抜けよ剣(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「すまん……仕損じた……っ!」
「くっ。何て逃げ足だ……」
「『アレ』が刺さっている限りは、周辺への被害も無いと思いたいが……」
「ああ。だが抜かれて回復されては厄介だぞ」
「とはいえ……もう俺たちも限界、だな。急ぎ戻って追撃を要請せねば……」

 タブロスからは少し離れた森林内。
沼地が広がる手前で、口惜しそうに会話をする部隊が居た。


「至急の件だ。先刻のオーガ数体を討伐に向かったウィンクルムたちから報告が入った。
 ほぼ壊滅させたそうなんだが、指揮官を担っていたらしいヤックドーラのみ逃亡中とのことだ」

「先発隊たちの攻撃で、かなりのダメージは追っているらしい。そう遠くへは行けんだろう。情報によると
 沼地の多いタブロス郊外にある森林内へ入ったのが目撃されている」

「仲間を呼ぶか、または従うギルティの元へ向かうか……どちらにしてもそうされては厄介だ。
 会議が終わり次第、すぐに向かってもらうことになる」

 職員の話す様子からも、相当な時間との勝負に思える。
一区切りされたのを見れば、がたがたっと立ち上がりすぐにでも出発しようとする一同を見て
職員が慌てて、どこか言いにくそうにそれを止める。

「あー……最後にもう一点。実は先発隊に、新たに開発された武器を1つ、試してもらっていてな。
 『刺したオーガの魔力の元を吸い取る』という剣なのだが。
 突き刺し、その効果も確認したらしい。ヤックドーラは今、大技を使えん状態だそうだ。
 が……それを持ち帰られ、最悪ギルティなどに奪われ改良などされては逆に我々の脅威となってしまう。
 ヤックドーラの背中に突き刺さったその剣を、必ず持ち帰ってもらいたいのだ」

「しかもその剣。刺さった相手が死ぬと同時に役目を終えたとばかりに折れてしまう、とのことでな……
 まだその一本しか効果が見られていない、今後更に研究材料となる貴重な物となった。
 つまりは、ヤックドーラを倒す前に、先にその剣を抜かねばならんということだ……」

 ……ただの討伐であればシンプルな戦闘で済んだものを。
どこからか既視感を感じたウィンクルムも居たかもしれない。

「うむ……うちの科学班は優秀だ。優秀なんだが……
 トラブルメイカーと一部、ほんの一部だぞ?呼ばれている者がいるのは……否定せん」

 奴か。

 そんな視線があれば、それを受け流すように、職員は重々しく頭を垂れた。

「すまない。すまないがよろしく頼む」

 本当の最後に、職員、ぽつりと付け足した。

「そうだ……その剣だが。『弱い者ほど抜けやすい』とか開発者から伝言があったような……」

解説

■目的:手負いのヤックドーラ(性格[姑息])1体の討伐
   :剣の回収(現在位置⇒ヤックドーラの背中)

 上記二点が任務の全て。
 ヤックドーラが逃げ込んだ森林へ入るところからスタート。
 数十メートルいくとすぐ沼地。深い所はないが地面に凹凸があり、足を取られやすい。
 周辺に葦のような丈の高い草が纏まって生える場所がチラホラ。
 ただし、ヤックドーラが身を低くしてそこに隠れていた場合、背中の剣柄部分が見えるかもしれない。
 広い森林ではないので、発見自体は容易いだろう。

■ヤックドーラ
・魚類の頭部を持つ、日頃は配下を従えている程のそれなりな知能あり。
・長い舌の先に毒針を持つ。
・先発隊の攻撃を受け、HPは通常の半分ほどに減っている。
・魔力を取り戻す為、隠れ先で剣をどうにか抜けないか必死中(抜けません)
・仲間来ません。

■剣について
・実は面倒くさい剣。一度刺さると(吸い取った魔力を利用してとかで)中々抜けないようになっている。
・柄を握った者のレベルを読み取り、レベルの低い者ほど抜けやすい仕組み。
(おそらく開発した者が、実験後自分でも楽に抜けるように、他の人に取られないように、等、どうでもいい個人事情を盛り込んだせい)
・つまり今回は、【パーティ内で一番低いレベルの方】がもっとも楽に抜けます。
・他のレベルの方でも抜けますが、時間が掛かります。

■役割・プランについて
剣を抜くのに挑む際、何かしら理由があると助かります。
例:「弱い者ほど抜ける……。スキル使うと実はすぐ疲労が来るんだが。……お、俺行ってみる」等
勿論、全員が挑んでいつか誰かが、でも構いません。

ゲームマスターより

「レベル低くても勇者の気分味わったっていいじゃない!」

GMレベルがアップする音はいつ聞こえるんだ
こんにちは。スキルレベルが一番低い自信たっぷり、蒼色クレヨンでございます。

またまた、初心者様でも楽しく挑んでもらえたらいいな☆なアドベンチャーをご用意してみました。
でもさすがにデミ・ピヨよりは苦戦します。お気をつけて。
Dスケールオーガ出すの実は初めてでド緊張……!


