【愛の鐘】サンタなんていない(寿ゆかり マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 カシャン、と音を立ててツリーの飾りが落ちた。いや、落とされた。
「ロイ!どうしてこんなことするの?」
 修道女が悲しそうに少年に近づく。
 ロイと呼ばれた少年は悪態を付きながら星の飾りを睨みつけた。
「サンタなんて、いねーよ!」
「……ロイ」
 彼の故郷はオーガに襲われ、この年の夏に壊滅。このタブロス郊外の小さな孤児院へと送られてきた。孤児院での、初めての冬。
「ロイちゃん、どしたの?」
 奥から少女が駆け寄ってくる。
「マリアは引っ込んでろよ!」
「どうしてそんなこというの、マリアは心配してくれたのよ」
「こいつんとこにはサンタってのは来るのかよ!」
「私は毎年来てるよ~」
 マリアはふにゃりと笑って星の飾りをツリーのてっぺんにのせた。
「ロイ、バッカだなー」
 ロイと同年代の少年が笑う。
「サンタってのは心から信じて、プレゼントをお願いしてくれないと来てくれないんだぞ!」
「だぞぉ」
「うっせんだよジャン、テオも後ろから顔だけ出してんなよ!」
「ひゃぁ怖い」
 ジャンの後ろから覗き込んでいたテオは幼いリンゴのようなほっぺをおさえて奥の部屋に走っていった。
「ジャンの言う通りよ、ロイ、あなたサンタさんにお手紙を書いてみたら?」
「えっ」
「願ってみて、きっと叶うわ」
「……いまさら……」
 そういいながらそっぽを向いたロイの瞳にはうっすらと涙が。

 数日後、修道女、Sr.リベラが目にしたのはロイの不器用な文字。
『とうさんと、かあさんにあいたいです』
 唇をかみしめ、Sr.リベラは俯く。
「……主よ、私は彼をどのように導けばいいのでしょう」
 彼女の涙を見ていたのは、燭台の小さな明かりだけだった。

解説

目的:【孤児院の子供たちにプレゼントを】
皆さんにはサンタのお手伝いとして、この孤児院にプレゼントを届けてもらいます。
夢見の塔で子供の名前を告げ、プレゼントを受け取るところからスタートです。
夢見の塔までの交通費としてお一組さま200Jr消費頂きます。

☆子供たちと希望のプレゼント
マリア(5才)純粋で優しい性格の少女。「くまちゃんがほしいです」
ジャン(6才)面倒見が良い「あたらしいぼうしがほしいです」
テオ(3才)ちび。ジャンにいつもくっついている。「おかしおたくさんたべたいな」
Sr.リベラ(21才)この孤児院出身。おっとりとした性格で、子供たちにいたずらをされてもめったに怒らない。「子供たちが楽しく、幸せなクリスマスを過ごせますように」
ロイ(6才)今年の夏にオーガの襲撃で両親を亡くしている。両親は村の裏口から彼を逃がし、“後で追いつく”と言ったが、オーガを足止め中にそのまま帰らぬ人となった。ロイは「後で追いつくって言ったのに」と、両親に対し怒りの気持ちも大きい。両親の死については誰も触れていないので彼自身確信しているわけではないが、心のどこかで分かっていて認められないでいる。「とうさんとかあさんにあいたいです」

 一組一台ずつ、二人乗りのソリが貸し出されます。孤児院まではトナカイがナビしてくれます。ソリでの空の旅の描写を頂けますと、リプレイに描写致します。掲示板で誰がどの人のプレゼントをくつしたに入れるか決めてくださいね。
 
リベラとロイは起きて一緒に皆さんのことを待っています。他の子のプレゼントを配り終えたら彼らにアプローチしましょう
*ヒント 
リベラの願いは子供たちが仲良く過ごせることですので、いつも口の悪いロイを諭してあげるのがいいかもしれません。
ロイの願いは、亡くなっている人なので会わせることは出来ません。彼が納得できるよう、両親の死と愛についてを伝えることが大切かも。


ゲームマスターより

せっかくのクリスマスなのに少し陰のあるお話です。
小さなロイに、真実を話すのかどうするのか。皆さん次第です。
子供たちに幸せなクリスマスをプレゼントしてくださいね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

