【愛の鐘】ゲリラオープン?謎のレストラン(らんちゃむ マスター) 【難易度:普通】

プロローグ


 寒さも増す夜の事、晩御飯の買い物を終えた貴方は帰り道を歩いていた。
今にも雪が降りそうな冬の空を見て、ふっと息を吐く。
口元から出て行く白い息に益々寒さを感じ、とにかく早く家に帰ろう…そう思った時だ。
大きなツリーの飾られた広場にさしかかった貴方は、ツリーの前にじっと座っている少年を見つけた。
少年はただぼーっと何処かを見つめ、段差に座り足をぶらぶらと揺らしている。
……誰かと待ち合わせだろうか?それにしても夜遅い時間だ、こんな所に子供一人を待たせるなんて不用心すぎる。

「こんばんは」
「ん?こんばんはお姉さん」
「僕、何してるの?誰かと待ち合わせかな」

屈んで声をかける貴方に、少年はにこりと笑みを返す。
帽子とポンチョとショートパンツ…履いているブーツまで白で統一した少年……。
首を傾げ笑う彼に合わせて揺れる桃色の髪は、暗がりにとても目立って見えた。
小さく左右に首を振ると、少年は一枚の手紙を貴方に差し出した。

「これは何かな?」
「お姉さんみたいな心の暖かい人に渡しなさいって言われてるの」
「言われてる…誰に?」
「僕の先生に」

よく分からないと言いたい貴方、だが目の前の少年は嬉しそうに貴方に微笑みかける。
ひょいと段差から降りた少年は貴方の手を掴んでしゃがむと、そっと手に唇を寄せた。
……突然の出来事に、呆然とする。

「一晩だけの特別なレストランに、僕達は貴方と最愛の人を招待します」
「え、え…え!?」
「またここで会いましょう?……僕の名前はシャゼルと言います、覚えてくださいね」
名前を名乗った少年は、大きく手を振ると貴方の前から姿を消した。
……嵐のように去っていく少年に、手にした手紙を見て貴方はただ、口をぽかんと開くしかなかった。



 翌日、昨夜にあった出来事をパートナーになんとなく話した貴方は、その手紙を一緒に見る事にする。
ワインレッドの封筒は丁寧に封がされており、とても上品な手紙のようだ。
パートナーが手紙を中から出すと、そこには一枚のクリスマスカードが入っていた。
「クリスマスカード……?」
目を合わせ、首を振る二人は中を覗く……そこは白紙だった。
手の込んだいたずらなのかと呆れるパートナーに、貴方は目を疑う。
「待って!文字が浮かんできてる!」
まるで今、誰かが書いているようにゆっくりを文字が浮かび上がるカードに、二人は驚いた。
金色の文字が示したのは昨日少年が言っていた事と同じ【招待】だった。
……浮かび上がる内容を、貴方とパートナーは交互に読み出す。


手紙を見てくれてありがとう。
こんな奇妙で不思議な手紙を受け取った事に感謝しよう
さて本題だ、君はシャゼルが選んだ【暖かな人】
心優しく正義感にあふれた貴方と、そのパートナーである君にお願いしたい
たった一晩だけのレストランの従業員をしてみないかい?
出来た料理に【仕上げ】をかけて、お客様に運ぶ…それだけのお仕事さ。
ささやかではあるが、コチラからもお礼を用意しよう。

君達に会えるのを楽しみにしていよう。
信じる心に感謝を込めて。
              サンタ・クロース


「さ、サンタクロース!?」
「……どういう事だ?」
 手紙にはレストランの従業員をしないかという誘いが記されていた、依頼主はあのサンタクロース。
怪しいにも程があるが、疑う事に抵抗を感じてしまう貴方とパートナーは、ただ目を合わせ何も言わなかった。
最後に記されていたのは「ありがとう」という言葉と……貴方とパートナーの名前。
不思議で奇妙な手紙を、二人はじっと見つめる事しか出来なかった。
信じられない事だと思うものの、どうも疑う事が出来ない貴方。
それはきっと、少年のあの笑顔に違和感を感じなかったからだと貴方は思った。
一番下に記されていた「参加・不参加」の文字に、貴方とパートナーは参加の印をつけた。



 夜中に出会った少年がくれたのは、不思議で奇妙な招待状。
貴方とパートナーは差出人サンタクロースと不思議な少年シャゼルを信じもう一度ツリーの前へ行くでしょう。
そこでもう一度、貴方と少年は再会する。
「はぁ…!お姉さん!やっぱり来てくれたんだね、僕嬉しいよ!」




