プロローグ
四季折々の花々が咲く庭園に囲まれて、優美な館が建っている。
古い洋風邸宅を改装した喫茶店、朝霧館だ。
ここでは茶葉にこだわった上質の紅茶と、手作りのデザート類も堪能できる。
日増しに秋が深まるこの時期なら、秋摘みダージリン茶葉を使ったミルクティーや、旬の果物の香味をつけたフレーバーティーがオススメだ。
紅茶はティーポットで運ばれ、テーブルでカップへと注ぐ形式になっている。
モンブランやスイートポテトといった、秋の味覚を使ったデザートもメニューに並ぶ。
シナモンの風味がきいたアップルパイや、さっぱりとした酸味と口当たりのキウイフルーツのムースもある。
紅茶やデザートを提供する傍らで、朝霧館では店主の遊び心から、時折ユニークな催しも開催される。
メイドと執事体験もそんな遊び心から産まれた。衣装を借りてメイドや執事の姿となり、同行者に給仕をする。そういった体験イベントが開催中だ。
レンタルする衣装は多様なサイズや色合いのものがそろっている。
落ち着いたクラシカルなデザインのメイド服もあれば、少女風の可愛らしさを押し出したメイド服もある。
執事服も同様にバリエーション豊富だ。
そして、なぜかメンズサイズのメイド服や、男装用の胸抑えなどもサラッと置いてあるのだった……。
解説
・必須費用
メイド(執事)体験:1組300jr
神人か精霊のどちらかがメイドまたは執事となり、パートナーに対して給仕をする体験イベントです。
着てみたい衣装をプランにてご指定ください。
給仕の際の飲食代は体験イベントの料金には含まれていません。メニューに記載している分の料金がかかります。
・飲食メニュー
モンブラン:1つ50jr
スイートポテト:1つ50jr
アップルパイ:1つ50jr
キウイムース:1つ50jr
ミルクティー:1つ30jr
アップルティー:1つ30jr
マスカットティー:1つ30jr
ゲームマスターより
山内ヤトです!
メイドや執事の服装で、パートナーに給仕をする体験イベントです。
正統派でいくか萌系でいくかは、お好みで!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
月野 輝(アルベルト)
・給仕役 ・クラシカルなロングスカートのメイド服着用 この間迷惑掛けちゃったから、お詫びも兼ねてご奉仕なんてどうかなって思ったの ここのってフルーツ中心のメニューだし 特に甘い物好きじゃなくても大丈夫よね え?うん、どの衣装も可愛かったんだけど、これが一番似合うかなって どう?(くるりと回って見せる なななな、何言って……! もうっ はい、ご主人様、ご注文をお願いします(真っ赤になりつつ 随分注文するのね? そんなに甘い物好きだった? え、え!? 今私はメイドで給仕役で、だから… うっ、それは、そうなんだけど…… か、畏まりました、ご主人様(口を開ける ドキドキしすぎて味判らないわよ…… って、これじゃ給仕になってなくない!? |
手屋 笹(カガヤ・アクショア)
美人時計(参加エピ24)の時はカガヤが決めてしまいましたし、今回はわたくしに決めさせてください! カガヤ、執事服着てください! ふおお…さすが「燕尾服」格好いいですわね! あ、えー…そうですわね…普段とちょっと違う雰囲気で… カガヤも格好いい…かもですね… (ちょっと恥ずかしそうにしつつ) (カガヤの台詞に驚き) そ、そんな台詞が言えたのですか…! 何だか恥ずかしいので程々にしてください… (手を預けて) えっとそれじゃ…差し出されたモンブランを頂きます。 美味しい…美味しいですけど… それ以上に何でカガヤはこっち見てるんですか、 欲しいのですか? 切った物をカガヤの前に差し出します。 ・注文 モンブラン アップルティー |
かのん(天藍)
