耐久床どん(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 ――どうしてこうなった?

……ああそうだ。
確か、古いお寺から依頼が来て。
天井からおかしな音が最近頻繁に聞こえる、オーガが隠れ住んでいるのかもしれないと思ったら気が気じゃない、
調べてもらえないだろうかと言われ……

調べるだけなら、と引き受けたウィンクルムの皆と寺に着いて
早速件の天井がある本堂へと足を踏み入れた、僅か数分後だったか。

天井が大きな軋り音を発した瞬間、落ちてきたのだ。

 ――よし。現状把握……しかし………だ――

身動きが全く取れない。
幸い天井は屋根ごとというわけではないようで、どうにか支えられる重さのようだ。
ただし……
ちらりと、唯一動く眼球だけで周りを窺えば、あちらこちらで同じように支えているウィンクルム、主に精霊の姿が見える。
つまり、そのメンバーでぎりぎり持ち堪える状態ではあるのだ。
誰か1人でも力を抜けば、さすがに耐え切れないかもしれない。

そして何より支えている態勢が……

四つん這いになる形で、背中で天井を支えている自分の腕の中。体の下。
そこにはパートナーが横たわっていた。
庇われるように完全に倒れ込んだ状態で、今や心配そうに己を見上げてくる視線。

近い近い近い。
一刻も早く何とかしてやりたいが、正直どうにも出来ない。

「だ……っ、大丈夫ですかー!??」
「うわ!?こりゃ大変だ!おい、早く人集めて来い!!」

……どうやら寺の住職や僧たちが気付いてくれたようだ。

良かった。あともう少し耐えきれば助かるだろう。
それまで死ぬ気で頑張れ。我が筋肉たち……

解説

●天井落下!不足の事態で思わぬ押し倒され状態、からスタート!

・押し倒されてます。押し倒されてます(大事なことなので二回言ry)
・主に精霊様が天井支え踏ん張ってる、としますが、どうしても私が精霊を押し倒したい!という神人様はそれでも構いません。
・30分、ひたすら耐えて下さい。がんばれ。がんばれ。
・その間気を紛らわす為に、様々な雑談をしたり汗垂れる精霊様の額を拭いたり。動けない、前提であればお好きにお過ごし下さい☆
 押し倒されてる側は、両腕くらいは動くと思われます。
 ただし、這って抜け出すことに挑むと、本堂内精霊様他様々な物で支えられている天井の微妙なバランスが崩れてしまうかもしれません。
・お一人でも力尽きると、完全に押し潰されます。
 いえ重さ的に死にはしません大怪我もしません大丈夫その頃にはすぐに天井がどかされるでしょう。
・汗で滑ったりしてガクッとすると、他の精霊様方に一瞬の負荷がかかります。持ち直せば天井はまだ落ちません。
 突然の負荷で予期せず密着度が増すかもしれませんね! 
・会議室で「ごめん俺一瞬力抜くかもマジごめん!」と予定立ててくれてもイイのよ☆

●怪我の度合いと描写について
本堂内から助け出された後、ご希望により手当描写あり。
1.背中傷だらけ!?上半身脱いでーっ包帯包帯!など:300Jr
2.消毒液塗るくらいで大丈夫かな?など:150Jr
3.奇跡的に無傷:0Jr

Jr消費が多い程、手当描写の方に字数を割きます(150Jrで「押し倒し」「手当」半々くらい)
無傷の場合、手当描写ほぼ無し、とお考え下さい。
プランには【消費Jr(または横の数字)】【それぞれの描写プラン】をお書き下さい。

ゲームマスターより

二番煎じだって三番煎じだって気にしない!

お世話になっておりますコンニチハ☆
床ドン本来の意味が、「部屋に引きこもった人がお腹すいた等でかーちゃん召喚する合図」だと知って
やべぇロマンス無かった!!とおののいた、蒼色クレヨンでございます。

キャラ様によって、押し倒しより手当を重要視したい!とか、押し倒し状態堪能ー!とかとかあるかなと
少し調節出来るようなのにしてみましたっ。
シリアスにもコメディにも転がるエピソードだと思っておりますので
各々のキャラ様が生き生きするよう、お好きにプランを練って頂ければと思います!

