星の成る木の紅葉狩り(寿ゆかり マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「紅葉みにいこうよ!」
 男性職員の口から飛び出た言葉に冷たい視線を返す。
「は……?」
 受付嬢の瞳はブリザード。男性職員は一足早い冬の訪れに身震いした。
「あ、駄洒落じゃないってば。観光情報でさ、もみじがきれいなところがあるって情報が来たんだよ。だからウィンクルム含め行楽といこうかなーって?」
「ああ、そういうことですか」
 いきなりつまらない親父ギャグを炸裂させたのかと思いすごい顔で睨みつけてしまったもんだな、と受付嬢は反省する。
「詳しい情報は?」
「えっと、『秋といえば紅葉狩り。皆様で澄んだ秋の空気の中お散歩などいかがでしょう』」
「ふつうね」
「いえいえ、目玉があるんですよ!ちゃんと」
「なんです?」
「星の成る木です」
「ん?」
 ひらり、と男性職員が取り出したチラシには、星の形をした葉が写っている。
「へぇー、そんな形の葉っぱもあるんですねぇ」
 ようやっと受付嬢が興味を示した。
「赤く色づいたものと黄色く色づいたものが混じり合って舞い降りるさまはそりゃあもう綺麗なんだそうですよ」
「ふーん。いいですね。ウィンクルムの方々もさぞ喜ぶでしょうね」
 残念だったな。私は色気より食い気なのだよ。彼女の心の中の呟きが聞こえたのか。
「……あと、ここの山の麓では焼き芋屋さんがおいしーいお芋を売ってるんですよ」
「なぬ」
「ほっくほくのお芋……」
「いこうか」

 そういうわけで、この一押し観光情報がウィンクルムへの情報としてすぐさま貼りだされたのであった。

解説

○目的:紅葉狩りを楽しもう!
参加費:入山料をお二人様200Jrいただきます。

お芋屋さん:ほっくほくで蜜がたくさんかかっているお芋がおひとつ100Jr。
麓での販売ですので、丘の上の“星の木”まで匂いは届かないのでムードぶち壊しにはならないかと(笑)

星の木詳細:五芒星の形の葉をつける珍しい木です。麓から徒歩で15分ほど登って行ったところにあります。この季節はさらさらと舞い降りるさまがとてもきれいです。持ち帰って栞にするお客様も多かったり。楽しみ方は皆様次第。

*森の動物さん:運が良ければ いたずら仔リスが頭にどんぐりを落としてくる?かも?
キツネさんがこっそりのぞいてるかも?
小動物の出現OKな方は小動物OKとお書きください
(必ず望んだ動物が出現するわけではありませんので悪しからず。アドリブ色が強くなりますのでご注意を)




ゲームマスターより

 こんにちは!GMというかグルメマスター寿です。
そろそろ受付嬢は自分なんじゃないかという疑惑の念に駆られてきました。
シンプルなエピソードですが、皆様次第で楽しみ方は無限大かな!と思っております。
ひたすら芋を食べるもよし!紅葉を眺めムードに浸るもよし!
楽しいプランお待ちしています。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  小動物OK
見上げた先の 赤や黄の星々に歓声
青空に鮮やかな葉のコントラストが眩しい

夜の星も好きだけど 昼間の星も素敵ね

木の下で落ち葉を探す
これは黄色がとても綺麗
こっちの赤は炎のよう
出てきた動物たちを笑顔で撫でて 

時間をかけて選んだ 黄色から赤へのグラデーションが綺麗な1枚を彼に渡す
今日は付き合ってくれてありがとう
代りに差し出された葉に瞬きひとつ
自分に選んでくれた事に気づいて はにかんだ笑顔
ありがとう…すごく、嬉しい
宝物をもらうように そっと胸に抱きしめる

突風が吹き 降り注ぐ星の葉
見惚れるような景色に 思わず彼の腕に手をやって
顔を赤くし そっと大きな手を握る
もう少しだけ こうしていたい



リヴィエラ(ロジェ)
  リヴィエラ:

・芋屋の前で
まぁっ! お芋、美味しそうですね!
えっ、ロジェ様…そ、それは間接キ…ス、と言うのでは…?(顔を赤くしながら受け取る)
そ、それは…そうなのですが…
はふはふ…ふふ、甘くて美味しいですね。

・星の木にて
素敵…黄昏色に染まった葉が辺り一面に…
あっ、見てくださいロジェ様! この葉、星の形をし、て…?
あっ…あの、ロジェ様…?

