【聖夜/愛の鐘】僕が君のサンタクロース(山崎つかさ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 そっと空に向かって手を伸ばすと、雪の結晶がふわりと手のひらに落ちて、溶けていく。
 ここは、ミットランドの北に位置する雪深い地域――ノースガルド。
 その中心都市であるホワイト・ヒルの町で、精霊ポブルスの青年が、雪の降り続く空を静かに見上げていた。

「……もうすぐ、クリスマスか……」
「おおい、待ったか? 遅れて悪ぃな」

 そのポブルスの青年に声を掛けたのは、同じ年頃のすらりと背の高いテイルスの青年だった。
 急いで走ってきた友人に、佇んでいたポブルスの青年が気さくに笑いかける。

「いや、大丈夫だ。俺も今来たところだよ」
「そっか、それならよかった。なあ、今日は、クリスマスイブに神人に贈るプレゼントを買いに行くんだったよな?」

 テイルスの青年の問いかけに、ポブルスの青年が頷く。

「ああ。とはいっても、俺、女性に贈り物をしたことがなくてさ……。一人じゃ不安だったんだ。おまえに一緒に行って貰えると心強いよ」
「ははっ、そりゃ俺の台詞だって」

 テイルスの青年が無邪気に微笑みながら、ポブルスの青年の肩を叩く。
 そう、今日集まった2人は、クリスマスイブにそれぞれの神人にプレゼントを渡すため、このホワイト・ヒルの町に買い物に来ているのだ。
 しかも、神人には内緒で、こっそりと。
 どんなプレゼントを用意したら、神人の彼女が喜んでくれるだろう。
 どんな渡し方をしたら、彼女のとびきりの笑顔が見られるだろう。
 2人は、そんな淡い期待を思い描きながら集まったわけだが、なにぶん女性に贈り物をした経験があまりない。
 女性向けの雑貨屋に入るのでさえ、やや気後れしてしまうくらいだった。

 しばらく町を歩いた2人は、いよいよ女性客で賑わうお店の前まで来て、ぴたりと足を止める。

「……よ、よし、二人で入れば怖くないよな……」

 テイルスの青年の呟きに、ポブルスの青年が店の入り口から一歩後ずさる。

「な、なあ、おまえが先に入ってくれよ」
「へ!? い、いやいや遠慮すんなって。おまえが先に入れよ」
「いやいやいや、おまえが先にっ」
「わ、押すなって!」

 そんなこんなで、精霊男子達のドタバタ奮闘劇が始まる。

 きっと当日は、町はクリスマス一色に染まるのだろう。
 友人や恋人達が楽しそうに町の広場を行き交い、その近くでプレゼントを抱えた子ども達が笑っている姿が思い浮かぶ。
 また、クリスマスメロディを奏でる楽団が街路をパレードし、店先をモミの樹のツリーやサンタ、ポインセチアが華やかに彩るのかもしれない。
 そんなロマンティックなクリスマスイブに、感謝の気持ちを込めて彼女にプレゼントを渡したら、どんなに幸せになれるだろう。
 クリスマスを幸せで満たすことは、世界に夢と希望をもたらして、オーガの活動を弱体化させ、炎龍王の企みを阻止する力にもなる。
 そのためにも、仲間と協力して、クリスマスを必ず成功させなくてはならない。 

 こうして精霊たちは、ウィンクルムとしての決意と、彼女の笑顔を胸に抱きながら、町に繰り出していくのだった。

解説

【解説】
ご覧いただきありがとうございます。山崎つかさ(やまざき・―)です。
雪の降る町ホワイト・ヒルを舞台に、精霊さんから神人さんへ、イブの夜にクリスマスプレゼントを渡すラブコメディです。

このエピソードは、白羽瀬GM主催の連動企画【聖夜】と、クリスマスイベント【愛の鐘】の混合エピソードとなります。
【聖夜】は、GM陣からのクリスマスプレゼントとしてリザルトノベルをお贈りするシリーズです。
そのため、リザルトノベルが12月24日の夜に「メリークリスマス!」と皆様にお届けになる予定です。
通常の納品日よりも少し納品が遅くなりますので、ご了承ください。

【課題】
・神人さんへのプレゼント代…300Jr
(アクセサリ、ぬいぐるみ、花束など自由に)

