【愛の鐘】継がれる夢(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●小さきも世界の一部

 ホワイト・ヒル。
スノーウッド近隣最大の町には、教会がいくつもありその鐘の音は『邪』を払うとされています。
いつからその鐘があるのか、知っている人間は少ないでしょう。
それでも、その鐘の音が本当に美しく、クリスマスにおける『聖なる力』を授かっていることは自然と信じられるものでありました。

 その鐘の音が少しずつ盗まれている。

 噂がすっかり事実であると知れ渡る頃には、人々の心を徐々に不安という闇が蝕むには充分であり、
それはホワイト・ヒルに住む町人たちだけではありませんでした。


 ノースガルド地方、大半に広がるスノーウッドの森。
そこに遥か昔から住み続ける村が点在しています。
古代の森にそびえ立つメリー・ツリーの近くにも例外ではありません。
メリー・ツリーは奪還されたものの、長期間瘴気に晒されたこともありその力は元には戻っていませんでした。

 メリー・ツリーのそばに、とある小さな小さな村がありました。
毎年この時期になるとホワイト・ヒルの方から聞こえてくる鐘の音が、この村にとっても幸せであり希望です。
しかし事件の話はとうとうこの村にまで届きます。

 やっと炎龍王や瘴気から解放されたと思ったのに…
村には、取り払うには広がりすぎた不安の波が、すっかり満ちてしまっていました。

 村長は立ち上がります。
滅多に村から出てはいけない、古き伝統を村長である自らが破る重みを背負って。
村を守るために。そこに暮らす子供たちに、希望の笑顔を取り戻すために。


●A.R.O.A.本部

「と、向こうの支部から依頼、というかお願いが来たんです」

 通りがかるウィンクルムたちに、張り出している最中の依頼書を説明する職員。

「鐘の事件解決を待っているヒマは無さそうでして。
 メリー・ツリーに最も近い村っていうのもあって、その村の不安が強くなることは
 メリー・ツリーにも良い影響が出ないのでは、と判断されました。

 今、その村に希望を取り戻す最後の手段があります。
 ホワイト・ヒルの鐘以外にもう1つ、その村伝統的に幸せを受け取っていたものがありまして。

 子供に至っては成人するまで、それでも大人ですら滅多に村の外に出ない古い戒律のあるその村では
 この時期になると、ホワイト・ヒルの子供たちが大人と連れ立ってやってきて、お話を聞かせてくれているんだそうです。
 ただ村の中に入ることはできません。ええ、戒律によって村の外の人間は入れないんです。

 村が見えてくる手前、村から数十メートル離れたところに、雪のように真っ白な花が咲いているのはご存じですか?
 この時期、なぜかそこにしか咲かない『ハカサ草』という名です。そうなんです、花に見えて種類上は草なんです。
 その草の根は、その村までずっと伸びていて村の中に同じように真っ白な姿を生やしています」

 どことなく想像がついた何組かのウィンクルムの瞳と出会い、職員は微笑んで頷く。

「花のように筒状に開いた白い葉に語りかけると、村の中のハカサ草に声が届くんだそうです。
 根が繋がっているとはいえ不思議ですねぇ。ええ不思議です」

 ハッと何か思い出した職員。人差し指を立て、『うちの科学班、この草のこと知らないと思うので…出来れば秘密で』とか何とか。
 脱線しかけたのを戻すように。

「ホワイト・ヒルの子供たちが、いつもこの草に話しかけて外の世界の事、自分の思い出や夢を村の子たちに語ってくれてたそうなんですが。
 ……今年はなにぶん、メリー・ツリー含む古代の森一帯が瘴気に包まれたこともあり、大人が行かせたがらないそうなんです。
 瘴気の影響はもう大丈夫と伝えても、やはり恐怖はしばらく残るものでしょうから……」

 職員は落ちていった肩を元に戻し先を続ける。

「ですから、今回はウィンクルムの皆さんにご協力をとのことなんです。
 何でも構いません。
 子供たちもそうですが、夢を忘れかけた大人たちも希望を取り戻すような、そんなお話を語って頂ければ。
 幼い頃描いた夢、クリスマスの思い出、将来を想像するような詩……」
 

   アナタはどんな夢をもっていましたか?

