薔薇色ラブ・トラップ(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 タブロス市郊外のとある貴族のお屋敷。
 アフタヌーン・ティーを楽しみながら、屋敷の主人が悩ましげに睫毛を揺らしました。
「ウィンクルムの皆さんをおもてなし?」
「そう、是非お願い出来たら──と思うんだけど」
 屋敷の主、オーウェン・メイスフィールドは、古い友人であるその男をじっと見つめました。
「久し振りに会った友人に、そんな頼み事とは」
 随分とツレないじゃないか。
 拗ねたように唇を尖らせるオーウェンに、男──トールはやんわりと苦笑を浮かべます。
 今日は、いつもの冒険者スタイルではなく、きちんとスーツを着て、肩口まである髪も後ろで結わえていました。
「そんな事言わずに、頼むよ」
「オーウェン様、お願いします」
 トールの隣に座っている、同じくスーツ姿のラキも頭を下げます。
「ラキ君にお願いされると、断れないなぁ……」
「何だ、この待遇の差」
 じとっとトールが半眼になると、ハハッとオーウェンは楽しそうに笑いました。
「冗談だよ、冗談。丁度、年末のイベントを考えていた所だ。喜んで、我が家の総力を上げて、ウィンクルムの皆さんを楽しませようじゃないか」
 カップを置いて立ち上がると、オーウェンはキラリと瞳を輝かせます。
「有難う。我が家はイベント事には向かないからね。貴方の所なら、きっと楽しんで貰えるだろう」
「いつもお世話になっている皆さんに、ご恩返し出来そうです」
 トールとラキは、ホッとして微笑みを見せました。

 トールとラキは自称冒険家。
 【マントゥール教団】に入団し姿を消した、トールの弟・テュールを探してあちこちを旅しています。
 テュールを追う中で、オーガやマントゥール教団絡みの事件に巻き込まれる事があり、その度に二人を救ってくれたウィンクルム達に感謝の念を抱いています。
 そこで、今年一年の感謝を込めて、年末にオーウェンの屋敷でパーティを開こうとしているのです。
 オーウェンの屋敷には広大な庭園があり、オーウェンはその生け垣を迷路に改造したテーマパークを運営しています。
 迷路では、季節ごとのイベントが開かれていました。
 トールとラキは、このオーウェンのお屋敷にウィンクルム達を招待しようと、計画しているのです。

「ふふふ……けれど、パーティはこの私が仕切らせて貰うよ」
 オーウェンは机から、企画書と表紙に書かれた書類を取り出しました。
「このアイデアを使う日が来たね」
「……オーウェン様、アレをやる気ですか」
 傍に控えていたオーウェンの執事、ビヴァリーが眉根を寄せます。
 オーウェンは満面の笑顔で頷き、トールとラキは少しばかり不安になりながら、お互いの顔を見遣ったのでした。

 A.R.O.A.に、オーウェンから招待状が届いたのは、それから直ぐの事でした。

 ★メイスフィールド家主催★

 ウィンクルムの皆様限定の迷路登場!
 三つのナゾナゾを解いて、ゴールを目指せ!

 ルールその1.
 迷路へは、必ず二人一組以上で入ってください。

 ルールその2.
 生け垣の壁を飛び越えるような行為は、反則とみなし、退場とします。

 ルールその3.
 三つのチェックポイントでナゾナゾに挑んで頂きます。
 正解かどうかは、屋敷の主人、オーウェン・メイスフィールドが判定します。
 何度でも挑めますので、挫けず挑んで下さい。他の参加者との相談も許可いたします。
 なお、正解だけが、正解とも限りません。

 ゴールでは、豪華ディナーをご用意し、皆様をお待ちしております。
 ※西洋コース料理。
 ※バーテンダーがもてなすドリンクが飲み放題。
 ウィンクルムの皆様、奮ってご参加ください!

 参加費 300Jr

 以上。

解説

迷路でナゾナゾを解いてゴールし、ご馳走を頂こう!というエピソードです。

以下、PL情報となりますが、三つのチェックポイントでは、以下の問題が出題されます。
(執事のビヴァリーが、問題の書かれたカードを皆さんへ手渡します)

1.『壁ドン』ってなーに? 実演してね!

2.『肩ズン』ってなーに? 実演してね!

3.『お姫様抱っこ』ってなーに? 実演してね!

