性別逆転?まじかるビスケット(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●ストレンジラボ、みたび
「おはようございます。最近めっきり寒くなりましたねぇ」
 A.R.O.A.本部の受付へと、その男は三度やってきた。爽やかに笑み零した美青年の名はミツキ=ストレンジ。既に2回ほど、A.R.O.A.へといかにもひと騒ぎ起きそうな穏やかとは言い難い発明品を持ち込んでいる、ストレンジラボという何を考えているのかわからない研究所の代表だ。
「ソウデスネー、サムクナリマシタネー」
 応対する受付の男の目が死んでいる。受付の彼、ミツキの相手をするのは既に3度目なのである。運が悪いとしか言いようがない。
「今日はこんな物をお持ちしました」
 勝手知ったる何とやらで、ミツキは「何しに来たんですか?」と受付の男が問う前に受付カウンターの上に個包装のビスケットを広げた。子どもの手のひらほどのサイズの、ハート形のビスケット。一見何の変哲もないお菓子にしか見えないが、そうであるはずがないことを受付の男はよーく知っている。
「……今度はどんな発明品なんですか?」
 ほぼほぼ投げやりに問えば、ミツキは待っていましたとばかりに新しい危険物――もとい新たな発明品について説明を始める。
「これを召し上がっていただきますと、男性は女性に、女性は男性になります」
「はい?」
「シャトラ、見せてあげなさい」
 シャトラというのはいつもミツキに影のように付き従っている研究員という名の実験体である。筋骨隆々の大男ながらとにかく無口で、今日も一言も言葉を発していないだけでずっとミツキの斜め後ろに控えていたのだ。そんな彼、何故だかミツキの命令には絶対忠実でもあって。ビスケットの封を開けたかと思うと、無言のままそれを躊躇なく口にした。すると、どうでしょう!
「あ……ああ……!」
 受付の男の口から声にならない声が漏れた。強面の大男が、目の前で魔法のようにするすると姿を変え、女性になってしまったのだからそれも仕方がないかもしれない。180cmほどに背が縮んだシャトラの、ぶかぶかになった白衣の下のシンプルなシャツ。その胸の辺りの膨らみを、思わず凝視してしまう受付の男。
「どうです、シャトラの癖に中々悪くないでしょう?」
「あ、は、はぁ……」
 女性にしてはかなり背が高い方だし筋肉質なのも変わらないが、シャトラは今や「美しい」と言っても問題ないであろう部類の女性へとその姿を変えていた。
「まあ、効果は大体こんな感じです。名付けて『性別逆転ビスケット』。1枚300ジェールでお譲りいたしますのでどうぞよろしくお願いいたしますね」
「あ、はい……。あの、ちなみに……」
「はい? 何でしょうか?」
「何でこれ、作ろうか思ったんですか?」
 問われて、ミツキはにっこりと笑った。
「ほら、クリスマスが近づいてきてるじゃないですか」
「ええ」
「ストレンジラボにクリスマスはありません」
「はい」
「でも、世間一般の人々がやれクリスマスだ恋の祭典だと騒いでいるのに、研究所に巨躯の男と2人きりって何だか癪だなぁって」
「……はぁ」
「そういう次第です。――あ、貴方も1枚いかがですか?」
「……頂きます」
 だって、クリスマスが近づいてきているのだから仕方ない。

解説

●『性別逆転ビスケット』について
プロローグにあるように食べると男性は女性に、女性は男性になってしまうビスケット。
ちなみに精霊は、女体化しても精霊の特徴はそのままです。
怪しげな一品ですが効果は本物です。
効果が続く時間は個人差がありますが、数十分~長くて数時間ほど。
ご希望ございましたら、プランにてどんなふうに変身するのかご指定ください。胸のサイズとか。
お値段は1枚300ジェールです。
ビスケットは子ども向けのミルクビスケットみたいな味です。

●『性別逆転ビスケット』について2
ビスケットは2枚まで購入できます。2枚目も値段は1枚目と同様。
但し、2枚食べても元の姿には戻れませんので、神人・精霊共々性別逆転希望! の場合のみ2枚お買い求めいただくことをお勧めいたします。
(2枚購入して1枚しか食べなくても、アイテム発行はされません)
ビスケットを手に入れたのは神人でもパートナーでも構いませんし、2人でゲットした前提でもOKです。
ちょっとした悪戯心からパートナーに食べさせてみたり。
パートナーを驚かせるためやいつもの姿では聞けないことを聞くために敢えて自分で食べてみても。
上記以外の使い方も勿論歓迎いたしますので、お好きなように扱っていただければ幸いです。