・どうやって精霊さんが事前にプレゼントを購入したかご記載ください。
1.お店で店員さんを前に、赤面してしどろもどろになりながら購入。
2.「バラ100本の花束ください!」とキメ顔でとんでもない量の花束を予約。等。
精霊さんみんなでからかい合いながらお店を巡ってもOKですし、単独でもOKです。

・24日の夜、精霊さんがどうやって神人さんにプレゼントを渡したかご記載ください。
1.真っ赤になりながら、「こ、これ、おまえに……!」と甘酸っぱく渡す。
2.二人でモミの樹を背にロマンティックに渡す。等。
いつもは伝えられない素直な気持ちも、特別な夜ならば、言葉にできるかもしれません。

以上3つの課題をプランに書いていただけると助かります。
特別な夜、甘くて楽しい、思い出に残るようなクリスマスを過ごしませんか?
皆様のご参加を、お待ちしております。

ゲームマスターより

白羽瀬GM主催の連動企画【聖夜】シリーズです。
12月24日に皆様に心を込めたプレゼントが贈れるよう、気合いを入れて頑張ります。
GM陣から皆様へ感謝の気持ちを込めて、メリークリスマス!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アリシエンテ(エスト)

  「午後七時に、ライトアップされた巨大ツリーの前で落ち合いましょう!それまで屋敷から追い出しよ!」

そう言ってエストを追い出して
さて支度支度!

クリスマスは今年一日だけ『サンタの格好をしても良い日』だと伺っているわ!よって、私もサンタの格好をして過去に見た時にこっそり買っておいた指輪をエストにプレゼント…を…(照

待ち合わせの場所で、
「何を破廉恥な格好をしているのですか!」
「きちんとしたトナカイとの正式コラボコーデよ!」
「そういう問題ではありません!」

指輪が私が目を留めていたブランドなので驚く
「…新鮮味がなかったかしら?」そっと渡したのは石違いの、嬉しいお揃い

石:アレキサンドライト
石言葉:秘めた思い



日向 悠夜(降矢 弓弦)
  ●待ち合わせ
ホワイト・ヒルの繁華街入口

降矢さんからこんな日にお誘いを受けるなんて…
なんだかそわそわしちゃって、早めに来ちゃったや
降矢さん、まだかな…
周りにカップルが多いから意識しちゃうなぁ

こんばんは、降矢さん。私は今来た所だよ
…大丈夫?ふふ、髪の毛がここだけ跳ねてるよ
よし、直った。それじゃあ行こうか…って、え?

プレゼント?わ、私何にも用意してないけれど…開けていい?
綺麗…素敵なデザインだね
今、つけても?…どうかな

ありがとう…弓弦さん
って、名前言っちゃった…その…えへへ
…うん、嬉しい。弓弦さんが思いを込めてくれて、とっても嬉しい。大切に持っていくね

…でも、一緒に旅をしたいと願うのは…欲張りだよね



出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
  またオーガの夢を見てた
いつもと違って、オーガと戦うレムの背中を見ている内容

出生の秘密を知りたくて(依頼16
自分が生まれた年の事件を調べてたらうたた寝してた
今日はレムが来るんだから急いで支度しなきゃ

レムを家に招き入れプレゼントを受け取る
ありがとう、いつも守ってもらってばかりなのに
その上プレゼントまでくれるなんて

あたしの背中…?
本当に?レムの役に立ててる?よかった…
あたし、バイクもっと頑張るわ
どこにだって連れて行ってあげる

…いいわよ、一緒に食べましょ
折角二人分作ったんだから食べてもらわなきゃ

心の中で決意
もう自分がレムに相応しくないかもなんて考えるのはやめよう
これから相応しくなっていけばいいんだから



桜倉 歌菜(月成 羽純)
  クリスマス兼、お互いの誕生祝いにレストランで食事
羽純くんに誘われちゃいました!
精一杯のおしゃれをして、メイクもして
彼の為に編んだセーターをこっそり持って
待ち合わせ場所へ行きます

スーツ姿の羽純くんに動悸トキメキが止まらない!
カチコチ緊張
けど、そんな姿を彼に笑われたら、肩の力が抜けました
やっぱり、羽純くんは不思議
こんなにドキドキさせられるのに、こんなに安心もする