抱きつく少年は貴方とパートナーの手を掴み、大きなお店の中へと誘った。

解説

■目的■
 ・ツリー前で開かれる一晩だけのレストランの従業員をしてみましょう。

■仕事内容■
 ・料理の【仕上げ】をしてお客様に笑顔で料理をお渡ししましょう

【仕上げについて】
料理は全てサンタさんとシャゼルが用意します。
皆さんが行うのは料理の仕上げ…重要な所を担当していただきます。
シャゼルから小さなハンドベルを受け取った貴方とパートナーは、それを鳴らしてクリスマスソングを歌いましょう。

「クリスマスハンドベルは特別なベルなんだ、お兄さんとお姉さんが一緒に鳴らすと、料理がとっても美味しくなるよ」

クリスマスハンドベルはサンタさんから渡された特別なアイテムです。
鳴らしながら歌をうたうと、料理に貴方とパートナーの愛がかかって幸せを運ぶでしょう。
一人で鳴らしても効果はありますが、二人で一緒に…がきっと良いですね。

■注意点■
 従業員をするにあたって、シャゼルとサンタさんは貴方とパートナーに一つだけお約束があるそうです。
 …それは「絶対に厨房を覗いてはいけない」という事。
 お仕事中は見ないようにしましょう。料理は全て厨房からシャゼルが運んできます。
 運ばれた料理にベルを鳴らし、お客様に運んでいくのがお仕事の流れになります。



「注文が多くてごめんなさい…あ!そうだ、レストラン用の特別なお洋服があるの、お姉さん達着ないかな?」
好きな組み合わせが出来るようにシャゼルが頑張ったんだと意気込んでいました。
よろしければ使ってみてはどうでしょう。

■従業員の服■

服装は用意されたワインレッドのウェイター服…ですが
シャゼルはそれ以外にも特別に用意してくれたそうです。

サンタさん服・帽子セット=(男女共に)400Jr
「女の子の場合はスカートになるよ!長いのか短いのか選んで欲しいな。」

サンタさんの帽子=100Jr
トナカイのカチューシャ=100Jr
赤い丸鼻=100Jr


ゲームマスターより

メリークリスマス!(フライング)
らんちゃむです。
今年も寒くなってきましたねえ…ホワイトクリスマスなのではと予想している私です。
突然現れた少年に渡された一枚のカード、そこから嵐のように巻き込まれてしまった皆さん
謎だらけなレストランですが、シャゼル共々従業員の皆さんをお待ちしております。

…そういえば厨房を見ちゃいけないなんておかしな話です。
厨房の中で物凄いスピードで料理するサンタさん…恥ずかしいから見ないで!って事でしょうか
それも込みこみで、お楽しみいただけたら幸いです。


それじゃあ私はシャゼルと遊んで待っていますね!
温かいココアとクッキーでも用意してお出迎えしますので、楽しみにしててください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

月野 輝(アルベルト)

  あの子、最愛の人って言った?
え、アルが…?(心の声

■衣装
せっかくだしサンタさん服・帽子セットにしようかしら
スカートは…ちょ、アル?どうして勝手にミニを指定するの!?

ほ、褒めても何も出ないわよ?
でも、そうね、ミニに、しようかしら…

■厨房
サンタさんの料理姿は気になるけど…
だめだめ!見ないって約束だもの
そんなの詭弁よ
見ちゃダメなの!

■歌
ハンドベルって初めて触るわ
私達のスキルで上手く鳴らせるかしら
歌ってお客様の前で歌うのかしら
陰でこっそりじゃ、ダメ?

