A.R.O.A.を襲った阿鼻叫喚(うち マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 ●腹が減っては……?

「はぁハラ減ったなぁ……」
 日が登り切ったお昼時、A.R.O.A.職員スギバヤシが独りごちた。
 時間は昼休み、空腹ならば食事を取ればいいのだが、今は給料日前で彼は丁度金欠になってしまったらしく、昼食を買うお金がないらしい。
 なので昼休みにも関わらず、スギバヤシは自分のデスクに突っ伏して空腹に耐えるしか無い。
 ぐぎゅるるぅ~。
 しかし人間、腹の虫には勝てないようになっているのである。
「う、お、お、お、お……」
「……スギバヤシさん、何唸ってるっすか」
 事務所にやってきたナカムラが様子のおかしいスギバヤシに問い掛ける。
「な、ナカムラか……いや、ちょっと給料日前でお腹が減っててな」
 こうなってしまっては見栄もへったくれもないので素直に白状するスギバヤシ。
 そんなスギバヤシを見てナカムラは。
「お、スギバヤシさん運が良いっすね」
 と、よく分からない事を言った。
「俺が苦しんでるこの状況の何処に運が良い要素があるんだオイ?」
 スギバヤシは精一杯の抵抗でギロリとナカムラを睨み返す。
「ふふーん。良いんすかー? そんな態度で、私今さっき神人さん達と一緒にお弁当作ってきたんすよー?」
 そう言ってまだほんのり温かみが残った弁当の包みをスギバヤシの頭の上でぷらぷらと揺らす。
「……! すみませんでした。空腹で気が立っていたんです。反省しているので許してください」
 後輩にも即座に土下座が出来る、これが変わり身の速さはA.R.O.A.で一番の男スギバヤシという男の生き様である。



 因みに数分後、A.R.O.A.事務所にて気絶したスギバヤシが発見されたのだが、容疑者のナカムラは黙秘を貫いている。

解説

 ●目的
 ナカムラと一緒に弁当を作って精霊さんに食べてもらう。

 ●必要費
 1組500Jr。

 ●プラン必須記入欄
 弁当のメニュー。
 必要な調味料(重要)。

 ●犯人はナカムラ
 どうやら調理する際にナカムラの用意した調味料に色々と不具合があったらしく使用した調味料によって阿鼻叫喚の弁当に変化します。

ゲームマスターより

 使う調味料によって天国か地獄か決まるデスゲーム会場がここです。
 アクションプランに弁当の内容と調味料をご記入下さい。
 あとはウィッシュプランに精霊の味の好み等を記入頂けると私が助かるかもしれません。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)

  グレンの好きな物聞いたことなかったです…
甘い物好きなのは分かるんですけど。

とりあえず甘い卵焼きは入れておきましょうか。
サツマイモをバターと砂糖で焼いたり、人参も…
あ、人参甘く煮るならハンバーグも入れましょう。
あとはブロッコリーとかほうれん草?
こちらは軽く塩で炒めるくらいでいいでしょうか。
あとはご飯…念のためパンも。

調味料用意して下さったんですね。
必要なのは塩コショウと砂糖?

酷いですっ、料理は一応得意なはずなんですから!
いいから!はい、口開けて下さいっ!

おいしいって言ってもらえたらいいなぁ…
後で好きな物聞いて、今度は好きな物沢山入れてお弁当作ってあげましょう。
あれ、何か苦手な物入ってました…?


