思い出のかけら(まめ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

クリスマスも終わり、世間はすっかり年末モード。
街中へと足を運べば、お店の「年末セール」の文字や「福袋予約」と書かれたポスターなんかもチラチラと目に入る。
あなたもその流れに乗っかって、年越しに向けて身の回りの大掃除を始めることにした。

いつも生活をしている場所で大掃除を始めたあなたは、大事な物、残しておく物、捨ててしまう物、これは一旦保留。
……と、順調な様子でさまざまな物を整理していく。

あと少しで大掃除も完了かという時に、ふと視界の端に何かが映る。
不思議と気になりその方向へと視線を流すと、ある物が目に留まった。

それは、とある思い出が詰まった懐かしい物だった。

あなたはそれにゆっくりと近づき、両手で拾い上げた。
大事そうに見つめていると、頭の中に懐かしい過去の思い出が押し寄せてくる。
そのあたたかな思い出に身を委ね、あなたは暫し過去の記憶に浸るのだった。


それからまた暫くして……。

あなたのところに様子を伺いにきたパートナーが、手土産のケーキを持って現れた。
全く動く気配の無いあなたを不思議に思ったパートナーは、あなたを覗き込んで声を掛ける。
それに気付いたあなたはパートナーから手土産を受け取ると、掃除を一時中断し、ケーキをおやつに思い出話を語って聞かせるのだった。

解説

思い出に浸るのは神人か精霊か。
それは自由です。

どちらか一人が、自分の部屋か職場か、それとも他の場所かで
片づけをしている中で、その思い出の品を見つけたことになります。

思い出の品を前にあなたが思い出すのは、
小さい頃の思い出か、それともパートナーとの思い出か……。

あなたが暫く過去の記憶に浸っていると、側にパートナーが現れます。
是非、パートナーにその思い出を語ってみてください。
あの時は気付かなかったこと、気付かなかった想いに気付くことができるかもしれません。

★消費金額:パートナーが購入したケーキ代500Jr


ゲームマスターより

みなさんこんにちは。まめです。
もうすぐ今年も終わりますね。
今年の締めくくりということで、過去を振り返るようなお話を出してみました。

年越しに向けて大掃除の準備をしなくちゃと思うものの、
ぽかぽかあったかいお布団からなかなか抜け出せない悲しい現状。
ぬくもりが欲しい…。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)

  彼の家に来て呼び鈴を鳴らしたが反応はない。
鍵は開いてるし入っちゃえ。

本を眺めている彼に声をかけ、勝手に入ったことを詫び、ケーキを持ってきたことを伝える。

一緒にケーキを食べようと言われ、喜ぶ。
お皿とフォークを出すことにする。

ふと、研究机の上に気になるものを見つけた。
月桂樹の葉のレリーフのペンダント。
これ、私の故郷の…。
何故彼がこれを?

声をかけられ驚いて「なんでもないよ」と言い、急いで食器棚に向かって準備する。


ケーキと紅茶を頂きながら、何を読んでいたのか聞いてみる。

彼が過去のことを話すのは初めてだ。
そんな過去があったのね。
話してくれて、ありがとう。

ペンダントのことは今日は聞かないでおこう。


ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
  ホワイトチョコの乗った、綺麗な真っ白なケーキ売ってたのでつい買ってきちゃいました。
前にグレン、ホワイトチョコの物があまりないって言ってましたし喜んでくれるといいんですけど…

ただいま…あれ、いませんね。
珍しく部屋の扉が開けっ放しです、お片づけ中ですか?
わ…本の山が崩れちゃったんですね。
色んなもの散らかっちゃってますし私も手伝います。
あれ、あそこに落ちてるのって…
確かご家族の写真が入ってましたよね、このロケット。

わ、私のせいですかっ!?
ど、どうしましょう、私は一体どうしたらっ!
ちょっと、グレン何笑ってるんですかーっ!
今度は撫でられた…何なんですか、もう…
でも笑っててくれるなら、別にいいでしょうか…


