桜舞散るベリーヒルズ~恋苺祭り~(七瀬ゆーり マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●ベリーヒルズの恋苺祭り
「あのっ!苺狩りとか興味はありませんか?」
 パートナーである精霊と一緒にタブロスのとある街中を歩いていた君に、10歳くらいの赤毛の少女が声をかけてきた。
「もうすぐ苺のお祭りがあるんです」
 ドキドキした表情で君に一枚のチラシを差し出し、恥ずかしそうにふわり微笑む。
 
 そのチラシには桜色の可愛らしい文字で『ベリーヒルズ・恋苺祭り』と書かれていた。
 ベリーヒルズとはタブロス近隣の小さな村。
 小高い丘に広がるその村の中央には苺狩り用の大きなビニールハウスがいくつも立ち並び、暖かなビニールハウス内に一歩足を踏み入れれば、苺の甘い香りが出迎えてくれる。
 村人達は苺を愛し、多種多様の苺を大切に慈しみながら育てている。
 スタンダードな苺は勿論のこと、中でもベリーヒルズの苺農家達の自信作は、ハート形をした恋苺(こいいちご)と呼ばれる品種の苺。
 愛しい人に最高の苺を食べて貰いたいと願った、村のとある苺農家の青年が妥協を許さず何年も研究を続け、近年品種改良に成功したばかりの苺である。
 紅に煌めく艶やかな大粒の苺は、練乳の必要がないほどの高い糖度を誇る。
 しかもそれはただ甘いだけではなく、一口食べれば程良い酸味が優しく口の中に広がり、極上のアクセントとなって更に恋苺の美味しさを際立たせるのだ。
「私の家族も苺農家なのですけど……」
 少女の視線の先には同じチラシを笑顔で配っている赤毛の男性の姿が。
 たぶん少女の父親なのだろう。
 その男性はその視線に気が付き、優しく微笑み返してきた。
「今年の恋苺は例年以上に美味しく出来て……もっと皆さんにこの苺の素晴らしさを知って貰いたいなって思うんです」
 その言葉には、この日の為に生産者の皆で力を合わせて恋苺を育ててきた大切な想いがいっぱい詰まっているようだった。

 そんな苺が食べられるこの村で3月1日の一日限り行われるのが『ベリーヒルズ・恋苺祭り』である。
 いつもは30分150ジェールで楽しめる苺狩りが、この日に限り同じ値段で時間無制限の食べ放題になる。
 時間に追われることなく、ゆっくりと極上の恋苺を堪能できる一年に一度のチャンスだ。

 存分に苺狩りを楽しんだ後は、ビニールハウス横に併設されているカフェで休憩するのもいいだろう。
 カフェでは軽食や飲み物の他、苺園で育てられた恋苺を贅沢に使ったデザートバイキングが楽しめる。
「恋苺のショートケーキ、恋苺タルトに恋苺のスムージー……そうそう!恋苺大福も美味しいんですよ♪」
 少女は瞳を輝かせてそう教えてくれた。
 しかもお祭りであるこの日は特別に、カフェの中央に大きなチョコレートファウンテンが設置されるらしい。
 苺だけでなく様々なフルーツやマシュマロなども用意されているので、色々と試してみるのも面白いだろう。
「それとベリーヒルズは今、早咲きの桜が見頃でとっても綺麗なんです♪」
 桜の木に囲まれているカフェの窓は大きく開放感があるので、どの席からも桜を楽しむことが出来るだろう。
 店内は充分に席が用意されているが、他にもテラス席や、ブランコやシーソーといった簡単な遊具が置いてある庭がある。
 暖かな春の日差しを浴びながら食事を楽しんだり、童心に返って桜舞散る中遊んでみるのもまた一興かもしれない。
「是非遊びに来てくださいね!」
 少女はその日が待ち遠しくて堪らないといった様子でにっこりと微笑んだ。

 春の優しさに包まれた苺色の甘酸っぱい一日……大切な人と過ごしてみませんか。

解説

●ベリーヒルズの恋苺祭りについて
・恋苺祭りが開催される時間は午前9時から夕方5時半までになります。
・天気は快晴。寒さも和らぎ、春の空気を感じます。
・全エリアで喫煙は不可。

