【聖夜/鐘の守護】六つ花の夜(こーや マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●一つ花
 いつものように君はパートナーと共にA.R.O.A.の受付で任務一覧を眺めていた。
自分達の力量や性分を考え、慎重に任務を選ぶこともウィンクルムとして重要な素養だ。
 ぱらり、ファイルをめくると、『教会のツリーの飾りつけ』と書かれた任務を君は見つけた。
ツアー案内のものがなんらかの間違いで任務一覧に紛れ込んでしまったのかと思うものの、よくよく見ればどうも違うようで、れっきとした任務のようだ。
「あの、これは?」
「どれですか?……ああ、この任務ですね。近頃、教会の鐘の盗難が相次いでいるのは御存知ですか?」
「ただの盗難事件と思いきや、オーガが絡んでいるって話のやつか」
「それでホワイト・ヒル警察からA.R.O.A.に協力要請が来たんだっけ」
「そうです」
 受付娘は机の端に置いてあった特に太いファイルを引き寄せ、中から数枚の資料を君達の前に広げて見せた。
ホワイト・ヒルの地図と数箇所の教会に関する資料のようだ。
「すでに多くの鐘が盗まれてしまっていますが、まだ無事なものもあります。この任務はその鐘及び教会を守ることが目的なんです」
 はて。君は首を傾げた。
それならば何故『教会のツリーの飾りつけ』となっているのかが分からない。
「これらの教会は孤児の受け入れを行っているんで、その子供達の身の安全を考慮して護衛としてウィンクルムを派遣してほしいという警察からの要請なんです。
ただ、子供たちを過剰に興奮させたり怖がらせたりするのは良くないでしょうから、『ツリーの飾りつけ』の協力という名目なんです」
 君の隣でパートナーが苦笑いを零した。
確かに、小さな子供たち……特に男の子は警察やウィンクルムなどへの憧れが強く、姿を見るだけでも興奮するものだ。
オーガが来るかもしれないから君達を守りに来たんだよ、なんて言えばどうなることやら。
「既にこれらの教会の近くで翼のある、クラックらしき姿が二対ずつ確認されています。
目撃情報は常に深夜なので、子供たちが寝静まった頃にしかけてくると思われます」
 ただ、そんな教会が複数個所ある為、各教会に派遣できるウィンクルムは一組ずつだと受付娘は言い添えた。
君は驚きに目を丸くし、パートナーは眉をひそめる。
受付娘は困ったような苦笑いを浮かべて見せた。
「既に盗まれた鐘の奪還なども併せて行わなければいけなくて、派遣できるウィンクルムが限られているんです。
一組ごとの負担は大きいと思うんですが……協力してもらえないでしょうか?」

解説

○目標
敵二体の討伐×参加組分
教会の防衛

一組ずつ別々の教会に派遣される為、他の参加者との共闘は望めません


○流れ
教会の子供達とクリスマスツリーの飾り付けを行ってください
ツリーの飾りつけだけでなく、子供達を喜ばせる行動は積極的にどうぞ
子供達が寝静まった頃に敵が来ますので、その討伐をお願いします

教会の周りはホワイト・ヒルの警察が警戒していますので、敵が来たらすぐに教えてくれます


○敵
ガーゴイル×2(一組あたり)
石像のような見た目のクラック
いやーな性格してます
翼がある為、空を飛べますが、教会の鐘までひとっとび……という訳にはいかないようです

ゲームマスターより

しゃしゃんしゃんしゃんしゃしゃしゃんしゃん
(訳:白羽瀬GM主催の連動にこーやも参加なんだぜわっしょい)

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆心情
子供達を戦闘に巻き込みたくないもの
私達がウィンクルムだってことは秘密にするよ

☆準備
・お菓子作りの道具と材料を多めに用意
・契約印を手袋で隠しボランティアの人間を装う
・子供や教会の人が人質に取られないよう戦闘中は警察に見張りをしてほしいこと、子供を刺激しないようなるべく私服で来てほしいことを事前にお願い
自分達も細心の注意を払うことを伝える

