プロローグ
紅月ノ神社の庭では、紅葉が真っ赤な色に染まっていました。
「テンコ様ー!」
一人の妖狐の青年が、『企画書』と書かれた紙を手に、テンコ様の所を訪れます。
「なんじゃ、波留(はる)か。そんなに慌ててどうしたんじゃ?」
のんびりと三時のおやつを楽しんでいたテンコ様は、目を丸くして青年を見上げます。
「あ、三時のおやつ中でしたか、すみません!」
波留と呼ばれた青年は、ぺこりと頭を下げました。
「だいじょーぶだよ、サボってお茶してただけだから……アイタ!」
妖狐のシバが明るく言うと、テンコ様はポコリとその頭を殴ってから、波留の手元を見つめます。
「きかくしょ?」
「はい! 境内の紅葉が色付いて来ましたから、是非ウィンクルムの皆様を招待したいなって思いまして」
波留は明るい笑顔で、テンコ様へ企画書を差し出しました。
ウィンクルム達の元へ、紅葉狩りの招待状が届いたのは、その数日後です。
『紅月ノ神社で紅葉狩り
朝夕冷え込み、遠くの山々も澄みきった青空に映える季節となりました。
皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。
このたび、紅月ノ神社で紅葉狩り開催することにしましたので、ご参加いただきたく、皆様へご案内を差し上げました。
紅月ノ神社の境内、および茶室にて、のんびりと紅葉を鑑賞して頂けたらと思います。
ささやかですが、茶と和菓子もご用意して、皆様をお待ちしております。
ご都合がつきましたら、是非お立ち寄りください。
場所:紅月ノ神社の境内、および茶室
会費:お一人様 150Jr(当日受付にて申し受けます)
心よりお待ちいたしております。
敬具』
解説
紅月ノ神社で紅葉狩りを楽しんで頂くエピソードです。
皆さんは、波留の招待状を見たとの事で、紅葉狩りへご参加ください。
時間帯は、お昼~夜まで。
昼に鑑賞するか、夜に鑑賞するか、お好きな時間帯を選んで下さい。
ミニ茶会として、お茶とお菓子の用意もあります。
茶室で楽しめますが、堅苦しい事はなしで、正座を崩してお楽しみ頂けます。
(勿論、茶室からも紅葉を鑑賞頂けます。)
食べたい和菓子があれば、プランに明記頂けますと幸いです。
お茶は、濃茶と薄茶があり、以下の仕組みです。
濃茶は、数人で飲み回します。
薄茶は、一人一碗ずつで飲みます。
なお、参加費用として、お一人様「150Jr」(パートナーと併せて300Jr)掛かりますので、あらかじめご了承ください。
<登場NPC>
波留(はる):受付、および皆様のお世話役をします。年若い茶道を愛する青年妖狐です。
ゲームマスターより
ゲームマスターを務めさせていただく、『秋大好き!紅葉狩り大好き!』な方の雪花菜 凛(きらず りん)です。
以前お茶会をした紅月ノ神社で、今回は紅葉狩りなエピソードです。
紅葉を眺めながら、ゆっくりパートナーさんと散歩するもよし、茶室でお喋りするもよし、お好みで自由に楽しんで頂けたらと思います♪
皆様の素敵なアクションをお待ちしております!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
木之下若葉(アクア・グレイ)
時間は夜。辺りが暗くなってから ほら、紅葉って昼間に眺める事が多いから 暗くなってから見る姿はどんなものだろうかと思ってさ 波留さん、お招き頂き有難う御座います 声をかけて正座で座る お茶は薄茶を頂いて、お菓子は練切 形が可愛いよね お茶の合間に覗いた窓の外は 夜空が窓枠に切り取られてしまったようで 不思議だな、なんて ご馳走様でしたと伝えて 帰りがけの紅葉狩り 窓枠が無い景色はまた違った顔をしていて やっぱり不思議 それにしても青空にも映えるけれど 濃紺にも映えるんだね 真っ赤で燃えているみたい その窓から何時もと違う俺は見えた? …アクアの言葉って凄く真っ直ぐだよね ん。外が暗くて良かった 紅葉の事、紅いなんて言ってられないもの |
羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
昼のお茶会へ参加 お招き頂き有り難う御座います、波留さん 俺は薄茶を頂こうかな、ラセルタさんは? 気兼ねなく足を崩して参加 ずっと正座で構えて居られる人を尊敬するよ… 間近で紅葉狩りを楽しもうと精霊を誘って境内へ 美しい朱色や黄色の絨毯を眺めながら歩く この辺りで、ゆっくり景色を堪能しようか 貰って来た串団子を相手に差し出し、ひと休憩 初めての紅葉狩りはどう? 楓や銀杏が綺麗だね。色とりどりで賑やかで 夏に二人で此処へ来たのがつい最近の事みたいだ この葉も、直に枯れて落ちてしまうのかな 後ろ向きな言葉たちに何処か心寂しさ覚え、相手に背を向け ……次は雪見なんて良いかも知れないね その時はまた、ラセルタさんと見に来たいな |
スウィン(イルド)
波留、久しぶり~!お招きありがと。今日もよろしくね♪ 花もいいけど団子もね♪ って事で、最初は茶室で和菓子を食べながら鑑賞しましょ …正座する?(イルドを見てにやり) はいはい、今日は足崩しましょ(くすくす) 紅葉綺麗ね~。夜は昼とはまた別の良さがあるわ 食べ終わったら散歩に行きましょうか (落ち葉を踏む音を楽しんだり紅葉をつんとつついたり) こうやって歩くと更に近くで見れていいわね あ、ちょっと動かないでね (イルドの頭についてた葉を取り指でくるくる回して眺める) ふふ、ついてたわよ~ もうすぐ冬ね。あっという間に感じるわ 秋や冬って、何だか寂しい感じがするわよね (でも隣にイルドがいるから)…そうでもないかしら? |
瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
外で紅葉を観に行きたいが・・・・・・。 茶室からでも観られるなら、お茶も出来るから一石二鳥だよな? 茶室で濃茶を飲みながら、夜の紅葉を目で楽しみたい。 和菓子は、羊羹を希望。 用意されたら、乗せる為のポケットティッシュを取り出し、 参加者全員に一枚ずつ配りましょう。 「この茶葉、どこから仕入れているんですか?」 足が痺れるまでは、出来るだけ正座。 濃茶を少しずつ飲みながら、紅葉を観賞。 この時、茶室に他の参加者がいるなら、 濃茶や紅葉の事を話題にして場を盛り上げたい。 (会話術スキル使用) とはいえ、思えばあの茶会。 もし、お前と二人っきりだったら、間接で接吻してたな。 「珊瑚。その接吻、ちゅらかーぎーの為に取っておけ」 |
ダニエレ・ディ・リエンツォ(ジョルジオ・ディ・リエンツォ)
お昼に紅葉狩りをしましょうか 夜の紅葉も素敵なのですが、ジョルジオにはいつも21時に寝かせるようにしてますので。 紅葉が落ちるさまはきれいで見とれてしまいますね… そうだ、ジョルジオ、手を出してください …紅葉より、ジョルジオの手のほうが大きいですね…いつの間にか 紅葉はね、赤ちゃんの手にしばしば例えられるんですよ 僕はもう赤ちゃんじゃない?…ははは、そうですね、ごめんなさい ですが…ジョルジオをオーガの襲撃から助け出したとき ジジョルジオの手は確かにこの紅葉と同じ大きさでした 子供の成長は早いものです… 彼がもうさみしい思いをしないのが私の願いです 10年後も20年後も、一緒にここの紅葉を見ましょうね |
●1.