今年はいつにも増して幸せなクリスマスだから(隣にいる精霊をチラ見)
だから、みんなにも幸せを感じて欲しい
心を込めて歌わせて貰うわ
みんなに幸せが訪れますように



かのん(天藍)
  折角のクリスマスです
御来店頂いたお客様が笑顔になれるよう頑張りますね
厨房の様子が気になりますけれど
約束なので中は見ません

サンタ服セット(400Jr)着用
ミニは恥ずかしいので膝丈位を
ショートブーツと合わせて

天藍見て
髭で雰囲気が違うからでしょうか
少しドキドキします

空いた手を天藍の手と指を絡めて繋ぎ、天藍の歌声に合わせクリスマスソングを歌う
歌いながら目配せでタイミングを合わせ2人一緒にベルを鳴らす

心からの笑顔を添えてお料理をお客様に運びます

立ち仕事で疲れていないか、足下が寒くないか気遣う天藍に大丈夫と答え
いつも先回りの気遣いをくれる事に感謝の想いを

仕事の後に飲みに誘われ快諾
一緒にいられることが嬉しい



日向 悠夜(降矢 弓弦)
  ●消費
サンタ服
カチューシャ
丸鼻
計600Jr

不思議なレストランでの従業員体験…ふふ、楽しみだね

私はサンタ服を着るね
短いのはちょっと恥ずかしいから長い方で
弓弦さんはトナカイ?ふふ、角と赤い鼻が似合っているよ

歌はあんまり得意じゃないけれど…元気と思いを込めて仕上げようか
弓弦さんと一緒にベルを握ってっと
ちょっと音を外したかも…けど、想いは込められたはず
ね、弓弦さん?…近いね。あはは

さ、お客さんに料理を運ぼう
トナカイに先導されてにっこり笑顔でね
素敵な時間を過ごしてもらえたら嬉しいな

しきりに厨房を気にしているけれど、弓弦さん大丈夫?
ああー私も気になるけれど…秘密だからこそ魔法に意味があると思うんだよね


リオ・クライン(アモン・イシュタール)
  また会おうって約束したからな(微笑)
それにしても未だに夢を見てる気分だが・・・これを期にアモンがちゃんとしたマナーを覚えてくれればな
私自身もいい勉強になるかもしれん

服装:サンタさん服・帽子セット(スカートは長い)

<行動>
・折角の機会だからとサンタの格好をしてみる
・アモンのウェイター姿を見て、何故かドキドキしてまともに顔が見れなくなってしまい思わずカチューシャを着けてしまう。
「こ、これなら少しは平気だろう・・・」
・厨房を覗かない様にし、アモンと共にベルを鳴らしクリスマスソングを歌う
「歌はあまり自信がないが・・・」
・お客様の対応時に礼法スキル(レベル1)を使用
・「シャゼル、キミは一体何者なんだ?」





楓乃(ウォルフ)
  ・サンタセット着用

クリスマスってこんなに色彩溢れるのね。
この日を楽しく過ごせるなんて夢みたい。
ううん、私がこうして過ごせることだけじゃなくて、
誰かに幸せを与えられることもできるなんて…。
サンタさん、シャゼルさん…ありがとう。

サンタ服どうかな?
ふふ。よかった。ウォルフも素敵よ。

お料理がきたわ。
ハンドベルを用意して、準備はいい?
せーの。(一緒に歌いベルを鳴らす)
それじゃあ持って行ってくるね。

(お客さんに料理について聞かれ)
え?あ、えっと…あ、ウォルフ…。
(合図に気付き口パクで「ありがとう」)

今日はお疲れ様です。
それから…(急にベルを鳴らし歌いだす)

サンタさん、シャゼルさん、メリークリスマス♪




「わあ…皆来てくれたんだね!ありがとう!」
 椅子から勢い良く立ち上がり一同を出迎える少年は、嬉しそうに皆と握手をする。
よほど嬉しかったのか、くるくると回って奥の扉を開けて誰かを呼んだ。
…中から出てきたのは白いヒゲがひときわ目立つ、ふくよかな老人だった。
「…サンタ、さん?」
「うん!今日は皆で頑張ろうって言ってるよ!よろしくね」

月野輝の問いにシャゼルは頷いて、老人の手を握って微笑んだ。
サンタさんだと紹介された老人の言葉をシャゼルが伝えれば、老人は小さく頭を下げる。
返すように挨拶をすれば、老人はすぐに奥の扉へ入ってしまった。

「思ったより無愛想な方ですね」
「ちょっとアル…!」
「あはは、皆キラキラしてるからサンタさん照れちゃったんだよ…あ、これ頼まれた衣装だよ!」

テーブルの上に置かれた制服を受け取った一同に、シャゼルは更衣室の場所を伝える。
仕事は今から1時間後、それまではシャゼルに仕事の内容を聞かされる事となっていた。
用意された暖かな飲み物と甘いクッキーを片手に、シャゼルは皆に声をかける。
 大袈裟な身振り手振りで説明するシャゼルに、用意されたハンドベルを見る
白いベルに描かれる赤いリボンとクリスマスツリーは、とても綺麗なものだった。
一通り話を終えたシャゼルは、もう一度だけ言わせて欲しいと念を押す用に繰り返した

