プロローグ
「ノースガルドの温泉に興味はありませんか?」
ホワイトヒルの、A.R.O.A.関連施設。唐突に支部職員がウィンクルム達にそう聞いてきた。
「ありますよね? そうですか、そうですよね!」
返事もしないうちに「うんうん」と頷いた職員は、やはり唐突に建物の一角を指さす。
そこには、五羽のウサギがいた。
雪ウサギである。
「あちら、スノーウッド在住のヨン家さん御一行です」
話を聞けば、スノーウッドの森に暮らす彼らの周りで生活環境が激変しているという。暴れる動物がいたり、食べ物の味が変わったりと、瘴気の影響がそこかしこに見られるとか。
「そこでヨン家のみなさん、どうせだから避難ついでに温泉旅行に行こう――ということになったらしくて」
なんともお気楽な話であった。
「目的の場所がちょっと遠い所にあるので、こうしてA.R.O.A.を頼ってきたみたいですね」
ウィンクルム達が共に同行することで「愛の力」が発生し、瘴気も弱まるのだそうだ。
なので、A.R.O.A.としても「ウサギたちと温泉旅行に行って来てOK」ということになったようだ。
「ちゃんとガイドさんもついてますし、ヨン家の皆さんとはこのルンブルの帽子で意思疎通が可能です。動物とも触れ合える温泉旅行になりそうですが、いかがでしょう?」
ところが、である。
ここで行くことになった貴方に、後日談を紹介しよう。
「あ、来ましたね。あれがガイドのレベッカさんです」
「ああ! 本当に男性のペアがこんなに……!」
現れた妙齢の女性ガイドが、どこか感極まった風に言った。
「――こんな風に少し変わったところがありますが、彼女はガイドとしてベテランなので、ご安心ください」
「モブ扱いでお願いしますね。うふふ」
笑いながらカメラを構えるレベッカ。
そのカメラはなんだ。
「ところで皆さん、そんな軽装では凍死しますよ?」
防寒着を着こんだウィンクルム達に、女性ガイドはそんなことを言った。
「スノーウッドの最高峰、『白馬岳』に挑むのでしょう? ちゃんと登山の用意をしておかないと、本気で永眠しますよ?」
思わず職員を見れば、どこにもその姿はない。
そんな話、聞いてないぞ!
解説
・白馬岳
三千m級の、万年雪をたたえるスノーウッドの最高峰。山頂近くには高山植物で「天空の庭」と呼ばれるお花畑があり、自然の温泉が沸いている。本格的な登山になるため、案内人がいたほうが良いだろう。
ここにある温泉へ、レッツ登山♪
温泉はちゃんと人も入れる大きさがあります。
登山と温泉をお楽しみください。
山頂付近の山小屋で宿泊できます。
また登山の準備なども含め、費用が600ジェールほどかかります
・ルンプルの帽子
鹿っぽい耳のついた帽子です。かぶった者は動物と会話が可能に。MP消費などはありませんが、30分以上の連続使用は疲れるので、ときどき会話担当を変えるといいでしょう。パーティ人数分貸し出され、どんなサイズの頭にもぴったり合います。複数で動物と話したい時は、交換しながら話すと良いでしょう。
・ウサギさんのヨン家御一行(名前は長いので、以下の名称は通称で)
ヨン老:一家の長老。どこか達観している。昔話が好き。よく寝る。食べても美味しくない。
ヨン父:ちょっとネガティブ思考の一家の大黒柱。家計の心配をよくする。食べられないか心配している。
ヨン母:ちょっとふわふわ思考の不思議系お母さん。美人らしい。食べごろである。
ヨン兄:遊び盛りの少年。ヨン子の兄。好奇心旺盛で警戒心はない。人に興味津々。
ヨン子:末っ子。舌っ足らず。性格は兄と同じだが、やや天然。
・ガイドさん(レベッカ)
この時期ノースガルドに来て、観光客相手にガイドをしている女性。
それ以外の時期は、別の職業で生計を立てているらしい。
撮影機材でウィンクルム達の様子を撮る気満々である。温泉にはもちろん入らず撮影である。
ウサギを最終非常食と考えている節がある。
ゲームマスターより
男性側では初めまして、叶エイジャと申します。
今回は、白馬岳にあるという温泉まで行きます。
描写は、プラン次第ですが登山過程と温泉やその周辺について、考えています。
NPCはジャンル的に、ほぼボケ要因の可能性が大(ヨン兄、ヨン子はまともです)。
ガイドさんがガイドせずにウィンクルム達の撮影をしたり、ヨン父が無意味に「食べても美味しくない!」とか叫んだり……するかもしれません。
ヨン家さんとはルンプルの帽子をかぶ人のみ、意志疎通可能です。
それでは、ちょっと大変な温泉旅行をお楽しみください。
皆様のプランをお待ちしています!
