小学生をカッコ良くコーチしようぜ!(夜神鉱刃 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 ある日のA.R.O.A.本部でのこと。
 本部前に設置されている掲示板にとある広告が張り出された。

 広告の見出しにはこのような一文が大々的に記されていた。

『小学生をカッコ良くコーチしてみませんか?』

 一見すると、怪しい広告のようにも思われるが、実はこの広告、内容は意外とまじめなようである。

 広告が張り出されるや否や、掲示板周辺を歩いていたウィンクルムたちが集まって来た。

「ほお……。小学生がA.R.O.A.に来るのですか?」
 パイプをふかしている精霊Aが、ぽつりともらす。

「そうらしいわね……。体験実習のお話かしら?」
 ロンゲをかき分けながら、神人Aもまじまじと広告を見つめる。

「へえ……。小学生に私たちの仕事を教えるのね? 楽しそう! かわいい子がいっぱい来るといいなあー!」
 神人Bはわくわくしながら、目を輝かせている。

「ふう……、あんたねえ、そんなに楽しいものじゃないわ! 私もやったことあるけれど、あれくらいの年の子って、難しいから、けっこう教えづらいのよ!」
 神人Bの夢を壊すかのような発言をし、神人Cは横で苦笑いしている。神人Cの背後にいる精霊Cも、うむうむ、と激しく同意しているようだ。

「だが、小学生の年頃であれば、吸収は早いだろうし、早期教育にもなるだろう。俺たちがちゃんと教えれば、色々と学んでくれるはずだぞ! そして、将来は本当にA.R.O.A.の職員になって俺たちを助けてくれるといいなあ!」
 精霊Bは子どもたちの輝かしい未来を想像して、がはは、と豪快に笑い出す。

「そうっすよ! 小学生は最高っすよ! ぜひコーチするっす! 我輩の全てを教えるっすよ!」
 精霊Dは子どもたちの輝かしい現在を妄想して、えへへ、と不気味に笑い出す。

「このロ●コン精霊め!」
「ぐはっ……!」
 神人Dは空中回し蹴りをおもいっきり放ち、精霊Dは地に果てた。

 さあ、ウィンクルムの皆様、動機はどうであれ、子どもたちをカッコ良くコーチしてみてはいかがかな?

*****
広告本文
*****

『小学生をカッコ良くコーチしてみませんか?』

 ウィンクルムの皆様に小学生のコーチをお願いしたいです。
 来週の日曜日、タブロスにある都立の小学校から小学六年生たちがA.R.O.A.本部へ体験実習に来ます。

 今回、参加される小学生の子たちは、皆、将来、A.R.O.A.で働くことを目指しています。
 そこで、現役で働いているウィンクルムの皆様方で、どんなお仕事をしているのか小学生たちに教えてあげてください。

 教える内容はお任せ致します。仕事のこと、日常生活のこと、恋愛のこと、世の中のこと、どのような内容でもかまいません。ただし、あまり変なことを教えると学校側と親御さん側から苦情が来ますので、節度のある大人の対応でお願い致します。

 参加人数に関しましては、今回、10組(20人)の小学生たちが来ます。小学生の男女ペア1組をウィンクルムのペア1組で引き受けるかたちになります。A.R.O.A.においての当募集では、10組のウィンクルムの方たちを募集させて頂きます。

 なお報酬ですが、今回は基本的にボランティア活動ですから「ジェール」は無報酬となります。しかし、大事なのは、小学生たちに愛を育む皆様のハートです!