油屋。(サマエル)
  罅割れたパライバトルマリンのブローチ
アタシが病院へ運ばれた時に握っていたものらしい

病床で名刺を渡されて初めてアイツの名前を知った
サマエル・レオナルディ
オーガに殺されそうだったアタシを助けてくれた人

ブローチもきっとこの人の物だ
悪いし返そうと思って今日まで言えずにいた

素敵なブローチ サマエルに似合いそう
アタシなんかが持ってたら可哀そうだよね

*

そうだったんだ……
アタシ アンタと契約出来て本当に良かった

ありがとう……! 
ううん これが良いの 大切にするね

(サマエルから貰っちゃった 嬉しいなぁ)

精霊から貰ったブローチをつける

どう、かな……変じゃない?
似合っていると言われて少し嬉しくなる


菫 離々(蓮)
 

同居中のハチさんの部屋へ
ケーキを買ってきたので休憩にしましょうと声掛け。
随分散らかっているようですが
室内で戦闘訓練でもされたのでしょうか

その白い布は何です?
……ゴミなどでは、ないのでしょう?
そんなに大事に仕舞ってらしたのですから。

はい、お茶に。ケーキはティラミスです
私は紅茶ですが、ハチさんはいつも通りコーヒーですか?
……では同じ茶葉にしましょう

私、そのようなもの、贈りましたか?
ちょっと記憶に……ああ、そんなに前ですか。
ハチさんが運び込まれて家中慌しかったことは朧げに。
そのお話ですと私、
療養中の邪魔しかしていませんね。すみません

魔法。
本当に魔法を掛けてしまったのかもしれません(左手の文様を眺め


アンダンテ(サフィール)
  今日は大掃除するから付き合えないっていってたわよね
差し入れにケーキでも買っていこうかしら

そういえばケーキは大丈夫なのかしら?
…だめなら私が食べればいいわよね!

お邪魔します、お掃除進んでいるかしら
ケーキを買ってきたのだけど一休みしない?
甘い物は大丈夫かしら
あ、そう、大丈夫なの…

あら、そのお洋服はどうしたの?
女物よね

もしかして、それがこの前サフィールさんがいってた野望?
ふふ、素直に夢って言えばいいのに
きっとサフィールさんなら叶えられるわ
いつか私の服も仕立ててもらいたいわね

ふと気づく
…あら?
私達の夢が叶う時って、私達は一緒にはいないって事よね(店と旅
それは、なんだか夢が叶ったというのに寂しいわね…





「数年ぶりに勉強再開したけど、相変わらず必要な本多すぎんだよっ!」
 自室の本棚の前で、沢山の医学関連の本を抱えたグレン・カーヴェルは大きくため息をついた。
すでに基本的な知識があり、ある程度の治療であれば出来るグレンではあるが、医者と名乗れる程の力はまだ無い。
とはいえ以前の自分を思い出すと、今こうして『医師になる』という目的を持っている事自体が不思議だ。

行方知れずとなった姉の姿に囚われ、立ち止まっていた自分の背を押してくれたのは、神人のニーナ・ルアルディだった。
ころころと表情を変えまっすぐぶつかってくる彼女は、何があっても本音を隠して、ただただ微笑んでいた姉とは違う。
グレンは小さく微笑みを浮かべた。
そして抱えた本を机に置こうと踵を返すが、運悪く周囲に積み重ねられていた本の山を崩してしまった。

「あー…片付けんの面倒くせー」
 グレンは本を机に置き、散らばった本を拾い始めた。


……


軽快なドアベルを背にケーキショップを後にしたニーナは、手にした白い箱を見て微笑んだ。
箱の中にはケーキが2つ。表面にホワイトチョコのコポーが散りばめられた真っ白なチョコレートケーキだ。
グレンが「ホワイトチョコの物があまりない」と言っていたことを思い出しこれを購入した。
「喜んでくれるといいんですけど」
 グレンの喜ぶ顔を想像すると自然と足どりが軽くなる。
ニーナはあっという間に2人で暮らす借家の前へと辿り着いた。

