CLUB『A.R.O.A.』(木乃 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

女性神人に募集がかかったミラクル・トラベル・カンパニーからのイベント広報が出ていた。
しかしそれは詳細説明のための集合場所と時間しか書かれておらず、
とても胡散臭いモノであった。
しかし、そういう胡散臭いモノに惹かれてしまうのも人の性ではないだろうか。
***
「はぁ~い☆神人の皆さん、お集まりいただいて光栄よぉ♪」
集合場所に集まった神人を待っていたのは端正な顔立ちのミラクル・トラベル・カンパニーの男性社員であった。
しかし壮絶なまでの違和感とガッカリ感をもよおす、あの口調はなんだろうか。
180度後ろを向いて神人達は即座に帰ろうとした。
「ちょっとぉ!まだなんにも説明してないでしょ!?話くらい聞いてちょうだい!!」
オネエ職員は懸命の説得で神人達をなんとかその場に留めることに成功した。
***
「もうっ、折角楽しい企画を用意したのに帰っちゃうなんて……勿体無いわよ?」
妙にかわいこぶってぷりぷり怒る態度に心なしかイラっときたが
そこは置いておくことにしよう。
「それで、この胡散臭いイベントはなんですか?」
「超シークレットに用意したらこうなっちゃったのよぉ、今から教えてあ・げ・る☆」
……やっぱりイラっとするが、聞くまで抑えておくことにしよう。ガンバレ、自分。
「今回はキャバクラ体験のイベントを開催しようと思うわー、
それで女性神人には『夜の蝶』に変身してパートナー達を接客しちゃおうってイベントよ♪」
「「キャ、キャバクラぁ!?」」
どうしても不健全なイメージがある者には抵抗感を感じてしまうだろう。
集合していた神人の中には未成年者も混じっていた。

「あぁん、あくまで『体験』よ?ゴージャスな雰囲気をまとって楽しく過ごして欲しいのよー……
あ、未成年の子にはソフトドリンク用意してあげるからね、お酒は二十歳になってから☆」
社員は茶目っ気たっぷりにウィンクをばちこーん☆と飛ばした。
「で、でもそんなゴージャスでセクシーな格好なんて持ってないし……」
「衣装や小道具はこっちで用意させてもらうから大丈夫よー、あるなら自前を用意してもらっても全然構わないし」
不安げな神人に対して社員がすかさずフォローする。
「場所はタブロス市内にあるナイトクラブだった場所を貸してもらったわー、
お魚さんはいないけどケージ内の水に溢れる泡が印象的でかなりスタイリッシュな内装よ」
仕切りの観葉植物以外、内壁はアクアリウムとなっていてテーブルとソファは白で統一。
壁面のアクアリウムから溢れる光とミラーボールが近未来的でムーディな印象だという。
「未成年の子でも楽しめるようにソフトドリンクの他にお料理やカラオケも用意させてもらうわ。
お料理もちょっと高くなるけどオリジナルを頼めるからパートナーと一緒に楽しめるわよー」
カラオケも専用ステージでラブソングとか……キャー!と勝手に盛り上がり出す職員。
仕草が女性的なので余計に腹が立つが、企画は斬新で興味深かった。
先程まで怪訝そうな顔をしていた神人達も興味津々で話に耳を傾けている。
「シートは基本別々になってもらうわー、マンツーマンってやつ。
ダブルデートっぽく相席する場合は相談してみてね?」
職員はため息混じりになりつつ話を続ける。

「いいこと?何故キャバクラ嬢が『夜の蝶』と呼ぶのか……
煌びやかなネオンの中を堂々と立ち振る舞う優雅な姿を喩えているのよ……
詩的で素敵じゃない?」
うっとりした表情で社員は語る、おそらく着飾った神人達の姿を想像しているのだろう。
「当日の流れなんだけど神人達は綺麗におめかしして準備を済ませて、
後から招待状で指定した時間に来る精霊達をサプライズでお出迎えってことになるわー。
とびっきり驚かせてやりましょ!」
楽しげに説明を続ける職員を見て、徐々に神人達もイメージが膨らんできて
ワクワクした気持ちが湧いてきた。

あの人は、私の姿を見てどんな反応をするだろうか?
あの人は、優雅に変身した私にドキドキしてくれるだろうか?
あの人は、『夜の蝶』となった私に見惚れるだろうか?