キアラ(アミルカレ・フランチェスコ)
  アドリブ歓迎

▼前提
お金には無頓着
が、財布管理されてるので倹約兼ねて弁当作ってみた

▼弁当
傷まないよう、冷めてから入れる
カップ(出来れば繰り返し使えるタイプ)などで仕切り、味が混じらないよう

シンプルな三角おにぎり×2:塩
甘めの卵焼き:砂糖
えのきつくね:砂糖、みりん、醤油
ほうれん草とベーコン炒め:塩、こしょう、オイスターソース
プチトマトのカプレーゼ:塩こしょう、オリーブオイル

「久々なんでちょっと自信ないねぇ…口に合わなかったら遠慮無く言っていいよ、残ったんなら私が食べるし」

▼結果
大丈夫:「美味しいって言ってくれる人が居ると、俄然料理する気力が湧くよ」
地獄:ナカムラに殴り込み、のちアミルカレに謝罪


かのん(天藍)
  天藍、職員さんと一緒にお弁当を作りました
良かったら食べてください

鶏挽肉、卵、絹さやのそぼろご飯
アスパラベーコン、茹でキャベツの梅おかか和え、彩りのミニトマト

醤油、味醂、砂糖・塩(少々)、生姜、梅干し

天藍が買っていたお昼と交換
お茶を頼まれ、渡しながら不自然さを感じ無理に一口つまむ
想定外の味に味見しなかった後悔と無理して食べてくれていた天藍に申し訳なく、本当にごめんなさいと涙目
上手ではなくても、1人暮らしが長く自炊なのでそれなりに作れるつもりだった所で、この状況にショック

尋ねられるままお弁当作りの様子を話す
その後原因判明しほっとする

日を改めてちゃんとしたお弁当を作りますので、また食べて貰えますか?



ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  【弁当のメニュー】
鶏肉の甘辛丼

調味料:酒・醤油・味醂

ディエゴさんは丼ものが好きらしいです
以前は度々彼のためにお菓子等を振る舞っていたそうなので
私も彼のことを考えてお弁当を作ってみます

新鮮な、血が滴るような鶏肉
そして野菜を切り刻んでいきます
えい。えい。えい。えい。えい。
血が飛び散りましたがこれくらい新鮮な方が美味しいですよね

タレをかけナカジマさんの調味料をふりかけ
仕上げに全部焦がします
まさか食べられないなんて言いませんよね?

…冗談です
先日のカレーのお返しです
ディエゴさん…あのカレー、不味かったです

そのご飯は私が責任をもって食べます
え?食べる?
…そうですか
なんというか、嬉しいかもしれません。



ロア・ディヒラー(クレドリック)
  クレちゃん早いうちにご両親がいなくなってるから、手作りのお弁当とかきっと食べたことないんだろうな…よっしちょっと頑張ってみようかな
ミニハンバーグ 塩、コショウ。蒸す時に料理酒少々。ソースはケチャップ+中濃ソースを混ぜた物
おにぎり(ツナマヨ) 塩、マヨネーズ
ホットケーキ巻き 四角いフライパン(卵焼き用の)で生地を焼いて、ジャムを塗って巻き、カットしたデザート。ブルーベリージャム使用。調味料としてバニラエッセンス1滴
ミニトマト
お弁当自分のじゃないの作るの初めてだけど良かったら食べて!って何で蓋閉めて鞄にしまおうとしてるの!?
…気に入ったら何度も作るから今食べてっ


 ●悲劇はここから

 それはある晴れた日の午前中の事、5人の神人達が新人職員ナカムラに『いつもお世話になってる精霊さん達に弁当を作ってあげないっすか?』と呼び出されていた。
「誘った手前っすから、調味料は私の方で用意させてもらいましたっす。皆さんのお弁当作りの補佐をさせてもらうので何でも言って下さいっす」
 A.R.O.A.にある食堂、その厨房を借り、集まった5人の神人達を前にナカムラは笑顔でそう言った。