※プロローグ本文内「奴」が気になる方:「30分の耐久ホールド」「自火に責め入る霧なりや」など参照
 気にせずとも全く任務に問題はございません。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)

  迷惑な剣を作る人もいたものですねぇ…
あれ、グレンもしかして心当たりあるんですか?

敵の視界に入らないように草などの地形を使って隠れていようと思います。
囮の人が攻撃を仕掛けて敵の注意がそちらへ向けられたらフライパンで殴りに行きます!
ジェシカさん見習って思いっきりふりかぶりますよー、カーンと!
殴り終わったらもう一回隠れに行きますね。
失敗したら…とりあえず離れましょうか。

隠れる場所が集中しないようにばらけて隠れるようにします。
どの角度からの攻撃が必要になるか分かりませんし。
弱りきってるとはいえ、普段敵に接近することはないのでドキドキします…
精霊の皆、いつも敵のこんな近くで戦ってるんですね…



エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  心情
剣が刺さったままのオーガが可哀想……? ラダさん、そう思うのなら、すぐに楽にしてさしあげなさいな。
手負いの敵とはいえ、下手に情けをかけたり油断するのはいけません。

行動
沼地を観察。ヤックドーラを探しつつ、安定した足場はどこか、オーガが作った罠がないかもチェックです。
精霊が囮になっている隙に、スタン効果のある武器でオーガの頭部を狙って奇襲。どんな結果でも、攻撃をしかけた後はすぐに散開して離脱します。
その後の戦いは精霊たちに任せます。
戦況が不利な場合のみ、武器を投げ槍のように投擲し、気絶させられないか試みます。一時的に武器を手放すことになるので、味方の窮地や膠着状態の時でなければ実行はしません。


ジェシカ(ルイス)
  面倒くさい仕様になってるのね
誰がこんなもの作ったのよ

剣が壊れないよう注意しなきゃね
倒したら壊れちゃうのなら抜くのを最優先で考えるわ

まずは慎重に進んでヤックドーラを見つけるわ
どんな状況でも足元注意ね
肝心な時に転んでたら目も当てられないわ

見つけたら精霊が囮になっている間に他の人と被らないよう背後・側面に回りこむわ
剣を抜きやすいようにって事でバトルフライパンで殴ってスタン狙いよ
こちらに気づいていないうちにぶん殴ってクリーンヒットを狙うわ

ばれたら危険だから速攻距離を取るわ
弱ってるとはいえ脅威には違いないから慎重にね

剣が抜けたらもう憂いはないわね
ガツンとやっちゃって頂戴!


ユラ(ルーク)
  噂には聞いてたけど、面白い事するよねぇ科学班
ん、嫌味じゃないよ。むしろ尊敬してるよ
とにかくせっかく大役を任されたんだから、役目はきっちり果たさないとね

他の方々が敵の注意を引き付けてくれている間、隠れて死角に入れるように移動
チャンスが来たら、すかさずルークに合図をだして剣を抜きにいってもらう

万が一剣が抜けなかった場合:
再度隠れてチャンスを伺う
隙を見て、今度は私が剣を抜きにいく
時間をかけるわけにはいかないので、多少の怪我は覚悟で全力で
私も勇者になりたい

