂れ桜。
白銀帯に和模様の帯締め、星を散りばめたような金箔混じる漆黒の伊達衿が、エリーの白い肌を更に引き立たせている。
ラダに微笑みかけながら、エリーは静々と歩み寄った。

お茶点ての席。
シャカシャカ音を立てる動作を不思議そうに見つめながら、恐る恐る声をかけるラダ。

「い、今って喋ったらダメなとこかなぁ……」

 ふふ、とお茶を点てる奥様が笑顔を向ける。

「どうぞお気になさらないで。楽しくお喋りして、楽しくお茶を飲んで頂けたら嬉しいわ」
「よかったぁ。えっと飲む時かな……お茶碗?回したりするって聞いた気がするんだけどぉ、何でかなぁって」

 ウィンクルムたちの着物姿の甲斐もあって、今やお茶点ての席にも好奇心から人がかなり集まっていた。
ラダは自分が知りたいというのもあったが、そんなお客たちにも宣伝になるかと考え、疑問をしっかり口にしたのだった。
エリーも頷いて奥様の方へと視線を向ける。

「茶碗にこだわる、茶道における心配りといいましょうか。
季節感のある絵、形、由縁など、頂く側もしっかり拝見することでお互いの心を通わせる、一種の儀式ですね」
「ふわぁ……そんな意味があったんだぁ」

 ラダやエリーと同じように、へぇと頷くお客も沢山見えた。
お茶を点て終えた奥様は嬉しそうに、ラダやエリーの前に抹茶の入ったお茶碗を差し出す。

「ありがとうございます。頂きます」
「あ、えっと、いただきますぅっ」

 正座で深々お辞儀するエリーを見て、慌てて倣うラダ。
一口、二口、と抹茶を口にして。

「うふふ……。ラダさん、お味の感想は?」
「……苦っ!ぼ、ボク苦手かもぉ……」

 ラダ、流石に小声になってエリーに率直に伝える。
予想通りの反応に笑みを向けたまま、ふとエリーは抹茶と置かれたお茶菓子を見つめた。
彼が苦手だと断言した抹茶。好きであろう甘いお菓子。まるで、彼の好物と好みの女性が、重ね合わせて見えて。

(和文化でいう見立てというものでしょうか……)

自分は知っている。彼が一番好きなお菓子はチョコチップクッキーだと。

(たとえあなたにとっての一番になれなくても、少しでも関心を持ってもらえたら、それで良いんです)

 苦いお茶が口の中に広がるのを感じながら、エリーは表情を隠すようにお茶碗を口につけたまま、またチラリとラダを見つめた。

「うう……正座マジキツイ……く、崩させてください!」

 失礼のない程度にするから……着物も気をつけるからっ、とすでに涙目なラダに、奥様は優しく声をかける。

「勿論。楽な姿勢になってくださいな」
「ありがとうございますぅっ」

 微笑ましいやり取りを視界に入れ、ふ、と息をつくエリー。

(いつまでも食べ物に自己投影してもしょうがありませんね)

今はただ、美味しくいただくと致しましょう!と気を取り直して。
袖に気を付けながらお茶菓子を手にするのを見て、自分もっ、とラダもお茶菓子を手早く取り、そして口に放り込んだ。

「和菓子と一緒だと口の中に優しい甘味が広がる感じ。うん、これはこれで美味しいねぇ」

 何でもないラダの感想であろう。
それでも、ほんの一瞬…… エリーの心に、温かい何かがポトリと落ちたように感じられたのだった。


 同じくお茶席に、ラダが口にした疑問を真剣に聞いていたエレオノーラとルーイの姿があった。
奥様やエリー、ラダが先にお茶を飲む様子をしっかり覚えようと見つめながら、ルーイがこそりと口を開く。

「難しい事しなくてよさそう、かな。これなら俺でも何とかなりそうだ」
「ルーイ……聞こえてしまいますよ。こんなに人が集まるなんて……ちょっと緊張してきました」
「まぁ見られてて多少恥ずかしさはあるけど。面白そうだし楽しんだもの勝ちだって」