高原 晃司(アイン=ストレイフ)

  俺もアインが居なかったら恐らくロイみてぇに…
いや…俺もアインに当たってたっけな…
同じ境遇のロイをなんとかしてあげてぇが
俺に出来る事か…

夢見の塔からプレゼントを受け取って
俺はロイにプレゼントを
そして親がどんな思いでロイを逃がしたのかを実体験を交えて伝えるぜ

「俺もな。オーガに両親を殺されてるんだ。しかも目の前でな」

遠い目をしながら語る

「きっとさ両親はお前の事を庇ってくれたんだな。自分達が死ぬの分かっててそれでもお前を安心させる為にさ…そしてお前に生きていてくれるように」

ロイの目を見て

「だからよ…そんな両親の思いを無駄にしちゃいけねぇんだ。お前は年長だろ?お前を守ってくれた分今度はお前が守るんだ」



羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
  夢見の塔でテオ君にプレゼントを渡すと告げ

ソリ走行中、見下ろす街の灯りを眩しそうに眺める
俺も小さい頃サンタさんに同じお願いをしていたんだ
貰ったお菓子を皆で分けて、一緒に食べるのが好きだったから

事も無げに言う彼がどこか寂しげに見えて
風を切る寒さを言い訳に傍へ寄り添う
…ラセルタさんは、今なら何をお願いする?

健やかな寝顔を確認しプレゼントを靴下の中へ
小さな赤いほっぺたに、どうかたくさんの幸せが訪れるようにと願い

アプローチ中はロイ君の側で静かに相槌入れて話を聞く
話が出来るなら、目線を合わせてゆっくり喋る
二人に会う事は出来ないけれど絆はきっと繋がっているよ
…繋がりのない人を、思い出す事は出来ないものだから


信城いつき(レーゲン)
  好奇心でソリをあちこち覗きこみ

メリークリスマス。よい子にプレゼント持ってきたよ
目が覚めたら驚いてくれるかな
(帽子を入れた靴下をジャンのすぐそばに置く)

※ロイへ
実はサンタの袋はプレゼントを運ぶ以外にも役目があるんだよ。子供達の辛い気持をこの袋に入れて持って帰るんだ
今胸の中にたまってる気持ちをこの袋に叫んでくれる?
大丈夫、誰も嫌いにならないよ
(そっと合図)リベラ何も言わないで。ただ抱きしめてあげて

※帰りの独白
俺がそうだったんだ。
自分の事もこれからの事も分からなくて、怖くて不安でたまらなかった時、レーゲンは俺が何を言っても静かに受け入れてくれた
味方がいるって分かれば辛いことも乗り越えられるよ、きっと



アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  孤児院か…
色々他人事じゃないので感情移入するなって方が無理
哀れむとかじゃなく自分の心が悼みを思い出すんだ…

●道中
ランスに任せてトナカイの旅
…そういえばランスは高い所は得意じゃなかったっけ
でも代わろとは言わず
「ランスだから任せられる」と笑う

●リベラに
お嬢さん、と花を渡しメリークリスマス
彼女の悩みや話を聞こう

…甘えたいから憎まれ口叩いちゃうんだよね

ロイ事情をPL情報からPC情報に聞き取り)
俺達が話してみるとリベラに約束)

リベラも弱い部分を見せて良いんだよ
子供達がいるさ

●ロイには正面から真実を話す
「男と男として、ロイに話すことがある」と


俺にとっての家族はランス
ランスが居るから俺は踏ん張れてるんだ…



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  マリアちゃんへ『くまちゃんのぬいぐるみ』を届けるぜ。

夢見の塔で貰ったくまちゃんは大きかった。
よく見れば、お腹がポーチになっている。
お腹を開けたら、小さなくまちゃんが4匹入っている作り。
だからくまちゃんは大きなぬいぐるみなのさ。
6歳の女の子なら両手で抱えないと持てそうにない。
こんな大きなぬいぐるみなら凄く喜んでもらえそう。

ロイには「早く寝ないと大きくなれないぞ」と言って場を和ませよう。
故郷や家族を失った事ではかけてあげられる言葉がないな。セイジさん達に任せる。
オレ、男は「女性を大切にすべし」なポリシーを持っているんだ。
だからロイには「女の子には優しくしてやれよ。泣かせちゃダメだぞ」とは言いたい。



