思い出を永遠に(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●思い出の宝石を生む樹
「貴方の思い出を、宝石にしにいきませんか?」
 ミラクル・トラベル・カンパニーの青年ツアーコンダクターは、そう言って親指の先ほどの大きさの、丸みを帯びた煌めく小石を貴方たちの前で光に透かしてみせた。朝日の淡い金色纏ったそれには、ちらちらと金の煌めきが散っている。
「思い出を、宝石……とは正確には言わないのかな? ともかく、こういう綺麗な石に変えてくれる樹がとある森の奥にあって。例えば俺のはね、ツアーコンダクターになったばかりの頃の思い出。俺が紹介したツアーから戻ってきたお客さんが、すっごく楽しかった、幸せな時間だったって報告してくれて。その時の笑顔が忘れられないって、そんな思い出から、この宝石が生まれたんだ」
 言って、青年は照れたように少し笑った。そして、言葉の続きを紡ぎ始める。思い出の宝石が生る木には、普段はただ透明の、ガラス玉のような石が実っているらしい。それが、思い出を聞かせるとその思い出の色を映した宝石に変わって、宝石は実が熟したみたいに樹からポトリと落ちるのだとか。
「宝石にしても、心の中の思い出が消えるわけじゃないんだ。思い出を宝石に変えてしまうんじゃなくって、この石は思い出の写しってことになるのかな? 俺みたいに嬉しい思い出を見える形にしてもらうのもいいし、敢えて悲しい思い出を可視化してそれに何かを誓うのも自由。ただ、この宝石を作るにはその樹に向かって声を出して思い出を語らなくちゃならない。その点は、どうかご注意を」
 参加してくれる皆にとって良い時間になりますようにと、青年ツアーコンダクターはふわりと笑った。

解説

●今回のツアーについて
思い出の宝石作りを楽しんでいただければと思います。
ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき300ジェール。
場所はタブロス近郊のとある森。
時間は夜。月明かりに、宝石が美しく輝きます。

●思い出の宝石について
プロローグに説明のある通りです。
思い出からどんな宝石が生まれるのかはプランに必ずご記入ください。
万一ご記入ない場合はお任せとなり、イメージに沿えない場合がございます。
どんな思い出を宝石にするのかも、必ずご指定を。
こちらの記載がない場合、リザルトでの描写が薄くなってしまう恐れがあります。
また、思い出の宝石のアイテム発行はございませんことを、ご了承の上ご参加願いますようよろしくお願いいたします。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなります。お気をつけくださいませ。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

年末年始に跨ぐエピソードということで、思い出を振り返る機会になればとこんなお誘いを用意させていただきました。
心に残る2人の思い出を仲良く語り合い宝石を生むもよし、これを機に辛い思い出を吐露してパートナーとの絆を深めるきっかけにしていただくもよし。
その他の楽しみ方も、勿論大歓迎です!

また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハティ(ブリンド)

  …何から話したもんか
皆が言う家族と、俺の知っている家族では様子が違うと最近気付いたな
俺の家には沢山子供がいて、増えたり減ったり
家がなくなって引き取られていったが、俺を含め成長した何人かは残ったんだ
俺達を一人で見てくれた人がいて
俺は彼に見つけてもらえて運が良かったけど、
彼はそのために仕事と利き腕をなくしてた
最初は彼のために皆で自警団を始めた
それが俺の家族だった
実が美しい色に染まったのなら、俺ではなく記憶の中の彼らが色を付けたのだと思う
あの人の片腕になりたかった
それが俺の全てだと思ってた
…けどそうじゃなかったと今思えるのは一人じゃないからか
俺は物分かりが悪いかもしれないが
これからも教えてくれ、リン


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  ◆思い出を宝石に。いいなそれ。
木に、ラキアと初めて会った時の話をするぜ。
A.R.O.A.で精霊と引き合わせるって言われて。
部屋に入ってきたのがラキアだったんだ。
入ってきたのを見た時『なんて綺麗なんだろ』って。
一瞬見とれちまったぜ。で、何かピキューン☆とキタ!
最初女の子とも思ったけど、男って聞いて
「そんな些細な事はいいや」って思った。
だってさ、ずっと一緒にこれから過ごすんだって、一目会った時に判っちゃったっていうか。
契約交して成立した時には内心「ヤッター」って大喜びだったんだぜ。凄く嬉しかったなぁ。

◆宝石はルビー。透明感のある赤色。ラキアの髪の色みたいな。ルビーって病気を治す力とかあるんだろ?