食事を楽しんで
お酒は飲んでないけど、酔っ払ったみたいに心地よく
帰り道、羽純くんがプレゼントを私に
嘘…と思わず呟いて、嬉しくて涙が

メリークリスマス
誕生日おめでとう、羽純くん
私もプレゼントのセーターを彼に

大事にするね
…大好きと呟いて、笑顔を彼に


●24日午前

 穏やかに晴れた冬の日。
 コートを羽織った優しげな美青年――降矢 弓弦が、ホワイト・ヒルのクリスマスマーケットを訪れていた。

「……旅を愛する彼女へは、どんな贈り物が良いかな」

 クリスマスイブの今日、弓弦は、神人の日向 悠夜にプレゼントを渡すため、事前に一人で町へと買い物に来ていた。
 だが、女性に贈り物をした経験の少ない彼は、どんな物を渡したら悠夜に喜んで貰えるのか検討がつかない。
 考えた末、とりあえずマーケットの中でも一際大きな百貨店へと足を踏み入れる。
 そして、女性への贈り物には宝飾品がいいだろうかと、漠然とした考えで宝飾品方向へ向かうと、淡い黒髪の見知った青年と出会った。

「……羽純君?」

 弓弦の呼び掛けに応えて、青年――月成 羽純が振り返る。

「こんにちは、降矢さん。偶然だ。降矢さんもプレゼントを買いに?」
「うん。でも、その……僕は、女性に贈り物をするという経験があまりなくてね。一緒にお店を周ってくれると嬉しいな、なんて……」

 弓弦が少し恥ずかしそうに後ろ頭を掻くと、羽純が微笑む。

「俺は、歌菜がこの間、腕時計を壊して凹んでいたから、時計をプレゼントしようと思ってる。よろしければ、一緒に行きましょう」

 そうして、弓弦と羽純は、二人で宝飾品店の前にやってきた。

「……煌びやかな商品ばかりだ……」

 弓弦は戸惑いつつも、自分の力で彼女に似合う物を選びたかった。
 真剣にディスプレイを眺める弓弦に、羽純が笑いかける。

「俺、日向さんならどの宝飾品でも似合うと思いますよ。では、俺は時計コーナーに行きますね。降矢さん、良いクリスマスになるといいですね」
「ありがとう、羽純君。お互いに、良いクリスマスになりますように」

 軽く挨拶を交わして、羽純がその場を離れていく。
 弓弦が商品に視線を戻すと、金色に輝くイヤリングが目に入った。

(……このイヤリング、旅の安全を祈るトルコ石と月長石があしらわれているんだ。それに、愛情を表す金細工で作られているのか)

「愛情、か……」

 思わず悠夜のことを意識してしまい、弓弦は慌てて首を振る。
 異国の風を感じる月の形をしたイヤリングは、旅を愛する彼女にとても似合うはずだ。
 弓弦はやや緊張しながらイヤリングを手に取り、会計へと向かうのだった。



「……女性用時計は随分と華奢だ。歌菜はよくはしゃぐから、また依頼中に壊しかねないな……」

 時計店へとやってきた羽純が、商品の陳列棚を眺めながら呟く。
 デザイン性と機能性を天秤にかけて悩んでいると、ふと可憐なチェーンの付いたペンダントウォッチが目についた。

「ああ、これなら良さそうだ。普段身につけておけるし、胸元へ入れておけば歌菜でも早々壊す事もないだろう」

 即決して、羽純は女性店員に声を掛ける。

「すみません、このペンダントウォッチをプレゼント用に頂けますか?」
「かしこまりました。メッセージカードをお付けできますが、いかが致しますか?」
「メッセージカードか……」

 羽純は、少し悩んでからカードを受け取る。
 そして、歌菜の喜ぶ顔を思い浮かべながら、丁寧に文字をしたためていくのだった。



「今日の午後7時に、ホワイト・ヒルのライトアップされた巨大ツリーの前で落ち合いましょう! それまで屋敷から追い出しよ!」

 所変わってタブロスの邸宅では、何やら企んだ様子のアリシエンテによって、彼女の精霊であるエストが家から追い出されていた。
 彼が家を出たことを確認した後、アリシエンテは部屋のクローゼットを開け放つ。 

「さて、支度支度! クリスマスは年に一日だけ『サンタの格好をしても良い日』だと伺っているわ! よって、私もサンタの格好をして、過去に見た時にこっそり買っておいた指輪をエストにプレゼント……を……」