黒の燕尾服 ダークグレーのベスト クロスタイ 蒼玉のタイピン ウイングカラーシャツ 白手袋 ミルクティー×2 アップルパイ×2 出掛けると天藍がいつもエスコートしてくれるので 今日は私におもてなしさせてください ゆったり寛いで貰えたら 可愛らしいメイド服は何となくがらでは無い気がしてすっきりとしたデザインの女性執事の衣装選択 天藍の感想が嬉しい ソファに座っている天藍にお待たせしましたご主人様と声をかけ、ソファの前の丸テーブルにお茶とケーキを置く 天藍に請われて隣に座り差し出されたフォークの先のアップルパイ躊躇いつつ口にする 更に2口目差し出され 天藍が嬉しそうなのは良いのですけど どきどきしている胸の音が聞こえませんように |
ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)
メイドと執事体験、面白そうっ! うー、可愛いメイド服も気になるんだけど、 ここはやっぱりヴァルに執事になってもらわないとねっ。 いつも偉そーだから、たまには私にかしずいてくれてもいいと思うのっ。 ヴァルにメイド服着せたら、さすがに後ですんごく意地悪されそうだし……。 (メンズサイズのメイド服ちらっと見つつ) えーっと、キウイムースとマスカットティーお願いねっ。 うふふ、美味しいー。ヴァルが給仕してくれるから尚更ねっ。 そういえば、ヴァルの分はあるのかしら? 無いなら少しとっておこうっと。執事体験で疲れてるかもだしっ。 |
ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
クラシックロングメイド服 ヘッドドレス、リボンタイ 服を手に取り(目を輝かせ可愛い… …ふーん(興味なさそうなフリ 給仕役、やってもいいわよ…いつもお世話になってるし(ぼそぼそ 感謝しなさいよねっ!(びしっと照隠 どう?(笑顔 裾を持ち上げ一礼、くるっと回ってみる 何を頼むのかしら?(はっとし、きりっと佇まいを直し むぅ…ご、ご主人様、何をお持ちします?(笑顔ひきつり どうぞ、ご主人様!(わざと音を立て置く …痛っ(よろける 大丈夫、大したことないわ…ってちょっと! 立場が逆よっ、それに…私が頼んでもいいの ちょっとっ …行儀が悪いわよ(照れて俯く 気にする事じゃないわ 互いの役割をこなした結果でしょ(精霊から視線を外し強い目 |
喫茶店朝霧館では、メイドや執事の服を着て同行者に給仕ができる体験イベントを開催中だ。本格的な衣装からアニメチックなデザインのもの、果ては女装や男装用の衣装までそろっているという……。
五組のウィンクルムが、朝霧館を訪れることになった。
●美麗執事、かのん
「今日は私におもてなしさせてください」
そういって、『かのん』は『天藍』を喫茶店朝霧館に誘った。
店頭の看板に、天藍がふと目をとめた。
「メイド執事体験、開催中?」
不思議そうな彼の口ぶりに、かのんは微笑みながら答える。
「出掛けると天藍がいつもエスコートしてくれるので、今日は私が天藍をエスコートいたします」
「なるほど。かのんが俺に給仕してくれるのか」
「はい。ゆったり寛いで貰えたら」
本物の店員が二人をソファ席に案内すると、かのんは服を着替えるために店のバックヤードに移動した。
「うーん。可愛らしいメイド服もステキですが……」
なんとなく自分のがらではないような気がして、かのんは別の衣装を探す。
そして自分にピッタリだと思える衣装を見つけ出した。
「お待たせしましたご主人様」
二人分のアップルパイとミルクティーのティーセットをテーブルに置く。
執事服に身を包んだかのんの姿を見て、天藍はビックリしている。
「どうでしょうか?」
「意外だな。正統派のメイド服でも着てくるのかと思っていたんだが」
天藍は改めてかのんの服装を眺める。