天原 秋乃(イチカ・ククル)
  思い出話で宝石の色が変わるのか
さて、何を話すべきかな?

イチカとの思い出っていっても、特にいい思い出とかないしな
初恋の話か。お前に言ってきかせる必要があるのか?
…まあ、いいけど

初恋…なのかどうかはわからないけど、憧れてた人はいたかな。近所に住んでて、すごく美人だった
俺の面倒よくみてくれて、明るくて元気で気持ちのいい性格で…ああいう人になりたいってずっと思ってた。いや、今でもなりたいって思ってる

…って、俺の話はもういいだろ。お前はどうなんだよ?
あ、逃げやがった。お前も話すっていうから俺話したんだぞ!?

出来上がった宝石は薄桃色で小さくてキラキラしてる

これ、イチカにやるよ。俺は宝石に興味ないから


俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
  思い出と言えばやっぱり契約の時だな
当時AROAの職員として調査に出てた時に偶然オーガに出くわして
ちょうど居合わせたネカと契約したんだった
精霊がいて適合したのには驚いたけど、その手の話はAROAに勤めてたらよく聞くし
でも顕現したこと自体には驚かなかったな
ただ…俺の手を取るネカを見て思った
ああ、いよいよ俺の番だ、と

宝石は琥珀みたいだな
…っ!?
伸ばされた手を思わず掴む

(一瞬ネカを怖いと感じた
嫌われてはいないんだろうが…むしろ好き好き言われてるけど
その言葉にどこか嘘くささを感じてしまう
前は適当に突っ込んで流してた部分がどうしても気になってしまう)

なわけねえだろ
これが恋なら恋愛は狂気だ
だからきっと、違う



城 紅月(レオン・ラーセレナ)
  「綺麗な石に変えてくれる樹?行きたい!」
俺は童話や綺麗なものが好きだから、すごく興味あるし、
レオンに誘ってもらえたのも…嬉しい。
手を繋げたらいいのに。

夜の森に宝石が輝いているのを見たら、夢かなと思ってじっと見つめるよ。
綺麗な宝石が夏の縁日の明かりを思い出して。
縁日でレオンが買ってきてくれた、閉じたら内容が消える不思議な本にあった俺たちの睦言。挿絵。
思い出して心臓が高鳴るのが…辛い

