【愛の鐘】聖なる夜の贈り物(柚烏 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 はらり、はらりと――まるで純白の羽根のように、空から舞い落ちるのは淡い粉雪。地面に落ちると同時、それは儚く消えてしまうけれど――ひやりとしたその白花弁は、ふたりの心に温かな想いを積もらせていく。

 タブロスの中心にほど近い、街の一角。そこもまた聖夜を迎える為の装飾が施され、街は何処か心を浮き立たせるような雰囲気に包まれていた。
 色とりどりのイルミネーションが、建物や街路樹――そして通りを鮮やかに彩る中、しゃんしゃんと何処からか響いてくるのは愛らしい鈴の音。澄んだハンドベルの演奏が通りで披露されていると、それに負けじと浮かれた芸人たちが、陽気にアコーディオンの鍵盤を叩く。
 ――それは、クリスマスと言う名の祝祭。とびきり幸せで楽しい聖夜を迎える為、人々は思い思いに祭日を祝おうと街に繰り出し―――ある者は、大切なかけがえのないひとと、この夜を楽しもうと願うのだ。
『時計台の鐘が、0時の時を告げる時に。街の中央にあるツリーの下で』
 それは、大切なパートナーとクリスマスの夜を過ごそうと、ふたりで交わした約束だった。綺麗に飾り付けをされ、光で彩られたもみの木の下――ふたりで共に、日付が変わる瞬間を迎えようと、パートナーはにこりと微笑んだ。その時に祝福の言葉を交わしながら、贈り物の交換をしようと付け足して。
 それまではふたり、自由に街で過ごそうと彼は言った。クリスマスを迎え、街は光に包まれて賑わいを見せている。様々な屋台も出ているから、軽食を摘みながら街を歩いてもいいし、通りに面したオープンカフェでゆっくりした時間を過ごしてもいい。
 あるいは、まだ贈る物が決まっていないのだとしたら――ふたり一緒に、店を回りながらプレゼントを探し合ってもいい。ただし、何をあげるかは秘密にしておかないといけないだろうけれど。
『うん、約束。……思い出に残る、クリスマスになるといいね』
 軽くパートナーと指切りをして、ウィンクルムのふたりは聖夜の街へと繰り出す。遠くの教会から、荘厳な讃美歌が微かに聞こえる中――大切なあのひとと、かけがえのない思い出を作る為に。

解説

●タブロスの、ある街で
クリスマスシーズンを迎え、街全体が飾り付けされライトアップされた街で、素敵な一夜を過ごしましょうというデートのお誘いです。デート開始は夜7時くらい。それぞれに好きなように街で過ごした後、0時の鐘が鳴り響く時に、街中央にあるクリスマスツリーの下でプレゼント交換。そしてそれぞれに、祝福の言葉を交わし合います(そうすれば幸せに過ごせる、と言われているらしいです)。

●街で過ごすプラン
※次の中から、どれか1つを選んでください。
・通りに出ている屋台を見ながらお散歩
ホットチョコレートやフランクフルト、食べ歩きの出来るスイーツなどの屋台、クリスマスにちなんだ玩具や雑貨の屋台などが出ていますので、通りをお散歩しながら楽しみます。
・オープンカフェでゆっくり過ごす
街の様子が見渡せる、ちょっとお洒落なオープンカフェで過ごします。ふたりでゆっくりお喋りしたり、軽食をつまんだりするのもいいですね。
・ふたりでプレゼントのお買いもの
まだ、相手に渡すプレゼントが決まってない! と言う人の為のプラン。ふたりで店を回りながら、互いにアドバイスをして品物を選びます。でも、何をあげるかは内緒にしておいた方がいいでしょう。

●必要事項
『相手にあげるプレゼント』そして『相手と交わす祝福の言葉』は必ず記入してください。プレゼントは何でも構いませんが、消費ジェールの範囲内で買えそうなものをお願いします。

