プロローグ
「あーマイクテス、マイクテス」
「音、聞こえてます、テンコ様」
「うむ。皆の者、今日はよく集まったのじゃ!」
黒髪おかっぱと狐耳を揺らして、テンコ様はマイクを手に声を上げました。
「【紅月ノ神社】プレゼンツ、カップルコーディネート大会へようこそー!」
テンコ様の隣で、妖狐のシバが手を振り上げれば、観客席から大きな拍手が上がります。
「カップルコーディネート大会について、まず説明するのじゃ!」
テンコ様がそう言うと、青年妖狐の青雪がすっと前に出ました。
「まず、この大会は【紅月ノ神社】主催で、【スノーウッドの森】の広場をお借りしております。
この場を提供いただきました皆様へ感謝申し上げます」
青雪が一礼すると、テンコ様とシバもペコリと頭を下げます。
観客席から、パチパチパチと温かい拍手が響きました。
「大会についてご説明いたします。その名の通り、カップルでコーディネートを発表いただくイベントです。
発表の方法は、ファッションショー形式を取らせていただきます」
特設ステージには、現在テンコ様達が立つ舞台に加えて、観客席に挟まれたキャットウォークがあります。
「カップルの皆様の美しく微笑ましい姿を、どうぞ皆様、楽しみになさって下さい」
再び三人が頭を下げると、会場は期待に満ちた拍手と歓声に包まれたのでした。
カップルコーディネート大会に参加する事になった貴方とパートナーは、早速受付へとやって来ました。
「男性はこちらに、女性はあちらでお願いします」
更衣室と控室は男女で分かれていると告げられ、貴方はパートナーと別れて案内された部屋へと足を踏み入れます。
貴方は大きく瞬きしました。
部屋の中には、沢山の男性用の衣装があります。
「この中から、パートナーさん用の衣装を選んで下さい」
スタッフの笑顔に、貴方は目を丸くします。
自分の、じゃなくて、パートナーの?
「選んだ衣装は、スタッフがお相手にお届けします。
お客様には、お相手が選んだ衣装をお渡ししますので、それを着て下さい。
更衣室と控室は別々ですので、お互いにどんな格好となったのかは、壇上で合流して初めて分かることとなります」
パートナーが、私の衣装を選ぶ?
だ、大丈夫かな?
貴方は一抹の不安を覚えつつ、パートナーに似合う衣装を選ぶべく、周囲を見回しました。
解説
【スノーウッドの森】のとある広場で開催される『カップルコーディネート大会』に参加いただくエピソードです。
神人さんが考えた精霊さんに似合う服装
精霊さんが考えた神人さんに似合う服装
をそれぞれ着ていただこう!というイベントです。
お好きなコーディネートをプランに必ず記載してください。
ネタ衣装も歓迎いたします。
神人さんと精霊さんで好みが違って、全然カップルで調和が取れてない!というのも、面白いと思います♪
相手が選んだ服装がどんなにヒドくても、絶対に着ないといけませんので、ご注意ください。
※普段は絶対に着ないような衣装を、相手に着せるチャンスです。
※衣装には下着も含まれます。
※相手のサイズが分からない? 大丈夫です。サイズが違っていても、スタッフがサイズに合う同じデザインものを直ぐご用意します。
(えっ?こんなに巨乳or貧乳に思われてたの!?とかいう、リアクションも楽しいですよね♪)
メイク道具やカツラ、ちょっとした小道具も用意されていますので、自由に使って頂いて問題ありません。
キャットウォークの歩き方や、ポージングに拘ってみてもいいかもしれません。
ショーの最後には、記念撮影のサービスもあります。
なお、観客には周辺の住民の他、森の動物達も居ます。
動物達を楽しませてあげる事で、瘴気を払えるでしょう。
大会への参加費用(衣装レンタルを含めて)として、「300Jr」掛かります。
あらかじめご了承ください。
ゲームマスターより
ゲームマスターを務めさせていただく、『クリスマスシーズンが一年で一番ウキウキする!』方の雪花菜 凛(きらず りん)です。
普段とはちょっと違った皆様のファッションを見てみたいな!と、エピソードを出してみました。
どんなファッションショーになるのか、今からワクワクです!