☆ツリーの飾り付け
・飾り付けが終わった後子供達と一緒にお菓子作りをする

☆戦闘
・自分が神人だということを利用し敵を誘き寄せる
・鞭で敵の足を絡めとりダウンを狙う
・鞭を使う時は精霊に当てたり、周囲の物を壊さないよう注意
・自力で回避できない攻撃は【魔守のオーブ】使用


八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)
  ・事前
地元警察におおよその犯行時刻が分からないか聞いて予想を立てる
(トランスは一晩中はもたないと判断、タイミングをはかるため)
飾り付け手伝いの他にも子供達と外で遊び、その時に教会周辺の地形、鐘の位置や地面との距離等を把握、どこから来るか推測

・夜
予想時刻前にトランス
オーラの光とマグナライトを光源に敵を探す
敵発見後、クリアレインで射撃
飛んでいるなら翼を狙い、地上にいるなら足下に向けて撃つ
主に精霊が相手をしているのとは別の一方を足止め

相手が『いやな性格』なら、弱い方から狙ってくれるかもしれない
いざとなったら前に出て囮になる
その時必要に応じてディスペンサを使用
またその場合も精霊とは別の敵を攻撃、足止め



Elly Schwarz(Curt)
  ・子供達とツリーの飾り付け
落ち込んで?え、あ…見えますか?
ちょ、な、何を言ってるんですか!
はいはい、この話は終わりです!飾り付ける前にクリスマスが終わっちゃいますよー?
※子供達と歌を歌いながら飾り付けをする。
子供達を見ていたら、良いなって…へ?い、いえ!なんでも!
(素直になれて、なんて言ったら僕の気持ちがバレてしまいます…)

・警戒している警察の方と事前に打ち合わせ
誰がどこで警戒しているのか。
また連絡が取り合えるようにしておきたいですね。
派手すぎる作戦は子供達が起きてしまいますし、通信機で連携を取る形でしょうか。
※可能であれば、A.R.O.A.からトランシーバー申請。警察と連絡し合い連携を作る。



楓乃(ウォルフ)
  警察と事前打ち合わせ
警戒時は身を隠し、敵を発見したら懐中電灯の光でこちらに合図してもらうよう伝える

ツリーの飾り付け後は子供達と遊びます
私が歌を歌って子供達に踊ってもらい、夜中に起き出してしまわないよう子供達をよく動かせてぐっすり眠ってもらう作戦です

子供達が眠りについたら私一人が教会前で待機
無警戒の教会のように錯覚させます
合図を受け敵の姿が確認できたら、怯える演技をして敵の注意を惹きつけます(敵のいやな性格をつく作戦)

敵の注意がこちらに向いている間に、敵の後ろに回り込んだ精霊が背後から攻撃
ダメージは無いですが、その隙に私は弓を撃ち敵の目を眩ませてトランス
敵から距離を取り、弓で敵の行動を妨害します



ジェシカ(ルイス)
  鐘泥棒の好きにはさせないわ
覚悟しておくことね

子供達と飾りつけの後は外で遊ぶ
夜に起きられると困るので今のうちに体力を使わせておきぐっすり眠らせる
子供の体力を舐めない方がいいわよ
ルイスは体力残しておいて

夜は
必要以上に大きな音を立てない
窓に光を当てない等を気をつける

左手にマグナライト
右手にフライパン

誘き出すために囮に
トランスしたら単独で前にでてマグナライトを空に向けてぐるぐる振る
声控えめに挑発
よって来たらフライパンで殴りつけつつ注意を引き精霊に背後側面から攻撃して貰う