●参加費
プレゼント代とデート代含め、一組500ジェール消費します。

●お願いごと
今回のエピソードとは関係ない、違うエピソードで起こった出来事を前提としたプランは、採用出来ない恐れがあります(軽く触れる程度であれば大丈夫です)。今回のお話ならではの行動や関わりを、築いていってください。

ゲームマスターより

 柚烏と申します。ぎりぎり……かもしれませんが、クリスマスに関連したデートのお誘いにあがりました。
 華やかにライトアップされた街で夜を過ごして、0時の鐘と同時にプレゼント交換をするのは如何でしょうか。やはりクリスマスは、特別な思い出が作れそうですよね。
 ふたりでわいわい楽しく過ごすのも良し、ロマンチックにしんみりするのもよし、ほっこりほのぼのと過ごすのもよしです。皆さんの思い出を作るお手伝いが出来ればと思いますので、よろしくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)

  (待ち合わせ場所で相手に手を挙げ)
お前から誘うなんて珍しいな

(屋台を見ながらお散歩する
砂糖菓子渡されれば、お返しにドーナツを差し出す
手を差し出されれば気恥ずかしそうに握る)

こうしてると、なんだか恋人同士のようだな(照れて)

(驚かれれば)
はぁ?!
そいうものなのか?(呆然)<ウィンクルム

恋人だと思っていた割には
平気で私の目の前で女の子口説いたりしてなかったか?

(真剣に考え)
女の子をナンパしないレオンというのもそれはそれで何か不自然な気がする

祝福の言葉『私の精霊がお前でよかった』
プレゼント『ラピスラズリのペンダント』

幸運と成功運のパワーストーンと聞いてな
お前には青が似合う

(合い鍵には驚くが受け取る)



ユラ(ルーク)
  アドリブ歓迎
えぇ~時間通りだよ?ごめんごめん
あ、ほら屋台出てるよ!ね、少し歩こう

人多いねぇ・・・ルー君迷子にならないでね
聖夜に迷子放送とか笑うしかなくなるから
なんか甘いものが欲しかったからホットチョコレート買ってきた
あ、ちゃんとルー君のもあるよ
・・・そうかなぁ?

プレゼント:名前の刻印入り万年筆
「貴方が嬉しいと思うことに沢山出会えますように」
ルー君なんでも持ってるからすごく悩んだんだよ
でもペンならいくらあっても困らないでしょう?

うわぁ可愛い!・・・綺麗な音
(オルゴールを聞きながら)
…私、ルークに出会えてよかったなぁ
うーん、そういう意味じゃないんだけど・・・まあいいや
ありがとう、大事にするよ(微笑



空香・ラトゥリー(鏡 ミチル)
  「えへへ、普段は早寝ですけど、今日は特別な日だから…夜更かししてもいいですよね?みっちゃん」

ウキウキと目を輝かせて屋台へ。
ホットチョコレートとワッフルでご満悦。
「みっちゃーん、みてください、かわいいお人形ー!」
元気にはしゃぎまわるお子様。
「みなさん、楽しそうな顔で、空香もなんだかうれしくなっちゃいますー!」

・贈り物
紫色のシンプルな携帯灰皿
「今持ってるの、タバコのオマケのですよね?よかったらどーぞです」(にっこり)

・言葉
これからも、よろしくです!(にっこり)

わぁ、0時になりましたねー(目をこしこし)
ここまで起きてたの、空香、久しぶり…ふぁ(あくび)

みっちゃん…お背中、あったかいです…(すー)


リセ・フェリーニ(ノア・スウィーニー)
  プレゼントの贈りあい?
まあ、たまにはそういうのも悪くないわね

どうして手をつないでいく必要があるのよ
みんなって…周りは恋人同士なんじゃないの?
そういうあなたも冷たい手じゃない。早くどこかへ入りましょう

雑貨屋さんってあまり来ないけど
こんなにいろんなものがあると目移りするわね
クリスマスのグッズもあるのね、かわいい…!
あなた好きな色はあるの?私は白が好きよ

鐘が鳴ったら交換?いいけど、何なの?