 ご応募は、下記のシートに必要事項を記入の上、事務室の受付ボックスまでどうぞ。

解説

 さて、タイトル通り、小学生をカッコ良くコーチする依頼となります。「プロローグ」では物語の便宜上、10組の募集になっていますが、実際のシナリオでは「3組」まで募集させて頂きます。

 今回、シナリオに登場する小学生は全員で6人います。下記に小学生のデータを記載しますので、ウィンクルム1組につき、小学生の男女ペア1組を引き受けるかたちでお願いします。

 なお小学生のペアはあらかじめ決まっていませんので、どのウィンクルムのペアが、どの小学生のペアに決めて引き受けるのか、掲示板で相談しておいてくださいね。

<小学生データ・共通>

・小学六年生で12歳

・タブロスの都立小学校の生徒たち

<小学生データ・男子>

小学生その1

名前:イヴァン・ニコライ
性格:クールで現実主義、ガリ勉タイプ
外見的特徴:メガネで七三分け、青髪
志望動機:生活に困らないため

小学生その2

名前:ジャッシー・ビクトリー
性格:熱くて理想主義、スポーツマンタイプ
外見的特徴:真っ赤に燃える立った赤髪
志望動機:正義の味方になりたい

小学生その3

名前:ホーリー・ソディアック
性格:おっちょこちょいの神秘主義、不思議系タイプ
外見的特徴:茶髪のロンゲ、眠そう
志望動機:精霊になりたい

<小学生データ・女子>

小学生その4

名前:リリカ・スターズ
性格:自称女子力高めのノリノリタイプ
外見的特徴:ピンク色のツインテールで小柄
志望動機:神人になって女子力を高めたい

小学生その5

名前:セシリア・ブリザード
性格:まじめな委員長タイプ
外見的特徴:セミロングの黒髪ストレートでメガネ、やせている
志望動機:世の中の役に立ちたい

小学生その6

名前:マリー・バイオレット
性格:おどおどしているか弱いタイプ
外見的特徴:髪型が紫色のボブ、身長はやや高め
志望動機:目標を持つことで自分を変えたい

ゲームマスターより

「小学生、サイコーですかー?」
「小学生、サイコーでーす!」
 な、皆様にご朗報なシナリオとなります。

 最近、某ラノベアニメから良い影響を受けていた夜神GMです。
 小学生をカッコ良くコーチする行為って、ロマンがありますよね!

 ウィンクルムの皆様も、今回のシナリオでぜひカッコ良いコーチになって、子どもたちに大人の仕事を教えてあげてください!

 コーチ内容は、コミカルなものも、まじめなものも、どちらも受け付ける方針です。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

手屋 笹(カガヤ・アクショア)

  ジャッシー君とセシリアさんの二人を担当ですね。
よろしくお願いします。

カガヤの小学生の時?
わたくしも聞いた事はありませんし
少し興味ありますね。

わたくしは神社の娘で
ちょっと参考に出来る話が少ないと思います。
あえて言うなら…お二人とも好きな事して生きて下さいと。
セシリアさんは特に真面目さんみたいなので
肩の力を少し抜いてくださいね。
またこの場所で
お会いできる事を楽しみにしていますね。

(話し終わり後)
小学生の時から活発な子供だったのですね。
従兄弟のお兄様の苦労の心中お察ししますわ…

貴方だけだと思わないでください。
ウィンクルムは2人で1組。
カガヤを1人で危ない目には遭わせません。
そういう約束なのですから。


ラブラ・D・ルッチ(アスタルア=ルーデンベルグ)
  (スキル・メンタルヘルス使用)

小学生達に教えるんだもの 予習はしておかなくちゃね
AROAの成り立ちや活動内容について改めて調べ、頭に入れておくね

一通りの説明をした後は、ウィンクルムになってからの事をお話出来たら良いなって思ってるわ

お墓に行ってゾンビ退治でしょ~
そうそう、絵本の中に入ってトラム・オーガを
倒した事もあったの

これは、ウィンクルムやAROA以外のお仕事にも言える事だけど
自分に何が出来るのか考えて、率先して行動するって
とっても大切!

ここ、テストに出るからちゃんと書いておくのよ~

契約した頃ではありえなかった精霊の言葉に微笑む
精霊の笑顔が可愛かったので思わず抱きしめる



春加賀 渚(レイン・アルカード)
  小学生
ホーリーとリリカ

ホーリーくん、リリカちゃん今日はよろしくね
どんまい(背中ぽん

二人共神人と精霊に興味があるのかな
じゃあお仕事についてにしようか
神人に顕現した時の話でもいいかなと思ったけど…
じゃあそういう事にしておこうか

うん、今は遊んでばかりだね
でもオーガ退治って危険でしょう?時には命に関わるし
だからその前に本当にそこまで一緒に行動するに値する人なのか知りたかったの
絆は重要だって聞いた事もあるしね
さて、どうでしょう?