「絶対に厨房の中を見ちゃダメだからね?料理は僕が持ってくるから、それに仕上げをお願いします」


 シャゼルの説明を終え、テーブルのシーツやツリーの飾りをかけ終えた一同。
「じゃあ皆さん!準備を始めましょう!」
ウェイター服に着替えたシャゼルは、大きな声で一同を呼ぶとパチン…と指を鳴らした。
それと同時にテーブルのロウソクに日が灯り、壁やオブジェクトにかけられたライトがキラキラと光りだす。
突然の事に驚いている一同を見て、シャゼルは嬉しそうに笑った。

「にひひ、これくらいでビックリしちゃあサンタさんのお手伝いは大変だよ?」

まだまだこれからいっぱいあるんだから。
そう言ったシャゼルは、とても楽しそうに微笑んでいた。
シャゼルが言い終えたと同時に、勝手にレストランのドアが開き出す…扉の向こうには、人が沢山立っていた。

「ようこそ!一夜限りの奇跡のレストランへ!」
シャゼルの号令に合わせて、一同は扉の向こうにいるお客さんに声を揃えて挨拶をした。

「……いらっしゃいませ!」


一晩限りの不思議なレストランの営業が始まった。




「お兄ちゃん!お姉さん!この料理を3番テーブルにお願い」
「分かった!……にしても」
 ふと、リオ・クラインはお客さんのいるテーブルを見渡した。
誰にも知られていないレストラン、突然始まった営業だというのに大勢の客でレストランはいっぱい。
寒空の下だというのにお構いなしに外のテーブルで料理を楽しむ者までいる。
…実は知る人ぞ知るイベントなのだろうか?と疑問に首を傾げた。

「何してんだよ」
「あぁ、すまな……アモン、カチューシャはどうした」

眉間にしわを寄せるリオにため息混じりに目線を逸らした アモン・イシュタール。
指さした先にいたのはシャゼルで、なんと彼の頭に乗せられていた。

それに気づかずバタバタと行ったり来たりするシャゼルからカチューシャを取ったリオは、アモンの頭に黙って戻した。

「おいコラ」
「ほら、始めるぞ?」

リオの片手に持たれたハンドベルを見て、アモンは観念したのか料理の前に立つ。
タイミングを合わせ、二人はハンドベルを鳴らしながら歌を歌った。
……誰もが聞いたことがある、クリスマスソング。
一回一回振られる度にハンドベルからは透き通った音が響き、不思議と料理が輝いて見えた。
ワンフレーズだけでいいからとシャゼルに言われた通り、歌い終える二人。
「よし、これで3番テーブ……」
「?……なんだよ」
歌うことに集中していたせいか、パートナーの方へ視線を向ければアモンの瞳は近くにあった。
自然と寄せられていた顔に気づいて、動揺する。

「っ……三番テーブルに頼む、私はドリンクを運ぶから」
「はいはいっと…何でオレが給仕なんて怠い事やんなきゃなんねぇんだか…」

ため息混じりに抗議するアモンの声はリオの耳には入らなかった。
冷静を装って仕事に戻るものの、リオの心臓は耳元で騒ぎ続けていた。
「……アモンはあんな目を、していたのか」




「っ…あ、あまり見ないでくれる?」

 用意されたサンタ服を改めて見たアルベルトは笑顔で月野を褒めた。
勢いで決めてしまったサンタ服のミニスカートだが、思ったよりも足が出て少し恥じらう月野。

心配そうに見上げるシャゼルから料理を受け取ると、月野は自分の頬を軽く叩く。
恥じらいが無いといえば嘘になるが、目の前の料理に仕上げをする事が先決だ。
ハンドベルを持って…いざ!
「ッ……」
「輝?」
「や、やっぱあの…ちょっと待って!シャゼル君!」

戻りかけたシャゼルを呼び止めた月野は、シャゼルに仕上げに関しての提案をした。
ホッとした表情で戻ってきた月野に、アルベルトは何を聞いてきたのかと聞いた。

「陰でこっそり仕上げをする…じゃ、ダメかなー?って」
「それで、彼はなんと?」
「大丈夫だって」

オブジェクトで視界が隠れる場所に設置されたテーブルで仕上げをする事にした二人。
もう一度ハンドベルを持って…改めて。

「せーの……!」

うまく歌えているかは分からない、ちゃんと歌えたであろうか。
キラキラと輝いている料理をお客さんに渡しに行くと、お客さんは二人の前で一口食べ始める。
なんとも取れない表情に、失敗してしまったのかと困惑する月野…だが。