皆様の素敵なアクションをお待ちしております♪
リザルトノベル
◆アクション・プラン
テレーズ(山吹)
張り切って選んじゃいますよ! 折角ですし普段では着ないようなのがいいでしょうか 山吹さんはいつも黒ばっかりで落ち着いた雰囲気の服装が多いですよね まだ20代ですし、デニムとかジャケットとかで若々しくいくのはどうでしょう サイズは…さっぱりです! 歩幅は同じはずなので足の長さはこれくらい…? 選ばれた服を受け取り わあ可愛い それにすごく暖かそうです キャットウォークは並んで歩きましょうか 特別な事はできませんけど笑顔を心がけておきますね 折角ですもの、観客さんだけじゃなくて私達も楽しまなくちゃ損ですよね! あれ足の長さ全然違いますね …あ、気づきました 歩幅が一緒だと思ってたのは山吹さんが私に合わせてくれていたからですね |
リオ・クライン(アモン・イシュタール)
よりにもよってカップルだなんて・・・(照れ) アモンの奴がどんな衣装を選ぶつもりなのか不安なのだが(汗) 衣装はおとぎ話に出てくる様な妖精のお姫様風。 花の飾りが付いたドレス姿に、腰辺りに小さめの妖精の羽が付いている。 髪はパーマがかかっており、頭にティアラ。 「結構マトモだな・・・サイズもピッタリだし。・・・あれ?何でアイツ、私のサイズを知ってるんだ?」 〈行動〉 ・対面時、普段と違うアモンを見て一瞬見とれてしまう。 ・ショーでは礼法スキル(レベル1)で挨拶。 ・風の魔法を使い落ちている木の葉や花弁を舞わせる。 ・アモンが作った蝶や鳥を風の魔法でステージいっぱいに飛ばす。(会場を燃やしてしまわない様に調節して) |
アメリア・ジョーンズ(ユークレース)
「べ、別にアイツの為なんかに選ぶんじゃ無いんだからね…」 「せっかくだから、ドレス着させてみましょう♪」 互いにそう思いながら、二人は服を選ぶ。 そして、二人の心の中で化学変化が起きる。 『ユークってこんなに格好良かったっけ…?』 『意外とドレス似合うんですね。』 少し照れながらもツンツンするアメリアと、ポーカーフェイスのユークレース。 格好的にこれが自然だろうと、ユークレースはアメリアの手を腕に組ませて、バージンロードを歩くみたいにアピールをする。 笑顔で手を振ユークレースに対し、赤面のアメリア。 写真撮影後、ようやく感想を言うユークレース。 「やっぱり…エイミーさんは普通ですね!」 お決まりの右ストレート炸裂。 |
リセ・フェリーニ(ノア・スウィーニー)
普段ラフな服装だから 人前に出るときくらいきちんとした服を 黒のタキシードでいきましょう 髪はいつものポニーテールに黒のリボン こんなにノアのことを考え続けたのは初めてかもしれない 揃いの衣装のようになったけど 公の場であるということはちゃんと分かっているようね それにしても怖いくらいサイズがぴったり… あら。馬子にも衣装とはこういうことをいうのね 結構よく似合っているわよ 私はこういう服を着る機会が多かったからそれなりに でもありがとう。素直にうれしいわ 腕を組んで歩く?…仕方ないわね かわいいお客さんばかりで自然に笑顔になるわ 他の人の迷惑にならないよう少しだけ踊る 楽しんでもらうつもりが私が楽しんでしまったかしら |
名生 佳代(花木 宏介)
おほほ、私達の初依頼…ゲフン、やーめたっ! ファッションなら、元ヤンのアタイに任せれば大丈夫しょ! ヤンキーはファッションにも気を抜けないんだしぃ! 清楚を目指す佳代の相手に相応しいのは、学園の王子様。 成績優秀、衆目美麗、アタイに優しく微笑…きゃっ! そうそう、王子様は動物にも好かれるんだしぃ! リスのぬいぐるみでもつけてみるぅ? 動物にビスケットでも撒いてみるしぃ? やっぱり似合うじゃん! …つーか、顔はいいほうなんだね、アンタ。 超意外だしぃ…。 へへん、最後の記念撮影が楽しみだしぃ! うふふ、これが私達のコーデですわー。 ステージでは清楚に、でも胸を張って歩くわよ。 (綺麗にコーデできた姐さん達が羨ましいしぃ…) |
●1.