沼地での戦闘になった場合、可能な限り足元への注意も怠らないようにする
……ていうか剣抜いてあげるんだから、オーガもちょっとじっとしててくれないものかな



● 探索と忘却

 森林内草地を踏み分け、歩き続けるウィンクルム一行。
程なくして、先発隊から得た情報の通り足元がぬかるみ始めれば、誰しもが視線は足元に向き慎重になっていった。

「それにしても、刺さった剣を抜くってなんだか格好いいよね。無事回収できるといいな」
 緊張を解すように、周囲への注意は怠ることなくルイスが穏やかに声を発した。
オーガに刺さった剣の情報を思案した結果、恐らくこのメンバーの中では任務数少ないことから自分がいくのがいいだろう、と
剣を抜くことへ立候補したルークも自然と会話に乗る。
「なんでこんな面倒なことになってんだ!とは思うけどな」
「ルー君、何ならやっぱり私が最初に抜きに……」
「そんな危険な役目、任せられるか!初手は俺が行く!」
 パートナーであり、更に精霊に比べたら最適なのは自分ではと思っていたユラがルークに話しかければ、きっぱりと言葉を返すルーク。
「でも確かに、面倒くさい仕様になってるのよね。誰がこんなもの作ったのよ」
「本当に。迷惑な剣を作る人もいるものですねぇ……」
 ジェシカが加わり、隣りを歩いていたニーナ・ルアルディも溜息をついて同意する。
更にそのニーナの横で会話を聞きながら、1人思考を巡らせていたグレン・カーヴェルの頭の中に、具体的人物が浮上してきたようで。
「あー、あいつか……」
 脳内で呟いたつもりがどうやら口から漏れていた。
ニーナはパートナーの言葉を拾って不思議そうな顔を向ける。
「あれ、グレンもしかして心当たりあるんですか?」
 むしろ何故お前が心当たり無いんだ、という表情を隠さないグレン。しかして言わない方が今後面白いだろうと判断。
さてね、と意地の悪い笑みを浮かべ肩をすくめるに留めた。
抑えた声で会話しながらも、自身の足元直下へ細心の注意を払って進む中、そこへ一段と声を落としたエリー・アッシェンからの声がかかった。
「ジェシカさんニーナさん、ストップです。5歩程先のあたり、見てみて下さい」
 え?と後ろに居たエリーの言葉に振り返ってから、言われた通りにぬかるみから生える草の根元付近に目を凝らす二人。
そこには隠されるように、背丈の高い草を輪っか状に雑に結んだものが。
「もしかして……これ、オーガが作ったのかな?」
 草の輪を調べるようにしゃがみ込みながらルイスが言えば、同じように考えた何人かが頷く。
「追っ手がかかることを見越してこんな罠を張るくらいには、はやり知能があるようですねぇ」
 サバイバルスキルも駆使しながらある程度予想を立てていたエリーであった為、皆よりいち早く発見できたのだ。
「でも頭はあまりよろしくないですね、うふぅ……。こっちに居ますよ、と言っているようなものです」
「えっ。この近くにオーガいるの~?」
 エリーの発言に、ラダ・ブッチャーのブチハイエナの耳がぴるぴる震える。
「ちょっとお色が変わり始めてますし、作ってから時間が経ってるのでは。まだもうちょっと先、だとは思いますが……」
 ルイスの後ろからニーナも顔を覗かせ。草を眺めては首を傾げて考察する。
「ラダさん、匂い分かりませんか?」
「ん~……単純に獣なら分かるんだけどぉ……ヤックドーラの匂いっていまいち分かりにくくってぇ」
 怖がりながらも鼻をヒクつかせ、しかししょんぼりとラダが述べる。
「何にせよ敵はもうすぐってことよねっ。準備しとこうかしら」
 腰元からフライパン(新婚さん)を取り出して、ジェシカが軽く素振りをするのを見てニーナも恐る恐る自らのフライパンを取り出す。
今回最初の攻撃はスタン武器を持つ神人たちにかかっているのだ。
「そういえば、ジェシカさん以前にも使ってらっしゃったコトありましたよね。な、何かコツとかありますか?」
「あのコウモリみたいなカボチャみたいなヤツのことね!んー……こう、思い切り振り被ってカーンと!」
「は、はい!振りかぶってカーン!ですね……!」
「ジェシカ……、それはアドバイスになってないと思うよ」
「ニーナなら忠実にやろうとすっぞ」
 笑顔で受け答えするパートナー兼幼馴染へ思わず突っ込むルイス。
面白そうに止めることせず見守るグレン。

 エリーを先頭に草の輪を辿るように歩みを進めて間もなく、一向に一気に緊張が訪れた。
まだ数十メートル程先ではあるが、葦のような草が生い茂るその中に――
「……あれ、剣の柄じゃないか?」
 小声でルークが皆へと確認する。
「剣が刺さったままなんて、オーガとはいえなんか痛々しいねぇ」
 その姿を想像してラダの声が弱々しくなったのを聞き、エリーはぴしゃりと言葉を放つ。
「オーガが可哀想ですか?ラダさん、そう思うなら、すぐに楽にしてさしあげなさいな」
「エリー……」
「手負いの敵とはいえ、下手に情けをかけたり油断するのはいけません」
 落ちた広い肩に、ルイスもぽんぽんと励ますように手を当てる。
ラダ、ルイスや仲間たちを見渡せば意を決するように頷き。
「うん、わかった……。敵に同情して、味方がピンチになったら最悪。ウィンクルムとして役目を果たすよぉ」
「私たちも、せっかく大役を任されたんだから、役目はきっちり果たさないとね」
 ラダに続くように、剣を引き抜く役目を受けたユラとルークがきゅっと唇を結ぶ。
作戦開始の意を汲み取れば、皆も重々しく肯定して。
さてでは……、と各々が体の向きを変えオーガを囲むためバラけようとした、その時。
ジェシカが何か違和感に気付いた。
「あの、気のせいだったらごめん。なんだろう、何か忘れているような……」
 顔を見合わせそういえば……と眉を寄せる女性陣。
「ボク、なんだか前にもこんなことあった気が~……」
 ラダが追加。その言葉にエリーがぽんと手を静かに叩いた。
「トランスですね」
「「「あ」」」
 息ぴったりな声がいくつも重なった。
「やべぇ……忘れるとか。ニーナのうっかりが感染っちまったか……」
「ちょ。グレン失礼です!」
 それでも、思い出して良かった……と各自がトランスを完了させながら、
しかし何故こんな重大なことをと溜息が盛大に漏れるのも当然で。
「……あの剣のことばっか考えてたからだ」
 ぼそっと低い声で呟いたルークの言葉が合図のように練り固まっていく思考。