「メリークリスマス」
私からはベージュの手袋
手が冷たかったから必要かと思って
色違いのものを買っていたなんて気付かなかったわ

幸せに…
そうね、いい夜だったわ
次があるかどうかはさておき
こんな時間だし、家まで送ってくれる?


アンダンテ(サフィール)
  屋台を見ながら散歩

まあ、こんなにたくさんの屋台があるのね!
タブロスは大きな所だけあって規模が違うわ

あれは何かしら
あらやだ、ごめんなさい
珍しくってつい…
気をつけるわね

プレゼント:裁ちばさみ
正直な所知り合ったばっかりで何が好きかとか全然わからなかったのよね…
だから仕事道具とか実用品にしようと思ったの

まあ、ありがとう!
帰ったら早速使わせてもらうわね

来年は期待しててね
その時にはきっとリサーチも完璧なはずよ

ハードル上げられた気がするわ…!
ま、まかせて!
思わず笑顔になっちゃうような物を用意してみせるわ

祝福の言葉:これからよろしくお願いします
最初が肝心というものね
きっと長い付き合いになる、そんな予感がするの


●お揃いの贈り物
 聖夜の祝祭を迎え、夜の街は心浮き立つ空気に包まれていた。色とりどりのイルミネーションが、幻想的に闇夜を浮かび上がらせ――正に光の洪水となって街を彩る中、通りを行き交う人々の顔は皆それぞれの幸せに満ちている。
 何処からか陽気な歌が鳴り響き、澄んだベルの音が祝福を告げて。綺麗に飾り立てられたもみの木の下で、大切なあのひとと新たな日を迎えよう。さあ、それまではふたり、夜の街で何をして過ごそうか――。
「ねえリセちゃん、今日はクリスマスなんだよねぇ」
 軽やかにクリスマスソングを口ずさみながら、ノア・スウィーニーはくるりと回って、その口元に柔らかな笑みを浮かべた。繋いだ長い髪がさらさらと夜風に翻り、彼は隣に居るリセ・フェリーニへ意味ありげな瞳を向ける。
「せっかくだし、プレゼントの贈りあいっこしない? これから一緒にプレゼント探そう」
 贈りあい? と、リセはノアの言葉を繰り返して。やがて、ふっとその勝気な瞳が街灯りを映して和らいだ。
「まあ、たまにはそういうのも悪くないわね」
「ふふ、ありがと。リセちゃんは優しいなぁ」
 そう言うとノアは、タンと石畳を蹴って――ごくごく自然な動作で、リセに向かって優雅に手を差し伸べる。
「手繋いで行こうよ。みんなそうしてるし」
「……どうして手をつないでいく必要があるのよ」
 軽薄なノアの振る舞いには、慣れていると思うものの。リセが周囲を見渡せば、目に付くのは思い思いの聖夜を過ごす恋人たちの姿だった。
「みんなって……周りは恋人同士なんじゃないの?」
「細かいことは気にしない気にしない」
 ――ノアとはそんな関係じゃない筈。そう思うリセの手を、ノアはやや強引にぎゅっと握りしめて――その碧玉の瞳が、不意に瞬いた。
「あれ、手冷たいね。大丈夫?」
「……そういうあなたも、冷たい手じゃない」
 そう、夜気に晒されてその手はひんやりと冷え切っていたものの、繋いだ手からは確かなぬくもりが伝わって来る。そう思うと、胸の奥に仄かな熱が生まれたような気もして――リセは早くどこかへ入りましょう、とノアを促した。
「雑貨屋さんってあまり来ないけど、こんなにいろんなものがあると目移りするわね」
 さて。ふたりが入ったのは、ショーウィンドウに飾られたスノーマンが愛らしい、小さな雑貨屋だった。品物のひとつひとつにこだわりが感じられて、センスが良い――とリセは思う。
「クリスマスのグッズもあるのね、かわいい……!」
 手のひらサイズの小さなツリーに、綺麗に飾り付けられたリース。アロマキャンドルやオーナメント、クリスマスの絵が描かれたお揃いのティーカップもある。
「あなた好きな色はあるの? 私は白が好きよ」
 トナカイのぬいぐるみを撫でながら、何気ない感じでリセがノアに問いかける。するとノアは、楽しそうに瞳を細めて囁くように告げた。
「好きな色? アースカラーは好きだよ。……白かぁ」
 くすっ、と言う微笑と共に、ノアはリセをじぃっと見つめる。
「汚れてなくて、リセちゃんそのものって感じだね」
「……もう……!」
 そんな感じでふたりのデートは進んでいき、やがて真夜中の鐘が鳴る刻を迎えた。今日のデートの締めくくり――そう言ったノアは、リセと一緒に街の中央に立つクリスマスツリーの下へ向かい、鐘が鳴ったらプレゼントの交換をしようと持ちかけた。
「いいけど、何なの?」
 やがて――かちり、と時計の針が天を指し、荘厳な鐘の音が街に響き渡る。それと同時、ふたりは先程の店で買った贈り物を相手に差し出していた。
「「メリークリスマス」」
 祝福の言葉を交わし合い、それぞれの贈り物の包みを開けると――そこから現れたのは、色違いの手袋だった。リセが受け取ったのは白、ノアが受け取ったのはベージュのものだ。
「……手が冷たかったから、必要かと思って」
 色違いのものを買っていたなんて気付かなかったわ、とリセが言うと、ノアは早速貰った手袋を身に着けている。
「リセちゃんの手も冷たかったから、まさかのお揃いだね」
 ――0時の鐘が鳴る時に、ツリーの下でプレゼント交換をすると幸せに過ごせる。そんな言い伝えを思い出しながら、ふわりとリセが笑みを浮かべた。
「幸せに……そうね、いい夜だったわ」
「うん、確かに今夜は一緒にいられて幸せだったよ。またデートしようね」
 しっかり次の予定を取り付けようとするノアに、「次があるかどうかはさておき」と返しながらも、リセは白い手袋をはめた手で、そっとノアの手を握りしめた。
「……こんな時間だし、家まで送ってくれる?」
 ――ふたりの聖夜は、あと少し続く。