「おほほ、私達の初依頼……」
上品に口元へ手を寄せて言い掛け、彼女は口を噤んだ。
眼鏡の奥の瞳がキラッと光る。
「ゲフン、やーめたっ!」
咳払いしてから、慎ましく閉じていた両足を広げて大地を踏みしめる。そして、これから立つ舞台を指差した。
「ファッションなら、元ヤンのアタイに任せれば大丈夫しょ! ヤンキーはファッションにも気を抜けないんだしぃ!」
「そーなのか?」
思い切り不安そうに顔を顰めて、花木 宏介は眼鏡をくいっと上げパートナーを見遣る。
「あたいのセンスに平伏すがいいしぃ!」
キランと名生 佳代の眼鏡が光った。それから、にっこりと宏介を見つめる。
「清楚な佳代に似合う服を選んで、宏介も佳代に似合った服着るのですわよ!」
宏介の首が傾く。
「ちなみに私は『学園の王子様』の服を考えるから、それに合わせるんですわよ!」
更に宏介の首が傾いた。
「よし、気合入れるんだしぃ! ちゃんと選ぶんですよ、ちゃんと!」
佳代はそう言い残すと、女性用の部屋へと突撃して行ってしまう。
宏介は唸りつつ、取り敢えず男性用の部屋へと足を踏み入れた。
綺羅びやかな女性用の衣装の海が、彼を出迎える。参加者らしき男性達が、其々真剣に衣装と睨めっこをしていた。
「清楚……」
佳代に言われた事を復唱しながら、宏介は衣装を見回すのだが……。
(困ったな。得意分野ではない)
ずりっと落ちる眼鏡を押さえ、思わず溜息が漏れた。
(服なんて、清潔感がありきちんとしていればいい物だから)
「ふむ……佳代が清楚なつもりで着ている服は……白い服だ」
白い服へと視線を向ける。
(佳代の服裝は清楚……な筈だ)
服裝以外、普段から全く清楚ではないけれど。
彼女の姿を思い出しながら、白いワンピースを手に取る。けれど、後は分からない。フリルなの?フリフリなの?
(あーもうどっちも分からん)
おまけに服のサイズも考慮しないといけないと来た。
サイズなんて知る訳もない……こんなものだろうか?
ぽよんと浮かんだ佳代の胸は、宏介の中では『普通』と分類される。
彼は悩みつつ白で統一したコーディネートを作り上げていった。
一方、佳代の服選びは佳境に入っている。
(清楚を目指す佳代の相手に相応しいのは、学園の王子様!)
コンセプトは完璧だ。
「成績優秀、衆目美麗、アタイに優しく微笑……きゃっ!」
ブレザーの制服に、王子様なもこもこマントを抱き締めて、佳代はスキップする。
「そうそう、王子様は動物にも好かれるんだしぃ!」
小物コーナーにあった、可愛らしいリスのぬいぐるみを手に取った。
「これでもつけてみるぅ?」
マントのもこもこ部分にちょこんと付ければ、
「完璧だしぃ♪」
佳代はうっとりとマントを撫でた。
「何だこのセンスは……」
スタッフから渡された衣装を見て、宏介は只々瞬きする。
「王子?……オトメゴコロ?」
ブレザーの制服は、袖口にフリルがヒラヒラしてたり、金糸の刺繍が入っていたりしてやたらキラキラしているし、極めつけはマントだ。
全力で『王子』と主張してくるマントに、軽い目眩のようなものすら覚える。
トドメに王冠。これも冠らないといけないらしかった。
「分からない、分からない、勉強すれば分かるものなのか?」
ブツブツ呟きつつ、衣装に袖を通す。
「くっ……この格好で人前に出るなんて恥ずかしいぞ」
鏡に映った自分を見て、宏介はこのまま逃げ出したい気分だ。
「……リスは可愛いが」
肩口に乗ったリスだけが心の癒やしである。
「胸がキツイんだしぃ!」
その頃、佳代は受け取ったワンピースの小ささに愕然としていた。
宏介が意を決して舞台に上がると、反対側から舞台へ上がって来た佳代と目が合う。
佳代は白のフレアワンピースに身を包んでいた。
ふわりとしたスカートがキュートで、腰のコサージュとリボンが華やかさを慎ましく主張する。
「やっぱり似合うじゃん!」
佳代は笑顔で宏介に歩み寄った。
「……佳代も、な」
宏介の視線が照れ臭そうに泳ぐ。
「……つーか、顔はいいほうなんだね、アンタ」
その彼の顔を、佳代はじーっと見つめた。
「超意外だしぃ……」
「悪かったな」
宏介が眼鏡の縁に手を添えて睨むと、佳代は笑う。
「へへん、最後の記念撮影が楽しみだしぃ!」
そして、宏介の腕を掴むとキャットウォークへと歩き出した。
「うふふ、これが私達のコーデですわー」
胸を張って、大股に成り過ぎず上品に。佳代と宏介の姿に歓声が湧く。
動物エリアに佳代がビスケットを撒けば、動物達からも喜びの声が上がったのだった。
●2.