私はウィンクルムで活動する上で大切なのは
信頼関係を築く事じゃないかなと思ってるよ

一緒に仕事をする日がくるのが楽しみだね
じゃあその時まで覚えていたら私達の契約した時の事教えてあげる



●渚&レイン班の活動


「ええと……ホーリーくんとリリカちゃんは、どこかな?」
 袴姿のはんなりした少女・春加賀渚は、会議室の人ごみの中、担当予定の小学生たちを探していた。

「なあ、渚! あのへんにいる二人じゃね?」
 長身細身の俳優ルックスであるレイン・アルカードは、サングラス越しから遠くいる小学生二人組を確認する。写真に映っている子たちで間違いないだろう。

(よし、カッコ良く決めてやるか! 俺にかかればコーチくらい!)

 内心どきどきしつつも、自信満々の笑みを浮かべるレイン。
 レインは、もったいぶってサングラスを外すのだが……。

 だが……。
 目の前にいた子どもたちの反応は……。

 ええと、ホーリーくん、もったいぶってサングラスを外したから、有名な人なのかな? でも、リリカちゃん……ええと……誰だっけ? と、二人でヒソヒソと相談をしてしまう始末。

「うんとね、このお兄さん、一応、俳優さんなのよ!レインさんっていう人なの! ……レインさん、どんまい!」
 悲しい展開になりそうなところで、相棒の渚が必死にフォローを入れる。

「そうだったん……ですか!」
「へえ……俳優さんなの! リリカ、びっくり!」

 子どもたちは、ぱあっと、明るい表情になる。

「それはそうと……二人とも緊張してない? 大丈夫かな? 今日は、よろしくね! 担当者の春加賀渚だよ!」
 渚が小学生たちに微笑むと、二人とも一緒になって笑顔になった。

「はい……よろしくお願い……します! ホーリーです」
「はーい! お願いしまーす! リリカでーす!」

 と、あいさつや自己紹介が終わると、四人は会議室の一室を借りて、着席をした。

「今日はA.R.O.A.についても、ウィンクルムについても、色々と質問してね!」
 渚が質問を促すや否や……。

 待っていましたー!
 と、でも言わんばかりに熱い表情になる小学生たち。

「精霊……精霊ですよ! 精霊について……詳しく教えてください!」
 真っ赤な表情で一気に話し出すホーリー。

「神人……神人よ! 神人になりたいの! 女子力アップよ!」
 目が爛々とした顔で興奮して話し出すリリカ。

 小学生たちのあまりにもの熱意に、渚とレインは一度、戸惑ってしまう……。

「ええと……じゃあ、俺たちが契約したときの話を……」
 レインは、一瞬、契約の話でもしようかと思ったが、即座に自主規制した。

(ていうか、あのとき……後ろから声をかけられて驚いて……そんでもって……盛大に顔から転んで……)

「ちょっと、レインさん! あれは秘密でしょ!」
 急いで止める渚。

「う……うん、そうだな! なしで、なし!」
 青ざめた顔で自分の口を制止したレイン。

「ええー! 気になるんですけれどー!」
「うへへ……ぜひ知りたい……」
 リリカとホーリーは、神人や精霊に関する話題なら何でも良いらしく、渚やレインの袖を引っ張ってせがんで来た。

「ううーん……今は、秘密! もし将来、ここで一緒に仕事をする日が来て、そのときまで覚えていたら教えてあげるね!」
 と、いった感じで、とりあえず渚がしめた。

「よーし……。じゃあ、気を取り直して、任務の話にしようか? 神人や精霊がどんな任務を受けて働いているのか知りたいだろう?」
 レインは、機転を利かせて、仕事の話に話題を移した。