【苺狩り】
・お一人様150ジェール。
・この日に限り時間無制限の食べ放題(何度でも出入り自由)になっています。
・ハサミや苺を入れるバケツやトレイは勿論、必要な方は練乳の入ったチューブもサービスで置いてあります。
・各ビニールハウスはとても大きく、他のお客様に食べられて、自分達が行く頃にはあまり良い苺が残って無いなどということはありません。

【カフェでの軽食と恋苺のデザートバイキング】
・軽食とデザートバイキングセットでお一人様80ジェール。
・軽食のメニューはカフェにありそうなメニューでしたらほぼ揃っており、一品選んで頂きます。
(例:パスタ、グラタン、カレー、オムライス、コーヒー、紅茶など)
・恋苺のデザートバイキング(チョコレートファウンテン含む)は勿論食べ放題。洋菓子から和菓子まで多種多様に揃っているので、余程奇抜なデザートでない限り食べることが出来ます。
・お花見も出来るということから、日本酒や焼酎、カクテルなどお酒も置いてありますが、未成年は飲酒できません。
・ラストオーダーは4時半。営業は5時半まで。

【早咲きの桜】
・カフェの周囲は勿論、ベリーヒルズの至る所で早咲きの桜が見頃を迎えています。
・優しい春風が吹けば桜がはらはら舞い散りとても美しいです。
・ブランコやシーソー等のシンプルな遊具がカフェのお庭に置いてあります。大きなアスレチックではなく、小さな公園にありそうなものでしたら他の遊具でもご希望に沿いたいと思います。
・遊具は大人も使用できるくらい頑丈ですのでご安心を。


ゲームマスターより

はじめまして。
七瀬ゆーりと申します。
素敵な春の一日になりますよう、想いをこめて執筆したいと思っておりますので、どうぞ宜しくお願い致します。

●その他
・PC口調で書いて頂けるとキャラクターを掴みやすくなります。
・ステシの自由設定も可能な限り活かしたいと思っておりますので、記入して頂けると嬉しいです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セリス(三ツ矢 光)

 


セリス(三ツ矢 光)
 


セリス(三ツ矢 光)
 


セリス(三ツ矢 光)
 



「道具を二人分!」
 意気揚々と『苺狩りの道具貸し出しコーナー』に姿を現した白影は受付にいた赤毛の少女に気さくに声をかける。
 声をかけた瞬間、白影はその少女に見覚えがあることを思い出し、それは声をかけられた少女も同じだった。
「あっ!街で話を聞いてくださった方ですよね!二人分ってことは……」
 きょろきょろと辺りを見渡す少女に白影は、ビニールハウスの前で期待に胸ふくらませそわそわと待つ雨宮沙夜を指さし、ニッと笑った。
「お嬢、すっごく楽しみにしていたんだぜ!今日は頑張って早起きしたくらいだしなぁ」
 眠る事をこよなく愛する沙夜。
 時には食事も後回しで眠ってしまうこともあるほどで、世話好きの白影はつい心配してしまう。
 部屋で過ごすことが多い沙夜が外に出て楽しそうにしている姿は、白影にとって貴重なものだった。
 赤毛の少女に礼を言い道具を受け取った白影は、はやる気持ちを抑えきれないかのように足早に沙夜の元へと向かう。
 この日をずっと心待ちにしていた沙夜を待たせたくない。
 一秒でも早く、その笑顔が見たかった。