レオンの質問には、契約した日と夏の縁日と答えるよ
男性のみの精霊たちに戸惑って恥ずかしくてレオンの後ろに逃げたこと。手の甲の文様に口付けをしたレオンの横顔

「どちらの日も忘れられないんだ」
涙が止まらない
宝石よりもレオンが…



●その眩しさを砕くほど
「思い出が宝石になるなんておもしろいねー」
 静かな夜の森の奥。硝子玉の実が生る不思議な木を前に、イチカ・ククルはへらりと笑った。
「秋乃の作る宝石はどういうものになるのかな?」
「どうだろうな……思い出話で宝石の色が変わるんだよな。さて、何を話すべきか」
 イチカが傍らの天原 秋乃に笑みと問いを向ければ、秋乃は顎に自身の手を宛がって思案顔。秋乃、隣でにこにこしている相棒へと視線を遣って、彼との今までを思い返すも、
「イチカとの思い出っていっても、特にいい思い出とかないしな」
 ばっさりである。しかし、イチカ、少しもめげずにけろりとして曰く。
「『僕との間にいい思い出がない』だなんて、秋乃ってばひどいなあ。あ、それじゃあ初恋の話とか聞かせてよ」
「初恋の話か。……お前に言ってきかせる必要があるのか?」
 どこまでもパートナーに厳しい秋乃。けれど、イチカの方もこの対応にも慣れている。指を一つ立てて、提示する条件は。
「秋乃が話してくれたら、僕も話してあげてもいいよ?」
 秋乃、これを聞いて暫し考え、最終的には「……まあ、いいけど」と返事をした。じかに口に出しこそしないが、イチカの話も気にならないではない。そうして秋乃は、玉生む樹に向かって、イチカに向かって、遠く思い出を語り始める。
「初恋……なのかどうかはわからないけど、憧れてた人はいたかな。近所に住んでて、すごく美人だった」
 その人のことを思い出しながら言葉を紡ぐ秋乃。そんな彼の表情は、知らず柔らかくなっていて。
(秋乃ってば、ずいぶんと楽しそうに話すね)
 自分で振った話ではあるけれど、ちょっと気に入らないなあとイチカは静かに鈍い想いを胸に沈める。その顔に、常の笑みは絶やさぬままで。
「俺の面倒よくみてくれて、明るくて元気で気持ちのいい性格で……ああいう人になりたいってずっと思ってた。いや、今でもなりたいって思ってる」
 しっとりと懐かしむような、けれどもどこか晴れた声に、イチカはにっこりと笑みを返した。
「よっぽど素敵な人だったんだろうね」
「ああ……って、俺の話はもういいだろ。お前はどうなんだよ?」
「僕の初恋の話なんて、つまらないから聞かない方がいいと思うよ」
「あ、逃げやがった。お前も話すっていうから俺話したんだぞ!?」
 秋乃の追及を、イチカは笑ってするりと避ける。あの人のことは、今は誰にも話したくないのだ。
「ほら、秋乃」
「何だよ、話逸らすなよ?」
「でも、ほらあれ。秋乃の宝石、熟したみたいだよ。樹の根元に落ちてる」
「え? どれだ?」
 秋乃の緑の視線が、イチカの指差した先、先ほどまで秋乃が立っていた辺りへと向けられる。月明かりにそっと輝くのは、小さな薄桃色の石だった。きらきらと煌めいて、自分はここだと秋乃を呼ぶ。秋乃、イチカに詰め寄るのは一旦止めにして、宝石を拾いに戻った。
「秋乃の宝石、可愛いのができたね」
「これ、イチカにやるよ。俺は宝石に興味ないから」
「くれるの? ふふ、ありがとう」
 受け取った宝石を月明かりに透かせば、その輝きは溢れんばかり。
「小さいけど、キラキラ眩しいね」
 言って、イチカはその眩しさに目を細めた。
「……壊したくなるくらい綺麗だ」
「え?」
「ふふ、なんてね」
 秋乃の瞳に映るのは、いつも通りのイチカの笑顔。怪訝な顔をする秋乃へと笑み掛けるイチカの手の中で、薄桃の宝石は静かに輝き続けていた。