「こんな美味しい料理を食べたのは初めてだよ、ありがとう」
「えっ……?」
「なんて、従業員の君達に言ってもダメだよね…でも嬉しかったんだ、ありがとう」

目を細め幸せそうに微笑んだお客さんに、月野はアルベルトへ視線を向けた。
美味しいというのは、仕上げがうまく行ったという最高の証。

「シェフにお伝えしておきます」
「ああ、そうしてくれ」
アルベルトに合わせ頭を下げてテーブルを後にする月野。

…緩む口元を抑えきれず、微笑んでしまった。



 レストランがオープンしてから1時間が経った。
頼まれる料理は全て間違う事なく、的確な早さで用意され続けていた。
…そんな流れに、顎に手を添え唸るパートナーを見て日向悠夜は降矢弓弦を呼ぶ。

「……弓弦さん?」
「あ、ああごめん…あまりにも場慣れしているというか、サンタさん凄いなあーってね」
「ああ……確かに」
「不思議なレストランに魔法の料理。そして秘密の厨房か…」
「なんだか小説の世界みたいね」
確かにその通りだと微笑んだ降矢に、日向はふと何かに気づく。
いつもよりもキョロキョロしている降矢は、どうも厨房の方を見ているようだ……。

「厨房を気にしているけれど、弓弦さん大丈夫?」
「うーん……厨房がどうしても気になってしまうね」
困ったように笑う降矢。
素敵な魔法を届ける彼らへ余計な詮索は無粋だとは理解していると言うものの、やはり気になる……扉の向こう。
だが約束は約束だ。
「我慢我慢……っとね」
「そうそう、魔法は謎だらけでなくっちゃ」

そんな話をしていれば、二人の前にキッチンワゴンが運ばれてきた。
ワゴンの上には暖かなスープとワイン、そしてチキンが乗せられていた。
二人はハンドベルを手に持って、タイミングを合わせながら揺らしていく。
ゆっくり口ずさむ懐かしいクリスマスソングは、二人の思いに答えるように料理に降り注いでいく。
普通の料理が仕上げが終わる頃には、キラキラと輝いてしまうのだから不思議だ。
ポケットから赤鼻を取り出して、降矢はキッチンワゴンを押していく。

「トナカイさんが先導しますよー……なんて」
「はは、それじゃあお願いしようかな?トナカイさん」

 窓辺に座った男性の元に運ばれた料理。
お待たせしましたと声をかけてテーブルに乗せていけば、男性は目を見開き驚いている。
「…どうかしました?」
「ああ、いや……なんでもないんだ、まさかそんな事は」
ブツブツと何か話す男性に、二人は「ごゆっくり」と挨拶をして背を向ける。
だが次の瞬間二人の背から聞こえたのは、すすり泣く男性の声だった。
何があったのかと振り返ると、スープを一口飲んだ男性は声を殺して泣いていた。

「だ、大丈夫ですか?!」

何かあったのだろうかと慌てて駆け寄った日向。
男性は日向に目を向けると……嬉しそうに微笑んだのだ。
日向の後ろに経った降矢も、何があったかさっぱり分からない。

「……あ、あの」
「ああ…すまない…不思議な事だよ、見知らぬレストランのはずなのにね」

もう一度スープを一口飲んだ男性はもう一度涙をこぼした。
嬉しそうに笑いながら涙を流す男性に、嬉し涙なんだと理解する。
落ち着いたのか、男性は驚かせてすまないと謝った後、二人にこう言った。

「驚いたよ、死んだお袋の得意だったスープの味そのまんまだ」
「え…?」
「ああ懐かしい、ここに来てよかったよ」

…男性の亡くなった母親の得意料理の味。
そんな事がレストランで再現できるのだろうか?
頭を下げて元の場所へ戻る二人は、呆然としていた。

「……こんな事、あるの?」
「うーん…不思議にも程があるというか…なんというか…」

ただ嬉しそうに微笑んだ男性は、どこか晴れ晴れとした表情をしているように見えた。




 レストランの外はとても寒い。
だがその寒ささえも忘れてしまう程、人は多く賑やかだった。
ふわりと漂う料理の湯気が、更に空腹を掻き立てる。
「お姉ちゃん、これお外のお客さんにお願いね」
運ばれた料理にハンドベルを持った楓乃は、隣で料理をじっくり観察するウォルフを待った。

「ウォルフ」
「お、悪いな…にしても美味そうに作るからついつい中が気になっちまう」

仕上げが施されていない状態にしても、とても見栄えの良い料理はウォルフを刺激する。
じーっと観察するパートナーに咳払いを一つして、楓乃はハンドベルを上げる。
「せーの」
「せーの」
……今まで何処かから流れてくるのを、ただ聞くだけだったクリスマスソングを歌う。
隣にいるパートナーと歌っていけば、ハンドベルは澄んだ音色を奏でて料理に輝きを与えていった。
ワンフレーズ終わると、料理の仕上げは完成だ。