解説

★ハカサ草に夢を語りかけ、村の人々に希望の光を灯しましょう★

ウィンクルムのどちらか、または両方で、
不安に覆われた村の子どもたちが将来へ夢を抱けるような、そんなお話をしてあげてください。

思い出話、詩の朗読、歌など。希望が込められていれば何でも構いません。

聞く側に回って、パートナーの新たな一面・意外な夢を発見するのもいいですよね☆
ちなみにイチャイチャしているのが聞こえると、愛が薄まった村内家族や恋人さんたちが何かを取り戻す(こともある)かもしれません。

●貴重なハカサ草保全の為の寄付金:400Jr
 スイマセン。あっちの支部からどうしてもと頼まれた本部職員が断れませんでした。
 今年は事件が多いせいで寄付金が少ないせいだそうです…「村の為と思って…っ」※職員お辞儀

ゲームマスターより

蒼色クレヨン、推して参る!!
 ※推参:呼ばれてもいないのに現れること

ちょっぴりお久しぶりです!皆様とクリスマスしたい衝動に勝てませんでした!

ジャンルは「ロマンス」ですが、相も変わらずクレヨンエピはジャンル問わずです。
コメディちっくでもシリアスでも、キャラ様らしく挑んで頂ければ嬉しいです。
大事なのは 何を成すか ☆

皆様の夢や希望やらぶらゲッフン、色々溢れるプランをお待ちしています♪

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  こんにちは 今日はよろしくお願いします
ハカサ草にそっと触れながら ぺこりと一礼

弟や妹に クリスマスに読んであげるお話があるの
気に入ってもらえるといいのだけど

サンタの訪れを待つ森の動物たちに 空の上から花を降らせるサンタクロースの物語

スキル:歌唱 子ども好き使用
登場人物によって声音を変えたり 動物たちの歌を歌ったり 子どもたちに喜んでもらえるよう読み聞かせ
自分を見ているシリウスに気づき 頬を膨らませる

今 笑っていたでしょう?
貴方がどんな顔をしているかなんて すぐにわかるんだから
ーほら、今はちょっと驚いた

小さな表情の変化に くすくす笑う

顔をあげて
希望はいつも側にあるわ
私はそう信じてる 



ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  夢…
日記によると、ハロルドはこれも含め
過去をディエゴさんに知られるのを恐れていましたが…
私は知ってもらって、ディエゴさんがどう思うかを見たいです。

私の夢は、好きだった仕事…騎手に復帰することです
私は小さい頃から騎手になる為に頑張ってました
何より馬が好きだったので…
ただ、誉められてばかりで叱られることがなかった私は
夢が叶う頃には…あの、相当我が儘になっていました
周りの人の言うことも聞かず、馬が好きだった気持ちも忘れて
好き勝手に振る舞ったせいで事故を起こしてしまい、騎手を辞めざるを得ませんでした

今思うのは馬に乗りたい
失敗した過去を乗り越えることが私の夢です。

ディエゴさん…私を軽蔑しましたか?





ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)
  (微笑し)相応しい語り部が私の一族にいるが
私で我慢してくれ

●話
少女が病院で元気をなくしていた
親しい人とも離れ
知らない人の中で一人
顔にも怪我をし
醜くなったと思っていた

彼女は音楽一家に生まれ
音楽の素養がなくて落胆していた
そんな中の入院で絶望していた

ところが
微笑みかけてくれる人がいて
一緒に病院の外に連れ出してくれ
新しい世界を見せてくれた
顔の傷も気にしないと言ってくれた

だから
暗い闇に閉ざされて
もう駄目だと思っても、希望を捨ててはいけないよ
必ず誰かが手をさしのべてくれるから

●その後
気にしていた、には
まあな、と言葉濁す
脳天気な言葉に笑う

契約のし直しには驚き、照れながら手を差し出す

ただ護られるだけは嫌だぞ



アンダンテ(サフィール)
  不思議な草ね、電話みたいだわ
もしもーし、聞こえますか?
あ、あら、そうよね。恥ずかしい…

野望って何かしら…
気になるけど話さないと

夢、夢よね
えっと、初めまして
私はアンダンテ、占い師よ

私の夢は、世界を端から端まで巡る事かしら
元々は旅芸人の一座にいてそこのみんなと一緒に旅していたのだけど…
今はちょっと訳あってばらばらになっちゃってまだ回りきれていないのよね