※ウサギさんを本当に食べてはいけません
リザルトノベル
◆アクション・プラン
高原 晃司(アイン=ストレイフ)
まさかのガチ登山になろうとは… 改めて登山装備に切り替えて行くぜ! くっそ標高高いらしいけど体力なら任せておけ! とは言いつつも登山は初めてだから ガイドのいう事にはきっちり従っておく 「気合入れて登った分温泉が気持ちよさそうだな」 何かアインが心配そうに見てる気がしなくもないけど アインには心配かけねぇようにしねぇと 着いたら早速温泉に入るぜ アインを意識せずに素早く全裸になって温泉に飛び込むぜ 「っかー!気持ちいいな!」 なるべくアインを見ても自然に振舞えるようにしてぇが… (くっそー落ち着けー!アインの裸なんて見慣れてるじゃねぇかよー!変に感づかれると面倒くせぇんだよ) これ以上想いが大きくならねぇようにしねぇと |
羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
足取りの重い彼を宥め賺しながら登る 俺も本格的な登山は初めてだから、一緒に頑張ろう? 寒さが和らぐように温かい物の話をしようか 帽子を交換で被り長老さんを交えて温泉の話を聞く 登った後の楽しみが増えたらもう少し頑張ろうって気になるかなって ?!長老さん寝ちゃ駄目、ラセルタさんも乗っからない!(頬ぺち 温泉は良いね。身体の芯から温まる気がする 駄々を捏ねつつも無事登り切った彼を笑み含めつつ褒め っ、俺は一緒に登っただけだよ。からかわないで(ふふ 温泉帰りに天空の庭へ寄り道 美しい景色を並んで眺め途中で密かに彼を見遣り 凛とした横顔に思わず、綺麗だねと言葉零す (二人きりで、このまま変わらずに居られたなら…俺は十分幸せだ |
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
交代で帽子を使って会話 ランスとウサギ達と一緒に山を登ろう スノージャケットに入って顔だけ出すのはどうだ? 俺達もウサギ達も暖かいから一石二鳥だと思うんだ 背嚢の中、天辺にはスチロールに埋めた卵 倒れない限り割れないと思う よろけたら必死でランスに手を伸ばす← ウサギに食べるか聞かれたら、食べないよと即答 ランスの答えにはお約束のツッコミだ 到着後は皆で温泉に入ろう 麓で調理しておいたお弁当を出そう(いそいそ 気圧が低くて沸点が低いだろ 圧力鍋は重たいしさ (それにランスと長い時間ゆったり過ごしたいし) で、あとは卵だ(がさごそ 温泉卵、上手く出来るかな ランス…それ 嗚呼、俺も俺も 飲んでじんわり 視線が合ったらふわっと微笑むよ |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
冬山登山は油断大敵。アウトドア好きだから装備はバッチリ整えていくぜ。 ラキアの分も防寒具やリュックなど色々と準備。色違いのお揃いになるのは仕方のない事なんだ(確信犯)。 ラキアの長い耳が寒そう。イヤーマフを用意してきた。 でも耳が長いからどうしても先がはみ出すな。 ルンプルの帽子にいれると、ほら暖かい! と冷たくなった耳も触って温めてあげよう。 ヨン一家は兎なのに温泉入っても大丈夫か? (兎がずぶ濡れになると死んじゃうと思っている) ルンプルの帽子で兄弟たちと話すぜ。 雪を眺めつつ温泉に入ってラキアとまったり。 ガイドさんの視線には全く頓着しない。 「ラキアがのお蔭で安心して任務につけるよありがとう」とお礼いうぜ。 |
俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