紅月ノ神社に、鮮やかに秋が色付いている。
「もみじーはじめてみるよ」
ひらひらと舞い落ちる紅に手を伸ばして、ジョルジオ・ディ・リエンツォは大きく瞬きした。
舞い落ちる落ち葉で、境内の地面も紅葉一色に染まる様は、この世のものではないように思える。
「きれいで見とれてしまいますね……」
ダニエレ・ディ・リエンツォは穏やかに瞳を細めて、色付く木々を見上げた。
夜の紅葉狩りも捨て難かったが、ジョルジオに夜更かしをさせる訳にはいかない。
そのため、昼の時間帯を選んだのだが……晴れた秋空に、紅葉の紅は良く映える。
「ぼくがすんでいたところは、ずーっとたいらできとかぜんぜんはえてなかったの」
ダニエレの隣をタタッと駆けて、ジョルジオは物珍しそうに枯葉を踏む感触を楽しむ。
「そうなんですか。ふふ、枯葉を踏む感触は面白いですよね」
ザクザクと二人で枯葉を踏めば、ジョルジオの瞳がキラキラ輝いた。
そんな彼の頭にはらはらと舞い散る紅に手を伸ばせば、真っ赤に染まった葉がダニエレの手に収まる。
「そうだ、ジョルジオ、手を出してください」
「なぁに? おとうさん」
ジョルジオは不思議そうにしながら、ダニエレに手を差し出してくる。
その手に紅葉を乗せて、ダニエレは微笑んだ。
「……紅葉より、ジョルジオの手のほうが大きいですね……いつの間にか」
「? どうしてもみじとくらべるの?」
首を傾けるジョルジオへ、更に笑みを深める。
「紅葉はね、赤ちゃんの手にしばしば例えられるんですよ」
小さくて可愛いでしょう?
そう言うダニエレに、ジョルジオの頬が風船のように膨らんだ。
「おとうさんはまだぼくをあかちゃんあつかいするけどね、ぼくはもうあかちゃんじゃないんだよ!」
びしっと指差して主張する。
「ちょっとせがのびたし……もじもかけるようになったし、あと……えーと……」
ジョルジオは眉根を寄せて空を見上げ、
「まあいいや」
細かい事はよいとばかりに、掌に乗せられた紅葉を摘んでじっと見る。
自分がこんな小さな手だったなんて、実感が湧かないという顔だ。
「もう赤ちゃんじゃない……ですよね。ははは、そうですね、ごめんなさい」
ダニエレは頬を掻いて笑う。
そう、彼は随分と大きくなった。
ジョルジオをオーガの襲撃から助け出した時、彼の手は確かにこの紅葉と同じ大きさだった。
無我夢中で掴んだ、小さな小さな手。
あの手の感覚は、未だにこの手に残っていて。
(子供の成長は早いものです……)
今の彼に、出会った時の彼の姿が重なって、ダニエレは瞳を伏せた。
彼の涙は、もう見たくない。
どうか、この笑顔が曇る事がないように。
彼がもう寂しい思いをしない事。それが、ダニエレの願いだ。
「もみじかりってもみじをかるのかな?」
ジョルジオの声に顔を上げれば、彼は一際大きな紅葉の木を見上げている。
「かりならしってるよ。えいえい!」
ぴょんぴょんとジャンプして、紅葉を取ろうとする彼に笑い、ダニエレは歩み寄った。
「ほら、こうしたら……沢山とれますよ」
ジョルジオを肩車すれば、わぁっ♪と楽しそうな声を上げる。
「よーし、いっぱいとるぞー!」
わさわさわさ。
手で掬えるだけ、紅葉を採って。
「おとうさん、いっぱいとれたー!」
自慢気に笑う頭をダニエルの手が撫でると、ジョルジオに幸せそうな笑顔が広がる。
「とれたもみじ、おいしそう」
「え?」
ぱくっ。もぐもぐ。
止める間もなく、ジョルジオは紅葉を口に含んだ。
「た、食べるものじゃないですよ!」
「……む、ぺっぺっ。おいしくなーい」
苦い顔で吐き出す彼に、ハンカチを差し出しながら、ダニエレは眉を下げる。
「なんかおなかがすいたみたい」
お腹を擦ってジョルジオが見上げれば、ダニエレは小さく息を吐き出してから微笑んだ。
「それじゃあ、お団子を食べてから、狩りを再開しましょうか」
「! うんっ」
三色団子を仲良く分けて食べながら、二人は秋の景色を楽しむ。
●2.