世界って本当に広くて興味深いのよ
どこに行っても新しい発見があるの
私すっかり旅の虜になっちゃったわ

あ、その時はサフィールさんも一緒にどう?
契約したのも何かの縁だろうしね

あら残念
でもまだ旅に出る予定は出来てないから気が変わったら教えてね
気長に待っているわ



 ホワイト・ヒルの住人から受け取った地図に沿って、4組のウィンクルムたちはすっかり暗くなったスノーウッドの森を進んでいく。
程なくして、頭上を淡く照らす光を受けた、真っ白な花のようなものが視界に捉えられた。
夜空色に映える月の色。
ハカサ草だった。

「わ……本当にお花みたいですね」

 リチェルカーレがその場にしゃがみ込み、白い息と共に感嘆の言葉を発する。
シリウスはその後ろから僅かに一度、眩しそうに目を細め、ただ不思議そうにそれを見つめた。

「根が繋がっているとはいえ、何故声が届くのか……」
「そこは私たちが考えなくてもいいところです、きっと」

 そ、とハカサ草の、花びらに見える白い葉に手を触れながら漏れた、ディエゴ・ルナ・クィンテロの呟きに素っ気なく
ハロルド、今はエクレール・マックィーンであるパートナーの彼女は返す。

「希望ねぇ……」
「どうした?レオン」

 ハカサ草を見下ろし、考え込むレオン・フラガラッハに、ガートルード・フレイムは声をかける。
直後、第六感が体を動かした。

「俺、思い返してもろくことしてなフガッ」
「もう村の人たちが聞いてたらどうするんだ……!」

 それなりに経た付き合いによりパートナーの言動予測がつき始めたガートルードの手のひらに、レオン、口を塞がれた。

「不思議な草ね、電話みたいだわ。もしもーし、聞こえますか?」

 アンダンテの、薄いヴェールに覆われた口元から、意外と好奇心をはらんだセリフが飛び出し
サフィールは目を丸くした後、控えめに突っ込みを添える。

「本当に電話な訳ではないですから、返事はないと思いますが」
「あ、あら、そうよね。恥ずかしい……」

 年上かと思っていたアンダンテの、どこか子供っぽさすら感じる言葉の色に、サフィールは内心思う。
(さすがに聞けないですがいくつなんでしょうか本当に……)

 片割れのハカサ草が生える村の中では、すでに漏れ聴こえてくる会話にクスクスと笑みを漏らし始めている子供も居た。


●希望 それは一筋の光

「俺ネタねえから、お前に任せるよ」
「う……私も得意というわけではないのだが。……分かった」

 ハカサ草の傍で、小声でそんなやり取りをした後。
ガートルードはハカサ草の前に膝をつき、優しく語りかけ始めた。

「相応しい語り部が私の一族にいるが、私で我慢してくれ」

 村からの声は聞こえないが、応えるかのように風に吹かれたハカサ草がそよりと揺れる。
一度深呼吸をし。

「少女が病院で元気をなくしていた。親しい人とも離れ、知らない人の中で一人。
 顔にも怪我をし醜くなったと思っていた」

 やれやれとかったるそうに木へと寄りかかり、すっかり聞くだけな姿勢となっていたレオン。
が、すぐにその耳は、ガートルードの声色を拾うようそば立てられることとなった。