…お前がいつも担いでる杖は何だ (お姫様抱っこの記憶が蘇り赤面) 登山はガイドの指示に従って確実に 600Jr分の準備もしっかりやったし、あとはネカがアホなことしなけりゃ大丈夫だ、たぶん 帽子は先に被らせてもらう 兎か…ふわふわ毛玉だが犬じゃないから大丈夫だ よしよし、食わないからのんびりしていけ 確か兎って撫でられすぎるとストレスになるんだっけ? ネカ、やりすぎるなよ ってまたやるのかあれ!? い、いや別に嫌ではねえけど…ていうか、嫌だったらとっくに断ってるよ 開き直ってやってみたら意外と楽しいもんだよ お、おう?(肩までつかり) あ…もしかして体の傷のこと気にしてくれたのか? 調査員時代に無茶したツケだから平気だぞ? |
「まさかのガチ登山になろうとは」
高原 晃司はその山を見上げた。山頂は分厚い雲に隠れ、うかがう術もない。
スノーウッドの最高峰、白馬岳は三千メートル級の連峰の中にある。万年雪をたたえる名所だ。山頂近くに高山植物で「天空の庭」と呼ばれる花畑が広がっていると聞くが――
「みなさん、登山の準備は出来ましたか~?」
もちろん相応の準備をしないと、もっと上空にありそうなお花畑に永眠のご招待である。ガイドの前で登山用の防寒着に着込んだ十人の男性陣は、見えぬ終着点にため息ともつかぬ息をもらした。
「話としては聞いていませんでしたが、受けてしまったものは仕方ないですね」
晃司の契約精霊、ポプルスのアイン=ストレイフがそう言った。元より巨躯の彼は、防寒着やら装備やらのせいでさらに存在感が増している。
「俺様に登山を強いるとはあの職員め、戻ったら覚えているがよい」
「まあまあ、温泉は入れるみたいだし。それにひと……ウサギ助けになるんだから」
整った顔を子どものように歪ませるディアボロ、ラセルタ=ブラドッツ。彼の神人である羽瀬川 千代は宥めながらも、登山中、しばらくは不機嫌だろうなぁと苦笑した。
「俺も本格的な登山は初めてだから、一緒に頑張ろう?」
「うぅ、お前のところのコタツが恋しいぞ、千代……」
吹いた風に身体を震わせ、千代の背を風除け代わりとひっつくラセルタ。シャッター音が響いたのはその時だった。
「ああ、寒さを和らげるため身を寄せ合う殿方たち……ぐふふ」
カメラを手にシャッターを切る女性ガイド・レベッカ。移動しながら様々な構図で写真を撮っていく。
「ああ、いい。すごくいい!――キャー!」
そして道路の脇、除雪でよけられた雪山に倒れるガイド。セイリュー・グラシアが呟いた。
「気のせいかな。今、急に登山が不安になってきた」
「セイリュー、そんなこと言っては失礼だよ」
赤髪のファータがレベッカに手を差し伸べる。ラキア・ジェイドバインはガイドを立ち上がらせると、丁寧な所作で雪を払った。
「登山ガイドは生半可な仕事では務まらないよ。ベテランとして推薦された彼女は信用すべきだと思う」
「まあ、ありがとうございます」
一目、女性と見紛うラキアに目を瞬かせながら、ガイドは続けた。
「でも、その丁寧な物腰の中に抑えきれぬ情熱が渦巻いて――いるのでしょうっ?」
「ええと……」
言葉を濁すラキア。セイリューと同じ予感を覚えたのかもしれない。
「ふふ。登山は初心者ですから、ガイドさんの指示はちゃんと聞きませんとね……さて、登山道具ですか」
一方、ネカット・グラキエスは穏やかな相好で地面にある装備一式を見やる。
「私、ペンより重いものを持ったことがありません。大丈夫でしょうか」
「……いや、ちょっと待て」
さらりとそんなことを言ったポブルスに、神人の俊・ブルックスは当然ながら待ったをかける。琥珀色の瞳でネカットを睨んだ。
「お前がいつも担いでいる杖はなんだ」
「それはそれ、これはこれ――ふふっ、冗談です。これでもシュンを抱っこしたこともありますからね」