そうだ。
ただの討伐ならば忘れたことなどない。
なにせ相手はオーガなのだ。
あのややこしい剣が事態までもややこしくした元凶だ!
おのれ剣、絶対持ち帰ってやるっ

 一行の心は一つになった。

● 剣 そして荒ぶる勇者(=ウィンクルム)たち

 ヤックドーラは苛立っていた。
じくじくと引かない痛み。先発隊の攻撃を受けた傷もさる事ながら、この背中に刺さった剣が忌々しい。
そして、弱った自分をウィンクルムたちが放っておくはずがない。
必ず追っ手がかかっているはずだと。
身を潜める中、痛みの感覚に邪魔されながらもヤックドーラは周囲の気配に殊更カンを研ぎ澄ますのであった。

(肝心な時に転んだら目も当てられないわ)
奇襲に向かう為、エリー、ニーナと被らないよう、オーガの左側面へ回り込みながらジェシカはフライパンを握り締め。
常にぬかるむ足元と、音を立てないよう、注意を払い進んでいく。
(もうすぐ出番でしょうか……わわ、普段敵に接近することはないのでドキドキします……)
この距離が息を潜ませる限界だろうか、とオーガ背後で草に身を隠し待機するニーナ。
(まさか使う時が来るとは思いませんでしたねぇ……)
フレイル(ボートのオール)を構えながら、オーガの右側面でエリーはしみじみ思う。
これが当たっても当たらなくてもすぐに散開しなくては、と頭の中で行動をシミュレーションしながら静かにその時を待つ。

 ルイス、ラダ、グレンの互いの視線の応答で、その場は一気に戦闘空気へと切り替わった。
ルイスがヤックドーラの正面へ飛び出す。
「ヒャッハー!!」
 ルイスと共に飛び出し、巨大鋏(キラーシザーズ)をじゃっきんじゃっきん鳴らすラダ。
オーガの視界に映りながら、もっとも沼が広がる方面を塞ぐグレン。
全ては神人たちに気付かれない囮としての役割であった。
突然宿敵を目の前にして、ヤックドーラはいきり立つ。
「ギギェー!!」
 大きな爪を振り上げ精霊たちへと向けた。
ヤックドーラが精霊へと気をやったと思われた、まさにその瞬間。
「せー……のっ!!!」
 スタン武器を頭上に振りかぶった神人3人が同時に、ヤックドーラの三方向から飛び出した。
狙うは魚類表すその頭部。
渾身の力を込めたフレイルとフライパンが振り下ろされる。
ヤックドーラは完全に虚を突かれていた。
しかし、それまでずっと気配を研ぎ澄ませていた感覚という本能は、その体を動かしたのだ。

 くわん……っ
 ごぉ……んっ

 二つほどの音が響く。だが、どこか浅い。
それでも、鼻先に当てられグラリと目を回したそれを見逃すわけにはいかない。
「ルーク!今……!!」
 自身は万が一の時のために、まだオーガの死角に隠れたままユラはルークへと叫ぶ。
ずっと隠れ身構えていたルークは、その声に反応しヤックドーラの背中へと足を踏みつけ飛び乗った。
「こ、の……!」
 両手で柄を握り、ありったけの力を込め引き抜こうとする。
剣は答えるかのように、ず、ず、っと、少しずつだが動いていた。
だが剣の動く痛みによりヤックドーラの意識の空白は、すぐに現実へと戻ってきてしまったのである。
「ギギョッ、ナン、ダ、キサマ……ッッ」
 カタコトの人語を介しながら、ぶん!と長い舌をしならせ背中の邪魔者を攻撃する。
ヤックドーラは気付かない。
自ら必死に抜こうとしていたその剣を、ウィンクルムたちが手助けのように抜きにかかっていることに。
「くッ……」
 あと少しなのに……!と悔しそうにその攻撃を交わし地面へと着地するルーク。
それを見て留めたユラは、一度己の拳をぎゅっと胸に当てる。
もう後は自分がやるしかない。
その決意に呼応するかのように、ユラを覆うオーラが一際光を放ち風に揺らいだ。
(ユラさん、気をつけて……!)
一撃を繰り出した後はすぐに、距離を取って離脱したエリー、ニーナ、ジェシカが祈るような視線を送る。
それでも、精霊たちが隙をまた作れるならば再び……、と、武器はしっかりと握り締めながら。