「張り切って選んじゃいますよ!」
テレーズは、ずらりと並ぶ男性用の衣装達を、瞳を輝かせて見渡した。
パートナーの山吹が着る衣装。
彼にはどんな衣装が似合うだろうか。普段の彼の格好を思い浮かべてみる。
(山吹さんは……いつも黒ばっかりで落ち着いた雰囲気の服装が多いですよね)
浮かんだ彼の姿は、物腰柔らかな穏やかな笑みに大人の落ち着いたシルエット。
「折角ですし、普段では着ないようなのがいいでしょうか」
テレーズが視線を巡らせると、デニムコーナーに目が止まる。
「デニムとかジャケットとかで若々しくいくのはどうでしょう」
細身のデニムパンツを手に取った。
「山吹さん、まだ20代ですものね」
若々しく変身した彼は、どんな表情を見せてくれるだろう。テレーズは自然と笑みを浮かべながら、デニムに合わせるジャケットも選ぶ。
「あ……」
自分サイズを無意識に選んでいて、はたと手が止まった。
再び彼の姿を思い浮かべて予想しようとしたが、相手は男性。さっぱり分からない。
「けれど……歩幅、いつも同じですよね?」
山吹はテレーズと同じ歩幅で同じ調子で歩く。それが常。
「でしたら、足の長さはこれくらい……?」
自分の足の長さに合うパンツを選んでみる。
「これで完成です!」
テレーズは、スタッフに山吹の衣装を託したのだった。
山吹は悩んでいた。
視界には、色とりどりの女性用衣装。
(まさか参加する側になるとは……)
「人生とは本当に何があるかわかりませんね」
クスと微笑んでから、意を決して衣装を手に取り考える。
テレーズの姿を思い出して、そう言えば、彼女はいつも寒そうな服装だなと思い当たった。
「冬っぽく温かい服装はどうでしょうか」
毛皮やダウン、ウール等、様々な種類のコートがある。
目に留まったのは、襟にもこもこがあるダッフルコート。色は定番のキャメル。ロング丈なので暖かさは抜群だ。
「これに合わせるなら……」
タータンチェックのミニスカートに、黒タイツ、ロングブーツをチョイス。サイズは身長と体形から、何となく推測出来た。
普段と少し違う彼女が見れるかもしれない。
山吹は笑顔で、スタッフに衣装を託し、入れ違いにスタッフから衣装を渡された。
「これが選んでくれた衣装……」
山吹は大きく瞬きする。普段自分では選ばない系統だ。
(考えている事は一緒だった、という事でしょうか)
思わず笑って、さぁ袖を通そうとしてから、山吹は一時停止する。
(……この足の丈の短さは、一体)
明らかにパンツの丈が合っていない。
(長いとは自分でも思っていませんが……ここまで短いと思われていたとは……)
少しショックである。
スタッフが直ぐにサイズ違いを渡してくれたので、滞り無く着替えは完了した。
そんなに年は取ってないけれど、若くなったような。
鏡で己の姿を眺め、少し気恥ずかしいような不思議な気持ちになる。
「わあ、可愛い!」
その頃、テレーズは山吹の選んだ服を着て、鏡の前でクルクルと回っていた。
「それにすごく暖かいです」
もこもこのファーが特に気に入った。
ウキウキする心地のまま、出番の呼声に、テレーズは舞台へと向かう。
舞台の上に立つと、反対側から山吹の姿が現れた。
いつもと違ってカジュアルな彼の姿に、自然と笑みが溢れる。
山吹もそんな彼女に笑顔を返して──けれど、一斉に突き刺さる観客の視線に、僅か表情が強張った。
「山吹さん」
テレーズはそんな彼の腕を取ると、キャットウォークへ歩き出す。
(折角ですもの、観客さんだけじゃなくて私達も楽しまなくちゃ損ですよね!)