誘き出したら光源係しつつ精霊後方へ移動
危険そうなら早めに後退し安全確保
2体両方の動向を把握し伝える
敵討伐と教会防衛に尽力を尽くす


「クラックらしき姿が見え次第、連絡するとA.R.O.A.には伝えていたと思うのですが?」
 ある組は懐中電灯の光で合図して欲しいと。ある組は襲来の予想時刻を。ある組は誰がどこで警戒しているのかと。
それぞれが向かった教会のすぐ側で、子供達から見えないように身を潜めていた警察に問い掛けた、その答えだった。
 教会のすぐ側を張り付いていているだけでは連絡が間に合うはずも無いし、懐中電灯の明かりが届くわけも無い。
一人や二人で警戒してる訳でもないし、ましてや誰がどこを担当しているかを知ってどうするというのか。
襲来の予想時刻が分かっているのであれば伝えられているはずだ。
「教会の周囲を警戒する者と、私がそうですが、連絡要員がいます。
ただクラックが来たと伝えるだけでは、A.R.O.A.に我々から連絡すると伝えた意味がありませんから」

 さらにある組は、子供達に配慮して私服に着替えてきて欲しいという要請した。
警官は心底怪訝そうな顔をして答えた。
「どうして我々が教会の近くでクラックらしき姿を発見したのか。クラックが深夜に姿を見せると情報を出せたのか。その意味を、考えられましたか?」
 事前に警察がそれぞれの教会の警備を行っていたからに他ならない。
そして何故、警察が『ツリーの飾り付けの手伝い』という名目で協力を要請したか。そこに彼らの配慮があったからである。
 『敵』を低く見積もってはいけない。高く見積もるのに越したことは無い。
だからといって、『味方』を高く見積もって状況を甘く見るのは論外だが、低く見積もりすぎるのもまた、論外である。
それは相手への侮辱に他ならないのだから。



●雪花
「はい、皆さん。予めお話していた通り、ウィンクルムさんが来て下さいましたよ。ちゃんと御挨拶なさい」
「「「こんにちは、ウィンクルムさん!」」」
 ミサ・フルールとエミリオ・シュトルツは顔を見合わせた。
ウィンクルムだということを隠さなくてはと思っていたのだが、紹介されてしまった。
 隠す必要があるならば受付娘がきちんと教えてくれるかと、エミリオは思い直す。
それに男女の二人組で、エミリオはディアブロだ。
『ヒーロー』に憧れる子供達であればすぐにウィンクルムと結び付けて考えていただろう。
 二人の横に立つシスターはそんな二人の心中など知らず、ニコニコと笑顔で子供達に説明を続けている。
「今日は皆さんと一緒にツリーの飾り付けをする為に来てくださいました。お二人に御迷惑をおかけしないようにしましょうね」
 はーい、子供達が大きな声で返事をする。
続けてシスターが、ツリーの飾り付けが終わったらミサと一緒にクッキーの形抜きをしましょうと声をかけると、子供達はきゃーと喜びを露わにした。
 ミサはお菓子を作るつもりだったのだが、憧れのウィンクルムから子供達が離れたがる訳は無い。
出来るだけ子供達といてやって欲しいというシスターにも言われた為、元々作る予定があったというクッキー作りの形抜き作業だけを手伝うことになったのだ。
子供達は形抜き作業が好きなのだ。

 幼い子供達はキラキラと輝く視線をミサとエミリオへ向ける。
それを受けたエミリオは小さく苦笑いし、ミサはにっこりと微笑んで見せた。
 浮かべた表情は違えど、二人の気持ちは同じだ。
子供達を危険に晒したくない、怖い思いをさせたくない。この無垢な瞳を、汚したくないと、二人は思いを重ねた。