※ヒント:必ず二人じゃなきゃ出来ないよ!

神人さんと精霊さん、どちらがドンやズンをするかは、問いません。
また、わざと解釈を間違った肩ズン(肩にズン?→後ろから肩に掴まっておんぶお化け)などを披露するのもアリです。
オーウェンが『面白い!』と思ったものが正解となります。
(オーウェンはお屋敷から、現地から執事達により中継された映像を見て、判定をします)

迷路の壁となる生け垣には、綺羅びやかな電飾が飾られ、少し暗い迷路の中を幻想的に照らしています。
所々に設けられている木製ベンチで一休みも可能です。
※今回は、木製遊具などの行く手を阻む仕掛けはありません。

ディナー描写は、それ程多く出来ないと思われますが、食べたいもの、飲みたいものがありましたら、プランに明記をお願いします。

参加費用として、一律300Jr掛かりますので、あらかじめご了承ください。

<登場するNPC>※展開によっては、描写がない事もあります。
・オーウェン・メイスフィールド(?): 貴族。悪戯好き。
・ビヴァリー(?): オーウェンの執事。皆様へクイズを出します。
・トール(29歳)とラキ(27歳): 自称冒険家。ゴールで皆様の給仕をします。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『クイズはヒラメキが命!』雪花菜 凛(きらず りん)です。

よりイチャラブを求めて、庭園迷路の再登場です!
……年の瀬らしいハピネスを考えていた筈が、どうしてこうなったんでしょうね?(棒読み)

迷路に来た事がある人もない人も、NPCに面識があってもなくても、全く問題ございませんので、お気軽にご参加ください!
賑やかにラブラブに楽しんで頂けたらと思いますっ。

皆様の『壁ドン』『肩ズン』『お姫様抱っこ』、楽しみです♪。

素敵なアクションをお待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

信城いつき(レーゲン)

  1.壁ドン俺やる……レーゲンの顔の横に手が届かない
わっ!(いきなり顔が近づいて、あせって二人して転倒)これじゃ床ドンだよっ

少し足の調子悪いけど、まぁこのくらいなら大丈夫か。

2.肩ズン?肩にズンとくる?……肩車?
迷路のライトアップがすごく綺麗だよ!(目を輝かせかけ、あわてて真面目な表情)
「子供じゃないからね、喜んでるわけじゃないよ」

3.(足痛めてるのばれた…)
大丈夫!ほら、第三のチェックポイント来たよ。
(回答後)問題答えたからもう降りる、降ろして!

立って食べられるよ
今度からちゃんと言います、ごめんなさい!

…もしかして楽しんでない?
見てろ!あと数年後には逞しくなってお姫様だっこやり返すからね!



アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  2人の招待だから行こうと思った

◆概要
初体験2つ、譲れない件1つ

◆詳細
迷路を観察
内心一寸謎も楽しみ
と、兎に角行くぞ

●壁ドン…何?
え?ちょ
ランス何やって?
近い近い(汗汗

…壁ドン?これが?

●肩ズン…荷物が重たい擬音?
何をずっこけてるんだ?

そうだよ
知らないんだよ(悪かったな

言われるままにベンチに座って一休み)

流行に疎いのは薄々感じてはいたさ
慰められたら自然にランスの肩に頭乗せてた
うん…ありがと

え?正解?
そ…そっか(複雑

●姫抱き
これなら分かるぞ
仕方ない。運んでやろう

いや、俺が運ぶ!

先に動いた方が…ヤられる!(決戦←

★トール達には招待の礼を言う
君達の趣向とは思えなかったのだが?

…結構楽しかった…かも(小声



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  壁ドン。
ラキアをドンするチャンス!
クイズの回答だから仕方ないだろ的この強制感が内心嬉しい。ラキアを壁に追い詰めるようにして腕を壁に付け「オレだけを見ていても良いんだぜ」

肩ズンはラキアに肩を貸す。
コテン、と頭を傾げるラキアが可愛い。
超役得だ!(落ち付け、オレ)

お姫様だっこは勿論ラキアを抱き上げる!
両手で掲げるようにそーっと抱きあげる!
この大チャンス、ネタに走っちゃ駄目だ。
王道な解答ではあるが幸せを大いに満喫!
駄目なら何度でもする。

生垣で花に語りかけるラキアがやっぱ可愛いなと見とれるぜ。
本当に花が好きなんだなぁ。
何時間でも花を見て居られそうだが、俺達には美味なディナーが待っている!色々食べるぜ!



俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
  わーなんかすげーデジャヴ
まあ迷路もクイズも嫌いじゃねえし、年末のイベントってことで行くか

1.
壁ドン?んなの簡単だろ
隣の部屋でいちゃついてる奴らを壁を殴って黙らせ…え?
ちょっお前何して…!
(何かされるかと思った…

2.
そうそう、妙な依頼に妙なイベント、おまけに妙な相棒で肩がズーンってなって
何かに憑かれてるんじゃ…っておい!?
教えられネカの肩に頭をズン
座ると余計に恥ずかしいんだが

3.
…パードゥン?
この迷路はそれやらないといけない決まりでもあるのか
い、嫌だ、恥ずかしい…恥ずかしいっつってるだろ!?
うぅっ、もうどうにでもしてくれ…
抱っこされて顔を覆う

(精神的に)疲れた
ディナーでゆっくり(心の)傷を癒そう



鳥飼(鴉)
  生垣で作った迷路だなんて、凝ってますね。
どんなナゾナゾが出てくるのか楽しみです。

生垣の飾りも綺麗です。
折角ですから、休憩を挟みながら行っていいですか?

あ、僕知ってます。
確か、相手を壁際に追い詰めて。腕を壁について逃げれなくする……。
こんな感じです。(生垣にエアー壁ドン
いえ、これじゃ僕の向きが。(振り返る
……鴉さん、すごく近いです。

肩、ズン?ズンって何でしょう。
重み?
じゃあ、今度は僕がやりますね。(前から首に抱きつく
お返しです。(にっこり

……お姫様だっこ。(ちらっと鴉を見上げる
(鴉さん細いし、腕が心配だったんですけど)
わわわ……!(落ちないように首に腕を回す
精霊の人って、すごいんですね。(瞬き



●1.

 迷路の中は、生け垣の電飾で明るく照らされている。
「生垣で作った迷路だなんて、凝ってますね」
 鳥飼は生け垣を見上げて、感嘆の息を吐き出した。
「主殿はこういった催しがお好きなようで」
 パートナーの鴉の声に、鳥飼はふわりと微笑んで振り返る。
「どんなナゾナゾが出てくるのかも楽しみです」
「私もそれは興味があります」
 鴉の返しに鳥飼は少し目を丸くしてから、にっこりと笑った。
「生垣の飾りが綺麗なので──折角ですから、休憩を挟みながら行っていいですか?」
「構いません」
(人が少ない場は落ち着きますから)
 鴉も笑みを返す。
「あの電飾、羽を模してるんでしょうか? 綺麗ですね」
「羽が舞っているみたいに見えます」
 時折木製ベンチで電飾を眺めて、二人はマイペースに迷路を進んだ。
 やがて、開けた場所へと辿り着く。
「ようこそ」
 道を塞ぐ執事服の青年達が、恭しく二人に一礼をした。その中から一人の青年が歩み出て、封筒を差し出す。
「ナゾナゾです」
 顔を見合わせてから、鳥飼が封筒を開きカードを取り出した。
「壁ドン? 初めて耳にしますが」
 カードを覗き込んだ鴉が首を傾けた。
「僕知ってます」
 鳥飼は瞳を輝かせ、
「確か、相手を壁際に追い詰めて。腕を壁について逃げれなくする……こんな感じです」
 生け垣の壁へと歩み寄り手を付いてみせると、鴉は成程と頷いた。
「つまり、実演というからには──」
 エアー壁ドンをしている鳥飼の後ろへ歩み寄る。
「主殿、動かないように」
 そんな鴉の声と共に、鳥飼の手に重ねるようにして鴉の手が生け垣に触れた。
「こうですか」
「いえ、これじゃ僕の向きが──」
 振り返った鳥飼の瞳が軽く見開かれる。
「……鴉さん、凄く近いです」
「そういうものなのでしょう。我慢なさい」
 薄く微笑む鴉に、鳥飼は返す言葉に詰まる。その時、
『大正解!』
 場違いなくらい明るい声が響いて、道を塞いでいた執事達が壁際に移動した。
「正解のようですね」
「行きましょう、鴉さん」
 ようやく開放された鳥飼は、鴉を先に急かす。小さく笑いながら、鴉は後に続いた。