●時には恋人同士のように
 夜が訪れると同時、空からは粉雪がはらはらと舞い落ちる。白い吐息がふわりと宙に溶けるのを、何とはなしに見遣りながら――ガートルード・フレイムは、掌に落ちたその雪の冷たさに、軽く目を瞬いた。
「ガーティー!」
 息せき切ってやって来た彼女の待ち人――レオン・フラガラッハへ、ガートルードは軽く手を挙げて応える。
「お前から誘うなんて珍しいな」
「だってほら、折角の初めてのクリスマスだろ?」
 今夜は他の女の子の誘いを断って、神人を誘ったのだと言うレオンは、そんな事はおくびにも出さず。ふたりで通りの屋台を見ながら散歩しようと歩き出した。そんな中、甘味好きのレオンは早速甘い物を売っている屋台に目を付けたようだ。
「お、あれいいな!」
 クリスマスに因んでだろう、可愛らしい雪だるまの形をした砂糖菓子を見つけたレオンは瞳を輝かせ、ガートルードの分も合わせてふたつ買った。ほら、と砂糖菓子を渡されたガートルードは「有難う」と頷いて、お返しに買っておいたドーナツを差し出す。
(……あ)
 その時――さりげなく、ガートルードへレオンの手が差し出された。気恥ずかしさもあったけれど、ガートルードはそっと、差し出されたその手を取る。やっぱり自分の手とは違って、レオンの手は逞しくて――そして温かい。
「……こうしてると、なんだか恋人同士のようだな」
 少々照れた様子で、ガートルードは客観的に自分たちの様子を言葉にして。するとそれを聞いたレオンが、目を丸くしてそんな彼女の顔を覗き込んだ。
「えっ?! 俺ら恋人じゃねぇの? 俺、ウィンクルムになるって恋人になることかと思ってた」
 そう告げるレオンの顔は、普段の不真面目さが嘘のように真剣で。これにはガートルードも呆然としてしまい――真紅の瞳が不意に揺らいだ。
「はぁ?! そういうものなのか? ……だが、恋人だと思っていた割には、平気で私の目の前で女の子口説いたりしてなかったか?」
「う」
 そうなのだ。基本女の子が大好きなレオンは、可愛い子が居れば自然に声をかける。しかし、それを面と向かって指摘されれば、流石に彼も気まずそうに視線を逸らした。
「あ、ああ、まあその辺今まで曖昧にしてたし……」
「曖昧なのか」
「で、でも、お前が嫌なら、やめる」
 ぐっと拳を握って、決意を口にするレオン。しかし――その結果を脳内で真剣に考えていたガートルードは、ややあってからぽつりと呟きを零した。
「女の子をナンパしないレオンというのも、それはそれで何か不自然な気がする」
 不自然、と言われたレオンは、次の瞬間盛大に吹き出していた。どんな目で見られていたんだと思うと同時――こんなやり取りが出来る彼女がパートナーで、良かったとも思いながら。
「いいのかよ、それで。お前がいいならいいけどさ」
 そんな感じでふたりは軽口を叩き合い、屋台を巡る内に真夜中が近付いた。一際眩い煌めきに彩られたツリーの下で、彼らは向かい合って静かにその時を待つ。
 ――そして、一日の終わりと共に新たな一日の始まりを告げる鐘が鳴り響く中、それぞれの唇から祝福の言葉が紡がれた。
「私の精霊がお前でよかった」
 呟き、ガートルードが手渡したプレゼントはラピスラズリのペンダント。それは幸運と成功運のパワーストーンと聞いて、彼女がレオンの為に選んだものだ。
(お前には、青が似合うから)
 彼の瞳よりも深い青の石が、幸せを運んでくれると祈って――微笑んでペンダントを受け取ったレオンもまた、祝福の言葉を聖なる木の下で囁く。
「来年もお前と良い年にしたい」
 そう言って彼がガートルードの手に握らせたのは、自分の部屋の合い鍵だった。いつでも訪ねてこられるようにな――そう悪戯っぽく付け加えたレオンに、ガートルードは一瞬驚いた顔を見せたのだけれど。
「……ああ、わかった」
 頷き、その手の中で輝きを放つ小さな鍵を、彼女は慈しむように握りしめたのだった。