字数調節、全力で頑張ります!!!
(斜めった方向に自らの難易度あげちゃうんだからもうっorz)

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  (精霊の逞しい姿にドキドキしながら)
守ってくれてどうも有難う
やっぱりどこか痛むの!?(不安)

…私ね、エミリオさんと幸せになりたい
でもエミリオさんとなら不幸になっても構わないよ
それくらい貴方のことが好きだから
離さなくていいよ、私もずっと傍にいたいもの

襲うって!?
ダメだよ!
私達き、キスもしたことないんだしっ!
そりゃあトランスする時とか額とかならあるけど、その…直接したことはないでしょ?(もじもじ)

(間)
エミリオさん、今なんて言ったの?
ええええっ!?!?
嘘、そんな、私知らないよっ!!
エミリオのバカバカ!!
…今私エミリオさんのこと呼び捨てに(赤面)
うう~早く誰か助けてっ

☆関連エピ
No.60

☆診断書
無傷


油屋。(サマエル)
  (神人が押し倒す側)

皆頑張ってるのにアタシ一人が弱音を吐く訳にはいかないよ
とは言えかなり辛い

精霊には心配をかけまいと笑顔で対応
アンタに怪我がなくて良かった

元々傷だらけだし一つや二つ増えても平気だって



気持ちは嬉しいけど!恥ずかしいというか
うう、じゃあお言葉に甘えて お願いします
大人しくする

背中に古傷?

『オマエ、弱いな』

思い出したのは誰かにそう言われたという記憶 
喧嘩した時にやられたんだよ きっと

やっぱり心配させちゃったのかな
ごめんねサマエル

背中の傷の事が引っかかる
何か大事な事を忘れているような気がする


計:300jr



Elly Schwarz(Curt)
  行動】
・突然の事に固まるが、クルトを心配
へ!?だ、大丈夫ですか?
(ク、クルトさんが、ち、ちちち…近い!!)
僕が出来る事は…汗を拭く事くらいでしょうか。(ハンカチで拭きつつ

・クルトの手当
お、お疲れ様でした。…また助けて頂きましたね。
だって僕はあなたのパートナーなんですよ?足を引っ張りたくないです!
(僕はクルトさんより劣る事ばかりですし、あなたを追いかける事に精一杯なのに
このサポート不足を解消すべく、もっと頑張らないと!)

…へ?あ、あの??(な、何が起きているのでしょうか…?)
ヒントと言われましても…あ、クルトさん!待って下さいっ!
(クルトさんの言葉の意味が気になります。考えないと、なんですね?)



リセ・フェリーニ(ノア・スウィーニー)
  【150Jr】

大丈夫じゃないという割には余裕があるように見えるけど
ノアっていつもへらへらしているからよくわからないわ
頭脳派…ねぇ。まあ肉体派ではなさそうだけど

見つめる?それでいいの?(素直にじっとノアの目を見つめ)
こ、こら!近づいてきたら天井が落ちてきちゃうじゃない!
ふざけていないで気合いを入れなおしなさい、男でしょ!
(みぞおちあたりを小突き)

しっかりしなさいよ!
そんな死ぬ間際みたいなセリフは聞きたくないわ
まだウィンクルムとしてやらなくちゃいけないことがたくさんあるでしょ?
(両手でノアの頬を包むようにし)私のために生きてちょうだい

殆ど怪我してないじゃない。大げさなんだから
こちらこそ…ありがとう


●天井落下直後

 Elly Schwarzは目下地蔵のように固まり中であった。
「ってて……て!?」
 天井が落ちた瞬間、咄嗟にエリーを庇っていたCurt、無意識に力んで閉じていた両の瞳を開けると
そこには、おいし、もとい予想外な体勢で腕の中に収まるエリーの姿があった。
(ち、近!?)
(ク、クルトさんが、ち、ちちち……近い!!)
 両者見つめ合うこと永遠の時間、のような数秒。
「だ、大丈夫か?」
 ようやく発せられたクルトの声に、エリーもやっと我にかえる。
「へ!?あっ、だ、大丈夫ですっ。クルトさんこそ……」
 今だ背中に重圧を受け耐えるその姿を見上げ、エリーの声は弱々しくなる。
「僕を庇って……ご、ごめんなさい」
「ばか。こんなんエリーが支えようとしたら即ぺしゃんこだ。俺で良かった」
 エリーの心配そうな表情に、いつものからかう笑顔を絶やさないクルト。
もうエリーは知っていた。
それは常に自分を守ろうとしてくれる、クルトの優しさであることを。