「おっと!そっちには行かせないぜ……!」
「ギェギェェェッ!」
 精霊たちの足を奪おうと深みある沼地へ体を向けるヤックドーラに立ちふさがるグレン。
ただでさえ、剣の抜けぬ今はまだ思い切った攻撃が出来ず不利なのだ。
せめて安定したこの足場ある所から動かすわけにはいかない。
まるで大技を放つかのように、両手で日本刀(百虎)を横一線に振り抜く。
それに続くように、ルイスもグレートアックス(ランドブレイカー)をその小柄な体のどこにそれだけの力があるのか、
軽々と振り回し攻撃を装う。
精霊たちの意図に気付き、ユラが飛び出した。
「剣抜いてあげるんだから、ちょっとはじっとしててくれないもの……かな!」
「ギッ!?」
 精霊たちの技に身構えていたところへ再び背に重みを感じ、ヤックドーラは条件反射的にそれを振り落とそうと暴れ出す。
「ユラ!!」
 ルークがヤックドーラの背後へ回り込む。
今にも振り落とされそうなユラ。
剣にしがみつくように手をかけ引っ張ったその瞬間。

 ずずずっずこ! シャキーンッ

チャッチャー チャッチャララララー チャカチャン♪
勇者は剣を引き抜いた

「ええ!?」
 あっさりと、ユラの手にその剣は鈍く光る刀身を預けていたのであった。
あまりに簡単に抜けたことに、ユラが拍子抜けしてる間に。
ぶぉん!
「ひゃあ……!」
 オーガが体を大きく振るう。
勇者は振り落とされた。
しかしてすぐにフォロー入れる体勢となっていたルークの両腕に、しっかりと受け止められるのであった。
「ユラっ、大丈夫か!?」
 焦るように腕の中にいる顔を覗き込むルーク。
一瞬の間に色々自分の身に起こったことにしばし呆然としつつも、心配そうなその表情を見ればユラはすぐに笑顔を浮かべる。
「うん、大丈夫だよ。ありがとうルー君」
 走馬灯のように何かが過ぎり震え出しそうになる体を、その笑顔を確認して必死に押し隠しながら。
ルークもユラを下ろしすぐにヤックドーラへと意識を戻した。
「ギョッ?ヌケタ…ギギ?」
「剣が抜けたらもう憂いはないわねっ。ガツンとやっちゃって頂戴!」
 ジェシカが嬉しそうに発した声と同時に、ラダ、グレンもヤックドーラへと駆け出していた。
「『グラビティブレイク……!』」
「ギ……!!」
 硬い装甲に容赦なく刃が振り下ろされ、ガギンッと鱗のような装甲にヒビの入る音。
そのまま攻撃の手を休めず連撃で押す。
グレン、それはもう活き活きと。
「ああ……やっぱり手加減して攻撃するの、ストレスだったんですね……」
 そのパートナーの様子を見て、呆れていいのか感心していいのか戸惑いの声色で呟くニーナ。
「アヒャヒャッ。そ~れ!」
 沼の泥を掴んだラダ、それをグレンの連撃で怯んだヤックドーラの顔面目掛け投げ飛ばした。
べちょ!
「ギェギェ!ミ、エナ、イ……ッ」
 闇雲に鋭い爪を振り回すヤックドーラは、視界塞ぐ泥を拭おうとする動きを見せる。
ラダが畳み掛けるようにそのまま攻撃を仕掛けようとしたそこへ、ルークの間髪入れない声がかかった。
「危ねえ!!」
 その声に咄嗟にブレーキをかけるラダ。
その眼前で、毒針付いた舌が我武者羅に振り回された。
「きゃっ……」
「ニーナ!」
 最大まで伸びた舌の旋回は、距離を取っていたニーナまで伸び、その体を掠めた。
グレンの荒々しい声が飛ぶ。
「オイ!」
「あ……、大丈夫です。怪我はありません」
 驚いて尻餅ついたニーナを助け起こすエリーにより、確認の声が上がる。
グレンを安心させるようにニーナも座り込んだまま片手を上げた。
毒針掠めたはずのニーナの体を未だ守るよう、月の光纏う防護ドレスが控えめに煌めいていた。
「ギ!!……ジャ、マ、スル!ギェギェェエ―――ッ!!!」
 隙を見せ不意を突こうとする性格を見越していたルークにより、ラダへのカウンター攻撃が失敗したヤックドーラ、
癇癪を起こしたように雄叫びを上げた。
「アヒャァ……ありがとぉ」
「ああ。気をつけろアイツ本当に姑息だぜ」
「そうですね。でもそろそろ……」
「いい加減息の根止めてやるぜ……!」
 若干目が据わったグレンの言葉をラストに、四方へ散開するラダ、ルーク、ルイス。
すでにグレンのグラビティブレイクを受け、自らを守る防御が無くなったと悟ったヤックドーラの最後の毒針乱舞を
ラダがあえてホワイトローブに掠るよう受けては、発動したローズガーデンで味方まで及ぶのを防ぎ。
その背後から飛び出したルークによるスパイラルクローを、脳天直撃だけ避け肩口に切りつけられよろめいたところへ。
ルイスによる、トルネードクラッシュⅡの致命的打撃がお見舞いされ、ヤックドーラはその体をついに反らせ
ドシン!と地面へ落ちたのであった。