「ちょ、ネカ!?」
軽い返しにお姫様抱っこされた記憶を思い起こすことになり、俊は赤面する。
しかも被害はそれだけではなかった。
「まあ、抱っこですか!? そのあたり、ぜひ詳しくっ」
「ふふ。シュンの大事な秘密ですが、命を預けるガイドの指示とあれば仕方ありません。まずは馴れ初めから――」
「なに嬉々と語ろうとしてるんだよ!?」
「……ごくり」
「アンタも頬染めて聞こうとするなー!?」
俊の声が響く中、アキ・セイジはテイルスのヴェルトール・ランスとともに今回の『依頼主』の入ったケージを開ける。
「良ければ、ジャケットに入って顔だけ出す、というのはどうですか?」
ルンブルの帽子を被り、アキがそう提案した。顔を見合わせた依頼主――ウサギたちに語りかける。
「俺たちも貴方たちも暖かいし、一石二鳥だと思うんだ」
『そ、そうやって僕たちを逃げないようにして、食べる気だな!?』
落ち着きなく動く一匹――ヨン父が甲高い声で返した。別のウサギが落ち着いた女声でたしなめる。
『いいじゃないアナタ。それだけ私のカラダが魅力的ってことよ』
『ヨン母さん、朝ご飯はまだかのう?』
『いやですわ。朝食べたじゃないですか』
ヨン老と思しきウサギの声にそう返すヨン母。アキは子どもの夢を壊しそうな会話を前に咳払いする。
「安心して下さい。食べないので」
「セイジ、どうしたー?」
声の聞こえぬヴェルトールにはアキの様子に皆目見当がつかない。しかし手短な説明が入ると「ああ、そんなことか」と、すぐさまその顔に笑みを浮かべた。
「俺もウサギ君たちは食べないよ。安心してくれ。むしろ食べるのはそこのセイジく――」
「――青菜をもってきた」
裏拳でパートナーの言葉を強制中断し、アキは彼の手から取った青菜を見せる。小柄なウサギが二羽、寄ってくる。ヨン兄とヨン子だ。
『わぁ、美味しそう。ねえヒトのお兄さん、頂いていいの?』
『おにちゃ、あたちも食べゆ~』
まともな反応にアキはほっとする。
「良ければ、食べながら一緒に外を見ないか?」
『うん、いいよ~』
『あたちもー』
交渉成立。ヨン兄を胸元に入れたアキに、ダメージから復帰したヴェルトールもヨン子にジャケットに入れる。
「よし。じゃあ、今のセイジを写メっちゃえ♪」
『チーズなの!』
精霊の手元でシャッター音が響いた。
なにはともあれ準備はそろい、いざ山をへ。
「改めて見てもくっそ標高高いみたいだが……体力なら任せておけ!」
と、登山前に言っていた晃司。
今、彼は最後尾で歩いていた。
体力と心意気を買われてのしんがりである。
ちなみに先頭は現在、アインが務めていた。しかし時折チラリと、登山の合間に視線を送ってくるのが感じられる。
(何か心配されてる感じがするが……大丈夫だぜ)
まだ登山開始から幾ばくも経っていない。土方で鍛えた体力も気力も、この程度ではどうということはなかった。
とはいえ――
(いつまでも、アインに心配かけねぇようにしねぇとな)
そう思いながらも、心のどこかで気にかけてもらってるのが嬉しい晃司であった。
一方のアイン。
(はしゃぎすぎてバテなきゃいいんですがね)
万一そうなればサポートすれば良いと思いつつ、初登山の晃司を先頭からついつい見てしまっていた。
「ああ、いいですね。厳しい表情の中に潜む不安げな気持ち!」
「……」
横で写真を撮ってる者の存在は、この際忘れたことにする。
登山は体力勝負でもある。
ある程度登れば、風にさらされ消耗の激しい先頭を交代することになっていた。
「ネカ、アホなことするなよ」
「シュンったら、失礼ですね」
「素直になれないお年頃なんですよ、きっと」
「それは困りましたね、素直に甘えて欲しいのに」