(苺狩りって実は初めてなのよね……凄く楽しみだわ)
 お祭りの為、色とりどりの花のリースで飾り付けされた苺狩りのビニールハウスを見つめながら、期待に胸ふくらませ沙夜は思う。
 大好きな紅茶やお菓子を楽しむ時と同じように不思議と眠気はない。
 チラシを受け取った時からとても楽しみにしていたのだから。
「借りてきたぞー!」
 両手に苺狩りの道具を抱え、嬉しそうに白影が駆け寄ってくる。
 先日沙夜がプレゼントした漆黒のジャケットが特に白影の真っ白な毛色とマッチしてとても良く似合っていた。
 その視線に、白影はどうかしたかと首を傾げる。
「……そのジャケット、とっても似合うわね」
 素直に感想を言う沙夜の言葉に白影は嬉しそうに笑うと、よいしょと身を屈め沙夜と視線の高さを合わせ。
「お嬢こそ今日のワンピース……良く似合っていて……うん、可愛いと思うぞ!」
 屈託なく真っ直ぐに笑いかけてくれる白影の頬は少しだけ染まっていて。
 照れを隠す様に白影は立ち上がると沙夜の手を引いてビニールハウスの中へとエスコートしてくれる。
 中に足を踏み入れた瞬間、ふわり、苺の甘い香り。
 それと同時に二人は見事な苺畑の光景に瞳を輝かせる。
「シロさん、凄いっ!凄いわ……!」
 真っ赤に煌めく苺が春の日差しに照らされて、まるで宝石の様にキラキラと輝いていて。
 広いビニールハウスの中は祭りが始まってすぐということもあってか、美しい苺で一杯だった。
 二人はゆっくりと歩みを進める。
 多種多様な苺が栽培されていたが、やはり恋苺は別格の煌めきを誇っていた。
「お嬢!この苺、ひときわデケーぞ!お嬢にやるよ!」
 嬉々として白影が選んだ恋苺はとても綺麗で、大きくて。
「シロさん、ありがとう」
 一口ではとても沙夜の口には納まらない立派な恋苺。
 にっこり笑って受け取ると、幸せそうにかぷりとかじる。
 瑞々しい果実はとても甘く、その美味しさに思わず顔がほころぶ。
「フフッ……苺、美味しいわね。これならいくつでも食べられそうだわ」
 沙夜の愛らしい微笑みに、白影の頬が思わず緩んだ。


「君は他のみんなと楽しんでくるといい。面倒だから僕は帰る」
 お祭り会場の手前でピタリと足を止め、アロイスは突如そう言い放った。
 ブランシュ・フィンレーに誘われるがまま、なんとなくこのベリーヒルズまで来ていたが祭りの賑やかな雰囲気と人々の笑顔が何だか眩しくて。
 別に尻ごみした訳ではなかった。
 ただ本当に、面倒そうだと思っただけ。
 回れ右をして家へ帰ろうと歩きだしたアロイスの行く手を阻むように、慌ててブランシュが回りこみ立ちはだかる。
 思わず足を止めたアロイスは、両手を広げて通せんぼするブランシュをその美しい顔でクールに見つめた。
「あっ、もう、アロイスさんってば!ダメですよ、帰っちゃ!」
「…………」
 ダメと言われても帰りたいものは帰りたいと言わんばかりの表情で、アロイスはブランシュの制止に耳を貸すことなく無言で彼女の横を通り過ぎる。
 それでもブランシュは諦めない。
 再びアロイスが進もうとする方向に立ちはだかり、一生懸命説得する。
「お祭りなんですから楽しみましょうよ。それに!」
 アロイスの瞳を真っ直ぐに見据えブランシュは宣告する。
「こういう時くらい外に出てください!一日中部屋に籠っていたらカビが生えちゃいますよ?」
「カビ?」
 その言葉を聞いたアロイスは、素直に自分がカビまみれになった姿を想像した。
 密閉された空間で赤黒いカビに浸食された自分自身をリアルにイメージしてしまったアロイスは、自らの口元に片手をあて愕然とする。
「……それは、困るな」
 視線を泳がせ明らかに動揺し、そして。
「わかった。今日一日、君に付き合おう」
 その言葉を聞いたブランシュは一瞬驚いた表情をしたものの、すぐにクスリと笑い、満足そうに頷いた。