「それじゃあ持って行ってくるね」
「おう!いいぜ!」

料理を持った可愛らしいサンタのパートナーを見送ったウォルフは、今にも雪が降りそうな空を見上げた。
…歌を歌うのは恥じらいがあるものの、隣で楽しそうに笑う表情は見ていて心がくすぐったい。
「お兄ちゃんいいことあったの?」
「うお!?い、いきなり出てくるなよ!」
隣で見上げるシャゼルに驚いたウォルフは、頭をくしゃくしゃに撫でてシャゼルを誤魔化す。
嬉しそうに笑っていたシャゼルだが、ふと外を見てウォルフの袖を掴んだ。
「お兄ちゃんあれ」

 差した先にいたのはパートナーの楓乃。
運んだ料理について聞かれているらしく、うまく答えられず困っているようだった。

「この料理はとても素晴らしい!是非シェフにお会いして隠し味を知りたいのだが」
「え、あ…あの…」

「すみません、その料理はシェフの特別なものでして」

楓乃とお客さんの間に入るように出て行ったウォルフ。
レシピは門外不出だと説明して頭を下げれば、お客さんは渋々納得してくれた。
ホッとした楓乃は、説明を終えレストランに戻るウォルフの背を見つめる。

「……ありがとう、ウォルフ」

困った時に助けてくれるパートナーに、楓乃は小さな声で感謝の気持ちを呟く。
言葉に合わせて、夜空に白い吐息が流れていった。



「クリスマスケーキをいただけるかしら」
「ケーキですね、かしこまりました」

 老婦人が頼んだのは小さなクリスマスケーキ。
すぐにお持ちしますと頭を下げて立ち去ろうとしたかのんに、老婦人はかのんを呼び止める。
振り返れば、老婦人はどこか寂しそうな表情を見せて、小さく微笑んだ。

「ふたつ、ですか…?」
「ええ、できればロウソクも欲しいの」

なんだか心に引っかかるその表情がとても気になった。
シャゼルに注文を伝えると、ケーキはすぐに用意される……ショートケーキと、モンブランだ。
「え?あの、クリスマスケーキに……モンブラン?」
「うん!モンブランのロウソクはこっちをさしてね」

渡されたロウソクは数字の形をしたロウソク。
クリスマスケーキらしくない用意に、かのんは首を傾げた。

「お待たせしました」
「あら、ありがとう」

老婦人の前にケーキを出したかのん。
少しだけ待ってくださいとお願いすれば、老婦人は頷いてくれた。
遅れてやってきた天藍と一緒に、ハンドベルを取り出す。

……本当は仕上げをかけてから渡すべきだろう。
だがどうしても、悲しそうに微笑んだ老婦人に笑って欲しくなったかのんの提案で
老婦人の前で、仕上げをする事にしたのだ。
空いている手を天藍の手に絡めるように握ると、そっとハンドベルを鳴らす。

「……まあ…」

美味しいケーキを食べて欲しい。
素敵なクリスマスにして欲しい。
そんな思いで歌を歌う二人に答えるように、ハンドベルはケーキに仕上げをかけていく。
目の前でキラキラと輝くケーキに、老婦人は驚いていた。

「差し出がましいとは思ったのですが…クリスマスソングです」
「いいえ、まるで天使様が歌ってくれたのかと思ったわ」

クスクスと笑う老婦人は、ケーキを一口運ぶ。
やっと、悲しい表情が無くなって微笑んだ老婦人に、かのんは天藍と微笑んだ。
 ふと、モンブランにささっている数字のロウソクに、老婦人は二人に問いかける。

「ねえ、この8の数字は何かしら」

そういえば、ロウソクの意味をシャゼルから聞いていない。
しまったと思ったかのんを遮るように、天藍が答えた。

「シェフがモンブランには8のロウソクをさすように……と」
「まあ、どうして8なのかしら」
「……お客様に必要なものだろうと、シェフの計らいです」

どういう事だろうと首を傾げたかのんに、老婦人は困ったように笑った。
モンブランを見つめて、老婦人はため息混じりに話してくれた。
毎年のクリスマスを、一人寂しく過ごしているという事、息子達は家族を持ち帰ってこない事。
広い部屋はあまりにも寒く、いくら暖炉で暖かめても意味が無いという事。