 ルイスの可憐ともいえる見た目らしからぬ大技っぷりに、ピュ~っとグレンが口笛を吹いたのを合図かのように、
剣を抱え隠れていたユラが顔を出し精霊たちへと駆け寄った。
エリー、ニーナ、ジェシカも後に続く。
「ユラさん、お見事―!」
 ジェシカが喜びの声を上げる。
「こんな簡単に抜けたのも、なんかちょっと複雑なんですけど」
 ユラ、苦笑いをする。
「流石に疲れましたねぇ。オーガに突撃したのは初めてでした、ふふふぅ」
「精霊の皆、いつも敵のこんな近くで戦ってるんですね……」
「俺は神人が前に出るの、心臓に悪いわ」
「あ、うん。ボクもぉ」
 エリーとニーナの会話が聞こえれば、グレンとラダがやれやれと口の端を上げる。
「報告と、あと剣も返さないとだね」
 ルイスの言葉に、ルーク、咄嗟に挙手。
「俺とユラで剣返しに行く。……ちょっと、個人的に科学班に言いたいことが……っ」
「お。なら俺も行くぜ」
 グレンの一癖ありそうな笑みを見て、ニーナ、何故か狼狽感がやってくるのであった。

● 任務の後は……

「ぎゃ――――ッッ?!せ、せ、せんぱい!出してくださ……!!」
「もうね。いい加減めっちり言われればいいと思うのよ」
 
 剣が返ってきたので受け取りに来て下さい、という伝言を受けた科学班・件の問題児は
とある会議室内で叫び声を上げていた。
付き添ってきた上司クレオナが、問題児を会議室に放り込んだ途端、外からバタンと鍵を閉めたのである。
そして会議室内にいるのは。
剣を抱えたユラ、明らかに物申しに来たという風情のルーク、楽しそうな笑みを浮かべたグレン、
居るだけでいいからとグレンに引っ張られてきたラダ、ストッパー役で来たルイスであった。
ちなみに、エリー、ニーナ、ジェシカは報告へ。

「ああああのあのっ?み、皆さん今回はお疲れさまでした!!」
「はい」
 怯えるサージにユラが至って普通に剣を差し出した。
「噂には聞いていたけど、面白い事するよねぇ科学班」
「え!?ええええっと……!」
「ん、嫌味じゃないよ。むしろ尊敬してるよ」
 にこ、とユラに言われれば顔を輝かせるサージ。それを見たルーク、殺気が増した。
「てぇめぇぇえ……反省あるのか!?」
「わぁ!!スイマセンスイマセンもうこのようなことは……!」
「いやいやにーさん。ちょっと顔貸せよ」
 謝罪しまくるサージの肩をぐいっと掴んで引き寄せるグレン。
迫力ある笑顔にサージ、卒倒寸前である。
「今回は正直あんま面白くなかったわ。前ん時の、精霊に効かない霧?あれは楽しかったんだけどよ」
「へ」
「だから、今後開発するんなら神人からかって遊べるような、面白いもん作れ?」
「ぐ、グレンー……?」
 ラダ、おどおどと何か言おうとすればグレンに肩を組まれる。
「間違っても今回みたいに、俺らに迷惑かけるもん作るなよ?」
 声が若干低くなった。
グレン、ラダの見た目も利用して完全に脅している。
サージはもはやコクコクコクッ!と全力で頷くしか術がない。
横で一連のやり取りを見ていたルイスは、さすがにそろそろ……と声をかけた。
「ああああありがとうございます!」
 冷たい笑顔のイケメンと明らかに凶暴そうな男(中身は子犬)から助け出されたサージ、ルイスが天使に見えたのか涙ながらに拝んでいる。
しかして、その天使の笑顔が曇る。
「でも僕も、女性を危険な目に合わせる物作る男はどうかと思います」
「あ」
「もう、しないで下さいね」
 本来自己主張は控えめなルイスも、神人を危険な目に遭わされればまた別で。
それでもその潤んだような、母なる深淵思わせるコバルトブルーの瞳で言われれば、サージ、カウンターパンチでノックダウン。
「本当にすいませんでしたぁあ!!!僕もっと精進します!!!」
 天使、実は一番強かったかもしれない。