(素っ気ないわりにアロイスさんって妙に純粋ですよね……)
 アロイスを連れビニールハウスで恋苺を堪能していたブランシュは、先程の事を思い出してしみじみと思う。
(いくら部屋に籠っていたからといってカビが生えるなんてありえませんし)
 しかしアロイスはそれをあっさりと信じてしまったのだ。
 重度の天然であることを心配すべきか、それとも自分を信じてくれたことに素直に感謝すべきなのか……目の前にある、形の良い恋苺を摘みながら彼女は思案した。
 縁あってウィンクルムとなったアロイス。
 出会って間もないこの精霊の事をブランシュはもっと知りたいと思っていた。
 未だ苺狩りに興味を抱かず、ただ傍でのんびりとしているアロイスにブランシュは視線を向ける。
 良くも悪くも自分に正直で真っ直ぐなのだ。
 それは時に、危うさを感じるほど……彼は他に染まらぬ純白の心の持ち主なのかもしれない。
 ブランシュはアロイスを責める風でも無く、穏やかな口調で声をかける。
「苺狩りに興味が無いならせめて籠、持っていてください。私が取ったのを入れますから」
 籠を手渡すと紅色に輝く恋苺を傷つけないよう丁寧に鋏で摘み取っていく。
 確かこの苺は愛しい人の為に長い歳月をかけて作られたものだと聞いている。
 非の打ちどころのない完璧な恋苺。
 もはや芸術作品とも言えるその形を見れば、作った青年の想いがどれだけ大きく、一途であったかが伺えた。
「ハートの形の苺なんてロマンチックで素敵ですね」
「どんな形をしていても苺は苺だろう」
 うっとりと話しかけたブランシュはアロイスの身もふたもない切り返しに小さく溜め息をつく。
(ええ、分かっていましたが……ロマンの欠片もない事言わないでください……)
 そう苦笑いしながらブランシュは形の良い恋苺一粒を摘み、ひょいとアロイスの顔の前へと差し出した。
「形だけじゃなくて味もいいんですよ?はい、どうぞ」
「……そう、なのか」
 アロイスは素直に、差し出された恋苺を口へと運ぶ。
 一口かじったその瞬間、心の中で雷に打たれたような衝撃を受けていた。
「なんだ……これは。旨すぎる……!!」
 類まれなる優しい甘さ、そして自己主張し過ぎない適度な酸味。
 果汁が溢れるほど瑞々しい、まぎれもなく最高品質の苺だと分かっていたが、その反応にブランシュは安堵する。
「……ありがとう。此処に連れて来てくれて」
「は、はいっ!!」
(アロイスがお礼を言ってくれた……!)
 その時ブランシュは、いつも無表情なアロイスがほんの少しだけ笑った様な気がしていた。


 ――目の前の恋苺が凄まじい勢いで搾取されている。
 リゼットは思わず手を止め、半ば唖然とその光景を見つめる。
 アンリが食いしん坊なのは重々承知だったが、まさかここまでだなんて……!
 しかも気のせいだろうか……私の目の前の苺がピンポイントで狙われている気がっ!
「今日は一日食べ放題だぞ。食べないのか?」
 硬直しているリゼットに、アンリはニヤリと笑った。
 悪戯っ子の様なその笑みを見てアンリがワザとそうしていることを確信する。
「私だって今日はたくさん食べるわよ!この為に今日まで頑張ってダイエットを……」
 声が小さくなっていく様子に、アンリの耳がぴょこんと反応する。
「え、ダイエット?」
「……な、なんでもない!」
 若干どもりぎみで誤魔化そうとするリゼットを見つめ、アンリは意味深にクスリと笑った。
「っていうか……アンリ、食べ過ぎよ!私の目の前の苺が全然無いじゃない!」
 もっとお行儀良くして欲しいものだわと言うリゼットの言葉にアンリは恋苺を食べる手を止め彼女の瞳を真っ直ぐ捕らえる。
「じゃあ……」
 アンリはリゼットとの距離をずいっと詰めるとにっこりと微笑み。
「一つずつ食べさせてくれよ。あーん……」
 甘える様に、でも少しだけ意地悪く、当然のようにおねだりした。
「食べさせろ?ば、バカ!自分で勝手に食べなさいよ!」
 近くで囁かれたその言葉にリゼットの頬はみるみる染まる。
 その反応が堪らなくて、アンリは更に追い打ちをかける。
「じゃあ勝手にする」
 リゼットの手を自分の手でそっと包み込み、苺を握らせるとゆっくりと自らの唇に寄せていったのだ。
「えっ!?ちょ……待って!!」
 リゼットの頬がどんどん赤く染まる。
「言うこと聞いてくれないなら、リズごと食べることにするよ」
 アンリの綺麗な唇がゆっくりと開く。
 瞳は未だ、リゼットの表情を捕らえ楽しんでいるようで。
 ――唇が、違う、舌が……触れる!!
「わ、分かった!!分かったわよ!!ちゃんと食べさせてあげるから!!」
 頬だけでなく耳まで朱に染め抜いたリゼットは早口で降参した。
 その言葉を聞いたアンリの笑顔が今日一番に輝いていたのは言うまでもない。