「えーと、マリアちゃんは『くまちゃんのぬいぐるみ』です」
 希望を書いた紙を見ながら、セイリュー・グラシアは夢見の塔にて大きなクマのぬいぐるみを受け取る。その傍らで、精霊のラキア・ジェイドバインがほほ笑んだ。
「五才の女の子なら、両手でやっと持てるというところかな?」
「テオ君のプレゼントは……『おかし』それも、たくさん、だね」
 羽瀬川千代は受け取った大きなお菓子の袋を持って笑った。
「ほんとにたくさんだ」
 精霊のラセルタ=ブラドッツもそのサイズに目を見張り、笑った。
「ロイ、は……『とうさんとかあさんにあいたい』か……」
 高原晃司が少し切なそうな顔で告げると、その手には一枚のカードと花が渡された。カードは封筒に入っているので、中は見ることができない。
「……これは?」
 精霊のアイン=ストレイフが小さく首をかしげる。
 各々、プレゼントを受け取りソリに乗り込めば、冬の夜の寒さが身に染みる。自然と距離も近くなっていった。

「孤児院か……」
 ソリの上で、アキ・セイジが小さくつぶやいた。トナカイの手綱を持った精霊のヴェルトール・ランスがふと振り返る。
「色々他人事じゃないので感情移入するなって方が無理」
 黙って、ランスが頷く。
「哀れむとかじゃなく自分の心が悼みを思い出すんだ……」
 ぽつり、と零れたセイジの悲しみに、ランスは少しうつむいた。
「……」
「……あ、そういえばランスは高い所は得意じゃなかったっけ」
 気づけば町を小さく見下ろすソリ。ランスは苦笑いしながらセイジを見た。
「あんま下見ないようにする」
 ぷ、と笑ってセイジは返した。
「ランスだから任せられる」

 千代は、見下ろす町明かりを眩しそうに見つめていた。住宅街は静まり返っているが、都心部を見れば宝石箱をひっくり返したように煌めいている。真っ白な雪が淡いオレンジ色の街灯の光を優しく反射し、夜だというのにほんのりと地上は明るい。
「サンタの特権であろう聖夜の景色か、美しいな」
 ラセルタがほほ笑むと、千代も頷いた。
「俺も小さい頃サンタさんに同じお願いをしていたんだ。貰ったお菓子を皆で分けて、一緒に食べるのが好きだったから」
 テオ君もそうなのかな?なんていいながら抱えたお菓子の袋を見て擽ったそうに笑う。
「貰った物を独り占めにしない辺りが千代らしい」
「そうかな?」
 千代も、孤児院の出で、現在もそこの手伝いをしている。だから、今回の子供たちにはどこか親近感もあるだろう。
「俺様の元にもサンタや他の貴族から贈り物は山ほど来ていた」
「すごいね、山ほど?」
「……当時の物は全て失って、何も覚えていないがな」
 事も無げに言う彼がどこか寂しげに見えて、千代は少し距離を詰める。そっと寄り添いたくて。
「何だ」
「ふふ、寒いなって思って」
 身を切る寒さに真っ赤になった鼻と頬、そして包み込むような優しい穏やかな微笑。
(寒いのもあるのだろうが……)
 きっと、理由は別にあるのだろう。けれど、今はそんなことは追求せずに。
「もっと寄れ」
 肩を抱き寄せれば、千代がほぅっと白い息を吐いた。
「……ラセルタさんは、今なら何をお願いする?」
 その問いかけに、彼は即答する。
「今の俺様に願いなど必要ない」
 そうなんだ、そう返そうとしたときに、千代の肩に添えられたラセルタの腕に力がこもる。
「欲しい物は自分で手に入れる」
 絶対に、失わない、と言わんばかりに。

「空飛ぶそりって素敵だねぇ」
 ラキアはその長い髪を靡かせ、町明かりに目を細める。
「素敵な景色を見せてもらえて俺達もプレゼントを貰った気分」
「そうだな、サンタもプレゼントって貰ってるんだな」
セイリューは笑いながらもう一度腕の中の大きなくまを見つめる。
「ん?これ……」
よく見れば、くまの腹部がポーチになっている。
そっとポーチを開くと、中には小さなくまが4匹。
「なるほど、だから“おおきなくまちゃん”なのか」
ラキアも顔を綻ばせる。
「お腹の中の小熊達が孤児院の子供達のようだね。みんな仲良く過ごして欲しいね、これからもずっと」