●ストレンジラボについて
すごいのはすごいのだけれどもよくわからない物を研究開発しているタブロス市内の小さな小さな研究所。
研究所の代表で(性格はともかく)優秀な研究者のミツキと、研究員という名の雑用係兼実験体のシャトラが2人で頑張っています。
『性格反転?ミラクルドロップ』及び『貴方の心を暴きます』にも登場していますが、該当エピソードをご参照いただかなくとも全く支障はございません。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねます。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなりますので、こちらもご注意を。
なお、今回は場所指定のほど必ずお願いいたします。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

ストレンジラボももう3度目の登場です。
リザルトには登場しませんがプロローグの男3人のやり取りは毎回書いていて楽しいです。
そのうちにミツキたちがリザルトにも出てくるエピソードを出せたらなぁと思いつつ。
……というのは横に置いておきまして、女体化です。男体化もあるよ! です。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ではありますがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アリシエンテ(エスト)

  『逆だったら、全て上手く行ったのかも知れなかったね』

『性別逆転ビスケット』を2枚用意ー!
もちろん、片方はエストに食させる為よっ
場所は自邸内。服は大変な事になってしまうから外で食べるのは危険よねっ

ティータイムの時間に見た形状のブランド物のクッキーを所望し、それにこっそり混ぜ置いて、そっと差し出すわっ
そして自分も食べるっ!
目線が変わり、心もまるで本当に落ち着いたかのよう
「そうか、私だと身長がエスト並みに大きくなるのか。髪も身長分分伸びているようだが
…服ー!エスト、父の服を何でも持ってきてくれ!」

…服のことすっかり忘れていた。これは外でやらないで正解だっただろう

自分よりも小さなエストが見れるとは……



エリザベータ(ヴィルヘルム)
  ☆変身後
目元が涼しげな中性的麗人

心情:
こ、これもウィルの独占欲の内かな…
なんか意外なトコ見れたかも

行動:
良い茶葉貰ったからウィルの工房に持ってくぜ

そっちはクッキー買ってきたのか
それ茶菓子にすっか…何ニヤついてんだよ、クッキー貰うぜ

…なんか体が変わってんだけど
テメェ、なんてモン食わせ…って無駄に違和感ねぇし色々デケェな!?
くそっ、なんでコイツの方が胸デケェんだ!(床ドン

服貸せ!男がドレス着てたらおかしいだろ!
…なんかダボいけどまだマシかって、おま(硬直

甘えたいって…別にイイけど。
膝枕してやっからソファに来い
猫っぽいなぁ…尻尾も揺らして、こっそり触ってみっか(ニヤリ

し、尻尾弱い…可愛いな(ドキドキ



ひろの(ルシエロ=ザガン)
  2枚購入

食べた後:
筋肉の無い自分に溜息。
(男になっても、これじゃ足手纏い)

今日何も無い、はず。
来るなんて聞いてない。(戸惑う
(食べたばっかりだし、いつ戻るか……)
(……あ、鍵)

気づかない。当たり前だけど、何か寂しい。

「何で」
言ってないのに、わかるの?

ルシェが部屋に入るのは初めて。なんか落ち着かない。
ビスケットを見せ、効果を説明する。
「え、食べ……」(予備用だった

女のルシェも綺麗。つい元の自分と比べ少し落ち込む。
立つと普段より視線が近い。

手以外はまだ体が固まる。
(男とか女とか。そういうのじゃ、なくて)

「私、薬とか効きやすいから。その所為だと思う」

(私といるから怪我してるのに。何で、ルシェは……)


エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  変身
ゴシック青年
ビスケットは二人別々にラボから購入