あの人は……胸に秘めたこの気持ちを、受け止めてくれるだろうか?

神人達は、自身が変身するイメージにワクワクとドキドキが入り混じる。
「当日はそれっぽく店内写真も用意させてもらうけどお持ち帰りはさせてあげられないわぁ、ごめんね」

その代わり、忘れられないイベントにしてあげるから目一杯楽しんでね☆
と職員は告げた。
こうしてシークレットイベント『CLUB『A.R.O.A.』』の開催が告げられた。


……神人達は、一夜限りの『夜の蝶』となる。

解説

キャバクラ体験、例によってナイトタイムです。
描写は精霊が来店した所からスタート!

衣装はゴスロリ、着物、チャイナ、スーツなんでもござれ!
コスプレもOKですが版権モノの衣装は、取り仕切る担当職員が類似の衣装とすり替えます。
ヘアメイクにスタッフが来てますので、プランでご指定頂けます。

成人ウィンクルムなら一緒にお酒を楽しむもよし、
酔った精霊を介抱するもよし、介抱されるもよし!

未成年ウィンクルムはソフトドリンクになりますが、
デザートや料理も用意されています。
カラオケなんかもあります。

【メニュー表】
アルコール類:
50Jr(ビール、焼酎、ハイボールなど)
60Jr(カクテル、日本酒、ワインなど)
70Jr(ウィスキー、バーボンなど)

ソフトドリンク:
無料(ミネラルウォーター、炭酸水)
30Jr(烏龍茶、コーラ、オレンジジュースなど)

料理(2人前):
50Jr/ポテトフライ山盛り、サラミとチーズの盛り合わせ
60Jr/パスタ系、3種の唐揚げ(鶏、タコ、イカ)、刺身盛り合わせ

デザート:
30Jr/アイス、プリン、クッキー盛り合わせ
40Jr/ワッフル、ケーキ、タルト
50Jr/特製パフェ

80Jr/秘密のオススメ(オリジナル料理orデザートをスタッフに作ってもらえます)

その他:
20Jr:カラオケ5曲(専用ステージあります(歌詞はオリジナルでお願いします!))

『注意事項』
・未成年者の飲酒・喫煙は不採用とさせて頂きます。
(外見年齢が20歳未満も同様です、ご了承下さい)
・衣装が『版権に抵触する』と判断した場合、やんわり変更致します。
(考慮は致しますが、大幅な変更を伴う可能性もあります)
・カラオケを行う場合、『歌詞はオリジナル』でお願いします。
(こういう感じの歌を歌った、というイメージでもOK)

・神人と精霊の関係性はまだ深くないです。
無礼講が行き過ぎると精霊も心配です(色んな意味で)、エレガントな振舞いでお願いします!

ゲームマスターより

レッツパーリィィィ!! 木乃です。

一昔前に比べてかなり地位向上してますよね、専門雑誌とか出たり。
綺麗な花には刺がありますが、それすら魅力にしてしまうのかと思うとカッコイイです。

今回も例によって未成年の飲酒・喫煙は描写カットです!
外見年齢が20歳未満も同様とさせて頂きます、えらい人とのお約束ですよー。
未成年が成人のお酌するのはOKとさせて頂きます。
飲んだらNG、注ぐのはOK。

成人には成人の、未成年には未成年の楽しみ方を用意させて頂きました。
良識の範疇から外れないようにお願い申し上げます。

台詞などを記入して頂きましたら反映する場合もございます。
ぜひ盛り込んでください。

それでは皆様のご参加、楽しみにお待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)

  翡翠さんとお酒を飲むのは、今日が初めてなんです……。
「酒豪」な上、私よりたくさんお酒を飲んでいますし、そんな精霊にお酌をするなんて神聖な儀式……。
でも、今夜は翡翠さんに楽しんでほしいです。

当日はフルアップの夜会巻きに、胸元と背中が大きく開いたイブニングドレス。銀の5cmヒールを履きます。

お水が届いたら、トランプで大富豪勝負です。
私に勝てたら、翡翠さんの好きなお酒、全部注文できますよ?
支払いは全部私が持ちますから、エチケット袋持って、器みたいに開いて準備して下さいね?