「わぁー!すごい!きれいだな!」
 信城いつきは好奇心でいっぱいで、ソリから身を乗り出しあちらこちらを眺めている。 それを、精霊のレーゲンはひやひやしながら見ていた。
「いつき、楽しいのは分かるけど飛んでる最中はじっとしてて……」
「っひゃー!夢見の塔がもうあんなにちいさいっ!」
「だからソリから身を乗り出したら危ないっ」
 首根っこをつかんで戻さんという勢いのレーゲンにいつきはごめんごめん!と反省しているのかしていないのか……。

 孤児院に到着し、一同はリベラが開けておいた裏口からそろりと中へ入る。
「静かに行こうね」
 しー、と人差し指を唇に当て、レーゲンはいつきを諭した。いつきも小さくうなずく。すぐにジャンの部屋を見つけ、ゆっくりと入れば豪快な寝息を立てて少年が眠っていた。
「メリークリスマス。よい子にプレゼント持ってきたよ」
 聞こえないくらい小さな声で囁いて、いつきはジャンがほしがっていた帽子を靴下に入れる。そして、レーゲンをちら、と見て笑った。
「目が覚めたら驚いてくれるかな」
 レーゲンはほほ笑んで静かにうなずいた。
「帽子喜んでくれるといいけど……」
 その時、なかなかに豪快な寝相のせいではみ出した手足がレーゲンの眼の端に映る。これでは冷えてしまう、とレーゲンは優しくその手足を毛布の中に隠してやった。
「あったかくしてね」
 千代とラセルタはジャンと同室のテオのもとへ。靴下に入りきらないお菓子の袋に靴下を軽くかぶせてテオの顔を覗き込んだ。
「むにゅ。さん、たしゃん」
 気づかれた?と思ったが、寝言のようで。テオはそのままむにゅむにゅ言いながら寝返りをうつ。その林檎のようなふにふにした小さなほっぺたに、たくさんの幸福が訪れるようにと願い、千代達は部屋を後にした。
 マリアの部屋でセイリューが途方に暮れる。
「入らないぞ……これ」
「ちょっと貸して」
 ラキアがくまを受け取り、くまの腕を靴下にぎゅうぎゅうと詰める。
「これでよし」
 さわやかな笑みを浮かべたラキアの傍らには、おおきなくまちゃんが右腕だけちょうど手袋のように靴下に突っ込んでいる光景が。
「お、おう」
 優しいマリアのことだ。目が覚めたら“もう片方のおててにも靴下!”なんていうのだろう。
 ロイの部屋に入った晃司はその姿を探すが、ベッドはもぬけの殻。やはり、というかなんというか。アインが優しくその肩を叩く。
「俺もアインが居なかったら恐らくロイみてぇに……」
 ん、と首をかしげると、晃司は複雑そうな表情で続けた。
「いや……俺もアインに当たってたっけな……同じ境遇のロイをなんとかしてあげてぇが」
 ちいさく、ため息をついた。
「俺に出来る事か……」
 そっと晃司の背中を押し、アインは部屋を出た。
「……会いに行きましょう、ロイに」
 晃司が静かに、けれど確かに大きくうなずく。
(……晃司は自分と重ねてしまうのですね……ロイと。私は晃司を見守っていましょう)
 アインは、そんな晃司の背中に小さなエールを送った。