 *

「サ……サマエル、へいき?」
「む。おかげさまで」
 日頃、油屋。に対し横柄で尊大な態度のサマエルも、さすがのこの状況にいまいちまだ頭が働かない。
まさか自分を、体を張って守る人間がいるなんて。
……いや。
そうだ、油屋は確かに言っていた。
自分を守る、見捨てることなどしないと。
ようやく思考が追いつくと、今度は歯がゆさがこみ上げてくる。
(本来なら俺が護るべきだった。すまない)
そう言いたいのに、弄れた元々の性格がそう簡単には口にしてくれず。
「無理はするな。お前1人力尽きたとて、他の精霊たちもそうヤワじゃない」
 ただそう言うのが精一杯だった。
「皆頑張ってるのにアタシ一人が弱音を吐く訳にはいかないよ」
 油屋は笑う。たとえもうすでにぎりぎりな状態であったとしても。

 *

「リセちゃん大丈夫?」
 思わぬ事故により、パートナーであるノア・スウィーニーの体の下に横たわる形になったリセ・フェリーニ。
見慣れない距離と角度にしばし呆気に取られていたものの、すぐに状況を把握するよう周囲を窺ってから。
「ええ。少しびっくりしただけで、私は大丈夫よ。ノア……は」
 自分の顔の両側に張られた腕が、重みを支え微かに震えているのを見てから、リセは思わず言葉を切り改めてノアを窺うように見上げた。
「俺?あんまり大丈夫じゃないかもー……はは……」
「大丈夫じゃないという割には余裕があるように見えるけど」
「ほら、俺頭脳派だからさ」
 こんな時まで常なる笑顔を絶やさないノアの表情からは本音が読み取れず、リセは軽く息をつく。
「頭脳派……ねぇ。まあ肉体派ではなさそうだけど」
(ノアっていつもへらへらしているからよくわからないわ)
 こんな切迫した状況でも彼は変わらない。肝が据わってるのかしら。
赤ん坊の世話をした時ですら、少し家族構成が聞けたくらいで。
やっぱり元々これがノアの素の顔なのか、それともこんな状況でもまだ自分には本来の顔を見せてくれないのか、
リセは思案するように横を向いたまま考えにふける。
そのリセの空気を読み取ったのかはたまた……。
ノアから声がかかる。
「リセちゃん。リセちゃんが俺のことずっと見つめてくれてたら頑張れるかもなーなんて」
 リセ、すぐに正面に向き直った。
「見つめる?それでいいの?」
 言われたまま素直に、ノアの深い新緑色の瞳を見つめるリセ。
(あ。汗……)
 よく観察してみれば、余裕があると見えた表情も時々歪むのが分かる。
軽口に見せた本心、なのかもしれない。リセはただひたすらノアを見つめ続ける。
が、ノア自ら台無しな言葉が発せられるのはすぐだった。
「あ、ごめん。やっぱりそんなに見つめられちゃうともっと顔近づけてちゅーしたくなっちゃうからダメだな」
「こ、こら!近づいてきたら天井が落ちてきちゃうじゃない!ふざけていないで気合を入れ直しなさい、男でしょ!」
 折角少しはノアの素顔が見れたと思ったのに。
リセは深い溜息と共に思わずノアのみぞおちを小突いた。
「ちょ!みぞおちは、急所だから!」
 避けることも出来ずリセの攻撃を受け慌てるノア。
いつものやり取りに、その表情からどこか安心した空気が見え隠れしていたとか。