酔ってしまったら一緒に帰りますよ?介抱しますからね。

注文:刺身の盛り合わせ、お冷(2人分)
持ち物:ハンカチ、トランプ、エチケット袋



油屋。(サマエル)
  メイク?分かんないしスタッフさんにお任せ
青のミニドレスかわいい!これにしよ♪
今日ぐらいはまともに話がしたいな
言い合いにならないように努力して…
テメェ何撮ってんだコラァ!

うぅ 今更恥ずかしくなってきた……

何か頼もうよ
コーラとポテト、それからプリン!
子供っぽい?ほっとけ!

お酒注いだ方が良いよね? 
ささ ぐぃーっと 一杯!
え 違うの?へーコーラ入れると美味しいんだ?
ってそれアタシのヤツだろ!良いもん炭酸水飲むし…

はっ 奴のペースに乗りっぱなしじゃねぇか!
コホン、なぁサマエル その、今日は普段のお礼がしたくてさ。いつもありがとな。アタシまだ頼りないかもしれないけどこれから一生懸命頑張るから!



ハンナ・ノイエンドルフ(アーベル・シュナウファー)
  ・心情
誰よりも強くなるために戦い続けて、女らしさなど微塵も無い私が一夜限りとはいえ夜の蝶とはな…。
この際だからお酒の力を借りて、アーベルともっと親密な関係になれれば良いな。

・行動
まずは、二人だけで落ち着ける席に座ろう。あまり邪魔はされたくないからな。
それから、面倒くさがり屋のアーベルが何故この店に来ようと思ったのか聞いてみよう。
自然な流れで酒を飲ませて、自分も飲んでしまおう。普段はなかなか言えない素直な気持ちを言葉に出来そうだ。
しかし、私はアーベルと違ってあまり酒には強くないんだよな。そのことだけが心配だが、まあ何とかなるだろう。


田口 伊津美(ナハト)
  (契約していない神人も参加可能なら伊津美で新人アイドルの仕事として、契約していないと不可ならメガネかけて結寿音として参加)

【心情】
なんということでしょう…
いくら雑誌の特集するからってキャバ嬢とか…ヤダー
仕事を選んでいられないのが新人アイドルの定ってやつですか
一応これも仕事だ、やるしかないかぁ

【行動】
ドレスはピンクを主体に可愛らしく
いらっしゃいませご主人様!
これ違う接客業だ!

お客さんと自分の財布がつながってるキャバなんてキャバじゃないよぉ、もっと絞りたいのに…
ごほん、お水いかがですか!炭酸水もありますよ!

ナハト、極力お金使いたくないのでタダで我慢してね❤

キャバ嬢の大変さがわかりました><



クロス(オルクス)
  心情:パートナーとなって日が浅いので、もっと彼の事を知りたいと思ったから。

目的:少しでも仲良くなりたい。いつかは自然と寄り添って支えたいと考えている。

衣装:淡い青系のドレス。ホントの夜の蝶に見間違える程。

行動:オルクスが注文してくれたのだが、緊張で言葉が出ない。男物しか着た事がないので変じゃないか不安であったが、オルクスが緊張を解す為色々質問したり自分の事を話してくれた。徐々に緊張がほぐれ酒のせいか気付くと自分の過去を話していた。今はオルクス達と出逢えたので幸せだと語ると、突然抱きしめられた。顔が真っ赤になりされるがまま。数分固まるも直ぐに立て直し残りの時間を楽しむ。カラオケでデュエットする。



◆招待状
5人の精霊の元に招待状が届いた。

『今宵、貴方を花園へご招待いたします、一夜限りの蝶がもてなします』

招待状を受け取った精霊達は真相を確かめるべく指定された場所の前に集まった。
お互いの顔を見合わせた後、招待状に書かれていた場所である事を確認して地下の階段を進んでいく。
進んだ先には、脇に白い鉄のドアがあった。意を決して入ってみると……

