プロローグ
タブロス市内の一部で、機械がらみの奇怪な事件が頻発していた。
電気のスイッチが突然オンオフしたり。
いつの間にかネットゲームに課金していたり。
とても大事なデータが跡形もなく消えていたり……。
中でも一番大きな騒ぎとなっているのは、人々のちょっと恥ずかしいシーンをとらえた盗撮事件だった。
しかし問題の写真が映っているカメラの所有者たちは、誰もが口をそろえて身に覚えがないと無実と潔白を主張している。
やがて一人の妖精研究者が、トラブルの原因を突き止めた。
「タブロスで起きている騒動の真犯人がわかりました! グレムリンですよ! 奴らの仕業です!」
グレムリン。身長20cmほどの小人型のネイチャーモンスターだ。面白がって機械を壊したり勝手に操作するという悪いクセがあり、文明化社会にとっては有害な存在である。
グレムリンを捕獲すれば、妖精研究者が引き取ってくれるという。
何匹かのグレムリンが捕まったが、それでもタブロスにはまだグレムリンたちが潜んでいる。被害もおさまらない。
またグレムリン騒動に便乗して、隠し撮りをする者も出てきた。罪をグレムリンになすりつける腹積もりのようだ。人間ってズルイ。
さて。グレムリンのせいで町にピリピリムードが漂う中、ついにウィンクルムたちも被害にあってしまった……。
しらぬ間に写真を撮られるのは、気分が悪い。
身に覚えのない罪で責められるのは、腹立たしい。
これは一波乱ありそうな雲行きだ。
解説
・必須費用
グレムリンによる損害:1組300jr
・プランについて
イタズラ好きな妖精グレムリンの間で、人間たちの恥ずかしい写真を撮影するのがブームに。
今回、ウィンクルムもイタズラの被害にあってしまいました。気まずい状況から仲直りをするのが、このエピソードの主旨です。
妖精研究者が注意をうながしていますが、神人や精霊がグレムリン騒動の情報をどれだけしっているかは、PLさまにお任せします。
・写真を撮られた側と、グレムリンに携帯やデジカメなどを操作された側
・どんな写真を撮られてしまったのか
・そのせいで二人の関係がどのようになったのか
この三点をプランに必ず記載してください。
恥ずかしい写真といっても、過度にセクシーな内容になりすぎないようにお気をつけくださいね。ギャグ的な意味で恥ずかしいシーンでもOKです。
・難易度について
ケンカと仲直りが醍醐味のエピソードです。上手く仲直りができなかった場合は失敗となります。
状況によって、精霊がウィッシュプランどおりに行動してくれない可能性もあります。とはいえプランが全く採用されないというわけでもないので、ウィッシュプランは普段どおりの書き方で問題ないと思います。
頼りになるのは神人のアクションプランです!
ゲームマスターより
山内ヤトです!