場所
ラダの住居のアパート

心情
男性の体になれば、少しは力が向上するでしょうか。この力でやっておきたいことがあります。

行動
ラダさんも異性に変身していたのですか。それは調度良い。うふふ、お姫様抱っこさせてください。
おや、嫌ですか。唐突な頼みでしたね。理由を説明します。
跪き、相手の目を見つめ。
本来争いを好まないあなたを積極的に戦わせているのは、私のワガママです。
戦いでラダさんが重症を負っても、貧弱な私の力ではあなたの巨躯を抱き上げ安全な場所まで運ぶことは困難でしょう。情けないことですが。
お願いします。今はせめて、私の力であなたの体を支えさせてください。


吉坂心優音(五十嵐晃太)
  アドリブ可

男体姿
ゆるふわショート
172cm
細マッチョ
不思議カッコ可愛い系

「晃ちゃん♪
クッキー一緒に食べよ♪
因みにそれ性転換するんだって~」

転換後
・晃太の服を借りる
・ストテニデート
・ジャージに着替えてテニス
・飲み物買いに行く
・戻るとナンパされてる
・終始真黒い笑で撃退するもしつこいのでテニス勝負
・お礼に頬へキスされ照れ笑い
・お互い数時間後家で解ける

「ねぇお兄さん達僕の彼女に何してるのかな?
つぅか汚い手で晃ちゃんに触んなよ(ギロ
へぇテニスで勝負?良いよ、受けて立とうじゃん
絶対に負けない…僕の晃ちゃんに手を出したんだ
後悔させてやる、覚悟しろ」

その後の心境
(晃ちゃんは誰にもあげない…
あたしのものだよ)


●お姫様は甘えん坊
「いつも女の子に甘えられてるし、偶にはイイよね?」
 自身の工房にて、ヴィルヘルムは件のビスケットを手にそう呟いた。どう言って渡そうかしら? なんて考えていた、その時。
「ウィル、いるかー?」
 些か乱暴に開け放たれる工房のドア。現れたのはエリザベータその人だ。
「あら? どうしたの、エルザちゃん?」
「ああ、良い茶葉貰ったからさ」
 言って、ヴィルヘルムへと茶葉の缶を渡すエリザベータ。
「ヤダ、すっごくいいタイミング!」
「タイミング? ……お、そっちはビスケット買ってきたのか」
「そうなのよ! 一緒に食べましょ♪」
 ヴィルヘルムの口元が知らず緩む。エリザベータが怪訝な顔を作った。
「……何ニヤついてんだよ」
「え? 何でもないわよ?」
 とは言いながら、ヴィルヘルム、満面の笑み。首を傾げながらも、エリザベータは彼の手からビスケットを1枚ひょいと摘まんだ。
「先に1枚貰うぜ」
「はい、どうぞ。ワタシも一緒に食べちゃおっと」
 ぱくり。同時にビスケットを口にした途端、2人の姿がするすると変化していく。エリザベータ、ぺたんこになった胸に触れて、目の前でにこにこしている妖艶な美女をじとーっと睨みつけて曰く。
「……なんか体が変わってんだけど」
「エルザちゃんがイケメンさんに……!」
 エリザベータの冷えた反応を余所に、青の瞳をキラキラさせる美女もといヴィルヘルム。エリザベータはというと涼しげな目元の中性的な麗人へと姿を変えていて。
「実はさっきの、食べると性別が変わっちゃうビスケットでした! あ、効果は長くても数時間くらいで切れるみたいだから安心よ」
「テメェ、なんてモン食わせ……!」
 わなわなと拳を震わせたエリザベータ、1発殴ってやろうかとヴィルヘルムのちょうど胸の辺りを見て――その豊満なバストに愕然とする。
「くそっ、なんでコイツの方が胸デケェんだ! 無駄に違和感ねぇし色々デケェ!」
「あら? 残念、殴ってきたら胸で受けちゃおうと思ったのに」
 がくり、その場に崩れ落ちる美青年に、ワタシの方が大きいわよ☆ と、たゆんとFカップを揺らしてトドメを刺すヴィルヘルム。エリザベータが苛立ち紛れに床をドン! と叩いた。
「ああもうとりあえず服貸せ! 男がドレス着てたらおかしいだろ!」
 エリザベータの言い分に、ヴィルヘルムは諾の返事。彼女の着替えを待ちながら、ヴィルヘルムはぽつり呟く。
「男がドレス着てたらおかしい……じゃ、今ならワタシが着てもいい?」
 いつもの服は胸がキツいの、今だけ勘弁してねなんて口にしてドレスに着替えるヴィルヘルム。着替え終わったエリザベータが戻ってくる。
「なんかダボいけどまだマシか……って、おま」
 硬直するエリザベータの視線の先には、黒いロングスリットのドレス姿のヴィルヘルムが。
「どう? 前に作ったけどイメージ合う子が居なくて保管してたの。……なんだか照れるわね」
 返す言葉をエリザベータが見つけ出す前に、ヴィルヘルムは言葉を続けた。
「ねえ、お願いがあるんだけど、甘えてもいい?」
 女は男に頼りたいものよ、とヴィルヘルムは笑う。
「甘えたいって……別にイイけど。じゃあ、膝枕してやっから」
 言って、エリザベータはヴィルヘルムをソファへと誘った。エリザベータの膝に、嬉しそうに頭を預けるヴィルヘルム。
「ふふ、角が刺さらないように気をつけるわ」
 ふにゃりと幸せ笑顔を浮かべるヴィルヘルムを見て、エリザベータは思う。
(こ、これもウィルの独占欲の内かな……なんか意外なトコ見れたかも)
 ディアボロの尻尾も、機嫌良さげにゆらゆらと揺れている。猫みたいだとエリザベータは思った。そして、密かニヤリと笑う。
(こっそり触ってみっか)
 えいとばかりに尻尾に触れれば、「きゃあ!」と声を上げてヴィルヘルムが跳ねた。
「し、尻尾は敏感なのよっ……」
 真っ赤になるヴィルヘルムの反応に、
(し、尻尾弱いのか……可愛いな)
 と、エリザベータは胸をドキドキさせたのだった。