●あなたの未来に祝福を
「遅ぇ! 俺を待たすのが悪い」
「ええ~時間通りだよ? ごめんごめん」
 雪降る街の一角で、そんな微笑ましいやり取りが交わされている。少々苛立たしげに赤髪をかき上げるルークを、やんわりとなだめているのはユラ。相変わらずなふたりの、これがいつものやり取りだった。
 ――と、彼女は「あ」と声を上げ、さらりとした黒髪を揺らしてルークの肩を叩く。
「ほら、屋台出てるよ! ね、少し歩こう」
「……まぁ腹も減ったし、なんか食べるか」
 通りに並ぶ屋台からは、甘いチョコレートや香ばしいソーセージ――食欲をそそるお菓子の匂いがふわふわと漂ってくる。街はちょっとしたお祭りのように賑わっていて、恋人たちの他にも友達同士で過ごす人々、それに家族連れの姿も目に付いた。
「人多いねぇ……ルー君迷子にならないでね。聖夜に迷子放送とか、笑うしかなくなるから」
「ならねぇよっ! いい加減子ども扱いするのやめろよなぁ」
 そうは言いつつも、童顔に見えてもユラの方がお姉さんなのだ。それでもインドア派のユラと、こうして外に一緒に遊びに出かけられた事を内心では嬉しく思いながら――ルークは食べ物を扱う屋台を指折り数えていく。
「フランクフルトに焼きそばにクレープ……なんでもアリか。ユラは何にする……って、いねぇし!?」
 何気なく隣を見れば、其処に居た筈のユラが見えなくなっていて。慌ててルークが人ごみをかき分けてユラを探していると、当の本人は全然違う方向からのんびりと歩いてきた。
「なんか甘いものが欲しかったから、ホットチョコレート買ってきた。あ、ちゃんとルー君のもあるよ」
 両手に持ったホットチョコレートの片方を、はいと言って手渡すユラ。その余りのマイペースっぷりに、ルークは「はあぁ」と大袈裟に溜息を吐く。
「注意した本人がはぐれるなよ……お前も相当自由人だよな」
「……そうかなぁ?」
 けれど小首を傾げて、ずずずとホットチョコレートを飲むユラを見ていると、やるせない怒りも治まっていった。ルークも熱々のホットチョコレートを一口啜り――ほんのりと胸を満たすぬくもりに、その碧眼が微かに和らいでいく。
「あーもう、いいから勝手にどっかに行くなよ」
 ――その時、ふと過ぎったのは過去の記憶だったのか。その手をすり抜けていったひとを思い出したルークの心を知ってか知らずか、ユラはふわりと微笑んだ。
「うん、私はどこにも行かないよ」
 そして夜は深まり、賑やかな街にもゆっくりと静寂が忍び寄って来る。それでも光に彩られた町並みを見渡して――ユラとルークは大きなツリーの下で、真夜中の鐘の音に耳を澄ませた。
「貴方が嬉しいと思うことに沢山出会えますように」
 祝福の言葉と共にユラがルークへ差し出したのは、彼の名前が刻印された万年筆だった。
「ルー君なんでも持ってるから、すごく悩んだんだよ。でも、ペンならいくらあっても困らないでしょう?」
「あのな別に何でも持ってるわけじゃないぞ」
 でも、サンキューな――そう言って万年筆を受け取ったルークは、お返しにユラへ贈り物を手渡す。それは、この一夜を閉じ込めたような、可愛らしいスノードームのオルゴール。
「穏やかで幸せな時間が訪れるように」
 可愛いと思ったから。それでも悩みに悩んで選んだ、ルークの贈り物。こういうの好きだろ、と思ったのは間違いではなかったらしい。ユラは瞳を輝かせてスノードームに魅入っており――やがて奏でられる美しいオルゴールの音色に、静かに聞き入っていた。
「……綺麗な音」
「そんなのでいいなら、いくらでも買ってやるけど?」
 照れ隠しのようにルークが呟くと、ふふ、とユラは瞳を細めて囁く。
「……私、ルークに出会えてよかったなぁ」
「え! えーとそれはなんだ、つまりその」
 と、突然挙動不審に陥ったルークに、ユラは己の言った言葉の意味に思い至り――少し照れたように帽子を直した。
「うーん、そういう意味じゃないんだけど……まあいいや」
 最後に零れた言葉に、そしてユラの微笑に、果たしてルークは気付いただろうか。
「……ありがとう、大事にするよ」