「おねーさん、楽しくないの?」
「す、すみません、上手くつけれなかっただけで、楽しいですよ!」
 女の子の問い掛けに、Elly Schwarzは慌てて表情を取り繕った。精神をコントロールする術により、自身の精神を安定させる。
楽しみたい子供達の前で、落ち込んでいる姿を見せてしまっては彼らも楽しめないのだと思い至ったから。
「なら良かった。あのね、聞きたいことがあるの」
 女の子の笑顔にほっとする間もなく、その子は爆弾発言を投下した。
「ウィンクルムさんたちは恋人なの?」
「え、あ、その……!」
 強い否定は子供達を怯えさせかねない。再びEllyは己の精神を押さえつける。
そんなEllyを尻目に、Curtはこそり、女の子に耳打ちする。
「俺はなりたいんだがな?」
「じゃあなんでー?」
 心底不思議そうに女の子が問いを重ねれば、Ellyは強引に話を打ち切るべく歌いだした。
そうやって飾り付けを再開したEllyを不思議に思いながらも、女の子も新しい飾りを手に取った。


 楓乃がクリスマス・ソングを歌う。
その歌声には、高音であろうが低音であろうが苦しさなど欠片も無い。
プロと言える程の歌声だとは子供達には分からないが、シスターたちはうっとりと聞き入っている。
 子供達はといえば、楓乃の歌と手拍子に合わせて楽しそうにツリーの周りで踊っている子がほとんど。
または……。
「順番だ、順番!ちゃんと待っとけ」
 教会ではなかなか肩車なんてしてもらえない為、ウォルフが肩車をしてやるといったところ特に小さな子供達が我先にと強請り出したのだ。
 子供達は軽く、ウィンクルムとしてそれなりに経験を積んだウォルフには苦にもならないほどだ。
並んでいる子供達全員の肩車を終えても疲れはしないだろうが、楓乃の歌をゆっくりと聞くことは出来そうに無い。
 そのことをほんのちょっぴり残念に思いながらも、ウォルフは次の子供を肩へと導いた。


「よし、じゃあ外
「皆さん、お外は寒いですから、ウィンクルムさん達に教会の中を案内してあげましょう!」
 外で遊ぼう、そんなジェシカの言葉をシスターが慌てた様子で遮った。
ルイスと一緒に驚いていると、別のシスターが近寄ってきた。
「あの……夜になると言われてますが、子供達の安全を考えて外にはあまり出さないようにしてるんです……」
「えー、外出ちゃ駄目なのー!?」
 申し訳なさそうなシスターの声を掻き消すように男の子達が大きな声で抗議する。
その様子を見て、ルイスはしまったと思った。
目撃自体は夜だけであっても、明確にその建物を狙っている危険な生き物がいる……それが分かっていて、保護者が子供達を外に出したがる訳はないのだ。
「いけません。アンディ、貴方は風邪が治ったばかりでしょう。ミックもです。
それにウィンクルムさんが風邪をひいてしまったら申し訳ないでしょう。お仕事もあるんですから」
「……はーい」
 男の子達の顔には、外に出たかったなぁという想いが現れていた。
ジェシカは申し訳なく思い、あえていつも通りの元気のよさで子供達に声をかけた。
「私、教会の中を皆に案内して欲しいな。それで、いっぱいお話聞かせてよ!」


 ジェシカ達と同じように、八神 伊万里とアスカ・ベルウィレッジも外へ出ることを止められた。
理由が理由だ、仕方ない。
幸いにも彼らは飾りつけが途中だった為、飾りつけに夢中な子供達が外に出たがることは無かった。
「どうすっかなぁ……」
 アスカの呟きが隣の伊万里にも聞こえた。
伊万里は視線だけでどうかしたか、問い掛ける。
「梯子、無理だったからさ」
「ああ……」
 納得した。教会に入る前に見た外観からして、鐘まではそれなりの高さがあった。
梯子を用意したかったのだが、あの高さではまずない。
一応確認はしたが「あの高さですし、鐘や屋根へは教会内の階段で登るので用意はしてないんです」と返された。
ガーゴイルが教会の鐘までひとっ飛びという訳にはいかないと言うわけだ。
 仮に梯子を用意出来たとしても、電飾を巻きつけることも出来なかっただろう。
そこまで電源が届いたかどうか怪しい。
 用意出来るかどうかが怪しい道具を頼った作戦に、今更ながら二人は危機感を抱いた。
不安すらこみ上げてくるものの、子供達の手前、二人は必死にそれを押し隠した。