●君と出会って君と過ごして
「思い出を宝石にって、いいな!」
「そうだね、俺も素敵だと思う」
 生き生きと顔を輝かせて、セイリュー・グラシアは件の宝石を生む樹を見上げた。その傍らで、ラキア・ジェイドバインも整ったそのかんばせに柔らかな笑みを乗せる。
「それじゃあ、まずはオレから」
 こほんと一つ咳払いをして、心に残る思い出を語り出すセイリュー。記憶を辿り紡ぐのは、隣に立つパートナーと初めて会った時のこと。
「A.R.O.A.で精霊と引き合わせるって言われて。部屋に入ってきたのがラキアだったんだ」
 言って、セイリューはラキアへと視線を向け、にっと白い歯を零した。
「入ってきたのを見た時、『なんて綺麗なんだろ』って一瞬見とれちまったぜ。で、何かピキューン☆ とキタ!」
 言い回しこそどこか悪戯っぽいけれど、セイリューの言葉と想いはどこまでも真っ直ぐで大真面目だ。頬が熱を帯びるのを感じて、ラキアは口元を手のひらで覆った。
「最初女の子かとも思ったけど男って聞いて、『そんな些細な事はいいや』って思った。だってさ、ずっと一緒にこれから過ごすんだって、一目会った時に判っちゃったっていうか」
 出会いのその時へと想いを馳せるセイリューの、その口元が自然と綻ぶ。
「契約交して成立した時には内心ヤッター! って大喜びだったんだぜ。凄く嬉しかったなぁ」
 語り終えれば、熟してことりと落ちる宝石の実。それを拾い上げて、セイリューは月明かりにその色と輝きを見定めた。生まれたのは、透明感のある澄んだ赤の石。
「ルビーみたいだな。ラキアの髪の色だ。確か、ルビーって病気を治す力とかあるんだろ?」
 益々ラキアっぽいとセイリューは屈託のない笑みを零す。冬の森の凛とした冷たさの中にあってなおどうしようもなく火照る頬を持て余して、ラキアは一つ白い息を漏らした。そんなラキアへと、声を掛けるセイリュー。
「次、ラキアの番だぜ。……ん? どうしたラキア、顔赤いぞ?」
「いや、うん、何でもないよ。次は俺の番、だね。……俺の場合、セイリューと契約してからの方が思い出深いよ」
 そう言って、ラキアはくすりと苦笑い。
「だって君、どんな時でも色々と猪突猛進っていうか、予想外のことを色々と『しでかして』くれるもの」
 戦闘の任務では怪我しないかいつもヒヤヒヤだし。普段も時々ビックリするくらい子供っぽいことするし、面白そうって思ったら直ぐに首突っ込むし。つらつらとそう上げ連ねながらも、ラキアの目元は柔らかい。それに、その声は楽しげに弾んでいる。
「ほんと、その目まぐるしさには思い出話を絞りきれないくらい。どんな時も目が離せないよ。君と出会って生活が一変したね」
 変化に溢れる毎日がとても新鮮だよ、とラキアは笑う。そんな毎日が楽しいのだと、これは胸の内だけで付け足すラキアである。そんな彼の思い出話を聞いて色付いた宝石が、ぽとりと枝を離れた。優しい手つきでラキアがそれを拾い上げれば、セイリューも興味津々と言った様子でパートナーの手の中の宝石を覗き込む。
「おー、綺麗な色だな」
「うん、本当に」
 宝石の煌めきに、2人は顔を見合わせてどちらからともなく笑み零した。その石が――まるでめまぐるしくもきらきらしい2人の時間を表すかのように――どんな光を浴びるかによって色をがらりと変えることにラキアが気付くのは、もう少し後のお話。