グレムリンのイタズラのせいで、ペアの間に不穏な空気が流れるかもしれません。
それでも最後には丸く収まるような、ハートフルなプランをお待ちしています。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
※神人はグレムリン騒動のことを知りません (神人の部屋、精霊と2人きり。タブレット端末を操作しながら) これはルルアンちゃんの誕生日会に撮った写真、これは初めてラフティングをした時に撮ったやつだね ふふ、懐かしいな あとこれは……きゃあああ!?(精霊の入浴シーンが写った写真を見て慌てて画面を閉じる) どど、どうしてこんな写真が(赤面) ちが、違うよ、エミリオさん! 私そんなことしないよ!うわあああっ(毛布を被り部屋の隅っこに縮こまる) ひっく…ごめん、ごめんね、エミリオさん こんな写真撮られて嫌な思いしてるのに、カッコイイなって思っちゃった…私いやらしい子だね、ごめんなさい…っ ☆関連エピ No.10、No.12 |
篠宮潤(ヒュリアス)
●任務帰り・大通りを歩く中 家に連絡を入れようと携帯取り出した所ボタン操作誤り 「…え!?」 覚えのない精霊の写真数枚 思わず隠そうとするもすぐ見つかる ●ぼ、僕じゃない、よ! 「っだから、違うん…だ!」 どうして、信じてくれない…の? 互いに背を向け反対方向へ去る間際 僕は…今までヒューリに、自分のことをどれだけ話しただろう このままじゃ僕は、何も変われない…? ●無意識に踵を返し 「何も、伝えようとしないで…ごめん…」 「僕、は…ヒューリの口から、知りたいって思ってる、から! 無断で隠れてなんて、しない…絶対したくない…んだっ」 いつでも言っていい、の? 「怖かった…よっ」←安堵の八つ当たり 写真は消しておく いつか直に、ね |
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
【写真を撮られた側】 任務に持っていく彼のデジカメのデータ整理をしている時、私の着替え中の写真を発見しました 監視されている?…「私」は信用できませんか 「ハロルド」と違うからですか 「私」の孤独は誰も知らない これまでの事、周りの人の事を頭ではわかっています…ただ実感が湧かないだけなのに 皆さん「ハロルド」が良かったんですか 貴方も皆さんも「あの人達」と同じなんですか? 自分が思い描く「ハロルド」と違うと手のひらを返して「私」を避ける 皆いなくなるなら 心にかすりもしない自己満足の綺麗事を吐かれるより …黙って嫌われるほうがマシです 今はすぐに誰かの言葉は信じられない だけど…ディエゴさんは信じたい あなたを信じます |
Elly Schwarz(Curt)
その日の午前中1人で夕飯の買い物をしており、携帯に見向きもしなかった。 ただ写真の場面をその場で見かけており、その時はすぐ逃げた。 注意は聞いておらず、彼に指摘されて初めて確認。 写真の内容について】 ・彼と自分以外の女性が写ってる。 ・女性の美人さに目が行ってしまう。 こ、れは…。 (…この女性、改めて素敵な方です… お似合い…なんて思いたくないですが、美男美女ですね…) 行動】 ・話を聞く そうだったんですか。 (クルトさんにもありますよ、ね。) ・湿布を貼りつつ い、痛そうです…今湿布を貼りますね。 でも美人さんまで振ってしまうなんて …へ?そうなんですか?? (意外な事まで聞けて、なんだか先までの気持ちが嘘のようです) |
楓乃(ウォルフ)
ただいまー。あれ?部屋のドアが開いてる… え?(机に散乱した写真に驚く) ウォルフと出かけた時にとった写真… そういえばウォルフ、デジカメの写真現像してたっけ。でも、どうしてこんな… (1枚だけぐしゃぐしゃになっている写真に気付く) …!!私、こんなの撮ってない…!どうして?! (部屋を飛び出し隣の部屋へ) ウォルフ!いるんでしょ?お願い、開けて! 違う、私こんな写真撮ってない…! ウォルフがされて嫌な事は絶対しないよ! どうしても信じてくれないなら… (部屋から古びた写真を持ってくる) 私の嫌なものもウォルフにあげる! 病気で何もできなかった時の私が写ってる 誰にも見られたくない、私の一番嫌いな姿… …信じて、くれるの? |