「一緒に過ごしたい人も、遠くにいていつも一人なのよ」
「そう、だったんですか」
「ええ…クリスマスはね、あの人の誕生日でもあるの」

あの人の大好きなモンブランを用意して、毎年待っているの。
そう言った老婦人は、一人で迎えるクリスマスは8回目だと教えてくれた。
寂しいのには慣れたはずなのに、今日はどうしてかしら。
そう言って無理して笑う老婦人に、胸が苦しくなった。

「でも不思議ね、今年のクリスマスケーキはとても美味しいわ」
「特別な仕上げを施していますので」
「っふふ…あの人は可哀想ね、こんな美味しいケーキが食べられないなんて」

天藍の特別な仕上げという言葉に老婦人はクスクスと笑ってケーキを食べる。
ショートケーキを食べ終え、モンブランも食べて帰ろうと手を伸ばした……その時だった。
 バン、と勢い良く開いたドアの向こうに立っていたのは、息を切らした老紳士。
キョロキョロと辺りを見回した後、ふとこちらに視線を向ける。

「よかった!今年は間に合った!」

老紳士は老婦人を見つけると嬉しそうに抱きしめた。
目の前で起こった突然の事に呆然と成り行きを見つける二人だが、老婦人が頬を赤らめて困っているのに気づく。
老紳士は二人に頭を下げて、改めて注文させてほしいと声をかけた。

「はーっぴばーすでーとぅーゆー」
「……え?」
「ほら、お姉さん達も!はーっぴばーすでーとぅーゆー」

後ろからキッチンワゴンを押して歌い出すシャゼルに驚けば、ワゴンの上にはバースデーケーキがあった。
驚いた老夫婦に、シャゼルはにっこりと笑って二人の背を軽く押した。

「当レストランの粋な計らいって奴です、特別な仕上げと共に素敵な時間をお楽しみください」
「っ……天藍」
「もう一仕事、だな」
もう一度繋がれた手は、さっきよりも強く握って、もう一度歌う歌は料理へではなく……。
「素敵なレストランを見つけたね」
「ええ……ほんと、素敵なレストランだわ」

嬉しそうに寄り添う、夫婦の為に。



「わーい終わったよー!お兄ちゃんお姉ちゃんお疲れ様ー!」
 両手を上げて喜ぶシャゼルはとても嬉しそうにはしゃいでいた。
あれだけ働いたというのに走り回る彼を見て、なんだか疲れが増す一同。
目の前を走りぬけようとしたシャゼルの頭を掴んだアモンは、腹回りをくすぐりながら大人しくさせていた。

「ちょろちょろすんな、こっちは疲れてんだよ」
「まあまあお疲れ様って言ったじゃん」
「言ってどうこうなる程お気楽な頭してないんだよ」

そう言ったアモンに、シャゼルは笑うのをやめてアモンから離れた。
少しだけ考えて、シャゼルは指を鳴らす。
消したはずのロウソクに、火が灯った。

「じゃあ頑張ってくれたお兄ちゃん達にお返しをしなくっちゃね」
「……シャゼル、君は一体何者なんだ?」

他のウィンクルムと話していたリオはシャゼルに問いかけた。
レストランにやってきたお客さんの思い出や気持ちを汲み取るように出て行く料理。
知らないはずの思い出を察するように用意された料理。
……死んでしまったはずの母親と同じ味の料理。
全てがたった数十分の間で用意できるわけがない、リオはシャゼルにもう一度問いかけた。

「君は一体何者なんだ?」

次の瞬間、厨房から出てきた白ひげの老人に皆は視線を向ける。
ふらふらと揺れるように歩くサンタクロースは……どこか【変だ】

「サンタさん、さっき会った時より……パンパンになってない?」
「つまみ食いをしすぎたにしては…膨れすぎですねえ」

そう言った月野とアルベルトの言った通り、まるで風船のように膨れたサンタさんに違和感を覚える。
大丈夫ですか?と手を伸ばした楓乃が、サンタさんに触れようとした瞬間。
物凄い勢いでサンタさんが飛び上がり、天井をぐるぐると飛び周りだした。

「え!?え!?」
「な…あのサンタ偽物だったのか!」

空気が抜けてしおしおになったサンタさん【だったもの】に唖然とする一同。
だがその先に立っていた人物に、更に驚かされる事となる。
「いやー危なかったー、ギリギリセーフかなー」
桃色の髪を揺らしたサンタ服の青年は、楽しそうに驚いている一同を見つめ笑っていた。
…見覚えのある、桃色の髪。