●これから始める第一歩
 大勢の人々で賑わう街中に在っても、その乙女の姿は艶やかで――魔法のように人目を引き付ける。淡い濃淡のある髪、神秘的な美しさを引き立てるヴェール。何より印象的なのは、光の加減で色合いを変えるように見えるその瞳だろう。
「まあ、こんなにたくさんの屋台があるのね! タブロスは大きな所だけあって規模が違うわ」
 ――しかし唇を開けば、その大人びた外見に反し、あどけなさを滲ませた無邪気な声が歌うように囀るのだ。彼女の名はアンダンテ。パートナーである精霊のサフィールと共に、この聖夜を楽しむ者のひとりである。
「ええ、屋台も多いですが人も多いですね。逸れないよう気を付けてくださ……あの、聞いてください」
 表情を変えぬまま、淡々と言葉を紡ぐサフィールだが、その声音に微かに疲労が滲んでいるように思えるのは気のせいか。しかし、アンダンテは彼の言葉が聞こえているのかいないのか、物珍しそうに辺りをきょろきょろと見回している。
「あれは何かしら……あらやだ、ごめんなさい。珍しくってつい……気をつけるわね」
 そして遂に実力行使に出たサフィールに手を掴まれて、ふらふらと逸れそうな所を止めて貰ったアンダンテは、おっとりした調子で口元を抑えて謝った。
「逸れたら恐らく合流できませんよ。何か気になるものがあったら、先に俺に教えてください」
 ――年齢不詳な所があるが、恐らくアンダンテは自分より年上の筈。そんな彼女を、エスコートすると言うよりはお守をするようだとサフィールは実感し、そっと溜息を零して空を仰ぐ。
(こういう大人もいるけど、やっぱり年下のような……)
 それからは、やはりと言うべきか――色々なものに興味を持ち、ふらふらとあちこちへ逸れていくアンダンテにサフィールは翻弄されて。けれど、新鮮な体験である事は確かで、不思議とこんな夜も嫌いではなかった。
 やがてふたりは、中央に立つもみの木の下で真夜中を迎えていた。それぞれに用意してきたプレゼントを交換しようと、アンダンテがサフィールに差し出したのは――仕立て屋の息子である彼へ贈る、裁ちばさみ。
「正直な所、知り合ったばっかりで何が好きかとか、全然わからなかったのよね……」
 だから仕事道具とか実用品にしようと思ったの、と告げたアンダンテに、サフィールは微かに目を見開いた。奇遇ですね、と呟き、彼が取り出したのは――占い師を生業とするアンダンテが使う、水晶玉を磨く為の磨き布だったのだ。
「流石にクリスマスにこれはどうかと思いましたが、これぐらいしか思いつきませんでした」
「まあ、ありがとう! 帰ったら早速使わせてもらうわね」
 しかしアンダンテは、満面の笑みで贈り物を受け取り――来年は期待しててね、と囁いた。ふたりの時間は始まったばかりだから。これから沢山思い出を積み重ねていけば、その時にはきっとリサーチも完璧な筈だ。
「来年……なかなか気の長い話ですね」
 それでもサフィールは言う。自分は仕事が趣味のようなものなので、それ以外だと特に好きなものが浮かばないのだと。自分でも分からないのに、一体何を貰えるのか楽しみですね――ありのままの想いを口にすると、アンダンテは苦笑し、それでも精一杯拳を握りしめてみせた。
「ハードル上げられた気がするわ……! ま、まかせて! 思わず笑顔になっちゃうような物を用意してみせるわ」
「じゃあ俺も頑張ってみます」
 ――そして、ふたりは祝福の言葉を交わす。最初が肝心だと思ったから。きっと長い付き合いになる――そんな予感を抱き、アンダンテは静かに唇を開いた。
「これからよろしくお願いします」
「こちらこそ」