●撫ぜる琥珀の愛おしき
「思い出と言えばやっぱり契約の時だな」
 硝子の実が数多生る宝石の樹を見上げて、俊・ブルックスはそう話を切り出した。傍らでネカット・グラキエスがにっこりとする。2人が思い出すのは、同じ日。偶然か必然か、彼らの縁が結ばれた日。
「ああ、懐かしいですね、契約」
「だな。当時A.R.O.A.の職員として調査に出てた時に偶然オーガに出くわして、ちょうど居合わせたネカと契約したんだった」
 言って、俊は左手を持ち上げると、その甲の赤い文様に自然と視線を移した。
「顕現したこと自体には驚かなかったな。精霊がいて適合したのには驚いたけど、でもまあその手の話も、A.R.O.A.に勤めてたらよく聞くし」
 ただ。
「……俺の手を取るネカを見て思った。ああ、いよいよ俺の番だ、と」
 月明かりの下とは言えど、夜の森の暗さは深い。語る俊の瞳に映る色がはっきりとは覗けないのと同様に、その声が含む感情も確かには窺えず。だからこそだろうか、ネカットは殊更に朗々と、その声を夜の森に響かせた。
「私はたまたま旅行中でしたが、オーガに襲われるをシュンを見て確信しました。私が今日ここへ来たのはこの人に会うためだと」
「……って、よくそんな台詞恥ずかしげもなく言えるよな」
 呆れたような顔になって、ネカットの方へと振り返る俊。ネカットは表情を柔らかくして、言葉の続きを語り出す。
「その場で契約してからは、ばっさばっさとオーガを薙ぎ倒し……」
「おい、話を盛るな。思い出を捏造するな」
「冗談です。通報が早くて先輩ウィンクルムが来てくれて助かりましたね」
「ああ、本当に」
 俊が当時のことを思い出して、ふうと息をつく。それを合図にしたように、熟した宝石がぽとりと柔らかな土の上に落ちた。
「宝石は琥珀みたいだな」
 俊が呟いた通りの琥珀色の石を、ネカットが拾い上げる。月の光に、宝石が煌めいた。
「わあ……綺麗ですね」
 ネカット、摘まんだ宝石を俊の顔の横に翳してその色を見比べる。
「シュンの目の方が少し明るい色ですね。私はこっちの色の方が好きですよ」
 にこやかな笑みをその整ったかんばせに湛えたまま、ネカットは空いている方の手、その指先で、俊の瞼をゆっくりとなぞろうと――。
「……っ!?」
 自身へと伸ばされた腕を、俊は反射的に掴んだ。生まれた居心地の悪い沈黙を、ネカットの笑みと言葉が破る。
「この宝石、私が持っててもいいです?」
「あ、ああ……」
「ありがとうございます。シュンだと思って身に着けますね」
「だからお前はまた妙なことを……」
 ため息を零す俊のその瞳を密やかに見やって、ネカットは思う。
(……ほんの一瞬、この目が欲しい、と思ってしまった)
 そんなことできるはずがないのにと、視線を手元の琥珀色へと移すネカット。そんなネカットへと、今度は俊の視線が注がれる。
(一瞬ネカを怖いと感じた。嫌われてはいないんだろうが……むしろ好き好き言われてるけど、その言葉にどこか嘘くささを感じてしまう。前は適当に突っ込んで流してた部分が、どうしても気になってしまう)
 視線に気づいたネカットが、笑顔で俊へと顔を向ける。
「シュンどうかしました?」
「え? ああ、いや、別に……」
「あ、私に見惚れてたとか? 恋の始まり?」
「なわけねえだろ」
 常のようにびしりとつっこみを入れて、俊は胸の内にひとりごちる。
(これが恋なら恋愛は狂気だ。だからきっと、違う)
 瞳の琥珀が、月明かりにゆるりと揺れた。