「騙しててごめんね?改めて自己紹介するよ、僕の名前は……シャゼル・サンタクロース」

「え」
「えええええ!?」

子供の姿で人間と接触して、クリスマスに沢山の人を幸せにしてみせろ。
シャゼルが言うには、それが【先生が出したサンタクロースになる為の試験】だったそうだ。
子供の姿一つでは信憑性に欠けてしまう、だからシャゼルはサンタクロースと称した偽物を用意したと言った。
試験が終わり、無事合格するまで元の姿には戻れないルールだったと頭を下げる。

「だから厨房も見せられなかったわけね」
「ん?でも料理を作っていたのは一体……?」

納得する日向の隣で疑問符を浮かべる降矢に、シャゼルは「お答えします」と答えた。
厨房の扉を開けたままにして指を鳴らすと、調理器具がふわりと浮かび、踊るように料理を始める。
その光景はまさに【小説のような光景】で、一同は驚くばかりだった。

「……とまあこういう事情で見せられなかったんだよ、でも皆のおかげで無事サンタクロースの称号が貰えた」

本当にありがとう。
深々と頭を下げてお礼を述べるシャゼルに、悪気は無かったようだ。
誰も怒っていないと答えるように、一同は顔を合わせてシャゼルに笑顔を向ける。

「まだ時間はあるから、最後は君達を幸せにさせて欲しいな」


厨房から運ばれた料理がテーブルに並べられると、シャゼルはハンドベルを鳴らし歌を歌った。
……クリスマスは、まだもう少し終わらない。






依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター らんちゃむ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月12日
出発日 12月20日 00:00
予定納品日 12月30日

参加者

会議室

  • [7]リオ・クライン

    2014/12/19-23:56 

  • [6]月野 輝

    2014/12/19-23:29 

  • [5]日向 悠夜

    2014/12/17-21:11 

    挨拶が遅れてごめんね。
    皆とは何度かお会いしているね。今回もよろしくお願いします!

    クリスマスソング…歌い方によって幸せの掛り方が違ったりするのかな。頑張らないと。
    服装については、私はサンタ服で降矢さんにはウェイター服+被り物にしようと思っているよ。

    厨房はとっても気になるけれど…我慢我慢。
    楽しいひと時になると良いね。

  • [4]かのん

    2014/12/15-19:56 

    悠夜さん、楓乃さん、お久しぶりです
    リオさんははじめまして
    輝さんとは引き続きご一緒ですね、どうぞよろしくお願いします

    クリスマスソングを歌うのは少し恥ずかしい気もしますが・・・それでお客様に幸せが届くのなら、頑張りますね

    服装は、折角のクリスマスなので、2人でお揃いのサンタ服も良いかなと思っています
    (隣の天藍の顔を見上げつつ)・・・男性の場合は髭も付くのでしょうか?

  • [3]月野 輝

    2014/12/15-18:53 

    こんばんは、かのんさんは先程ぶり…昨日ぶり?
    他の皆さんはお久しぶり。今回もよろしくお願いしますね。

    給仕のお仕事ってちょっと憧れだったのよね。
    前にアルバイトした時は調理スタッフだったから今回は楽しみにしてたの。

    服装はどうしようかまだ考え中。
    サンタ服もいいんだけど、ワインレッドのウェイター服って素敵だなって思うのよね。
    どうしようかしら。
    帽子だけ被るって手もあるわよね。

    ダイスは10面か6面かを選んで発言すればいいはずよ。
    昨日他の会議室で試した時は何も出なかったんだけど、今回はどうかしら(ダイスを振る

    【ダイスA(10面):5】【ダイスB(10面):4】

  • [2]リオ・クライン

    2014/12/15-15:00 

    楓乃と輝はお久しぶり、かのんさんは初めまして。
    リオ・クラインだ。

    従業員か・・・。
    これを期にアモンもマナーを覚えてくれればな。
    サンタ服はパートナーのどちらかが着ることも可能か?

    さて、今回からダイス機能が付いた様だが、誰か詳しい使い方を知ってる者はいるのか?

  • [1]楓乃

    2014/12/15-08:30 

    みなさんお久しぶりです。こんにちは。
    飛び入りで参加させていただきました楓乃です。

    レストランの従業員なんてとっても素敵ね。
    ウォルフってば、「どーやって料理つくってんだ?」って
    厨房を覗きたくてそわそわしちゃってるのよね。
    約束だからダメなのに。もう。

    上手にできるかはわからないけれど、
    ハンドベルと歌で、皆が幸せな気持ちになれるよう精一杯頑張るわ。

    お洋服はサンタさん服・帽子セットをそれぞれ着ようかな。
    せっかくだものね。

    では、皆さんどうぞよろしくお願いしますね。


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