●囁きと夢と
 夜の帳が下りたと言うのに、そこだけがまるでお日様が降り注いでいるよう。金色の髪を揺らして、空香・ラトゥリーはイルミネーションに彩られた街を軽やかな足取りで駆ける。
「えへへ、普段は早寝ですけど、今日は特別な日だから……夜更かししてもいいですよね? みっちゃん」
 みっちゃん、と可愛らしい名前で呼ばれた鏡 ミチルは、鋭い瞳を微かに和らげ「あー」と頷いた。その間にも空香はウキウキと目を輝かせて、聖夜のお祭りを祝う屋台へと突撃している。
「あーおい、走るな空香っ」
 乱暴な口調で咎めつつも、内心ではそんな彼女が愛しくて。こんなにはしゃいで、困ったもんだぜ……と思いつつ、ミチルが向けるのはお兄ちゃんのような眼差しだった。
「あんま腹いっぱいになると眠くなるぞー」
 共に屋台を回りながら、空香へお菓子を買い与えるミチル。そんな空香はホットチョコレートとワッフルを手にしてご満悦だ。その頬に付いていたチョコレートをそっと拭ってやりながら、一方のミチルが手にしたのはホットワインだった。
「あー、うめー。あ? 空香にゃまだ早いよ」
 酒好きな彼の子供扱いに、少し空香はむくれたようだったが――今度は玩具の屋台を見つけると、直ぐにその表情が明るくなった。
「みっちゃーん、みてください、かわいいお人形ー!」
 元気にはしゃぎまわる姿は、正にお子様なのだが。ミチルはそんな空香の笑顔がもっと見たくて、買ってやらんこともないか、などと思ったりするのだった。
「みなさん、楽しそうな顔で、空香もなんだかうれしくなっちゃいますー!」
 ――夢のような時間は、あっと言う間に過ぎる。やがて中央のツリーの下にやってきたふたりは、聖夜のおまじないをかけるべく、祝福の言葉と共にプレゼントを交換した。
「これからも、よろしくです!」
 そう言って空香が差し出したのは、紫色のシンプルな携帯灰皿。きっと、ミチルの髪の色と同じような色合いのものを選んでくれたのだろう。
「今持ってるの、タバコのオマケのですよね? よかったらどーぞです」
 にっこり、満面の笑みと共に空香は灰皿を手渡し――ミチルは言葉少なに「おぅ、さんきゅ」と呟いてそれを受け取った。
「……ほらよ」
「わぁあ、ありがとうです、みっちゃん!」
 一方のミチルのプレゼントは星座の本。空や星を見る事が大好きな空香の為にと、選んだものだ。早速読みたい、とうずうずしている空香へ、ミチルが祝福の言葉をかけたのはそれから直ぐのこと。
「I cherish you.」
「え? みっちゃん、何て言いましたっ?」
 きょとんとした顔で尋ねてくる空香へ「内緒」と返し、大人になったら教えるとミチルは言った。
「わぁ、0時になりましたねー。ここまで起きてたの、空香、久しぶり……ふぁ」
 けれど――眠気に勝てなくなった空香は目をこしこしとこすり、愛らしい唇からはあくびが出る。やがてうとうととしてきた空香を、ミチルはおんぶする事にした。
「おい、眠そうだな。ほら」
「みっちゃん……お背中、あったかいです……」
 既に空香は夢の世界へと旅立ったのだろうか。寝言のようにむにゃむにゃと囁きが零れ――やがて、すーと聞こえてきた寝息に、ミチルはそっと問いかけた。
「空香ー? 寝た……か?」
 ――ならば、この戯言も夢で済まされるだろうか。
「あーあ、俺もせめてあと10歳でも若ければ、よ」