目の前の壁には5人の女性の写真、そして全員……その女性達に見覚えがあった。
「あら、いらっしゃい!!お待ちしてたわ、さぁ入って♪」
横から声をかけてきたオネエマンに促され、通路を通ると写真の女性達が並んでいた。
「「いらっしゃいませ、CLUB『A.R.O.A.』へようこそ」」
ある者は目を見開き、またある者は顔をニヤつかせ、またある者は凝視していた。

これよりCLUB『A.R.O.A.』、一夜の蝶が集いここに開店いたします。

◆勇猛な蝶と怠惰な精霊
ハンナ・ノイエンドルフとアーベル・シュナウファーは隅の席……カラオケステージから最も遠い一角を席に選んだ。
なるべく落ち着いた席で二人きりで話をしたいと考えたハンナの意図によるものだ。
店内のクラブ系ミュージックは聞こえるものの、隅の席とあって同じ壁際の席よりも
アクアリウムの淡い水色の光が入り込みやすく非常に落ち着いた雰囲気となっていた。

アーベルはハンナの姿を物珍しそうにまじまじと見つめていた。
ハンナはロングドレスに細身のロングショールを合わせたクールな色気を感じる装いだ。
スリットから覗いて見える太ももから爪先までの均等のとれたラインが、思わず目を引く
(女らしさなど微塵もない私が、一夜限りとはいえ夜の蝶になるとはな……)

ウェイターが注文を受けその場を離れていったとき、ハンナはアーベルの視線に気づいた。
「どうした?」
「普段はあんまり意識しないけど、ハンナって結構スタイルいいね。そういうドレスもよく似合ってるよ」
アーベルはハンナのドレス姿をまじまじと見続け、無邪気に笑顔を浮かべる。
170を超える長身に、鍛えられて程よく引き締まった躯は確かに外国人モデルを彷彿とさせる。
「そうか?……まぁ、悪い気はしないかな」
ハンナは頬を赤く染めて目を逸らす、アクアリウムの逆光を浴びているためアーベルは気づいていないだろう。

そこにウェイターがタイミングよく飲み物を持ってくる。
持ってきたのはウィスキーグラスに入った琥珀色の炭酸水と、オレンジ色の夕焼けを彷彿とするドリンクだ。
「メニューから適当に選んでみた、乾杯しよう」
「じゃあ、一夜の蝶に……乾杯」
ハンナはオレンジ色の、アーベルは琥珀色の飲み物を手にとってお互いのグラスを軽くぶつける。
チンと小気味よい音が二人の間に響く。

「アーベルは平気で恥ずかしいことを言うな……ごく」
「……!?ハンナ、これハイボールじゃ」
一口飲んだアーベルは琥珀色の飲み物がお酒だと気づいてハンナに目を向ける、
ハンナも既にオレンジ色の飲み物に口をつけていた。
「まさか……なぁ、ウェイター。さっき持ってきた飲み物はなんだ?」
アーベルは嫌な予感がして注文を受けたウェイターを呼びつける。
「お持ちしたのはハイボールと、テキーラサンライズです。ハンナさんがメニューを見ながら頼まれていましたが……?」
どうやらハンナはジュースのような見た目でアルコール度数が高いカクテルを選んでしまったようだ。
しかも、テキーラはアルコール度数が高く無色透明で匂いもそこまでキツくないので気づきにくい。
一口飲んで既にほろ酔い状態となってしまったのか、頬を赤らめてぼんやりとしている。
「解った、水を一杯持ってきて欲しいかな……ハンナも大丈夫?」
「うむ……アーベル、私は」
酔って体を支えきれなくなったハンナがアーベルの肩に寄りかかる、
「私は、アーベルを頼りにしているからな……傍にいてくれて、とても感謝している。これからも、支えてくれるか……?」
「ハンナ」
弱々しく呟く姿は、どこか儚げで人前では絶対に見せることがない不安げな表情を浮かべていた。
「俺は」
「……すぅ」
アーベルも真剣に応えようとするが、ハンナは既に酔いつぶれて眠ってしまっていた。
「ハハ……これじゃあ、いつもと逆だよ……たまにはいいよね?」
思わず笑みを浮かべたアーベルは、ハンナを無理に起こさず酔いが醒めるまで肩に寄りかからせたまま起きるのをずっと待つのだった。