夏に訪れた時とは、また趣の違う景色。
「お招き頂き有り難う御座います、波留さん」
羽瀬川 千代は穏やかに微笑んで、ぺこりと頭を下げた。
「お二人にまたお会い出来て嬉しいです」
頬を紅潮させた波留がお辞儀を返せば、ラセルタ=ブラドッツが口の端を上げる。
「夏の茶会は非常に有意義な時間だった。今回も千代共々、世話になるぞ」
「はい! どうか楽しんでいって下さいね!」
嬉しそうに尻尾を揺らす波留に案内され、千代とラセルタは茶室へと上がった。
茶室の開放的な窓からは、境内が良く見える。
夏の夜の風景も美しいものだったが、青い空に揺れる紅はまた絵画のように美しかった。
「お茶は如何ですか?」
景色に見惚れる二人へ、波留が笑顔で問い掛ける。
「俺は薄茶を頂こうかな、ラセルタさんは?」
「俺様は濃茶を貰おうか。苦さも含め気に入った」
「畏まりました」
波留がお茶の用意を始めるのを横目に、ラセルタは座布団に確りと正座をした。背筋を伸ばした綺麗な姿勢だ。
「足を崩して楽になさって下さいね」
そう波留の声が響けば、千代は気兼ねなく足を崩す。クスッと隣でラセルタが肩を揺らした。
「正座は苦手か?」
「ずっと正座で構えて居られる人を尊敬するよ……」
眉を下げて千代が答えれば、フフンと鼻で笑う。
「お前が望むなら躾けてやってもいいが」
「今日は遠慮しておくよ。美味しくお茶を頂きたいから」
「お待たせしました」
そんな二人の前に、茶碗が置かれた。
「有難う御座います」
「早速頂こう」
茶碗を手に取り、作法通りに回して口を付ける。
「甘くて美味しい……」
「うむ、この苦味は良い」
抹茶の美味しさに二人の表情が柔らかく溶けた。波留はニコニコその様子を眺めつつ、茶菓子を運んでくる。
「宜しければ、召し上がって下さい」
「わぁ……お菓子も秋、なんですね」
「見ているだけで胸が踊るぞ」
紅葉のこなし菓子、栗餅に亥の子餅。目にも鮮やかな和菓子に、甘党の二人は目が釘付け。
「……」
どちらからともなく顔を見合った。
「半分こしようか、ラセルタさん」
波留から菓子切りを借りて、二人は茶菓子を半分こしながら、のんびりとお茶を楽しむのだった。
お茶と茶菓子を楽しんだ後、千代はラセルタを誘うと、茶室を出て境内へと向かった。
流れる小川と紅葉が美しいコントラストで二人を出迎える。秋の澄んだ空気も心地よい。
空間を彩る朱色と黄色を、同じ色の絨毯を、千代は眺めながら歩く。
ラセルタは、紅葉に目を惹かれた千代が転ばないよう、その後姿を見ながら歩く。
静かな境内には、二人の歩く音と息遣いだけ。
「千代」
不意に、ラセルタが距離を詰めると千代の腕を掴んだ。
「ラセルタさん?」
隣に並んだラセルタが、千代を見下ろす。
「初めての紅葉狩りなのだから急く必要は無いだろう?」
「うん、そうだね」
そこからは歩幅を合わせて。二人のんびりと秋の景色の中を歩く。
「この辺りで、ゆっくり景色を堪能しようか」
境内の奥までやって来ると、千代は大事に持っていた包みから、串団子を取り出した。波留から貰って来たものだ。
「はい、ラセルタさんの分」