 一方、暖炉の火が灯ったままのリビングではリベラとロイが何やら話していた。
「ロイ、そろそろ寝ないと」
 時刻はもう、11時を回ったところだ。
「なんだよ、ほんとはサンタなんて来ないからそんなこというんだろ!」
 テーブルの上に置かれたクッキーを不貞腐れた目で見ながら、ロイは少し高い椅子から足をぷらぷらさせている。その時、何者かが扉をノックするのが聞こえた。
「あっ」
 リベラが走り寄り扉を開けると、そこには花束を抱えたセイジの姿が。
「はい、お嬢さん。メリークリスマス」
 続いて一同がぞろぞろと部屋の中に。ロイは驚きに目を丸くする。
「こ、こいつらが、サンタ?」
「一度にサンタが十人も出てきて驚いたかな?」
 ごめんね、とレーゲンが目線を合わせてほほ笑むと、ロイは固まって動けないようだった。
(威圧しないように、あとは一歩下がって見守ろう)
 レーゲンはすっと後ろに下がり、いつきや晃司たちに前に出るよう促す。
「リベラさん、悩んでいることがおありですか?」
 優しいセイジの問いかけに、リベラはポツリポツリと語りだす。
「……悩み、というか。この孤児院の子供たちは、みなオーガに襲われた村の出で、家族や身寄りがないんです。……私も」
 ロイをちら、と見やると、晃司に悪態をついている。
「なんだよ!とうさんとかあさん、いないじゃんか」
「……っ」
 晃司の手からプレゼントの花とカードを奪い取り、鼻を鳴らす。
「俺は!カードと花なんて欲しいって言ってないぜ!」
 リベラは悲しそうな目でロイから視線をセイジに戻す。
「……甘えたいから憎まれ口叩いちゃうんだよね」
 小さな声でリベラに告げれば、リベラも頷く。
「私も……幼くしてオーガに両親を殺められ、この孤児院にやってきました。けれど、皆暖かく迎え入れてくれたから……でも、ロイは受け入れられないのでしょう。お前たちは本当の家族ではない、と……」
 ラセルタがそっとリベラに寄り添い、口を開いた。その他者の幸せ願う姿が千代と重なり、放っておけない。
「伝えたい事があるのならば己の言葉で伝えるべきだ。神やサンタよりも側に居たお前の方が良く分かっている筈」
 ハッとした顔でリベラが顔を上げる。先ほどまで祈るように組んでいた手のひらを解き、何かを決意したように頷いた。
「……俺もな。オーガに両親を殺されてるんだ。しかも目の前でな」
 晃司が、ロイにゆっくりと語り始めた。どこか、遠くを見るようにして。
「……っな」
 両親が亡くなっているという事実が、ぼんやりしたものから確信へと変わる。
「きっとさ、両親はお前の事を庇ってくれたんだな。自分達が死ぬの分かっててそれでもお前を安心させる為にさ……そしてお前に生きていてくれるように」
 ロイが手元のカードを取り出し、その文字を見る。ロイの生家の住所が綴ってあった。
「これ、は」
 ロイが戸惑いながらそれを晃司に差し出す。晃司は受け取り、ロイとしっかり目を合わせた。
「だからよ……そんな両親の思いを無駄にしちゃいけねぇんだ。お前は年長だろ?お前を守ってくれた分今度はお前が守るんだ」
 キュッと唇をかみしめるロイを見つめて、晃司はカードに目をやった。
 ランスが、そのカードを見て声を上げる。
「……今から、いってくる……!」
 セイジの手を取り、扉へ向かって駆け出した。
「えっ、あのっ、ウィンクルムさん!?」
 リベラの慌てる声をよそに、ランスはソリに飛び乗った。
(もうひとっ走り、頼むぞ!)
 トナカイが、夜の森を駆け出す。
 ロイは、よくわからないといった顔で手に残った花の茎をもってくるくると回した。小さな唇が尖っている。
「すいませんね……あんな言い方で」
 大きな体を屈めてアインがロイの傍に近づく。びくっとしてロイがこちらを見た。
「でも晃司も貴方と同じで昔大切な人達を失ったのです。その時は……見てて痛々しい程に荒れてました。全てに絶望してました。自分が両親を殺したなんて言ってましたね」
 ロイの心の奥に突き刺さる。
「なんだよ、兄ちゃんも、か。……そうだよ、とうさんもかあさんも、俺のせいで死んだんだ」
 アインがゆっくりと首を横に振る。
「違いますよ。……さて……難しい話をしてしまって申し訳ありませんでした。ですが晃司が言った言葉……ちょっとでも考えて頂けたら幸いです」
 ロイは考え込むに考えられず、眉間にしわを寄せている。リベラがそっと寄り添った。
「そんな風に思っていたのね、ロイ」
「リベラ……」
「……ウィンクルムの方々の言うとおりです。あなたのせいじゃないわ、ロイ」
「……っ、でも、俺をかばったんだよ!俺のせいだ……!俺のせいだ!」
 混乱したロイは噛みつくように涙をこらえながらリベラに吼える。
「……ロイ」
 そのとき、いつきがプレゼントの袋を差し出した。
「ロイ、実はサンタの袋はプレゼントを運ぶ以外にも役目があるんだよ」
 そっとロイの前に屈み、その袋を手渡す。
「子供達の辛い気持をこの袋に入れて持って帰るんだ。今胸の中にたまってる気持ちをこの袋に叫んでくれる?……大丈夫、誰も嫌いにならないよ」
 ロイはそんなもの、とでも言いたげな顔をしたが、すぐに苦しそうに顔を歪めた。
そして、涙を隠すように袋の中に顔をつっこんで、叫ぶ。
「俺のせいで……とうさん、かあさん、ごめんなさい。会いたい。とうさん……かあさん……っ。リベラも、ごめん!いきなり全部なくなって、どうしていいかわかんないよ!優しくされても、かあさんじゃ、ないから!ごめんなさい……」
嗚咽交じりに、ごめんなさいと繰り返すロイは誰が見ても痛々しくて。そのちいさな体に背負った悲しみはあまりに大きくて。リベラは差し伸べかけた手をロイに触れられず、胸の前できゅっと握りしめた。
(この子の重荷に気付いてやれないなんて)
 私は何の役にも立っていなかった。とリベラはうつむく。そんなリベラの背を、いつきが押した。
(リベラ何も言わないで。ただ抱きしめてあげて)
 静かにリベラはロイの背中からぎゅっと抱きしめる。幼い体温が高潮したために上がっている。あつい。優しく頭を撫でれば、ロイは悲痛な叫びから小さくしゃくるような涙に変わる。
「ごめんね、リベラ、ごめん、……ごめんね」
 袋に顔を突っ込んだまま、リベラに謝罪するロイに、リベラは首を横に振って優しく語りかけた。
「ううん、……私こそ、ごめんね、ロイ」
 やっと袋から顔をだし、ロイは涙で汚れた顔をリベラの胸に埋める。