タブロスの一部で、妖精グレムリンによる盗撮事件が多発している。ウィンクルムたちも、妖精のイタズラに巻き込まれてしまった。
このトラブルが、二人の関係にどんな変化をもたらすのか。
運命を握る鍵は、神人のアクションだ。
●彼女のとった行動は、赤面と涙
『ミサ・フルール』は自室でゆっくりとくつろいでいた。同じ部屋には『エミリオ・シュトルツ』の姿もある。神人の部屋で二人きり。それぐらいミサとエミリオは親密な関係ということだ。
ミサはいつものようにタブレット端末を操作していた。
「これはルルアンちゃんの誕生日会に撮った写真」
病弱な少女ルルアンの誕生日パーティーで、皆と記念撮影をした。
「これは初めてラフティングをした時に撮ったやつだね」
急流下りの後に川原でバーベキューを楽しみ、ミサとエミリオのツーショットを仲間が撮ってくれたのだ。
「ふふ、懐かしいな」
ミサは笑みをこぼした。写真を見れば、その時の思い出が鮮やかによみがえる。
「あとこれは……」
端末を操作していたミサの手が、ピタリ、と停止。
「きゃあああ!?」
可愛らしいミサの悲鳴が上がる。
「どど、どうしてこんな写真が……?」
グレムリンのイタズラによって、ミサの端末に勝手に写されていたもの。それはエミリオの入浴シーンの写真データだった。細身だが筋肉のついた上半身が映っている。きわどい箇所はしっかり隠れているものの、シチュエーションやアングル的にこれはどう見ても盗撮写真にしか見えない。
タブロスで起きているグレムリン騒動をしらないミサは、ひどく混乱した。
「俺の裸に興味があるの?」
「ひゃあっ!? エ、エミリオさん!?」
同じ部屋にいる以上、ミサの動向は彼にも筒抜けだった。というよりエミリオは、赤面して慌てふためくミサの言動をしばらくの間じーっくりと堪能していたのだ。
「まさかミサがこんなことするなんて思わなかったな」
「ちが、違うよ、エミリオさん!」
エミリオのイジメっ子モードのスイッチが入った。ちなみに彼はグレムリン騒動のことをしっている。
「俺に隠れてこんな写真を撮って……。わぁー、ミサってば、いやらしい~」
エミリオは意地悪そうな笑みで、ここぞとばかりにミサをからかう。好きな相手に対しては、こんな風にイジメてしまうのが彼のクセだ。
しかし、エミリオはミサのことをからかいすぎてしまったらしい。
「私そんなことしないよ! うわあああっ」
「ミサ!?」
ミサは毛布を被って部屋の隅で縮こまってしまった。
「ひっく……ごめん、ごめんね、エミリオさん。でも私、そんな写真撮った覚え、本当にないんだよ……。ひっく……、本当だよ……?」
「泣いて……るの?」
ミサの嗚咽に、エミリオは息を呑む。
エミリオから理不尽にからかわれ、涙をこぼしながらも謝るミサ。
そのいじらしい姿を見て、エミリオの胸は高鳴った。
「ごめん。ミサの反応が可愛くて、つい意地悪したくなったんだ」
謝る。ミサを泣かせるのはエミリオの本意ではない。
「ミサがこんなことする子じゃないって分かっているよ。どれだけ一緒の時間を過ごしてきたと思っているの? 俺達……恋人、でしょ」
毛布を被ったミサの隣に、エミリオがしゃがみ込む。
「ミサ?」
「こんな写真撮られて嫌な思いしてるのに、エミリオさんのこと、カッコイイなって思っちゃった……私いやらしい子だね、ごめんなさい……っ」
まさかミサからこんな発言が飛び出すとは、エミリオにとっても予想外だった。
「そ、それは……っ。俺だってその……ミサの全てがみたいって思うことあるし……ああ、もう何を言ってるんだ俺は……っ」
エミリオの顔が赤くなる。そのまま勢いで、毛布ごしにミサをぎゅっと抱きしめる。
「イタズラ好きな妖精グレムリンって知ってる?」
「グレムリン?」
「そう、これはソイツの仕業。だからもう泣かないで」
ミサの涙をそっと指で拭う。
「また写真撮ろうよ。俺お前との思い出たくさん欲しい」
「……うん!」
すっかり笑顔に戻ったミサは、明るく頷いた。