 あなたを大事に思っているから――愛をこめて。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 柚烏
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月15日
出発日 12月23日 00:00
予定納品日 01月02日

参加者

会議室

  • [7]アンダンテ

    2014/12/21-22:21 

    こんばんは、アンダンテよ。
    よろしくね。

    私達はのんびりと屋台をまわってみる予定よ。
    みんなも素敵な一日になりますように。

  • [6]リセ・フェリーニ

    2014/12/19-23:55 

    リセよ。よろしくお願いね。
    先日はおつかれさまユラさん。今回はのんびり楽しみましょう。

    ノアが何を欲しがっているか全然検討がつかないから
    一緒に買い物をしてみようと思っているわ。
    ウィンクルムといってもまだ彼のことはわからないことだらけだわ。

  • [5]空香・ラトゥリー

    2014/12/19-12:24 

    おねーさん、おにーさん、はじめまして!(ぺこり)
    空歌・ラトゥリーですっ。どうぞよろしくおねがいします!

    空香はみっちゃんと屋台を見ながらお散歩か、プレゼントを買おうか悩んでるところですっ。
    みなさんが良いクリスマスになりますように、です!(にぱ)

  • [4]ユラ

    2014/12/18-08:51 

    どうも、ユラです。
    リセさんは久しぶり、他の方は初めましてだね。
    よろしくお願いします。

    私達は屋台を回りながらお散歩予定だよ。
    それぞれ楽しい時間が過ごせるといいね。

  • [3]ユラ

    2014/12/18-08:51 

  • ひょっとして、初めましての方ばかり…かな?
    アンダンテさんとはさっきの依頼でお会いしたばかりだが…
    皆さんよろしくな。ロイヤルナイトのレオンと、ガートルードだ。

    町でどう過ごすかはまだ決めていないが、折角の機会なのでのんびり過ごしたいなと思っているよ。


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