「でも、素直すぎると物足りないのでしょう?」
「ふふ、まさにその通り」
「……」
俊の目の前で、ネカットとガイドが共感の笑みを浮かべる。
『あっはっは!』
「お前ら仲いいな!?」
精霊が二人に分裂したような状況に俊がツッコミつつ――ルンブルの帽子を被り直す。彼が胸元に入れているのはヨン父だった。
『いやだー、死にたくないー!?』
「……よしよし、食わないからのんびりしとけ」
怯えるヨン父を宥める俊。ふわふわな白毛玉の兎だが、さすがに犬じゃなければ大丈夫だ。
会話してるとなんだか、精神が癒されぬまま削れていく気がするが。
「確か、兎って撫でられすぎるとストレスになるんだっけか」
ストレスと言えばと、ふと以前聞いたことを俊は思いだす。
「ネカ、頭撫でる時はやり過ぎるなよ」
「そうですよ、ストレスはいけません」
なぜかネカットより、ガイドが先に口を開いた。真剣な表情に豆知識でもあるのかと俊は表情に引き締める。
「ストレスがたまると、肉の質も落ちますからね」
「っておいぃ!?」
『嫌だぁぁぁああ!?』
案の定わめき出したヨン父。冗談のきつい(?)ガイドを睨んだところで、ネカットがにこやかな表情で割って入る。
「それ以上はヨン父さんが本当にストレス溜まるので、このあたりにしましょう。ところでシュン」
「なんだよ?」
「シュンの頭を撫でても、ストレスにはなりませんよね?」
雪が積もってますと、ネカットは俊の頭を優しく撫でる。俊の顔がやや赤くなった。
「恥ずかしいだろ。言えば自分で払うって!」
慌てて自分で頭部の雪を払う俊。ネカットがそれに微笑んだ。
次の先頭はセイリューと、ラキアだ。
「お二人は色違いの登山服なのですね。お似合いですよ」
「なんせ急な買い物だったからな。色違いのお揃いになるのは仕方のない事なんだ」
「そう、なの……?」
自信たっぷりにそういうセイリューに、首を傾げるラキア。彼の胸元にはヨン母が首を揺らして外を見ている。
「それより、イヤーマフありがとう、セイリュー。こうして歩いていてもすごく暖かいよ」
そう言ってラキアが指差したのは彼の耳を覆う防寒具だ。
「ああ。でもファータの耳だと、やっぱり少しはみ出るんだよな……お、これならどうだ」
思案顔のセイリューはその時、後方から回ってきたルンブルの帽子を見て、思いつく。
「耳をこの帽子に入れると……ほら、暖かいだろ?」
「でも、セイリューが話したいって言ってたよね?」
「いいから、いいから」
セイリューはラキアに帽子をかぶせ――その前に手袋を脱いで、ラキアの耳に触れた。
「冷たっ。でも、これで少しは温かくなるな」
「もう、セイリュー……くすぐったいよ」
ラキアは照れたように身じろぎ……気付いた。一本道なのに、ガイドの姿がいなくなっている。
小さなシャッター音が聞こえた。
「いい、いいですわ!」
見れば道から外れた雪の上に寝そべり、ガイドがカメラのボタンを何度も押している。フリーズしたウィンクルムの前で、雪が崩れ、滑り出した。
「キャー!?」
「……やれやれ、仕方ねえな」
セイリューが縄を取り出し救助に向かう。
「ラキアのあんな表情撮られたら、写真はちゃんと現像してもらわないとな」
「セ、セイリュー」
どこか恥ずかしげなラキア。
なお、この救助に要した時間により、やや進んだ場所で起きた雪崩に、奇跡的に巻き込まれずに済んだという話である。
先頭は交代し、千代とラセルタが前を歩くことになる。
「しかしまあ、画期的な帽子だな」
手にしたルンブルの帽子をためつすがめつ、ラセルタがふむ、と何度も頷く。
「知性の高い動物に限るとはいえ、意志疎通が図れるとはな。獣医には必須かもしれん」