差し出せば、ラセルタの顔が近付いて、そのままパクリと団子を口に入れる。
自分で串を持とうとしない彼に瞳を細めて、千代は問い掛けた。
「初めての紅葉狩りはどう?」
「悪くはない、薔薇等とはまた違った赤だな」
「楓や銀杏が綺麗だね。色とりどりで賑やかで」
団子を飲み込んでから、ラセルタは千代の視線を追って、周囲を見渡した。
「夏に二人で此処へ来たのがつい最近の事みたいだ。……この葉も、直に枯れて落ちてしまうのかな」
そう呟くように言った所で、千代は口を噤む。どうしてか、自分の放った言葉に心寂しさ覚えた。
過ぎ往く時は矢のように早くて。こうしてラセルタと過ごす日々も、いつかは儚くなってしまうのではないかと。
千代は堪らずラセルタに背を向けた。きっと、凄く情けない表情をしているに違いないから。
ふわりと、髪に何かが触れた。
振り向かなくても分かった。彼の指が触れたのだ。
ゆっくりと丁寧に、ラセルタの指が、千代の髪に絡まった紅葉を払っている。
「……次は雪見なんて良いかも知れないね」
その心地良い感覚に瞳を伏せながら、千代の口からそんな言葉が零れ出た。
「その時はまた、ラセルタさんと見に来たいな」
振り返って微笑む。
ラセルタは小さく目を瞠ってから、瞳を細めた。
「……俺様は、紅葉を散らす様は嫌いじゃないな」
少し冷たい指先が、千代の赤くなった頬に触れる。
彼の言葉の意味を理解して、更に千代の顔が赤くなるのに、ラセルタは笑ったのだった。
(季節の巡りが如何に早くとも、共に過ごす相手が千代であればそれで良い)
●3.
辺りが闇に包まれる時間帯、3組のウィンクルムが茶室の扉を叩いた。
「波留さん、お招き頂き有難う御座います」
「今日はお世話になりますね!」
木之下若葉とアクア・グレイが、ぺこりとお辞儀をすると、
「波留、久しぶり~! お招きありがと。今日もよろしくね♪」
「よう……今日もよろしく」
スウィンが明るくウィンクして、イルドが軽く会釈。
「宜しくお願いします」
「宜しくな!」
瑪瑙 瑠璃が礼儀正しく一礼し、瑪瑙 珊瑚が笑顔で片手を上げた。
「皆さん、ようこそいらっしゃいました!」
波留の狐耳がピコピコと揺れて、嬉しそうにウィンクルム達を茶室の中へも招き入れる。
「わぁ……凄く綺麗な眺めですね!」
開放的な窓から見える、幻想的な秋の夜の風景に、アクアが声が上げて窓へ歩み寄った。
「ホントねぇ~♪ 茶室の灯りに照らされて、綺麗だわ」
スウィンも感心した様子で、窓の外ではらはらと落ちる紅葉に見惚れる。
イルドはそんなスウィンを、少しだけ不思議そうに見つめた。
「夜空が窓枠に切り取られてしまったみたいだね」
アクアの隣、窓枠へ手を付いた若葉が呟く。
「不思議だな、なんて」
「後で外にも行ってみましょうね、ワカバさん」
アクアが若葉を見上げて微笑んだ。
「うん、やっぱりお茶も出来るから一石二鳥」
瑠璃は顎に手を当てて、小さく頷いた。
外で紅葉を眺めるのもよいが、茶室からでも観られるなら……と、瑠璃は珊瑚を茶室へ誘ったのだ。
一方珊瑚は、窓からの景色にソワソワと肩を揺らしている。
外に出たらもっと凄いに違いない!