◆チョイ悪な蝶とドSな精霊
油屋。(本名:虚戯早瀬)は気合を入れて用意した。
年頃の少女ながら自分で選んだ青いミニドレスに似合う化粧がわからず、スタイリストに選んでもらったスカイブルーのアイシャドウ、
オレンジのチークと桃色のリップで健康的な色気を引き出して。
解らないなりに着こなしも努力もした……努力したのだが。
「うひゃはははwwちょ、早瀬wwwテラワロスwwwwwファーwwwwwwwアッハハハハ!!!」

努力した結果がこれだよ!!……油屋。は打ちひしがれ硬直していた。

サマエルは気にも留めずケータイのカメラで油屋。をパシャパシャと連射撮影していた。
連射しているにも関わらずブレずに撮れているのは彼の腕前が凄いのか、
無意識に煽り補正がついたのか(カメラに煽り補正機能はありません)
いずれにせよ、精霊の優れた身体能力を無駄遣いしたような動きで油屋。は撮られていた。
「何撮ってんだコラァ!?」

油屋。もなにか期待していたのかこの仕打ちを受けて余計に恥ずかしくなった。
「あー、面白かった。しばらく待ち受けにしとこ……牛にも衣装というか中々似合ってるじゃないか」
ひとしきり笑い終えたサマエルは改めて油屋。を見る。突然褒められた油屋。は驚いて硬直する。
「明日も仕事だから酒は程々にして……案内をお願いしますね、お嬢さん」
サマエルは天使のような爽やかな笑みを浮かべる。
毒気を抜かれてしまった油屋。は溜め息をついて大人しくボックス席へ連れて行くのだった。

***

テーブルの上には山盛りポテトとプリン、ホワイトラムのボトルとボトルセットにコーラが広がっている。
「ささっ、ぐぃーっと一杯!」
「オヤジか貴様は、教えてやる通りにしろ」
油屋。はサマエルにお酌しようとボトルを手に取り注ぐが、オヤジ臭い一言に思わずツッコミが出る。
「ちなみにコーラを入れると美味しいんだ」
「へー、コーラを入れると美味しいんだ……ってこれアタシのだろ!?」
サマエルの呟きにうっかり自分用のコーラをホワイトラムのグラスに注いでしまう。
まだ飲む前だったとは言え、半分ほどなくなってしまった。
「んー、美味いッ★やっぱりラムコークは良いな」
「……いいもん、足りなかったら炭酸水飲む」
油屋。は気づいていないようだが、炭酸水に味はない……

(ハッ!奴のペースに乗せられっぱなしじゃねぇか!?)
ここで油屋。は本来の自分の目的を思い出す。
「コホン……なぁ、サマエル」
「なんだ、改まって」
殊勝な態度の油屋。を横目にサマエルはラムコークを飲み続ける。油屋。は勇気を出してサマエルに切り出す。
「その、今日は普段のお礼がしたくてさ……いつもありがとな。アタシまだ頼りないかもしれないけど、これから一生懸命頑張るから!」
サマエルの憎まれ口に喧嘩腰になってしまう油屋。も今日は姿勢を正してサマエルに日頃のお礼を伝える。

それを聞いたサマエルはラムコークのグラスを置いて、油屋。に向き直る。
「そんな事か、それで思いついたのがこの企画参加か?」
「わ、悪い?」
「旨い酒も飲めたし面白いモノも見れたが……評価は教えてやらん」
サマエルはクスリと意地悪な笑みを浮かべる、油屋。の気持ちが伝わったかは計り知れなかった。
「なんだよ、このクソ悪魔!ケチ!」
「乳女は面白いことを言うな」
再びラムコークを飲むサマエルから目線をそらし油屋。はドキドキと胸を打つ鼓動に戸惑いながらポテトを頬張る。
(な、なんか変な感じ……嫌では、ないけど)

◆偶像の蝶と見守る精霊
田口伊津美(プライベート中のため結寿音で参加)は複雑だった。
(新人アイドルが、プライベートでこういうことするのは拙かったかな?)
と内心唸るが、服装に手を抜かずフリルやパールを使った可愛らしいピンクのドレスを選んでいた。
そしていつもの赤フレームのメガネに、手袋はドレスに合わせて白のロンググローブ。