●深雪
 かじかむ手に楓乃は息を吹きかけた。
教会の明かりにより、自身が吐いた息の白さもはっきり見える。同じように白い、雪もちらついている。
 子供達が寝静まると、すぐに楓乃は一人で教会の外へ出た。
無警戒に見せる為であったが、素直に警察官から連絡を受けるまでウォルフと共に中で待っていた方が良かったかもしれない。
待っている間に体は随分と冷え込んでしまうし、一人が見えるところにいれば、結局のところ警戒させてしまうことになるのだから。
 ふいに、近くの窓が微かに開く音がした。連絡を担当する警察官だ。
懐中電灯での合図はそれこそクラックに気付かれてしまうのではないかという指摘を受けての折衷案だ。
元より子供達が寝静まった後は教会内で待機する予定だったようだ。
「15時の方向で発見したと連絡がありました。真っ直ぐにこちらへ向かっているようです」
「分かりました、ありがとうございます」
 小さな声でやり取りを終えた直後、楓乃の視界にガーゴイルの姿が見えた。
怯えた風を装って見せたが、二体のガーゴイルは楓乃を一瞥するとぐるり、迂回するように旋廻して見せた。
 楓乃を囮とし、ガーゴイルを引き付けたところをウォルフが仕掛けるという作戦だったが……。
二人は失念してはいなかっただろうか。
ガーゴイル達が、何を狙って来ているのかということを。
 察したウォルフが物影から飛びした。事前にトランスをしなかった二人に、今、している余裕はない。
今より高く飛ばれては二人に為す術はなくなるのだから。


 ミサの鞭が唸りを上げてガーゴイルの足へと巻きつき、その体を地面と叩き付けた。
それだけでガーゴイルは絶命する。ハイトランスした神人の力を増幅させる武器の威力は凄まじい。
「まずは、一体!」
 連絡要員からの情報通りの方向から飛来してきた、後ろにいたもう一体は危機感を覚えたのか高度を上げる。
自身の生存技術を敵の察知及び追跡に用いるつもりだったエミリオだが、そういった技術はハンティングのもの。
 彼のハンティングの技術は闇夜の前では通用しないが、幸いにも教会の明かりがある。
教会の周りでならば、明かりとなるものを用意していなくともガーゴイルの姿は捉えられる。
「逃げるのか?」
 高度を上げたガーゴイルに挑発めいた言葉を発するも、ガーゴイルはまっすぐに鐘へと、正確に言えば一番低い屋根へと向かう。
直情的な相手ならばあっさりとかかったかもしれない。
もしくは明確に、有効な文句を考えていれば違ったのかもしれない。
 眉を顰め、エミリオは疾風となってガーゴイルの下へと駆けた。


 Curtはフォルダーから銃を抜き、その流れを途絶えさせること無く引き金を引いた。
ガーゴイル達へと銃弾が襲い掛かるも、翼をはためかせ左右に分かれることでどちらにも当たることは無かった。
舌打ちし、Curtは鐘側へと避けたガーゴイルへと狙いを定める。
 石像のような見た目に反し、存外に素早い。飛ぶことができるのだから、それも当然といえば当然かもしれないが。
不意打ちを狙う以上、姿が見え次第撃たねばならなかったというのも外した理由の一つ。はっきりとその姿が見えていなかったのだ。
「エリー、明かりを!」
「は、はい!」
 促され、Ellyは存在を失念していたマグナライトを点け、ガーゴイルへと向ける。
遠距離から攻撃できるのは強みでもあるが、逆を言えばその姿を遠距離からもはっきりと見つけておかねばいけないということだ。
 駆けながらもCurtは銃口を鐘へと向かったガーゴイルへと向ける。
ガーゴイルの動きはやはり素早い。ラピットファイアかスナイピングを用意していればもっと堅実に戦えただろう。
歯噛みしながらも、Curtの銃はガーゴイルへ火を噴いた。