そんなウィンクルム達を微笑んで見つめながら、波留が茶菓子を並べていく。
柿を形どった練切に、紅葉の形の栗落雁。
栗入り小倉羹と琥珀羹に、羊羹で作った紅葉を閉じ込めた、美しい羊羹。
月のように美しい栗が無数に入った、栗蒸し羊羹。
秋の淡黄色、栗きんとんを茶巾で絞った栗の茶巾絞り。
「美味しそうねぇ♪」
「美味しそうです!」
「そして、実に美しいです」
スウィンとアクア、瑠璃の言葉に、一同はコクコクを頷いた。
「皆さん、お茶の希望があれば、仰ってください」
波留の問い掛けに、瑠璃と珊瑚、アクアは濃茶、スウィンとイルド、若葉は薄茶を頼む。
「皆さん、宜しければこれを」
瑠璃は和菓子を乗せる為のポケットティッシュを一枚ずつ、皆に配った。
「気が利くわね、ありがと♪」
「サンキュ」
「ありがとう」
「ありがとうございます!」
「ん」
最後、珊瑚がティッシュを受け取ると、用意してあった座布団へ座る。
「足は崩して楽になさって下さい」
お茶の用意をしながら波留がそう言うと、イルドは明らかに安堵した様子で座布団へ腰を下ろした。
「……正座する?」
その隣に座りながら、スウィンが悪戯っぽくイルドを見つめる。
「正座はなしだ!」
夏の茶会で足が痺れた苦い経験がある。イルドは少し赤くなりつつ即答した。
「はいはい、今日は足崩しましょ」
クスクスと笑って、スウィンも足を崩す。
一方、珊瑚は隣の瑠璃が正座をしたのに、微妙な顔になった。
(瑠璃が正座してるなら、オレも正座!)
そんな訳で正座をしてみた。のだが。
(……駄目だ、足が痺れる!)
珊瑚は直ぐ様足を崩した。こんな体制を長時間取るなんて、拷問だ。
キッと瑠璃を見やれば、瑠璃は首を傾ける。
「どうかしたか?」
「ぬーあらんさ(何でもない)」
珊瑚はふいっと視線を逸らした。
「ワカバさんは正座崩さないんですか?」
見よう見真似で正座をしてみたものの、好意に甘えて足を崩したアクアは、不思議そうに若葉を見る。
「俺は大丈夫」
「正座って少し難しいです。長時間出来るなんて、凄いですねっ」
「単に少し慣れてるってだけだよ」
瞳をキラキラさせるアクアに、若葉は笑ってその頭を撫でた。
「それにしても、紅葉綺麗ね~。夜は昼とはまた別の良さがあるわ」
「……そうだな」
窓の外を見つめるスウィンの横顔を見ながら、イルドは小さく頷いた。
単に葉に色が付いただけ事を、風情がどうとか等と言われても、イルドには少し理解がし難い。
けれど、楽しそうにそれを眺めているスウィンを見るのは、嫌いではなかった。
「お茶とお菓子を頂いた後、散歩に行きましょうか」
「そうだな」
「瑠璃!」
「うん、お茶とお菓子を頂いてから、な」
訴える珊瑚の眼差しに瑠璃は小さく頷く。
「お待たせしました」
そんな彼らの元へ、波留の煎れたお茶が差し出された。
「いただくわね♪」
「サンキュ」
「いただきます」
スウィンとイルド、若葉は薄茶のお椀を回して、口を付ける。
「相変わらず、美味し♪」
「……美味いな」
「優しい甘さ、だね」
それぞれ美味しさに和んで笑顔が浮かんだ。
濃茶は、まずアクアが茶碗を回して一口。
「苦味の中にも、柔らかい甘みがあります」
ほうっと息を漏らしてから、飲み口を茶巾で拭き、次の珊瑚へと回す。
とろっとした茶を眺めて、珊瑚は絶句した後、
「これ、見た限り苦そうだよな。きっと」