黒の燕尾服に、ダークグレーのベスト、白手袋というモノトーン主体の落ち着いた色合い。フォーマルな印象のウイングカラーシャツは、蒼玉のタイピンとクロスタイで彩られている。
品の良い執事姿だ。
「凛とした雰囲気が、かのんに良く似合う」
「ありがとうございます」
天藍の感想を聞いて、かのんははにかんだ笑顔を浮かべた。
「紅茶をお入れします」
高級ティーセットで、かのんは天藍のために丁寧にミルクティーを用意する。
「隣に座って一緒に食べないか? 俺一人で食べて、かのんが脇に立っているというのは落ち着かないしな」
天藍が注文したのは、二人分のアップルパイとミルクティーだ。すでにかのんの分も頼んでいる。
「執事がご主人と一緒というのは変でしょう」
「その主人の頼みだ」
白手袋をした細い手首をそっとつかみ、かのんの手を引いて天藍は隣に座らせる。
「ああ……。せっかく執事体験をしているのに」
やや不満気な様子のかのんだが、天藍は幸せそうだ。
「良いから、ほら」
天藍は一口分のアップルパイをフォークに突き刺すと、かのんの方へと向けた。
「なんですか?」
キョトンとした顔で、かのんは差し出されたパイを見ている。しばらくして、彼女は彼の意図を察した。
それは天藍の持つフォークから直接、かのんにアップルパイを食べさせようという試みだ。熱々のカップルがおこなう、いわゆる「あーん」というやつである。
「……あ」
かのんと天藍の二人は、奥手な関係にあるウィンクルムだった。「あーん」を試みてみたものの、最終的には恥ずかしさの方が勝ってしまったようだ。
天藍は名残りおしそうな表情で、アップルパイを皿へと戻した。深い親愛を込めた瞳で、かのんのことを見つめている。
彼は情熱を隠し秘めた吐息一つをつくと、わざと明るい声で仕切り直した。
「というのは主人の気まぐれの冗談だ」
どこか切なげに、天藍はそうごまかした。
「もう、天藍。……ドキドキさせないでください」
恥じらいとトキメキに頬をほのかに紅潮させつつ、かのんは視線を落とす。
かのんは食事のために白手袋をしゅるりと外した。
二人は隣り合って座り、ミルクティーとアップルパイによるティータイムを楽しんだ。
「ごちそうさまでした。では私は執事体験に戻りますね、ご主人様」
食事を終え、かのんは立ち上がろうとソファに軽く手をついた。
天藍の指がさり気なくかのんの指に触れる。そっと。優しく。しかし、熱い思いを隠して。
「……天藍」
「かのんが傍にいてくれるだけで十分だけどな」
●私服で執事、アルヴィン
『ミオン・キャロル』と『アルヴィン・ブラッドロー』は、膨大な衣装の中から気に入った一着を探しているところだった。
「なあ、これとかどうだ?」
アルヴィンが勧めたものは、ミオンがジーッと見つめていた服である。クラシカルなロング丈のメイド服。
「……ふーん」
ミオンは目を輝かせながらも、あくまでも最初は興味のないフリをしておく。ちょっと素っ気ない返事をした後に、ぼそぼそと。
「給仕役、やってもいいわよ……いつもお世話になってるし……」
消え入りそうな声から一転、顔を上げてビシッと言い放つ。
「感謝しなさいよねっ!」
「はいはい、頼んだ」
アルヴィンは微笑みながら、彼女の照れ隠しを受け流した。最近、彼はミオンの扱いにも慣れてきたようだ。
着替えのため、ミオンは女性店員に更衣室へ案内される。アルヴィンは喫茶店の席で待つ。
「おまたせ、アルヴィン」
上品なロングスカートのメイド服に、ヘッドドレスとリボンタイの組み合わせだ。
「どう?」
笑顔を見せながら、裾を持ち上げ優雅に一礼。それからくるっとその場で回ってみる。
「いいんじゃないか」
楽しそうな彼女の姿に、アルヴィンも朗らかなクスクス笑いをこぼした。
「! 何を頼むのかしら?」