「剣渡してくるだけなはずなのに、何してるのかなー?」
 問題なく報告を済ませ、待合室の椅子でまったり休む報告組。
ジェシカは首を傾げてジュースを飲む。
「なんでしょう……グレンがご迷惑をかけてる気がしてならないのですが……」
 指を絡め合わせ祈るようにぷるぷるし出すニーナに、エリーは微笑む。
「流されるまま自分の意思を口にしないラダさんにも問題はありますので。うふふぅ……お話が弾んでるのかもですねぇ」
「えー!なら私も科学班の人と話してみたかったなぁ」
「もうすぐ来るかもしれませんから、私たちはここにいましょう」
「そう、そうですよね……っ。もうすぐ来て、何話したか聞けばいいですよね!」

 一つの戦いの後は。
いつもこうして、平和の狭間で新たな戦いがどこかで起こっているのかもしれない。
そう。事件は会議室でも起きているのだ ―――。



依頼結果:成功
MVP
名前:エリー・アッシェン
呼び名:エリー
  名前:ラダ・ブッチャー
呼び名:ラダさん

 

名前:ユラ
呼び名:ユラ
  名前:ルーク
呼び名:ルーク、ルー君

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 冒険
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 通常
リリース日 11月02日
出発日 11月09日 00:00
予定納品日 11月19日

参加者

会議室

  • [17]ニーナ・ルアルディ

    2014/11/08-22:51 

  • [16]ユラ

    2014/11/08-20:52 

    プラン提出しました~!
    勇者になれるといいなぁ(ドキドキ)

    改めて、皆さんよろしくお願いします。

  • [15]エリー・アッシェン

    2014/11/08-18:28 

    ヒット&アウェイ戦法わかりました。
    プラン提出完了です~。
    うふふ。作戦成功にむけて、力を合わせて頑張りましょう!

  • [14]ユラ

    2014/11/08-09:45 

    神人さんはヒットアンドアウェイで、ばらけていた方がいいと思います。
    その方が危険も少ない、よね…?

    足元に注意しつつ、早期決着できるように頑張りましょう。

  • [13]ニーナ・ルアルディ

    2014/11/08-01:34 

    フライパンで殴った後はまた隠れなおす感じでいいんでしょうか。
    あと、隠れる際は一箇所に固まらずにある程度ばらけた方がいいでしょうか、
    場合によって敵を狙いやすい角度が違うかもしれませんし。

    あとグレンからの伝言で、戦闘中はなるべく相手を足元の悪い所から
    押し出して離していけるような位置取りをするように試みてくれるそうです。

  • [12]ジェシカ

    2014/11/07-00:45 

    2回目以降は向こうも警戒するだろうから格段に難しくなるでしょうね…。
    神人の接近自体が厳しくなるかも知れないわね。
    1回目で決められるのがベストかしら。

    一応バレちゃった時の保険に不意打ち側にも精霊がいたら安全かなって思うわ。

  • [11]エリー・アッシェン

    2014/11/06-23:15 

    ユラさん、ルークさん、剣を引く役目、お願いいたします。

    あと、場所は沼地で足を取られやすい、とのこと。
    戦いの前に、安定している足場(しっかりした岩、ぬかるみの少ない箇所など)が探せたら、ベストかもしれません。

  • [9]ユラ

    2014/11/06-09:58 

    私スタン武器持ってなかった…
    なので、危険な所を皆さんにお任せしてしまうことになるけど、
    2回目以降は私も剣を抜きに行こうと思います。

    ①精霊が囮になる。
    ②神人がスタン攻撃
    ③剣を抜く

    基本的な流れはこんな感じかな。
    連携は必要になってくるけど、フェイントをかけるのは
    有効だと思う。隠れる場所もありそうだし。
    精霊さんには足止めの意味も込めて、足元を重点的に
    狙ってもらう方がいいのかな。

    ただ性格が「姑息」なので、やられた振りをして逆にフェイントをかけられるっていう懸念があるけど…

  • [8]エリー・アッシェン

    2014/11/05-23:47 

    ジェシカさん、ニーナさん、ありがとうございます。
    スタン攻撃を提案したものの、自分一人ではオーガに返り討ちにされるのではないかと不安だったので。心強いです!