登山開始直後、口から出ることはといえば登山と職員への文句の比重がかなり大きかったラセルタだが、さすがに言っても詮がないと思ったのだろう。帽子を千代に渡したのは、彼なりに動物好きの千代が沢山話せるための配慮だったようだが、少し喋るのが疲れているようにも見えてしまうのだった。
「それじゃあ、寒さが和らぐように温かい物の話をしようか」
千代は微笑み、胸元にいるヨン老に話しかけた。登った後の楽しみがあれば、ラセルタももっと元気になると思ったのだ。果たしてヨン老は『そうさな』と語り始めた。
『あれはワシが若いころじゃった。その頃森の名物で――』
「温かいといえば、鍋だろうな」
「ラセルタさぁん!?」
そうだ、ラセルタは帽子をかぶってないのでヨン老が話し始めたことが分からないのだ。冗談めかしてヨン老を見るラセルタのあんまりなタイミングに、千代は申し訳なく思いつつ通訳を始める。ヨン老が『鍋か』と呟いた。
『お二人はなんという名かね?』
「俺は千代、それとこちらはラセルタさん」
「話を聞いてやろう。よきにはからえ」
『心得た、あれは若き頃、我々ウサギ族と森の暴れ者オオカミ族との激しい戦での最中じゃった――』
(も、森の名物の話じゃなくなってる……)
『――ぐぅ』
「!? 長老さん寝ちゃダメ!」
『おお? すまんすまん』
ヨン老は咳払いをし、そして話し始める。
『はて、お二人はなんという名かね?』
(しかもなにこのコント!?)
さすがヨン家の長老、いい感じにボケていた。
「俺は千代、それとこちらはラセ――ルタさんも乗っかって寝ないで!?」
いつの間にか寝ているラセルタに、千代は頬をペチペチ叩いて起こす。
「ッ!? 寝てない、寝てなどいないぞ。寒さと昔話で意識が遠のいただけだ」
「それって寝たって言わない?」
「うふふ、楽しそうですわね~」
ガイドはそんな三者の様子を、シャッターを切りながら進む。
(ガイドさんはお願いだから、前見て進んで!)
千代は心の中で叫んだのだった。
アキとヴェルトールが先頭役になった時には、周囲は薄暗くなっていた。
「そろそろ日没か。どこかにキャンプするのか?」
「もう少ししたら山小屋につきますので、今夜はそこで」
「そうか、あと少しの辛抱だ、なっ……!?」
「セイジ!」
よろけたアキを素早く支える精霊。
「ありがとう、ランス。ここまで来て、危うく割るところだった」
「割る?」
「ああ」
アキは背嚢を指差した。
「卵、持って来たんだ。よければみんなで、温泉卵を食べようってね」
暗くなり、視界が悪くなる中進んだ一行は、その後ようやく山小屋についたのだった。
さすがに疲労を感じ、寝袋にくるまれば雑談をかわす余裕もなく。
五組のウィンクルムは自然と、襲ってきた睡魔に身をゆだねるのだった。
そして、二日目の朝。
「ほぼ目の前まで来てたんだな」
山小屋から歩いて少し。
そこに湧き出る温泉を前に、晃司は衣服を脱いでいく。
気温は低いが、源泉を中心とした場所は地熱があるのか、登山時ほど寒くは感じない。
雪もそれほど積もってなく、山々に囲まれた窪みのような平地には、花が咲いていた。
天空のお花畑――温泉の地熱を含めた複雑な諸要因によって、高山植物はその花を咲かせているのかもしれなかった。
「っかー! 気持ちいな!」
脱いだのは温泉に入るためである。景色に見とれる余裕もあまりなく、晃司は湯に浸かった。疲れが身体の中から沁み出し溶けていくような感覚に、表情も緩んでいく。
「気合入れて登った分、やっぱ気持ちいいな!」
大きく伸びをする晃司。
しかし、
「この気温なら、いつもより長湯ができそうですね」
隣に入ってきたアインの大きな背に、鼓動が波打ってしまった。
(くっそー、落ち着けっ俺! アインの裸なんて見慣れてるじゃねぇかよー! 勘付かれる面倒くせぇんだよ!)