「はい……! 精霊の任務……ぜひお聞きしたい……です!」
 思わず熱くなるホーリー。

「はい! リリカ、神人になって任務を受けて女子力をみがきたいわ!」
 共に熱くなるリリカ。

 ふう……と、ため息をつく渚。

「うん……小学生だから、今は遊んでばかりの毎日だよね? でも、オーガ退治って危険なのよ? ときには命に関わることだってあるし。だから本当にこの仕事がやりたいかどうか、将来のこと、じっくり考えた方がいいよ?」
 渚が諭すように言うと、小学生たちはしょげてしまった。
 まあ、ここは俺に任せてくれ、とアイコンタクトを送るレイン。

***

 よし、では俺たちの武勇伝でもここでひとつ……。

 あれはだな、クッキングスタジオからの依頼だったな。

 料理で使う肉がオーガになっちまったんだ。
 それで俺たちの班は、ビーフのオーガを倒して、食材を調達する依頼を受けたんだよな!

 戦闘はかなり苦戦したぜ。
 渚がソードを振り回し、おとりになってくれたんだ。
 で、俺は魔法使いだから、時間を稼いでもらって詠唱していたわけ。

 最後は、俺の魔法のプラズマ球が炸裂して、ビーフをノックアウト!

 ビーフの野郎、もおおおお、と叫んでぶっ倒れたんだぜ!

***

「……という依頼だったんだ!」
 自信ありげにレインはにこにこと話す。

「へえ、レインさんたちって……やはりすごいですね!」
 目を丸くして驚くホーリー。

「ねえ、もっと聞かせて、聞かせて!」
 レインの腕を引っ張り、催促するリリカ。

「うん……じゃあ、次は私が話をするね……」
 渚にバトンタッチがされて、今度は彼女が語り出す……。

***

 そうねえ……。
 まずい手料理を食べてもらって愛の絆を試したことあったわ……。

 砂糖がどばーって、入った感じの卵焼きを作ってしまったのよ。
 レインさん、食べた瞬間、じゃりって音が口元からして……青ざめたわ。

 でも、これが男だーって、いう勢いで食べてしまったの!


 他にはね……。
 高級松茸を一緒に食べに行ったこともあったわね。
 レインさんったら、俺が払う!
 と意気込んでいたものの……。

 財布を忘れてしまって……。
 私が立て替えることになったの。
 それにしても、あのときの土下座は見事なフォームだったわ
……。

***

「以上が、私の話せるところね!」
 笑顔で話し終える渚。

「ちょっと……待ってくれ! そんな恥ずかしい話を次々と……。しかも、遊びの話ばかりで、俺らまともに仕事してなくね?」
 がっくりと肩を落とすレイン。

「へえ……神人になると、精霊とそんなステキな経験ができるのね!」
 リリカの瞳は輝いていた。

「なるほど……精霊というのは、男の中の男……ですね、レインさん?」
 ホーリーの方は、尊敬の眼差しでレインを見ている。

 とりあえず……もしかして……話は良い方向に流れているのかもしれない……。
 と、流れ的にまとめの言葉を考える渚とレイン。

「うん、そうよ、それよ! 私はウィンクルムで活動する上で大切なのは信頼関係を築くことじゃないかなと思っているよ。神人と精霊でデートをして、絆を育み、その思いがオーガ退治や平和への活動につながるのよ!」
 渚がきれいにまとめると、小学生たちは、満足そうな顔で、お礼を述べて帰って行った。

 そして、会議室には二人だけになる。

「レインさん……。私たち、上手くお話できたかな? あの子たちの将来が楽しみね!」

「ああ、子どもたち、すごく期待している目をしていたけれど……。いずれあの子たちがA.R.O.A.に来るかもしれない日が楽しみだぜ!」

 二人は、似通った思いを確認でき、改めて一緒に笑うのだった。


●ラブラ&アスタルア班の活動


 ウィンクルムの何組かは、カフェテリアのラウンジを使い、コーチを始めている。魔乳のお姉さんラブラ・D・ルッチと子ども好きなメガネのお兄さんアスタルア=ルーデンベルグは、がり勉イヴァンとおどおどしているマリーを連れて入室した。

「では、改めて紹介するね〜! 私は、ラブラお姉さんさんよ〜。今日はよろしくお願いするわね♪」
 ラブラは笑顔で自己紹介とあいさつをするものの……内心、どきどきしている。だが、そこはスキル:メンタルヘルスを発動させて、平常心を保っているのだ。

「僕はアスタルアです。今日はよろしく!」
 アスタルアも笑顔で自己紹介に続くものの……内心、違う意味でどきどきしているのかもしれない。やはりそこは、スキル:子ども好きが発動して彼のハートを温めている。

(可愛いなぁ! まったく、ちびっ子は最高だぜ! うはうは!)