「そういえばグレンの好きな物って聞いた事なかったです……。甘い物が好きなのは分かるんですけど……ぅ~ん」
 『ニーナ・ルアルディ』は『グレン・カーヴェル』の為にいざ弁当を作ろうと考えてみるとグレンの好みを殆ど知らない事に気付かされる。
 二人暮らしをし始めてそこそこの時間が経った筈だ、ニーナは自分の記憶力を総動員して考えを巡らしてみるが、考えれば考えるほどグレンにあしらわれている自分の姿しか思い出せない。
「とりあえず甘い卵焼きは入れておきましょうか。それにサツマイモをバターと砂糖で焼いた物に人参も……あ、人参を甘く煮るならハンバーグも入れましょう。後はブロッコリーとほうれん草、こちらは軽く塩で炒めるくらいでいいでしょうか。後はご飯、念の為にパンもあれば足りない事はない筈……」
 一品決めれば後はそれを彩るように他の品を決めていくだけだ。
「よし、メニューは決まりましたっ」
 先ほどの苦悶の顔など何処吹く風と言った感じの笑顔でニーナは笑い、調理に取り掛かり始めた。
「砂糖とバター、塩、胡椒を下さい」
 卵焼きとサツマイモのバター焼きに使う砂糖、ハンバーグやブロッコリーとほうれん草の炒めものに使う塩胡椒を所望するニーナ。
「はいっす」
 すぐにナカムラから“ラベルの付いてない容器に入った調味料”を渡され、ニーナはそのまま調理中のモノ〈料理〉にそれらを入れて調理を仕上げに掛かる。
 この時、ニーナがナカムラから受け取ったモノは“砂糖と塩が逆”になっており、後に悲劇を生む事になるのだがこの時のニーナにそれを知る術はない。

 一方、厨房の片隅で瞑想するように一人佇むのは『ハロルド』、どうやら『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』に作ってあげる弁当のメニューについて考えを巡らせているらしいが……。
「(ディエゴさんは丼物が好きらしいです。以前は度々彼の為にお菓子を作って振る舞っていたそうなので私も彼の事を考えてお弁当を作ってみましょう)」
 弁当のメニューは鶏肉の甘辛丼、心の支え棒が取り除かれたようでふんすと可愛く気合を入れたハロルドは新鮮な〈血抜きをしていない〉鶏肉に手を掛け、ご機嫌そうな笑顔で包丁を取った。
 新鮮な、血が滴るような鶏肉、そして野菜をハロルドは笑顔で切り刻んでいく。
「えい。えい。えい。えい。えい」
 少々力を入れ過ぎた所為か血が飛び散り、ハロルドの二の腕が血に染まる。
「こんなに血が出るとは思ってなかったですがこれぐらい新鮮な方が美味しい筈ですよね。ナカジマさん醤油と味醂、料理酒を下さい」
 ハロルドは血塗れの手を洗いながらナカムラを呼び、手渡された調味料を炒めていた鶏肉と野菜にふりかける。
「あとは……」
 そして仕上げにそれら全てを焦がしていく。
 ナカムラから受け取った“料理酒が本当は酢”だったのだが黒々と焦げていく鶏肉に取っては関係のない事だ。
「……こんな所ですね」
 ふふ、とやや影を残した笑顔で薄っすらと笑いハロルドの弁当は完成した。

「(クレちゃんは早い内にご両親が居なくなってるから手作りのお弁当とかきっと食べたことないんだろうな……よっし、ちょっと頑張ってみようかな)」
 意気込み十分の『ロア・ディヒラー』、別段料理が得意という訳ではないが何度か自分の弁当は作った事があるし大事なのは心よね、と挽き肉を手に取って捏ね始めた。
 今からでも弁当を食べた『クレドリック』の笑顔を想像したロアは微笑みながら調味料係〈ナカムラ〉を呼んだ。
「塩胡椒と料理酒、あとはケチャップと中濃ソース、塩とマヨネーズ、ブルーベリージャム、バニラエッセンスを下さい」
「えぇっと……これと、これっすね、どうぞっす」
 あわあわとしながらもラベルのない調味料を渡していくナカムラ。
 ロアは疑う事なくそれらをそのまま使う。
 挽き肉は小さく丸めて塩胡椒を加えてミニハンバーグに、料理酒を加えて蒸し、ケチャップと中濃ソースを混ぜたソースを掛けて仕上げる。
 そして炊き立てのご飯で作ったおにぎりにはツナにマヨネーズを和えたものを入れる。 更に四角いフライパンで焼いたホットケーキ生地にブルーベリージャムを塗って巻く、やや不格好な形になるが味には関係ない、とご満悦の表情で弁当箱に詰めていく。
 最後にミニトマトを添えて完成。
 しかし、これもニーナやハロルドと同様、砂糖と塩、料理酒がそれぞれ違っており恐らく調理者が考えていた味とは異なった物になっているのは間違いないだろう。