●彼女のとった行動は、勇気ある宣言
『篠宮潤』と『ヒュリアス』はA.R.O.A.からの任務を終えて、タブロスの大通りを歩いていた。
家族に連絡を入れようと、潤は携帯を取り出した。無事に任務を終えた安心感からか、ボタン操作をうっかりミスしてしまう。
「……え!?」
そして携帯の画面に表示された画像を見て、潤は反射的に声を出していた。
無理もない。ヒュリアスの睡眠や食事シーンを隠し撮りした写真が、しらない間に自分の携帯に記録されていたのだから。
混乱しながらも、潤は慌てて携帯を隠そうとする。
「今何を隠したのかね」
ヒュリアスはあっさりと潤の手から携帯を取り上げる。潤の挙動がどうも妙だと、彼は気づいていた。
「これは……」
ヒュリアスの目が見開かれる。まずは驚き、次に困惑、最後にはハッキリとした軽蔑の視線が潤に向けられた。
「ぼ、僕じゃない、よ!」
「俺のことを知りたいと言っていたが……こういう手段なのかね」
ヒュリアスの声のトーンが一際低くなっている。
「っ……だから、違うん……だ!」
潤はノドに言葉が張り付くような感覚を覚えた。息苦しさを感じながらも、それでもなんとか言葉を押し出す。
「写真の内容は気にしていないが……。まさか盗撮とは。姑息な行為には、呆れ果てる」
ヒュリアスは明らかに怒っていた。無実を訴える潤の話も、信じてはいないようだ。
「僕じゃない……」
うつむきながら、消え入りそうな声を出すのがやっとだった。
険しい表情で腕組みしながら、ヒュリアスは潤を眺めている。
「このままでは、俺は……これ以上やっていけんかもしれん」
潤の体がこわばった。
「……すまん」
ヒュリアスが唐突にこぼした謝罪の言葉。それは今はこの場にいない誰かに対して向けられたものだった。
荒々しくため息を一つつき、ヒュリアスは潤に背を向け、この場から立ち去ろうとする。
「どうして、信じてくれない……の?」
去り際に彼は一言。
「ウルだから信じる、と言える程まだお前の内面を知らんのだよ」
「っ!」
その言葉に、潤は弾かれたように顔を上げた。
ウィンクルムになってから、今までヒュリアスにどれだけ自分のことを話しただろうか。
「このままじゃ僕は、何も変われない……?」
潤は無意識の内に踵を返し、ヒュリアスの背に必死で語りかけていた。
「何も、伝えようとしないで……ごめん……」
その声は少し途切れがちで震えていたが、まぎれもなく潤自身の言葉だった。
「僕、は……ヒューリの口から、知りたいって思ってる、から! 無断で隠れてなんて、しない……絶対したくない……んだっ」
潤はヒュリアスの背中を見ながら祈る。自分の言葉が、パートナーの心に届いてくれるようにと。
「ウル」
潤の言葉で、ヒュリアスが振り返る。彼は少し驚いたような顔をしていた。普段はあまり自己主張をしない潤が放った必死の言葉。それはちゃんと彼に届いたようだ。
「分かった」
険しかった彼の顔が、温かな微笑へゆっくりと変わっていく。もう険悪な空気はなくなり、ヒュリアス本来の理知的で穏やかな雰囲気に戻っていた。
潤のそばへ、ヒュリアスが歩み寄る。
「言いたいことは言えば良い。いつでも、な」
「いつでも言っていい、の?」
潤はヒュリアスの顔を見上げる。なら、すぐにでも言いたいことがあった。
「怖かった……よっ」
怒っていたヒュリアスはとても怖かった。
「すまん。俺も少々……見限るのには早かったかね……」
ヒュリアスは潤の背中を優しく叩く。
妖精によるアクシデントは、二人の絆を深めることになった。
それは、潤が勇気を持って一歩踏み出したからだ。
数日後……。
「グレムリンが機械を使って、勝手に盗撮? ……そのウワサは本当なのかね?」
グレムリン騒動の真相を聞いたヒュリアスは、潤の無実をしると同時に、深い罪悪感にさいなまれることになるのだった。
●彼女のとった行動は、決意の上の開示
怒りに満ちた声が室内に響く。
「なんだよ……これ……っ!」
グレムリンのイタズラは、『楓乃』と『ウォルフ』のペアに深刻な影響を与えた。
「アイツ……こんな写真撮ってたのか!?」
ウォルフが手にした写真に写っているのは、彼がバンダナを外した時の姿。