「あ、あの……鼻血が出ていますが?」
 イヴァンはアスタルアの奇妙な態度に気がつき、ポケットからティッシュを差し出してくれた。

「ん? 鼻血? 気のせい、気のせい!」
 一応、ティッシュを受け取り、さっさ、と軽く鼻血を拭き取るアスタルアであった。

「申し遅れました……。イヴァンです。本日はよろしくお願い致します!」
 イヴァンがぺこりと頭を下げて、固いセリフで自己紹介をする。

「あ、あの……よろしくお願いします! マリーです!」
 おどおどしながらマリーも一緒に自己紹介をする。

「あらあら〜。じゃあ、まずはこの資料を見てみようね〜?」
 ラブラは、A.R.O.A.公式で配布される対民間用の資料をクリアファイルごとイヴァンとマリーに手渡した。

「そもそも、なぜA.R.O.A.って言うか知っているかな〜? A.R.O.A.はね、Anti the Risk of Ogre Agencyというのが正式名称で、頭文字を取って、A.R.O.A.って言うのよ〜。つまり、オーガに関する事件が急増している世の中だから、対オーガを目的とした組織として発足したのよね……」
 ラブラは資料を開き、彼女なりに易しい言葉を選んで、じっくりとA.R.O.A.の解説をしていくのだが……。

 イヴァンの方は、既に知っているという顔で、マリーの方は、ちょっと難しそうな顔をしていた。

 子どもたちの表情を注視していたアスタルアは、ちょっと待って、とストップをかける。

「ラブさん、あまりA.R.O.A.の専門的な話をしても、子どもたちにはまだ少し難しいんじゃないですか? それよりも僕たちが現場で知った活動について話をしてあげた方がわかりやすいと思いますよ?」
 アスタルアの突然の提案に、ラブラは、あらあら、と考え込んでしまった。

「アスタルアさん、それお願いします! ぜひ現場の活動について知りたいです!」
 イヴァンはメガネをかけ直し、輝く瞳でお願いする。

「はい! 私もお願いします!」
 マリーも、にこにこと、そして力強くイヴァンに同意する。

「いいよ〜。じゃあ、オーガと戦ったときの話だけれどね……」
 ラブラは、人差し指を唇に当て、上目遣いで、過去の記憶をひもとき始める……。

***

 あれは、デミ・リビングデットをお墓で退治しに行ったときのことだったね〜。

 敵がけっこー強くてね……アス汰ちゃんが捕まえられちゃったんだよね。それで、アス汰ちゃんが泣き出して、わめき出して、もう大変!

 私がなんとかしてアンデットを引き離せたから良かったものの……あのままだったらアス汰ちゃんは一緒にお墓に埋まるところだったね〜。

***

「だー! ラブさーん! そんなお恥ずかしい、ここで出さなくてもいいじゃなですか! うわああああ!」
 アスタルアは子どもたちの前でもあるので、これ以上の恥をさらしたくないばかりに両手を振り上げて大騒ぎの抗議をする。

 しかし、ラブラの話に対して、イヴァンはメモを取り、マリーはうんうんと頷いていた。

「でもね……こういうこともあったよ〜」
 ラブラは回想を続ける……。

***

 以前の任務でね……トラオム・オーガっていう……ブレーメンの音楽隊的なオーガを退治しに行ったこともあったよ〜。

 あのときは、絵本の中の世界に入って、私たち、戦ったんだ〜。

 しかも敵はトラウマやコンプレックスを刺激して恐怖に陥れる術を持った厄介な奴らだったね。

 私は最初、アス汰ちゃんがこのまえのアンデットのときの任務みたいに逃げ出さないかヒヤヒヤしていたよ。

 でもね、アス汰ちゃんは、彼が好きだったウィンクルムの女性がオーガに殺された過去を刺激されても……最後まで戦えたんだよ。

 まあ、私がすんごく応援してあげたのもあったからね〜。

 トラウマを超えたアス汰ちゃんたちのおかげで、敵の術は破れ、事件はハッピーエンドを迎えたのよね〜!