「さぁて、弁当作りなんて久し振りだけど弁当ならあの倹約家〈アミルカレ〉も喜んでくれるかもねぇ」
 満更でもなさそうな『アミルカレ・フランチェスコ』の顔を思い浮かべつつ、『キアラ』は用意してきた大きめの弁当箱と仕切りとして使う小さいカップを手際良く洗い、調味料を用意しているらしいナカムラを呼びつける。
「こっちに塩、砂糖、味醂、醤油、胡椒、オイスターソース、オリーブオイルを頼むよ」
「はいっす、今いくっすよ~」
 呑気な顔でとことことキアラの元へ歩いてくるのが今回の悲劇の元凶ナカムラ、既にやらかしてしまっているのだが本人は全くの無自覚だ。
 そして更なる悲劇として“オイスターソースと醤油”を間違えて渡してしまう。
 そんな事とは露知らず、キアラは受け取った調味料を使って手早く調理を済ませ、シンプルな三角おにぎり(砂糖入り)、甘くなる筈だった卵焼き(塩味)、えのきのつくね焼き(塩、オイスターソース味)、ほうれん草とベーコン炒め(砂糖味)、プチトマトのカプレーゼ(砂糖胡椒味)が完成した。

「以前、天藍にお弁当を作ってあげた際は喜んでもらえたので今回もまた喜んでもらえるよう頑張りましょう」
 『かのん』はパートナー〈『天藍』〉の事を考えながら手始めに絹さやの2色そぼろご飯を作ろうと卵を割り始める。
「かのんさんの必要な調味料はどれっすか?」
 丁度呼ぼうとしていた矢先にかのんの元へナカムラが現れ、そう問い掛けてくる。
「えぇ、それじゃあ醤油、味醂、砂糖、塩、生姜、梅干しをお願いします」
「了解っす。すぐ持ってくるっすよ」
 例によって例の如く、砂糖と塩、醤油とオイスターソース、をそれぞれ間違えて渡してしまうナカムラ。
 絹さやの2色そぼろご飯、アスパラベーコン、茹でキャベツの梅おかか和えに彩り用のミニトマト、といった見た目鮮やかな弁当が完成する。
 因みにナカムラの作っている唐揚げ弁当の調味料も完全に間違えたままで、見た目の出来は良いのだが味がチクハグといった魔の弁当が完成しつつあるようだ。