「今度は肩ズンですか……」
 またもや知らない単語に、鴉が眉を潜める。
「肩、ズン? ズンって何でしょう」
 今度は鳥飼も答えが分からず首を捻った。
「先ほどの壁ドンのドンが、擬音を意味しているなら。これも擬音なのだとは思いますが」
 顎に手を当てて思案する鴉の瞳が細められる。
「重み、ですかね」
「重み? じゃあ、今度は僕がやりますね」
 瞳を悪戯っぽく輝かせると、鳥飼は前から鴉の首に抱き付いた。驚いた顔の鴉ににっこりする。
「お返しです」
「……先ほどより余程近いですが」
 そこで、『面白いから正解!』の声が響いた。

 第三チェックポイント。
「……お姫様だっこ」
「何です。その視線は」
 ちらっと見上げてくる鳥飼の視線に、鴉が半眼となる。
「これの意味はわかりますし、私は抱えられるつもりはありませんよ」
(鴉さん細いし、腕が心配だったんですけど)
 鳥飼が説明しようと口を開き掛けた時、鴉があぁと頷いた。
「多少なら問題ありません」
 そう言うなり、左腕を鳥飼の背に回し、右腕を膝裏にして彼を抱え上げる。
「わわわ……!」
 浮遊感に慌てながら、鳥飼は落ちないように鴉の首に腕を回した。
「精霊の人って、凄いんですね」
「何を今更」
 瞬きして驚く鳥飼に笑い、鴉は彼を降ろす。
『大正解ー!』
 明るい声に、鳥飼と鴉は顔を見合わせた。
「これでゴールまで一直線ですね。行きましょう」
 鳥飼が鴉の手を取ると、ゴール目指して歩き出す。
 楽しそうなその横顔を眺めながら、鴉の口元にも小さく笑みが浮かんでいた。
(私といて何が楽しいのか。わからない人だ)


●2.

「壁ドン……」
 執事から渡されたカードを見て、信城いつきはパートナーを見上げた。
 長い髪を揺らして首を傾けるレーゲンに、いつきは生け垣を指差す。
「レーゲン、そこに立って」
「?」
 不思議そうにしながらも言われた通りレーゲンが生け垣を背に立てば、いつきはその顔の横に手を付こうとして……止まった。
 手が届かない。
「上に上がりたいの?」
 懸命に背伸びするいつきに微笑むと、レーゲンはその腰を持って、彼をひょいと持ち上げた。
「わっ!」
 いきなりレーゲンの顔が近付いて──唇同士が触れそうになるくらい──いつきの顔が一瞬で真っ赤に染まる。
 離れようと手を突き出せば、ぐらりと身体が傾いた。
「うわっ! 暴れないで……」
 レーゲンの制止も間に合わず、バランスを崩した二人の身体は転倒する。
「いたた……」
 衝撃に瞑ってしまった瞳を開いて、いつきは口をパクパクさせた。
 毛先に進むにつれ淡くなる青色の髪が、いつきの頬を擽っている。
「……えーと、これは床ドンだっけ?」
 やんわりと苦笑するレーゲンの顔が、近い。
「そ、そーだよ、これじゃ床ドンだよっ」
 沸騰する感情を誤魔化すように抗議すれば、レーゲンは楽しそうに笑う。
『実にいいねぇ~正解!』
 そんな二人に、笑みを含んだ声が響いた。
「よかった、正解だって」
 先に身を起こしたレーゲンが手を差し伸べてくる。
 その手を取って立ち上がり、いつきは僅か足首に違和感を感じた。
(……まぁこのくらいなら大丈夫か)
 二人は先へ歩き出す。

 次のカードには、『肩ズン』。
「肩ズン? 肩にズンとくる?……肩車?」
 いつきの呟きに、レーゲンがにっこり微笑む。
「肩車は私の役目かな? はい、いつき肩に乗って」
 しゃがんで促すレーゲンに、僅か恥ずかしくなるも、いつきは素直に身を任せた。
「わぁ……!」
 格段に高い視点。遠くまで良く見える。生け垣の電飾が生き物のように脈打ち輝く光景は美しかった。
「迷路のライトアップが凄く綺麗だよ!」
「遠くまで見える?」
 レーゲンにキラキラ輝く瞳を向けて、いつきははたと止まる。
「子供じゃないからね、喜んでるわけじゃないよ」
 表情を引き締めて言えば、くつくつとレーゲンの肩が揺れた。
『面白いから、正解!』
 再び響く声に、二人は顔を見合わせ、軽くハイタッチした。
(あれ?)
 肩車からいつきを降ろした時、レーゲンは違和感を感じる。
(足を庇ったように見えたけど……)
 注意深くいつきを観察しながら、レーゲンは彼と共に先へ進んだ。