メイドとして給仕することを思い出して、ミオンはハッと佇まいを直す。
「……ご主人様は?」
少し意地悪く、アルヴィンはメイド姿のミオンをからかう。
「むぅ……ご、ご主人様、何をお持ちします?」
「アップルパイとミルクティーを頼もうか」
「かしこまりました。……ご主人様!」
笑顔をひきつらせつつ、ミオンは調理場へ。
「どうぞ、ご主人様!」
からかわれた仕返しとばかりに、わざと音を立て注文の品をテーブルに置く。
だが、そこでアクシンデントが発生した。
「……痛っ」
足に急な痛みが走ったのか、ミオンがよろけた。
「足、痛むのか?」
ある依頼で、オーガとの熾烈な戦闘が起きた。その際ミオンは酸性雨によって負傷していた。
「大丈夫、大したことないわ……ってちょっと!」
「いーから、座ってろ」
アルヴィンは席を立ち、無理やりにでもミオンを座らせた。
「何か食べたいよな? 何がいい? 頼んでくるよ」
「立場が逆よっ、それに……私が頼んでもいいの?」
アルヴィンはただ黙ってミオンの頭を優しくぽんぽん叩いた。
「……それじゃあ、キウイムースとマスカットティーをお願いするわ」
「わかった。メイドは足を痛めていて給仕どころじゃなくなったって、俺から店の人に伝えておくから」
待つことしばし。
「お嬢様、どうぞ」
私服のままでお辞儀。まるで執事のように振る舞うアルヴィン。
「ありがとう」
ミオンはふわふわのキウイムースにフォークを入れた。
「あ、美味しい」
「それ美味いのか、ちょっとくれ」
横に立って様子を見ていたアルヴィンが、ミオンが口に運ぼうとしていたムースを強奪。腕ごとつかみ、ムースをのせたフォークを自分の口へ。
「なっ!? それ、私の頼んだムースだったのに! それに、人前なのに行儀が悪いわよ!」
「そう怒るなって」
楽しげに笑ってから、アルヴィンはこれぐらいは普通だとでもいうかのように、今度はアップルパイをミオンの口へ。
「もぐ……ん。ちょ、ちょっとっ……! ……行儀が悪いわよ、アルヴィン」
照れてうつむくミオン。
「……怪我、させて悪かった」
ぽつり、とアルヴィンが口にする。
「気にする事じゃないわ。互いの役割をこなした結果でしょ」
ミオンはアルヴィンから視線を外し、強い眼差しで虚空を睨んだ。
「うん、それでも……な」
ミオンの頭をごく軽くぽんと叩きながら。
「怪我をさせたのは悔しかった」
複雑な感情が込められた口調で、アルヴィンはミオンにささやいた。
●爽やか執事、カガヤ
『手屋 笹』は『カガヤ・アクショア』に向かって、強い口調でお願いをした。
「美人時計の時はカガヤが決めてしまいましたし、今回はわたくしに決めさせてください! カガヤ、執事服着てください!」
「笹ちゃんのメイド服見たかったのに!」
一瞬だけ、ガーンともしょんぼりともとれる表情を見せるが、カガヤはすぐに笑顔に戻った。
「仕方ない……確かにこないだのは俺が先に決めちゃったし、やってあげよう執事衣装!」
笹に手を振りながら、カガヤはバックヤードへ向かった。
着替え終わったカガヤを見て、笹は目を輝かせる。
「ふおお……さすが『燕尾服』格好いいですわね!」
得意げな顔のカガヤだったが、笹の発言内容を振り返り、ん? と首を傾げる。
「あれ? 褒められたの服だけ……?」
「あ、えー……そうですわね……普段とちょっと違う雰囲気で……」
「そうなんだよ、笹ちゃん。着てみたけど……さすがに普段の服よりちょっと窮屈? 白手袋もそわそわする……」
カガヤは少しぎくしゃくした様子で数歩ほど歩いてみせた。それから、笹の方へと振り返る。
笹はカガヤの髪型がいつもと違うことに気づいた。普段の跳ねっぱなしではなく、ワックスか何かで髪を抑え目にアレンジしてある。
「カガヤも格好いい……かもですね……」
ちょっと恥ずかしそうに、笹がつぶやく。
「へへ、そう言って貰えると嬉しいな!」