●実が美しく染まるなら
「……何から話したもんか」
 ぽつり零して、ハティは燐光の瞳に、不思議な樹に鈴のように生る硝子玉を映す。思案に耽る彼へと、ブリンドは鋭く悪態をついた。
「ぼーっとしてんじゃねえよ寒ぃだろうが。とっとと話せ」
 ゆらり、夜の森に白い息が流れる。視線で諾の返事をしたハティはそれでもまた少し考えて――やがて、ぽつぽつと彼の思い出を語り始めて。皆が言う家族と、俺の知っている家族では様子が違うと最近気付いたと、話はそんなふうに始まった。
「俺の家には沢山子供がいて、増えたり減ったり。家がなくなって引き取られていったが、俺を含め成長した何人かは残ったんだ」
 淡々としたハティの語りに、ブリンドは胸の内だけで嘆息する。同居予定の相手に常識を求めるのが間違いだとは思わねえが、こいつは手強そうだ、と。
「何だ? 増えたり減ったり?」
 とりあえず問いを零せば、ハティはこくりと頷いた。
「買われたり、拾われたり」
「って、買ってる時点でな……」
 ブリンドの呟きに、ことりと首を傾げるハティ。
「ああ、良いから続けろ。いちいち止まるな」
 お前はどっちだったんだという突っ込みも胸の内にあったが、語りぶりを見るに、そこはハティにとっては問題にもならないようだとブリンドは判断した。わかったと応じたハティが、話の続きを紡ぎ始める。
「俺達を一人で見てくれた人がいて、俺は彼に見つけてもらえて運が良かったけど、彼はそのために仕事と利き腕をなくしてた。最初は彼のために皆で自警団を始めた。それが俺の家族だった」
 語り終えたハティの瞳は静かに凪いでいた。その燐光に、優しい輝きさえも内包しているような。
(自警団にいたって話は聞いてたが……)
 熟し落ちた宝石を拾い上げるハティを見やりながら、ブリンドは思う。
(大体話を聞いてりゃ、故郷や家族なんて慕うほど世界はこいつに優しかったのか)
 ピジョンブラッドのルビーを思わせる深紅の石を月明かりに翳すハティ。その声が、夜の闇に染み込んでいった。
「綺麗だ。色をつけたのはきっと、俺ではなくて記憶の中の彼らだと思う」
 言って、ハティは仄か目を細める。燐光の瞳に映る、宝石の彩。
「あの人の片腕になりたかった。それが俺の全てだと思ってた。……けどそうじゃなかったと今思えるのは一人じゃないからか」
 そして今度は宝石の樹ではなく、ブリンドへと向き直って。
「俺は物分かりが悪いかもしれないが、これからも教えてくれ、リン」
 真っ直ぐな視線、真っ直ぐな言葉。ブリンドの胸に形容し難い想いが過ぎる。
(故郷も家族も、俺はどっちも知らねえが……)
 それで『運が良かった』なんて言われてしまうと、何故だろうか、頑是なくこちらを見る目に、他者の人生を思う時は勿論、自分の人生にさえ生まれたことのない感傷を覚えてしまいそうな、そんな心地がして。ブリンドは胸の靄を払うようにチッと舌を打った。
「なんだ物分かり悪ィ自覚あったのか」
 辛辣に言い放って、ブリンドはハティに一歩歩み寄ると、その手から生まれたばかりの宝石をひょいと摘まみ上げる。
「返事代わりだ。貰っといてやんよ」
 返事になっていないと文句を言われるよりも早く、ブリンドは身を翻し宝石の樹に背を向けた。