●テニス勝負に愛を賭けて
「よっしゃ! テニスやテニス! みゆと打ち合い、楽しみやなぁ」
 ストリートテニス場にて。うきうきと声を弾ませる五十嵐晃太に、吉坂心優音はふんわりとした笑みを向ける。
「ねぇ、晃ちゃん。テニスの前に、あそこのベンチで一緒にビスケット食べよ♪」
 心優音が取り出したるは件のビスケット。その存在を知らない晃太が顔を輝かせた。
「おっ、美味そうなビスケットやん! おおきに、みゆ♪」
 という次第で、ベンチにて同時にビスケットを口にする2人。
「あ、因みにこれ食べたら性転換するんだって~」
「へぇ性転か……はい? みっみゆさん? 今なんとおっしゃいました……?」
 心優音の口からとび出した穏やかでない単語に、晃太の頬を汗が伝う。そんな彼の目の前で、心優音はどこか不思議な雰囲気を纏った甘いフェイスの美男子に! 細身ながらも引き締まった体躯のイケメンが、ゆるふわショートヘアを揺らしてぱああと顔を輝かせた。
「晃ちゃん、美人……!」
 その言葉に、晃太は慌てて自分の身体を確認する。適度に筋肉の付いた身体は幾らかの華奢さを帯び、その代わりのように大きく膨らんでいる胸。ちなみにEカップ。髪もロングヘアになっていた。ボーイッシュな美人女子に変身してしまった晃太、頭を抱える。
「何でや……何でこないなことに……!」
「晃ちゃん、ジャージ交換して着替えよ?」
 嘆く晃太を尻目に、動き辛くって……と心優音がマイペースに言った。

「あんたらえぇ加減にしぃや!? 俺は行かん言うてるやろ!? しつこいで!」
 叫び声に気づいて、心優音は急ぎ晃太の元へと駆け戻った。当初の目的通りテニスを楽しんでいた2人だったが、心優音が飲み物を買いにコートを離れたその短い間に事件は起こる。心優音のシュシュを借りて髪をポニーテールに纏め更に可愛くなった晃太が、如何にも軟派そうな男たちに囲まれていた。晃太に触れようとした男の手を、ぱしりと掴む心優音。
「ねぇお兄さんたち僕の彼女に何してるのかな? つぅか汚い手で晃ちゃんに触んなよ」
 黒い笑みを浮かべて言うも、男たちは怯まない。ゾクリと身を震わせ顔を青くしたのは晃太の方だ。
(ぎゃぁぁぁみゆの背後に邪神降臨なさってるー! 俺は知らん何も知らん!)
 等と晃太が内心涙目になっているうちに、男たちは心優音にテニス勝負を迫ったらしい。
「へぇテニスで勝負? 良いよ、受けて立とうじゃん」
「み、みゆ……」
「大丈夫だよ晃ちゃん、絶対に負けない。……僕の晃ちゃんに手を出したんだ、後悔させてやる」
 覚悟しろ、と心優音は声音を低くして呟いた。