 そこまで言って、アリシエンテの頬がじんわりと赤く染まる。
 引き出しを開けると、そこにはアレキサンドライトという金緑石の付いた指輪がしまい込まれていた。
 アリシエンテが、前もってエストへの贈り物として購入しておいた物だ。

「……ついに、これを渡す日が来たのだわ……」

 そっと指輪を手に取り、アリシエンテは決意を固めるように瞳を閉じた。



 一方、邸宅を追い出されたエストは、一足先にホワイト・ヒルのマーケットを訪れていた。
 百貨店内を歩く中、ふと、過去にアリシエンテがウィンドウに足を留め、しばらく見つめてから何も言わずに立ち去った品が目に入る。
 それは、石の嵌った上品なプラチナ細工の指輪だった。

(……彼女へのプレゼントは、あの指輪が良いかもしれませんね……)

 店に入ると、指輪に付ける石は自由に選べるとの事で、女性店員が石のリストを取り出して説明を始める。

「お客様、こちらの石はアレキサンドライトといいまして、石言葉は『秘めた思い』でございます」
「秘めた思い、ですか……」
「はい、ロマンチックですよね。それから、こちらの石はアイオライトといいまして、石言葉は『初めての愛』でございます」

 初めての、愛。

「……それでしたら」

 エストが指輪に付ける石を『アイオライト』と決めると、女性店員が「初恋の方に差し上げるのですか?」と冷やかすように可愛らしく笑う。
 それを素知らぬ顔でかわしつつ、エストは心を決めて指輪を購入するのだった。



 その瞬間、ホワイト・ヒルのクリスマスマーケットに激震が走った。

「たのもう!」

 まるで果たし状でも渡しに来たのかという勢いで、百貨店のバイクショップの前に、レムレース・エーヴィヒカイトが仁王立ちしていた。
 店内にいた男性店員は、レムレースの迫力とみなぎるオーラにびくりと震えあがる。

「は、はい、お客様! 本日は、どのようなご用件で……」
「すまないが、バイクの整備道具を整理できる、道具箱のセットは置いてあるか?」
「はい、ご、ございます! お客様がお使いになるのですか?」

 緊張して混乱気味の男性店員だったが、レムレースは全く気付いていない様子で首を振る。

「いや、バイクに乗るのは俺ではない。今日はクリスマスプレゼントを買いに来た」

 真顔で『クリスマスプレゼント』と可愛い単語を発するレムレースのギャップに、男性店員はくらりと眩暈を起こし、テーブルに足を引っ掛けて盛大にこける。

「あいた!?」
「……だいぶ派手にいったが、平気か? 慌てさせてすまないが、プレゼントであるためラッピングも頼む。女性への贈り物らしくリボンが良いだろうか、いや、この赤と緑の包装紙でくるむ方法も捨てがたい」

 レムレースのやや天然入りの生真面目な様子に、少しずつ男性店員の緊張がほぐれていく。
 そして、和やかな雰囲気の中、レムレースは道具箱のセットと、おまけで装飾用に盾のエンブレムのステッカーをゲットするのだった。



●24日夜

 夢を見た。
 またオーガの夢だけれど、いつもと違って、オーガと戦うレムレースの背中を見ている内容。
 彼の背中に手を伸ばしかけたところで、出石 香奈の目が覚める。
 気がつけば、タブロスにあるいつもの自分のマンションだった。
 自分の出生の秘密を知りたくて、自分が生まれた年の事件を調べていたら、うたた寝していたようだ。
 『追憶を歌う貝殻』から聴こえた母の声が、彼女が自分の過去を知りたいと思うきっかけになっていた。
 根を詰め過ぎたのかもしれないと、香奈は気持ちを切り替えるように自分の頬を叩く。

「今日はレムが来るんだから、急いで支度しなきゃ」

 そうしてキッチンに立つと、ローストビーフやグラタン等のクリスマスメニューを手際良く作っていく。
 やがて日も落ちた頃、部屋のチャイムが鳴らされてレムレースがやってきた。

「夜分遅くにすまないな、香奈」

 出迎えた香奈の様子を見て、レムレースが思案する。

(少し疲れている風なのが気になるな。食事にも誘おうと思ったが、プレゼントを渡したら早めに帰ろう)

 そして、彼を家に招き入れた香奈は、彼から可愛らしく包まれた贈り物を受け取った。

「ありがとう、いつも守ってもらってばかりなのに、その上プレゼントまでくれるなんて」
「気にすることはない、俺の役目は皆の盾となることだ。それに俺は、お前の背中も頼もしいと思っているぞ」