 ●実食~A.R.O.A.休憩室にて

 日が昇り切り、時間はいよいよお昼。
 この昼食の為に作ったお弁当を片手に神人達はそれぞれの精霊の元へと向かい、ナカムラは事務所へと向かった。

 ニーナは予めA.R.O.A.の食堂に呼び出していたグレンと合流し、笑顔で先程作った弁当をグレンに見せる。
「昼にこんな所〈食堂〉に呼ぶから何かと思ってきてみたら要件はコレ〈弁当〉か?」
「はい。こうしてお弁当を作ってあげた事って無かったですから……」
 怪訝そうなグレンの顔とは真逆にニーナはニコニコとしている、こうやって誠心誠意を払えばグレンも邪険にはしないという事をニーナは最近気付いた。
「ちゃんと食えるもん入ってんだよなぁ?」
 グレンは口ではそうやってからかいつつも手渡された弁当箱から感じる仄かな温かみに多少なりとも興味を持ったらしい。
「酷いですっ、料理は一応得意な筈なんですから!」
「冗談、料理が唯一の特技だろ、そう怒るなって」
 フォローになってないフォローを入れ、にやにやと嘲るように笑う。
「時間も時間だし呼び出されたこっちは腹減ってんだ、さっさと開けるぞ」
 なんだかんだと言いながらも弁当箱の蓋を開けた。
 空けた瞬間から香るハンバーグの風味と目に眩しい卵焼きがグレンの鼻と目を楽しませる。
「見た目は良いじゃねぇか……」
 ポツリと出てしまった本音が恥ずかしかったのか、グレンは誤魔化すようにニーナの頭を転がすように撫で回す。
「わ、わ、わっ(美味しいって言って貰えたらいいなぁ……)」
 期待に胸を膨らませるニーナを他所にグレンはハンバーグに箸を伸ばす。
「ん、美味い」
 少し甘いような気がするが気の所為だろう、と嚥下する。
 次に卵焼き。
「……ッ!?」
 甘そうな黄金色の卵焼きが妙に塩っぱい。
 食べれない、と言う程ではないが甘い物が好きな代わりに辛い物が苦手なグレンは過剰に反応してしまう。
「あ、あれ? 何か苦手な物、入ってました?」
「おまっ、ニーナっ、なんだこれっ塩っぱいぞっ!」
 ニーナの質問にそう答えつつサツマイモのバター焼きで口直しをしようとして。
「ぐっ、こっちもか……」
 堪らずテーブルに備え置きしてあるお茶をがぶ飲みする。
「ぷはっ……なぁニーナ。お前、これ味見したのか? 塩っぱすぎるぞ……」
「え……?」
 言われて味見をしてない事に気付き、ニーナは慌てて自分の作った弁当に箸を伸ばした。
「あ、あれ? こんな筈じゃ……」
 自分でも想定外の味にニーナは涙目になるが。
「あぁ……ったく失敗は成功の元だ。あんまり気にすんなっ」
 と、グレンはニーナを慰めるように頭をポンと叩いた。

 そしてハロルドもまた食堂の片隅でディエゴに自分の作った弁当〈黒焦げの鶏肉丼〉を振る舞っていた。
「……はい、ディエゴさん」
 ハロルドは静かにディエゴの前に黒々とした弁当を差し出した。
「(俺の前に出された弁当は多分、俺の好物の丼ものだろうとは、思うが……どう見ても全て焦げているな。しかし、エクレールが俺の為に作ってくれた物だ、食べよう……出来るだけ全部)」
 それが食べ物なのだという事は分かったらしいディエゴは謎の緊張感に気圧されつつも意を決して箸を取る。
「……冗談です」
「冗、談……?」
「これは先日のカレーのお返しです。ディエゴさん、先日のあのカレー、とても不味かったです」
「冗談……それにそうか、あのカレーはやはり不味かったか……。ありがとう、俺が何より嬉しいのはそれを正直に言ってくれた事だ」
「これで先日の仕返しも出来た事ですし、残ったそのお弁当は私が責任を持って食べますね」
 ハロルドはそう言って黒焦げの弁当に手を伸ばすが。
「……いや、これは全て俺が食べる」
 と、ディエゴは弁当の縁を持ってそう言った。
「え? 食べる? これをですか?」
「あぁ、どんな理由があれエクレールが俺の為に作ってくれた物だ。俺に食べさせてくれ」
 言って持っていた箸で黒焦げの鶏肉のようなものが乗ったご飯をバクリと口に放り込む。
「う、むっ……苦、いな。苦くて不味いが、俺は嬉しいよ」
 ほろりとディエゴの目から流れた涙の意味は果たして苦みを堪えたものだったのか、それは恐らく本人にしか分からないのだろう。

