ファンタスティックなレポート求ム!(木乃 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

夜19:00。

タブロスのテレビ民放局が流しているバラエティ番組『グルメちっく☆ファンタスティック』の時間だ。
この番組はタレントやアイドルにモデル、お笑い芸人やアナウンサーなど
幅広いジャンルの芸能人に食事レポート、いわゆる『食レポ』をしてもらう番組だ。

いつもクールなアイドルが好物を目の前に表情をほころばせたり、
お笑い芸人とともに激辛料理に果敢に挑むアイドルのリアクション、
大御所の渋い演歌歌手がスイーツを楽しむ強烈なギャップなどがお茶の間を賑わせる人気番組でもある。

そんな人気番組を仕切るプロデューサーの爽がA.R.O.A.にやってきたのだ!

「今度ですね、ロポッサ村の名物であるミルキーサンドをレポートしてもらおうと思ってるのですよー!」
プロデューサーは興奮したように鼻息を荒くしてわふわふと言葉を続ける。

ミルキーサンドとは、高原地帯に属するロポッサ村の澄んだ空気と綺麗な水で育った乳牛の出す濃厚なミルククリームを
同じく高原で採れた新鮮な木苺やブルーベリージャム、マロンクリームなどを使用した極上スイーツである。

しかし、このロポッサ村……最大のデメリットとして立地が究極的に悪い。
素材もよく、味も良いが材料の関係で保存も長くはもたない。
それ故に知名度も『知る人ぞ知るスイーツ』となっていたりする。

「そこで、今回はこの穴場スイーツのレポートをウィンクルムさんにお願いしようかなーって!
 市民の味方である皆さんのレポートでばバーンと注目度もアップですよー!」
しかし盛り上がる爽に反して、受け付けている職員は渋い顔を見せている。

―オーガと無関係な内容だからだ。

「おや、オーガと無関係なのにウィンクルムはそう簡単に出せないって顔ですねぇ?」
気づいた爽の顔がふふんと小悪魔的な笑みを浮かべる。
「ロポッサ村はさっき言った通り、壊滅的に立地が悪いです。
 タブロスから行くにしても2時間かかる上にそのうち1時間30分は山登りなのです」
職員の額から冷や汗がタラリと流れたのを見たとき、爽の瞳に確信めいた光が映る。

「道中でオーガが出るかもしれませんよね?撮影クルーの護衛ついでに食レポしてください!」

解説

成功条件:
食レポを成功する。

失敗条件:
食レポに失敗する。

ロポッサ村:
タブロスから馬車で2時間かかり、その内1時間半が山登りになる高原の長閑な村。
広大な高原に放牧された乳牛からとれるミルクと近くの森から収穫される果物をふんだんに使用した『ミルキーサンド』が名物。

今回はADが運転する馬車で移動、
プロデューサーはオーガが出るかもしれないと噂していますが、オーガは出ません。

プロデューサー:
名前は『爽』
黒髪青目の色白美人。
グルファンが初めて手がけた番組だが、まさかのヒット。
性格は『面白ければ良し(ただし下品と事故は許すまじ)』を信条にしている。

今回はウィンクルムを起用する為に、護衛と称して引っ張り出した。

同行クルー:
爽、カメラマン3人、AD3人が同行。
馬車も3台用意します。

ゲームマスターより

木乃です、期待の眼差しに応えて!

今回はオーガからの護衛依頼と見せかけた食レポ依頼です。
さぁ、みんなでファンタスティック!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リゼット(アンリ)

  先頭の馬車に乗って移動
進行方向と左右をアンリと手分けして警戒
敵が出た場合はトランスして対応
オーガは出ないというけど用心するに越したことはないわ
それにカメラに撮られているなら仕事をしている様子を見せておかないと悪評がたつかも

って、何してるのよこのバカ!人様にいたずらしないの!

食レポ、初めてだけどがんばるわ
なんだかやけに慣れてるように見えるアンリはなんなのかしら
様になっているからマネしてみましょう
ゆっくりとサンドイッチをカメラの向こうの人に見せてからいただきます

んんっ…!ふぁ、ファンタスティック!