あの、その、こんなに落ち葉に埋もれていると、私、ロジェ様を探せなくなってしまいます。
え、歌…ですか? …はい。はい、約束ですよ? 絶対、絶対…約束ですよ?
私、貴方が来てくださるまで、声が枯れるまで歌いますから…!

星の形の葉のお守り…素敵。ありがとうございます。



リオ・クライン(アモン・イシュタール)
  ふふ、たまには自然に触れるのもいいだろう。
・・・あっ、別に焼き芋に釣られたからじゃないぞ!?
そういえば、私はアモンの昔の話をあまり知らないな。
スラム育ちで色々あった、という事だけなら聞いてはいるが・・・。

小動物OK

<行動>
・焼き芋を一つ購入、精霊と半分こで舌鼓み。
「はうっ!あっ、あふ、熱・・・っ」
・本の栞にするために、葉っぱを何枚か持ち帰る。
「折角だからキミの分も作ってやろう。たまには本ぐらい読んでみたらどうだ?」
・こうやって二人で様々な事を共有していきながら、パートナーとして少しずつアモンの事を知っていきたい・・・と思う様になる。
その気持ちがパートナー以上の思いとなり始めているとは知らずに。




桜倉 歌菜(月成 羽純)
  星の木を羽純くんと眺める
最高にロマンチックに違いありません♪
しとやかにオトナな所を見せて、羽純くんのハートを射止め…射止…ごめんなさい、調子に乗りました!無理ですっ
隣で歩いている彼を見るだけで、鼓動が早くなって何も考えられなくなるの

ん?良い匂い…あれは焼き芋!
すっごく美味しそう!
でも、デート(の筈)中に自ら焼き芋を買う女子ってどうなの?
涙を飲んで我慢…と思ったら、羽純くんが焼き芋を
私に?
そんなに食べたい!って顔してた?
火が出る程恥ずかしいけど、同時に嬉しくて幸せで

半分こ、しよ?

星の木の葉を記念に二枚拾い、一枚を彼に
羽純くん、これ凄く形も色も綺麗だよ

彼の笑顔が見れたら私はそれだけで幸せ

小動物OK


春加賀 渚(レイン・アルカード)
  きっと素敵な光景だろうね
見るのが楽しみ

焼き芋も気になるけどまずは星の木まで行ってみたいな
歩いたらお腹もすくしもっと美味しくなるかも

わあ、素敵…
レインさんサングラス外したら?
こんなに綺麗に色づいているんだから直接眺めた方がいいよ
大丈夫だよ、自分で思ってるほど知名度ないから

それはマジで言ってるの?
あ、いけないマジとか言っちゃった
言葉遣いには気をつけないと
それ本気でいって…ん、どうしたのレインさん
すごい俯いてるけど

なんだかすごいデジャヴを感じる…
今回は大丈夫なの?