輝くような彼女の笑顔に、山吹は肩の力が抜けるのを感じる。
(あれ……)
一緒に歩きながら、テレーズは気付いた。
(足の長さ全然違いますね……あ! 歩幅が一緒だと思ってたのは山吹さんが私に合わせてくれていたからですね)
今も彼の歩調は、彼女に寄り添うようだ。
「どうかしましたか?」
小声で尋ねてくる彼に、テレーズは満面の笑みで返す。
「いつもありがとうございます」
「?」
寄り添い歩く二人に、観客席からは溜息が漏れていた。
●3.
リオ・クラインは難しい顔で衣装と睨めっこしている。
思い浮かべるのは、パートナーのアモン・イシュタール。彼に似合う服を選ぶのだ。
(それにしても、よりにもよってカップルだなんて……)
ぐしゃ。
「あ……!」
思わず握り締めてしまった衣装の皺を伸ばして、リオは赤くなった頬を押さえた。
「こ、これもウィンクルムとしての仕事だ、うん」
そう言い聞かせて、衣装選びを再開する。
(しかし、アモンの奴がどんな衣装を選ぶつもりなのか不安なのだが……)
リオは一抹の不安を押し殺し、彼のための衣装を選んでいった。
「神社のくせに、ファッションショーをやるってのも不思議なもんだな」
スタッフに選んだ衣装を手渡して、アモンは大きく伸びをする。
リオのための服選びは滞り無く済んだ。後は彼女が選んだ服を待つだけだ。
(あのお嬢様の事だから、堅っ苦しい衣装なんだろうな)
そんな事を考えていると、スタッフが衣装を持ってくる。
「ほら、やっぱりだ。随分と堅苦しい格好を選びやがって……」
アモンは衣装を広げて半眼になった。
「まぁ……少しの間だ。我慢してやるか」
一方、リオはアモンの選んだ服に袖を通していた。
「……」
鏡に映った自分を見て、大きく瞬きする。
御伽話に出てくる様な衣装だった。
花の飾りが散りばめられたドレス、腰辺りには小さめの妖精の羽が付いている。
頭には、美しいティアラ。
「結構マトモだな……サイズもピッタリだし」
「よくお似合いですよ。そうだ、髪にパーマをあててみませんか?」
スタッフに笑顔でそう提案され、リオは頷く。
ゆるくウェーブを掛けて貰うと、可憐な妖精のお姫様がそこには居た。
「ふふ」
鏡の自分を目が合うと思わず笑みが溢れる。自分ではないみたいな不思議な感覚。
アモンはどんな顔をするだろう。
「あれ?……何でアイツ、私のサイズを知ってるんだ?」
不意に疑問が浮かんだ所で、出番が来た。
緊張に震える胸を押さえて、リオは舞台へ上がる。そして、反対側から歩いて来た彼に息を呑んだ。
黒い燕尾服。いつもはボサボサな髪も丁寧に整えられ、黒いリボンで一つに結っている。
眼鏡の奥の瞳も、何所か理知的な光を灯していて──。
優雅に一礼すると、白い手袋が嵌められた手がリオへ差し伸べられた。
「惚れ直したか?」
アモンが口角を上げて訪ねてくる。
「だっ、誰がだ!」
リオの答えに、アモンは笑みを深めた。差し伸べた手で、リオの手を掴むとその腰に手を回した。
「似合うじゃん」
「あ、え、あの……」
近い距離での、いつもと違う彼の笑顔。
頬を紅潮させるリオに、アモンはククッと喉を鳴らして笑う。
「こちらも、一応、お嬢様の好みに合わせてみたんだが」
「そう、なのか?」
私のために?