やだ、恥ずかしい
でも自然とそう言いたくなる美味しさ
全部食べなくてもいいみたいだけど
これは全部食べたいわ



上巳 桃(斑雪)
  目的地まではお昼寝しようっと
はーちゃん、オーガが出たら起こしてね。ぐうぐう
落書きされても、寝たいものは寝たいし

おはよーまふー
じゃ、キルミー三度(「三度殺せって変な名前だね、はーちゃん」「主様、それは似て非なるものです」)の前に、ロッポサ村をはーちゃんと一緒に回ってみよっと
どんなところで作られてるか知っておいたほうが、食レポしやすいかもって

じゃあ、噂のミルキーサンドを食べましょ
何処で食べられるか、指定できるようなら、さっきの散歩で眺めのいい場所アタリつけておこうかな

じゃ、マロンクリームmgmg
栗の味がふわっとする
えーとこれだけじゃダメだっていうなら…
はーちゃん一口交換しない?
お、これも、おいし♪



向坂 咲裟(カルラス・エスクリヴァ)
  ●心情
ロポッサ村のミルキーサンド…おじさん、大変よ。心が躍ってしまうわ
…見えないって?あら、そうかしら
サキサカサカサは護衛も食レポも全力を尽くすわ

●道中
最後尾の馬車に一組で搭乗
クルーの皆さん、よろしくね
カルさんの隣で後方を警戒するわ
もし何かがあってミルクに辿り着けなかったら…恐ろしい事になるわね
(クルーに何か振られると本人は至って本気で応えます

村に着いたらクルーの皆さんの指示に従うわ
途中で乳牛を見れたらいいのだけれど…

待ちに待ったミルキーサンド…ああ、ミルクの白さが眩しいわ…!
ミルクは濃厚なのに後味はすっきりとして…素晴らしいわ!
ああ、ちゃんと言わないとよね。
このミルク、ファンタスティック!


菫 離々(蓮)
  長旅の疲れにはとびっきりのスイーツを

いえ今回は任務です
菫隊員、クルーさんたちをお護りします(敬礼

3台の馬車に分乗し私たちは隊列真ん中の馬車へ。
道中もカメラが回るなら風景や馬車の乗り心地をレポートです
おいしい景色もあわせてどうぞ。あ、周囲警戒を兼ねてます

ロポッサ村到着
村の様子レポそこそこに(早くまみえたいです
これが噂のミルキーサンドです!
とカメラに色んな角度で見せつけてやるです
食べられるのは困難を乗り越えた勇者一行だけなのです

お店の方のお話伺いつつブルーベリーに狙いを定めていたり
私眼鏡ですし
食感香りそして味と極々平凡なレポート担当です
完食後、大変なファンタスティックでしたと天啓を受ける気がします


◆18:56
「夕方のニュースは以上となります。次は19:00からグルメちっく☆ファンタスティックですが
今回は日夜オーガとの戦いに明け暮れるA.R.O.A.の戦士、ウィンクルムの皆さんがレポートしてくれるそうですね」
流暢な語り口で女性アナウンサーが初老の男性コメンテーターに話を振る。
「ロポッサ村という高原の村へ行ったそうですね、どんな美食が出てくるのか楽しみです。そしてウィンクルムの皆さんの反応にも注目したいところですな」
「グルメちっく☆ファンタスティックは、CMの後19:00からです!」
番組終了のBGMと共に、アナウンサーとコメンテーターが一礼する様子を背景に番組提供が流れ出した。

◆収録前
「子供ばっかりですねっ、これは私も予想外ですよ!?」
集まった8人の面子にプロデューサーの爽は驚きを隠せなかった。
上は43歳、下は8歳……その内5人が15歳以下だったのだ。
「あら、そうかしら?(って、誰が子供よ!?)」
リゼットは爽の叫びに淑やかな笑みを浮かべるが内心では遺憾だ。
「そういえば、女の子は私と同じくらいの子しかいませんね」
菫 離々も今気づいたのか、爽の指摘になるほどと両手を打つ。
「月並みなお世辞を出されても面白くないですし、ロポッサ村の皆さんにも失礼ですので。ヤングらしい純粋なコメントを頂ければっ」
ジュニア世代も起用したことがあるから大丈夫なハズ!と爽は肯定的に状況を見直す。