レインさんは食べないの?
(なんとなく察した)
半分こにしよう
私は少なくても全然大丈夫だから
一緒に食べた方がきっと美味しいよ



 ほんの少し肌寒い季節。山は真っ赤に色づいていた。そんな真紅の波の中を歩むのが精霊、シリウスとその神人のリチェルカーレ。
「来てよかったね」
 ひらひらと舞う紅葉を見上げながら、リチェルカーレが嬉しそうに微笑む。シリウスは頷きを返しながら日差しに目を細める彼女にふと視線をやると、すぐに誤魔化すようにその視線を逸らした。深く美しい青と碧の瞳に、陽光を受けてきらきらと輝く青を帯びた銀糸の髪。なぜかそれがとてもまぶしく見えてしまって。
 ややしばらく歩いて、星の木の元にたどり着けば見上げた先には赤や黄色の星々が燦々と輝いていた。澄み渡る青空とのコントラストが、なんとも美しい。
「夜の星も好きだけど 昼間の星も素敵ね」
 そういって、彼女はその場にしゃがみ込み、何やら探し始めた。
―これは黄色がとても綺麗、……こっちの赤は炎のよう。
 なにか、小さくつぶやきながら楽しそうに落ち葉をかき分けている。その様子を、少し離れた場所から優しく見守るシリウスは何か宝物でも見ているような視線だった。
「あ」
リチェルカーレが小さく声を上げる。落ち葉の間からぴょこりとリスが顔を見せた。
「ごめんね、隠れていたの?」
リスは大丈夫!とでもいうようにリチェルカーレの周りをくるくる走り回り、彼女のすぐそばで頬袋に入れていたどんぐりをかじり始めた。その一匹に加わるように、どこからか二匹、三匹と集まってきてふわふわの尻尾を揺らしながら落ち葉の絨毯の上で木の実を集め始めるリスたちに、彼女は目を細める。
「見て、シリウス。可愛い!」
「あぁ」
 ふっと微笑みを返すと、そのうちの一匹がシリウスの元へ走り寄ってくる。足もとに擦り寄るリスに、彼は目元を少しだけ和ませて一言返した。
「あっちの相手になってやれよ」
 リスは首を傾げ、くるくると顔を洗ってもう一度シリウスを見上げる。そして、彼の衣服の裾をきゅっと引っ張った。
「おい、ひっぱるなって」
 笑いながらリスの引く方へ。もっと彼女の近くに行きなよと言わんばかりの誘導に苦笑いすればリチェルカーレは立ち上がり、手のひらを差し出した。
「これ……」
 差し出された葉に軽く目を見張る。黄色から赤へのグラデーションが美しいそれは、彼女からの贈り物だった。
「今日は付き合ってくれてありがとう」
(これだけ時間をかけて、他人のものを選んでいたのか……)
「……ありがとう」
 小さく礼を告げて、大切にそれをしまうと、代わりにシリウスは小さめの燃えるように赤い星を彼女に手渡す。その葉を見つめ、彼女はぱちくりと一つ瞬きをした。受け取るように促せば、それが自分への贈り物と気付き、そして彼が自分のためだけに選んでくれたことを知ってはにかんだ笑顔を浮かべる。
「ありがとう……すごく、嬉しい」
 落ち葉もだけれど、それを選んでくれたという事実に彼女は痛いほどに嬉しそうな表情を浮かべ、その宝物をそっと胸に抱きしめる。その幸せそうな笑顔に、シリウスは照れ隠しするように視線を逸らした。
「ぁっ……」
 瞬間、悪戯な突風に見舞われる。ざぁっと音を立て、あたりの葉が舞った。次々降り注ぐ星のシャワーに圧倒されるように、自然と彼女の小さな手がシリウスの腕に伸びる。
「……ん」
 遠慮がちな彼女の視線と、思わず添えてしまったものの行き場を探して戸惑う手のひらをシリウスは優しく握り返した。彼女の手のひらが彼の大きな手をきゅっと握る。
 ……今だけは、どうかこのままで。