無邪気な笑顔を見せたかと思うと、カガヤは気取った表情と声に変わって。
「お嬢様、お手をどうぞ」
「そ、そんな台詞が言えたのですか……! カガヤに」
笹は目を丸くして、ちょっと感動する。
いつものカガヤとはまた違う、執事服ならではのギャップと魅力だ。
「服がこれだとちょっと身が入るというか、結構楽しいねこれ」
「何だか恥ずかしいので程々にしてください……」
そう言いながらも、笹はカガヤにその手を預けていた。
「ご注文は何にいたしましょう?」
「モンブランとアップルティーを」
「かしこまりました。笹お嬢様」
ケーキと紅茶のセットを持って、カガヤが戻ってくる。テーブルにそれらを静かに置いた後、カガヤは人懐っこい笑顔を向ける。
「お嬢様への特別サービスがございます」
「え? 特別サービス……ですか?」
カガヤはフォークを手に取ると、モンブランを小さく切り取った。
「はい。笹ちゃん、あーん」
ウィンクルムならこういった行為も普通だろう、とカガヤは考えているようだ。
「えっと、それじゃ……」
少し照れながらも、笹は小さな口を開けて、差し出されたモンブランをカガヤのフォークから食べる。
秋の味覚を取り入れたモンブランは、程良い甘さで舌触りもなめらかだ。美味しい、と笹は顔をほころばせる。
カガヤは笹の食事シーンをにこやかに見物していた。まるで可愛い生き物でも見るかのように。
「美味しい?」
「美味しい……美味しいですけど……」
アップルティーを静かに一口。リンゴの香りがふわと漂う。
「それ以上に何でカガヤはこっち見てるんですか、欲しいのですか?」
テーブルの上のモンブラン。
カガヤは喜んで頷く。
「うん! 俺もちょっと欲しいな」
「では、少し待ってくださいね」
先ほどカガヤがしてくれたように、笹はモンブランを食べやすいように一口分に切り分け、フォークに刺す。
「どうぞ」
モンブランをカガヤの前に差し出した。
「ありがとう!」
パクッとモンブランを頬張るカガヤ。
「いかがです?」
もぐもぐとケーキの味を堪能し、食べものを飲み込んでから笑顔で答える。
「ここのケーキ、美味しいね」
笹はカガヤに微笑みかけた。
ほのぼのとしたやりとりが交わされる。穏やかな時間が二人の間に流れていた。
●ご奉仕メイド、輝
『月野 輝』が『アルベルト』を誘い、朝霧館を訪れた。
「この間迷惑掛けちゃったから、お詫びも兼ねてご奉仕なんてどうかなって思ったの」
少し物憂げな微笑で輝がいう。
「この間? 別に気にしなくても良かったのですが」
アルベルトは輝とは別のことを気にしていた。輝に元気がない。なんとかして輝を元気づけたいと。
輝が衣装に着替えてやってきた。ロングスカートの正統派メイド服だ。
「その衣装は自分で選んだのですか?」
「え? うん、どの衣装も可愛かったんだけど、これが一番似合うかなって」
くるりと回ってみせる。
「どう?」
「ええ、似合ってますけど、ちょっと露出が足りませんね」
「なななな、何言って……! もうっ」
羞恥心とほんの少しの怒りで、輝の顔が真っ赤になる。
ジョークを飛ばしながらも、アルベルトは彼女の様子を注意深く見つめる。憂鬱だった輝の表情が活き活きと変わっていくことに、彼は喜びを感じていた。
「はい、ご主人様、ご注文をお願いします」
アルベルトが頼んだのは、モンブランとキウイムース、ミルクティーにアップルティー。二人分の量だ。
注文の品を持って、輝が戻ってきた。
「随分注文するのね? そんなに甘い物好きだった?」
「こっちは輝の分ですよ。さあ、どうぞ?」
アルベルトはモンブランをフォークに刺して輝の口元へ。
「え? な、何?」
「何をしているのですか? 早く口を開けなさい、輝」
やや嗜虐的な笑顔で、そう催促する。
「え、え!?」
突然のことに、輝は戸惑う。