(俺、ゴールデンタイムに出ていい容姿じゃないような)
菫の後ろでは蓮がそそくさとフードを目深に被り、顔が出ないようにと隠す。
「およ、撮影があることはお伝えしてましたよね?」
爽が目敏く蓮の様子に気付き問い質す。
「大丈夫、どうみても虎だろ!ってテイルスのプロレスラーだって出たことあります!だから顔を隠すのはダメですよっ!?」
爽は強引に蓮のローブを引っペがそうとするのでAD3人がかりで止める事態に。

――編集時にモザイクと音声処理で隠すと、約束してもらえた。
食レポなのに『プライバシー保護の為、画像と音声に合成処理を施しております』って有りなんだろうか。
杞憂で終われば良いなぁ。(希望的観測)

「撮影はロポッサ村に着いてから開始しますので……うん、適当に警護をお願いします」
「はぁ?適当って随分な指示だな」
爽の指示にアンリが眉を顰める、依頼時には『オーガが出るかもしれない』と言っていたからだ。
「て、適当とは柔軟で即時対応ができる状態ってことですっ」
アンリの言葉に爽が目を逸らす、しかし言っていることは嘘ではない。
(1本道で村人も使っているならオーガが出ようものなら死活問題……A.R.O.A.に通報が来てない時点で誰もオーガを見てないのですよねぇ)
実はウィンクルム出演にどうにか漕ぎつけようと、爽が出したハッタリだったのだ。
(まぁ、ホントに出なかったら村の人にもイイ事ですし問題ないでしょ)
後々の言い訳も抜かりなく考えている辺り、やり手は伊達ではない。

「仕方ないわね、危険な芽を摘むついでに美味しいものが頂けると思っておくわ」
リゼットは軽く溜息を吐くと馬車へ足を向ける。
「ミルキーサンドの味は絶対保証します!直々にリサーチ済ですよっ」
爽は握り拳を作ると、力強く宣言する……どうやら人気番組の秘訣は事前リサーチして自ら美食を探り当てることにありそうだ。

菫達はそれぞれ馬車に乗り込むと、ADが御者も兼ねて手綱を握り出発する。
***
「私はテレビを見ないんだが、この番組は有名なのか?」
最後尾の馬車に搭乗したカルラス・エスクリヴァは後方を警戒しながら同乗する中年の男性カメラマンに耳打ちする。
「テレビの普及率もそんなに高くないからなぁ、見る人は見るくらいだよ」
見ている人は見る……認知度は総合的に言うとそんなに高くないようだ。

向坂 咲裟もカルラスの隣でそわそわとしている。
「……お嬢さん、お手洗いなら先ほど行っておいた方がよかったのでは」
「違うわ、警戒しているの」
渋面をみせるカルラスだが、咲裟はなんでもない風に返す。
「もし何かがあってミルクに辿り着けなかったら……恐ろしい事になるもの、だからサキサカサカサは全力で任務を全うするわ」
「それはお嬢さんだけじゃないか?」
多分、『ミルキーサンドの原料である高原の牛乳が飲みたいのだろう』と、カルラスは呆れ気味にひとつ溜息を吐いた。

***
「はーちゃん、オーガが出たら起こしてね……ぐう」
「御意、拙者にお任せあれ!」
上巳 桃は斑雪に一言声をかけると、そのままガタガタと緩やかに揺れる馬車で昼寝を始める。
斑雪もピシッと敬礼して手裏剣を手に警戒する。
それを見ていたアンリは、どこから用意したのか懐から目のシールを取り出す。
ハイライトが入ってない虚ろな眼は逆に『寝てます』アピールをしている感が否めない。
「何してるのよこのバカ!人様にいたずらしないの!」
気付いたリゼットがペシッとアンリの頭をはたき嗜める……桃はそれでも起きる様子はない。