 連絡要員の警察官から指摘を受け、腰から下げていた伊万里のマグナライトがガーゴイルを照らした。
扱う武器は弓だ。手をあけて置いてよかったと思いながらも、伊万里は弓を引く。
 クリスタルの煌きは、闇夜に慣れていたガーゴイルの目を眩めるには充分。
雪が降る中、前を飛んでいたガーゴイルは失速し高度を落とした。
「アスカ君!」
「任せとけ!」
 高度を落としたガーゴイルへと駆け寄ったアスカの両手剣が、その体を二分する。
どしゃと音を立てて地へと落ちたガーゴイルを振り返ることなく、雪を踏みしめながらアスカはもう一体のガーゴイルへと駆けた。
 本来であれば、足止めを伊万里に任せアスカは鐘を狙うガーゴイルを狙うつもりだった。
けれど、その為に必須であった梯子が使えない以上、降りてきた敵を優先するしかない。飛ばれてしまえばアスカに為す術は無くなるのだ。
 伊万里が弓を持っていたことに、今、二人は心底安堵していた。


 ルイスは身を潜めていた茂みから飛び出した。
ジェシカがぐるぐると振ったマグナライトの光がちらついて、邪魔だと判断したガーゴイルが降下してジェシカへと襲い掛かかったからだ。
 二人の作戦通りの展開。
目論見通りの動きを見せたガーゴイルに、ジェシカはフライパンを叩き付けた。
敵がどう動くか……自身へ真っ直ぐ向かってくるのが分かっていれば、命中力が低くとも当てにいける。
 高く響いた軽快な音に、ジェシカはあちゃあと言わんばかりの表情を浮かべる。
出来るだけ物音は立てないようにしたかったし、武器が武器なのでこれも仕方ないことではあるが。
とはいえ、降雪地帯ゆえの厚いカーテンと、空から舞い降りる雪が音を消してくれている。
 一体が気絶したのを受け、ジェシカへの警戒心を露わにしたガーゴイルは背後から向かってくるルイスに気づいた。
けれど、時既に遅し。
 独楽の様にルイスの体が回り、握られた鈍器がガーゴイルの体へと叩きつけられる。
出来れば二体同時にと行きたかったが、贅沢は言っていられない。
避ける暇すら与えられず、ガーゴイルは降り積もった雪の中へと体を沈めた。
 気絶したもう一体が起き上がる前に、再びジェシカはその頭目掛けてフライパンを叩き付けた。


●六花
 甘く見ていた……否、自身の命中精度を高く見すぎていた。
教会の入り口の段差に腰をかけ、Curtは息を整えていた。プレストガンナーゆえの手数が無ければ、どうなっていたか分からない。
途中でCurtへ向かってきてくれたから良かったものの、あのまま鐘へと向かわれていたら危なかった。
甘かったと、思い知らされた。
 そのCurtの横にEllyも腰掛けた。
Ellyも自身の甘さに苦虫を噛み潰す。どう戦うか、どうCurtをサポートするか、考えておかねばならなかった。
警察と連携を取るという考えも、だ。自分は、その為に充分な行動を取れていただろうか。
ただ『連携する』すると考えるだけでは行動できる訳が無い。
 Ellyは大きく息をついて、ちらり、後ろを振り返った。
閉ざされた扉の奥では子供達が眠っている。昼に見えた彼らの素直さが、今は少し、羨ましかった。
 素直さがあれば、この手をCurtの手に重ねることが出来たのだから。