むむっと眉根を寄せて呟いた。
「存外に甘いですよ」
ニコニコとアクアにそう言われたら、珊瑚は見よう見真似で茶碗を回して、思い切ってくいっと飲む。
「んじゃさん!(苦い)……やしが(だけども)、あまさん(甘い)?」
珊瑚はもう一口飲んで、破顔した。
「まーさん!(美味しい)」
そして、茶碗をぐいっと瑠璃へ押し付ける。早く飲んでみろと笑顔が言っていた。
「頂きます」
瑠璃は茶碗を回してから、ゆっくりと口を付ける。濃厚なお茶の味が口の中に広がる。
「なまらおいしい……」
「よかったです」
波留は安堵の笑顔で、ウィンクルム達を眺めた。
「この茶葉、どこから仕入れているんですか?」
「紅月ノ神社近くに茶葉を生産している農家さんが居まして、そこから仕入れてるんです」
瑠璃の質問に、波留は微笑んでと答える。
「茶菓子も召し上がって下さい」
「じゃあ、俺は練切を」
「僕は落雁を頂きますね」
「おっさん達は紅葉の綺麗な羊羹にしましょ♪ はい、イルド」
「ああ」
「自分は栗蒸し羊羹にします」
「栗の茶巾絞りにするぜ」
茶菓子を取ると、パクリと一口。
「幸せです……!」
アクアがしみじみと言い、隣で若葉がコクコクと頷く。
「上品な甘さが堪らないわねぇ♪」
「ん、美味いな」
ほっこりスウィンが微笑めば、イルドも大きく頷いた。
「栗の風味が良いですね」
「まーさん!」
瑠璃と珊瑚にも笑顔が溢れる。
ウィンクルム達は、しばし、茶菓子とお茶、そして窓の外の紅葉鑑賞を楽しんだのだった。
●4.
「ご馳走様でした」
波留にお礼を言って、若葉とアクアは茶室を後にした。
外は少し肌寒く、木枯らしが木々を揺らす音が響く。
二人は少しゆっくり歩いて、境内を回ってみる事にした。
「青空にも映えるけれど、濃紺にも映えるんだね」
落ちてくる紅葉に手を伸ばして、若葉が呟くように言った。
「真っ赤で燃えているみたい」
アクアは瞳を細めて、若葉の手が紅葉を掴むのを見る。
「窓枠が無い景色はまた違った顔をしていて……やっぱり不思議」
指先で捉えた紅葉を角度を変えて眺めながら、若葉が小さく笑った。
「窓枠、ですか」
アクアは若葉の数歩先に歩み出ると、両手の親指と人さし指で四角を作って彼を覗き見る。
「その窓から何時もと違う俺は見えた?」
若葉が笑って問い掛ければ、アクアは小さく首を捻った。
「確かに何時もと違う気もしますが」
一旦言葉を区切ってから、微笑む。
「その『違う』はワカバさんの内や外に元からあるもので……上手く言えませんが、全部でワカバさんなんだろうな、と」
若葉は僅か、目を見開いた。アクアの言葉がじんわりと胸に広がって。
「……アクアの言葉って、凄く真っ直ぐだよね」
きょとんとして、アクアが窓枠にしていた手を解く。
ざわりと一層強い風が吹いて、アクアは言葉を失った。
夜の風、靡く紅葉、そこに立つ若葉。
それはアクアの視線を奪って、静かに強く心を揺さぶる。
「それを言うなら……アクアはやっぱりアクアだね」
聞こえてきた彼の声に、アクアは大地を蹴っていた。
彼に飛び付いて、ぎゅっとその身体を抱き締めたら、温もりが伝わって、鼓動が重なって溶けていく。
「……やっぱりアクアだ」
緩慢に背中に手を回しながら、若葉は外が暗くて良かったと思う。
(紅葉の事、紅いなんて言ってられないもの)
●5.