「彼女は音楽一家に生まれ、音楽の素養がなくて落胆していた。そんな中の入院で絶望していた」

 そのくだりで、目が丸くなるレオン。
ハカサ草の向こうからは、どこか寂しそうな気配を感じた気がする。
ガートルードは安心させるように、笑みを深めて囁き続けた。

「ところが。
 微笑みかけてくれる人がいて、一緒に病院の外に連れ出してくれ、新しい世界を見せてくれた。
 顔の傷も気にしないと言ってくれた」

 後ろから感じる視線に苦笑いを浮かべながらも、ガートルードは最後に、強い意思を込めてハカサ草へと口を寄せる。

「だから……暗い闇に閉ざされて もう駄目だと思っても、希望を捨ててはいけないよ。
 必ず誰かが手をさしのべてくれるから」

 ひと呼吸置いた後、ガートルードはゆっくりと立ち上がった。
振り向くとそこに、自分をしげしげと見つめていたレオンの視線と出会う。

「それ、お前の過去の脚色か?俺はお前を救ったつもりなんてこれっぽっちもねえんだが……。
 ……つか、才能なかったこと、気にしてたんだ」

 ハカサ草から距離を取りレオンのそばまで歩いてから、ガートルードは軽く横を向いて、まあな、と言葉を濁した。
音楽一家の中に生まれたからには……その……、と口腔から言葉が発しきれずどもってすらいる。
先ほど語っていた、凛と優しい口調とはまた打って変わった感じだなと、レオンはこっそりその二面性に微笑する。
時折自分の前で見せるようになったその表情に、最近可愛さを感じているのは怒られそうなのでまだ内緒だが。
そうしてしばし、そのそっぽ向いた横顔を眺め何かを考えてから。

「むしろ良かったんじゃね?家族と離れてさ。変なコンプレックス抱いて生きるより、絶対いいって」

 今度はガートルードが目を丸くし、思わずレオンへと向き直る。

「お前を顕現させたギルティに感謝だな!」
「ギルティに感謝って……お前はまったく」

 ははっ、と。
ガートルードにしては珍しくもあるかもしれない。ハッキリとした笑い声が漏れる。
そんなパートナーの笑みを嬉しそうに確認してから。
先ほどガートルードが語っていた、そして自身の記憶もレオンは思い起こす。

「そいや、お前と契約したの病院か。ムード0の契約だったな!」
「契約にムードもなにもないさ」

 気にしていないとまだ笑みを浮かべたままのガートルードの正面に
レオンは、つと立ち直した。
不思議そうにそのアイスブルーの瞳を見上げるガートルード。
その前に無骨な広い手が差しのべられる。

「もう一度契約し直さないか、今ここで」
「え……?」

 見つめ続ける瞳の奥に、冗談の光は見えない。
レオンの真意を図りかねるも、今のガートルードには反対する理由も見当たらなかった。
照れるようにそろそろと、文様のある己の手をレオンへと差し出してみる。

「こういうの苦手だが……ええと」

 たどたどしく跪くも、差し出された手をしっかり取って。

「これからも護るよ、ずっと」

 その文様へと、レオンは優しく口づけた。
その様をどこか呆然と見つめるガートルード。

「初めて会った頃、そういえばかっこいいと思ったことを……また思い出した」
「今もかっこいいだろ?」
「真面目な顔になると……やはりどちらかというと美人だな、と」
「そろそろ美人から離れようぜっ」

 照れ隠しにお互い、そんな会話を成す。
それでも最後に、ガートルードはしっかりと言葉を伝えた。

「ただ護られるだけは嫌だぞ」

 ガートルードの真剣になった表情と言葉に、手に顔を寄せたまま ぶはっと吹き出すレオン。
少しでも対等でありたいと、ずっと言葉でも態度でも示されていたっけと。

「お前のそーゆうとこ好き」

 軽い口調に思わず文句を言いそうになったガートルードだが、口づけを受けなおもまだ握られたままの手が
どこまでも力強く、そして温かく。
自然と言葉は喉の奥に溶けていって。
いまだ離されない二つの手の周りには、薄らと雪の結晶が舞ったように見えた。
まるで新たな二人の絆を祝福するかのように。

●希望 それは楽しむ心

「こんにちは 今日はよろしくお願いします」

 ハカサ草を優しく一撫でして、ぺこりと律儀にお辞儀するリチェルカーレを少し楽しそうに見つめるシリウス。
元来が物語などを語るに向かない性格であると自覚していたシリウスは、早々に、それでもどこか気まずそうに、
語り部役をリチェルカーレに頼んだのであった。
嫌な顔一つせず微笑んで了承したその少女は今、お気に入りの絵本を一つ持って、ハカサ草の前にしゃがんでいる。