 その時、部屋の扉が開いた。
「あったぜ!」
 ランスが息を切らせてロイの前に差し出したのは、小さなロケットだった。
「……これ、かあさん、の」
 そっと受け取り、開いてみるとそこには三人家族の写真。
「……去年の、冬の、だ」
 村のクリスマスツリーの前で、みんなで撮ってもらった写真。幸せそうな笑顔がそこにはあった。
「天国があるかは分からない、けどご両親の願いは分かるぜ。それはロイが幸せである事だ」
 いつまでもこの笑顔を絶やさないでほしいって思って、肌身離さずこのロケットを持っていたのだとランスは考える。
「……でも、悲しくて……すぐにはこんな風に笑えないよ」
 ロイは瞳いっぱいに涙を浮かべてロケットを握りしめる。
「俺もロイと同じでさ……悲しいし辛いよ」
 セイジがそっと口を開いた。
「気持ちが溢れそうになる事もある。そしたら心の中の両親に話しかけるかな」
 ロイはロケットを見つめながら、何かを考え始めた。
(心の、中の?)
「それと、今の家族に少し甘える。大切な人が居れば、居るから……踏ん張れるんだ」
 セイジはランスに視線をやって微笑みかけた。
(俺にとっての家族はランス。ランスが居るから俺は踏ん張れてるんだ……)
 ランスはそこに秘めた気持ちを感じ、頷いた。
(……セイジは、強いな)
 ロイはふと顔を上げてリベラを見つめる。リベラが優しくほほ笑んだ。
「ロイにも家族が居るだろ。シスターと弟妹達がな」
 ランスがぽんぽんとロイのくせっけを撫でると、ロイは小さくうなずく。
「うん……そうだね」
 そして、セイジはリベラにも優しく語りかける。
「リベラも弱い部分を見せて良いんだよ。子供達がいるさ」
 リベラは胸がいっぱいになって眉を寄せ涙を零す。ありがとう、と頭を下げてそれからもう一度優しく微笑めば、リベラの涙をロイの小さな指がそっと拭った。