必死に、そう自分に言い聞かせる晃司。
これ以上、想いを大きくするわけにはいかないのだ。
「ふー。なんというか、酒が欲しいですね」
景色も良いので、見ているだけでも悪くはないが。
(それにしても、晃司は挙動不審ですね?)
妙にそわそわしている。湯あたりをしなければいいが。
「晃司、大丈夫ですか?」
「だ、ぁい丈夫!」
「……」
(流石に、ここでのぼせて倒れても担いで降りるなんてできませんが)
晃司の気も知らず、アインはそんな事を思うのだった。
「ところでさ、兎なのに温泉入っても大丈夫か?」
「セイリュー?」
「兎ってさ、ずぶ濡れになると死んじゃうんじゃなかったっけ……」
その言葉に目を丸くしていたラキアが、次にくすくすと笑う。
「セイリュー、あのね。『兎に水をやったりお風呂に入れるとしんじゃう』は迷信だから」
「え、そうなの?」
「でも、寂しいと死んじゃうのは本当だよ、ね?」
『こんなグラマラスな美人を寂しくするなんて、罰あたりよ~』
ヨン母が湯につかりながら、応じる。
『昔を思い出すのぉ~』
『生きてて良かった~』
ヨン老とヨン父が目を細めながらつかり、ヨン兄とヨン子が浅い場所で泳ぐように遊んでいる。
『ねぇね、あそぼー』
「お、遊ぶかー」
セイリューが兄妹をゆっくりと追い掛ける。ラキアがその背を笑いながら――いくつもの傷跡を見て、しみじみと呟く。
「セイリュー、傷跡増えたねぇ……あまり無茶しないでね」
「ん。あぁ、そういえば増えたかもなぁ」
自らの背を見て、セイリューが笑った。
「これでも少なくなってるんだぜ。ラキアのお陰で安心して任務につけてるんだ……」
セイリューはそこで、少し気恥ずかしそうに言った。
――ありがとう。
兎の兄妹が泳いでいく。
「温泉は良いね。体の芯から温まる気がする」
「沁みる熱さはまさに極楽、だな」
千代の言葉に、ラセルタもまた顔を洗いながら息を吐く。
「最初はあんな嫌がってたのに、ラセルタさん頑張ったね」
「千代も褒めてやろう。よく此処まで導いた」
湯から出た手が、千代の頭を撫でる。千代が苦笑する。
「っ、俺は一緒に登っただけだよ。からかわないで」
「む? 別にからかってなどいない。頭を撫でるのは心から褒める時だけだ」
ラセルタがどこか、遠くを見る目で言った。
「あれは……そう、幼い頃だ。ばあやにそう教わった」
「ラセルタさんも、そのばあやさんに撫でられたんだ?」
「さて、な。どうだったか」
「ええ、今それっぽい話だったじゃない」
千代に、ラセルタが笑いかける。
「俺様の幼少時は秘密が多いからな」
そして視界に広がる花畑を見やる。千代がそれに――否、ラセルタの横顔を見つつ呟いた。
「綺麗だね」
(二人きりで、このまま変わらず居られたなら、俺は幸せだ)
そして微笑みを浮かべる千代の顔を横目に、ラセルタもまた思うのだった。
この表情が見られるなら、寒い中出かけるのも悪くはない――と。
「はい、チーズ」
「ピースピース、いえーい」
レベッカの向けたカメラに、ノリノリで両手ピースのネカット。
「さて、こうしてゆったり浸かっていると、次のネカザイル公演のアイデアが浮かんできそうですね」
「ってまたやるのかあれ!?」
「おや、嫌でしたか?」
「いや、開きなおったら意外と楽しかったけどさ」
「クリスマスに年末年始、イベントには事欠きませんからねぇ。そうだ、兎さんにも意見を聞いてみましょう。シュン、帽子ぼうし」
「はいはい」
ネカットに帽子を渡し、俊はいまだシャッターを切るガイドを見る。
「そういや女湯とか入らないの?」
「今が至福ですので。しかし皆さん失礼ながら、身体に歴戦の跡がありますね。俊さんも」
「ああ、この傷――うお!?」
上半身の写真を撮ってもらっていると、 ネカットが肩を押さえ、湯につけてくる。
「シュン、ちゃんと肩まで浸からないと」
「お、おう? 身体の傷のこと心配してくれてたのか? それより兎との話は?」
「ええ、そんなものです。ダンスもいい案が。ええ」
(危なかった、あれ以上は私の理性が持ちません……!)