心臓が跳ねた。顔だって熱い。ドキドキする。
アモンはそのまま、リオをエスコートしながら歩き始めた。姫君と従者のように。いつものような乱暴さは微塵もない。
観客達は、優美な二人の歩みに歓声を上げた。
キャットウォークの先端まで来ると、二人で一礼する。
『汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に』
触神の言霊が響いた。
アモンが身を屈め、リオが背伸びして、彼の頬へと口付けた瞬間、二人を白く輝く風と黒い炎のようなオーラが包む。
白と黒のオーラが調和して、二人の間で踊る。
そんな幻想的な光景に、動物達からも楽しそうな鳴き声が上がったのだった。
●4.
普段ラフな服装だから、人前に出る時くらいきちんとした服を──。
リセ・フェリーニは、パートナーの顔を思い描きながら、真剣に服を選んでいた。
「そうね、黒のタキシードでいきましょう」
手に取ったのは、ピークドカラー──襟先部分が尖ったタキシード。
それに、胸にプリーツの入ったウィングカラーシャツを合わせる。
シルクの蝶ネクタイ、髪を結うためのシルクの黒リボンも添えて、足元には光沢のある黒のエナメルシューズを。
「うん、これで良し」
選んだ衣装一式を見つめて、リセは微笑む。
「それにしても……」
(こんなにノアのことを考え続けたのは初めてかもしれない)
ノア・スウィーニーには、一切迷いは無かった。
まず彼が手に取ったのは、ワインレッドのマーメイドラインのロングドレス。
「リセちゃんはスタイルいいから、強調していかないとね」
ボディラインにフィットしたドレスを選ぶのは、ノアにとって必然だった。
「少し胸元の開いたドレスだから、ネックレスも要るかな」
続けて、ゴージャスな印象のネックレスを選ぶ。
「寒いからショールも」
白い薄手のショールをドレスに合わせた。
髪を飾る、白いダリアのコサージュも添える。
「靴はハイヒールで決まり」
美しく輝く金色のハイヒールを最後に選んで、ノアは満足そうに頷いた。
それからメモを手に取ると、サラサラとメッセージを書いて、衣装と一緒にスタッフへ渡す。
「3サイズは90、62、88と踏んでるんだけど、ハズレだったら合わせてあげて」
そう笑顔を添えて。
入れ違いにスタッフから、リセの選んだ衣装を渡された。
「へえ~タキシード。出来過ぎな展開だね」
しげしげと眺めて、笑みが溢れる。
スタッフから渡された衣装を見て、リセは目を丸くした。
「揃いの衣装のようになったわね」
クスと小さく笑って、ドレスを広げる。
「公の場であるということはちゃんと分かっているようね」
そこで、ヒラリと挟まれていたメモが落ちた。
『髪は下ろした状態で毛先を巻いて、耳の上辺りにコサージュを付けてね。
リセちゃんは凛々しい顔立ちだから、そこを活かしつつ、いつもより少し柔らかい印象が出るようなメイクも忘れずに』
「細かい注文ね」
リセは笑って、ドレスに袖を通す。
「怖いくらいサイズがぴったり……」
まるでリセに合わせて作られたかのようなフィット感に驚いたのだった。
「さすがリセちゃん、衣装に全然負けないね。とっても綺麗だよ」
舞台で顔を合わせれば、開口一番、ノアは不躾なくらいジロジロとリセを見て、破顔する。
「あら。馬子にも衣装とはこういうことをいうのね」
リセもまた、いつもと異なるノアの姿に瞳を細める。
「結構よく似合っているわよ」
「有難う。リセちゃんの隣だと霞んじゃいそうだけどね」
パチンとウインクしてノアが笑い、リセも微笑んだ。
「私はこういう服を着る機会が多かったからそれなりに。でもありがとう。素直にうれしいわ」
「じゃ、行こっか」
ノアはリセの手を取る。
「腕を組んで歩こう」
「ちょ、ちょっと……」
「こらこら笑顔だよ、笑顔」
ノアはふにっとリセの頬を突付いた。
「俺にじゃなくお客さんにでいいからさ」
「……仕方ないわね」
二人で腕を組んでキャットウォークを歩けば、観客や動物達の楽しそうな様子が視界に入る。
リセの口元には自然と笑みが浮かんでいた。
「踊っていただけますか、お嬢さん?」
キャットウォークの先端で、ノアが優雅に一礼し、リセに手を差し伸べた。
「喜んで」
二つの影が寄り添い、滑らかでゆったりした動きの舞踊を開始する。
情熱的な二人のダンスに、観客席からは一際大きな歓声が上がったのだった。
●5.