「まぁっ、苺狩りはこうして鋏で取っていくのねっ」
 アリシエンテは瞳をキラキラ輝かせ、初めての苺狩りを楽しんでいた。
「ええ。鋏を使わずに苺を引っ張ってしまっては、茎ごと長く引き抜いてしまう可能性がありますから」
 アリシエンテに付き添っていたエストは穏やかな口調で応える。
 真っ赤に熟した煌めく恋苺。
 それを幸せそうにゆっくりと、アリシエンテは自らの口に運ぶ。
「……ん~っ、美味しい!これならば夕食会の場に出しても全然恥ずかしくないわっ!」
 むしろこの苺を食べてしまったことによって、他の苺の味が物足りなくなるかも……と心配になるくらい、恋苺は素晴らしい味わいだった。
「ほら、エストも食べてみて?」
 アリシエンテが手渡した恋苺を大切に受け取り、その一粒を口へと運ぶ。
「なるほど。これは、美味しいですね」
 これほどの甘さを誇る苺はそうそう無いかもしれませんと、その味わいの深さに驚きが隠せないといった様子で微笑んだ。
 これが今日だけの味わいになるのはあまりに惜しくて、エストは苺農家から情報を得る為村人達に話しかける。
「本当に素晴らしい味わいの苺ですね。これほどの品……苺狩り用だけではなくタブロスの市場にも出荷しているのでしょう?」
「ああ、贈答用になる一級品ならいくつか出荷させて貰っているよ」
「そうですか。いえね、うちの神人は甘いものには目が無くて」
 彼女が気に入った物はすべて覚えておきたい。
 大切な、貴女の笑顔を見る為に。



 午後、沙夜と白影はカフェを訪れていた。
 丁度昼時ということもあってそこは大盛況だったが、白影は要領よく沙夜の希望するテラス席をキープする。
「お嬢ー!こっちこっち!」
 ぶんぶんと元気に手を振る白影が呼ぶテラスへと出てみれば、その席は庭の桜を堪能できる特等席で。
 席に着くと、早速店員が注文を取り来た。
「オムライスー!あと烏龍茶!」
 カフェに白影の元気な声が響く。
「お嬢もちゃんと飯……」
 いつものようにそう言いかけた白影は、紅茶とデザートバイキングのリストに瞳を輝かせている沙夜の姿に思わず目を細めた。
 その視線に気がついて沙夜は無邪気に微笑んで。
「見て、シロさん。紅茶だけでもこんなに沢山の種類が用意されているのよ」
 苺を使ったデザートバイキングの種類も豊富だが、沙夜がこよなく愛する紅茶の種類も負けず劣らず沢山で。
「ああ……どれにしようか迷うわ。ダージリンはやっぱり春積みのファーストフラッシュかしら。ゴールデンチップスがいっぱい入ったアッサムティーも捨てがたいし……」
 白影はいいかけた言葉を飲み込んで小さく呟く。
「……まぁ、今日はいっか」
 沙夜は今日という日をずっと楽しみにしていたのだ。
 一日くらいは小言を封印して、共に楽しむことにしよう。
「お嬢!時間はまだまだたっぷりある!とことん制覇しような!」


 休憩も兼ねてカフェに来たブランシュとアロイス。
 結局苺狩りはアロイスが恋苺の美味しさに目覚めたお陰で、ブランシュが取ったのをアロイスが食べるという、まるで親鳥が雛に餌をあげるかの様なループにハマってしまったらしい。
「収穫する楽しさにも目覚めて欲しかったですけど……」
「収穫するのは面倒くさい」
「ええ、そうなんだろうなって思っていましたから」
 本当に時間無制限の食べ放題で良かった。
 そうでなければ恋苺を収穫する行為だけで制限時間を使いきっていたはずだ。
 何故ならアロイスが満足した後にやっと、ブランシュは落ち着いて恋苺を堪能できたのだから。
「よし!気を取り直してバイキングです!」
「まだ食べるのか。横に伸び……」
 そう言いかけたアロイスの口をブランシュは両手で慌てて塞ぐ。
「体重のことはいいんです。明日から運動や任務、頑張りますからっ!」