「弟や妹にクリスマスに読んであげるお話があるの。気に入ってもらえるといいのだけど」

 ハカサ草の先では、クリスマスのお話!?と期待に目を輝かせた子供たちが、リチェルカーレが語り出すのを待っていた。
子供たちの興味を引く話し出しが上手いものだ、とシリウスは内心感心する。
そうして、リチェルカーレが紡ぎ出したのは、
サンタの訪れを待つ森の動物たちに、空の上から花を降らせるサンタクロースの物語。
毎夜、闇夜を見上げて、本当にサンタさんは来るかしら もしかして来ないんじゃ、と不安になってくる動物たち。
そこへ、ちょっと遅れたお詫びにと、空一面に花畑が咲いたように花びらを舞わせてサンタが登場。
不安なクマのちょっと低くて寂しそうな声。
登場したサンタの、ほっほっほーと高らかな笑い声。
舞い散る花に喜び、歌いだすウサギたち。
リチェルカーレはその場面に応じて、器用にクルクルと声と表情を変化させていた。

(映像は届いていないはずだけどな)

 しかし、それは今の自分が感じるように、きっと子供たちも夢中で聞き耳を立てているに違いない。
シリウスはいつの間にか少女から目を離せずにいる自分に気付かないまま、小さな微笑みを向けていた。
すると、リチェルカーレが不意にこちらを振り向いた。
視線が合えば、いつもどおりの平静顔でいたつもりであったシリウスだが、視界に映る少女の頬は段々膨れていった。
そして呟かれる言葉。

「今、笑っていたでしょう?」
「そういうつもりは無いが」
「貴方がどんな顔をしているかなんて、すぐにわかるんだから。――ほら、今はちょっと驚いた」

 己の表情筋などほとんど動きを見せないはずなのに。
リチェルカーレの言葉に僅かに目を見張った途端、あっさりとその心中を言い当てられたシリウスは
先程まで赤くしていた顔が、もうクスクスと笑っているのをまじまじ見つめる。
そうして。つられるように苦笑いを向けた。

(内面に踏み込まれるのは苦手だ。……それなのに)

 どうしてか、彼女には自分の表情を読まれるようになってしまった。
そして、そうされることに悪い気はしない自分がいるのだ。
シリウスは瞳を閉じて、最後にハカサ草にクリスマスの温かい歌をプレゼントするリチェルカーレの歌声に耳を傾ける。

「顔をあげて。希望はいつも側にあるわ。私はそう信じてる……」

 すっかり終えてシリウスの傍へと駆け寄る少女に、閉じた瞳を開き『お疲れ』と一言声をかける。
絵本を抱きしめ微笑み返したリチェルカーレは、夜空を見上げた。

「わぁ……」

 促されるように上を見上げたシリウス。
二人の目に飛び込んできたのは、真っ白に浮かんだ月と、それを囲むように彩る星々だった。
どちらからともなく過ぎったかもしれない。
あの黄色と赤のグラデーション帯びた光は、
真っ赤に燃えるような赤い光は、
まるで互いに贈り合った昼の星々のようだ、と。
いつの間にか己の体に寄り添うようにしていたリチェルカーレを、そっとシリウスは見つめる。
いつだってまっすぐに相手を見るリチェらしい まっすぐな言葉。

(いつも側にあるものが「希望」なら、自分の希望は……)

 リチェルカーレの言葉をふと思い返す。
シリウスは無意識に、その寄り添う体へと身を傾けるのであった。

●夢 それは居場所

「私の夢は、好きだった仕事……騎手に復帰することです」

 以前ハロルドと名付けたパートナー、今は本来の名であるエクレールとなっている彼女が語り始めた矢先、
ディエゴの両の目が開かれる。
エクレールは、今の自分になる前の、ディエゴと絆を深めてきたもう一人の自分である『ハロルド』が付けていた日記を思い起こしていた。
『ハロルド』の日記には、記憶を思い出したこと、それをディエゴに知られるのが怖いと、そうたどたどしく綴られていた。

(『ハロルド』は恐れていたけれど。でも……私は知ってもらって、ディエゴさんがどう思うか見たい)