ナハトは伊津美の姿を見てぽかーんと見つめていた、伊津美はナハトの態度が気に食わないご様子。
「なによ、その目は?!……さっさと席に着きなさいよね」
つかつかと先を歩いていく伊津美にナハトも後ろをついていく、

席に着くとナハトはオーダー表のデザートをじーっと見つめている。
「こほん……お水はいかがですか、炭酸水もありますよ!」
隣に座った伊津美は気を取り直してキャバ嬢っぽく振舞う。
水と炭酸水は無料で出しているサービスドリンクであり通常はおすすめしないのだが、
伊津美は出費をなんとか抑えたいようだ……しかしナハトの目線はデザートに釘付けである。

「イヅ……結寿音、デザート欲しい」
「はぁ?馬鹿ロボットの癖に遊びに来てまで食べるの?!……クッキーなら安がりかな、すみませーん☆」
伊津美もメニューを覗き込んで金額とコスパを考える、決めたところでアイドルらしく猫n……可愛い声でウェイターを呼び寄せて注文する。

注文を受けたウェイターがすぐにクッキーの盛り合わせとミネラルウォーターを持ってくる。
シンプルな丸型のクッキーは、バターとメープルの甘い香りを漂わせてふんわりと席の中で広がる。
「今日は、特別にあーんくらいしてあげ」
「……もぐもぐ」
伊津美がクッキーを食べさせようと一枚摘むが、それより先にナハトが手をつけてしまう。
(あー、口の中じゃなくて目の中にクッキー突っ込んでやりてぇ……)
伊津美は内心イラッとしつつ摘んだクッキーをひとかじり。

ナハトは再びメニューに視線を向けていた。
「馬鹿ロボット、もう注文はしないからね?」
「違う、ここ見てた」
ナハトが指差した部分には『カラオケ5曲 20Jr』と書いてあり、クラブにも専用ステージとスポットライトが用意されていた。
「イヅ……結寿音の歌、聴きたい」
「……はぁぁぁ……しょうがないわね。ギリ許してあげるけど、持ち歌にするわよ?」
伊津美は深ーい溜め息をつき、カラオケステージに向かってマイクを手に取る。
(私がIZUIZUだってバレないように、ここはクールに歌わないとね)
と伊津美は懸念しているが、他のウィンクルム達はパートナーに意識が向いているので多少騒いでも気づかれることはないだろう。

ステージは小さいが、壇上には白波と色鮮やかな珊瑚の南国の海をイメージしたセッティングがされている。
入力するとアイドルソングらしい明るくキュートな前奏が流れ始める、伊津美もナハトも聴き慣れている曲だがいつもと違う場所で新鮮さを感じる。
『恋の駆け引き 恋のいろは 全然そんなのわかんない』 
周りを気にしてクールに歌う伊津美だが、無意識にいつもの調子で踊ってしまう。
ナハトはクッキーを食べる手を止めなかったが、自分の為に歌って踊ってくれる伊津美からは決して目を離さなかった。
『でも あなたと一緒に居たいという気持ちは誰にも負けない LOVELOVEハート★』
ぼんやりと伊津美の姿を見つめるナハトの背中のゼンマイがキュルキュルと回っている。
無表情なナハトの喜びを示すサインは、伊津美の知らないところで出ていた。

◆無骨な蝶と銀狼の精霊
クロスは少しでもオルクスと関係を深めようと、意を決して今回のイベントに参加してみた。
彼女にとっては非常に勇気が必要だっただろう。
男物の衣服しか着たことがないクロスがチョイスしたのは淡いコバルトブルーのロングドレス、
ウェスト部分を横方向に切れ目が入った大胆かつセクシーなロングドレスだ。
夜の街を歩いていたら、誰もが振り返るような『夜の蝶』と見紛うだろう。

(変、なのか?……ルクス、ずっと黙ってるし)
席に案内したがクロスは緊張して会話が切り出せず、オルクスがドリンクの注文を済ませていた。
「ねぇ、クロス」
「……なんだ?」
「ドレスは自分で選んだのか?」
オルクスは頬杖をついてクロスを見つめ、優しい笑みを浮かべる。
「いや、とても綺麗だなって……思わず見入ったからさ。店頭の写真を見た時も驚いたよ」
「ば、バカ!?綺麗とか、言うな!!」
クスリとオルクスは妖艶な笑みを浮かべ、クロスは思わず赤面してしまいドギマギする。