「べ、別にアイツの為なんかに選ぶんじゃ無いんだからね……」
アメリア・ジョーンズは、本日もう何度目か分からない呟きを口に出した。
これも仕事の内、仕事の内なんだからッ。
心で叫んで、ずらっと並ぶ男性用衣装を見渡す。
パートナーのユークレースの顔を思い浮かべて、彼に似合う衣装を考えた。
優しく爽やか(外見だけは)な彼に似合うもの。
辺りを見遣って、タキシードに視線が止まった。
黒のウェディング用タキシード。
『きざみ襟』と呼ばれるノッチカラーのジャケットを手に取る。光沢のある黒が綺麗だ。
(アイツの髪と瞳に、合うかも……)
プリーツなしのウィングカラーシャツとタイ、ポケットチーフは白に。
ベストとパンツは、ジャケットに合わせ黒で統一。
「なかなかいいんじゃないの?」
選んだ衣装を見つめて、アメリアは小さく頷いた。
「せっかくだから、ドレスを着せてみましょう♪」
その頃、ユークレースは、数ある衣装の中からカラードレスを選んでいた。
赤基調のドレス。スカートはフレアタイプでふんわり。
ドレス全体に花とフリルがふんだんにあしらわれ、華やかで愛らしい。
それに、赤のヒールを合わせる。
髪と耳に、ドレスの花とお揃いのコサージュ、イヤリングを付ければ……完成だ。
「エイミーさんがどうなるか楽しみです」
笑顔でスタッフへ選んだ衣装を託した。
「これ……ドレス?」
届いた衣装を広げて、アメリアは目を見開いた。
「綺麗……」
はっきり言って意外だった。もっと巫山戯た服装が届くと思っていたのに。
自然と胸はウキウキと高鳴って。
アメリアはドレスに身を包む。
「タキシード、ですか」
ユークレースも届けられた衣装を見て、目を丸くしていた。
「こういった服装は、久し振りです」
実家を出てから、縁が無かった正装。
ユークレースは慣れた手つきで、タキシードを身に付けていく。
舞台は熱気に包まれていた。
アメリアは緊張と不思議な期待感に胸を踊らせて、舞台へと上がる。
「あ……」
ドクンと大きく鼓動が跳ねた。
「エイミーさん」
タキシード姿のユークレースが微笑んでいる。
(ユークってこんなに格好良かったっけ……?)
彼の周囲だけ、空気が違う。目が、合わせられない。ドクドクと自分の鼓動が五月蝿い。
(意外とドレス似合うんですね)
頬を染めて俯いてしまったアメリアを見つめて、ユークレースは笑みを深めた。
見知らぬ女の子のようで、眩しくて、視線が離せない。
数秒の沈黙。
先に口を開いたのは、ユークレースだった。
「エイミーさん、行きましょう」
彼女の手を持って、自分の腕に絡ませる。
「な、なんで……」
真っ赤になって抗議する彼女へ、片目を閉じて笑った。
「ショーですから」
そう言われては返す言葉もない。アメリアはユークレースと腕を組んでキャットウォークを歩く。
ユークレースは笑顔で手を振って、アメリアは頬を赤く染めてぎこちなく。
二人の美しさと微笑ましさに、会場からは大きな拍手が巻き起こったのだった。
●6.
(綺麗にコーデできた姐さん達が羨ましいしぃ……!)