 その決意から、ハカサ草へ語る夢は決めていたのだ。
見守る姿勢となったディエゴから注がれる視線を感じる。しかしエクレールは躊躇うことなく、言葉を続け始めた。

「私は小さい頃から騎手になる為に頑張ってました。何より馬が好きだったので……。
 ただ、誉められてばかりで叱られることがなかった私は、夢が叶う頃には……あの、相当我が儘になっていました」

 振り返ること、自らも受け止めることも大事なのだと言い聞かせても、当時の自分を思い出しそれを口にするのはやはり辛い。
ひと呼吸分、一度話を区切ったエクレールに今すぐに声をかけたい衝動に駆られるも、ディエゴは己を律し
今はただ語り部の行く末を見つめるに留めた。

「周りの人の言うことも聞かず、馬が好きだった気持ちも忘れて。
 好き勝手に振る舞ったせいで事故を起こしてしまい、騎手を辞めざるを得ませんでした」

 ごくり、と。
ハカサ草から響く声の先で唾を飲み込む子供たち。
どうなるの?おねえちゃん、どうなるの?と顔を見合わせたり。
そうとは知らずとも、続けようとしたエクレールの口元は微かに笑みが作られていた。

「今思うのは、馬に乗りたい。失敗した過去を乗り越えることが私の夢です」

 ハカサ草の先で、子供たちは大人に尋ねる。
どうして?どうして好きだったこと忘れちゃったのに、またお馬乗りたいって思ったの?
大人たちは微笑む。そして優しい想像を伝える。
きっと、また戻りたいって、やっぱり好きなんだって思える、素敵な出会いや経験があったのよ、と。

「エクレール……記憶が戻っていたのか」

 立ち上がった姿で、語り終えたと判断したディエゴはやっと口を開いた。

「ディエゴさん……私を軽蔑しましたか?」
「……いいや」

 一体いつからだろう。どれだけ言い難かったであろう。
ディエゴは『ハロルド』の姿を瞼の裏に刹那見た気がした。
そして瞬いた先、今映るエクレールの顔を真っ直ぐ見つめる。

「俺の昔のことを聞いても、俺を軽蔑しない……いつでも味方だとお前は以前言ったんだよ。俺も同じ気持ちだ、心配するな」
「……私じゃない。『ハロルド』が、です」
「だが今、勇気をもって話してくれたのはお前だ」

 『ハロルド』もといエクレールは、もどかしい気持ちで拳を握り締める。
それでも、軽蔑しないと言ってもらったのだ。十分だと己に言い聞かせて。
そんなエクレールの、以前にも垣間見た不安をディエゴは感じ取った。
一歩、二歩と、今一際小さくなったようにも見えるその体へ歩み寄る。

「お前なら過去の失敗も傷も乗り越えられる。二人で支えて行けば大丈夫だ」
「二人、で……」
「勿忘草……いや、冬が過ぎる頃にはそうなる筈だ」

 いつの間にか俯いていた顔をハッとするように、エクレールは上げた。
デジャヴだろうか、初めて聞いた言葉に感じない。この胸の鼓動と温かさは……。
ディエゴが口にした言葉は、以前に『ハロルド』が彼に伝えたことと同意だった。
しかしそれを伝えられた時の記憶はディエゴには朧げなものであり、決して意識したものではなかった。
心の奥底にずっと眠っていたのだろう。それがエクレールの記憶の告白により、無意識に表面に現れたのである。

「以前言えなかったことをまた言う。俺を信じてくれ」

 改めて彼女に向ける。ディエゴの中の恐れも、エクレールの勇気に押されたのかもしれない。
エクレールからの返事の言葉はない。
その代わり。
いつもより少しだけ温度を感じるように見える、蒼と金色の瞳が細められ。
ディエゴは、浮かべられた微笑と出会うのであった。

●夢 それは世界を知ること

「俺は夢というか、野望なので、ここで話すのに向いているのか分かりません。なのでアンダンテさんどうぞ」

 ハカサ草から距離を置いた位置で立ち止まったサフィールは、事も無げにそうアンダンテに振った。
思わずその顔をしげしげと眺めるアンダンテ。

(野望って何かしら……)