 次に山に訪れたのは、リオ・クラインとアモン・イシュタール。
「ふふ、たまには自然に触れるのもいいだろう」
 笑いながらリオがそういうとアモンは気だるげにため息を着く。
「ようは山登りじゃねーか……ダリィ」
 そういうなよ、言うと彼も思いなおしたのかぽそりと呟いた。
「でもまあ、紅葉なんてあんま見た事ねぇからな」
「そうなのか?」
「今まで景色なんざ興味もなかったし、楽しんだ事もねぇな……」
 そういって少し表情を曇らせた彼に、リオはチクリ、と胸が痛むのを感じた。
(そういえば、私はアモンの昔の話をあまり知らないな。スラム育ちで色々あった、という事だけなら聞いてはいるが……)
 そう、スラムで生まれ育った彼にとって紅葉を見る余裕もなければそんな文化もなかったということだ。
「……ほら、向こうで焼き芋を売っているぞ。行こう」
 アモンの腕を引っ張るようにして焼き芋を買いに行く。
「なんだ、食い気か?」
「……あっ、別に焼き芋に釣られたから来たわけじゃないぞ!?」
 にやりと笑って指摘した彼に慌てて弁明すると、リオは焼き芋を一つ、売り手の女性から購入した。そして、その場で二つに折って片方をアモンに渡す。
「なんだ、ダイエットか?」
 受け取りながらアモンが笑った。
「どういう意味だ!」
 むっとした表情で言い返せば、それが面白いと言わんばかりにアモンはくつくつと喉を鳴らす。
「いや、食おうぜ」
「ん」
 むぅ、と頬を膨らませながら芋にかぶりつこうとするリオはさながらリスのようで。近くの木の上で毛づくろいしているリスはそれを見つめて小さく首を傾げた。
「はうっ!あっ、あふ、熱……っ」
 焼きたての芋を口に含んだものだから、リオが慌てて咽てしまう。
「おい、何やってんだよ、大丈夫か?」
 とんとんと背を擦ると、けほけほと涙目になりながらリオが頷いた。
「あ、ああ、すまない。……でも甘くてなかなか」
「こういうのはな、気を付けて食わねぇと」
 ふぅ、と息を吹きかけてアモンも蜜のかかった黄金色のサツマイモに唇を寄せた。
「あち」
「熱いうちに食べるのがいいんだよ」
 焼き芋を堪能したら、次は星の木。山道を少し行けば、そこには美しい星の成る木が見えてくる。
「へぇ、なかなか綺麗だな」
 アモンが素直な感想を零す。リオはにっこり笑って何やら足もとを探し始めた。
「ん、何してんだ?」
「栞にする葉を探している」
 ああ、こいつ本読むんだっけな。そう思いながらアモンはさらさらと流れる落ち葉を見つめた。
「折角だからキミの分も作ってやろう。たまには本ぐらい読んでみたらどうだ?」
「はあ?誰があんな文字しかねぇ、小難しいやつなんかを……」
 リオの提案に眉を顰める。本ったって、興味があるものもないし。
「なら、今度読みやすいのを探してきてやろう」
 鼻歌交じりに色づきのよい葉を探すリオはアモンの意見なんてさっぱり無視して彼
のための栞をこしらえようとしていた。
「人の話聞けよ……」
 アモンのはぁ、というため息が青空に溶けていく。リオはというと、こうやって二人で様々な事を共有していきながら、パートナーとして少しずつアモンの事を知っていきたいと思い始めていた。そう、ここに到着したときに思い知らされた、自分は彼のことを知ら無すぎるという実情。だから、もっと彼のことを知りたい。
 ……その気持ちがパートナー以上の思いとなり始めているとは知らずに。
「こういうのも悪くねぇな」
 ふと頭上から降ってきたアモンの呟きに、リオは顔を綻ばせた。
「うん、そう思ってくれて、よかった」
 彼の文化には、なかったことだけれど。
「まっ、お嬢様とのデートはいつも楽しいがな?」
 照れ隠しのようにリオをからかう彼は、いつものこと。
「なっ!?デート言うな!」
 あからさまに頬を染めながら、目に角を立ててしまう彼女も、いつものこと。
 ほんの少しの、歩み寄りの兆しを見せながら。