 レムレースの言葉に、香奈が目を見開く。

「え、あたしの背中……? 本当に? あたし、レムの役に立ててる?」

 聞き返してくる香奈に、レムレースは表情を緩めて頷いた。

「無論だ。頼りにしているぞ、香奈」
「よかった……」

 彼に褒められて気恥ずかしくなり、香奈は誤魔化すように贈り物の包みを開く。
 中から出てきたのは、道具箱のセットとエンブレムのステッカー。
 自分の身近な物を選んでくれたことに、香奈はレムレースの気遣いを感じて微笑む。

「素敵だわ。あたし、バイクもっと頑張るわ。どこにだってレムを連れて行ってあげる」
「それは楽しみだ。お前は、いつもバイクに俺を乗せて戦場を共に駆けてくれる。なかなか良いコンビになってきたのではないかと、自分では思っている。香奈はどうだろうか」

 問いかけると、彼女は答える代わりに少し照れたように頷く。
 何となく、二人の間を柔らかい空気が流れる。
 このまま二人の時間が終わることを惜しく感じ、レムレースは軽く咳払いをしてから提案した。

「香奈、やはり今日は共に食事をしないか?」
「……いいわよ、一緒に食べましょ。実は、二人分の夕食を作ってあるのよ。折角二人分作ったんだから食べてもらわなきゃ」

 立ち上がって料理を盛りつけつつ、香奈は胸元に手を当てる。

(もう自分がレムに相応しくないかもなんて考えるのはやめよう。これから相応しくなっていけばいいんだから)

 二人で、背中を合わせて戦っていけるように。
 香奈が料理をテーブルに並べると、レムレースが驚いたように目を瞠った。

「美味しそうだな。今年は香奈のおかげで良いクリスマスになる」

 レムレースが、いつになく穏やかな雰囲気で香奈に語りかける。
 聖夜の奇跡が、確かに二人の心の距離を近づけていた。



「わあ、羽純くんに誘われちゃいました!」

 ホワイト・ヒルのレストランを目指して、桜倉 歌菜が上機嫌で小走りしていた。
 クリスマス兼お互いの誕生祝いに、今夜は羽純と一緒に食事をする予定なのだ。
 精一杯のおしゃれをして、メイクもして、彼の為に懸命に編んだセーターをこっそり持って、いざ待ち合わせ場所へ。
 料理店の入り口に着くと、壁に背を預けて待っていた羽純が、歌菜に気付いて顔を上げる。

「歌菜、寒くなかったか?」

 一番に気遣ってくれる羽純に、大丈夫だと頷いてから、彼の背中を追ってレストランに入る。
 そこは、アンティークな家具で飾られた落ち着きのある店内であった。
 レストランのサービスにコートを預けてから、羽純と向かい合って席に着く。
 濃紺のスーツに身を包んでいる彼は、輝いて見えるほど王子然とした雰囲気であった。

(わ、わあ……! スーツ姿の羽純くんに動悸トキメキが止まらない!)

 歌菜がカチコチに緊張していると、羽純が楽しそうに形の良い唇を持ち上げる。

「歌菜、緊張しすぎだ。少しは落ち着け」

 固くなっている歌菜がおかしいのか、低く笑う羽純に、歌菜も肩の力が抜けてくる。

(やっぱり、羽純くんは不思議。こんなにドキドキさせられるのに、こんなに安心もする……)

 ワゴンで運ばれる料理を楽しんだ二人は、お酒を飲んでいないのに、まるで酔っ払ったかのように心地良くなっていく。
 そしてあっという間に楽しい時間が過ぎ、帰り道の街路で、羽純が歌菜に声を掛けた。