「オレが……この耳嫌いなの知ってるはずだろ……!? なのに……なんで……」
獣の耳は、テイルスの基本的な身体特徴だ。だが、ウォルフは自分の耳を嫌っていた。普段はバンダナで耳を隠し、人目にはさらさないようにしている。
よりによってグレムリンは、ウォルフの心を一番傷つける写真を撮影したようだ。そしてウォルフの怒りの感情は、楓乃へと向けられる。
「アイツがオレのこの耳を好きだって言ってくれた時はすっげー嬉しかった……」
ある依頼で作戦を成功させるため、ウォルフは獣の耳をさらけ出したことがある。
「でも、面白がって撮ったんだとしたら、オレ、アイツのこと信じられねェ! 信じたくねーよ! 楓乃のやつ、最低だっ!」
乱暴に写真を丸めると、ウォルフは隣の部屋に移り、ガチャリと鍵をかけた。
「ただいまー。……ウォルフ?」
しばらくして、外出していた楓乃が帰宅する。なんとなく違和感に包まれて、楓乃は家の中を見渡す。
「あれ? 部屋のドアが開いてる……」
開け放たれたままのドアに手をかければ、すぐに異様な机の惨状が目に入る。
「ウォルフと出かけた時にとった写真?」
そういえば、と楓乃は思い出す。ウォルフがデジカメの写真を現像していたことを。
「でも、どうしてこんな……」
ふと楓乃の指が止まる。一枚だけ、グシャグシャにされた写真がある。
一瞬の躊躇の後、写真の内容を確認して、楓乃はひどく狼狽する。
「……!! 私、こんなの撮ってない……! どうして!?」
その疑問に答える者は誰もいない。
楓乃は部屋を飛び出し、隣の部屋のドアをノックする。
「ウォルフ! いるんでしょ? お願い、開けて!」
「オレはオマエと話したいことなんてねぇよ」
返ってきた言葉はゾクッとするほど冷ややかで。
「違う、私こんな写真撮ってない……!」
固く閉ざされた扉越しに、楓乃はありったけの声で叫ぶ。
「ウォルフがされて嫌な事は絶対しないよ!」
だが、ウォルフは楓乃の言葉を素直に受け取れずにいた。
「オマエのデジカメから出てきてんだ……! 信じろって言われても信じられるかよ!」
たしかに状況だけ見れば、楓乃がこっそりウォルフの耳を撮ったとしか思えない。そして楓乃もウォルフも、タブロスを騒がすグレムリンのことをしらなかった。
しばらくの間、信じてほしい、信じられない、のやりとりが堂々巡りする。
「ウォルフが……どうしても信じてくれないなら……」
このままでは埒が明かない。楓乃は何かを決意した。自分の部屋から古びた写真を持ってくる。
「自分の嫌な姿を撮られるのは、悲しいよね……。その気持ち、私もよくわかる」
ドアの隙間から、楓乃は古い写真を滑りこませる。
「私の嫌なものもウォルフにあげる!」
「!! オマエ……! 嫌なものって……それは……」
「病気で何もできなかった時の私が写ってる。誰にも見られたくない、私の一番嫌いな姿……」
幼少期の楓乃は病気で目が見えなかった。彼女が視力を得たのは、神人として顕現してからだ。
ドアの向こうでウォルフの気配がした。
静かにドアが開かれる。
「悪ィ……、楓乃。そこまでオマエを追い込むなんて、オレ、何やってんだろうな……」
「……信じて、くれるの?」
「楓乃こそ、あんなに疑ったオレを許してくれんのか?」
目に浮かぶ涙をそっと拭ってから、楓乃は頷いた。
「もちろん。これからもよろし……きゃっ?」
急に引き寄せられ、楓乃は小さく声を上げる。
「ありがとうな、楓乃。……ありがとう」
ウォルフは楓乃の体を抱きしめる。
今の二人の心の結びつきと同じぐらい、強く。
●彼女のとった行動は、本音の吐露
その名前が適切であるかは別問題として、便宜上彼女のことは『ハロルド』と呼ぼう。
『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』は室内でハロルドと対面していた。
ディエゴが所有しているデジカメのデータ整理をしている際に、ハロルドの着替えを写した写真が見つかったのが事の発端だ。
「監視されている? 『私』は信用できませんか。『ハロルド』と違うからですか」
「いや。それは誤解だ」