 *

「こういう時ほど普段から鍛えててよかったと思うよ、だってお前を守れたから」
 ぱらぱらと、まだ埃や木の破片が顔の横に落ちてくるのを気にせず、
ミサ・フルールはただただエミリオ・シュトルツの憂い帯びたその笑みを見上げていた。
(こ、こうして改めて近くで見ると……エ、エミリオさんってやっぱり逞しい、んだ……)
 そういえば、よく部屋で筋力トレーニングをしていた姿を目にしていたことを思い出して。
他愛もない会話、甘味が絡んだ時などではよく、可愛いなどとすら思うことがあるけれど。
恋人になってから日増しにエミリオが見せ始める、男の顔とも重なって今やミサの心拍数は上がりっぱなしであった。
「ミサ、怪我はない?」
 エミリオの問いかけに、ハッと妄想もとい思考の波から戻るミサ。
「う、うん!守ってくれてどうも有難う。エミリオさんこそ、その……大丈夫?」
 ミサの笑顔にホッとした表情を浮かべ。エミリオは辺りを窺う。
「良かった。俺は重たいって以外何ともないよ。どうやら、他の皆も無事そうだね。……でもこの状況は不味いな」
 安堵の後に何かを耐えるような、そんな息が混じった言葉をぽつりと漏らしたエミリオに、ミサが素早く反応した。
「やっぱりどこか痛むの!?」
「バカそういう意味じゃないよ」
 不安な色を浮かべた純粋な瞳と出会えば、エミリオは困ったような苦笑いを浮かべる。
そして言いにくそうに、一度視線を泳がせてから。
「好きな女の子がこんな近くにいたら男なら誰だってその……ドキドキするものじゃないの?」
「えっ?す、好きな女の子って……わ、私?」
「何とんちんかんなこと言ってるの。他に誰が居るっていうのさ」
「そ、そうだよね……!その、私も今すっごくドキドキしちゃってて……」
 ハプニングによるこの密着度は思わぬ思考を奪うようで。
つるりと出た互いの言葉で照れ合う。
丸聞こえな微笑ましい会話に、やたらと耳を傾けている気配が周囲にちらほら。

●20分経過

(本当にこういう時……僕は何も出来ませんね……)
 せめて出来ることは、と思案し、エリーはどうにか動く手でポケットを探るとハンカチを取り出す。
そしてそれをクルトの首や額にあて、汗を拭いていく。
少しくすぐったそうに目を細めるクルト。
「お前に怪我が無いなら良いが……この状態じゃ確かめようもないな。悪いな」
「何言ってるんですか!ここを出たら真っ先にクルトさんの手当ですからねっ」
 出会った頃とは違い、強気に返してくるエリーに笑みを向け。
(暗闇で転んだところを抱きとめた時よりは……動じてないな。どうしたら振り向くんだか)
 自分に慣れてきたのは嬉しくもあり複雑でもあり。
心配気に潤む瞳に見つめ続けられ、クルトは重み以外ともしばし闘うのであった。

 *

 自分の汗を拭うように、頬から額、そして頭へと温かな手が移動し、ふと油屋はサマエルの様子に気付く。
普段とは違う、気遣わしげな視線と合えば、油屋は安心させるように小さく笑みを浮かべ。
「ホント、アンタに怪我がなくて良かった」
「バカ者め……。また、傷が増えるな」
「元々傷だらけだし一つや二つ増えても平気だって」
 何でもないことのように口にする油屋の言葉に、サマエルは僅かに眉を顰める。
油屋の腹部にあるオーガの攻撃により出来た古傷を見て。
(これ以上俺の目の前で傷を増やさせるというのか……)
 油屋の気づかぬ所で、サマエルは静かに歯噛みした。

 *

「ほんとにそろそろヤバいかも……」
 元来それほど筋肉質なわけでもないノアの口から、かなり切羽詰まった言葉が漏れた。
他の支えている者たちも疲労している為か、先ほどよりも支えている位置がやや低い。徐々に体力が落ちてきている証拠だ。
「しっかりしなさいよ!」
 激を飛ばすしか出来ず、リセもどこか歯がゆさを感じていた。
「俺、リセちゃんと契約出来て幸せだったよ……これから一緒にもっといろんなことしたかったな」
「そんな死ぬ間際みたいなセリフは聞きたくないわ。まだウィンクルムとしてやらなくちゃいけないことがたくさんあるでしょ?」
 今にも力尽きそうなノアを見て取って、リセは自然と両手の平をノアの頬に当てていた。
包み込むような温かさを感じて、ノアは目を見張る。
「私のために生きてちょうだい」
「……」
 一瞬の沈黙。
「なにそれ……反則じゃない?」
 苦笑いにも見えたそのノアの小さな笑みは、リセが初めて目にするはにかんだ笑顔だったのかもしれない。
これが、パートナーってやつなのかな。
ノアは改めてそう感じる。
そして、すぐにいつものへらっとした笑顔になれば。
「わかったよ。俺、がんばっちゃう。君のためにね」
 調子が戻った様子にどこか安心するリセ。
今まさに向けられた言葉はノアの心からの本心であったかもしれないことに、さて気付いただろうか。