「お前に渡したい物がある、歌菜」

 そうして差し出されたのは、リボンで包まれた小さな箱。
 開けてみると、ペンダントウォッチがしゃらりと歌菜の手の内で揺れる。

「歌菜、メリークリスマス。そして、誕生日おめでとう」

 少しいたずらっぽく首を傾げて笑む羽純に、歌菜の肩が小さく震える。

「嘘……」

 まさか、羽純からプレゼントを貰えるとは思っていなくて……。
 歌菜の大きな瞳から、あまりの嬉しさに一筋の涙が零れる。

「歌菜、泣くな。そんなに意外か? 俺だって、お前の誕生日くらい祝うさ」

 ぽろぽろと泣きだす彼女の頬にそっと触れると、彼女が照れたように視線を伏せる。
 そして、おずおずと恥ずかしそうにしながら、手編みのセーターを差し出した。

「メリークリスマス。誕生日おめでとう、羽純くん」
「お前、これ……。俺のために?」

 彼女からセーターを受け取り、羽純は用意していたカードを彼女に手渡す。
 カードに書かれている言葉は、

『もう時計を壊して泣くなよ? 誕生日おめでとう』

 普段は伝えるだけの言葉も、カードに記せば、歌菜の手元に思い出として残るから。
 我ながら気障だったかと、羽純が照れ隠しに背を向ける。
 その背中に、彼女の想いのこもった一言が、告げられた。

「大事にするね。……羽純くん、大好き」

 はっきりと聞こえた言葉に、どきりとして振り返れば、彼女が泣き笑いの可憐な笑顔を向けてくれていた。
 街灯に照らされた彼女の涙は、思わず息を呑むほどに綺麗で……。
 羽純は、可愛らしい歌菜の姿に、彼女を自分の手で守りたいと、そう思い始めていくのだった。



 ホワイト・ヒルの繁華街入口で、悠夜が街行く人を眺めていた。

(降矢さんからこんな日にお誘いを受けるなんて……。なんだかそわそわしちゃって、早めに来ちゃったや。降矢さん、まだかな……)

 弓弦を待つ悠夜の目の前を、たくさんの恋人達が通り過ぎていく。
 周りにカップルが多いから意識しちゃうなぁ、なんて落ち着かない気持ちでいると、こちらに向かって待ち人が駆け寄ってきた。

「悠夜さん、遅れてごめんよ……っ」

 肩で息をしながら、弓弦が悠夜の前で足を止める。
 いつもは時間に正確な弓弦だが、今日だけは、身嗜みを整えようと寝癖と格闘している内に時間ぎりぎりになってしまっていた。

「こんばんは、降矢さん。私は今来た所だよ。急いで来てくれたみたいだけれど、大丈夫?」

 本当は早めに来ていたことを内緒にしつつ、弓弦を気遣うように声を掛ける。
 すると、彼の柔らかな黒髪が、一カ所だけぴょんっと寝癖で跳ねていることに気付いた。

「ふふ、髪の毛がここだけ跳ねてるよ、降矢さん。――よし、直った」

 弓弦の髪に手を伸ばして、そっと寝癖を撫でつけて、気づく。
 二人の顔が、とても至近距離まで近づいていることに。
 思いがけない接近に、二人の頬がふわりと桜色に染まる。

「あ、い、いきなりごめんね、降矢さん! それじゃあ行こうか……っ」

 慌てて弓弦から体を離して背を向けると、その腕を弓弦に掴まれる。

「待ってくれ!」
「……って、え?」

 彼に呼びとめられて振り返ると、目の前に贈り物が差し出される。

「悠夜さん、これを受け取ってくれないかい……?」
「もしかして、プレゼント? わ、私なにも用意してないけれど……開けていい?」

 頷く弓弦の前で箱を開けると、月の形をしたイヤリングが街灯に照らされる。

「わ、綺麗……。素敵なデザインだね。今、つけても?」
「勿論だよ。悠夜さんの旅路を守ってくれるよう願って選んだんだ。僕の代わりに、悠夜さんの旅に連れて行ってほしいんだ」

 弓弦の真摯な言葉に、悠夜は心の奥から嬉しさがこみ上げてくる。
 そして、感謝の気持ちを込めて、伝えた。

「ありがとう……――弓弦さん」

 初めて呼んだ、彼の名前。
 呼び方を変えるだけで、彼の存在が、すごく自分に近づいた気がする。

「って、名前言っちゃった……その……えへへ」
「悠夜さん……」

 恥ずかしそうに小さく笑う彼女に、弓弦も照れたように後ろ頭を掻く。
 お互いに頬を熱くする中、悠夜が自分の耳をイヤリングで飾った。

「……うん、嬉しい。弓弦さんが思いを込めてくれて、とっても嬉しい。大切に持っていくね」
「ありがとう。とてもよく似合っているよ、悠夜さん」

 弓弦の優しい眼差しに笑顔で応えながら、悠夜は耳のイヤリングにそっと触れる。

(……でも、一緒に旅をしたいと願うのは……欲張りだよね)