「元気やなぁ、まだ時間かかるからあんたらもお昼寝してて構へんよ」
おっとりとした女性カメラマンが大事そうにカメラを抱えながら様子を眺めていた。
「……い、移動中は撮影しないの?」
一瞬ハッとしたリゼットだがすぐに気を取り直してカメラマンに質問する。
「カメラの充電も容量も有限やろ?肝心の食レポが撮れへんと死活問題やし、主旨は『色んな人の色んな食レポを放送すること』やからな」
(うーん、それもそうかしら?)
説明する女性カメラマンの言葉にリゼットも納得した。

「カメラマン様、質問です!ジャム工場などの見学もしたいのですが行くでしょうか!?」
「多分行くと思うで、レポートよろしゅう」
シールを貼り付けられた桃の様子に気づいてない斑雪も、確認してもらえることが分かり期待が膨らんでいた。

***
「結構遠いですね」
「大丈夫ですか、少し横になられては」
出発してから1時間30分くらい経過した頃、真ん中の馬車で移動している菫も待ち疲れていた。
蓮も見かねて横になるよう奨める。
――道中では、野生のキツネや鹿の姿こそ見えれどもオーガの姿は見えず。
生い茂る木々の中、木漏れ日と澄んだ空気が満ちた山道ではゆったりとした時間が流れていた。

「お、見えてきましたよっ」
馬車を運転するADの後ろから爽が正面を覗き込んでいると、広い高原へと馬車が入っていく。
すでに雪化粧をまとい始めた山脈を連なる山々、青々とした高山植物が感じさせる土の匂い、
そして澄み切った青空の下、広がる牧歌的な風景は都会と同じ空の下とは思えないような非日常の光景だった。
すでに放牧された牛達の姿も遠目で見ることができ、高原の風景の中に溶け込んでいる。
「あと10分くらいで着きます!これだけ見晴らしが良ければオーガが出てもすぐ解りますのでっ」
「じゃあ、お言葉に甘えて失礼しますね」
爽は『休んでいて問題ない』と伝えると菫もその言葉に甘えて横になる。

撮影まで、あともう少し。
遠巻きでは牛達が歓迎するように声高く鳴き声を上げていた。

◆高原観光
「よくぞおいで下さった、歓迎しますぞ」
白髪と年季の入った深いシワのある顔に笑みを浮かべてロポッサ村の村長が馬車から降りてきた咲裂達を歓迎する。
「もう着いたのー?」
「はっ、主様!瞼にシールが貼りっぱなしです!」
最後に桃が眠た眼をこすりながら馬車を下車する、先ほどアンリが付けたシールに気づいた斑雪が慌てて剥がしていく。
「ほほっ、長旅だったようですな。少しばかり散歩がてらに村を案内と行きましょうか?」
「イイですねぇ、ロポッサ村の紹介にもなりますし折角なのでミルキーサンドの製造工程を一緒に見学させて頂きましょう!」
村長の声に爽が目を輝かせながら続けて提案し、カメラマンに撮影の用意を始めさせる。

「い、いよいよ撮影なのね」
リゼットは髪やスカートに変なところはないか、確かめながら身なりを軽く整える。
「別にそんな事気にしなくていいのに」
しかし問題ないだろうとアンリがボソリと呟いた言葉にリゼットはジロッと目を光らせる。
「おじさん、ワタシも変な所はない?」
「ん?ああ、いつも通りだと思うが」
咲裂もカルラスに髪が跳ねていないか、など尋ねてみるが大丈夫だと返事をした。
……実際は面倒だったからとか、そういう事はないと思う。
「爽の姐さん、こういう時って進行役が必要だと思いますが誰がやるんですか?」
蓮はふと気になったことをスケジュール帳と睨めっこしている爽に尋ねてみた。
「ご心配なくっ、ADに指示メモを脇から回したりカンペを出すので!……あ。菫さん、最初だけお願いしてもいいですか?」
「はい、頑張ります」
最初は到着時の紹介、爽が簡単にまとめておいた台本を菫に差し出す。
内容は紹介してほしいことがまとめられており、台本というより資料に近かった。
「……ぐぅ」
「ほぁ!?桃さん、もう撮影ですから!キミも起こして!」
立ったまま寝始める桃を見つけ、爽が起こそうと斑雪も呼び寄せてどうにか目を覚まさせる。
安眠を阻害されてやや不機嫌になるが、ここから先も任務である。致し方なし。