 バイキングに来てもアンリの食べる勢いは止まらない。
 軽めにケーキを食べていたリゼットは、アンリが今朝から口にした食べ物が一体どこに吸収されているのか不思議でならなかった。
 なんだか見ているだけでお腹が一杯になってきたリゼットにアンリは屈託のない笑顔で料理を勧める。
「たくさん食べてさっさとおっきくなれ!特に胸!」
 その言葉をたまたま通りかかったウエイトレスに聞かれ、リゼットは赤面する。
「別に此処で食べなくったって大きくなってやるんだから!」
 ムキになって言葉を放ってから、ハッとする。
 これではまるでアンリ好みの体型を自分が目指しているみたいだと。
「そう?それじゃあ楽しみにしてる」
 リゼットの心を見透かすようにアンリは目を細め、嬉しそうにそう言った。

 
 カフェ中央の大きなチョコレートファウンテンの前に居るのはアリシエンテとエスト。
 アリシエンテは一口大にカットされた恋苺をチョコレートフォンデュ用のフォークで刺すと、流れ落ちてくるチョコレートに綺麗に絡める。
 恋苺は手を加えずともかなりの美味しさだったが、チョコレートが絡まった味は更に格別なものになる。
 満足そうにチョコレートファウンテンを堪能しているアリシエンテをエストは優しい瞳で見つめていた。
「こんな安いジェールでこんなに美味しい苺のバイキングが食べられるなんて……!」
 しかも今日は完全にプライベート。
 家柄に縛られ、周囲に気を使い、自由に食事を楽しめないつまらないパーティとは訳が違っていて、アリシエンテはのびのびと祭りを楽しんでいた。
 美しい風景、美味しい恋苺やスイーツ、そして親切な人々。
 全てがとても新鮮で。
「ええ。このお祭りは営利目的ではないようでした」
 アリシエンテの傍に控えていたエストが言葉を続ける。
 先程話を聞いた主催者は、来場者に一口食べて貰えさえすれば必ず気に入って貰えると自負していた、と。
「ですので、そうやって貴女が幸せそうに恋苺を召し上がっておられることが、このお祭りを準備された方への何よりのお礼にもなるのかもしれませんね……しかし!」
 エストはそう言ったかと思うと、たった今アリシエンテが手にしたグラスをサッと取り上げた。
「あっ!!」
「それはワインですよ。……貴女、知っていて手に取りましたね」
 アリシエンテは未成年。
 話のどさくさに紛れてこっそり飲もうとしたのをエストが見逃すはずは無かった。
「チョコレートファウンテンと絶対に合うから!」
「未成年に同情等はございません」
 しかし全く油断も隙もないと呟くその表情はどことなく優しく、そのやり取りを楽しんでいるかのようだった。


● 
「ケーキもタルトも何もかも絶品ね……おまけに桜も綺麗だし……フフッ……私いま凄く幸せだわ」
 とても楽しい一日だった。
 美味しい恋苺、質の高い紅茶にお菓子も堪能できた。
 そして……お腹だけではなく、心も満たされているのはまぎれもなく一緒に来てくれた目の前の白影のお陰……そう思った。
 穏やかな表情で自分を見守ってくれる白影にそっと感謝の気持ちを込めながら、沙夜は静かに口を開く。
「ねぇ、シロさん。また一緒に……此処に来たいわね」


 今日一日でどれほど仲良くなれたのだろう。
 その答えはハッキリと分からないけれど、何だかんだ一緒に行動出来て楽しかったとブランシェは微笑んだ。
「また、一緒にお出かけしましょうね」
「そう、だな……それも悪くない」
 静かに頷くアロイス。
 それ以上の言葉は無いけどきっと大丈夫。
 私達の時間はまだ始まったばかりなのだから。
 ゆっくりと歩んでいけばいい。
 今日の思い出を胸に……まだ見ぬ明日へ。


 お祭りももう数時間で終わりという頃だったがアンリは未だに食べて続けていた。
(任務も無く過ごせるっていうのに食べてばっかり)
 花より団子って言葉はアンリの為にあるのかしらと小さく溜め息をついたその時だった。
「おし。腹ごなしに散歩にでも行くか」
「!!」
「ん。どうかした?……っていうか、嬉しそうだな」
「べっ!別に喜んでなんて!」
(……気にしてくれたのかしら。だったらちょっと嬉しい……かも)
 庭に出れば満開の桜が出迎えてくれて。
 その美しさに圧倒される。
 瞳を潤ませ桜を見上げるリゼットの手に、アンリは己の手を伸ばす。
 しかし、リゼットの背が低い為か上手く繋ぐことが出来なくて、そのもどかしさに瞳を揺らす。
「だから早くでかくなれっつってんだろうが……」
 ぼそりと言葉を呟いた瞬間、春風がザッと二人の間を駆け抜け桜の花弁が艶やかに舞う。
「……え、今……何か言った?」
「いや、何でもない」
 何かを誤魔化す様にリゼットの頭をわしゃわしゃと撫でるその手は大きく……どことなく切なく……そして温かく感じられた。