●ダイヤモンドの涙
「思い出を綺麗な石に変えてくれる樹? 行きたい!」
 パートナーであるレオン・ラーセレナから件のツアーの誘いを受けて、城 紅月は瞳を輝かせて是も非もなくそう応じた。童話や綺麗な物が好きな紅月にしてみれば、それはとても興味深い、魅力的な誘いだった。それに。
(レオンに誘ってもらえたのも……嬉しい)
 誘いを受けた時のことを思い返しながら、紅月はレオンと並んで静けき夜の森を行く。手を繋げたらいいのにと思えば、まるで心をそっと掬い取られたかの如くレオンの手の温度が紅月の手に触れて。
「前のデートは夏の縁日でしたから、久しぶりのお出掛けですね。二人で宝石と夜とを楽しみましょう」
 秘密っぽく笑み零されて、紅月は頬の火照るのを感じながらこくりと小さく頷いた。やがて辿り着くのは、森の奥。不思議な不思議な宝石の樹が、紅月たちの思い出を聴くのを待っている。月明かりに煌めく、硝子玉の実。
「わあ……夢みたいだ」
 感嘆のため息を漏らして、紅月はその幻想的な光景に見惚れた。揺れて光る硝子の玉。思い出されるのは、夏の縁日の明かり。紅月は宝石の樹へと歩み寄ると、その幹にそっと触れた。そうして、本当に、ごく小さな声で思い出を零す。レオンの精霊の耳にも聞こえないように、この樹だけに聞こえるように。
「……縁日でレオンが買ってきてくれた、閉じたら内容が消える不思議な本にあった俺たちの睦言。それに、挿絵。思い出して心臓が高鳴るのが……辛い」
 ぎゅうと自分の胸元を握り締める紅月を、レオンは静かに見つめていた。
(やはり、紅月の思い出が気になりますね)
 紅月は繊細な子だ。その想いはきっと表情や仕草に表れるだろうと踏んで彼の様子に気を配っていたレオンである。勿論、レオンには聞こえない思い出を語る紅月の切なげな表情も、僅か俯くその仕草も、レオンの真紅の瞳はしかと拾っていた。見守るレオンの視界に、宝石の熟して落ちるのが映る。それは、月明かりしかないこの場所では分からないけれど、照らす光によってその色を変える石。まるで揺れる紅月の心を表すかの如くに。宝石を拾い上げた紅月をレオンはそっと抱き寄せようとして――緩く首を横に振った。今触れてしまったら、この宝石よりも繊細な少年を壊してしまうような気がして。
「何を思い出しているんですか?」
 代わりのように問いを零せば、紅月はレオンの方を振り向いて、ほんの僅かだけ、口元に痛々しいような笑みを乗せた。
「契約した日と、夏の縁日だよ」
「契約の日、ですか。あなたが私の後ろに逃げてきたのを、覚えていますよ」
「あれは……恥ずかしかったんだよ。すごく、戸惑ったし」
 そのかんばせに照れの色を覗かせて、ふいと紅月は視線を自らの左手の甲へと移す。この手の文様に、レオンは契約の口付けを零したのだ。その時のレオンの顔が、ありありと脳裏に浮かぶ。ぽろり、紅月の瞳から溢れる澄んだ涙。
「……どちらの日も、忘れられないんだ……」
 一度溢れ出した涙は、もう止まってくれなかった。ぽろぽろ、ぽろぽろ。玉のような涙を零しながら、紅月は強く胸に思う。
(俺、宝石よりも、レオンが……)
 胸満たす想いは、言葉にならなかった。涙が、押し寄せる感情の波が、気持ちを声に乗せることの邪魔をして。紅月の琥珀の瞳から溢れる涙を、レオンはそっと指で拭った。
(綺麗な涙、ですね……)
 胸の内に、想いが満ちる。けれど、その想いに、レオンはそっと蓋をした。今は、まだ。けれども、きっといつか。紅月、とレオンは甘やかに言った。
「泣かないでください、私の可愛い紅月」
 2人で紡いだ契約の日の思い出が、涙色の石になって柔らかな土の上に光っていた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月28日
出発日 01月04日 00:00
予定納品日 01月14日

参加者

会議室

  • あけましておめでとーっ!
    セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
    皆、今年もヨロシク!
    城さんは初めまして!

    プランは提出ずみだ。
    綺麗な宝石に成りますように。

  • [4]城 紅月

    2015/01/02-01:10 

    あけましておめでとう!
    ご挨拶が遅れてごめんね。
    ハティーさんと天原さんははじめましてだね。

    俺は綺麗なものが好きだから、勿論宝石も好きだよ。
    でも、どんな思い出が宝石になるかはすごく興味あるな。
    とってもたのしみだね♪

  • [3]天原 秋乃

    2015/01/01-22:52 

    あけましておめでとう
    紅月は初めましてだな。俺達のことは好きに呼んでくれ

    宝石に興味があるかと聞かれると微妙だが、思い出話で色が変わるなんて不思議だよな
    みんなの宝石もどんなもんになるか楽しみだ

  • [2]俊・ブルックス

    2015/01/01-14:19 

    あけましておめでとう。
    初めましての奴はいない、かな。
    宝石には疎いんだが、思い出っていうのがちょっと気になってな。
    それはともかく、今年もよろしく。

  • [1]ハティ

    2014/12/31-06:34 

    城さんとレオンさんは初めまして。ハティとブリンドだ。
    セイリューさんと天原さんと俊さんはまたよろしく。
    どんな色に染まるのか、想像つかないが、どんな色が揃うのか楽しみにしている。
    染まる前の、色のないガラスの実もきれいなんだろうな。


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