 千代は、屈んで目線を合わせ、ゆっくりと話し始めた。
「二人に会う事は出来ないけれど絆はきっと繋がっているよ……繋がりのない人を、思い出す事は出来ないものだから」
 晃司があ。と声を上げる。
「その花……」
 ロケットを覗き込むと、母親の髪飾りの花と同じだった。
「お前のかあさんが好きだった花、なのか?」
「……あっ」
 ロイの中に記憶がよみがえる。
 遠くで優しい声がする。
―ロイ、プランターのお花に水を上げてくれる?
―うん!……もうすぐ、咲くかな?
―そうね。もうすぐね……。
 毎年、そんなやり取りをしていたっけ。
「ピンクの、マーガレット……」
 リベラが小さくつぶやいた。
「花言葉は、“真実の愛”お母様は、きっとそれをサンタさんを通して伝えたかったんじゃないかしら?」
 ロイの瞳から涙がこぼれる。大きくうなずけば、ふたつ、みっつと落ちるのを競うように次から次へと。
「どんな人の所にもサンタは来るよ」
 ラキアがほほ笑みかけた。
「プレゼントは、嬉しい物ばかりとも限らないけどね」
「さっきはあんなこといってごめんなさい。……いまは、とっても嬉しい」
 ロイがようやく笑顔を見せた。
「うん、よかった。……今まで出会えた人やこれから出会う人を大切にしていってね」
 ロイは、素直にうなずく。
「みなさん、ありがとうございました」
 リベラが深々と頭を下げる。一同はにっこり笑って部屋を後にした。
「早く寝ないと大きくなれないぞ」
 セイリューの一言に、ロイは大きくうなずく。
「うん!ありがとう、兄ちゃんたち!」
 あ、とセイリューは付け足した。
「オレ、男は「女性を大切にすべし」なポリシーを持っているんだ」
 ん?とロイが首をかしげる。びし、と人差し指を向けてセイリューは笑った。
「女の子には優しくしてやれよ。泣かせちゃダメだぞ」
(マリアと、リベラのことかな……いつもきついことばっかいってたもんな)
 ロイはちょっぴり反省する。
「わかった!もっと優しくする!」
 リベラはくすくすと笑いながらロイを部屋へと促した。

「ねぇ、リベラ」
 ベッドにもぐりこんだロイの枕元には花瓶にピンクのマーガレット。
「……俺、強くなりたい」
「強く……?」
 リベラの瞳が不安に揺れる。
「あ、違うよ。戦いたいとか、そういうんじゃないよ。……優しく、なるんだ」
 ロイの目が伏せられる。
「兄ちゃんたちの言うとおり、俺は強くなんなきゃ。弱いからあんな言い方ばっかしてさ。……ごめんね」
「……ロイ。ありがとう」
「ん?」
「ひとりぼっちに、ならないでね」
「うん」
 ぎゅっとリベラの手を握り、そしておやすみを告げる。次の日の朝はきっと、たのしいクリスマスパーティーが待っている。

 帰り道、いつきがおもむろに切り出した。
「俺がそうだったんだ。……自分の事もこれからの事も分からなくて、怖くて不安でたまらなかった時、レーゲンは俺が何を言っても静かに受け入れてくれた」
 皆のソリが空を翔ける中、手綱を握りながらいつきは思いをたどるように。
「味方がいるって分かれば辛いことも乗り越えられるよ、きっと」
 振り返って微笑むいつきに、レーゲンも胸がいっぱいになる。
(あの頃、自分の無力さを感じてたけど、それでもいつきの力になれてたのなら良かった)
「もう少しゆっくり飛んで帰ろうか……」
 そっと、手綱を交代する。と、いつきがまた身を乗り出して地上を眺め始めた。
「あ!あそこのツリーおっきい!!」
「だからじっとしてて!」

 各々のクリスマスは更けていく。クリスマスが終わっても、きっと確かめ合った絆は続く。その確信を持ちながら。



依頼結果:大成功
MVP
名前:信城いつき
呼び名:いつき
  名前:レーゲン
呼び名:レーゲン

 

名前:アキ・セイジ
呼び名:セイジ
  名前:ヴェルトール・ランス
呼び名:ランス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 寿ゆかり
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月17日
出発日 12月23日 00:00
予定納品日 01月02日