***
「ぐ、グルメちっく!」
『ファンタスティーック!!』
高原に菫の号令を合図に8人の声が木霊する、いわゆるタイトルコールだ。
「今日は高原のロポッサ村にやってきました、頂上には雪が降り始めたみたいですよ」
菫が背景と化していた山々を指差して風景がカメラに収まるように向ける。
「秋の終わりを感じる光景だね」
「この自然、拙者の故郷を彷彿と致します!」
カルラスと斑雪も続けて目の前の風景にしみじみとコメントする。
「今日はこの村の名産品をレポートして欲しいって事だったなぁ、なんだっけ?」
「なんでもミルキーサンドという、極上のスイーツがあるそうですよ。俺も楽しみです」
アンリと蓮(画像と音声合成予定)のコメントで一旦締めつつ撮影は和やかに始まった。

***
最初にやってきたのはロポッサ村営牧場。
高原内に柵で囲んだ放牧地からは『んもぉ~』という乳牛の鳴き声が響き渡る。
放牧地内には上流から来る澄んだ川が縦断しており、乳牛達はそこで水を飲んでいる。
上流から流れる清水、標高の高い山々の中で自生する強かな牧草が乳牛達の健康と美味しい牛乳の生産の秘訣のようだ。

「……可愛いわ」
咲裂はのびのびと過ごしている乳牛の姿に心なしかうっとりしているように見える。
「私もお昼寝したいー」
「さ、流石に今の時期だと風邪を引きますよ」
ふぁ、と欠伸をひとつ漏らす桃が近くで寝そべる牛と寄りかかる、人間よりも高い体温が温かくこのまま眠りたくなる。
桃が寝ようとすると蓮が慌てて引き起こす。
「村長、この乳牛達からミルキーサンドのミルククリームが出来るんだろ?」
「そうです。過ごしやすい環境で生育した乳牛達はストレスも少ないからか、美味しい牛乳を出してくれるのですよ。美味しさの秘訣はもう一個ありますが……これは後のお楽しみですな」
アンリが同行していた村長に話を振ると村長もニッコリと笑みを浮かべ丁寧に解説。
笑みからは『沢山の人にロポッサ村を知ってもらいたい』という気持ちが伝わってくる。
「こ、これは益々楽しみね。次は……そう、ジャム工房に行くわよ!」
アンリの余裕のある対応をみてリゼットもそれを倣うように余裕をもったコメントを出しつつ、指示メモを確認。

***
続いて、ロポッサ村の中にあるジャム工房。
村内から漂うグラニュー糖で甘く煮詰められた果実の濃密な香りに既に胸ときめかせていた者が。

「おー!誠に綺麗です、色んな色をしてて、キラキラして宝石みたいですよね!」
斑雪は大鍋で煮詰められている木苺のジャムに目を輝かせる。
濃く鮮やかな木苺から漂う甘美な香りだけでも食欲を刺激する。
「こっちはブルーベリーですね、マロンクリームはどちらで作るんですか?」
「少し製法が違うのでここでは作れないのですが、マロンペーストと生クリームを混ぜて更に荒く微塵切りにしたマロンを混ぜます。こうする事で歯ごたえも出てマロンの甘味も存分に引き立つのですぞ」
菫の質問に村長が再び解説を入れる、想像しただけでもこちらも美味しそうだ。
「サキサカサカサは早く食べたいわ」
「待ちきれないお嬢さんもいらっしゃるので、CMの後に実食と行こうか」
咲裂は後ろ手に指示メモを隠し、カルラスは爽のカンペを見ながら次のシーンへと移す。

◆食レポ
再び高原へ戻ると、ウッドテーブルと人数分のチェアが並んでいる。
見晴らしの良い高原と赤いギンガムチェックのテーブルクロスが敷かれたテーブルはさながらキャンプのようだ。
並ぶ白い取り皿の縁にも同色のギンガムチェックだ。