「ただいまー。あれ、いませんね」
 ドアを開けてすぐにはグレンの姿が無く、その先の部屋の扉が開けっ放しになっていることに気付いたニーナ。
覗き込むと床には沢山の本が散乱していた。
「わ、本の山が崩れちゃったんですね」
「何だ、帰ってきてたのか」
 その声に反応してグレンは顔をあげる。
周りには本だけでなく、紙やペン、空になったインク瓶なども転がっていた。
「色んなもの散らかっちゃってますし、私も手伝います」
 ニーナは手にしていた白い箱を机に置くと、腕まくりをしてグレンの隣に座り、自身も片付けを始める。
箱に気付いたグレンはそれを指差してニーナに尋ねた。
「あれ、なんだ?」
「ホワイトチョコのケーキがあったので買って来たんです。でもまずは片付けを……」
「片付けは後でいいんだよ。……さっさと開けようぜ」
 よっぽどケーキが嬉しかったのかと、ニーナは小さく笑った。

早速準備をしようと立ち上がった時、ニーナの視界の端で何かがキラリと光る。
重なり合う本の隙間には見覚えのあるロケットが落ちていた。
(確かこれは、グレンのご家族の写真が入っていた……)
 ニーナはロケットを拾い上げると、蓋を空けてしまいそうになる衝動を抑えながらグレンに手渡した。
その様子に気付いたグレンはふっと小さく笑う。
「写真ならもう入ってないぜ?」
 蓋を空けると確かに中からは写真が消えていた。
「……いい加減先に進まねーと、て思ってな。お前のせいだからな、責任とれよ?」
「わ、私のせいですかっ!?ど、どうしましょう、私は一体どうしたらっ!」
 グレンの言葉に慌てふためくニーナ。
想像通りの反応にグレンは堪え切れず声を出して笑う。
「ちょっと、何笑ってるんですかーっ!」
「はは。悪い悪い」
 本当に彼女は姉とは違うと、グレンは静かに胸の奥で噛みしめた。
気付けばニーナのことばかり考えてしまっている。
グレンの手がニーナの頭を優しく撫でる。
「お前は何もしなくていい、むしろそのままでいろ。今みたいに素直に泣いたり笑ったり慌てたりしてりゃそれでいい」
「な、何なんですか、もう」
 すっかり調子を崩したニーナは、グレンから恥ずかしそうに目を逸らす。
そんな優しい目で見つめられては、どうしていいかわからなくなってしまう。
グレンがこうして笑ってくれるなら、この優しい彼の手を黙って受け入れるのもいいかもしれないと、ニーナは静かに思うのだった。 





「あ。これ……」
 部屋の掃除をしていた油屋。の目に映り込んだのはパライバトルマリンのブローチ。
ネオンブルーに輝く綺麗な宝石だが、中央にはっきりと見て取れるほど深い罅が入ってしまっている。
「素敵なブローチ。サマエルに似合いそう」
 照明に透かし見るブローチはキラキラとしていて、パートナーであるサマエルの姿が自然と浮かび上がってしまう。
彼が宝石が好きで似合うからという単純な理由だけでは無い。
今まで返せずにいたが、そもそもこのブローチの本当の持ち主は彼なのである。
「やっぱり、アタシなんかが持ってたら可哀そうだよね」
 ブローチをサマエルに返すことを決意した油屋は、部屋を飛び出し彼の元へと向かった。
返す機会を逃してしまっていたことに気が引けるのか、途中で差し入れのケーキを買って。


……


「確かにこれは俺の物だったな」
 油屋からブローチを受け取ったサマエルは、そのブローチには一度チラリと視線を落としただけだった。
それよりもずっと長く、目の前で呼吸を整える油屋を見つめていた。
「綺麗な色だろう?まるでお前の瞳のようだ」
 熱い視線から目を反らすことなく、油屋はただまっすぐに彼の視線を受け止めていた。
その瞳の奥にある激しい劣情には気付かずに。
「ねぇ、サマエル。このブローチって……」
「そのブローチは前々から目をつけていてようやく買えた代物だ」
 油屋の言葉を遮るように、サマエルは語りだす。
このブローチを手中に収めた時、そして油屋との始まりの日を。