そこにオルクスが注文したシーブリーズとウィスキーが運ばれてくる。
「キミでも飲みやすいお酒を選んだよ、飲もうか」
「あ……すまない、助かる」
クロスはシーブリーズを飲むとクランベリーとグレープフルーツの爽やかな酸味が口の中に広がる。
「……美味しい」
「よかった、気に入ってもらえたのなら俺も嬉しいぞ」
オルクスは笑みを浮かべるが、シーブリーズはレディキラーという異名があるカクテルだ。
由来は『甘く口当たりは良いのだが、アルコール度数が高くあっという間に酔ってしまう』からだ。
そうとは知らないクロスはよほど気に入ったのかペースを早めてしまう。
半分ほど飲んだところで、クロスは酔ってしまいぼんやりとして赤ら顔になる。
オルクスが狙ったかどうか、真偽は不明だ。

「なぁ、オルクス」
「なんだ?」
「……俺は、オーガが憎い。家族も、大事な人達も…………俺の大事なものを、全部奪っていったオーガが憎い」
ほろ酔いになったクロスはグラスに入った薄紅色の液体を見つめ、ポツリポツリと自分の過去をオルクスに伝える。
「今は、オルクスと出逢えて幸せだ。まだ不安もあるし思い出すこともあるが、オルクスと一緒なら乗り越えていけると思う」

初めて聞いたクロスの胸中に、オルクスは目を見開く。クロスが抱えていた心の傷はオルクスの想像を遥かに上回っていた。
オルクスは無意識に自分の拳を強く握り締める。
「変なことを言ったな……今は楽しい時間だ、おかわりするか?」
「……クロス、キミはもっとヒトに頼っていいんだ。オレも、キミのパートナーなんだからな?」
オルクスは悲しげな笑みを浮かべると、クロスは小さくうなづいた。

「よし、じゃあカラオケでもしようか!オレはクロスの歌も聞いてみたいなぁ」
明るい口調でオルクスは選曲をどうしようかと選び始めた、クロスも隣から覗きこむ。
「ふぅ……一緒に歌ってくれるならいいぞ」
「本当か?じゃあこれがいいな、男女のデュエットだから丁度いいだろう。ほら、クロスもマイクを持て」
オルクスは嬉しそうに選曲を入力するとゆったりと切なさを感じる前奏が聞こえてきた。
クロスは躊躇いがちに、対照的にオルクスは揚々とマイクを手に取る。
曲はお互い想いを伝えたいのに、上手く伝える術を知らないという切ないラブソングだった。

(まるで、俺の心情を現したような歌詞だな)
そんな風に頭の片隅で思いながら、クロスはオルクスとの時間を満喫するのだった。

◆柔和な蝶と流浪の精霊
七草・シエテ・イルゴは美しい髪を夜会巻きで結い上げ、胸元と背中を大胆に開いたイブニングドレスに
靴も銀のハイヒールを履き見事な『夜の蝶』に変身していた。
全ては翡翠・フェイツィに楽しんでもらう為である。

「翡翠さん、大富豪で勝負しましょう?私に勝てたら翡翠さんの好きなお酒……注文していいですよ」
シエテは微笑んでメニューを手に取る、それを聞いた翡翠がフッと強気な笑みを浮かべる。
「いいよ。言っとくけど俺、勝負には自信あるからね?」
「じゃあ、お腹がすいていると酔いやすくなりますしお料理も頼みましょうか」
シエテはウェイターを呼び止め料理とミネラルウォーターを注文、その間にトランプを用意。

海産物を贅沢に使って舟盛りした刺身の盛り合わせを翡翠が舌鼓を打つ間にシエテがトランプを配り終える。
「では、参りますッ!」
「はは、お手並み拝見だね」
第1ラウンド、お互い3、4、5と順々に小さな数字を出していく。
ここでシエテが8を出して大貧民に持ち込むが、すぐに翡翠も8を切って大富豪に戻す。
「あぁ!」
「シエは解りやすいね」
調子を崩されたシエはそのまま押し切られて第1ラウンドは翡翠が完封して終了した。
「まずは一勝かな、このまま全勝して勝利の美酒でも味わおうか」
「ま、まだ終わってません!」
第2、第3ラウンドと続けていくが翡翠が一枚上手の戦術を繰り出してシエテのカードを出す手を止めてしまう。