    ヤックドーラは毒針つきの舌を伸ばして攻撃してくるようなので、前方での囮役は防御力の高い精霊さんか、回避能力の高い精霊さんにしていただけると安心ですね。
    精霊たちが注意を引いている隙に、神人複数でスタンを狙っていく感じでしょうか?

  • [7]ニーナ・ルアルディ

    2014/11/05-22:43 

    フライパンでしたらうちでも用意可能です~

    不意をつく…
    最初の一発くらいならどうにかなりそうですけど、
    二回目以降どんどん難しくなりそうですよね…
    思い切り本気武器を振りかぶって、当てに行くように見せかければ
    少しは注意をそっちに向けてくれるでしょうか?

  • [6]ジェシカ

    2014/11/05-22:11 

    >剣
    ありがと!じゃあよろしくお願いするわね。

    >スタン
    いいわね、スタン!
    私もフライパンならあるから協力できるわ。
    前も使った事あるから何とかなるんじゃないかしら。相手は人間だったけど。

    ただクリーンヒットってどんなものかよくわからないのよね。
    言葉通りの意味だとは思うけど、不意をつくとかで思いっきり振り被れる状況が欲しいかしら。
    前からいく囮役と後方・側面などから行くスタン役で分かれてみる?
    囮に気を取られていれば接近しても多少は大丈夫そうかなと思うけど。

  • [5]エリー・アッシェン

    2014/11/05-16:05 

    オーガの動きをとめる……。
    ネタアイテムだと思っていましたが、こういう武器を所持しています。うふふ。

    フレイル「ボートのオール」【両手鈍器】クリーンヒットすると1R(15秒)の間気絶する。スタン:+1

    交流掲示板にある【ワールド設定補完スレ】46番で、武器の特殊効果はダメージの有無に関わらずに発生する、という情報が載っています。
    上手くいけば、1Rだけですが相手を気絶させることができます。
    相手が気絶している間なら、背中から剣を抜くのも楽になるはずです。
    神人の攻撃力であれば、オーガを倒してしまうリスクは低いでしょう。
    スタン時間が短いので、事前に剣を引き抜く役目の方と打ち合わせておく必要がありそうですね。



    神人が装備できる武器で、スタン効果のある武器はこの二つのようです。

    フレイル「ボートのオール」【両手鈍器】スタン:+1
    バトルフライパン「新婚さん」【片手鈍器】スタン:+1

    ……ギャグっぽい雰囲気になってしまいますが、ダメージを控えつつ相手の動きを封じる、という点ではなかなか有効な手段だと思います。ただ、Dスケールオーガに神人が接近する、という危険要素もあります……。

  • [4]ユラ

    2014/11/05-09:30 

    どうもユラです。
    皆さん初めましてかな。よろしくお願いします。

    他に挑戦したい人がいないなら、剣を抜くのは任せて。
    ルー君に死ぬ気で抜いてもらうから。

    ジェシカさんの言う通り、今回は剣を抜くまでいかに時間稼ぎができるかが鍵かな。
    ダメージを控えつつ、相手の動きを封じる……うーん、なかなか難しいかも。
    そう簡単に剣が抜けるとも思えないし、何かいい案がないか考えてみるね。

  • [3]ジェシカ

    2014/11/05-01:02 

    ジェシカよ。パートナーはハードブレイカーのルイス。
    今回はよろしくね!

    ヤックドーラの探索、剣を回収してから討伐って流れかしら。
    レベルを見るに剣を抜くのに適任なのはユラさんとルークさんね。
    できればそこの所はお願いしちゃいたいなって思ってるわ。

    で、今回構成がハードブレイカー×3のシンクロサモナー×1ね。
    火力は充分すぎるわね!
    油断は大敵とはいえ、これはいかに剣を抜くまで時間を引き延ばすかが重要かしら。
    弱ってるみたいだから普段どおり対応すると剣を抜くより先に倒しちゃうかもしれないわね。

  • [2]ニーナ・ルアルディ

    2014/11/05-00:58 

  • [1]エリー・アッシェン

    2014/11/05-00:57 

    エリー・アッシェンと申します。
    パートナーの精霊はシンクロサモナーのラダさんです。

    興味深い性能の剣ですね。うふふ……。
    手負いのヤックドーラの探索や足止めをさせていただければ、と思っています。


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