「ロア、こんな所で何用かね?」
 食堂に来たのは良いが何をするのか聞いていないクレドリックは開口一番そう口にした。
「お弁当、自分のじゃないの作るの初めてだけど良かったら食べて!」
 ロアはそう言いながら可愛らしい弁当箱の蓋を開ける。
「……ほう。手作りの弁当など初めてだ。ロアの手作り……本当に貰ってもいいのかね?」
「勿論だよ。その為に作ったんだから……って何で蓋閉めて鞄に仕舞おうとしてるの!?」
「何を、とは? このまま持ち帰って採取分析してから食べようかと。……駄目なのかね?」
「ダメに決まってるでしょ! 気に入ったなら何度でも作るから今食べて、すぐ食べてっ!」
 ロアの何度でも作るという言葉を聞いてクレドリックはピタリと動きを止め。
「ふむ、ではいただくとしようか」
 ほんのり嬉しそうな声色で箸を取り、ミニハンバーグを一口。
「…………!!?」
 瞬間、クレドリックの全身にぶわっと冷や汗が浮かぶ。
 それもその筈、料理酒で蒸す筈のミニハンバーグを酢で蒸したのだから食べた途端に口の中に酸っぱさが込み上げて来るのは自明の理である。
「ど、どう?」
 一瞬止まるもロアの声で再び箸を動かし始める。
「ロア、斬新な味がするのだが……これは新たな可能性への挑戦でもしたのかね?」
「……え?」
 言われてロアもミニハンバーグを食べてみる。
「~~ッ!!?」
 想像していた味とは全く異なる味にロアはテーブルの上で翻筋斗打つ。
 理由は分からないが兎に角、この失敗作を回収しなければと弁当箱に手を伸ばす。
 しかし。
「ロア、何をしているのかね? これは私のではないのかね?」
 クレドリックは頑なに弁当箱を渡そうせず、そのまま箸を動かす。
「で、でもこれ失敗してて物凄い味になってて……」
 オロオロとするロアを他所にクレドリックは酸っぱいミニハンバーグ、微妙に甘いおにぎり、塩っぱいホットケーキを完食。
「ロア、何度でも作ってくれると言った事、くれぐれも忘れないようにし給えよ……」
 クレドリックは最後にそう言ってテーブルの上に突っ伏した。

「久々なんでちょっと自信ないけどねぇ……。ま、口に合わなかったら遠慮無く言っていいよ、残ったんなら私が食べるし」
 食堂に来たアミルカレの前に弁当箱を出しながらキアラは照れくさそうにはにかむ。
「弁当……俺に?」
「あぁ、アミルカレの為に作ったんだよ」
 仕事だと思ってここに来たアミルカレは意表を突かれたようで少し止まる。
 だが、時間も昼という事で腹は空いていたし、昼食代が浮くと考えたのか、少しだけ笑顔になった。
「じゃあ遠慮無くいただこう」
 仄かな期待と共に弁当の蓋を開ける。
 久し振りなどと言っていたキアラだったが、スーパーで売っても良いレベルだなと心の中でアミルカレは褒めた。
 礼儀正しく手を合わせて一礼し、箸を取ってベーコン炒めを口に運ぶ。
「……美味いな」
 食事中にあまり喋る方ではないアミルカレだったがキアラが感想を聞きたそうにまじまじとこちらを見ていたので控えめな口調で一言だけそう言った。
「そうかい? ありがとう」
 塩が砂糖に、オイスターソースが醤油に代わってはいたものの壊滅的な味にはなっていなかったようでアミルカレは少し甘いか、と思いながらも嚥下した。
 次はおにぎり。
 咀嚼すると微妙に甘ったるい感じのするおにぎりだったが問題なく嚥下する。
 えのきつくね焼き。
 妙な塩っぱさを感じるがこちらも問題はない。
 トマトのカプレーゼ。
 砂糖の甘さの所為でトマトの酸っぱさが際立ってしまっており、アミルカレは少しだけ顔を顰める。
 この辺りでアミルカレは弁当の様子がおかしい事に気付き始めていたが食べれない程ではないと判断した。
 甘党のアミルカレが最後の楽しみに残していたのは卵焼き。
 丁寧に箸で一口サイズに切り分け、パクリと一口。
「……ッ!」
 流石のアミルカレもこの塩っぱ過ぎる卵焼きは許容範囲外だったようだ。
 鉄面皮だったアミルカレが苦悶の表情を浮かべ、お茶を飲む姿は中々見られるものではない。
 明らかにアミルカレの表情が変わった原因が卵焼きにあると見たキアラはその卵焼きに手を付けてみる。
「くっ、この塩っぱさ、塩と砂糖を間違えたか!?」
 砂糖と思って多めに入れた塩が津波のように舌を刺激してくる。
「……」
 すぐに他の料理も間違えていたと気付き、キアラは顔を青くする。
「す、すまない。どうやら調味料を間違えていたらしい……」
「やはりそうか……。次があるなら出来れは毒味、じゃなくて味見をしておいてくれ」
 諭すようにそう言ってアミルカレは残った卵焼きを箸で掴み一息に飲み込んだ。
「ぐっ……」
 目に来たのか、目頭を少し抑えながらアミルカレはその場を後にした。