***

 と、静かに語り終えるラブラ。
 子どもたちは黙って耳を澄まし、アスタルアは何かを考えてうつむいていた。

「私はウィンクルムの活動を通していろいろと学んだよ〜。大事なことはね、お仕事というのは、自分に何ができるのか考えて、率先して行動するってことだよ〜! 自分から進んで動こうとしたから、私もアス汰ちゃんも色んな恐いオーガ相手に戦えたんだよね〜」
 ラブラが話のまとめ部分をにこやかに、しかし力強く述べる。すると、アスタルアも何か言いたそうで、もごもごとしていた。

「ええと……。僕なんかでは、とても大したことは言えないんですが……。最初のうちは、義務以上のものを感じていなかったんです。でも活動を通して、色々なことを経験して、目標ができました……」
 淡々と語り出すアスタルアに対して、話を聞いている三人は見守っている。

「つまり……皆を護りたい、というのが僕の今の目標で……。あ、ベタですよね……。けれど、今は心の底からそう思えるんです。子どもが安心して成長できるようにしたいんです!」
 たぎる思いを一気に吐き出したアスタルア。

 あ、ちょっと、恥ずかしかったかな? と赤くなるアスタルアであったが、神人の笑顔に気がつき、微笑み返した。
 一方で、子どもたちは、笑顔で拍手していた。

「アス汰〜! エラいよ! よくそこまで成長したね〜!」
 契約した頃ではありえなかった精霊の言葉を聞き、爽やかに笑っているアスタルアに思わず抱きついてしまうラブラだった。

「ぐ、ぐるじい……! 抱き着かないでくださいラブさん!!」
 また、アスタルアの方も、ラブラと契約ができてよかった、と改めて思う自分に気がつくのであった。だが、抱きつかれてしまうという行為を受けて……実はドキドキと動揺していた、と口にはできない彼であった。


●笹&カガヤ班の活動


 カフェテリアの個室ラウンジに、凛々しい巫女さん姿の手屋 笹と犬耳が生えている好青年のカガヤ・アクショアが小学生たちを連れて入って来た。彼女らが引き受けた小学生は、正義の味方を目指すジャッシーと生真面目な委員長セシリアである。

「まあ、好きなところに座ってよ。俺のことはカガヤって、呼んでくれていいよ! 改めてよろしく!」
 カガヤがにこやかに着席を促すと、小学生の二人はそれぞれ目の前の席に隣り合って座った。

「よろしくっす! 熱い正義が好きなジャッシーっす!」
 ジャッシーは勢い良く着席した。
「本日はどうぞよろしくお願い致します! セシリアです! 世の中の役に立つお話が聞ければ幸いです!」
 セシリアは固い表情で緊張しながら着席した。

 カガヤと笹もその真向かいの席に着席する。

「では、改めまして、手屋笹と申します。よろしくお願いします。さて、本日はA.R.O.A.やウィンクルムについてお話をさせて頂きますが……。どんなことを聞きたいですか? わたしくは、もとが神社の娘で特に参考になるような話はあまりできないのですが……」
 笹は開口早々、何を話したよいものか、と悩んでしまう。
 隣にいるカガヤと目が合った。

「そうだねえ……。君たちに聞かせるような話と言えば……俺が小学生のときの話になるかな? 俺がなぜ、ウィンクルムを目指すようになったか、という話なんだけれど。進路の参考にしてもらえれば、と思って……」
 それでいいかい? とカガヤは小学生の二人に目で確認を取る。