「ゲームセット、だね。それともまだやる?」
 テニスで叩きのめされた上に怖いような笑みを向けられて、軟派男たちは捨て台詞さえ残さずに逃げていった。元よりテニスの心得のある心優音だが、男体化したことで身体能力も上がっているらしい。息を詰めて試合の行く末を見守っていた晃太が、安堵の息を漏らす。常のおっとり笑顔に戻った心優音が、晃太の元へと戻ってきた。
「お疲れさま、みゆ。おおきに」
「晃ちゃんが応援してくれてたんだもん、負けるはずないよ」
「うん、信じとった」
 そう言って、晃太ははにかんだような笑みを零す。そして、「耳貸して」と心優音に囁いた。
「なぁに?」
 今、心優音の身長は172cm。対する晃太は160cmだ。晃太のリクエストに応えて心優音がそっと首を傾ければ――その頬に、掠めるような口づけが落ちた。
「ありがとうの気持ちや」
 目を見開いた心優音へと晃太が恥ずかしそうに言う。それは、今彼が女の子になっているからこそ、守られる立場だったからこそ出来た少し大胆な行為。心優音は照れたように笑い、そして思った。
(晃ちゃんは誰にもあげない……あたしのものだよ)
 碧の瞳を細めて真っ直ぐに晃太を見る心優音。晃太は晃太で、
(みゆイケメン過ぎ! もっと好きになったっちゅうねん!)
 なんて、心優音への想いを重ねるのだった。

●もしもの世界
「『性別逆転ビスケット』……面白い物を手に入れてしまったわっ」
 自邸内にて。ハート形の2枚のビスケットを手に、アリシエンテはひとりそう呟く。2枚買い求めたのは、勿論パートナーに食べさせるためだ。自然と弧を描く口元。
「今日のティータイムにはこれに似た形状のクッキーを用意させましょう。服が大変なことになってしまうから外で食べるのは危険よねっ」
 そうと決まれば行動あるのみだと、アリシエンテはいそいそとビスケットを隠すと、早速エストを呼び出したのだった。

 そして、アリシエンテが待ちに待ったお茶の時間。
(一体何が起こっているのでしょうか……)
 エストは冷静に思案する。アリシエンテがティータイムのお供にクッキーを所望したところまでは特に問題なかった。やたら細かくサイズや形状を指定してきたところから察するに、彼女による何らかの計略はその段階から既に始まっていたのだろうとは思われるが……。とにかく、エストは主の望むままに彼女の希望に叶うブランド物のクッキーを用意した。滞りなくティータイムの準備は進み、完璧な紅茶を主に提供するべく、エストはそちらへと意識を集中させ――。
(そこまでは良い、そこまでは良いのですが……)
 今、エストの口元には、ハート形のクッキー(に、隙を見てアリシエンテが混ぜ隠した件のビスケットだ)が彼女自ずからの手によってそっと運ばれている。アリシエンテは笑顔だが、目が笑っていない。どこまでも本気である。
「ちょっとエスト。どうして食べないのかしら?」
「口元まで運ばれると、もはや毒が入っているとしか思えません」
 怖いような笑みを浮かべたアリシエンテの問いを、エストはきっぱりと切り捨てる。だが。
「……エスト」
「はい」
「食べなさい」
 エストは心内で嘆息した。そして、
「食べますが……ええ、主の命ですから食べますが……!」
 意を決したようにビスケットを口にする。満足げに微笑んだアリシエンテが、自分もビスケットを口に運んだ。一気に変わる2人の姿。
「身長が……」
 エストが金の目を瞠る。彼――今は彼女だ――の身長は随分と縮んでいた。その身長、160cmとちょっと。一方のアリシエンテは、目線の変化を実感すると共に、男性になったことで心が凪いだように落ちついているのを感じていた。自らの身体を観察するアリシエンテ。
「そうか、私だと身長がエスト並みに大きくなるのか。髪も身長分伸びているようだが……」
 と、背に流れる金糸の髪に手を伸ばした瞬間。ビリッ! と着用していた衣服が動きに堪えかねたように悲鳴を上げた。
「服ー! エスト、父の服を何でも持ってきてくれ!」
「よろしいのですか?」
「構わない。エストには母の服を貸し出そう」
「それでは……畏れながらもお言葉に甘えさせていただきます」
 謎の状況に戸惑いながらも、エストは恭しく頭を下げる。そうして彼女は、主と自分の為の服を用意しに向かった。