「アスカ君、お疲れ様」
 戻ってきたアスカに、伊万里は声をかけた。
未だ息が荒いアスカは手を挙げて応えると、頭上に積もった雪が気になったのかぷるぷると頭を振った。
ぱさぱさと、僅かに積もっていた雪が落ちる。
 その様子が猫のようで、アスカが猫のテイルスだということも相まって、伊万里はくすりと笑ってしまう。
怪訝そうなアスカになんでもないですと返し、教会の鐘を見上げる。
アスカも伊万里に倣って見上げた。二人の表情は真剣で、笑みはもうない。
 弓を持っていなかったら、今でもあの場所に鐘があったかどうか。
「道具に頼らないようにしないといけませんね」
「だな」
 無いかもしれないものに頼るよりも、あるもので工夫する。
その重要性を、二人は身を以って思い知った。


 両手剣を杖代わりにして体を支えながら、ウォルフは浅い息を繰り返す。
ウォルフのすぐ側には鐘が落ちている。ガーゴイルだった灰は、徐々に雪に覆い隠されている。
 屋根から屋根へと飛び、鐘へと辿りつくのを楓乃とウォルフは見ているしかなかった。
その間にトランスをし、反対側へと降りたガーゴイルを討ちにいったことでどうにかなったが……鐘が取り外されてしまった以上、二人の心中は暗い。
 楓乃が弓を持ったつもりで、実際は用意していなかったことが最大の痛手だ。
「ごめんなさい……」
「しゃあねぇ、こんなこともあるだろ」
 ようやく息が整ったウォルフが顔を上げる。
楓乃は申し訳なさから俯き、鐘へと近づいた。
 雪に埋もれた鐘を苦労しながら起こし、その雪を払ってやる。
「綺麗、だね」
 言いながらも暗い表情の楓乃の頭を、ウォルフはぎこちなく撫でる。
楓乃の髪についた雪が、ウォルフの手の熱で溶けていった。


 ルイスとジェシカはそーっと、教会の中へと戻る。
扉のすぐ側で待機していた警察官が小さな声で二人を労った。
「子供達は?」
「さっき様子を見に行ったシスターは、起きる様子もなくぐっすりだと。ここでいた私にも時々聞こえるかどうか位だったので、大丈夫でしょう」
 ジェシカはほっと胸を撫で下ろす。
「良かったね」と、ルイスが言えばジェシカはこくりと頷きを返した。
 二人のやり取りに、警察官は穏やかに微笑む。
「体が冷えてるだろうからと、シスターがココアを用意してくれていますよ」
 明日の朝、ツリーの下には沢山のプレゼントが積み上げられているだろう。
プレゼントを開ける子供達の笑顔を思い浮かべながら、二人はシスターが用意してくれているというココアを求めて奥へと向かった。


 ミサは戦闘で乱れた――気がするスカートを手で払って調える。
何度も恋人と一緒に戦ったが、やはり気になるのだ。
 それにしてもと、ミサは終えたばかりの戦いを振り返る。
回避できない攻撃には魔守のオーブを展開するつもりだったが……回避できない攻撃に対し、それだけの余裕があるものだろうか。
結果的に当たることは無かったが、今後の為にもこの点はしっかり考慮しておく必要があるだろう。
「お疲れ様、エミリオさん」
「ミサもね」
 さっとエミリオはミサの頭にうっすら積もった雪を払ってやる。
それがなんだかくすぐったく思えて、ミサも背伸びをしてエミリオに同じことを返した。
 くすくすと二人は笑いあう。
そんな二人を雪が再び彩っていく。


 しんしんと雪が降る。
小さな小さな六花は聖夜とて変わらずホワイト・ヒルを白く染める。
けれど、この日の白は特別な白となって人々の心に刻み込まれるのであった。



依頼結果:普通
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター こーや
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 多い
リリース日 12月10日
出発日 12月15日 00:00
予定納品日 12月25日

参加者

会議室

  • 出発直前でのご挨拶になり申し訳ないです。
    皆さんお久しぶりの方々ばかりですね、またお会い出来て嬉しいです!(微笑)
    改めまして、僕はElly Schwarz、パートナーはCurtさんです。

    こちらは後衛ですので、撃ち落とせればと思います。ファスト・ガンで不意打ちを狙えると良いのですが……。
    子供達の対応もいろいろ考えなければですね。
    あとは……あまり戦闘になれていないので、皆さんの作戦も参考にさせて頂ければと思っています。
    お互い全力を尽くしましょう!