「はい! その話、聞きたいっす! お願いしやす!」
 勢いよく怒鳴るジャッシー。

「はい、ぜひ! 進路の参考にさせてください!」
 しゃっきりと背を伸ばして答えるセシリア。

「カガヤの小学生のとき? わたくしも聞いたことはありませんし……。少し興味ありますね!」
 笹も興味津々であり、小学生たちと一緒に話を聞きたそうな表情だ。

「よし、じゃあ、今日はその話にしようか? まあ、さかのぼるとね……俺がウィンクルムをやっているのは従兄弟の兄貴がウィンクルムで戦う姿に憧れたからなんだよ。今のジャッシー君を見ているとあの頃の自分をすごく思い出すよ……」
 淡々と静かに、しかし力を込めて、カガヤは語り出す……。

***

 あれは俺がちょうど君たちくらいの年の頃……。

 夏の暑い日だったかな……。
 従兄弟の兄貴が俺のところに遊びに来てくれていてね。
 まあ、彼は休暇中だったんだけれど……。

 その日、俺は兄貴と森で遊ぼうと約束していたんだ。
 だけれど、兄貴は携帯電話で職場から呼び出されて、その日の遊びは中止になったんだ。

「悪い、カガヤ! A.R.O.A.から呼び出しがかかったんだ! 今から任務に行く。この埋め合わせはまた今度!」
 と言いながら、急いで支度して相棒の神人さんと一緒に森の奥へ走って行ってしまったんだ。

 割と近場で緊急の任務だったらしい。
 俺は「うん、わかった! また今度ね!」と聞き分けのいいことを言っておいたものの、実は隠れて着いて行ってしまったんだよ。

 何しろ俺は、兄貴が戦っているところをどうしても見たくて……
またとないチャンスだと思ったんだ。

 だけれど……。
 やはり、こういうことすると、痛い目に遭うのがお約束だよね。

 俺は、森の付近まで隠れて行ったところ……戦闘中の森から逃げて来た野犬……おそらくデミ・オーガの野犬と……遭遇してしまったんだ!

「ぐるるる! ワォ、ワォ!」
「って、マジかよ! やばい!」

 で、野犬に追い回されて、危うくその犬に食い殺されそうなところまで来て……。

 ザシュ―—!!

 と、誰かがとっさの剣さばきで目の前の野犬を一瞬で退治してくれて……。
 俺は、助かったんだ。

「おい、カガヤ! なぜ、おまえがそこにいる! なぜ、着いて来た!!」
 と、怒り狂っていたね、兄貴。

 その後、戦場で敵はほとんど鎮圧されていたらしく、兄貴が俺を連れて帰ったんだ。家に着いた途端、恐ろしい剣幕の兄貴からものすごく怒られたね……。

***

 ははは、と笑って、頭をさすりながら話し終えるカガヤ。
 何か補足することはないかしら、と考えを巡らす笹。

「ねえ、カガヤ? そのお話の教訓は?」
 笹がにこやかに質問すると、カガヤも、微笑して返す。

「そうだね……。将来も大人になるまで生きられてこそのものだね。だから俺からのアドバイスは……『元気よく! けれど命は大事に!』かな?」
 照れくさそうに、だけれど心のこもった表情で小学生たちに語りかけるカガヤであった。

「はい! その教訓、さっそく参考にしまっす! 俺もカガヤさんみたいなウィンクルムを目指すっす!」
 ジャッシーは、元気よく立ち上がってガッツポーツで返事をした。

「はい! 素敵なお話ありがとうございました! 将来はA.R.O.A.を目指して、社会貢献をしようと改めて思いました!」
 セシリアは、メガネと眼光を輝かせて、元気よく微笑んで返事をした。

「うふふ……。元気が良くて何より! さて、わたくしが何か付け加えることがあるとすれば……お二人とも、好きなことをして生きてくださいね。特にセシリアさんは真面目さんみたいなので肩の力を少しだけ抜いてくださいね。またこの場所でお会いできることを楽しみにしていますね!」
 笹が本日のお話をまとめると、小学生たちは、またまた元気よく返事をし、お礼を行って、帰って行った……。