「いつき、足どうしたの?」
 もうすぐ最後の関門という所で、突如レーゲンにそう言われて、いつきはギクリとする。
 じーっと見つめられ、ギクシャクと視線を逸らした。
(ばれた……)
「大丈夫! ほら、第三のチェックポイント来たよ」
 レーゲンの手を引っ張り、チェックポイントへ足を踏み入れる。
「おや、『お姫様だっこ』」
 執事から受け取ったカードを見て、レーゲンの口元が上がった。
「問題はちゃんと答えないと」
 言うなり、いつきの身体を軽々と両手で抱え上げた。
「わーっ!?」
 息が掛かる程近い距離と、レーゲンの体温と鼓動が伝わるのに、いつきは耳まで赤くなる。
『大正解!』
「問題答えたからもう降りる、降ろして!」
 正解のコールに、いつきは手足をバタつかせて主張した。
「ダーメ」
 しかしレーゲンは涼しい顔でそのままゴールへ向けて歩き出す。
「な、何でっ?」
「怪我とか大事な事言わない困った『相棒』には、このぐらいしないと分からないよね」
 見つめてくるレーゲンの瞳が、静かに煌めいた。
「食べたいものがあればこのまま連れて行くから」
「立って食べられるよ! 今度からちゃんと言います、ごめんなさい!」
 だから降ろして。
 懇願すれば、レーゲンの肩がふるふると震えた。いつきは半眼になる。
「……もしかして楽しんでない?」
「さぁ?」
「見てろ! あと数年後には逞しくなってお姫様だっこやり返すからね!」
「うん、楽しみにしてる」
 照れてるいつきが楽しくて、少々意地悪したくなった。
 そう言ったら……どんな顔をするかな?
 レーゲンはクルクル変わるいつきの表情を、優しく見つめていた。


●3.

「わーなんかすげーデジャヴ」
 庭園迷路の入り口に立って、俊・ブルックスは瞳を瞬かせた。
「半年ぶりですね、この迷路」
 隣では、パートナーのネカット・グラキエスが瞳をキラキラと輝かせている。
「今回はどんな趣向なんでしょうか、わくわくします♪」
 ネカットの言葉に、消し去りたい黒歴史が瞼に浮かんだのを、俊は首を振って打ち消した。
(まあ迷路もクイズも嫌いじゃねえし、年末のイベントってことで)
「行くか」
「参りましょう♪」
 二人は迷路の中へと足を踏み入れた。

「ようこそ」
 チェックポイント1番目。出迎えた執事達に、ネカットはにこやかに挨拶する。
「今日は水鉄砲無いんですねぇ」
「この寒さですから」
「残念です」
「残念がってるんじゃねぇよ!」
 思わずツッコミを入れる俊に、ネカットはフフフと笑いながら、受け取った封筒からカードを取り出す。
「壁ドン? んなの簡単だろ」
 隣からカードを見た俊は、自信満々な笑みを見せた。
「隣の部屋でいちゃついてる奴らを壁を殴って黙らせ……」
「……シュンがボケるところ初めて見ました、感動です!」
 言葉を遮って、ネカットがキラキラした眼差しで俊を見つめた。
「……違うのか?」
「あれ、もしかしてマジボケです?」
 二人同時にキョトンとする。
「仕方ありません、私が実演しましょう」
 コホンと咳払いして、ネカットが爽やかに微笑んだ。
「え?」
 ネカットがいきなり距離を詰めてきて、俊は一歩二歩と後ろへ下がり──生け垣に背中が当たる。
 その俊の顔の横に、ドンとネカットは片手を付いた。
「ちょっお前何して……!」
 近付いてくるネカットの整った顔に、俊は僅かに目元を紅く染めてしまう。
「これが壁ドンです」
 ニッコリ。
『正解ー!』
 響き渡るコールに、ネカットは満足気な顔で俊から離れた。
(何かされるかと思った……)
 ドキドキと五月蝿い胸を押さえて、俊は気付かれないよう深呼吸したのだった。