 本当は、このイヤリングのように弓弦にも傍にいてほしい。
 二人でいろいろな景色を見て、たくさんの時間を彼と過ごしたい。
 歩きだす弓弦を見つめながら、悠夜は彼とのまだ見ぬ旅に想いを馳せるのだった。



 ホワイト・ヒルの町、ライトアップされたモミの木の下で。
 可愛らしいサンタ服を着たアリシエンテが、エストを出迎えていた。
 見目麗しい姿の彼女に目を奪われつつも、エストが声を張り上げる。

「何を破廉恥な格好をしているのですか!」
「破廉恥などではないわっ。きちんとしたトナカイとの正式コラボコーデよ!」
「そういう問題ではありません!」

 エストは、自分を落ち着けるように一度白い息を吐く。
 彼は、今日という特別な日を、彼女との関係を変えるきっかけにしたいと考えていた。
 彼はずっと、主従の関係から、アリシエンテへの想いを告げられずにいたのだ。
 だが、心の中でいつも願っていた。
 いつか自分の言葉で、貴方が好きだというこの気持ちを伝えることができたなら、と。
 表情を引き締めたエストが、コートからプレゼントを取り出し、恭しく彼女に差し出す。

「メリークリスマス、アリシエンテ。……私の、気持ちを込めて」

 一瞬驚いた彼女が、彼からプレゼントを受け取り、その小さな箱を開く。
 中から覗く、アイオライトの輝く銀細工の指輪。

「これは、私が目に留めていたブランドだわ。覚えていてくれたの。アイオライトの石言葉は、『初めての愛』であったかしら」

 そこまで言って、指輪を差し出した時の彼の言葉を思い出し、アリシエンテの頬がふわりと染まる。

(……これは、そういう意味、よね……)

 高鳴る予感に、アリシエンテも、そっと用意してきた指輪を差し出す。

「……新鮮味がなかったかしら?」

 彼女がエストのために選んでいた指輪も、同じブランドの石違いの物であった。
 言葉では素直ではないことを言いつつも、嬉しいお揃いについ微笑んでしまう。
 彼女が渡した指輪に付いている石は、アレキサンドライト。
 エストは脳裏に、宝石店で聞いた石言葉の意味を思い出す。
 その、言葉の意味は――……

「それが、私の返事よ、エスト」
「アリシエンテ……」

 石言葉を通じて自分の気持ちを告白した彼女が、熱くなった頬を押さえて俯く。
 恥じらう彼女があまりにも愛しくて、エストは腕を伸ばし、堪えきれずに彼女を強く抱き締めた。
 お互いの体温と早まる鼓動が、触れた場所を通して伝わってくる。
 熱を持った視線で見つめ合えば、貴方が好きだという気持ちが、抑えきれないくらい溢れてくる。
 ずっと秘めてきた想いが、二人の立場を越えて結ばれた瞬間だった。
 エストが、彼女の肩口に顔を寄せて、愛を誓うように囁く。
 
「アリシエンテ。護らせて下さい……。道具ではない、この意思を持つ私が、貴方を……永久に」

 強く抱き合う二人を祝福するように、聖夜の鐘が奏でられる。
 清らかな響きは、二人の幸せを告げる始まりの音。
 互いの左手薬指に指輪を交換すると、アリシエンテの瞳から幸せの涙が零れ落ちる。
 それをエストの長い指がそっと拭い、二人は穏やかに微笑み合う。
 左手に輝くリングに、二人の未来への変わらない愛を誓おう。
 白雪の舞う夜空、クリスマスツリーの輝きの下で、永遠の約束が交わされるのだった。



 ――翌日。
 クリスマス当日、タブロスのA.R.O.A.でクリスマスパーティが開かれていた。

「あら、もう皆集まってるわね」

 香奈とレムレースが、仲良くバイクに二人乗りをしながらやってくる。
 その二人に、イヤリングを付けた悠夜が手を振り、彼女の隣で弓弦が笑みを深める。
 また、ペンダントウォッチを胸元で揺らした歌菜と、彼女の手編みのセーターを着た羽純の姿もあった。
 そこへ、アリシエンテとエストが寄り添うように歩いてくる。
 二人の左手には、お揃いのペアリング。
 気付いた仲間たちが次々と祝福の声を掛ける中、パーティが賑やかに幕を開ける。