席に座って待っていると、村の方からエプロンと三角頭巾を被ったマダム3人がバスケットを手にやってくる。
―バスケットの中身はお目当てのミルキーサンドだ。
籠の中にはそれぞれ木苺、ブルーベリー、マロンクリームをミルククリームと共にサンドされた長方形に整えられたサンドウィッチ。
ミルククリームに桃やオレンジなどの果物を混ぜて挟んだものもある。
パン生地とミルクの間から見える赤や紫に黄色が目にも鮮やかで、シンプルながらオシャレな印象を受ける。
カメラマンも美食を余すことなく撮そうとカメラをあらゆる角度から向けてフィルムに収めていく。
「うわぁ、ジャムとクリームの色合いも綺麗で美味しそうですね!」
「ああ、ミルクの白さが眩しいわ……!」
菫は待ちかねていたミルキーサンドに若草色の瞳を輝かせる、咲裂も大好物のミルクを濃縮したクリームに感動でぷるぷると震えている。

「じゃ、いただきまーす」
「拙者は木苺のサンドをいただきます!」
まずは年少コンビの桃と斑雪がマロンと木苺のサンドに手を伸ばす。
トーストしていないパンのしっとりふわふわな手触りに期待が胸に膨らんでいく。
じっくりと観察した桃はそのままパクリと一口入れてみた。
「もぐもぐ……栗の味がふわっとする、あと刻んだ栗がいい感じの歯ごたえ」
頬張る桃は目を細めて印象を口にする。
マロンクリームの中に入った刻んだ栗が柔らかなクリーム同士にアクセントを加え、さらに栗の風味を強めているようだ。
クリーム同士ではどうしても食感を楽しむには物足りない、刻んだ栗が食感と味のポイントになっている。
「わ、こっちは甘酸っぱい!でもミルクと合わさってとっても食べやすいです」
斑雪は木苺の甘酸っぱい酸味に口を窄める、しかしその酸味とミルククリームの相性が抜群!
濃厚なミルクの甘味は優しく木苺の酸味を中和していき木苺独特の甘味を口の中で融合していき、斑雪も思わず笑みがこぼれる。
「はーちゃんのも美味しそー、交換しよ?」
「はい!主様もどうぞ」
歯型がついた部分を裂いて斑雪と桃は互いのサンドを交換、なんとも微笑ましい光景である。

「おっと、二人で楽しむのも大事だがカメラの向こうの皆に伝わってるかな?」
アンリもおもむろに木苺のサンドに手を伸ばし、カメラマンが意図を察してカメラを寄せていく。
「こっちのブルーベリーも濃厚よ」
リゼットも倣ってブルーベリーのサンドを手に取りアンリの隣に並べる。
カメラマンがドアップで二つのサンドを撮すと、濃い紫と鮮やかな赤が純白のクリームから覗く美味しそうなサンドが。
これはかなりの飯テロ効果が期待できよう。
「代わりに俺らが頂くぜ♪」
カメラが寄っているのをいい事にアンリがそのまま口に運んでいく、視聴者も阿鼻叫喚だぜ!
「こいつは……ファンタァスティィックっ!濃厚なミルクのほっとする甘さと甘酸っぱい木苺のさわやかさが青春の日のようなノスタルジック!」
絶妙に韻を踏んでいるところが憎らしいアンリのコメント、口いっぱいに広がる甘さに思わず目を見開いている様子が誇張表現でないことを感じさせる。
「んんっ……!ふぁ、ファンタスティック!」
そんなコメントを出しているリゼットにもカメラマンはアップで収めていたことに気づき、顔が真っ赤に染まる。
「やだ、恥ずかしい!でも、自然とそう言いたくなる美味しさよ」
恥じらいを見せつつもリゼットのコメントには素直な気持ちが込められている。

「待ちに待ったミルキーサンド……!」
咲裂もようやく落ち着いて恐る恐る手を伸ばす、ミルクの濃厚な甘さと口の中で溶けていくような食感に目が潤んでいく。
「ミルクは濃厚なのに後味はすっきりとして……素晴らしいわ!でも、ミルクとは違う甘さもあるような」
「ほっほ、それは蜂蜜も混ぜているからですぞ。普通の生クリームでは時間が経つと潰れやすかったので、砂糖の代わりに使ってみたところ溶けにくくコクも出るようになったのです」
「蜂蜜……ハニーミルクというのも中々いいわ」
ミルク通の咲裂ならではの気付きだろう、村長も隠し味に気付いてもらいご満悦だ。
「ふむ……果物の酸味が全体の甘さを引き締めていてとても……ファンタスティックだ」
カルラスは味を確かめるようにゆっくりと咀嚼していく、咲裂のことだからミルクのことしか言わないだろうと踏んでのことだ。
「荒く漉した果物も食感となり、濃密なジャムの味わいの一助となっていそうだ。パンのふわふわした生地も口当たりに優しい」