……


その日、サマエルはとても上機嫌だった。
ずっと前から目をつけていたブローチをやっと手に入れた記念すべき日。
宝石収集が趣味な彼にとって、新たなコレクションが増えたことに心からの喜びを感じていた。
今日はいい日だ。
けれど、同じだけ嫌な日でもあった。
ダブロス中心街を歩く彼の元に、突如として巨大なオーガが出現したのだ。

それは本当に突然のことで、今となっては断片的な記憶を紡ぎ合わせてやっと思い出せる程度。
突然のオーガの出現。
そしてそのオーガから攻撃を受け、ブローチには醜い傷が入ってしまった。
先ほどまでの高揚していた気持ちは鋭く冷め、サマエルの中でそのブローチは一瞬にして無価値な物となる。
(もう捨ててしまおうか。いや、いっその事壊してしまおうか……)
 サマエルが冷たい思考でそう考えた時、彼のすぐ傍で、か細い女の声があがる。
そこにはオーガの攻撃によって無残に傷つけられ、地面に突っ伏す死にかけの女の姿があった。
女は傷ついた体を震わせて、それでもなお強い瞳で巨大なオーガの背中を睨みつけていた。
サマエルの頭の中で、ふとパライバトルマリンの宝石言葉が浮かび上がる。
宝石言葉は『希望・幸福』。
ただ、この女に力を与えられればと、サマエルは傷だらけの女の手にブローチを握らせた。
それがまさかずっと待ち望んでいた契約者だったとは、サマエル自身思いもしていなかったのだが。


……


「そうだったんだ……」
 サマエルの話を静かに聞いていた油屋は、話が途切れたのを合図に大きく息を吐いた。
彼の心情を知り、胸の奥でぐっと熱い気持ちが込みあげてくる。
「アタシ、アンタと契約出来て本当に良かった」
 そして油屋も当時の記憶を思い出す。
あの後病床で目覚めた時、手に握りしめられていたブローチ。
そしてすぐ横には同じく傷ついたサマエルの姿。
彼から渡された名刺には、「サマエル・レオナルディ」と書かれており、油屋はそこで初めて彼の名前を知る。
その日から油屋にとってサマエルは命の恩人ともいえる大切な存在になった。

「気に入ったのならそのまま持っていれば良い。それとも新しい物を用意するか」
「ありがとう……!ううん、これが良いの!大切にするね」
 サマエルからブローチを受け取ると油屋はぎゅっと胸に抱きしめた。
貰ったブローチをつけて、ぎこちない様子でサマエルに問いかける。
「どう、かな……変じゃない?」
「いや、似合っている」
 その言葉に嬉しくなった油屋は、頬をほころばせて微笑んだ。 
その笑顔を見たサマエルの胸の奥で、何かがざわりと音を上げる。
「早瀬。これからは肩身離さず身に着けろ」
「え?なんで……?」
 突然、名前を呼ばれ、油屋は驚いて顔を上げる。
「何故、って首輪代わり……。いや、悪い虫がつかないようにするためだよ」
 そう言ってサマエルは油屋の頬に長い指を滑らせた。
柔らかい肌を撫でながら、妖しく微笑みを浮かべて。





「随分と懐かしい物が出てきましたね」
 ジャスティ=カレックの手には、埃を被って少し煤けてしまっている分厚い本があった。
本の表紙には『植物図鑑』と書かれており、ジャスティが子供の頃、育ての親に引き取られた時に貰った物だった。
貰ったばかりの時は、嬉しくて何度も何度も読み返していたのを覚えている。
中を見ると幼い筆跡で色々と書き込みがされていた。
「懐かしいな……」
 ジャスティはくすりと微笑むと、本のページを1ページずつ大切に捲る。
昔の記憶をゆっくりと辿りよせるように。