 *

「最近ミサのことばかり考えてる……」
 細く温かな指が、自分の汗で張り付く前髪を拭う感触に目を細め。
エミリオは背中にかかる重圧へ意識を向けぬようにしながら、ぽつぽつと口を開いた。
「お前といると心が癒される、お前といると俺の醜さが浮き彫りになるんだ」
「……話してくれた時に、言ったよね。エミリオさんの罪は私も背負うって」
 自分の存在が愛しいと、同時に苦しいと、今はこんなにもハッキリ伝えてくれる。
ミサは、その静かな炎のように揺らめく真紅の瞳をまっすぐ見つめる。
「俺はお前を一生離してあげないよ。可愛そうに、こんな酷い男に目を付けられて
 優しいお前はいつまで自分を保っていられるかな?」
 エミリオであってエミリオでない、そんな光と影の宿る、愛憎に満ちた目で笑う愛しい人をミサは受け止める。
「……私ね、エミリオさんと幸せになりたい。でもエミリオさんとなら不幸になっても構わないよ」
 それくらい貴方のことが好きだから。
何度でも、何度でも。
それで少しでも貴方の心が満たされるなら、いくらでも紡ぐから。
「離さなくていいよ、私もずっと傍にいたいもの」
 もう何も確かめる必要はない。ミサの言葉は純粋で疑うところなどないことをエミリオは知っているのだ。
だからこそ響く言の葉。
影が瞳の奥へと収まっていき、同時にエミリオの頬が次第に赤くなっていった。
「っ、これ以上可愛い事言わないで。こんな状況じゃなければ……襲ってる」
「……、ええ!?」
 予想だにしなかったエミリオの言葉に、今度はミサが頬を赤く染め上げた。
「ダメだよ!私達、き、キスもしたことないんだしっ!
 そりゃあトランスする時とか額とかならあるけど、その…直接したことはないでしょ?」
 腕の中でもじもじと小声になるミサを見てから、そ……と目を反らせるエミリオ。
「………………」
「………………」
「……」
「……」
「…エミリオ、さん?こ、この変な間、何かな……?」
「……ごめん……した」
「……今、なんて言ったの?」
 断罪裁判のようだ。
エミリオ、重さに耐える汗とは違った種類のそれが額に浮かんだのを感じながら。
「その、した。この間寝てるお前にキス……した」
「ええええっ!?」
 ミサの叫びと同時に、周囲からも黄色い悲鳴に似た空気が漲る。
勿論、全くそんな空気には気付かず二人のやり取りは続く。
「嘘、そんな、私知らないよっ!!」
「ご、ごめん。看病疲れで寝てる姿がその……可愛かった、からつい……」
「エミリオのバカバカ!!」
「あぶ、危ない!叩くと支えが揺れるから……!!」
 うう~早く誰か助けて――っ
ミサ、心の中で大絶叫中。


●救出

 集まった寺の僧たちの手で、天井落下から30分後、
ようやくウィンクルムたちは本薄暗い本堂下から日の光の元へ出てきて、眩しさに目を細め。
全員が無事であることを確認し合い、それぞれがパートナーの手当にあたった。

(……私、さっきそういえば、エミリオさんのこと呼び捨てに……)
「も、もう知らないんだから……っ」
 咄嗟に口をついて出たことを思い出し、しかしなおさら恥ずかしさが増して。
エミリオがほとんど無傷だと分かれば、ミサは逃げるようにサカサカと歩き出す。
「悪かったよミサ。その、今度はちゃんと起きてる時に」
「そ!そういう問題じゃないの―――!!」
 エミリオの天然な言葉に、今度は心の声じゃない絶叫が境内に響き渡った。