「今私はメイドで給仕役で、だから……」
「貴女は今メイドなのでしょう? 主人の言う事は絶対ですよね?」
腹黒く。にこやかに。相手に有無をいわさずに。
「でも……」
「いいんですよ? その顔を見てるだけで私は楽しいですから」
赤面し緊張しながら、輝がおずおずと口を開ける。
「か、かしこまりました、ご主人様」
輝がモンブランを食べ終えたタイミングを見計らい、今度は紅茶のカップを手に取る。
「飲み物も飲ませてあげますから覚悟して下さい?」
ケーキもお茶もメイドの輝に「あーん」で飲食させて、アルベルトはご満悦。
「お味はいかがです?」
「ドキドキしすぎて味判らないわよ……」
「そうでしょうね」
彼女の様子を見て、クスクスと笑うアルベルト。
「……ということを輝にしてみたいのですがねぇ」
注文の品を待っている間に、アルベルトは脳内でそんなシーンをシミュレーションして暇つぶしをしていた。
人の嫌がる部分を弄ってからかうのが好きで、輝からは「腹黒眼鏡」のアダ名で呼ばれることもある彼だ。こういったちょっと意地悪なイタズラを好む一方、輝とアルベルトはまだ奥手な関係であり、先ほどの濃密な想像を実行に移すべきかで彼は迷っていた。
ふと、アルベルトは本来の目的を思い出す。
喫茶店内でメイド服姿のパートナーに主人という立場を最大限に有効活用してケーキやお茶を半ば強制的に食べさせる、というフェティッシュな行為も魅力的で捨てがたい。
が、そもそも彼がそんなことをしようと思い立ったきっかけは。
輝を元気づけるため。
注文の品を持って、今度こそ本当に輝が戻ってきた。
「随分注文するのね? そんなに甘い物好きだった?」
「こっちは輝の分ですよ。さあ、どうぞ」
フォークを差し出す代わりに、アルベルトは席を手で示した。
「? 今日のアルは、なんだか妙に優しいのね」
怪訝な顔をしつつも、輝は素直に席に座る。
「お詫びのご奉仕も嬉しいのですが、今は美味しいケーキでも召し上がってはいかがです? ご所望なら、私のムースを少し食べても構いませんよ」
「……何か企んでいるのかしら? 『腹黒眼鏡』さん?」
「ええ。企んでいますとも?」
意味深な口ぶりで微笑み返す。
口には出さないものの、アルベルトはパートナーの状態をずっと気にかけ、心配していた。
●尊大執事、ヴァルフレード
「メイドと執事体験、面白そうっ!」
『ファリエリータ・ディアル』と『ヴァルフレード・ソルジェ』朝霧館にやってきたのは、このイベントが目的だ。
「洋風の邸宅を改装した喫茶店なのね。こんなところで優雅にお茶が楽しめるなんて、ワクワクしちゃう!」
明るい声ではしゃいでいたファリエリータが、ふと指を自分の唇に軽く当てて、考え事をする。
「そんな顔して、何を悩んでいるんだ?」
「うー、可愛いメイド服も気になるから、自分で着てみたいって気持ちもあるんだけど……」
ファリエリータはポンと軽快に手を叩く。
「決めた! ここはやっぱりヴァルに執事になってもらわないとねっ! いつも偉そーだから、たまには私にかしずいてくれてもいいと思うのっ」
ヴァルフレードは腕組みをした。
「へえ? 俺をかしずかせる? それは良い度胸だな、ファリエ」
おどかすような口ぶりだが、ヴァルフレードも別に本気で怒っているわけではない。
「良いだろう。やってやるよ、執事」
「ありがとう! ヴァルの執事姿、楽しみにしてるわねっ」
微笑むかたわら、ファリエリータはメンズサイズのメイド服をチラッと一瞥した。
一度、ヴァルフレードにメイド服を着せてみようかと考えたファリエリータだが、その思いつきは却下。偉そうなヴァルフレードにメイド服など着せたら、後ですごく仕返しをされそうだ。
「それに、ね……。万が一、という場合もあるじゃない?」
ファリエリータはある可能性を考える。