ディエゴはグレムリン騒動の情報をしっていたため、冷静に対応ができた。誤解を解くために、ハロルドにグレムリンのことを説明する。
しかし、ハロルドに渦巻く思いは、そういった説明では解決されないようだ。
「『私』の孤独は誰も知らない。これまでの事、周りの人の事を頭ではわかっています……ただ実感が湧かないだけなのに、皆さん『ハロルド』が良かったんですか」
機械的な口調で、ただただ自分の思いをディエゴにぶつける。それは彼女の本音だった。
もともと記憶喪失だったところをディエゴに保護された彼女は、トラオム・オーガ討伐の依頼で再び記憶を失うことになった。
「貴方も皆さんも『あの人達』と同じなんですか?」
ディエゴには、彼女が涙は流さずに泣いているように見えた。
「自分が思い描く『ハロルド』と違うと手のひらを返して『私』を避ける」
ディエゴは、自分が無意識に今と前の彼女を比べていたことに気づかされた。
「俺は……」
「皆いなくなるなら、心にかすりもしない自己満足の綺麗事を吐かれるより、……黙って嫌われるほうがマシです」
ディエゴは気づいた。この状況に、自分が想像以上に絶望していることに。
状況は悪い方向へと進行していた。
今の彼女に、相手を気遣うだけの余裕がないのは仕方がないことだった。
だがディエゴの心とて鋼鉄でできているわけではない。
深い絶望のふちにいるディエゴは、何もいえずにいた。彼女にどんな言葉をかけても、心にかすりもしない自己満足の綺麗事と受け取られてしまうのではないか、という気がして。
取り付く島もないハロルドの態度を目の当たりにし、それでも彼女の全てを受け入れて前向きに接していくのは、現状のディエゴの精神状態では困難だった。
重苦しい空気に、ディエゴの手が無意識にタバコ「ロンリーキングダム・ライト」に伸びる。ハッとして、彼はタバコから手を放した。
「冷静に話し合いができる状態とはいいがたいな。……すまないが、俺に心を落ち着かせるだけの時間をくれないか?」
ハロルドからは承諾も否定も返ってこない。
しばしの沈黙の後、ディエゴの足はフラリと部屋の出口へ向けられる。
背中にハロルドの視線を感じながら、ディエゴは外に繋がるドアノブに手をかけた。
……ここで決別すれば、さらに絶望するだろう。
ギリギリのところでディエゴは踏みとどまる。
「……不安にさせてすまない。どう接していいかわからなかったんだ」
「不安……? 私は不安だったのでしょうか」
ハロルドは自分の腕で自分を抱擁した。
ディエゴは彼女を抱きしめたくなったが、絶望と恐れが彼を躊躇させた。
皮肉にも、この部屋にとどまったのと似た理由で、ディエゴはハロルドに触れることができなかった。
……ここで拒絶されたら、さらに絶望するだろう。
「今はすぐに誰かの言葉は信じられない。だけど……」
ハロルドは静かにディエゴを見つめている。
二人の間には数歩分の距離がある。この距離を埋めるために、これからどれだけの時間がかかることだろうか。
今回二人のケンカが最悪の事態にまで発展しなかったのは、今の神人の行動の成果ではなく、過去の神人が築いた親密さがあったからだ。そういう意味でも、今のハロルドとディエゴが絆を結んでいくのは、困難な道のりといえるだろう。
ディエゴは考え事をしていた。一度割ろうとした、勿忘草の鉢植え。あの花を咲かせて、彼女に見せよう。彼はそんなことを考えていた。
●彼女のとった行動は、穏やかな手当て
その日、『Elly Schwarz』は夕飯のための買い物をしていた。
「あれは……?」
彼女が町を歩いていると、偶然『Curt』の姿が目に入った。何気なく近づこうとして、足が止まる。
クルトは派手な美女といっしょにいる。
ただの知り合いという関係ではなさそうだ。顔見知りや友人という言葉で済ませるには、女性の方がやたらとクルトに対してベタベタとくっついているようだった。
「……」
気まずさを感じて、エリーはクルトに声をかけることなく、その場からそっと逃げるように立ち去った。
この時エリーは、特に携帯には見向きもしなかった。
その後、自宅でクルトがこんなことを言い出した。
「ウワサで聞いたんだが、タブロスにグレムリンが出没しているらしいぞ」