 *

「お、お疲れ様でした。……また助けて頂きましたね」
 僕は助けられてばっかりで……と、少ししょんぼりとしながら、クルトの背中に薬を塗り包帯で丁寧に巻いていくエリー。
「まだ助ける助けないの話をしているのか。気にするな、俺が好きでしてるんだ」
「だって僕はあなたのパートナーなんですよ?足を引っ張りたくないです!」
(全くこの鈍感は!)
『好きでしているんだ』にクルトなりに含みを持たせたつもりだが、エリーには欠片も伝わらず。
かくいうエリーはエリーで、自分の想いとパートナーとしての責任感を上手く口に出来ず、消化しきれない気持ちを抱えていた。
(僕はクルトさんより劣る事ばかりですし、あなたを追いかける事に精一杯なのに……)
 このサポート不足を解消すべく、もっと頑張らないと!と1人、モヤを吹き飛ばすように気合を入れる。
そんなエリーの腕を突然、クルトが引き寄せた。
「……へ?あ、あの??」
(な、何が起きているのでしょうか……?)
 エリーの腕に落とされる柔らかな温かい感触。
それはクルトによる口づけだった。
「いい加減気付け。俺がエリーをどう思っているか、これは大きなヒントだ」
 腕から顔を上げると、すぐにそっぽを向いて。
すでに包帯巻き終わった背中へ己のシャツを羽織ってクルトは立ち上がり、歩き出してしまう。
「ヒントと言われましても……あ、クルトさん!待って下さいっ!」
 あまりに突然のことに呆然としていたものの、少し不機嫌になったように見えるクルトを慌てて追おうとするエリー。
「……慌てるな、待っててやるから。一緒に帰るぞ」
「え?は、はい」
 視線は合わないものの、その言葉はまるでこれからの自分を見守ってくれるかのように感じる。
(クルトさんの言葉の意味が気になります。さ、さっきの行動も……。考えないと、なんですね?)
 待っててくれる。きっと今この時だけじゃなく、自分がこれから出す答えも。
まだ残っている腕へのその感触を手で包むように抑えながらも、エリーはそんな気がした。
腕にキス、それは『恋慕』の意を込めて。
(大胆過ぎた気もしたが、最近は特に全然積極的じゃなかったしな。さて……今後どう出る?)
 正直博打だった気もする自身の行動を振り返りながら、それでもしっかり自分の後を追ってくる姿をチラリと振り返り。
クルトは無意識に、小さく小さく微笑むのだった。

 *

 今にも死にそうという体のノアを引きずるように、安全な場所まで移動し座らせ。
リセはお寺から分けてもらった消毒液を手に、慌てながらノアの傷の具合を看る。
「……殆ど怪我してないじゃない。大げさなんだから」
 衣服をめくってみれば、所々擦り傷や痣が出来ていたものの、大きな怪我は無いと分かって安堵のような呆れたような言葉がリセの口からつく。
「ごめんごめん、本当にだめだと思ったんだよ」
 消毒液のひやっとした傷に染み入る感触に、いててっと反応しながらノアは笑う。
「でもあんなこと言われたら頑張るしかないじゃない?嬉しかったなぁ~また言って欲しいくらい」
「次は平手打ちで気合注入しながら言ってあげるわ」
 リセの美しくすらある笑顔と共に言われた台詞に、わー……と冷や汗笑顔で誤魔化すノア。
この先、ウィンクルムとして、パートナーとしてやっていくからには今回のような事がまた起こるのかもしれない。
ただ庇われ、励ますことしか出来なかった思いをリセは刻み付ける。
もっと強くあろう。
こんな悔しい思いを二度としないように。
そんなリセの気持ちに呼応するかのように、手当を受け背を向けているノアの口から言葉が紡がれた。
「ありがとね、リセちゃん」
「こちらこそ……ありがとう」
 それでも傷だらけの背中越しで交わされる会話。
互いの顔が見えなくとも、それは確かに二人の距離を縮めるのであった。