 続いてのナゾナゾ、『肩ズン』。
「シュンの肩こりの事でしょうか……?」
 大真面目にネカットが呟くと、俊は大きく頷く。
「そうそう、妙な依頼に妙なイベント、おまけに妙な相棒で肩がズーンってなって、何かに憑かれてるんじゃ……っておい!?」
 ズビシ!
 ツッコミを入れれば、ネカットが感動に震えた。
「わあ、今度はノリツッコミ! これも初めてです」
「それはいいから。正解は?」
 気恥ずかしさに答えを要求すると、ネカットは口元に指を立て、怪しく微笑む。
「では、これも私が教えますから、シュンがやってください。でも身長差が……そうだ、このベンチに座りましょう」
 木製ベンチを指差され、俊はネカットと並んでそこに座った。
「私の肩にズーン!と頭をもたれるようにして、寄りかかってくださいね」
「こう……か?」
 言われた通りネカットの肩に頭を乗せる。
「座ると余計に恥ずかしくないか、これ?」
「気のせいですよ、気のせい」
『大正解ー!』

 最後のナゾナゾ、『お姫様だっこ』。
「……パードゥン?」
「あ、これ前にもやりましたよね、答えは簡単です」
 ネカットが微笑む隣で、俊は何度もカードの文字を見返した。
「この迷路はそれやらないといけない決まりでもあるのか!?」
「さあ、どうぞ遠慮なく抱っこされてください」
 頭を抱える俊に、ネカットは笑顔で両手を広げる。
「い、嫌だ、恥ずかしい……!」
 首を振る俊の耳元に、ネカットは唇を寄せた。
「いいじゃないですか……どうせ初めてじゃないんだから」
 俊の耳が一瞬で紅に染まる。
「恥ずかしいっつってるだろ!?」
「でも、やらないと前に進めませんよ?」
 折れたのは俊だった。
「うぅっ、もうどうにでもしてくれ……」
「はい、では参りましょう♪」
 ひょいとネカットにお姫様抱っこされ、俊は顔を両手で覆った。それがせめてもの抵抗だ。
『大正解ー!』
「全部知ってた私のおかげですね」
 無事ゴールを決め、ネカットがVサインをする。
「疲れた。せめて、美味い飯を食おう……」
 俊は(心の)傷を癒すべく、ディナーに走るのだった。


●4.

 『壁ドン』。
 その単語を見た瞬間、セイリュー・グラシアの脳内に稲妻が走った。
「こ、これは……」
(ラキアをドンするチャンス!)
 隣のラキア・ジェイドバインを見遣れば、彼は目を丸くして問題のカードを見ている。
「ラキア!」
 名前を呼ばれてラキアが視線を向けると、爛々と輝くセイリューの瞳がじっとこちらを見つめていた。
『ドンしちゃうぜ!』
 眼差しが期待に満ちてそう言っている。
(クイズの回答だから仕方ないよな!)
 この強制感が、セイリューには有り難く嬉しいものだった。
(セイリューってば……俺の方が身長高いから……と思ったけど。しょうがないな)
 クスッと思わず笑みを零してから、ラキアは生け垣を背に、少し屈んでセイリューを見返す。
(存分にドンするといいよ)
 ラキアが微笑めば、セイリューの表情が輝いた。もし彼に尻尾があれば、高速回転していただろう。
 ドンとラキアの顔の横に手を付き、彼を壁に追い詰めるようにして、腕を壁に付ければ──吐息が掛かり、唇が触れそうなくらいに近い。
「オレだけを見ていても良いんだぜ」
 熱っぽく見つめて告げれば、ラキアは瞳を細めた。
「君の事も見つめているよ、花ばかりじゃなくね」
 セイリューの胸が熱くなる。鼓動が五月蝿い。このままもう少し距離を詰めたら──。
 紅いラキアの唇を見つめ、ゴクンと息を呑んだ時、
『大正解ー!』
「正解だって、セイリュー」
「……」
 明るく言うラキアに、それ以上は壁ドン継続は出来ず、セイリューは内心涙したのだった。