 周囲に分からないよう小さく溜息をついたエレオノーラに、ルーイは軽く告げる。
これも彼なりの励ましだろう。
そのまま、まじまじと見られる視線を感じるエレオノーラ。

「な、なんでしょう?」
「いや。やっぱりその着物、すごい似合うなって」

 着付が終わって顔を合わせた瞬間にも褒め言葉をくれたルーイの、改めての優しい言葉にエレオノーラは僅かに顔を赤らめた。
彼女が着こなすは、濃淡2色のブルーぼかしが両袖に入る翡翠色の地に、大輪の薔薇が連なる気高い印象の裾模様。
白地に桔梗色が螺旋を描いて混ざる帯に、金糸浮かぶ黒帯締め。小花刺繍の伊達衿が覗いて。
普段は儚くも見えるエレオノーラの、本来の存在感というものを浮き立たせているかのように。

「……ルーイも似合っていますよ。いつもと雰囲気が違って、その……、何でもないです」

 隣で、光沢のあるシルバーの長着に菱形柄の浮かぶ黒の袴で正座する、ルーイも褒められ笑みを作るも
最後のエレオノーラの言いかけた言葉に首を傾げた。

(素敵です、とはもう言いにくくなってしまいました……照れてしまうと、タイミングって難しいんですね……)

 そんな初々しくすれ違う二人の前にも、抹茶の入った茶碗が置かれれば一気に緊張が戻ってくる。
確か、こういったものは渋いのでしたっけ……?と先に予想してから口を付けたエレオノーラとは裏腹に、
足の痺れをすでに体感し始め、意識を必死に所作へ集中させていたルーイは……

「っっゴッホ!」

 むせた。

「……ルーイ」

 折角自分の方では渋いのを顔に出さないようにしていたのに。
片手を軽くこめかみに添え頭を抱える仕草をするエレオノーラに、恥ずかしそうに後頭部をかきながら誤魔化すルーイであった。

 お茶席も無事に終了、と集まった人々が店内へ散り始めた頃。
エレオノーラとルーイはまだ立ち上がらずにいた。
正確には、立ち上が「れず」にいた。

「中々、お茶点ても奥が深いのですね。勉強になりました。……とても足が痺れるという事も含めて」

 辛うじて横座りになりながら、ぷるぷるしているエレオノーラを、同じく這いつくばってぷるぷるしているルーイが横目で見つめ。

「そうだね、いい体験出来た気がする」

 色々な意味で、と含みを持たせながらルーイは続ける。

「痺れるだろうなとは思っていたけど……エレオノーラもそうだとは思わなかったな」
「案外、似たもの同士ですね、私達……」

 ぷるぷるするお互いを見つめ合えば、どちらからともなく笑みが零れ。
最後には可笑しそうにくすくすと、額を寄せ合い仲良く笑い合う二人の姿。

 初めてかもしれない。
誰かと対等に、こんなふうに笑い合うのは。
エレオノーラの真っさらな笑顔の奥で、暖かな命の灯火が揺れ動いた気がした。


 この老舗呉服店に、あのウィンクルムが着ていた着物が欲しい!と注文がひっきりなしに掛かるようになるのは
商店街から端を発した噂がすっかり広まった、数日後の話…☆



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月28日
出発日 01月03日 00:00
予定納品日 01月13日

参加者

会議室

  • [6]かのん

    2015/01/02-21:45 

  • [5]エレオノーラ

    2015/01/01-21:28 

  • [4]かのん

    2015/01/01-15:20 

    こんにちは、ご挨拶が遅れました
    かのんです、皆さんよろしくお願いします
    着物を着る機会はそうないので、今回の体験楽しみにしています
    折角なので商店街を散策しようと思っていますが、普段の服装とは異なるので着崩れたりしないか少し心配だったりもします・・・

  • [3]エリー・アッシェン

    2014/12/31-18:55 

    うふふ……、エリー・アッシェンと申します。どうぞよろしくお願いします。
    私もラダさんも、普段はそれほど和の文化に接することがありません。
    この機会に、着物やお茶立てなどを楽しみたいですね。

  • アメリアよ、みんなよろしくね。
    着物…着物か…着たことないんだけど、可愛いんだろうなぁ…。
    って、ユークなによその顔…べ、別にアンタの為に着るんじゃ無いんだからね!

  • [1]宮森 夜月

    2014/12/31-15:22 

    挨拶が遅くなってごめんね~
    宮森 夜月と精霊の朱鞠です
    よろしくお願いします!


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