 終了後、個室ラウンジで二人きりになる笹とカガヤ。

「カガヤ……貴方は小学生のときから活発な子どもだったのですね。従兄弟のお兄様の苦労の心中、お察ししますわ……」
 ふう、とため息をついてコメントする笹。

「ははは……ちょっと恥ずかしいことを話しちゃったかな? ま、小学生の頃なんて元気爆発でいいんじゃない?」
 先ほどの自分を振り返り、カラカラと笑うカガヤ。
 そして、再び、言葉を紡ぐ……。

「でも……今はあの子たちの将来と笹ちゃんと守るのが俺の役割だからね! 今日は伝えるべきことを伝えたと思うよ!」

「そうですね……。しかし、ウィンクルムは二人で一組。わたくしがいる限り、カガヤを危ない目には遭わせません。だから……貴方ひとりだけだとは決して思わないでくださいね。もともとそういう約束ですから!」
 笹は、やや無茶をする無邪気なパートナーに改めて思いを馳せ、じっと瞳と瞳を交差させ、見つめ合う。

「そっか……うん、それじゃ、これからもよろしくね!」
 カガヤは頼もしい笑顔で、彼女の気持ちに返すのであった。

<終わり>



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 夜神鉱刃
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 3
報酬 なし
リリース日 11月15日
出発日 11月22日 00:00
予定納品日 12月02日

参加者

会議室

  • [7]ラブラ・D・ルッチ

    2014/11/19-22:27 


    はぁい♪ 宜しくお願いしますね~(笹ちゃんに向かってぺこり
    んー……、子供達に何をお話ししようかしらぁ?

  • [6]春加賀 渚

    2014/11/19-01:23 

    はーい。私もその担当で問題なしだよ。
    それじゃあ各自頑張ろうね。

  • [5]手屋 笹

    2014/11/18-17:04 

    Σは!?
    そして遅れてしまいましたが、ラブラさん達は初めましてです!
    よろしくお願いします。

    渚さん達も改めてよろしくお願いします!

  • [4]手屋 笹

    2014/11/18-16:59 

    同じ子への希望がありませんでしたので、
    皆さん挙げてもらった子をそのまま担当で良さそうですね。
    後は女の子側のセシリアさんをわたくし達で、
    男の子側のホーリー君を渚さん達で担当して決まりでしょうか。

               男の子    女の子

    笹・カガヤ→     ジャッシー (セシリア)

    渚・レイン→    (ホーリー)  リリカ

    ラブラ・アスタルア→ イヴァン   マリー

  • [3]ラブラ・D・ルッチ

    2014/11/18-01:09 

    お二人とも初めまして~! 
    私は、ラブラ・D・ルッチよ。こっちはマキナのアス汰ちゃーん♪

    ア「السلام عليكم(こんにちは)」

    うふふッ、アス汰ちゃんたら興奮しすぎて異世界の言葉を喋ってるわ~。
    そうねぇ、女の子はマリーちゃんが気になってるの。
    男の子はどの子も大丈夫よ!強いて挙げるならイヴァン君、かなぁ?

  • [2]春加賀 渚

    2014/11/18-00:50 

    春加賀 渚と申します。
    よろしくお願いしますね。

    小学生となると多感な時期だよね。
    結構影響与えてしまうかもだし頑張ってコーチしてこようと思ってるよ。

    レインさんもすっかり張り切っているから頼もしいな。
    おそらく精神年齢が似て…いえ、なんでも。

    こちらは女の子のリリカさんが気になっているかな。
    男の子は誰でも大丈夫だよ。
    相談して、みんないい感じに決められるといいね。

  • [1]手屋 笹

    2014/11/18-00:41 

    カガヤ・アクショアと神人の笹ちゃんだよ!

    小学生か~そのくらいだった頃が懐かしい…

    そういえばどの子を担当するか決めないとだったね。
    俺にジャッシー君をください!(だいぶ誤解を招く表現

    笹:
    自分と性格が似ている子なので気になった、との事です。
    女の子はどの子でも大丈夫です。
    皆さんの希望をお伺いしてから分担しましょう。


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