 時は既に夕刻。
 茜色の空が包み込む世界は、昼間の風景とは違った情緒で。
「あ……テラスがとても綺麗」
 アリシエンテは紅茶を手に取るとテラスへとゆっくり歩いて行く。
 夕日に照らされた満開の桜。
 テラス席へと腰を下ろし、ゆるり、紅茶を一口。
 厳選された茶葉を使った香り豊かなそのフレーバーは彼女の心を穏やかに包み込んだ。
 ティーカップをそっと置くと、はらはらと散った桜の花弁が紅茶の中にふわりと落ちて。
 アリシエンテはそっと微笑む。
 その微笑はとても綺麗で――傍に控えていたエストはそっと目を細めた。
 席を立とうとする姿を見れば、自然な動作でその椅子を引く。
 桜の美しさに吸い寄せられるかのように庭へと降り、その中でも一番大きく、美しく凛とたたずむ一本の桜の下へと向かう彼女の姿をエストはただただ、少し離れた場所から静かに見守った。
 それはまるでこの桜を……そして今日という日の記憶をその胸に焼き付けているかのようで。
 優しく……そして何処となく寂しい時がゆっくりと流れていた。
「……帰るわよ、エスト。……今日も良い日だったわね」
「ええ。本当に」
 ――桜色に彩られた今日という日を……私も忘れることはありません。
 ふわり微笑むエストの瞳はアリシエンテをただ真っ直ぐに映していた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 葉月 夏  )


エピソード情報

マスター 七瀬ゆーり
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 03月01日
出発日 03月10日 00:00
予定納品日 03月20日

参加者

会議室

  • [6]アリシエンテ

    2014/03/06-13:26 

    そ、そうよねっ!
    苺だって、苺大福だって『後で何とかすれば良い』(「いつか(何時までもこない明日)に似ている」)のだから、食べたいだけ食べるべきよね!(ぐっ)
    それでは皆さん、どうぞ宜しくお願いするわねっ。どうか素敵な時を過ごせますように。

  • みなさん、初めまして!
    私はブランシュ・フィンレーっていいます。
    パートナーはアロイスさんです。
    今回はよろしくお願いしますね。

    苺狩りも食べ放題も楽しみですね。
    折角ですしいーっぱい食べてこようと思います。

  • [4]リゼット

    2014/03/04-09:30 

    リゼットよ。連れはアンリ。よろしくお願いするわね。
    あとでなんとかすればいいんだから
    こういうときは気にせず食べたいだけ食べちゃえばいいのよ!
    せっかくなんだからめいっぱい楽しみましょう。

  • [3]アリシエンテ

    2014/03/04-08:28 

    初めましてっ。アリシエンテと言うわ。どうぞ宜しくね。
    チョコレートファウンテンで、食べ放題と言うのに惹かれたわ。
    自分で果物を取る機会もないから、苺狩りがどういうものかも非常に興味があるわねっ。

    ……最近、体重が気になるのだけれども…皆で一杯楽しめたら幸いよっ。
    気に…ならないかしら、体重……

  • [1]雨宮 沙夜

    2014/03/04-00:08 

    はじめまして…と、挨拶をしておこうかしら。
    雨宮 沙夜よ。
    普段なら部屋にこもって昼寝でもしてるんだけど、苺狩りとかデザートバイキングとか聞いたら目も冴えちゃったわ。
    当日は参加者みんなで楽しめるといいわね。

    あ、一応私のパートナーも紹介しておくわね。
    名前は白影。テイルス種のおじ…お兄さんよ。
    私はシロさんと呼んでるの。人当たりの良い人だから、もし機会があれば仲良くしてあげてね。

    白影「珍しくお嬢が眠そうにしてないなぁ…あ!苺狩り当日はよろしくな!!」


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