 『肩ズン』。
(今日は大サービスデーなのか? そうなのか!?)
 セイリューは、問題のカードを手にふるふると震えた。
「ラキア、こっち」
 木製ベンチにラキアを手招きすると、並んで腰を降ろす。
「俺の肩を貸すぜ」
 カモン!とばかりに白い歯を見せれば、
「じゃあ、遠慮なく……」
 コテンと、ラキアの頭がセイリューの肩に乗る。
(ラキアが可愛い……!)
 伝わる体温と、可愛い彼の仕草に、セイリューの頬は緩みっぱなし。
(超役得だ!)
 サラサラの髪に触れたくて、落ち着けオレ!と手をワキワキ。
 幸せを満喫していると、
『大正解ー!』
「……も、もうちょっと楽しませてくれてもいいのに……」
「セイリュー、どうかした?」
「な、何でもないぜッ」
 再び涙を飲んで、セイリューはラキアと共に先に進んだ。

 『お姫様抱っこ』。
(な、なんだってー!?)
 ゴーッとセイリューの心を暴風が吹き荒れる。
(この大チャンス、ネタに走っちゃ駄目だ!)
「勿論ラキアを抱き上げる!」
 思わず口に出してラキアを見つめれば、彼は小さく吹き出すようにして笑った。
「しかたないなぁ」
(セイリューを抱き上げても微妙だから、抱き上げられてあげる)
「え?」
「いいよ」
 微笑むラキアに、セイリューはぐっと拳を握った。
「じゃあ、行くぜ!」
 セイリューは両腕でそーっとラキアを抱え上げる。
 大事に大事に、その体温を感じながら。
 ラキアもセイリューの首に手を回してくれた。完璧なお姫様抱っこだ。
『大正解ー!』
「やったぜ、ラキア!」
 セイリューはそう言うなり、彼を抱き上げたまま歩き出した。
「セイリュー?」
「もうちょっとだけ……」
 駄目か?と訴えるセイリューの瞳に、ラキアは笑って頷く。

「セイリュー、いい?」
 暫く歩いた所で、ラキアは彼に降ろして貰った。
 そこには生け垣の中で開く、色とりどりの花達が居る。
「この庭がどれだけ大切にされているのかよく判るよ」
 そう言いながら、ラキアは優しい眼差しを花達へ向けた。
「君達の素敵な姿が見られて本当に嬉しいよ」
 そんなラキアの横顔を見ながら、セイリューは瞳を細めている。
(本当に花が好きなんだなぁ……やっぱ可愛いな)
 二人は花を存分に楽しんだ後、ゴールしてディナーを楽しんだのだった。


●5.

 アキ・セイジは庭園迷路を興味深く見渡した。
 ここへ来るのは二度目。
 一回目は、景色を楽しむ余裕はなかった。
 改めて見ると、手入れの行き届いた美しい迷路だ。
(ナゾナゾも気になるな)
 少し頬を緩ませていると、その頬をふにっと突かれた。
「ランス!?」
 頬を押さえて振り返れば、ヴェルトール・ランスのニコニコな笑顔。
「いきなりビックリするだろ?」
「柔らかそうだなーと思ってつい。それはそうと。セイジ、多分あっちだ」
 ランスは悪びれなく笑うと、セイジの手を引いて歩き出した。

 封筒の中のカードには、セイジの知らない単語があった。
「壁ドン……何?」
 セイジは眉を寄せて悩む。その表情を、ランスは意外そうに眺めた。
(セイジったら意外だなあ……知識の塊みたいな奴なのに)
「ランス、知ってるか?」
 弱った顔で見上げてくる瞳に、ランスはニカッと笑う。
「セイジ、俺に任せろ♪ だから、俺の言う通りに動いて?」
「わ、分かった」
 コクコク頷くセイジに、ランスは生け垣に背を付けて立つように指示した。
 言われた通りに立つセイジを見つめると、ランスはドンと顔の横に手を付く。
 そのまま壁に腕を付けて、セイジを囲い込んだ。
「え? ちょ……ランス何やって?」
 混乱するセイジに、ランスは息が掛かる距離まで顔を近付ける。
「近い近い!」
 身を捩って逃げようとするが、両側を固められて追い詰められ、セイジの頬が紅く染まっていく。
「これが壁ドン」
「これが?」
「そう♪」
 真っ赤な耳に軽く口付けた所で、
『大正解ー!』
 コールが聞こえて、ランスが名残惜しそうに身を離した。