「……服のことをすっかり忘れていた。これは外でやらないで正解だったな」
 服を着替えたアリシエンテが安堵の息を吐く。ちなみに、ここまでに事情はエストに説明済みだ。
「それにしても、自分よりも小さなエストが見れるとは……」
 アリシエンテ、目の前のエストの変わりっぷりを眺め――胸の辺りの変化に目を留めて曰く。
「絶壁だな……」
「絶壁、ですか?」
「ああ、腹立たしいほどに絶壁だ」
「……褒め言葉として受け取らせていただきます」
 一礼するエスト。そんなエストを見てアリシエンテはおもむろに立ち上がると、そっと彼女の身体を包み込むように抱き締めた。
「……逆ならば、恋心だなんて隠そうとしなかった」
 切ないような響きを帯びたアリシエンテの言葉。それに応える為の正しい台詞が、エストには分からない。だからただ、アリシエンテの腕の中でエストは沈黙する。これが正しい姿であったなら全て上手くいったのかもしれないと、そんな想いが2人の頭を過ぎった。

●隣に居る人
 A.R.O.A.の宿泊施設に暮らすひろの。その部屋の中、鏡の前でひろのは浅くため息を漏らす。鏡に映るのは、件のビスケットを食べて変身した自身の姿。鏡の中にいるのは普通の体型の男の子だ。例えば――そう、彼女のパートナーであるルシエロ=ザガンのような、しなやかな筋肉は持ち合わせていない。
(男になっても、これじゃ足手纏い)
 鏡の中の少年が、こげ茶の瞳を曇らせる。と、その時。
「おい、ヒロノ」
 ドアの向こうから耳慣れた声がした。びくりとするひろの。
「ルシェ、何で……」
 思わず零した呟きは、声変わりを終えた男の子の声だった。けれど、そんなことに驚いている余裕は今のひろのにはない。
(今日何も無い、はず。来るなんて聞いてない)
 戸惑いが胸を過ぎる。今ここにルシエロの知っている『ひろの』はいないのだ。
(食べたばっかりだし、いつ戻るか……)
 どうしよう、と知らずひろのは息を詰める。その頃部屋の外では、ルシエロがひろのがいつまで経っても出てこないことを訝しんでいた。元よりどこか気落ちした様子のひろのを気に掛けての来訪だ。焦燥に似た何かがルシエロの胸を過ぎる。
「ヒロノ?」
 試しにドアノブに手を掛ければ、何の抵抗もなしに開くドア。タンジャリンオレンジの双眸が、ドアの方へと手を伸ばした体勢でフリーズしている少年を捉える。ひろの、鍵を閉め忘れていることに気づいたが、ルシエロがドアを開ける方が早かったのだ。見知らぬ少年の姿に、ルシエロが眉根を寄せた。
「誰だ」
 ルシエロの問いを、当たり前だとひろのは思う。けれど、冷えた声音が寂しかった。僅か曇ったその表情に既視感を覚えるルシエロ。覚えがある。あの寂しげな顔は――。
「ヒロノか?」
 確かに名を呼ばれて、ひろのは驚きに目を見開いた。
「何で」
 言ってないのに、わかるの? と最後まで問う必要はなかった。彼女の反応は、ルシエロに目の前の少年はひろのだと確信させるのに十分で。
「入るぞ」
 とひろのの返事を待たずにルシエロが部屋へ足を踏み入れる。ルシエロがこの部屋に入るのは初めてだ。何だか落ち着かず、そわそわするひろの。物の少ない部屋を見回してルシエロが言う。
「淡白な部屋だな……それで、どういう状況だ?」
 予備のビスケットを手に取って、ひろのは事の次第をルシエロへとつっかえつっかえ説明した。
「成る程な」
 と口の端を上げたルシエロが、ひろのの手からビスケットを抜き取り躊躇なく口へと運ぶ。
「え、食べ……」
 驚くひろのの前で、見る間に変わっていくルシエロの姿。グラマラスながらも引き締まった身体を持つ美女に変身したルシエロが、ちらと鏡を見やって薄く笑った。
「ふむ、悪くはない」
 Eカップの胸が揺れる。艶っぽいその姿と元の自分をつい比べてしまい、密かに少し落ち込むひろの。
「どうした?」
 ひろのの表情の微妙な変化に目聡く気づいて、ルシエロがひろのの方へと向き直る。今のひろのは169cmの男の子、ルシエロは173cmの女性だ。いつもより近い目線にひろのが気を取られている隙に、ルシエロは面白半分といった様子でひろのに抱きついた。再びフリーズするひろの。身を離したルシエロが笑う。
「女になっても駄目か」
 男とか女とかそういうのではないのだと思うも、上手く言葉にできないひろのだった。