「へえ。グレムリンですか?」
クルトが頷く。どういうわけか、今日の彼はずっと横を向いている。
「なんでもグレムリンたちは、人の恥ずかしいシーンを勝手に撮るイタズラをするらしい。何か面白いものが写っているかもしれないな」
「えっ、それは大変ですね……。変なものが写ってないと良いのですが……」
楽しげに携帯をチェックするクルトとは対照的に、真面目なエリーは心配そうな面持ちで携帯のデータを確認する。
「あ、こ、れは……」
エリーは困ったような顔をすると、クルトにおずおずと携帯を差し出した。
「グレムリンの仕業……です」
クルトの顔から、笑みが消えた。
「……っ!? よりによってそんな場面を撮るか!? グレムリンの野郎、見つけたら潰す」
買い物の途中でエリーが目撃した、あの現場がバッチリと写されていた。
エリーはしげしげと、クルトと見知らぬ女性のツーショットを眺める。
ステキな女性だ、とエリーは素直にそう思った。クルトとお似合い……などとは思いたくはないが、美男美女の組み合わせだと認めてしまう。
「エリー! ……その女とは、数年ぶりに偶然出くわしただけなんだ。俺にとっては過去の相手。黒歴史だ」
「そうだったんですか」
少し悲しげな表情を時折見せながらも、責めるでも追求するでもなく、エリーはクルトの話に耳を傾ける。
「コイツは昔の知り合いだ。昔の俺は荒れていて、そう言う知り合いは結構いた」
実際、エリーと出会う前のクルトはかなりすさんでいた。
「今は全員と縁を切ったが」
ずっと横顔を向けていたクルトが、隠していた側の頬をエリーに見せる。
「その代価がこれだ」
彼の頬は赤く腫れている。女性の手形がクッキリと残されていた。さぞかし手ひどく引っ叩かれたのだろう。
「い、痛そうです……」
見ているだけで自分の頬までヒリヒリしてきそうな、激しいビンタ痕だった。彼の痛みを想像して、エリーは少し顔をしかめる。
「今湿布を貼りますね」
クルトの痛みをやわらげるため、手早く治療の準備をする。
「……悪いな」
手当てを受けながら、クルトはエリーに、礼とも謝罪ともとれる一言をこぼす。
「いえ。でも美人さんまで振ってしまうなんて」
「美人だろうが俺に気持ちが無ければな」
クルトはエリーの方を見て、微笑を浮かべた。
「案外一途だぞ? ……っ、痛……。アイツ、力いっぱい叩きやがって」
「……へ? そうなんですか?? クルトさんが一途??」
「なんか引っかかる言い方だな」
「初対面での印象は最悪でしたから」
ちょっぴり毒舌を投げかける。エリーも本気で怒っているわけではない。その証拠に、彼女は朗らかな笑顔を浮かべてクルトを見つめていた。
彼の過去の女性関係を垣間見て、多少落ち着かない気持ちになったものの、クルトの口から意外なことまで聞けて、エリーは満足していた。
彼の言葉で、暗澹とした気持ちは晴れやかなものに変わっていた。
依頼結果:成功
MVP:
名前:楓乃 呼び名:楓乃、バカ楓乃 |
名前:ウォルフ 呼び名:ウォルフ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 山内ヤト |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 難しい |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 11月04日 |
出発日 | 11月10日 00:00 |
予定納品日 | 11月20日 |
参加者
- ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
- 篠宮潤(ヒュリアス)
- ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
- Elly Schwarz(Curt)
- 楓乃(ウォルフ)
会議室
-
2014/11/09-23:36
-
2014/11/09-21:29
-
2014/11/09-00:38
>ハルちゃん
ありがとう…!(微笑み)
ふふ、改めまして、よろしくね!