もしも。もしもである。ヴァルフレードのメイド姿が、自分よりも似合っていたら……。
その時はきっと複雑な気持ちになるだろう……と。
「万が一? なんのことだ?」
「なんでもなーいっ!」
「それじゃ着替えてくるから、待ってろよ」
「うん!」
待つことしばらく。
「よお。待たせたな」
オーソドックスな執事スタイルで、ヴァルフレードが現れた。
「わぁ、やっぱり似合うわっ! ステキね」
執事の出で立ちに身を包んだヴァルフレードを見て、ファリエリータは満足気な歓声を上げる。
ファリエリータが喜ぶ様子を見て、ヴァルフレードも執事として気分がノッてきたようだ。
「ご機嫌うるわしゅう、ファリエリータお嬢様。……執事ってこんな感じか?」
「ヴァルもその気になってきたみたいね。頑張って給仕してねっ」
といったところで、ファリエリータは心配になってきた。はたしてヴァルフレードに給仕ができるのか。
なんでもソツなくこなせるイメージはあるが、偉そうな性格の彼がしずしずと給仕をする姿は、ファリエリータにはちょっと想像しづらいものがあった。
「ティータイムは何にいたしましょう?」
執事風の口調で、ヴァルフレードが尋ねる。
「えーっと、キウイムースとマスカットティーお願いねっ」
「キウイムースとマスカットティーでございますね。ご用意いたしますので、少々お待ちください」
ヴァルフレードが注文の品を持ってやってきた。
輝くトレイから、ムースをテーブルへと置く。なかなか動きが様になっている。
一方、ティーセットを使って紅茶を入れるのには、さすがのヴァルフレードも少々苦戦したようだ。単に紅茶をいれるといっても、美味しくいれるには厄介で複雑な手順がある。多少手間取ったが、カップにマスカットティーがそそがれる。
カップに口をつけて、ファリエリータは微笑んだ。
「うふふ、美味しいー。ヴァルが給仕してくれるから尚更ねっ」
ヴァルフレードがお茶を入れてくれたこと自体をファリエリータは純粋に喜ぶ。
食事を進めているうちに、彼女はヴァルフレードの分のお茶やお菓子がないことに気づく。
「まあ、私ったら」
ムースを取り分け、手を付けずキレイなままで置いておく。
取り分けられたムースには執事体験を終えたヴァルフレードが口にできるように、という思いやりが込められていた。
依頼結果:普通
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 山内ヤト |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 11月08日 |
出発日 | 11月13日 00:00 |
予定納品日 | 11月23日 |
参加者
- 月野 輝(アルベルト)
- 手屋 笹(カガヤ・アクショア)
- かのん(天藍)
- ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)
- ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
会議室
-
2014/11/12-17:01
手屋 笹です。
よろしくお願いします。
カガヤに執事…普段の雰囲気からはちょっと想像付きませんね…
だからこそ逆にやって頂きましょう。 -
2014/11/11-22:19
-
2014/11/11-20:45
ファリエリータ・ディアルよ、よろしくねっ。
うーん、メイド服可愛いけど、ヴァルに執事服着せるのも面白そうよねっ。
どうしようかしら迷っちゃうー! -
2014/11/11-12:59
…可愛い、いいなあ(並んでる服を手に取りつつ、真剣に吟味)
あ、ミオンです。
変った趣向のイベントね。
雰囲気のある館で心躍るわ、よろしくお願いします。 -
2014/11/11-12:58