……


「あれ?ジャスティ留守なのかな?」
 ジャスティの家の前で、リーリア=エスペリットは首を傾げた。
手には差し入れのケーキが入った箱を持っている。
いつもは呼び鈴を鳴らせば、すぐに笑顔で迎え入れてくれるのに、今日は何度鳴らしても反応が無い。
何かあったのかと不安になりドアに手をかけてみると、鍵がかかっておらずゆっくりと扉が開く。
「鍵は開いてるし……、入っちゃえ」

リーリアが家の中に入ってすぐの部屋に家主はいた。
夢中で何かの本を読んでいる事に気付いて、リーリアはほっと胸を撫で下ろした。
「ジャスティ、ごめんね。勝手に入っちゃった」
「あ、リーリア来てたのですね。いいんですよ。すっかり本に夢中になってしまっていて気づきませんでした」
 呼びかけに気付いたジャスティは、本から視線を外すとリーリアを見て優しく微笑んだ。
「ううん、私も突然来ちゃったから。あ、ケーキ持ってきたんだけど、どうかな?」
「ありがとうございます。すぐにお茶を入れますから一緒に食べましょう」
 お茶の誘いにリーリアはぱあっと笑顔を浮かべて頷いた。
ジャスティはその笑顔にくすりと小さく笑う。
「それじゃあ私はお皿とフォークを出すね」
 部屋を後にするジャスティに続くようにリーリアも後を追おうとしたが、彼の研究机の上に気になるものを見つけ立ち止まる。
机の上に置かれた月桂樹の葉のレリーフのペンダント。
そのペンダントはリーリアの故郷に伝わる物だった。
(何故彼がこれを?)
 リーリアは動揺しながらそのペンダントを見つめていた。
「どうかしましたか?」
 部屋から出てこないリーリアを気にして、ジャスティが声をかける。
「え?!あ、ううん、なんでもないよ」
 突然声をかけられて驚いたリーリアは急いで食器棚へと向かった。
頭に浮かんだ疑問を消し払うように。


……


「さあ、出来ましたよ」
 ジャスティは2人分の紅茶を持って、リビングのテーブルへと並べた。
とっておきだという紅茶のいい香りが部屋に広がる。
リーリアはケーキと紅茶を交互に楽しみ、時には他愛の無い話をしながらジャスティとのんびりとした時間を過ごしていた。
そこでふと本に夢中になっていたジャスティの姿が浮かんだので、彼に何を読んでいたのか聞いてみることにした。
ジャスティは紅茶に視線を落とし悩んでいる様子だったが、一度リーリアを見つめて微笑むとゆっくりと語り始めた。

家族を失い今の父のところに引き取られたこと。
夢中になっていた本はその直後に貰った『植物図鑑』で、幼い自分は図鑑と実物を見比べては、一生懸命メモを残したこと。
そしてそれが、今の自分の原点なのだと。 

ジャスティが過去の話をリーリアに話すのは、今日が初めてだった。
その大切な記憶が詰まった言葉を1つも聞き逃さぬよう、リーリアは瞳を閉じて彼の言葉を静かに聞いていた。
「……あなたになら昔のことを話してもいいと思ったんです」
 ジャスティのその言葉に、リーリアは潤んだ瞳を浮かべる。
「そんな過去があったのね。……私に話してくれて、ありがとう」

リーリアの頭の片隅で、月桂樹の葉のレリーフのペンダントが浮かぶ。
優しいジャスティの微笑みに答えるように、リーリアも微笑み返した。
(ペンダントのことは今日は聞かないでおこう) 