>エリーちゃん、潤ちゃん
2人ともありがとう!嬉しいっ!
私の事も好きに呼んでね…(照れっ)
うぅ…。私、こんな写真撮った覚えないよー…。
どうしたら信じてもらえる…?(頭を抱えて悩み)
-
2014/11/08-18:00
-
2014/11/08-17:59
>楓乃さん
もっもちろん、僕も、お好きに呼んでもらって、大丈夫、だよ…!
(てれてれ、とする残念な女子大生)
無事に事が収まることを祈って……。
明日は書く時間無さそう、だから…僕の方、は、とととりあえ、ず! -
2014/11/08-11:19
>楓乃さん
嬉しいです、是非是非!
改めてよろしくお願いしますー!
———
(ケータイを凝視)
これは……ぼ、僕は……僕は……。(画像を見て言葉が出ず震えている) -
2014/11/08-10:21
>楓乃さん
…確かにこの名前は少し呼びにくいかもしれませんね
呼称の変更はそちらで適宜行っていただいて構いません。 -
2014/11/08-08:28
ハロルドさん、その…初めまして(戸惑いながら)
私、楓乃って言います!どうぞよろしくお願いしますね。
えっと…突然ごめんなさい。ハルちゃんっ、て呼んでもいいかな?
エリーさん、ミサちゃん、潤さん、お久しぶりです!(手を振り返し)
あの…エリーさんと潤さんのことも、
エリーちゃん、潤ちゃんって呼ばせてもらってもいいかな?
少し出かけてお家に帰ったら、私の部屋の机に写真がばらまかれていて…
出かける前にウォルフがデジカメの写真を現像していたから、
その写真達なんだと思うんだけど…見覚えのない写真が一枚あったのよね。
ウォルフに聞こうと思ったんだけど、部屋に閉じこもって出てきてくれないの…
写真がくしゃくしゃに握りしめられていたから、怒っているのかも…どうしよう…。 -
2014/11/08-07:54
ミサ:
ハル……(そっと目を閉じ)
あ、ごめんなさい!
ハロルドちゃん、私ミサ・フルールっていうの。
よろしくね(にこりと微笑む)
エリーちゃん、楓乃ちゃん、潤、久しぶり(手を振る)
私達 今まで撮った写真の整理をしていたのだけど、覚えのない写真が紛れてて……。
ああ、もう、何が起こっているの……っ(涙目で蹲る) -
2014/11/07-12:06
篠宮潤、と、パートナーのヒュリアス、だよ。
よろしく、だ。
っぼ、僕の携帯、に…っ、おおお覚えのない写真、が……!
写真内容どうの、っていう、より…こんなマネしたこと自体を、誤解されそう、で…ッッ
(かつてない危機感を感じて部屋の隅でガタガタ震えている) -
2014/11/07-05:45
-
2014/11/07-05:44
クルト:
…………(報告書を読んでいたので察する)ハロルド、初めまして。他の皆は久しぶりだったか。
改めて俺は神人Elly Schwarzのパートナー、Curt。
騒ぎの原因は注意を聞いて知っていたが
まさかエリーのケータイにあれが写っているとは……。
少し気まずいかもしれない。 -
2014/11/07-00:31
みなさん初めましてですね(←RPなので気にしないでください)
ハロルドです、よろしくお願いします。
写真の内容は兎も角
パートナーから監視をされているようで非常に不愉快です
信頼関係を今一度問う必要があるかもしれません。