「スイーツってオシャレ過ぎると気後れしますけど、ミルキーサンドはシンプルで食べやすいですね」
菫も狙っていたブルーベリーサンドをササッと手に取ると見た目もじっくり観察。
山脈の雪化粧を思わせる白いパン生地、蜂蜜で黄色がかったミルククリームに煮詰められて色濃く染まるブルーベリージャム。
蓮もじっくりと見た目で吟味してマロンをチョイス、こちらも黄色いマロンクリームに混ぜられた刻みマロンがキラキラと光っている。
カメラのレンズに向かってゆっくりと二つに割ると、中のクリームが割るときの圧力でトロリとこぼれ落ちそうになる。
(何を食っても美味しく感じるのは自覚がありますけど、上質なものが更に美味しい事くらいは解ります)
ゴクリと生唾を飲み込みながら蓮が割ったマロンサンドをゆっくりと口に入れる。
一口、二口とゆっくり噛み締めれば噛み締めるほど口の中にクリームが溶けていく、残った栗の歯ごたえがさらに甘味を感じさせる。
「濃厚……ファンタスティック……ッ!!」
漢・蓮、20歳。悪食なれども美食に心を震わせる。

「食べられるのは困難を乗り越えた勇者一行だけなのですね……ミルキーサンドの開発秘話、みたいなものってあるんですか?」
菫はしみじみとしながらミルキーサンドを噛み締め、これまで案内してくれた村長に質問。
「ロポッサ村の良い所を集めて、色んな人に知って頂けたらなぁと。最近だとスイーツが流行りということで乳牛や自然の力を借りて美味しい名物を作ろうという事になったのですよ」
今回はウィンクルムの皆さんのおかげで、もっと多くの方に知ってもらえるだろう。
そう語る村長の笑みはコメントの数々に感無量といった様子で、語る声も涙混じりだった。

三種のミルキーサンドは馬車での移動で疲れたウィンクルム達を満足させるには充分だった。
高原でのびのび育った元気な乳牛から採れた牛乳を使った、口溶けのよい蜂蜜風味のミルククリーム。
山々の自然を力強く耐え抜いて甘く実らせた果実を甘く煮立たせたフルーツジャム。
記憶に残る『極上の味』と言っても過言ではないだろう。

◆帰路
ロポッサ村から再び馬車で移動し、市街地へと到着した。
帰り道もオーガの姿はなく、時刻は夕暮れとなっていた。
「今日はありがとうございました!おかげで良い映像も一杯撮れましたよー」
爽も撮影が無事終了してホッと胸をなでおろしていた。
「ロポッサ村の皆さんも良い宣伝になったと喜んでおりましたよ、また機会がありましたらお願いしますね!」

数日後、放映されるとテレビ局に問い合わせが集まった。
―その殆どが、ロポッサ村への行き方を確認するものだった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木乃
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 日常
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 通常
リリース日 11月05日
出発日 11月11日 00:00
予定納品日 11月21日

参加者

会議室

  • [16]菫 離々

    2014/11/10-23:55 

  • [15]上巳 桃

    2014/11/10-23:34 

  • [14]上巳 桃

    2014/11/10-23:33 

    じゃあ、私はぐっすりお昼寝をry

  • [13]菫 離々

    2014/11/10-22:23 

    はい。よろしくお願いします。
    では私とハチさんは隊列真ん中の馬車に乗りますね。
    異変があればすぐに対応できるようにしておきます。

  • [12]リゼット

    2014/11/10-22:14 

    後ろから襲われるようなことがあればアプローチで足止めしてくれたら助かりそうだな。
    前から来られると全部ぶちぬいて行かれる可能性もあるから使うのはやめといた方がいいか。
    敵はオーガだけとは限らんし、後ろの警戒だけは一応しといてくれ。

  • [11]向坂 咲裟

    2014/11/10-21:59 

    じゃあ、私たちは最後尾の馬車に乗るわね。
    アプローチを使う機会があれば、真ん中の馬車より後ろで引き付ける方が良いでしょうし。
    …いいかしら?