(星の木を羽純くんと眺める。最高にロマンチックに違いありません♪)
 そんな風に考えながら紅葉の道を歩んでいるのは桜倉 歌菜。そして、その傍らには精霊の月成 羽純。紅葉狩りデートならば、しとやかに、秋の淑女を装い……。
(クールな表情で、大人っぽく決めなきゃですね)
 しゃなりしゃなりと歩くも。
「紅葉狩り、風情があっていいな」
 微笑みながらそう語りかけられ、歌菜はわたわたとあからさまに挙動不審になる。
「んっ、そう、ね!」
(羽純くんのハートを射止め……射止……ごめんなさい、調子に乗りました!無理ですっ隣で歩いている彼を見るだけで、鼓動が早くなって何も考えられなくなるの)
 熱くなる頬を抑えながら百面相を繰り広げている。焼き芋の香りに気付いた羽純が声をかけようと歌菜を見やったとき、その顔が目に入り気付かれないように笑った。
(全く、俺の前で今更格好付けたって仕方無いだろうに)
 どこかで、カサ、と草が揺れる音が聞こえた。キツネだ。じぃっとこちらを見ていたかと思うと、ふいっとその金色の毛並みを木陰に消してしまった。あ、と思ってその尻尾を見つめると、目の端に小さなワゴン。そのとき、歌菜も焼き芋の存在に気付く。小さなワゴンで売られている魅力的なそれは、甘味の好きな女子にとってはたまらないものだ。
(ん?良い匂い……あれは焼き芋!すっごく美味しそう!でも、デート(の筈)中に自ら焼き芋を買う女子ってどうなの?)
 うーんうーんと悩み始める歌菜。その様子に、羽純は気付かれぬように苦笑い。
(だめ、だよね、ムードぶち壊しだよね!涙を呑んで我慢……)
 そう思ってふーとため息を着いたところで羽純の声が歌菜のすぐ横で響く。
「一つ、貰えるか?」
「はい、まいどです」
 初老の女性から受け取った芋はほくほくと柔らかな湯気を立てている。
「ほら」
 目の前に差し出された食べたくてたまらなかった“おいも”に、歌菜は目を白黒させる。
「私に?」
「お前以外誰にやるって言うんだ」
「そんなに食べたい!って顔してた?」
 小さく頷いて、羽純は肯定の意を表す。
「要らないなら、俺が食べる」
「ううんっ、食べる!」
「最初から素直にしてたらいいんだ」
 顔から火が出そうなほど恥ずかしい。ムードを作るつもりで居たけど、色気より食い気って思われちゃったかな、なんて、様々な思いが駆け巡る。けれど、それ以上に。
(……嬉しい)
 自分のことを思って、焼き芋を食べたがっているのに気付いてくれたんだ。その暖かさに幸せが満ちてくる。
「半分こ、しよ?」
 歌菜の提案に、羽純は柔らかく微笑んだ。彼女が半分に折った焼き芋を受け取り、その甘味に感動しながら二人はゆっくりと秋の香りを味わう。一通り堪能して、星の木をめざし歩みを再開した。
「わぁっ、すごいすごい!」
 あたり一面に葉で出来た天の川。なおも降りつづける星々に、歌菜は満面の笑顔で空を仰ぎ見る。そんな神人の姿を見つめ、羽純はふと思った。この笑顔が曇らぬよう、守り続けたい、と。
(柄にもなく、雰囲気にのまれたか)
 歌菜は、星の木の葉を記念に二枚拾って一枚を彼に手渡した。
「羽純くん、これ凄く形も色も綺麗だよ」
「……ありがとう」
 差し出された紅葉に、彼が薄く微笑む。
(彼の笑顔が見れたら私はそれだけで幸せ……)
 多くは望まないけれど、この穏やかな時を共有する贅沢に、彼女は確かに幸福を感じていた。