「天藍、職員さんと一緒にお弁当を作りました。良かったら食べてください」
 食堂の片隅、陽の光が当たる窓際のテーブル席に着いたかのんは早速、自作の弁当を天藍に手渡す。
「ありがとう、かのん」
 ふっ、と柔和な笑みを向け、受け取った弁当の蓋を開ける。
 中に入った色鮮やかな品々の美味しそうな匂いに思わず生唾を飲む天藍。
「いただきます」
 空腹の天藍はこれ以上我慢など出来るかと言わんばかりにかのんの弁当に手を付ける。
「……ッ!!」
 ぴしり、食べた時の表情そのままで天藍が固まる。
 これまで何度かかのんが作った弁当を食べた事のある天藍は想定外の味に一瞬怯むが、何かの間違いだろうともう一口。
「(うん。普通の味もあるな。一体、どういう事だ。職員と一緒に作ったと言っていたが……)」
 塩っぱいそぼろご飯や何故か甘いアスパラベーコンなどのあべこべな味に戸惑いつつも何とか食べ進めていく。
「かのん、お茶を取ってくれないか?」
 しかし、やはり辛くなってきたようでかのんにお茶を頼む。
「あ、あの……天藍、大丈夫ですか? 何か嫌いな物でもありましたか?」
 流石に天藍の様子がおかしい事に気付いたかのんは首を傾げながら天藍の食べていたそぼろご飯を一口食べる。
「~ッ!」
 そして口一杯に広がる塩辛さに驚き、味見をしていない事の後悔と無理して食べてくれていた天藍に申し訳ない気持ちが膨らみ頭を下げる。
「ごめんなさい、天藍!」
 上手ではないにしても一人暮らしが長く自炊をしているのでそれなりに作れるつもりだったのでこの状況にショックを受け、僅かながら目に涙が溜まった。
「大丈夫、失敗は誰にでもあるものだ。さっき職員と一緒に作ったと言っていたけど……」
 涙目のかのんを慰めながら天藍は弁当を作った時の事情を聞いてみた。



 ●犯人はナカムラ

 どうしても納得が出来なかったらしくこの悲劇の顛末をキアラと天藍は調べた。
 そして出て来たのはなんとも初歩的な勘違い。
「ひ、ひえっ!? ご、ごめんなさいっすー!」
 事後、キアラ達に詰め寄られたナカムラは素直に自分の失敗を認め、この騒ぎの関係者全員に謝罪行脚して回ったらしい。

「では日を改めてちゃんとしたお弁当を作りますので、また食べて貰えますか?」
「あぁ、勿論だ」
 落ち込んでいたかのんも元気になったようで天藍は少し胸を撫で下ろしつつ、次の弁当への期待を膨らませた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター うち
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月22日
出発日 11月27日 00:00
予定納品日 12月07日

参加者

会議室


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