 まだ契約して日も浅いパートナーから初めて聞く言葉に、アンダンテは興味を引かれるものの。
今はお話しないとね、と気を取り直して頷くと、ハカサ草へと静かに跪いた。

「夢、夢よね……」
「アンダンテさん、心の声が漏れてますよ」
「あらいけないっ。コホン!えっと、初めまして。私はアンダンテ、占い師よ」

 溜息をついて傍らで見守るサフィールに、もう大丈夫よ!というように片手を軽く振ってから。
アンダンテは語り始めた。

「私の夢は、世界を端から端まで巡る事かしら。元々は旅芸人の一座にいてそこのみんなと一緒に旅していたのだけど……。
 今はちょっと訳あってばらばらになっちゃってまだ回りきれていないのよね」

 自らの言葉にふと思い出す。
オーガの襲撃で散り散りになってしまった、大切な旅の仲間たちのことを。
自分の家族とも呼べる彼らと再会することも、アンダンテの夢の一つであった。
が、今ハカサ草に語るアンダンテは、そんな憂いも見せることなく微笑みを称えたまま語り続ける。

「世界って本当に広くて興味深いのよ。どこに行っても新しい発見があるの。私すっかり旅の虜になっちゃったわ」

 子供たちはワクワクして聞いていた。
アンダンテの口から話される旅の出来事、珍道中にずっと笑い声を響かせて。
楽しそうに話すアンダンテを大人しく見守るサフィール。
相変わらずベール越しで見えにくい表情を見つめるも、声色から何となく察する。

(あの弾んだ調子……本当に楽しかったんだろうな)

 幼い頃から両親の仕立て屋の仕事が自分の世界となっていたサフィールには、アンダンテの語るものが全て新鮮だった。
だからだろう。普段あまり興味のないアンダンテの話に、これ程耳を傾けている自分がいるのは。

「伝統を守るって素敵だと思うわ。でも良かったら、ほんの少し、世界を覗いてみるのも悪くないかもしれないわ。
 不安があれば私が占ってあげる。いつでもいらっしゃい」

 最後にさり気なく己を宣伝した。
自分に足りないのはあぁいう気軽さなのだろうかと、思わず仕事脳が働くサフィールを余所に
語り終えたアンダンテは立ち上がってサフィールの方へと寄っていく。
それに気付き、サフィールも声をかける。

「お疲れ様でした。本当に色々と回られていたんですね」
「そうね。でもまだまだ行っていない所がいっぱいよ。いつかまた旅を再開したいわ。
 あ、その時はサフィールさんも一緒にどう?契約したのも何かの縁だろうしね」
「面白そうだとは思いますが遠慮しておきます。仕事がありますので」
「あら残念。でもまだ旅に出る予定は出来てないから気が変わったら教えてね。気長に待っているわ」

 ウィンクで応えるアンダンテの表情を、どこかしら年齢を、こっそり窺いながらサフィールは肩をすくめた。
それでも、言葉は正直に紡ぐ。

「俺はタブロスから出た事はないので、世界が広いと聞いてもあまりぴんとこないんですよね」
「そうなの?」
「だから、アンダンテさんの話は中々興味深かったです。また、機会があったら聞かせてください」

 サフィールの言葉に、少し意外そうに目を瞬かせた後。
アンダンテは満面の微笑みと共に答えるのであった。
「勿論喜んで」

 
 子供たちの瞳は輝きを取り戻す。
ねぇねぇ!ここにもお花を降らせるサンタさん来るかな!?
ボク、風邪で寝てるコのところにお話しに行ってくる!
ワタシにもなりたいもの、見つかるかな!見つかるといいなっ
大きくなったらお外みてもいい!?

 大人たちは子供の笑い声で元気を取り戻す。
ああ。このコたちが大人になるのが楽しみだ、と。
それまでは、やっぱり自分たちがしっかりしなくては、と。

 村長は、そんな村人たちの賑やかになった輪を
安堵の微笑みを浮かべて 静かに静かに見守るのだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:アンダンテ
呼び名:アンダンテ
  名前:サフィール
呼び名:サフィールさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 12月13日
出発日 12月18日 00:00
予定納品日 12月28日

参加者

会議室


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