 20分も経った頃には、ルシエロは元の姿に戻っていた。しかし、ひろのの変身はまだ解けない。
「ヒロノ。何故オマエは元に戻らん」
「あ……私、薬とか効きやすいから。その所為だと思う」
 そのことを知っていて食べたのかと呆れながらも、そんなひろのを放っておけないとルシエロは思う。
(長居は礼を失するが、目が離せないな……)
 長期戦の構えで椅子に腰を下ろせば、ひろのが不思議そうに首を傾げた。
「オマエが戻るまではいる」
 と告げると、にわかに曇るひろのの表情。
(私といるから怪我してるのに。何で、ルシェは……)
 その表情の変化を、ルシエロは見逃さなかった。

●今は貴方の腕の中
「ヒャッハーッ! 狙い通りだよぉ!」
 アパートの自室にて、ラダ・ブッチャーは思わずガッツポーズを決めた。鏡に映るのは巨乳の褐色ギャル。件のビスケットは、彼にとって天からの恵みだった。
「自分が女になれば胸触り放題だもんねぇ。我ながら天才的な思いつきだよぉ」
 鏡の中の美ギャルの口元が緩んでいる。その豊満な胸へとラダはゆっくりと手を伸ばし、その掌が柔らかな果実に触れ――ようとしたまさにその瞬間、玄関のチャイムが鳴った。
「ウヒャァ……もう、タイミング悪いなぁ」
 やや拍子抜けしながらも、ラダは玄関へと向かいドアを開ける。来客は、黒基調のゴシックファッションに身を包んだ不健康な印象を与える青年だった。
「……えっと、どちらさま?」
 こんな知り合いはいないはずだ、けれどどうにも目の前の青年を知っているような気がすると首を傾げるラダ。青年が、ゆるり口の端を上げた。
「おや、ラダさんも異性に変身していたのですか。うふふ、奇遇ですね。丁度良いです」
 その笑みと物言いは、ラダに馴染みの相手を思い起こさせて。恐る恐る問いを零すラダ。
「……もしかして、エリー?」
「うふふ、ご名答です」
「じゃあエリーもビスケット食べたんだぁ……」
「ええ。男性の体になれば、少しは力が向上するだろうかと思いまして。ところでラダさんは何故……いえ。まあ、尋ねないでおいてあげましょうか」
 思考パターンを読まれているような居心地の悪さを感じつつ、ラダはとりあえずエリーを部屋へと招き入れる。ありがとうございますとエリー。
「それで? エリーはその姿でボクにどんな用事なの?」
「この力でやっておきたいことがありまして。ラダさん、お姫様抱っこをさせてください」
「へ? エリーがボクをお姫様抱っこぉ?」
 ラダ、予想外の答えに金の目を丸くして思わず素っ頓狂な声を上げる。とりあえずエリーにお姫様抱っこをされているところを想像してみて――ラダは難しい顔を作った。
「えー。やっぱりヤダよぉ。恥ずかしい……」
「おや、嫌ですか。唐突な頼みでしたね。理由を説明します」
 言うや、ラダの目前に跪くエリー。銀の瞳が、真っ直ぐにラダの目を見つめた。
「本来争いを好まないあなたを積極的に戦わせているのは、私のワガママです。戦いでラダさんが重症を負っても、貧弱な私の力ではあなたの巨躯を抱き上げ安全な場所まで運ぶことは困難でしょう」
 情けないことですが、とエリーは言い添える。エリーの静かな口調の中に、ラダは真摯でひたむきな情熱が秘められているのを感じ取った。そこに、ふざけるような色は一切感じられない。
「お願いします。今はせめて、私の力であなたの体を支えさせてください」
「……そこまで言うなら、頼みをきいても良いよぉ。お姫様抱っこ」
 真っ直ぐな言葉に、ラダは目を逸らして首の後ろを掻く。諾の返事で応えれば、礼の言葉と共に白い腕がラダへと伸びた。宝物を扱うような丁重な手つきで、エリーはラダを抱き上げる。その腕の中で、ラダはソワソワとした。
(何だか落ち着かないよぉ。今まで誰かからこんなに大切にされたことなんてなかったなぁ……)
 それこそお姫様のような扱いは酷くくすぐったかったけれど、温かく、心地良くもあった。ラダは緊張に固くしていた身体から力を抜き、エリーに身を委ねる。
(変なの。ドキドキするけど安心してる。不思議な気持ち)
 くすり、とラダは小さく笑った。エリーが静かに目を伏せる。
「本当に……いつもこうして、あなたを支えるだけの力があればいいのですが」
「もう、エリーってば気にしすぎだよぉ」
 己は大丈夫だというふうに人懐っこく笑うラダに釣られるようにして、エリーもまた仄か笑みを重ねるのだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:アリシエンテ
呼び名:アリシエンテ
  名前:エスト
呼び名:エスト