***

「これで最後だね?終わったら何を飲もうかなぁ」
「……もう少し、手加減して下さい」
眉をハの字に下げてシエテは手元のカードを見つめる……翡翠は勝利を確信して、余裕の笑みを浮かべている。
しかし、翡翠はシエテが『切り札』を持っていることに油断して気づいていなかった。

シエテの手元は残り5枚、翡翠の手元は残り3枚。
翡翠は7を場に出し、シエテは9を出して大貧民を回避。
残り2枚となった翡翠が出したカードは……最大値、2のカード。
(勝負、あったね)
勝利を確信した翡翠はニヤリと笑みを浮かべる。シエテは手元のカードに目線を落とすと……
「……あ、これなら」
「げ」
出したのはなんとジョーカー。まさに『切り札』を持っていたのだ。
シエテの残り手札は全て翡翠よりも大きな数字のカードで、シエテは逆転勝利を収めた。

「……してやられたよ、最っ高に楽しませてもらった。今度は負けないからね?」
「はい……私も楽しかったので、一杯だけ飲んでもいいですよ?」
「そうか、じゃあスピリタスをお願いしようか」
翡翠はスピリタスと氷の入ったグラスを注文する
運ばれてきたグラスとボトル、翡翠はグラスを手に取るとシエテに向ける。
「注いでくれない?シエの入れた酒が飲みたい」
そう言われたシエは一瞬あっけにとられて目を見開くが、すぐに顔を赤くして翡翠にお酌する。
(お酌なんて、神聖な儀式……私がしても、いいのでしょうか?)

翡翠は注がれたグラスを見て満足に微笑み口に運ぶ。
「……っあー!喉が焼ける、でもこんなに綺麗なシエが入れてくれたと思うと悪くないね」
「もう、翡翠さんたら……」
嬉しそうに目を細める翡翠の眼差しに、こそばゆさを感じてシエテは思わず目を逸らす。
翡翠も照れるシエテの様子を見て、笑みを深めて酒を飲んでいた。

◆夢から醒める刻
「うんうん、とってもラブに満ちた空間になったわね」
企画担当したオネエ職員は黒服姿で入口から覗き込んでいた。
彼はウィンクルム達の邪魔にならないように必要最低限の人員を様子見しながらホールに送り込んでいたのだ。
「忘れられない一夜になったかしらぁ……あ、帰りの車も手配しといてね☆」

真夜中の12時、魔法が解ける時間にCLUB『A.R.O.A.』は閉店した。
日頃はなかなか素直になれないウィンクルム達もお酒や場の雰囲気の後押しを受けて、
いつも伝えられないことを伝えられただろう。



『一夜の蝶』は再び神人達の胸の中で眠った。



依頼結果:大成功
MVP
名前:七草・シエテ・イルゴ
呼び名:シエ
  名前:翡翠・フェイツィ
呼び名:翡翠さん

 

名前:ハンナ・ノイエンドルフ
呼び名:ハンナ
  名前:アーベル・シュナウファー
呼び名:アーベル

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 渡辺純子  )


( イラストレーター: 村雨かすみ  )


エピソード情報

マスター 木乃
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月11日
出発日 03月21日 00:00
予定納品日 03月31日

参加者

会議室

  • いえいえ、まだ54分ありますから……。書き込みできそうです。

    未成年の方が2人いますね。席が分煙だといいのですが……。

  • [4]油屋。

    2014/03/20-22:30 

    〆切ギリギリの滑り込み参加でごめんなさい!
    油屋です。宜しくお願いします!!
    それぞれ楽しい時間を過ごせたら良いですね~

  • やっと発言できるようになったか。
    私はハンナ。
    もうあまり時間も無いが、今夜はよろしく頼む。

  • まあ、ようやく投稿できたのですね……。
    皆様、ご迷惑おかけしてすいませんでした。

    あと、2時間44分になりますが、よろしくお願いします。

  • はじめまして。


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