 *

「気持ちは嬉しいけど!恥ずかしいというか……!」
「何を恥ずかしがる必要がある?俺とお前の仲ではないか」
「どんな仲だよ!!」
 救出された瞬間、サマエルは強引に油屋を石造りの階段脇に座らせ、その背中を手当するからと服を引っペがそうとしていた。
気恥ずかしさで抵抗を見せる油屋。
「そのままバイ菌が入って化膿でもしたら、病院へ連行するぞ」
「うっ。うう、じゃあお言葉に甘えてお願いします……」
 サマエルの声のトーンから、真剣に心配をしてくれているのが伝わり、油屋もようやく大人しくその背中を見せた。
「何だこの傷は?」
 シャツをめくった瞬間、サマエルの目に飛び込んできたのは普通ではない傷跡。
天井を支えて出来た傷ではない、すでに古傷となっているそれだが、明らかに人為的な……
(これは……刃物、か?この形は……、字も?)
 殺意とは相反するはずのその形はハートのように見えた。そこに添えられるように『Vale』という文字。
(名前、か……?)
 考察していく中で、サマエルの中に芽生えるドス黒い炎のような熱い思い。
まるで油屋を所有物だとでも表すその傷に、忌々しい視線を注ぐ。
「え?傷?古いの?」
 不思議そうに聞いてくる油屋の口ぶりからして、このことは知らないのかもしれない。
ガーゼと包帯を当てながら黙ってしまったサマエルの様子に、どうしたのだろうと振り返ろうとしたところで
油屋の脳裏に何かが過ぎった。
『オマエ、弱いな』
 誰に言われたのか、顔も思い出せない。それでも誰かに言われたというそんな記憶。
「き、きっと、喧嘩した時にやられたんだよ」
 振り返ってサマエルに見せるのはいつものあどけない笑顔で。
気づくとサマエルはその背中ごと油屋を抱きしめていた。
「サッサマエル……!?」
 呼びかけに応えることなく、その手に力を込める。
(どうせならこのまま上書きしてやろうか)
 そんな思いが沸き上がってくる。
この愛しい存在の体も心も、踏みにじられた気がして。
「ごめんねサマエル」
 やっぱり心配させちゃったのかな、と恐る恐るぽんぽんとこめかみあたりを叩いてくる油屋。
素直になどなれないもどかしさから、今はこのぬくもりが離れていかぬよう、留めておくのがサマエルには精一杯だった。
(背中にも、古傷……なんだろう、なにか大事なことを忘れている気がする)
 そんなサマエルの葛藤を丸っと余所に、自身の中に欠けたナニカがあるのではないかと
消えた記憶に思いを馳せる油屋の姿があった。
 

 後日。
寺の天井裏の奇怪な音は、古くなった木々の最期を告げる音であったと
依頼人の住職から、丁重な謝罪と共に知らせを受けるのであった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 11月10日
出発日 11月16日 00:00
予定納品日 11月26日

参加者

会議室

  • [7]油屋。

    2014/11/15-23:50 

  • [6]リセ・フェリーニ

    2014/11/15-12:50 

    はじめまして~
    …って、のんきに挨拶してる場合なのかわかんないけど
    とりあえず終わったらゆっくり労い合おうね。
    無事に終わればいいんだけどな…はは…

  • [4]ミサ・フルール

    2014/11/15-10:07 

  • [3]ミサ・フルール

    2014/11/15-10:06 

    エミリオ:
    皆、無事かい!?
    オーガがいるかもしれないと思って来てみれば……色々大変なことになったね。
    30分か……お互いに頑張ろう。

  • 僕はElly Schwarzと言います。パートナーはCurtさんです。
    リセさん方とは初めましてでしたか?よろしくお願いします!

    ……大変な事になってしまいましたね。(汗)
    これから30分……この耐久時間、僕はどうすれば……。

  • [1]油屋。

    2014/11/13-00:33 

    (神人が押し倒しております)

    サマエル:

    絶景かな絶景かな 見上げれば 西瓜サイズの山二つ……コホン
    皆様こんにちは、リセさん達は初めまして。
    サマエルと

    油屋。:

    あ、あぶ、油屋。だよ……!(ぷるぷる)


    サマエル:

    大変な事になってしまいましたねぇ
    私、応援しておりますので 30分間頑張って耐えて下さいね!(ニタァ


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