    ええ、ファンタスティックな一日にする為に、
    サキサカサカサは全力を尽くすわ。

  • [10]リゼット

    2014/11/10-21:27 

    そしたら俺らは先頭の馬車に乗るようにするな。
    二組乗るなら前を固めといた方がいいだろうし。

    さて、そろそろ腹減らしとくか。
    ファンタスティックな一日にしようぜ。

  • [9]菫 離々

    2014/11/10-02:50 

    離々:
    あ、桃さんがそれで構わないのでしたら。

    馬車は3台なので、
    アンリさん達と桃さん達で同乗して頂いて、
    他2台にそれぞれ1組ずつ乗りこめばいいでしょうか?

    蓮:
    困ったときにはファンタスティック。万能魔法ですね。
    味覚がちょっといかれ気味の俺にも朗報です。
    ファンタスティックしときます。

  • [8]上巳 桃

    2014/11/10-01:11 

    >アンリ
    あー、そうしてくれると助かるなーありがとう。
    よしっ。これでぐっすりできるっ。
    (落書きされても、寝たいものは寝たいタイプ)

    おひるねふぁんたすてぃっく

  • [7]向坂 咲裟

    2014/11/09-23:03 

    挨拶が遅くなってごめんなさい。
    ワタシは向坂咲裟よ。精霊はロイヤルナイトのカルラスさん。よろしくね。

    2時間の道のりは大変よね。別に寝てもいいと思うわ。
    警戒している事をアピールするなら交代で警戒すればいいと思うのだけれど…3台も馬車があるからどうかしらね。

    食レポの際にファンタスティック…楽しそうで良いわね、了解したわ。
    おじさんが嫌そうにしているけれど、言うと思うわ。多分。

    >口に合わなくてもファンタスティック
    それで大丈夫じゃないかしら?嫌と感じると感想は上手に出て来ないもの。
    でも、きっと美味しいんでしょうね。ミルクは濃厚で…爽やかで…楽しみだわ。

  • [6]リゼット

    2014/11/09-22:37 

    おぉ、いいねぇ。みんなでファンタスティック!
    食レポなんだから、もしマズかったり口に合わなかったりした場合でも
    とりあえずファンタスティックっつっとけばいける?
    別に寝てても構わんぞ桃?
    ちゃんと俺がまぶたに目を書いておいてやるからな。

  • [5]上巳 桃

    2014/11/09-21:08 

    Σ( ̄□ ̄;)

    …………(移動中、思いっきり昼寝するつもりだったらしい)

  • [4]菫 離々

    2014/11/09-03:46 

    スミレ・リリと、精霊はシンクロサモナーのハチスさんです。
    桃さん、斑雪さんはまたご一緒ですね。
    今回は年の近そうな神人さんたちでちょっと嬉しかったりします。

    そうですね……、
    所要時間が長いので馬車内でもカメラは回るかもしれません。
    いちおう私たちは護衛任務で来ていますから、
    それらしい“格好”は付けた方がいいかなとは思います。

    あとは番組名でもある「ファンタスティック」は
    食レポに盛り込んでおこうと考えています。
    みんなでファンタスティック! ですからね。

  • [3]菫 離々

    2014/11/09-03:44 

  • [2]上巳 桃

    2014/11/08-22:48 

    どもー、ジョウシモモとハダレでっす
    離々ちゃんはよく会うね-、他の方もよろしくでーす。

    食レポでなにか打ち合わせしたほうがいいことあるかなあ?
    マロンが美味しそうだにゃーん。

  • [1]リゼット

    2014/11/08-21:23 

    ミルキーサンドっ、ミルキーサンドっ。
    おっとスマン。食いもんに思いを馳せすぎた。
    アンリだ。よろしくな~。
    オーガのことは…まあそんなもんどうでもいいか!
    馬車をまもりまーす、ぐらいでいいだろ。


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