 

名前:エリー・アッシェン
呼び名:エリー
  名前:ラダ・ブッチャー
呼び名:ラダさん

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: キーコ  )


( イラストレーター: 越智さゆり  )


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月14日
出発日 11月21日 00:00
予定納品日 12月01日

参加者

会議室

  • [8]吉坂心優音

    2014/11/20-22:27 

  • [7]アリシエンテ

    2014/11/17-23:00 

    (スタンプはただ押してみたかっただけのもよう)
    エリーさん以外は初めましてねっ。アリシエンテと言うわ。皆様何卒宜しくっ。

    とは言っても……
    (クッキー2枚を持って、珍しく腹黒い笑みを浮かべている!)

  • [6]エリー・アッシェン

    2014/11/17-22:32 

    ラダ・ブッチャー

    ヒャハーッ! ボクはこのビスケットを食べて褐色爆乳ギャルになるんだ!
    そうすれば好きなだけ自分で自分を触り放題ッ! まさに天国ッ!!



    エリー・アッシェン

    おや、お下品……。
    精霊が失礼しました。皆さま、どうぞよろしくお願いします。

  • [5]エリザベータ

    2014/11/17-16:51 

    ウフフ、ウィルヘルムよぉ。皆よろしくね♪
    あんな感じでエルザちゃんにドッキリを仕掛ける予定よ。
    殴られそうな気がするけどワタシのナイスバディで沈黙させちゃうもんねーだ。

    みんなの変身も楽しみにしてるわよ!

  • [4]エリザベータ

    2014/11/17-16:49 

    うぃーっす、エリザベータだぜ。よろしくな。

    なんかうちのバカ(精霊)がクッキー寄越してきたんだけど。
    良い茶葉もらったから茶菓子にしようと思うけど……

    あ?性別が変わる?…HAHAHA、そんなバカな(ry

  • [3]ひろの

    2014/11/17-14:29 

    ……ひろのです。よろしくお願いします。
    (手元の2枚のビスケットを眺める)

  • [2]アリシエンテ

    2014/11/17-12:11 

  • [1]吉坂心優音

    2014/11/17-11:14 

    心優音:
    アッシェンさん達はお久しぶりです!
    他の方々は初めまして!
    吉坂心優音と五十嵐晃太でーす♪
    よろしくお願いしますねぇ(ニコ
    あたし達、二人共食べるので性別逆転するんですよ~
    うふふふふふっ晃ちゃん可愛い~♪

    晃太:
    何故、何故俺は最近こないな目にあわんとアカンのや…(膝から崩れ落ちる
    なしてあの時疑いもせず食べたんや…っ(泣き崩れる


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