 紅葉の道を歩きながら、長い黒髪の少女、春加賀渚が呟く。
「すごい……上の方はもっと素敵な光景だろうね」
「ああ、きっとこんなもんじゃなくってもっとふわっふわの紅葉の絨毯になっているんだろうなぁ、星が降ってくるのも興味深い」
 答えて頷く彼はレイン・アルカード。一応、役者の端くれとして周りにプライベートを知られないようサングラスを着用している。
(ん?……現場をマスコミに押さえられると、とかいってたけど……思いのほかレインさん楽しみにしてたのかな?)
 サングラス越しに瞳を輝かせるレインに渚はフッと笑みをこぼした。
「あ、焼き芋屋さん……も、気になるけど先に星の木を見に行きたいな」
「ああ、行こうか」
(……花より団子、ってやつか)
 かわいらしいな、なんて思いながら、レインも笑みをこぼす。二人が歩みを進めていった先には、星々の絨毯と予想通り、降りしきる星の葉が広がっていた。
「わあ、素敵……」
 ほうっと息を吐いて、渚はその光景に見とれる。数秒後はたと気づき傍らのサングラスの彼に提案した。
「レインさんサングラス外したら?」
「えっ」
「こんなに綺麗に色づいているんだから直接眺めた方がいいよ」
 ね?と促されるも、彼にだって彼なりの矜持がある。
「いや、誰かに見られたら大変だからな。女の子とデートって騒」
「大丈夫だよ、自分で思ってるほど知名度ないから」
 キッパリと告げた彼女の発言にんぐ、と言葉を飲み込む。
「や、でも!マスコミってどこにいるかわからないし……」
「それはマジで言ってるの?」
 グサッ。
「あ、いけないマジとか言っちゃった」
「あ。あ、……」
「言葉遣いには気をつけないと」
 違う、凹んでいるのはそこじゃない。
「それ本気でいって……ん、どうしたのレインさん。すごい俯いてるけど」
 真顔で自分のことを“売れない俳優”であると指摘してきた彼女に、何も反論できない。悪気はないのだ。事実を述べているだけなのだ。けれど……。
「まだこれからだよ。ね」
 そういって渚がその俯いた顔を覗き込む。素直にサングラスを外し、見上げればそこには優しい微笑みの彼女と、一面の紅葉が広がっていた。
「……だな」
 そろそろ暮れてきたし、帰ろう。と、山を下りはじめる。
「まだ焼き芋屋さんいるね!よかった」
 歩きながら焼き芋屋さんまだいるかなーなんて楽しみにしていた彼女。
「ああ、奢ってやるよ」
 そうそう。ここで良い男具合を見せつけたい。……が?
「ほんと?なんだかすごいデジャヴを感じる……今回は大丈夫なの?」
「ん!あぁ、大丈夫……ッ」
 ポケットをまさぐれば……。大丈夫、財布は持っている。問題は中身だ。
(ぅっ……!?)
 残り100Jr。
(……一個しか買えない……)
 冷や汗が伝う。しかし、悟られるわけにはいかない。
「ほら、早く行こう。まだ焼き芋、あるといいな」
「うん」
 焼き芋屋と対峙し、財布を出す。傍らでは渚が瞳を輝かせて待っている。
「えーっと、一つお願いします」
 サングラス越しに売り手の女性に微笑む。
「はぁい、おひとつねぇ」
 一人では少し余る、二人では少し足りない程度のサイズのお芋が、渚に手渡される。
「はい」
「ありがとう!……?レインさんのは?」
「あ?お、俺はいいんだよ。気にしないで」
 けれど、ちらちらとその視線がお芋に突き刺さっていることに気付く。
「ね、半分こにしよう」
「え!足りないだろ?いいよ、気にしないで食べろよ」
「私は少なくても全然大丈夫だから。一緒に食べた方がきっと美味しいよ」
 ね、と首を傾げれば、ようやく焼き芋を受け取る。そして、一口。
「ん、っあち」
「ほくほくだね」
 にっこりと満面の笑みで互いに顔を見合わせ笑う。
「うん、おいしい!」
 レインの屈託のない笑顔に、思わず吹き出しそうになる渚。
(ほんと、端正な顔なのに妙に可愛いんだから……)
 そんな単純で可愛らしい駆け出しの俳優を傍らに、渚は過ぎ行く秋の風をその長い髪に受けた。