記念撮影の時間。佳代はキョロキョロと周囲の参加者を見渡し、うっとりしている。
「佳代、ちゃんとカメラの方を見ろ。ホラ」
ぐいっと宏介が佳代の顔を正面に向けて、二人は写真に収まった。
「この服、暖かくて好きです」
「私も普段しない格好で楽しいですよ」
テレーズと山吹は寄り添って、カメラに笑顔を向けた。
「表情が固いんじゃないか?」
「べ、別に私は……ッ!?」
アモンがリオの手を取り、キス。リオが赤面した瞬間、シャッターは切られていた。
「ダンス、楽しかったね、リセちゃん」
「私も大分上達したでしょう?」
リセとノアは、カメラマンのリクエストでダンスのポーズを取って、カメラへ笑顔を向けた。
頬を染めたままのアメリアとユークレースも、写真を撮影して貰う。
「エイミーさん」
撮影を終えると、ユークレースがにっこりと笑った。
「やっぱり……エイミーさんは普通ですね!」
「……」
アメリアは絶句した後、思いっ切り右拳を振り抜いた。
右ストレートがユークレースを捉える。
「バカ!!」
肩を怒らせ真っ赤な顔で控室へ戻っていくアメリアを、床に転がったユークレースは優しい笑顔で見送っていた。
(普通で……可愛いですよ、エイミーさん)
Fin.
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 雪花菜 凛 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 11月16日 |
出発日 | 11月22日 00:00 |
予定納品日 | 12月02日 |
参加者
- テレーズ(山吹)
- リオ・クライン(アモン・イシュタール)
- アメリア・ジョーンズ(ユークレース)
- リセ・フェリーニ(ノア・スウィーニー)
- 名生 佳代(花木 宏介)
会議室
-
2014/11/21-18:33
動物は食べるのが好きなんだしぃ!
ショーのパフォーマンスとして餌をあげれば喜ぶしぃ!…多分! -
2014/11/21-10:24
-
2014/11/21-09:16
動物を楽しませる方法…そうね、ダンスの振りでも取り入れてみようかしら。
先日教わることがあったから、少しは喜んでもらえるかもしれないわ。 -
2014/11/21-00:38
テレーズと申します。
よろしくお願いしますねー。
それぞれで服を選ぶなんて面白いですね。
張り切って選んでこようと思います! -
2014/11/20-20:53
遅くなったけど、アメリアよ、よろしくね。
べ、別にアイツの為なんかにコーディネートなんてしたくないけど、こ、これも仕事のうちと考えてやってやろうじゃないの!
そ、それに将来ファッション系の仕事したりとかしたら、ゆ、優位になるかもしれないからね…。
ま、まぁ、そーゆーことだから、よろしくね!(顔真っ赤) -
2014/11/19-20:06
みんな、初めまして。
リオ・クラインとパートナーのアモンという。
ふむ、パートナーに似合いそうな衣装か・・・なかなか難しいな。
それよりアモンの奴がどんな格好をさせようとするのか不安なのだが・・・(汗)
動物達を楽しませてあげるといいとの事だが、参考までにみんなならどういう感じにする? -
2014/11/19-18:00
ノア:
どうも~。みんな、よろしくねー?
俺は純粋にリセちゃんに似合うだろうなと思う服を選んであげるつもりだよ。
といっても一応大会だし、ちょっときらびやかな感じの方がいいのかなぁ、なんて。
考えるだけでも楽しくなってきちゃうねぇ~。 -
2014/11/19-16:57
おほほ、皆様はじめまして。私、名生佳代と申しますわ…ゲフンゲフン、やっぱこの口調辞めた!
エピソード初参加だしぃ!姐さん・兄さん達はお手柔らかに頼むしぃ!
えぇーっと、何言えばいいのぉ?
アタイは理想の「王子様」の服を考えるつもりぃ!
よろしくだしぃ!
「…おい、すぐに口調辞めるなよ。3秒も持たなかったぞ。
俺は佳代のパートナーになった宏介だ。
適当に佳代に合わせて服を合わせるつもり…だ…。(不安しかない)
何分不慣れなところもあるとは思うが、よろしく頼む」