  • [8]八神 伊万里

    2014/12/14-16:26 

  • [7]ジェシカ

    2014/12/14-16:22 

    こんにちは、ジェシカよ。
    今回はよろしくね。

    こちらも近接だからいかにガーゴイルをひきつけるかになってきそうだわ。
    各自別行動って事で色々と不安はあるけど、お互い頑張りましょうね。

  • [6]楓乃

    2014/12/14-11:25 

  • [5]楓乃

    2014/12/14-11:25 

    大まかな作戦はかえず、
    ちょっとだけ細かく書き足してプラン提出完了です。

    久しぶりの戦闘だから体がちゃんと動いてくれるか心配だけれど…、
    鐘を護れるよう、精一杯頑張るわ。

    自身も含め、皆さんの任務の成功を祈ってます…!

  • [4]ミサ・フルール

    2014/12/14-04:42 

  • [3]ミサ・フルール

    2014/12/14-04:42 

    おはようございますー(ぺこり)
    今回 皆別行動で、普段仲間がいてくれる有難さを改めて感じたよ。
    教会や子供達を守れるよう、お互い頑張ろうね!

    接近職は接近しないことには何も始まらないものね。
    挑発して降下したところを狙うか、私も自分が神人であることを利用して敵を誘き寄せられないか試してみようと思ってるんだ。
    あとは鞭を使ってエミリオさんの戦いをサポートするつもり。

    ではでは、任務の成功を祈って、

  • [2]楓乃

    2014/12/13-09:37 

    お久しぶりです。楓乃です。
    今回の任務では別行動となってしまいますが、
    それぞれ鐘を護れるよう頑張りましょうね。

    私達の所はまだ作戦が立てきれていないのでもう少し悩んでみるつもりですが、
    今時点で思い浮かんでいるのはこんな感じでしょうか…。

    ・ホワイト・ヒルの警察と事前打ち合わせをし、敵が現れた時の連絡手段を決める。
    ・戦闘では神人が囮になり、その間に精霊が敵に接近し、ガーゴイルの羽を攻撃して飛行を封じる

    …こちらは敵に接近しないとどうしようも出来ないので、
    多少危険でも、「精霊を敵に接近させること」を前提にプラン練ろうと思います。
    なんとかガーゴイルのいやーな性格をつけないかな…と。

    もう少し頭を悩ませてみます。

  • [1]八神 伊万里

    2014/12/13-00:49 

    皆さんお久しぶりです、八神伊万里です。
    今回もよろしくお願いします。

    …とはいえ、今回は別行動で連携が取れないのですよね…
    相談と言いますか、かわりと言っては何ですが、現在考えている私達の行動予定を
    大まかに書いておきますね。

    ・飾り付けや子供たちと外で遊びながら、鐘の位置や距離、敵が潜みやすそうな周りの地形情報を探り記憶しておく
    ・夜は鐘のよく見える場所に隠れて、得られたデータをもとに鐘が狙われそうな方向を警戒しつつ待機
    ・トランスのオーラとマグナライトを光源にして敵を照らしつつ戦闘、鐘と教会を守ることを最優先

    とりあえずの方針はこんな感じです。
    敵が飛行能力を持つようなので、その対策も考えなければいけませんね…
    何か気になった点やおかしな所などあれば、ご指摘くださると助かります。


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