落ち葉を踏む音にも、秋を感じる。
「少し肌寒いけど、絶好の散歩空間よね~♪」
サクサクと鳴る音も楽しみながら、スウィンは境内をのんびりと歩いていた。
「……それはいいけどよ、落ち葉で滑って転んだり、するなよ?」
その隣を歩きながら、ぼそっとイルドがそんな事を言う。
「あらぁ、心配してくれてるの?」
「怪我されたりしても、面倒だからな」
瞳を輝かせて彼を見やれば、イルドは視線を逸らした。
「大丈夫よ。イルドこそ、気を付けなさい♪」
きっと紅くなっているであろう顔に笑って、スウィンは再び上を見上げる。
「こうやって歩くと更に近くで見れていいわね」
「まぁ、悪くはない、な」
舞い散る紅葉の中、二人でのんびりと歩くのは嫌いじゃない。
「あ、ちょっと動かないでね」
不意にスウィンがずいっと距離を詰めてくると、イルドの頭へ手を伸ばした。
(ち、近……!?)
間近に迫ったスウィンの、長い睫毛とか口元とか、髪の香りだとかに、イルドの心臓が早鐘のように跳ねる。
「ふふ、ついてたわよ~」
身を離したスウィンの手には、一枚の紅葉。
イルドの頭に着いていたらしい。スウィンはそれを指でくるくる回して眺める。
「いつの間についてたんだ……」
イルドはバツが悪そうにぷいっと顔を背けた。
まだ心臓はドキドキしているし、顔だって赤いに違いなかった。
「紅葉が終わったら、もう冬ね。あっという間に感じるわ」
「そーだな」
平常心、平常心と、イルドは心で呟きながら答える。
「秋や冬って、何だか寂しい感じがするわよね」
「……そうか?」
イルドは思わず視線をスウィンに戻した。イルドにとって、季節は温度や景色が変わるだけのもの。感傷に浸る感覚はない。
「……そうでもないかしら?」
そんな彼を見つめ、スウィンは微笑んだ。
隣にイルドが居れば、寂しいと感じる事はきっとない。
「……よくわかんねーけど、おっさんは一人じゃない」
ほら、寂しくない。
少し乱暴に握られた手に、スウィンは笑顔を見せたのだった。
●6.
見上げれば、夜の闇に浮き上がるように広がる紅葉達。静かな空気と相まって、日常から切り離されたような錯覚すら覚える。
「あの茶会」
歩みを止めて、瑠璃が呟く。
「ん?」
念願の外での紅葉鑑賞に夢中だった珊瑚は、その声に振り返った。
「もし、お前と二人っきりだったら、間接で接吻してたな」
真顔で瑠璃はそう言った。
「せっ……」
接吻?
復唱し掛けて、珊瑚の思考が一時停止する。
それはアレか。濃茶を回し飲んだ時の事を言っているのか。
「珊瑚。その接吻、ちゅらかーぎー(美人)の為に取っておけ」
更に真面目な声で言われて、珊瑚の思考は沸騰した。
(つまり、それは瑠璃の唇がオレの……)
瑠璃は言いたい事を言い終わると、さっさと境内を歩き始める。
ブチッ。
「瑠璃ー! マタニ(待ちやがれー)!」
珊瑚はその背中を走って追い掛けた。
「卍固めかけてやる!」
「な、何でだっ!?」
真っ赤な紅葉が、じゃれ合うように追いかけっこを始めた二人を、微笑ましく祝福するように舞い散っていた。
Fin.
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 雪花菜 凛 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 11月10日 |
出発日 | 11月16日 00:00 |
予定納品日 | 11月26日 |
参加者
- 木之下若葉(アクア・グレイ)
- 羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
- スウィン(イルド)
- 瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
- ダニエレ・ディ・リエンツォ(ジョルジオ・ディ・リエンツォ)
会議室
-
2014/11/13-00:57
みなさんよろしくお願いいたします
紅葉狩り…風情がありますね。 -
2014/11/13-00:28
瑪瑙瑠璃です。
ダニエレさんは初めましてですね。他の方はお久しぶりです。
よろしくお願いします。
紅葉狩りがメインでしたが、お茶会ですか.......。
自分はどちらも飲める方です。 -
2014/11/13-00:25
-
2014/11/13-00:24
-
2014/11/13-00:16