 秋の風の中、焼き芋屋さんの前で歓声が上がる。
「まぁっ! お芋、美味しそうですね!」
 リヴィエラは、精霊であり恋人のロジェと共にこの紅葉を堪能しにきたはずだった、が。お芋の誘惑に勝てる女子等いるだろうか。
「芋か……甘い物は好きだ。ひとつ買おう」
 こくこく、と頷き、リヴィエラは彼の手から芋がシェアされるのを待つ。と、彼は初めに一口芋を頬張ってその食べかけをリヴィエラに寄越した。
「ん、甘くて美味いぞ」
「えっ、ロジェ様……そ、それは間接キ……ス、と言うのでは……?」
 頬を真っ赤に染めながら焼き芋を受け取り、わたわたとうろたえる彼女にロジェは少し意地悪く笑う。
「間接キスだと? 俺達は恋人同士じゃなかったのか?」
 今更それがなんだ?と言わんばかりの口ぶりにリヴィエラは言い淀む。
「そ、それは……そうなのですが」
 尚もいたずらっ子のような微笑みを浮かべる彼を目の前に、リヴィエラは意を決して蜜のかかったほかほかの焼き芋に唇を寄せる。
「はふはふ……ふふ、甘くて美味しいですね」
「だろ?」
 芋の甘味か、関節キスの気恥ずかしさか。勝ったのはどうやらおいもさんのようである。
 ややしばらく歩いたところにある星の木の元で、リヴィエラはふとしゃがみ込んだ。
「素敵……黄昏色に染まった葉が辺り一面に……」
 見惚れながら、恍惚とした表情でリヴィエラが落ち葉に触れる。
「あっ、見てくださいロジェ様! この葉、星の形をし、て……?」
 胸がいっぱいになるような幸福感に満ちた微笑みでこちらを振り返る彼女を、ロジェは思わず引き寄せる。
「あっ……あの、ロジェ様……?」
 そして、そのまま彼女の背後の落ち葉の絨毯へと二人で埋もれた。ドサ、と二人分の重みが落ち葉にかかる音があたりの静けさと相まってやけに大きく感じる。
「いや、すまない……黄昏色に混じる君の青がその……綺麗だと感じたんだ」
 抱きしめられたその腕の温かみに戸惑いながら、リヴィエラはその囁きに耳を傾ける。 彼も同じように、頬を染めているのだろうか?
「あの、その、こんなに落ち葉に埋もれていると、私、ロジェ様を探せなくなってしまいます」
 そんな照れ隠しのような彼女の言葉にロジェは少し笑って、そして真剣に切り返した。
「大丈夫だ。君が歌えば、俺はすぐに君の傍に行くよ。どんなに離れていても、すぐ傍に行くから」
「え、歌……ですか?」
 そう、歌である。彼女の透き通る声を目印に。
「ああ、約束だ。俺はすぐに君の傍に行く」
「……はい。はい、約束ですよ?」
「ああ」
「絶対、絶対……約束ですよ?」
 ぎゅっと彼の背中に回した腕に力を込める。
「私、貴方が来てくださるまで、声が枯れるまで歌いますから……!」
 ロジェが静かに頷き、顔を上げてリヴィエラの髪を撫でた。二人で顔を見合わせ、確認するように微笑む。
「折角だ。この星の形の落ち葉を一枚持ち帰って、押し葉にしてお守りにしようか」
 ひらり、拾い上げた美しい星型の紅葉をそっとリヴィエラの手に握らせる。
「星の形の葉のお守り……素敵。ありがとうございます」
 受け取り、リヴィエラはそれを大切にポーチにしまった。
「そうすれば今日この日を、いつでも思い出せる。リヴィー……君の事も」
 リヴィエラは静かに頷く。
 ……思い出せる……?
 その疑問は、降りしきる落ち葉にかき消されるように。





依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 寿ゆかり
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月03日
出発日 11月08日 00:00
予定納品日 11月18日

参加者

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