「今日は大掃除するから付き合えないっていってたわよね。差し入れにケーキでも買っていこうかしら」
 任務も無い久しぶりの休日を満喫していたアンダンテは、ケーキショップを通り過ぎたところでふと、そう思い立った。
パートナーのサフィールは折角の休日を大掃除で潰すと言っていたが、それではちょっと寂しい気がしてしまう。
そこにケーキの1つでも添えれば、少しは特別感が出るかもしれない。
2人でケーキを食べる姿を想像して、アンダンテはくるりと踵をかえした。
そこでまた、ぴたりと足を止める。
「そういえば、ケーキは大丈夫かしら?」
 契約して間もない相手の好みがまだ理解出来ておらず、アンダンテは頬に手をあて店の入り口で考え込む。
考えながらも視界に飛び込むのは、どれもこれも色鮮やかでおいしそうなケーキ達。
「……だめなら私が食べればいいわよね!」
 すっかり美味しいケーキを食べるという目的に変わってしまったアンダンテは、上機嫌で店内へと入って行った。


……


すっかり部屋の掃除を終えたサフィールは、洋服棚から出てきたとある物を前に物思いに耽っていた。
目の前にあるのは女性物のワンピース。
所々がほつれていて、とても上手とは言えないワンピースは、幼い頃サフィールが作ったものだった。
仕立て屋を営む両親の仕事姿を見て育ったサフィールは、いつの間にか自身も両親のような仕立て屋になりたいという目標を見つけ出していた。
このワンピースは子供ながらに見様見真似で作った初めての作品。
これを見た両親は、嬉しそうな笑顔を浮かべて初めてにしては筋がいいと褒めてくれた。
最初はそれが純粋に嬉しかったが、両親の作った衣装と比べて自分が作ったものはひどく歪な物に映ってしまって。
どうして両親のように上手く作れないのか、どうしたら両親が作るような、着る人が笑顔になれる立派なものを作れるのかと、より一層手伝いに励むようになったのだった。
今思うととても純粋だったなと思い返し、サフィールはくすりと笑う。

その時、玄関から呼び鈴の音が聞こえた。
サフィールは来訪者の姿を想像し、ゆっくりと立ち上がって玄関へと向かう。
「お掃除進んでいるかしら?ケーキを買ってきたのだけど一休みしない?甘い物は大丈夫かしら?」
「ああ、お気遣いありがとうございます。掃除は先ほど済ませました。ケーキも大丈夫ですよ」
 想像通りの姿をしたアンダンテは、出迎えて早々にサフィールに沢山の質問を投げかけてきた。
全く、あなたという人はと小さく呟いて、サフィールは中へと招き入れた。
「あ、そう、大丈夫なの……」
 すっかり2人分のケーキを頬張る自分の姿を想像していたアンダンテはがっくりと項垂れた。
何で大丈夫といって落ち込むんだこの人と、サフィールは訝しい目を向ける。

「あら、そのお洋服はどうしたの?」
 部屋へ入ってすぐに、アンダンテの目に先ほどのワンピースが映る。
女性物のワンピースだから余計に目立ったのだろう。
「あぁ、それは……」
 サフィールはワンピースを手に取ると、アンダンテに自身の思い出を語り聞かせた。
アンダンテも興味津々といった様子で話に耳を傾ける。
「今は親の手伝い状態ですが、ゆくゆくは自分の店を構えられればと……」
「もしかして、それがこの前言ってた野望?」
 アンダンテの問いに、サフィールはただ黙って頷くだけだった。
赤裸々に話してしまい少し気恥ずかしいのだ。
「ふふ、素直に夢って言えばいいのに。きっとサフィールさんなら叶えられるわ。いつか私の服も仕立ててもらいたいわね」
「まぁ、いつか……ですかね」
 照れたように目を反らしてそう呟いたサフィールは、お茶の準備をするから座っていてと告げ、そそくさと部屋を後にした。 
パートナーの思わぬ話が聞けて、アンダンテは何だか胸が暖まるような気持ちであった。
言われた通りに椅子に座り、幼いサフィールが作ったワンピースをじっと眺めていた。
サフィールの夢は、いつか仕立て屋のお店を構えること。
アンダンテの夢は、散り散りになってしまった旅芸人一座と再会し、また旅を続けること。
「あら?私達の夢が叶う時って、私達は一緒にはいないって事よね」
 すれ違う夢を追い求める2人。
「それは、なんだか夢が叶ったというのに寂しいわね……」
 アンダンテは静かにそう呟いた。