 来年も、また次の年も、二人で一緒にクリスマスを過ごそう。
 大切な貴方のために、とびきりの幸せを用意して。
 ――僕が君の、君が僕の、サンタクロースなのだから。



依頼結果:大成功
MVP
名前:アリシエンテ
呼び名:アリシエンテ
  名前:エスト
呼び名:エスト

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山崎つかさ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 12月06日
出発日 12月14日 00:00
予定納品日 12月24日

参加者

会議室

  • [14]日向 悠夜

    2014/12/13-23:17 

    もうすぐ出発だね。
    僕も、宝飾の方面へ足を運ぶことにしているよ。
    例によってばったり会ったら…お手柔らかに頼むね。
    (PL:こちらもモ=ジスウの都合で絡みなどはGM様に丸投げしております…;)

    良いクリスマスになります様に。メリークリスマス。

  • [13]桜倉 歌菜

    2014/12/13-22:36 

    良いクリスマスになるといいですね。
    楽しみです。

  • [12]桜倉 歌菜

    2014/12/13-22:36 

  • [11]桜倉 歌菜

    2014/12/13-22:35 

  • [10]桜倉 歌菜

    2014/12/13-22:33 

  • [9]出石 香奈

    2014/12/13-13:33 

    レムレース:
    出発が近づいてきたな。
    こちらもプランを提出してきた。
    俺の行動は、皆と別れた後バイク用品の店へ行き買物、
    夜に香奈の家に行き、そこでプレゼントを渡す予定だ。
    クリスマスだというのに家にこもっているようだからな…

    では皆、良いクリスマスを。

  • [8]桜倉 歌菜

    2014/12/13-00:10 

    一応、俺の行動は以下のようになります。

    偶々会った皆さんと挨拶したりした後、
    宝飾・時計方面のお店へ行って、時計を買います。
    その時、店員に勧められてメッセージカードを付ける事に。
    もし、降矢さんが宝飾・時計方面に行かれるなら、ご一緒できるかと。
    (PL:文字数の都合上、GM様に丸投げになりそうですが←)

    24日の夜は、歌菜とレストランで食事をして、帰り道にプレゼントを渡す予定です。
    (PL:ギリギリまで調整するので、もしかしたら一部変更になるかもしれません!)

  • [7]桜倉 歌菜

    2014/12/11-23:44 

    文字数の制限もありますし、俺の方で軽く「一緒なる皆さんと軽く絡めたら」…程度で書いておきます。(GM様に丸投げる気だな、背後)

    プレゼントに、メッセージカードでも付けてみる…かもしれません。
    普段、なかなか伝えられない事、こういった形なら伝えられるかもしれませんから。

  • [6]アリシエンテ

    2014/12/11-14:24 

    皆様、改めまして。不肖、エストと申します。どうぞ宜しくお願い致します。

    こちらはプレゼントは指輪と決めているのですが……
    アリシエンテが何か企んでいるもようである事と、──私も今までの関係に少し考えるところがあり、これを機にと考えているものが御座います。

    その為『敵・モ=ジスウ』の関連により、売り場ではご一緒出来そうにありません。大変申し訳御座いません。

  • [5]桜倉 歌菜

    2014/12/11-01:42 

    あらためて、月成羽純です。
    皆さん、宜しくお願いします。

    俺は、歌菜がこの間、腕時計を壊して凹んでいたから、時計をプレゼントしようと思ってる。
    なので、行く場所は宝飾・時計方面になります。
    よろしければ、そちら方面に行く方が居れば、ご一緒出来たらと思います。

  • [4]日向 悠夜

    2014/12/10-23:27 

    挨拶が遅くなってすまないね。
    降矢 弓弦です。今回もよろしくお願いするよ。

    レムレース君は別行動、か…了解です。素敵なプレゼントが見つかる事を祈っているよ。
    その…僕は、女性に贈り物をするという経験があまりなくてね。
    誰か、一緒にお店を周ってくれると嬉しいな、なんて…。

  • [3]出石 香奈

    2014/12/10-22:03 

    レムレース:
    皆見知った者ばかりだな。
    レムレースだ、よろしく頼む。
    俺はバイクに関連するものを贈ろうと思っている。
    あまりプレゼントらしくないから売り場では別行動ということになるな。

  • [2]アリシエンテ

    2014/12/10-21:16 

  • [1]桜倉 歌菜

    2014/12/10-00:15 


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