「肩ズン……荷物が重たい擬音?」
 セイジの答えに、ランスの身体が大きく傾いた。
「何をずっこけてるんだ?」
 至って大真面目なセイジは、目を丸くしてランスを見下ろす。
「もしかして、全然違ったか?」
 不安そうに瞳を揺らすセイジに、ランスはやんわりと頷いた。うっとセイジが俯く。
「そうだよ。知らないんだよ」
 悪かったなと、開き直った様子で眉を寄せるセイジを見て、ランスは立ち上がってその腕を掴んだ。
「ちょっと座って休もうぜ、セイジ」
 木製ベンチまで導かれ、セイジは言われるまま座った。溜息が漏れる。
 その頭をぽふぽふとランスの大きな手が撫でた。
「流行に疎いのは薄々感じてはいたさ」
 思わずそんな呟きを漏らして。
(温かい……)
 じんわりと胸が熱くなるのを感じながら、セイジはランスの手に従うようにして、彼の肩に頭を乗せる。
「はい正解」
「え?」
「だから正解」
 セイジがランスを見上げると、彼はニッと微笑んだ。
『その通り、大正解ー!』
 セイジはパチパチと瞬きする。
「そ……そっか」
「セイジはさ、多分知らない事は恥ずかしいとか思ってんだろ」
 ランスは再びぽふぽふとセイジの髪を撫でた。
「恥ずかしい事じゃないぞ。知ってる奴に教えて貰えばいいんだ。俺は、セイジに頼られると嬉しいし?」
「……しかし……」
「仕方ないな頭でっかちは」
 ぐりぐり。
(不思議、だな……)
 ランスの言葉は、温かく心に響く。
「うん……ありがと」
 暫く休憩してから、二人は最後の関門へと向かった。

 最後のナゾナゾ『お姫様抱っこ』を見た瞬間、二人は同時に牽制し合っていた。
「これなら分かるぞ。仕方ない。運んでやろう」
 ランスを抱えようと距離を図るセイジ。
「姫役はゴメンだ」
 セイジを一気に抱え上げればこちらのものと、タイミングを伺うランス。
「「俺が運ぶ!」」
 二人の視線がぶつかり合う。
(先に動いた方が……ヤられる!)
(俺がパワーでは勝つが、奴の読みには敵わない。此処で負けちゃ、地位(?)が危ない!)
 じりじりじり。
「「勝負だ!!」」
 二人は同時に動いて、そして──。

 ランスは意気揚々とセイジをお姫様抱っこし、ゴールまで走ったのだった。

「負けた……」
「楽しんでるかい?」
 落ち込みながらワインを呑むセイジに、トールとラキが歩み寄ってくる。
「ご招待有難う……君達の趣向とは思えなかったのだが?」
「このお屋敷のご主人の趣味なんです」
 ラキがやんわりと苦笑いをした。トールが心配げに首を傾ける。
「楽しくなかったかい?」
「……結構楽しかった……かも」
 ぼそっと呟くセイジに、ランスが思わず笑い声を漏らした。
「口の横……欠片付いてる」
 セイジはそんなランスの口元に、指先で触れたのだった。

Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:アキ・セイジ
呼び名:セイジ
  名前:ヴェルトール・ランス
呼び名:ランス

 

名前:俊・ブルックス
呼び名:シュン
  名前:ネカット・グラキエス
呼び名:ネカ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月20日
出発日 12月26日 00:00
予定納品日 01月05日

参加者

会議室

  • [5]アキ・セイジ

    2014/12/25-20:00 

    アキ・セイジだ。相棒はウイズのランス。
    プランは提出できた。
    だがしかし。なんだか勝負の予感がする。

  • [4]信城いつき

    2014/12/24-20:41 

  • [3]俊・ブルックス

    2014/12/23-21:55 

    俊・ブルックスと相方のネカットだ。
    鳥飼たちは初めまして、今回もよろしくな。
    今年最後(多分)の任務がここでいいのか、俺…?

  • [2]鳥飼

    2014/12/23-10:42 

    俊さんと、ネカットさんは初めまして。
    皆さん、よろしくお願いしますね。(にっこり

    迷路に、ナゾナゾ。楽しみです。


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