「ハチさん、ケーキを買ってきたので休憩にしましょう」
 そう言って同居人である蓮の部屋を覗いた菫 離々は絶句した。
片づけをしていたはずの蓮の部屋は、色んな物が散らばり、箪笥からは色んな衣類が飛び出している。
そして床には何かを溢したらしく水溜りが。
「随分散らかっているようですが、室内で戦闘訓練でもされたのでしょうか」
「これでも片づけてるんです」
 離々がそう言って冷たい目で見つめると、蓮は少し嬉しそうな表情を浮かべて答える。
……すっかり何かに目覚めてしまっているようだ。
気を取り直して再度休憩を薦めようとした離々の目に、ある物が映る。
これだけ荒れた部屋の中で、真っ白なそれがやけに目立つ。

「その白い布は何です?……ゴミなどでは、ないのでしょう?そんなに大事に仕舞ってらしたのですから」
「え?」
 離々の問いかけの視線を追うと、そこには折り畳まれた白い包帯があった。
それは、汚れの一つも無い真っ白な状態でそこにあった。
蓮が錆びた缶に入れて抽斗奥に大事に仕舞っていた思い出の品だった。
「一見するとゴミなんですけど」
 またもさらりと冷たい言葉を放つ離々。
俺としたことがと蓮は気まずそうに視線を泳がすが、静かに見つめる離々の瞳にやがて観念したように語りだした。
「たしかにゴミではありません。だってお嬢からの賜り品です」


……


「はい、お茶に。ケーキはティラミスです。私は紅茶ですが、ハチさんはいつも通りコーヒーですか?」
「って、買い物なら俺が行きましたのに。それじゃあ、飲み物は今日は同じものを」
「……では同じ茶葉にしましょう」
 荒れる一方の部屋を後にし、休憩時間を過ごす離々と蓮。
あの後離々がくしゃみをしてしまったので、取りあえず話を切り上げ休憩にしたのだが。
紅茶を啜る離々からは、先ほどの会話を蒸し返す様子も無さそうなので、蓮はほっと息を吐いた。
……のだが。

「で、ハチさん。私、そのようなもの、贈りましたか?」
 安心した所を見計らったかのように離々に問われ、蓮はびくりと肩を揺らす。
「ちょっと記憶に……」
 話を続ける離々。
蓮は紅茶を一口啜ると、たどたどしく話し出した。
「覚えてないのも無理ありません。俺が親父さんに拾われた時ですから、お嬢はまだ4、5歳だったはずです」
「ああ、そんなに前ですか。ハチさんが運び込まれて家中慌しかったことは朧げに」
 首を傾げる離々を見て、蓮は過去の記憶を呼び起こす。

傷だらけの自分と、心配そうにこちらを見つめる小さい離々の姿。
「全身包帯だらけの俺に寄ってきて、左手にこれ、巻いてくださったんですよ。治療の意識はなかったんでしょう。実際そこは怪我してませんでしたし」
「そのお話ですと私、療養中の邪魔しかしていませんね。すみません」
 ボロボロで生き倒れていた所を離々の父親に拾われた。
身体が痛くて辛かっただけでなくて、多分、心もひどく傷ついていた。
その傷ついた心ごと、幼い離々に抱きしめられたような、そんな気持ちになったのを蓮は覚えていた。
「包帯を巻きながら心配そうに俺を見る女の子に魔法を掛けられたような心地でしたよ」 
「魔法……ですか」
 離々はその言葉に自身の左手の文様を眺めた。

「……本当に魔法を掛けてしまったのかもしれません」
 赤く浮かび上がった文様が、ぼんやりと離々の瞳に映りこんでいた。






依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター まめ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月23日
出発日 12月29日 00:00
予定納品日 01月08日

参加者

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