参加者

会議室

  • プランは提出で来ているぜ。
    あとは上手くいくよう祈るばかり。
    いい結果になりますように。

    相談諸々、皆さんお疲れさまでした。

  • [10]アキ・セイジ

    2014/12/22-20:15 

    分担が決まったな。
    じゃあ俺も背後に書くよう言ってくる。書き終わるまで背後は寝るなよ。

  • [9]高原 晃司

    2014/12/22-01:54 

    うお!セイジすまねぇ!!ここはあまえさせてもらうぜ
    そんじゃあプランの基本骨子書いて夜あたりに肉付けするぜ

  • [8]信城いつき

    2014/12/21-20:17 

    >組み合わせ
    セイジの案で了解だよ。
    子供達へ渡す際漏れがないよう、空いたところがあればそこに入ろうと思ったんで。
    困惑させてごめん、それじゃあ俺はジャンでいくね。

  • [7]アキ・セイジ

    2014/12/21-16:03 

    締切が明日の深夜になったが、現状の希望はこんな感じになっている。

    マリア ← セイリュー・グラシア
    ジャン ← 信城いつき
    テオ  ← 羽瀬川 千代、 信城いつき
    リベラ ← 信城いつき
    ロイ  ← アキ・セイジ、 高原 晃司

    信城さんが複数挙げているのと、ロイに2人希望者がいるために、まだ決まっていない状態だ。
    どうしたもんかね(苦笑

    マリアのセイリューはキマリで良いだろ。

    問題は残りだ。

    俺がロイから他の人に担当を変える事で、高原さんにロイ担当を譲るとしても、
    行き先に全部信城さんの名前があって移動できないという…まあ、現状はそんな感じだよな。

    で、だ。
    「ロイに複数ならテオかジャンに行ってもいいよ」という提案が信城さんからあったので、
    「信城さんがジャン」、「俺がリベラ」、「高原さんがロイ」というのはどうだろうか
    信城さんさえよければ…ということになるのだが…

  • [6]羽瀬川 千代

    2014/12/20-19:51 

    ご挨拶が遅くなりました、羽瀬川千代とパートナーのラセルタさんです。
    皆様宜しくお願い致します。

    俺はテオ君にプレゼントをしようかと。
    お二人にアプローチ中は話の腰を折らないようクッション役になれればと思います。

  • [5]信城いつき

    2014/12/20-15:08 

    ごめん追加で書込み。
    ロイのプレゼントが何人で渡すのかが不明だけど
    ロイに複数で渡すのなら、俺はジャンとテオのどちらかに変更でも大丈夫だよー

  • [4]信城いつき

    2014/12/20-12:44 

    みんなメリークリスマス!信城いつきと相棒のレーゲンだよ。
    俺はリベラにプレゼントしようかな。
    プレゼントの希望欄が「物」ではないので、夢見の塔で何がもらえるか不明だけど
    プランに書いたら少しは反映されるかな?

    その後、みんなでリベラとロイにアプローチする際俺たちは、ロイの心の中にため込んでる気持ちを一度はき出させる方で動こうかなと思ってる。諭したり伝えたりするのは他の人にお願いになりそう。

  • セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
    今回もヨロシク。

    オレ達はマリアちゃんへ
    くまちゃんを届けるつもりだぜ。

  • [2]高原 晃司

    2014/12/20-02:31 

    おっす!高原晃司だよろしくな。

    俺もロイにプレゼントを上げたいんだけどな…
    これって流石に複数はいけねぇんかな?
    俺もガキの頃に殺されたっていう過去があるし
    アインがいなかったら多分ロイと同じ境遇になってたんじゃねぇかなって思うとな…
    他にもロイにプレゼントしてぇって奴もいるんじゃねぇかな?

    なんていうか解説みるとロイとリベラは別口な気もするしな

  • [1]アキ・セイジ

    2014/12/20-01:07 

    アキ・セイジだ。相棒はウイズのランス。よろしくな。

    誰が誰のプレゼントを入れるか相談して欲しいとの記述が有るので、希望を書いておくよ。
    俺はロイの担当を希望する。
    両親をオーガに殺害されたという共通項がある相手なので放置して置けないのだ。
    プレゼントを渡して、それから、彼と話がしたいと思っている。
    …うまくロイの気持ちをくんでやれるかは…わからないが。頑張ってみたい。


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