そして俊は知らない。ネカットがしどろもどろに答えながら、今撮られた俊の写真をガイドと値段交渉していたことに。
ヴェルトールは持ってきた月見酒を、ペアの兎マグカップに注ぐ。
「さって、湯でいい感じにぬるカンだ」
「ランス、それ、俺も」
「ん、山の上は酔うから、すこーしだけな」
湯温で上記したアキの表情。屋外の開放感。思わずヴェルトールが声を上げた。
「我慢が大変だぜ」
「ランス、酔ってる?」
「だいじょうぶ、大丈夫だ!」
実は大丈夫じゃないけどな、セイジ――
手が動いた。アキの背に伸びようとした手。しかし自制心が途中で、その軌道を変える。
「ランス?」
手を握ってきた精霊に、アキが驚き……そしてふわりと微笑む。
静かな、温泉の中で結ばれた手。今ここに、二人だけの確かな時間があると、感じた。
アキの持ってきた料理と温泉卵で楽しんだ後は、しばし滞在するヨン家とのお別れだ。
『では、御達者で』
『おにーちゃんたち、またねー』
見送る五羽に手を振り、帰路につくウィンクルムたち。やがて兎、温泉や山小屋、そして花畑は小さくなっていき、ふたたび厚い雲と雪の向こうに消えていった。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 叶エイジャ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 12月03日 |
出発日 | 12月08日 00:00 |
予定納品日 | 12月18日 |
参加者
- 高原 晃司(アイン=ストレイフ)
- 羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
- アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- 俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
会議室
-
2014/12/07-01:46
うっす!!高原晃司だぜ
登山にその後温泉とか醍醐味だな!
さぞかし景色もいいんだろうなー
楽しみになってきたぜ!!よろしくな -
2014/12/06-12:42
セイリュー・グラシアだ。
精霊ラキア共々今回もヨロシク。
しかも、色々楽しい温泉回!
期待も高まろうというものさ。
寒さに負けず存分に温まって過ごそうぜ。
-
2014/12/06-12:33
アキ・セイジだ。相棒はウィズのランス。よろしくな。
3000mなら大体平地のマイナス18度。
風速によってはもっと体感温度は下がるから用心しないとな。
それに酸素濃度が薄いから激しい運動には…激しい運動?(何か連想してムカッとした様子
気を取り直す)
気圧は700ヘクトパスカルちょいってところか。
沸点が下がるのと味覚が鈍化するので、さて、食事はどうするか…。
ん?ウサギ?(じーっ
(PL:ウサギさんたちとの交流と食事ができたらと思ってます。あ、ウサギは食べないです。ウサギは。) -
2014/12/06-09:04
ネカット:
皆さんお久しぶりです、シュンとネカさんですよ。
ゆっくり温泉につかって、次の公演の構想を練りましょうかね…
俊:
登山のこと忘れてるだろ!?しっかり準備しとけよ!?
(公演ってやっぱり…アレだよなぁ…) -
2014/12/06-01:04